ガンダム ビルドファイターズS(シャドウ)   作:高機動型棒人間

7 / 16
今回はコラボ回です。
ビルドファイターズ二次創作の大先輩であるジャスガネさん、飛鳥真さんの『ビルドファイターズX』のキャラクターと共演させていただきました!



PC-01 「番外編 激突 SHADOW対OEGA」

side ユウジ

物資不足。それはガンプラビルダーの天敵でありながら、常に頭を悩ませなければならない要素である。

 

「ない」

 

そしてそれは、俺こと、アシハラ・ユウジとて逃れるすべはなかった。

特務班消滅の危機を回避した後、俺は新たなウェアの製作に勤しんでいた。しかし、肝心の素材となる『タイタスウェア』があちこちで売り切れているのだ。

 

ガンダムAGE-1のウェアの内、重装甲近接戦闘形態である『タイタス』は群を抜いた人気を誇る。

その独特の武装構成と、フィギュアの四肢に換装可能という偶然から、優先して棚から消えていく。メーカーとしては嬉しい限りだろうが、ビルドファイターはそうはいかない。

俺はあてもなく駅を乗り継ぎ、とうとう、あまり来ないような地域までやって来ていた。

 

「模型店くらいあるだろう」

 

それは楽観ではなく、諦めのこもった呟きであった。

なにせ5軒もくまなく探し回っているのだ、足は棒になるし、あらゆる重装甲MSの箱がタイタスに見える始末である。

果たして、俺はその地域の模型店を見出した。路上にひっそりとただすむ、いかにも古き良き店といった趣である。

 

「サニー模型店……」

 

なんとはなしに店名をつぶやいた。第一次ガンプラブームから半世紀が経過する今の時代では、その佇まいは骨董品に近い。

「まだあったのか、こういう店」

 

俺はとある模型店を想起せずにはいられなかった。

 

店内に入ると、模型の津波が待ち伏せていた。見渡す限りの箱、箱。ボックスアートによる情報量の洪水である。

かつて俺が任務で向かったデパートの模型コーナーは、さながら博物館のように整頓されていた。しかしこちらは、とにかく物量でせめてくる。クローズアップされている目玉商品の後ろに別の商品が待ち構えているので、うかつに棚をざっと見回して終えられない。

ビルダーを店内に釘付けにするには、最強の戦略といえた。

 

「AGE系のプラモは……」

 

視界の悪くなるレベルの、棚の合間を縫って歩く。

俺が探すガンダムAGEシリーズのプラモは、他のシリーズのそれとは異なり、箱が白いので割合目を引いた。在庫状況はこれまで回った5軒とだいたい一緒である。常連に向けてなのかやけにフルグランサの数が多いのが気になるが、それくらいだ。

注意深く見回すと、赤い機体色がちらりと視界を横切った。

 

「よし」

 

間違えようがない。探していたAGE-1タイタスのキットであった。それは、身長は同年代の平均より背が高い俺でさえ、手を伸ばす必要のある高さにあった。

仕方なくかかとをあげて箱を掴もうとする、その時だった。

 

「あ?」

「あ」

 

一瞬遅れて、俺の手に重なるもう一つの手がある。首を巡らせると、隣にいつの間にか男がいた。

年齢は俺とほぼ同じだろうか。それにしては体つきは華奢で、肌色もあまり血色はよくない。そのくせ、かちあった瞳だけは、吸い込まれそうな深さをたたえていた。まるで長期入院した病人のようである。

しかし、今の俺にそれ以上人間観察をしている余裕はない。

 

「譲れ。こっちはもう6軒目だ」

「無茶なことを言わないでください。僕も自分の機体の修理に必要なんです」

「予備パーツならジャンクパーツをあたれ。こっちはウェアを新造する」

「そうはいきません。この機体は……」

 

売り言葉に買い言葉で険悪な雰囲気が募っていく。相手は何を考えているかわかりづらい面構えだったが、少なくとも今日の機嫌は悪かったらしい。

俺と奴の視線はぶつかり合い、火花を散らさんばかりになっていた。

 

「妥協点はないな」

「そうなりますね」

「となると、方法は一つだけだ」

「望むところです」

 

俺とその男の見解は、具体的に言葉にせずとも一致した。

互いにベルトのホルスターからGPベースを取り出す。

ビルドファイターという人種は不思議なもので、諍いが起こると互いの得意分野で決着をつけようとするものだ。

すなわち、ガンプラバトルである。

 

『Please set your GPbase』

『Beginning plavsky particle dispersal』

『Field 7 ruins』

『Please set your Gun-pla』

 

修復したばかりのアデルを台座にセットする。高速戦闘用のモワノーウェアは間に合わず、標準装備であるノルマルに戻してあった。

プラフスキー粒子がみなぎり、アデルに命を吹き込む。

 

『Battle start!』

「アシハラ・ユウジ『アデル・シャドウ』Sally Forth……!』

 

カタパルトから機体が射出された。放り出された後方で、すぐさまゲートが閉じられる。

アデルの調子は悪くない。例の機構を組み込んで以降、全力稼働をした挙句の再運用ははじめてだったが、問題なさそうだ。

設定された戦場は廃墟。

第七回世界大会で、メイジン・カワグチとレナート兄弟が激突したフィールドである。

 

「前か」

 

接近する機体反応。その速度はタイタスを予備パーツに使うにしては、やけに速かった。

めくれあがった道路越しに、敵ガンプラと相対する。

基礎機体はガンダムAGE-1。両の拳をタイタスの肩アーマーでグローブのように覆い、下半身はアストレイの構造に近い。まさしく相手を正面から殴り抜くことに特化したカスタマイズだ。

登録された機体名は「ガンダムOEGA」。

その名前に、俺は一瞬だけ、記憶の奥底を刺激された。

 

(ねえアレックス、すごいよ!ボクら以外にも、こんなに強いAGE-1を使う人がいるんだ!)

(……ずいぶん嬉しそうだな、ユージ)

 

 

『……行きます』

「!」

あろうことか、相手の声で我に帰る。

既にOEGAは、こちらの懐に飛び込んでいた。ビームナックルが唸りをあげて、アデルの胴に迫る。

 

「ちっ」

 

すんでのところで後方へ身をかわし、ドッズライフルの銃口を向けた。

計4発。

回転がかかったビームがOEGAを襲い、その全てを、奴は上体を寸分動かすだけで回避してみせる。まるでボクシングのスウェーだ。

 

「くそ、バカか俺は」

 

ようやくかぶりを振り、頭によぎった会話を打ち消す。

危うく、一瞬で潰されるところだった。あんな記憶をいちいち掘り返している場合ではない。

 

「……宣言している暇があったら、さっさと殴りかかれ」

『だから、やっていますよ』

 

胸に湧き上がる苛立ちを相手にぶつける。会話の流れが解せないのか、攻撃してきた側もやや荒んだ調子で応酬してきた。

本来、腑抜けていた自分自身に向けた憤りだ。ともかく、よりにもよってAGE-1使いというのがまずかったのだろう。

 

引き続きアデルはライフルを連射した。

OEGAは時にスウェーでいなし、時に拳でビームを弾く。そして、確実に距離を詰めていた。一方的な戦況悪化である。

 

「やはり俺に射撃は向かない」

 

そう判断して、俺はライフルを捨てることにした。OEGAの間合いに再び取り込まれる直前、ビーム照射時間を長く設定。

引き金をひいてすぐに手を離し、ビルを迂回して側面へ踏み込んだ。

断末魔の一射。

ビームが空を裂いたまま取り残されて、それにOEGAが、ほんのわずか気をとられる。

 

「獲った」

 

その無防備な背後へビームサーベルを叩き込もうとして、俺はアデルの天地がひっくり返るのを見た。

 

「なに」

『読んでいます』

 

驚くのもつかの間、真上から降り注ぐ赤の拳を、無様に転げて避ける。

しかしとにかくナックルが大きいのである。ついにその一撃が頭部に打ち込まれた。モニターに激震が走り、左のメインカメラがひしゃげたのがわかった。

両脚でOEGAの胴を蹴り、どうにか引き離す。

 

「ボクサーかと思ったら、なんでもありか」

 

俺はノイズが走るモニターを見て歯噛みした。

俺を投げ飛ばしたのは、おそらく柔道の一本背負いである。米国の拳闘の次は、日本の格闘技ときたのだ。その変幻自在の対応に俺は舌を巻いていた。

 

サブセンサーのおかげで、視界の範囲に変化はない。OEGAのビームナックルは相変わらず、次こそは上半身を吹き飛ばそうと狙っている。

俺は自分のサーベルに目をやり、その打開策を練った。

 

タイタスの特徴であるビームナックルは、それ自体が頑強な防御であり、こちらを刈り取る凶器である。がむしゃらに突っ込めば、一方的に蹂躙されるのは目に見えていた。

しかし、ライフルはあてにできないと決めたばかりだ。こちらから仕掛けるしか道はない。

 

「まあ、それもそうか」

 

もとよりアシハラ・ユウジとはそういうファイターだ。相手が巨大な剣を振り回そうが、身のこなし軽いSDだろうが、はたまた無尽蔵に弾丸を放つ機体だろうが、無心で剣を振るうしか能がない。

それでどうにか勝ってきたのだ。これまでそうしてきたのなら、これからもそうである。

 

「!」

『っ』

 

戦意の鍔迫り合いが、同時に終わる。

踏み込んだタイミングは同じ。距離はOEGAの方が長い。アデルはその可動域をフル活用し、頭部を右へ傾げた。

OEGAのビームナックルの熱が脆弱なサブセンサーを焼き潰し、左側の視界が破裂する。

それに構わずアデルはサーベルを突き出す。

 

狙いは自らを抉る拳そのもの。たとえ増加装甲で覆っていても、出力を上げたサーベルまで防ぎきれまい。

そして最高の効率で放たれるエネルギーの塊は、アデルを通過した時点で弱まり、光刃の侵入を許してしまった。

 

『えっ』

「出力調整が上手すぎるのも考えものだな」

 

とはいえ、動きを止められたのは数秒にすぎない。すかさずサーベルが刺さったままの裏拳が飛んでくる。

シールドを地面に突き立てると、それを軸に上へ跳躍。

真下で盾が音を立てて圧壊した。

アデルは引き寄せた隙を逃さず、だめ押しの回し蹴りで、右拳にサーベルの柄を押し込んだ。煙が上がり、がくり、とOEGAの右腕が垂れ下がる。

 

『破損個所を蹴飛ばすなんて、とんでもないことをしますね』

「嫌いだろう、こういうの」

 

ファーストコンタクトの時点で、ファイターの男がタイタスに伸ばしていた手は右手だった。すなわち一心同体のガンプラも、これで利き手が潰れたはずである。

 

『ええ、嫌いです』

 

互いに距離を取る。

OEGAは左拳に力を込め、ビームナックルを起動した。アデルももう1振りのサーベルを抜きはなち、それに備える。

緊張感で空気が張り詰める中、OEGAのファイターが、ぼそりと呟いた。

 

『……セーブできるようになったからこそ、というのは流石に盲点でした』

「普通は起こらないからな。そのAGE-1を作った奴にも想定外だろうよ」

『わかるんですか』

「あんたは見た目に似合わず猪突猛進型だ。俺の行動の二手先を読んでも、自分を俯瞰はできていない。」

 

俺ならばジェネレーターを潰された時点で後退する。あの裏拳は、ファイターとしての最適解であり、ビルダーとしての最悪解だ。

 

「比べてガンプラは、あんた自身をよく理解して設計されている。すぐ側で見守ってきた、相棒のような人間でないと作れないさ」

 

それは半ば経験則からでもあった。

天才的な戦闘センスを持つ人間は、得てしてビルダーには向かない場合がある。

それは俺の自惚れではなく単純に相性の問題だ。自炊できる人間が、みんな美味なフルコースを作れる訳ではないのと同じである。

例えば第七回大会を制覇した彼らがそうであり、かつての俺たちもそうだった気がするのだ。

 

「ああ、認めるよ。お前のAGE-1は、俺が好きだったタイプだ」

 

今はどうかわからないから、あえて過去形で呟く。

掠れた記憶に沈む過去の自分に代わり、俺はそう相手を称賛した。

 

side コウイチ

 

 

「アレックス・メルフォール?」

 

僕の挙げた名前に、小首を傾げる短髪の少女。数日前に解決をみた『コスモス』事件の中心人物、アイドルグループのセンターだったハイバラ・キミコさんだ。

僕らは今、近くの公園のベンチに並んで座っている。

アシハラの活躍で事態は沈静化し、ネットの風評も急速にしぼんでいく中、久しぶりに連絡がついたのだった。

 

「それが、ウチのグループについて変な記事書かせた奴な訳?」

「アシハラによると、そうもしれない、って話。それで、従兄弟から聞いたアレックスの機体の特徴を持つガンプラを、過去のデータから発掘してみたんだ」

 

僕がハイバラさんの前に出したのは一枚の写真。

紫色の機体の全身にキャノン砲、ミサイルランチャー、バズーカ等々を満載したガンダムタイプだ。それは従兄弟である審判員、シュンが語る『暁 雷光』によく似たコンセプトを持っている。

関東のとある大会に出場した一機体に過ぎないが、僕はつい注目していた。

 

「確かハイバラさんも、ファイターとして大会に出場したことがあるんだよね?」

「くすっ」

「え?」

 

彼女は僕の提言に対して、おかしそうに吹き出した。

我ながらなかなかあたりを引いたのではないかと思い、全国大会まで出場経験のある彼女に尋ねたが、よほど間抜けな答えだったらしい

 

「あんたの情報収集能力はすごいし、実際それで助けられたけど、この子は違うわ」

「そうなのかい?」

「だって、これ作ったのチヒロでしょ?」

「チヒロ……?」

「ちょっと前に、関東の大会で知り合った女子ビルドファイター仲間」

 

そういうと彼女はスマートフォンを取り出すと、しばし指先で操作してその画面を見せた。

 

「ほら」

 

そこには今時の若者らしくデコがなされた、二人の女子高生の写真が写っている。左で元気よくVサインをしているのはハイバラさんだが、右でややこわばった表情の少女には覚えがない。

背が高く、かなりスタイルがいいので大学生や社会人のようにも思われるが、顔つきにはまだあどけなさが残る。おそらく、ハイバラさんとほぼ同年代なのだろう。

 

「彼女が、チヒロさん?」

「そう。トクガワ・チヒロ。人当たりはあんまりよくないというか、嫌な奴に皮肉を叩きつけちゃうあたりはユウジに似てるかも?」

「それはまた、出会ったら胃が痛くなりそうだ」

「大丈夫大丈夫。ユウジよりはるかに真っ直ぐだから。良くも悪くも。で、ビルダーとしての腕なら世界大会級よ」

 

ずいぶん大きく出たな、と僕は驚いた。写真だけではバランスを殺さない程度に火器を配分するセンスが素晴らしい、というくらいで、相変わらず僕に審美眼はない。

それでも、世界大会級は大げさではないか。

 

「アーティスティック・ガンプラで優勝とか?」

「それよりもすごいわよ。あの子の作ったガンプラ。去年の世界大会でベスト4なんだから」

「それはまた……言葉通りだね」

「そう。ファイターは別にいたから、このエンプレスガンダムとコンセプトは違うらしいけど、名前は確か。ガンダムOEGA、だったかな?」

 

それからハイバラさんは脚をぶらつかせながら、まるで我が事のように、友人との思い出を語り出した。

 

sideユウジ

 

『……そうですね。このガンプラで、簡単に勝ちを譲るわけにはいきません』

 

OEGAはしばし自分の拳を、いや、機体そのものを眺めていたが、やがて覚悟を決めたようにこちらへ突きつける。まだやる気という現れだ。

 

「大人げない奴だな。たかがタイタス一機だぞ」

 

俺は相手を焚きつけたことを少し悔いた。

次はエネルギー効率を改善し、サーベルを差し入れる余地はないだろう。自分で敵の隙を少なくしたなど、笑い話にもならない。

OEGAが来た。次はサイドステップを織り交ぜた、変則的な吶喊だ。

俺が取れる選択肢は一つであった。

サーベルを振りかぶり、正面からぶつかり合う。

ビームナックルはサーベルの光刃を霧散させて、アデルの左腕を轢き潰しながら胸部装甲にぶち当たった。

 

「ぐっ」

 

もんどり打って戦場を吹き飛ばされるアデル。廃墟を構成するビルに何度も叩きつけられ、俺はコンソールの激震を耐えるが、今の一撃であっけなく機体状態はレッドゾーンへ入った。

重すぎる。掠っただけでセンサーが潰れるわけだ。正面のモニターがけたたましい接近警報を鳴らすが、想定以上にダメージが大きく、体制を立て直すのが遅い。

今度こそやられる。

 

「だが最近の俺は、諦めが悪くてな」

 

俺は唯一青く光るモニターに指先で触れた。

アデルが青く輝くのと、OEGAのナックルが刺さるのは同時であった。

跳躍。

既に死に体だった機体が、にわかに活力を漲らせて跳ぶ。ビルの上に降り立ったアデルの、ヒビが入った胸から、プラフスキー粒子の光が漏れ出していた。

 

『……有り得ない、と言いたい所ですが、本物なんですね』

「本物ではない。こいつは仮初めの『RGシステム』だ」

 

第七回世界大会で、誰もが憧れた技の極致。

多くのビルダーが再現を試みて膝を折ったそれの、現象だけでもなぞってみせている。

中破したアデルのフレームへ、強引に粒子を流し込めば、こうしたドーピングじみたこともできるという訳だ。

 

「完璧な再現はできなかった、らしい」

『らしい?』

「忘れたんだよ。ただ、どういう訳か俺にはこれが作れる。そういう結果があるだけだ」

『なにやら、事情が複雑そうですね』

「ああ。だが、それは今は関係ない」

 

アデルの、右腕が痙攣する。

粒子の膨大な出力に悲鳴を上げて、解き放たれる時を待っているのだ。胴体という致命的な箇所に、拳を甘んじて受けたのは、せめてこの腕を温存するためだった。

 

「次で決める。」

『…………』

 

答えは待たない。

だが、その纏う雰囲気の変化で、相手もそのつもりであることはわかった。

アデルはビルから身を投げ、OEGAは上体を後方へ捻る。ビームナックルが肥大化した。

おそらくは最大出力。俺はそこへ向けて自由落下に任せて拳を振り下ろした。

 

激突と閃光。それは廃墟の仮想距離にして半径数メートルを、更地へと変えた。

 

sideアレックス

 

『神器』の定義が曖昧である以上、その所有者というのは、数多く存在する。

ガンプラマフィア『ドラド』に刃を入れるため、事前調査を繰り返す中で、アレクシアが一つのデータを拾ってきた。

第九回世界大会の対戦映像とされているものだ。

真紅に染め上げられたデスティニーガンダムの改造機。それが複数のサブアームを保持するグフと戦闘を繰り広げていた。

グフの副腕がデスティニーの腰部に装備されたドリルスピアーを奪い取る。己の武装を盗まれたことに動揺したか、デスティニーは胸に蹴りを受けてビルへと突っ込んだ。

グフはドリルスピアを柄に接続し、デスティニーのブーメランをものともせずに距離を詰める。

とうとうマウントポジションを取り、相手の悪あがきのバルカンこそあれど、確実なトドメが落ちるはずだった。

 

「これか」

 

ムラサメが『神器』の可能性あり、としたのはこの直後に発生した現象である。デスティニーのいた箇所が実際に爆発したにも関わらず、本体はグフの背後に回り込んでいた。

右手が光り輝き、そのバックパックへパルマ・フィオキーナが叩き込まれたところで、妹は映像を止めた。

 

「ビルドファイターはトウドウ・ヘイタさん。第九回世界大会ベスト8です」

 

彼女によるとこの機体『デスティニージョーカー』はアブソーブシールドの真似事から、独自の現象を連鎖的に会得したという。第七回大会にて出現した『神器』のひとつ、『粒子変換技術』に指先をかけている訳だ。

 

「米国の支部壊滅にも、何人かこの年の関係者が関わっていたことから、ムラサメが重点的にマークせよ、と」

「しかし、よりにもよって審判員の受験生か。このタイミングで首を突っ込めば、ナガイと正面闘争になりかねん。」

 

それはまだ早すぎる。

いくらアレックス・メルフォールとはいえ、相応の準備が必要なこともあるのだった。

 

「今回は手を出さん。いずれ事態が変動したら手はつけると本部に伝え、リストにだけ入れておけ」

 

オレはトウドウとかいうそのビルドファイターの情報を眺めた。赤く逆立った髪の小柄な男の顔写真の下には、いくつか経歴が並べられている。そこに、つい最近出くわした流派の名前を見かけて、思わず顔を歪めてしまった。

 

「心形流か。奴らはひょっとして、オレの視界に入る特殊能力でも持っているのか?」

 

そんな独り言に、アレクシアは苦笑いを返した。

 

sideユウジ

 

「それで、なぜお前がここにいる」

「あー、話すと長くなるんだわ。このマドカ・ケイくんはアメリカで療養中なんだが、この夏休みに帰国することになったのさ。その時、外せない仕事で同行できなくなっちまったこいつの友人に代わって、たまたま日本に帰ってきていたオレちゃんが、お守りをすることになったのよ」

 

俺は目の前で肩をすくめる男、キノ・シュンの態度に眉間を抑えた。

 

話はバトルは終わった時にさかのぼる。

アデルが全粒子を使い切ったRGビルドナックルは、OEGAの左腕を正面から潰すことに成功したが、こちらもフレームごとひしゃげていた。

相手には格闘技の心得がある分、拳の当て方に一日の長があったのだろう。

そして相打ちになった以上、アデルの敗北は必然であった。

あのビルドナックルは粒子をすべて使い切る一撃必殺の技。たとえ機体が万全であろうと、動けなくなってしまっては無意味だ。

無慈悲に戦闘終了が告げられ、粒子が収束する。

 

「……タイタスはやる。好きに持っていけ」

「ええ。ありがとうございます。いいバトルでした」

 

丁寧な一礼の後、痩身の男はバトルルームを出た。その背に続いて退室した俺は、キノに遭遇したのである。

 

「お前がやらなくても、この地域の審判員がいただろう」

「まあ、あっちでのいざこざの時、色々借りができたからな。返さないんじゃあ男が廃るってもんよ」

 

自慢げに鼻の下をこするキノに、OEGAの使い手、マドカ・ケイが声をかける。

 

「あの、キノさん。ここにあったタイタスを買いたいんですが」

「タイタス?それならお前らがバトルしている間に買われちまったぞ」

「え?」

「なに」

 

キノの言葉に俺たちは思わず顔を見合わせた。思えば景品として確保しておいた訳でもない。誰でも取れる状態だった。

事の推移を知らない第三者が、漁夫の利を得たのだろう。

これで俺たちのガンプラは骨折り損のくたびれもうけという訳である。

 

「無意味なバトルになっちまったな」

「そんなことはないですよ」

 

俺の言葉を、マドカは否定した。両腕を失ったOEGAを取り出し、俺へみせる。

その機体は傷だらけでありながらどこか誇らしげであった。

 

「楽しかったです。あなたとのバトル。次はもっと、強くなりますから」

 

俺に劣らず表情変化に乏しい顔に、わずかに微笑みが浮かぶ。

まるで青臭い映画の一幕だが、そうした所作を、肝心なところでやってのけるところが憎たらしい。

そして、どうやらこいつも、生粋のガンプラバカなのだ。

 

「……直すか、ガンプラ」

「ええ」

「おっ、じゃあオレちゃんも混ぜて」

 

俺の提案にキノがにかり、と白い歯を見せて便乗する。俺たちは三人分作業をするスペースがあるかを、店長に尋ねることにした。

 

side ???

 

とある駅前、人通りの少ない通りに面したところに、トタン板で覆われたみすぼらしい小屋がある。今時そんな建物があるだけでも異様だが、その看板に『占い』の字があることが怪しさを増していた。

この相乗効果で小屋に人は滅多に寄り付かない。本当にそれを、必要とする者以外は。

 

「凶。運勢最悪。これから一年はまともな人生歩めませんよ。あなた」

「……わかっている。しかし、どうしても成し遂げたいのだ。少し、君の占いの保証が欲しくなった。」

 

小屋の暗がりの中で、二人の人間の声がこだまする。一人は穏やかな青年のもの、もう一つは、やや精気を失った、歳を感じさせる男のものだった。

 

「占いとは当たるも八卦当たらぬも八卦といいます。それを縋る藁にするなんて、本当に仕方のない人だ」

「……」

「残念ですよ。僕も、あなたのファンでしたから」

「そうか……すまないことをするな」

 

ギッ、と椅子を引く音がする。年上の男が、席を立ったのだ。吊るされた豆電球によって、ようやく初老の男だとわかった。

 

「では、私はこれで失礼する」

「ええ。二度と会うことはないでしょう」

 

きっぱりと告げる青年の声に、初老の男は悲しそうに眉を八の字に寄せると、小屋から出て行った。

錆びついた扉が音を立てて閉じられる。

後には静寂と、布をかけられた机。そして、その上に置かれた『ジオング』が残された。

 

「……ウォルターさん。ただの人間がルイス・キャロルの真似事をすれば、それはただの狂気ですよ?」

 

そんな占い師の言葉もあぶくのように消える。もはや彼には、届かないだろう。




コラボ回は初めてなので塩梅がよくわからなかったのですが、『スーパー戦隊のVSもの』か『最近の平成ライダーの最終回』みたいなものかなあ、と思います。
ガンダムOEGAの活躍やラストシーンの占い師に相対していた人物の正体などなどは、先輩方二人の作品を参照してください

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。