ガンダム ビルドファイターズS(シャドウ) 作:高機動型棒人間
コラボ先はハーメルンで連載中なのでそちらも読んでいただくと
通常の6倍楽しめます
Side Alex
「ユージ、お前『桃井アイ』って知っているか?」
「へ?」
「ほら、ガンプラバトルの配信をしているとかいう。そこそこ名の知れた奴だと思っていたが」
「じ、実はその辺あんまり詳しくなくて……」
「そうか」
親友は何故か申し訳なさそうに頭を掻くが、オレは別段、その答えに失望はしなかった。
ガンプラバトルはアジア圏のみならず、北米、ヨーロッパまで普及している。
その競技を配信している人間など、それこそ星の数ほどいるし、有名どころに絞ったとしてもユージがそれを必ず見ているとは限らない。
「でも珍しいね。アレックスがそんなこと聞くなんて」
「お前の顔を見ていて、そういえばそんな日本人がいたな、と思い出しただけだ」
「ボクに似てるの?」
「1ミリも似ていない。ただ、その女も『ガンダムAGE』のガンプラを使っていて……」
「詳しく!」
予想通りというべきか、親友は食いついた。
その単純さに内心呆れながら、オレは少しだけ思い出話をしてやることにした。
「確かあれは、オレがユージと出会う1年ほど前のことだ」
アメリカで、PPSE主催の社交パーティーが開催されていたことがあった。
オレの実家はガンプラバトルの海外展開に手を貸している、PPSEの協賛企業の一つであるため当然そのパーティーに呼ばれていた。
金ばかりかかった会場でオレはオザワと暇を持て余していたところ、そこに愛想よく話しかけてくる男がいた。
その男は、祖父と多少の親交があったらしく、オレの顔を見るなり、なれなれしく自分の娘を紹介してきた。
それはちょうど、自慢の商品をアピールするセールスマンのようであった。
「はじめまして」
その女は、人形のように顔色一つ変えず、流れるような所作でお辞儀をしてみせた。
上流社会で育てられたことがよくわかる振舞ではあるものの、逆に言えばステレオタイプの『お嬢様』といった感じで、その時はそれ以上オレの興味を惹くことはなかった。
「その後、オレはパーティーを抜け出して、会場の中にある筐体でバトルをしていたんだが」
「え、そんなところにバトルシステムが置いてあったの?」
「オレのような『家の事情でしぶしぶついてきた良家の子ども』への、PPSEの配慮だったんだろうさ」
そこでは、動きづらい礼服から普段着に着替えた、オレと同世代くらいの少年少女がバトルに興じていた。
よほど鬱憤がたまっていたのか、あるいは名家の子どもというのは傲慢になりやすいのか、どいつもこいつもいがみ合いながら戦っていた。その喧噪の中に、オレも混じることにした。
「アレックスのことだから、負けなしでしょ?」
「当たり前だろ」
4、5戦ほどこなした辺りだっただろうか。
「ねえ、あたしとガンプラバトルしない?」
そう声をかけてくる女がいた。Tシャツにショートパンツ、長い髪を大きなシュシュでくくった勝気そうな女だった。声をかけてくるだけで動作がうるさく、桃色のリストバンドが視界をひらひらして煩わしかった。
「きみ、ガンプラバトル強かったんだね!あたしも、けっこう自信あるんだ!」
「オレはお前みたいな女は知らんが」
「ひどい!さっき会って挨拶したじゃん!?」
女はショックを受けたように大げさに俯いてみせたが、オレには覚えがなかった。
挨拶をした、という話から記憶を探って、ようやく思い当たった。
「あの場にユージがいたら、すぐに気づいただろう」
「さっきの女の子かあ。本当はすごく元気な子だったんだね」
「そうだ。そいつは自分を『桃井アイ』と名乗っていた。さっき聞いた父親の苗字とは違ったが、理由に興味はなかった」
奴がウエストポーチから取り出したのは、白い花の台座にたたずむ、曲線をメインとしたガンプラだった。
今のオレたちが使っているガンダムには、もっとも縁深いモビルスーツの一体。
「ファルシア!うわあ、いいなあ。性能や操縦性だけならフォーンファルシアの方が上なのに、わざわざユリンのファルシアをチョイスしているのがいいね!デザインが好きなのかな」
「……そこまでオレは知らん」
ただ、言われてみれば、外からの思惟に操られるファルシアの在り方は、父親の望む令嬢として振舞うアイツには似合いの機体だったのかもしれない。
『Beginning Plavsky Particle dispersal』
『Field 5 ≪City≫』
『please set your Gunpla』
オレがその時に使っていた機体は、レンタルの『ストライクフリーダムガンダム』だった。
『ムラサメ』で開発中の新型のガンプラが、祖父の使っていたアカツキの発展型であったため、構造の似ている機体での予行演習を兼ねていた。
『Battle Start』
「アレックス・メルフォール『ストライクフリーダム』 Sally Forth!」
オレの『ストライクフリーダム』は戦場に定められた市街地へと降り立った。
会敵する前に、スーパードラグーンを全て放出すると、それを飛ばすことなく、コンクリートで固められた地面へと突き刺していく。
フリーダムを中心に、ドラグーンが円陣を組むように突き立った。
『ストライクフリーダム』のスーパードラグーンは地上では使用できない。作りこんだガンプラであれば、その原典の呪縛から逃れることもできるが、今回は貸与されたHGの素組であり、それは望めない。
「来るか」
「来たよ!」
ファルシアは意気揚々と、花弁を模したファルシアビットを放出、爆撃じみたオールレンジ攻撃を仕掛けてきた。
それを二丁のビームライフルで迎撃する。ビットはこちらのビームを回避し、あるいは自らが放つ黄色のビームで相殺しながら距離を詰めてくる。
「いい腕だ」
ここまでの精度だと、もはや本体以外に5体のビットMSが追随しているに等しい。
オレなりに称賛したつもりだが、相手はお気に召さなかったらしい。
「ちょっとは感情をこめて褒めてよね!」
その言葉と同時に、ストライクフリーダムのライフルが撃ち抜かれる。
オレはそれが誘爆する前に放り捨てると、足下のスーパードラグーンを蹴り上げて、マニピュレーターでキャッチ。
それを新たなビームライフル代わりに、ビット1基を撃墜した。
ファルシアは負けじとドラグーンも破壊しにかかるが、狙いがつけられる寸前で、オレがドラグーンを放り捨てるのが早かった。
ほんのわずかだが、ビットが戸惑う。
今度は遠隔操作で、別のスーパードラグーンがフリーダムの両手に収まり、それをブーメランのように投擲することで、ビットを潰した。
「やるじゃない!」
「貴様こそ、これだけやって3基残しているとは、少しは他のファイターよりできるらしいな」
「うーん、やっぱり上から目線!」
ファルシアは背面から実体剣『ファルシアソード』を抜き放ち、フリーダムが抜いたビームサーベルへと叩きつける。
作りこまれたガンプラと素組みでは出力に絶望的な開きがあり、ストライクフリーダムの足が地面へとめり込む。
接触回線で、アイという女は語りかけてきた。
「ねえ、きみ、闘技場に興味ない?」
「なに?」
「さっきのドラグーンの使い方といい、きみなら華のある戦い方ができる。それを活かせる、もっと楽しい場所が日本にあるんだけど」
「……くだらん」
至近距離で胸部のカリドゥスビーム砲を放つが、ファルシアはひらりと身をかわす。
「どうして?あたしみたいなファイターと戦うの好きでしょ?」
「お前は確かに他のファイターより強い。感心はしている」
「だったら」
「だがそれでも、貴様程度がトップなら面白くもなんともない」
「……もう!」
ビットがストライクフリーダムとファルシアの間へと立ちふさがり、ビームの壁を作って迫る。
オレはフリーダムのビームシールドを両腕とも展開すると、それで上半身をボクサーのようにブロックしながら突撃し、振り払った。
ビームの強烈な閃光でモニターが焼け付き、ノイズが奔る。
ファルシアソードがノイズの向こうから刃先を煌めかせて、コックピットへと迫る。
ストライクフリーダムの胴体を、黒い剣が貫いた。
「獲った!」
「そうかな?」
果たして、青い光の翼をはためかせ、ストライクフリーダムはファルシアの背後に回り込んでいた。それはヴォワチュール・リュミエールによる高速移動。
デスティニーガンダムのような残像は、ストライクフリーダムには発生させられない。
それでも、相手のモニターも異常をきたしているようなこの戦況なら、真似事はできた。
追い詰められてなおファルシアは驚異的な反応速度で後方へ振り返っていた。
ビットの突撃よりも早く、フリーダムのビームサーベルが奔ろうとしたその時。
『Over the Time Limit』
「え?」
「……だろうな」
戦場は時間切れを迎えた。
「制限時間あったの?」
「なかった。おそらくはパーティーを終えた大人たちが、主催に子どもの遊びを終えさせたんだろう」
結局、オレはその女とファルシアを仕留め損ねた。
ギリギリまで食らいついていくタフネス、バイタリティというのは、令嬢らしからぬ見どころがあった。
向こうは納得はいっていなかったようだが、そういう事も往々にしてあるのがガンプラバトルだ。
「今もどこぞで、オレのようなファイターを誘いにかけているのか、と気になったのさ」
「なるほどね……ねえ、アレックス」
「ん?」
一通り思い出話を聞いた親友は、ひとつの疑問を口にする。
「もしもそのアイさんが、ボクを観たらどうするかな」
それは、ビルダーに専念するといい、バトルを遠慮している普段のユージらしからぬ問いかけだった。なんてことはない純粋な興味だったのだろうが、そのちぐはぐさがおかしくて、オレは笑いをこぼした。
「そうだな。お前が怒った時ならば、可能性はあるかもな」
コラボ短編も掲載しているだけで3本目ですね
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