ガンダム ビルドファイターズS(シャドウ)   作:高機動型棒人間

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ビルドファイターズが好きすぎて自分で書き始めました。
よろしくお願いします。

2017年3月1日追記
三話までを書き上げた上で、自分なりに主人公たちのキャラが把握できたので、全面書き直ししました。
アドバイスをくださった皆様方、ありがとうございました。


第1章「結成 ガンプラ警察特務班」
Parts.01「コウイチとユウジ」


ガンダム ビルドファイターズS

 

Parts.01「コウイチとユウジ」

 

ガンプラバトル公式審判員の心得

 

一、 審判員は、規則を把握し公正であれ。

二、 審判員は、迅速であれ。

三、 審判員は、神ではない。

四、 審判員は、一人ではない。

五、 審判員は、罪を憎んで人を憎むな。

六、 審判員は、ガンプラへの愛を忘れるな

 

Sideコウイチ

 

抜けるような青空の先には、こちらを見下ろす地面がある。

人の営みが、空を挟んで相対する矛盾。

円筒型のスペース・コロニー独特の光景だ。

内壁をぐるりと居住区域が囲むため、こんなことになる。

そして今、その一部がゴム風船のように膨らんだかと思うと、強烈な閃光と共に吹き飛んだ。

濛々と立ち込める煙の中から、一つの影がぬらりと彷徨い出てくる。

緑の巨躯の上で、桃色の単眼が蹂躙された街を酷薄に見下ろす。

MS-06 ザク。

最も知られている人型機動兵器「モビルスーツ」の一つだ。

ザクはコロニーの中央をすべるように飛ぶと、今しがた空いた穴を見上げた。

その後を追って、新たなモビルスーツが侵入してきているのだ。

従来の近代兵器の系譜を感じさせるザクとは異なり、こちらの機体はヒーロー然としたシルエットだった。

機体名、RX-78-2 ガンダム。

全長18メートルとされる「伝説のMS」は、左腕にはシールド、右腕にはビーム・ライフルを携えて、コロニーの円い大地に降り立った。一般的に知られた外観と異なり、全身はクリーム色に塗装されている。

その脅威を威嚇するように、ザクの単眼が鳴動した。

構えたマシンガンが火を噴き、的確に相手のシールドに命中、穴を開けた。

だが、ガンダムはそれを気にも留めず前進する。

行う動作は規定通りに一つだけだ。

ゆっくりとライフルの銃口を向けて、引き金を引く。

耳をつんざくビームの発射音とともに、ザクの胴体に穴が開き、そして四肢をもろとも崩壊させるほどの大爆発を引き起こした。

ガンダムは炎の中へ消えていく緑の巨人を、ただ立ち尽くして見送った。

 

『BATTLE ENDED』

 

あまりに戦場に不釣り合いな無機質な電子音声が、その戦闘を終了させる。

偽りのスペース・コロニーはあっという間に、空色の粒子、プラフスキー粒子へと崩れていった。

これはプラスチックに反応し、ガンダムのプラモデル『ガンプラ』に命を吹き込む物質である。

時間が硬化したように立つガンダムも、無残に倒れ臥すザクも、実はガンプラなのだ。

ザクの方は、無残にも五体四散していたが、模型としての形状はとどめていた。

 

「以上、5月8日に実施したレベルBテストは想定値に届かず、終了しました。よって、改良型の『ダメージレベルシステム』は第10回ガンプラバトル世界大会での実装は困難かと思われます」

「そうか」

 

すべての報告を終えると、僕はずれていた眼鏡を直し、全天周囲プロジェクターを消した。会議室を覆うように投影されていたテストプレイの映像が暗転する。

そしてプロジェクターの傍らに立つ僕と、長いデスクの左右で、映像を眺めていた『公式審判員』各幹部が残された。

ガンプラによる対戦である『ガンプラバトル』が競技としての形式を確立して十数年。

その公式ルールの順守と、競技自体のさらなる発展と普及を目指すのが『国際ガンプラバトル公式審判員』、通称『ガンプラ警察』である。

僕はバトルシステムの現開発元であるヤジマ商事から出向してきたばかりで、この組織の全貌は掴めていない。それでも、この場にいる人々の多くがジャブローのモグラのようなろくでもない連中であることはおよそ把握していた。

 

「しかし、改修開始から1年。まだ新バージョン実装に至らないとは」

「ヒカワ・コウイチ君。君はプログラム調整チームからの人材ということだが、こう未完成の進捗ばかりを伝えられても困るんだがね」

 

僕は少しむっとした。

こちらはこの仕事に全力で、誇りをもってあたっているつもりだ。

好きで未完成品を見せつけているわけではない。

それを、たった数分のビデオを見ただけで、彼らは退屈そうに文句をぶつけてくる。

ヤジマは今年の世界大会に間に合わせる気など最初からないというのに。

次々湧いてくる不満が渦を巻き、僕はそれを吐き出そうと口を開いた。

 

「お言葉ですが……」

「まあまあ、完成を急かしているのは我々審判員です。ここでヒカワくんを責めても、システムが完成するわけでもありますまい」

 

僕の言葉を一人の人物が遮った。

大柄な体格をスーツできっちりと包んだ、どこかのOVAでグフ・カスタムに乗っていそうな容姿の中年男性だ。

この組織における直属の上司、ハカドさんだった。

 

「ハカド。特務班には口を出さないでもらおう」

「そうはいきませんな。こちらとしては、ヒカワくんの報告は『特務ファイター』の有用性を実証するチャンスにもなりますので」

「またそれか。本部のお墨付きだか知らんが、一人も採用できないようじゃ、机上の空論だ」

 

僕とハカドさんが所属する審判員の広報部『特務班』は、今年になって新たに設立された、とある制度のための部署である。

あいにく実績はなく、他の部から向けられる視線は冷え切っていた。

今回の不評の原因の一端ともいえる。

 

「あてはあります」

「なに?」

「机上の『特務ファイター』には、あてがあると言ったのです。ダメージシステムには間に合いませんが、これからの世界大会への準備には大きな助けになりうる。そうだな?ヒカワくん」

「え?……あ、はい」

 

まったくもって初耳だったが、僕は調子を合わせて頷いた。

幹部たちの疑念の目がこちらに向けられる。

 

「とにかく。これ以上時間を取っても仕方ない。各自、己のやるべきことを粛々と遂行する。よろしいですな?」

 

ハカドさんがやや語気を強めると、幹部たちは黙りこくった。

特務班は見下せても、どうもあの人自身にはかなわないらしい。

十五分かそこらで、僕による「ダメージレベルシステムに関する中間報告」は終了した。

 

「しかしヒカワくん。君は真面目すぎるね」

「いけませんか」

「何事も表に出しすぎるのはよくない。彼らは私に負けず劣らず無能だが、権力を手に入れるだけの強かさは持ち合わせた連中だ。今に首が飛ぶぞ」

 

オフィスを出ての移動中、ハカドさんは困り顔でツーブロックをなで上げながら言った。

僕らはこれから、ハカドさんの言うところの「あて」に向かう最中である。これまでと同様に、僕も同行する。

ちなみにスカウトは本人には内密で審査するので、2人とも私服姿に着替えていた。

僕は白のTシャツに灰色のジーパン、ハカドさんは、だぼだぼの水色のシャツにスウェットといういで立ちだ。

 

「その恰好、外では目立ちますよ」

「そうかい?」

 

もっとも、駅のホームでそれを指摘するのも手遅れであるように思われた。

不思議そうに自分の恰好を眺めるハカドさんに僕は内心で呆れたが、フォローはしておく。

 

「まあ、ゲームセンターに入り浸る冴えない中年ファイターには見えますかね」

「それはよかった。うまく溶け込めそうだ」

 

僕の上司は無邪気に笑った。

対象は支部のある駅から電車でしばらく揺られた先、とあるゲームセンターにいるらしい。これでスカウトは5人目。

拒否されれば確実に大会にも間に合わず、あの幹部たちはこぞって特務を責め立てるだろう。

僕は、いつのまにか顎まで垂れていた汗を拭いた。

 

「けやきが丘。けやきが丘です。お降りの際は足元にご注意ください」

 

電車のアナウンスに背中を押されるように、僕らは目的地に降り立った。

冷房のきいた車内から放り出され、夏の熱気がまとわりつく。

 

「これは、すごい」

 

思わず、口に出してしまうほどであった。

駅前の商店街はこの熱気をものともしない活力に満たされていた。

中でも点在するおもちゃ屋の窓越しからは、小学生ぐらいの子供たちが模型の箱を手にとって和気藹々としている様子が伺える。

 

「さすがに世界大会のファイナリストたちを輩出した町だ。私があの子たちぐらいの頃、ガンプラを作る同世代は殆どいなかった」

「メイジンの貢献と新旧バトルシステムがなければ、今のガンプラブームはありえなかったでしょう」

「全くだ。特に、第7回を見たときは、ようやく若者たちの時代が来た、とうれしくなったよ。君はどうだった。ヒカワ君」

 

僕は曖昧な笑みを返すしかなかった。

あの世代をわが子のように微笑ましく思うほど年は離れていない。

かといって、僕自身はビルダーではないので共感や対抗心も抱きづらいのだ。

 

「彼が通い詰めているのはここだ。もう来ている時間帯だろう」

 

ハカドさんが自動ドアの前に立つと、店内の騒音が僕らを襲った。僕は思わず耳を塞いだが、彼は身じろぎ一つしない。相手を下調べするために、何度も通い詰めたのだろう。

 

「バトルシステムは2階だったかな」

 

いくつものアーケードゲームの横を素通りし、少し入り組んだ階段を上れば、六角形の台座がプラフスキー粒子のホログラムを柱状に展開している。

この台座がガンプラバトル専用のユニットである。

このゲームセンターでは各4台のユニットが一単位として連結し、広大な仮想戦場を生み出していた。

バトルの模様は観客も横合いから直接観戦可能であり、僕は最も自分に近いフィールドに目をやった。

広大な砂漠の中央で、白い武者のような「シャイニングガンダム」が、赤黒い龍を模した「ガンダムエピオン」と格闘戦を演じている。

アニメさながらの動きだが、これらは、この瞬間を除けばただのプラモデルにすぎない。

エピオンの高出力ビーム・サーベルが徒手空拳で捌きながら、シャイニングが距離を詰める。

即座に赤熱化したエピオンのヒートロッドが、薙ぐように振るわれる。

しかし、シャイニングがそれよりも速く腰にマウントしていた自身のサーベルで一刀両断にエピオンを斬り伏せた。

 

『BATTLE ENDED』

 

バトルが終わり、粒子が散っていくと二機は完全に動きを止める。

何の変哲もないガンプラバトルだが、上下に泣き別れになったエピオンを取り上げる操縦者が、僕の目に留まった。

胸の内にもやもやとしたものがある。彼は自費でガンプラを修復する必要に迫られるだろう。それは更なる出費であり、こちらは潤ってもビルダーに不満が残る。

僕らがもっとダメージレベルシステムの開発を急がなければ、いつまでもこういった光景は減らない。

 

「ヒカワくん、なにをしている。彼はこっちのユニットだよ」

 

ハカドさんが手招きをしていることで我に返り、慌てて僕は後を追った。

僕の上司は、コーナーの最奥にあたる場所に立っていた。そこはシステムこそ起動してはいるが、照明の当たり方が悪いのかやや薄暗い。

 

「丁度コンピューターとバトル中らしい」

 

彼が僕に耳打ちしてくる。

だが、僕の立つ場所からはその姿がうかがえない。展開された戦場の向こう側には背景としての青空が投射され、ファイターの姿は隠れているのである。

 

「対人戦ではなく、NPC戦をこなしているのですか?」

「まあ、見てみたまえ。なかなか面白いから」

「はぁ……」

 

機械相手は最高難易度でも対人戦とはわけが違う。テストに必要な実力を測ることはできないだろう。

僕はやや不審に感じたが、フィールドをのぞき込んだ。

 

「……っ!?」

 

そして、あまりに尋常ならざる光景に声を失った。

設定されたフィールドは飛行場。

そこにシステムそのものが操作する、ずんぐりとした機体「ハイモック」があちこち山と積み重なっている。

パーツのエグレ、へこみ、断絶。どれもがあまりにひどい。

いずれも執拗に攻撃を受けたであろう、死屍累々の様相である。

そして何よりも目を引いたのは、今1機のハイモックの上に馬乗りになって、拳を振るうモビルスーツだった。

 

「あいつが、やったのですか」

「そうなるな」

 

細身の箱を組み合わせたようなシルエットに、球形の頭部、バイザー型のカメラアイ。

「ガンダムAGE」の量産機の一つ、「アデル」だ。

全身を黒く塗装されている以外に改造箇所は見られなかった。

その鬼気迫るアデルの拳が、敵機のドーム状の頭部を吹き飛ばす。

すぐさまコンピューターが、追加で3機のハイモックを呼び出した。

 

『Mock Battle model deployed』

 

案内音声を聞いたアデルは、操り人形のようにぎこちなく、しかし異様な素早さで立ち上がった。

その右腕は駆動系がいかれたらしく、だらりとぶら下がっている。

黒いアデルはそれを気にする素振りを見せず、腰部に装備されたサーベルへ静かに左腕を伸ばした。

 

「あっ」

 

思わず声を上げる。

野球のピッチングのようなモーションで、ビーム・サーベルが投げつけられる。

三角形に並ぶハイモックの内、先頭の1機が刃を頭部に受けて仰け反った。

 

『BATTLE START!』

 

遅れてユニットから音声が流れ、ようやくシステムがハイモックを稼働させた。

間違いなくフライングだ。

通常、出撃した瞬間から戦闘は開始されているため、バトル案内音声より先に攻撃するフライングはルール違反ではない。

だが、対人戦ではかなり嫌われる行為でもある。

奴は残る2機が同時に放った牽制弾を、腰を沈めて回避した。

次に右半身を敵に向けて、背面のブースターを一気に開放。一直線に突撃をかけた。

 

「あの損傷具合でタックルする気か!」

「いや、ヒカワくん、あれは違うよ」

 

左側のハイモックがヒート・ホークを振り下ろす。

しかし、たとえ右半身が溶断されてもアデルの勢いは止まらない。

もう片方のサーベルを相手の肩間接にねじ込むと、最初にフライングをされた1体の頭上めがけて肘うちで倒した。

奴は使いものにならなくなった右腕を盾代わりにしたのだと、そこで気付いた。

モビルスーツ2機分を計算した爆発が発生する。最後の敵機があおりを受けて、紙屑のように砂漠を転がった。

 

「えげつないことをする」

 

ハカドさんのつぶやきには驚きと呆れが含まれ、僕は憤りで手が震えるのを抑えられなかった。

 

「あんな戦い方が、許されるのか」

 

答えは否だ。

わざわざプラモを壊すような、無謀で乱暴な戦い方が存在してなるものか。

これは間違いなく、ガンプラへの冒瀆だ。

 

「おっと、立ち上がるようだ」

 

ハカドさんが指摘する。

全身の各部からスパークを発生させながらも、黒いガンプラはまだ健在であった。

推進器を使わずに徒歩で、アデルはハイモックにゆっくりと接近した。

そして、相手の胸部の真上に片足を上げる。

接地用に仕込まれているらしいスパイクが、足裏の先端から飛び出してきた。

 

「おい、やめ……」

 

僕がそんなことを口走ったのも届くはずがなく、無情にスパイクが振り下ろされた。

ハイモックの四肢が衝撃に応じて痙攣する。

あいつはそのまま何度も、何度も踏みつけた。

8回目でグシャリと音を立ててハイモックはひしゃげた。

 

『BATTLE ENDED』

 

終了の合図。

またたく間に粒子は拡散し、ファイターの姿が露わになる。

僕は機体にこんなむごい真似をする張本人の姿を拝んでやろうと、ハカドさんより先にそこへ歩み寄っていった。

彼に、会う人間のことは逐一観察しておけ、と言われているのもある。

そこにいるのは、灰色のポロシャツにカーキ色のカーゴパンツを履いた、短い黒髪の少年だった。

細い骨格に程よく筋肉がついた、スポーツマンのような体つきをしている。

少年はアデルをユニットに放り出したまま、首にかけていた赤いバスタオルで汗を拭いていた。

そのせいでちらりと覗く口元しかわからないが、何となく、顔立ちがいいことは察することができる。

 

「いやあ、すごいな。よくもまあ、ただのアデルでそこまで立ち回る」

 

ハカドさんの声に反応して彼がこちらを見やった。

予想通りかなり整った顔をしている。

細い眉の下に固く結ばれた唇、肌もやけにきめ細やかで、顔つきだけなら女に見えないこともない。

そして僕と少年の視線が交差した。

とたんに怒りが霧消する。代わりに、ぞくり、と全身が泡立つのを感じた。

 

「なんだ、その目は」

「……」

 

そんな第一声を発するほど、彼はただの人間とは思えないような目をしていた。

詩的な表現になってしまうが、瞳の中に地獄があった。

一度捕まったら最後、どん底まで引きずり込まれるような暗い感情が渦巻いている。

要するに僕は、この年下の少年に心から恐怖したのだ。

けれども同時によく似た目をどこかで見たことがあるような気がした。

 

「アシハラ・ユウジ君だね?」

「そうだが……あんたらは誰だ」

 

アシハラというらしい彼が口を開く。微塵も覇気を感じない、低い声だった。

 

「私は国際ガンプラバトル公式審判員のハカドだ」

「……同じくヒカワです」

 

僕らはスマートフォンサイズの電子端末を取り出すと、起動して彼に見せた。

画面には公式審判員の身分証明になる、水色の十字のマークが描かれている。

バトルに使用する記録装置「GPベース」と同様に、複製困難なテクノロジーの塊だ。

アシハラ少年は胡散臭そうに画面を眺めて、ふうん、とつぶやいた。

 

「最近の審判員は服務規定がゆるいな」

「君に気づかれないようにしたかったからね。変に緊張や警戒をされても困る」

「あっそう」

 

僕らのことをほとんど無視し、アシハラは自らのガンプラを手に取った。

無茶なバトルの影響でアデルは殆どプラスチックの塊と化している。

僕はその有様に胸がちくりと痛み、さっき引っ込んだ怒りが、再び湧き戻ってきた。

眉をひそめる僕を横目に、ハカドさんは早速話を切り出す。

 

「今日はスカウトにきた」

「俺を」

「そうだ。きみを特務ファイターとして勧誘したい」

「聞いたことがないな」

 

こちらには見向きもせず、彼はアデルに応急処置を施している。

断ち割られたポリキャップを交換し、プラ板をあてがって装甲を補修する表情は真剣そのものだ。

とはいえ、これ以上のバトルは無理だろう。

 

「それなりにこの界隈の情報は得ているけど、噂すら知らない」

「設立されたのは最近だし、正式発表までは極秘だからさ。無理もない」

 

ハカドさんの目配せを受けて、僕が説明を引き継ぐ。

 

「特務ファイターというのは、公式審判員専属のファイターです。組織から下される『特務』、具体的には新規に開催された大会のレギュレーションチェックや、初心者へのデモ、イベントの手伝い、そして新型システムのテストなどをガンプラで行ってもらいます」

 

僕が技術畑の人間でありながら、この特務にやってきたのはそれが理由だ。

特務ファイターに実際にバトルをしてもらい、新システムのデータを収集する。

ラボで数字を眺めるよりも、目の当たりにした方がなおいいとの判断だった。

アシハラは無言だ。

今までスカウトをかけてきたファイターたちは、どちらかといえば困惑を浮かべていたが、彼の顔からは不信感しか受け取れない。

 

「きみのように、特徴的なバトルスタイルを持ったファイターこそ、この特務にふさわしいと私は考えている」

「言葉を濁さなくてもいい。要するに、無茶なガンプラを使う奴を採用して、耐久実験に使いたいんだろ」

「いや、そういう訳では……」

 

ハカドさんが言葉に詰まっている。

僕はといえば、彼の隣でめまいすら覚えていた。

人を小馬鹿にしたような慇懃無礼な態度。何より、あの戦法を自覚して使っていたことが頭にくる。

こいつはガンプラをバトルの道具だとしか思っていないに違いない。

 

「そもそも、公式審判員の仕事を俺のような三流ファイターに肩代わりさせるだと?笑わせるな。あんたらは殆ど仕事をしていないだろ」

「なん、だと」

「世界大会と全国大会に顔を出すかどうかで、出たとしても、審判としての役目を果たしたかすら怪しい。その上にこれだ。どれだけさぼれば気が済む」

 

我慢の限界だった。

反射で僕は目の前の少年の肩を強く掴んだが、彼はまるでマネキンのように表情を変えなかった。

 

「いい加減にしろ。僕らがこの時期、のうのうとしていると本気で考えているのか」

「違うのか。わざわざこんな場所まで来るのは、暇人のすることだ」

「お前!」

 

頭にカッと血が上ったところで、僕らの距離はハカドさんによって引き離された。

 

「冷静になれ、ヒカワくん。あくまで参加は自由意志だ」

「しかし」

「特務ファイターの実態は、彼の言葉通りだ。否定はできん」

 

二の句が継げなくなる。

冷静に考えれば、ダメージシステムはともかく、その他の仕事は審判員の本業でもある。

ハカドさんにそう言われれば、僕にはどうしようもなかった。

くだんの彼は平然と荷物を纏めている。

僕を嘲笑する様子すらない。完全な無関心だった。

自らのアデルをジーンズに提げたホルスターに入れ、アシハラはリュックサックを担いだ。

 

「そもそも俺の本職はビルダーだ。ファイターが欲しいなら他を当たってくれ」

「おい、待てって……!」

 

そのまま彼が背を向け、下層への階段へ歩いていく。

追おうとする僕を引きとめ、今度はハカドさんが彼に呼びかけた。

 

「そうは言ってもなりたいのではないかね。『強いファイター』に」

 

すると、その単語に思う所があったのか突然アシハラの歩みが止まった。

枯れ果てた瞳でこちらをにらんでくる。

畳みかけるように、ハカドさんは言葉を紡いだ。

 

「君が住んでいるのは、ここの隣町だ。それでもこの『けやきが丘』に来るのは、ここ出身のビルドファイターたちが悉く強者ぞろいだからだろう。だが、あえて言おう。かつて世界へ踏み出した彼らのようになりたいなら、こうして毎日、物言わぬコンピューター相手に模擬戦を繰り返しても不可能だ」

 

ハカドさんの推測は、僕には釈然としない。

ビルドファイターとは自ら機体を作り、戦えるビルダーの事を指す言葉だが、この町にいる有名なビルドファイターとアシハラでは、あまりに違いすぎる。

過酷なバトルで愛機をわざわざ傷つける者はいない。

もし憧れたというのなら、バトルに対するあり方は模倣するというのが自然だ。

 

「特務ファイターは君に強さを提供できる。それは保証しよう」

「…………」

 

あの乾ききった少年の素性と内面を、僕の上司はどこまで把握しているのだろうか。

アシハラはその場でしばし沈黙していた。だが、やがて先ほどより更に低い声で答えた。

 

「あんたに何がわかる。特務とやらを遂行して欲しいなら、もっと一流のファイターに声をかけるんだな」

 

それだけ言い捨てて、彼はゲームセンターの階段を下り始める。

 

「まだ時間はある。いつでも待っているよ」

 

ハカドさんの最後の呼びかけにも返答はなかった。

僕の腕を掴んでいた骨ばった手は、ようやく離された。

 

「ハカドさん。あんな奴にこだわらなくてもいいじゃありませんか」

 

十数分、他に目星をつけられそうなファイターがいないことを確認した。

その後の帰路で僕は上司に苦言を呈していた。

今日までの4回は、この人があそこまでこだわりを見せたことはない。

断られたときは丁重に礼を言って、後腐れなく去っていくのがハカドさんのやり方のはずだ。

 

「彼はこれまでの子たちの中でも別格だ。性格も悪くない」

「なんですって。完全に僕らを嘗めきっています」

「彼の観察眼の賜物だろう。ビルダーには必須だが、彼の場合は読心のレベルまで昇華されている。君の不満など顔を合わせたときに見透かされていたさ」

「だからといって、あんな態度を取っていい理由になりますか。それに、あのバトルです。殺気を全身に纏って情け容赦なく戦うなんて、まるで……。そうだ。『二代目メイジン』ではないですか」

 

ようやく僕は思い当たった。

最初に思わず威圧された、アシハラの視線。あれを見たのは、まだ自分が一介のガンダムファンにすぎない時代だった。

『メイジン・カワグチ』。

ガンプラバトル界にて頂点に君臨し、常にすべてのビルドファイターの目標となる存在で、現在で三代目になる。

その先代にあたる二代目メイジンはガンプラバトルの競技としての地位を確立し、その並ぶものなき強さから畏怖と尊敬を受けていた。

僕は一度だけ、そんな二代目と直接顔を合わせたことがある。

緊張していたせいか前後の状況や会話はあまり記憶にないが、その時、彼が常に掛けているバイザー越しに目が合ったのだ。

二代目メイジンの眼は、まさしくアシハラと同一のものだった。

心が死んでいる。勝利という結果のみにすべてを注ぎ、楽しもうという感情が微塵も感じられない。

 

「彼もかつてのメイジンも、ガンプラに対する愛情が欠落しています。そんな人物を、公式戦、ましてや僕らのダメージシステムのために連れてこられることは、受け入れられません」

「それは、本気で言っているのかね。ヒカワくん」

 

ついさっきまで困ったように曖昧な笑みを浮かべていたハカドさんが、急に表情を消したので、僕は言葉が過ぎたことに気づいた。

普通ならば生意気な小僧として僕は失職するだろう。

しかし、いまだかつて見たことのない侮辱的な所業の後に、止めようがなかったのも事実であった。

 

「……ハカドさんは、彼の何をご存じなのですか。面識がおありなんですか」

「私は彼に会ったことはないよ。しかし……いや、君の意見は正しいな。もう帰ろう」

 

ハカドさんはやや間をおいてからそういった。

少し声が震えているのが気にかかったが、失言の引け目もあって、これ以上深く追及することは、僕にはできなかった。

 

Sideユウジ

 

「ただいま」

 

アパートの扉を開けても、返事はない。叔父はまだ仕事だし、両親については考えをめぐらせるまでもない。

居間のソファーにリュックを放り出して、二人分の夕食の下準備をする。

それを終えると、俺は自室の扉を開けた。

そこには勉強机とベッド、ガンプラの陳列棚を無理やり押し込めたかなり手狭な空間がある。

俺は勉強机の上にカッターマットを敷いただけの簡易的な作業スペースへ向かった。

腰のホルスターケースからアデルを取り出す。

こいつはHGを塗装し直しただけのもの。何度も同じキットを購入し直してはそのパーツと破損部位を交換しているため、実質15機目くらいである。

ガンプラの破損に、俺は頓着しない。すべては機体を扱うファイターの自己責任だ。

 

「設計図の仕様に改修した方が、俺の操縦感覚に近いのか?」

 

ハイモックに溶断された、右肩から下を掌に載せてしばらく考え込む。

最近やけにこいつは右腕の調子が悪かった。

ソフトたる操縦系統と、ハードたるプラモのどちらが原因か見当もつかない。ならばとりあえず、分解して観察するしかない。

机の引き出しから一冊のスケッチブックを取り出す。

表紙には『アイデアノート No.6』とあって、その中身はほとんどが千切りとられていた。

開くと、たった数枚だけガンプラの設計図が残されている。

頁をめくるとアデルのものにいきついた。

自分自身の筆跡で描かれた、素組みの内部に複雑な関節機構を組み込む設計、なんらかのシステムとの連動。

それが何を意味するのかは理解できるが、なぜ俺がこんなものを作り出そうとしたのかというと。

 

「オレは弱い奴は嫌いだ」

「うっ、ぐっ」

 

突如、懐かしい声が耳元で囁いたかのような錯覚に、俺は口元を抑えて背中を折った。

視界がオレンジ色に明滅する。

沈みゆく夕焼けを何度も繰り返すような強烈な瞬きの中、ささやき声の主のシルエットがゆらめく。

もがく俺を、嗤っていた。

 

(強くならなきゃ。強くなれたら、きっと———)

 

自分の声で、自分と思えない幼さの残る口調の思考が奔っていき、胃の内容物が急速に喉をせりあがってくるのを必死にこらえる。

過去への詮索を打ち切り、床板の模様を数えることだけに集中していると、症状はゆっくりと治まった。

 

「……最悪だ」

 

引き出しから処方された薬の袋を取り出すと、リュックに入れっぱなしになっていたペットボトルの水で流し込む。

医者によれば、俺の身体は1年前に巻き込まれた事件をきっかけに、その時期の記憶を強いトラウマとして思い出さないようにしているのだという。

事件の内容や、関係者へつながるような連想をはじめると、このように身体が拒否反応を示す。

まるでガンダムSEED Destinyに存在した「ブロックワード」のような話で、思わず自嘲の笑いがこぼれた。

 

「……」

 

修復作業を始めるため、再度アデルを手に取ったが、どうも集中できなかった。

たった今の発作だけが原因ではない。

頭の中を、昼間の出来事が離れないのだ。

 

「特務ファイター、ねえ」

 

ヒカワと呼ばれていた、眼鏡をかけた意志薄弱そうな男が掴んだ、自身の右肩に触れる。

アデルのダメージと同じ箇所なのは、ガンプラのダメージを少しでも俺に実感させるためだろうか。

あいつ自身はそこまで意識的に動いているようには見えなかったが、推測させるだけの怒りと情念が、指先のわななきから観察できた。

 

『こいつのバトルスタイルはとんでもない。上司の推挙でなければ、お前を張り倒してやる』

 

さしずめ、そんな心境だったのではないか。

とても自分のような三流ファイターと相性がいいとは思えない。

そう結論づけて思考から追い出そうとすると、今度はあの中年の男の言葉が入れ替わるように蘇ってきた。

 

『そうはいってもなりたいのではないかね。強いファイターに』

『特務ファイターは君に強さを提供できる。それは保証しよう』

 

俺の住んでいる町まで引き合いに出した辺り、発作やその原因についても調べはついているのだろう。

ますます腹が立つが、ここらで別の選択肢を試さなければ、俺もアデルも打ち止めかもしれない。

そんなとりとめのないことを巡らせていると、リュックの中から『ガンダムAGE』の第一期オープニングが鳴った。

俺の携帯の着信音だ。取り出して画面を見れば、知らない番号である。

 

「もしもし」

『昼間はどうも。アシハラ・ユウジくん』

「……ストーカーか、あんた」

 

例の、グフ・カスタムに乗っていそうな中年審判員の声だった。

 

『さっきは部下が失礼をした』

「勝手に携帯の番号を探るあんたも大概だ」

『まあまあ、そう言わずに。実はあの場に彼がいたから伝えていないことがあってね。きっと、これを聞けば君は承諾してくれるだろう』

「……なに?」

 

そう切り出すとハカドとかいった男は、淡々とそれを話し出した。

 

~side コウイチ

 

アシハラ・ユウジと出会った翌日、僕はハカドさんにある事件を調査するように言われた。

『パーツハンター』。

勝利した相手のパーツを奪い、自らの機体を強化するという悪辣なプレイヤーのことである。それに該当するケースが、この地域で報告されているという。

本来は僕らの管轄ではないが、担当するべき部署『警備部』は大会前の人事異動やらで、てんやわんやだ。

『特務ファイター』がいない以上、支部で最も手が空いている僕らにお鉢が回ってきたのである。最終的な処理だけ、警備部が行うのだろう。

心底バカにした目で顔見知りの職員から書類が手渡しされたときは、吐き気すら催した。

昨日の会議で大見得をきったハカドさんを少しだけ恨みもした。

 

「三代目メイジンからの証言で、最近ようやく明るみに出始めた。私も遅いとは思うが、放っておくわけにもいかない」

「具体的な目撃証言などはないのですか」

「ない。パーツハンターならば様々なパーツの混成だろうが、そんな機体いくらでもあるから、アテにはできんな」

 

当の本人は昨日の出来事をすっぱり忘れたように、調子が変わらずにいる。

僕は胸の内のもやもやとした気分を、いまだに持て余しているというのに、とんでもない精神力の持ち主だ。

 

「それにしても、なぜ今なんです?」

 

聞けばメイジンが『パーツハンター』に遭遇したのはデビュー前だという。それが五年ほどの時を経て全国で散見されるようになった。

 

「忘れられた頃に、歴史は繰り返すものさ」

「しかし、よりにもよってこのタイミングで」

「アシハラくんの言う通り、我々は今までが暇すぎるのだろう。手を付けるべきいくつもの事象から目を背けている、そのツケが回ってきたのだよ」

 

聞き取りの書き込まれた手帳片手に、ハカドさんの言葉を苦々しく思い出す。

その事実一つを認めるのに、僕は大変な勇気を必要としていた。

こんなときに限って、これから調査する場所は昨日のゲームセンターときている。

再びアシハラと遭遇して何か言われようものなら、僕は卒倒しかねない。

腹に力を入れて騒音に耐え、二階のバトルエリアへ向かうと、何やら昨日と様子が違うことに気づいた。

アシハラのいた場所と違う、人があえて近寄っていない一角がある。

 

「何だ?」

 

見れば、筐体の前で小学生と思われる子供どうしがつかみ合っている。ゲームで直接暴力に訴え出ることは幼稚なプレイヤーにありがちだが、見過ごせない案件だ。

周囲の人間の迷惑だし何より友情に亀裂が走るというのがある。

 

「こら、何をしているんだ」

「誰だよ、おっさん」

 

拳を振り上げていた側がこちらを睨む。もう一人の気弱そうな少年は掴まれていた喉元を放されて、呼吸を荒げていた。さすがに相手も子供だからか、命に別状はなさそうである。

僕は心中で息をつくと、加害側の少年を見下ろした。

 

「僕はまだ24歳だ」

「いいから、おっさん。余計なことするなよ」

 

最近の子供は失礼な奴ばかりだとつくづく思う。

するとほんの一瞬だけ、この子を手ではたこうという発想がよぎった。

恐ろしさに背筋が凍りつく。僕は今、何ということを考えたのだ。

こんな子供に大人が、まして審判が手を上げるなど論外だ。

いつもより自分がすさんでいる気がする。アシハラ・ユウジと遭遇してから平静が保てていない。

 

「そうはいかない。他人に暴力を振るうのはモラル違反だ。それに、ガンプラバトルでの揉め事だろう?」

 

努めてそう言うと、僕はユニットに置きっぱなしになっている二体のガンプラを指した。どちらも損傷がひどい。死力をつくして戦ったのだろう。

ダメージという概念に過敏な身の上としては、やはり悲しい光景には違いない。

 

「こいつが、約束を守らなかったからだよ」

「約束?」

「今の勝負はどう考えたって反則だよ……。無効試合だ」

「ふざけやがって!」

「まあまあ」

 

相手の小声を聞きとがめて、また殴りかかろうとする彼を制止する。

激昂する少年に、昨日の自分を重ねたのもあるかもしれない。

とにかく、こういった勝負でのいざこざは話し合いでは埒があかなくなるものだ。どちらも自分が正しいと信じ切っているからであるし、勝利の快感は手放しがたい。

ならば第三者の目から判断して、決着をつけるのがいい。

 

「それなら、もう一度僕の前でガンプラバトルをしよう。どっちの勝ちかを、僕が判断する」

「おっさんが?」

「ああ。僕は審判だからね」

 

胸元から、公式審判員の身分証明を出して2人に見せた。子供たちの目が円くなった。

 

『Please set your GP base.』

『Beginning Plavsky particle dispersal.』

 

青白い粒子が、ユニットから立ち上っていく。この粒子が戦いの舞台となり、ガンプラに命を与える時間は、何百回見ようと美しい。

 

『Field 3 Forest』

『Please set your Gun-pla.』

 

それぞれが己の愛機を設置する。

手荒な手段を取っていた少年は、ビーム・ジャベリンを持った初代ガンダムを。

気弱そうな少年は、四肢と両肩に多様な射撃兵装を搭載した重装備の青いガンダムを発射台に乗せた。後者は原型がわからないレベルで改造されている。

粒子が浸透し、仮初の生命を得た二機のガンダムのツインアイが輝く。

 

『BATTLE START』

「ガンダム、行くぜ!」

「ハーデスガンダム、出ます!」

 

黄色い球状の操縦桿が出現、それを握りしめてファイターたちは威勢よく名乗りを上げた。

ガンダムの劇中と同様のカタパルトが互いのガンプラを射出する。

バトルの火ぶたは、ここに切って落とされた。

再現されたのは森林地帯。その上空で、彼らは正面からかち合った。

ハーデス、というらしいオリジナルのガンダムは全身の武器で弾幕を張りつつ、肩に装備されたビーム・キャノンを発射する。

ガンダムはそれを懸命にかわすが、どうやらライフルを持っていないらしい。攻めあぐねていた。

 

「さっき、ぶっ壊されなければ!」

「さっさと落ちろ!」

 

戦闘でテンションが上がりだしたのか、あの気弱な少年の口調もやけに乱暴になっていた。

よくある事態であるし、殴りかかられたことへの仕返しの意図もあるのだろう。

初代ガンダムが防戦一方のまま時間が経過していく。

僕が何度も実感することだが、データではなく本物を動かす以上、破損が後に響くのはガンプラバトルの難点だ。

とうとうガンダムの軌道がふらついてきた。

しかし、その条件に関しては相手とて同じはずなのだ。公平なバトルに、僕の手は出せない。

 

「そこだ!」

 

ハーデスガンダムは両膝からビーム・ブーメランを取り外すと投げた。ガンダムが一つは振り払い、もう一つをとっさにシールドでガードするが、左腕が吹き飛ぶ。

その機を逃さない相手によってガトリングが畳みかけられると、初代ガンダムの各部に着弾し、火を噴いた。

 

「ぐわっ!」

「もらった!」

 

回転しながら急速に落下していくガンダムに、快哉をあげてハーデスが追撃をかける。

意外に早く、勝負は決まった。そう僕が思ったときだ。

 

『WARNING! NEW PLAYER HAS COME』

 

乱入を知らせるアナウンスが流れるやいなや、2機の合間を裂くように、ビームの奔流が襲いかかった。たまらずハーデスは後退し、その隙にガンダムは体勢を立て直して緩やかに着地するが、激変した展開にどちらも理解が追い付いていなかった。

 

「だ、誰だ!?」

「俺だよ」

 

僕は慌てて筐体の反対側に回り込む。四ユニット構成の内、一人分空いている操縦スペースに、あいつがいた。

やや乱れた黒髪に、光が失われた目と、張り付いたような仏頂面。

そして、ゆったりと降下してくる黒いアデル。

 

「アシハラ・ユウジ。いつの間に!」

「今しがた来た。あんまりな茶番を見かけたからな」

「彼らの真剣勝負に水を差すな。すぐに乱入をやめろ!」

「そうだ!どけ!」

 

ハーデスを扱う少年の抗議すらどこ吹く風で、アデルは着地した。

昨日と同じく黒く塗装されていることに変わりはないが、各所にディテールアップが施されて、完成度はまるで別次元だった。

滞空する青いガンプラを見上げ、アシハラはため息をつく。どことなく、使っているガンプラまでけだるそうに見えるのは気のせいだろうか。

 

「おいそこの、降りてこい」

「ふざけるな!一体誰なんだ。おま」

 

そこでハーデスのファイターの声が途切れた。あろうことかアデルが主武装であるドッズ・ライフルを発射して、その両脚を消し飛ばしたのだ。作りこみから生まれる大出力がなせる技だった。

 

「ダメだ、やっぱり当たらん」

 

不格好に墜落するハーデスガンダム。アデルの方といえば諦めたようにライフルを放り捨てていた。

あいつの言葉を信じれば、今の一撃で仕留めるつもりだったようである。

おずおずと、初代ガンダムの少年がアシハラに尋ねる。

 

「兄ちゃん。誰?」

「通りすがりの三流ファイターだ。覚えておかなくていい。お前もパーツハンターと無能審判員とは、運がないめぐりあわせだったな」

 

そしてアシハラはこともなげに、とんでもないことを口にした。

 

「いま、誰がパーツハンターだって言った?」

「あの青いガンダム使っているガキだ」

「そんな、子供だぞ!?」

「俺の顔をじろじろ眺めまわした目は節穴か?よく観察しろよ、あのガンプラ」

 

僕は、どうにか浮上してきたハーデスに目をこらしてみた。

フィールド発生装置らしき曲面パーツを背面に強引に積む。大型ビーム砲。箱型のミサイルポッドを数門。

ありがちな、とりあえず強そうな武装をゴテゴテ載せてみたといった感じのガンプラだ。

僕が来る前に負ったのであろう損傷と、消滅した両脚が痛々しい。

それ以外には、よくわからない。

僕の様子から特に気づいたことがないのを悟ったのか、やれやれとでも言わんばかりにアシハラが首を横に振った。

 

「あちこちのパーツの作り方の癖が違う。ヤスリのかけ方、ゲートの処理、塗装の仕方がまちまちだ。これが二・三種類なら時期の違いだろうが、あんな千差万別が混在するなんてことは1人のビルダーのミキシングじゃまずありえない。だいいち、接ぎ方が雑すぎる。バトルで破損した相手のパーツを奪って、ろくに修理もせずにくっつけたからだ」

「そ、そんなことまで」

「公式審判員のくせして気づかない、お前がおかしい」

 

僕はシステム側の人間だ。ビルダーの常識には疎い。

それを言葉にして返そうとも思ったが、みじめな言い訳にしかならないのでやめた。

もっとあいつに口撃されて、子供たちの前で無様をさらすだけだ。

 

「ところで坊主。あのビーム・キャノン、本当はお前のだろう。さしずめ、元はフルアーマーガンダムだったのを、今はしかたなく素体だけにしている、といったところか」

「そうだよ。俺のパーツ、俺が勝ったら返してくれるって約束したのに、あいつがとぼけてさ」

 

そこで僕は、しっかりと約束の内容を聞いていなかったことに気づいた。正当な主張とそれを反故にした人間は確かにいた。

だが被害者と加害者は逆だったのだ。

その結論にたどり着いたとたんに、自らの勝手な思い込みが、情けなくなってきた。

 

「パーツハンター。異論はあるか?」

「うるさい!僕は強くなるんだ!」

 

ハーデスから駄々をこねるような砲撃の雨が降り注ぐ。まだあんなに弾丸が残っていたとは、様々なガンプラの寄せ集めは伊達ではないようだ。

損傷から反応に遅れたガンダムをアデルが、アルファベットのAを逆さまにした意匠を刻むシールドでかばう。

表面に多少の傷こそつくが、まるで壊れる気配はない。激突音の嵐の中、アシハラが少年に再び通信をつなぐ。

 

「そのジャベリン寄越せ」

「え、で、でも」

「あの野郎みたいに盗む訳じゃない。代わりに一撃叩き込んでやる」

 

アデルが無骨なマニュピレーターを広げて突き出した。

しばらく逡巡した後、少年のガンダムはビーム・ジャベリンを手渡す。それをアデルが受け取ったとたんに、ビームの球が大きく膨らんだ。

機体自体の出力が桁違いなのだろう。それは設定を抜きにして、このアデルが規格外のガンプラとして作りこまれていることを意味する。

 

「今、強くなると言ったか、パーツハンター」

『もう弱いって言われるのは嫌なんだ。もっと色んなパーツを使えれば、きっと……』

「……そうか」

 

ハーデスガンダムから弾丸とともにまき散らされる悲鳴のような独白を、黒いアデルは、シールドの裏で姿勢を低くし、俯いたように聞いていた。

それも束の間、弾かれたように面を上げると、盾の先端をガンダムの前方の地面に刺して固定、自らはその陰から飛び出した。

ハーデスの弾幕は、動き回る目標の方を追う。実弾の数発が装甲に直撃したが、それでもアシハラは前進を止めようとしない。

アデルがジャベリンの柄をしっかりと握り、狙いを定める。かつてフライングでハイモックを仕留めた時と同じ、投擲のモーションだ。

違う点は、右腕の装甲の隙間から淡い光が漏れ出していることだった。

 

「———システム、起動」

 

アシハラが、小声で何かつぶやいた。

空間を貫く一陣の閃光。

驚くべき可動範囲でもって、アデルはジャベリンを投げる。

それは轟音をたて、真っすぐハーデスに向かっていき、左半身を六割がた削りとっていった。

 

「そんな!」

 

ハーデスガンダムが背中から木々の中へ倒れこむ。現実感を持たせる演出として、ホログラムの鳥たちが騒がしく飛び立っていった。そして呆気にとられる初代ガンダムとその操縦者をよそに、アデルは腰から1本のダガーを取り出すと、短く光刃を発振する。

あまりのパワーに、周囲の空気が揺らめくほどのピンク色の刃だ。

足元の樹木をものともせず、アデルはハーデスの倒れる地点へずかずかと歩いていった。

 

「なんて胆力のガンプラだ」

 

僕は独り言を口にした。

ガンプラバトルは機体の基本スペックに加え、完成度で大きな補正が加わる。アシハラのそれははっきり言って、この場に限定すれば異常だった。

仮に世界大会、もしくはアーティスティック・ガンプラコンテストに持っていったとしても、上から数えた方が早い。

この子供たちの作るガンプラとは、天と地ほどの差がある。こんな所にいるべき機体ではないのだ。

 

「うっ……」

 

身動きの取れないハーデスガンダムをアデルが蹴り転がす。

その青い装甲が土にまみれても、ハーデスは指先一本動かせていなかった。そして、一回転して仰向けに戻った機体の上に馬乗りになると、アデルはダガーの切っ先をコクピットに向ける。

今度は止めようという気力さえ湧かなかった。

きっとあの少年には、非常に恐ろしい光景が焼き付いていることだろう。

 

「お前の負けだ」

 

アシハラはダガーを相手の胸部にうずめる。

びくり、とハーデスの四肢が一度だけ震え、そして動かなくなった。

 

『BATTLE ENDED』

 

粒子は消え、戦闘の痕跡はプラモを除いて雲散霧消する。そこには棒立ちする当事者たちと、仏頂面の乱入者が残された。

 

「———あのシステム、低出力ならアブソーブなしでも解放可能か」

「兄ちゃん、強いね!」

「あ?」

 

初代ガンダム使いの少年が、アシハラを見つめている。

僕から見た少年の横顔に浮かんでいるのは、憧れの感情だった。

あれだけ苛烈な戦闘をしたアシハラが、こともあろうに彼には格好良く写ったらしい。

するとあいつは眉間の皺をますます深くした。

 

「それは違う。何度でも言うが、俺は三流ファイターだ。俺を褒めている暇があったら、友達に声のひとつでもかけてやれ」

 

少年はまるで叱られたように元気をなくしてしまったが、そんなことは気にもとめずアシハラは僕の方を振り向いた。

正確には僕の向こう側、必死の形相でバラバラの破片をかき集めるパーツハンターの方向である。

目に涙をため、ぐずぐずと鼻水を垂らしながら、あちこちの武装、ちぎれた四肢を拾っていた。

彼は間違いなく罪を犯した側であるのに、その漂う悲壮感に手を差し伸べたくなる。

打ちのめされた敗者の領域へアシハラが、自分のアデルと同じく無遠慮に踏み込んだ。

 

「まだ、まだ僕は負けていない。あいつには負けていない」

「おい」

 

ぶつぶつと、うなされたように繰り返していた彼の体が明らかに跳ねた。こちらはアシハラにすっかり怯えきっているようだ。

僕からアシハラは背を向ける形になって、表情がわからない。

ただ、会話の内容は十分に聞き取れた。諭すような、ほんの少し角の取れた声だった。

 

「バラバラにされて、悔しかったんだろ」

「……うん」

「悲しかったんだろう」

「うん」

「強くなりたいなら、負けを認めて、イチからきちんと作り直せ。お前はまだスタートラインにも立っていない」

 

パーツハンターの少年はうつむいている。またもため息をついたのか、アシハラの肩が大きく上下した。

 

「『ガンプラバトル公式審判員の心得、その五。審判員は、罪を憎んで人を憎むな』」

「…………えっ?」

 

あいつは、一つの条項をつぶやいた。

何のことやらわからないといった様子で、パーツハンターはアシハラを見上げたが、その視線が気まずかったのか、奴は視線を逸らした。

 

「聞こえなかったならいい」

 

僕はといえば、驚愕と疑問で頭がいっぱいだった。

アシハラが口にしたのは『公式審判員の心得』といって、就任する際に全員が暗記させられる六つのルールである。これを覚え、順守してはじめて公式審判員として認められるわけだ。

組織に入ってから教わるため、ただのファイターが知る機会のあまりに少ない条項。

さらにはアシハラのような男は最も嫌いそうな理想の体現でもある。

そんな代物を、息をするようにそらんじることができるとは、一体アシハラ・ユウジとは何者なのだろうか。

 

「おい、後は任せた」

「え?は!?ちょっと待て!?」

 

「今ので嫌な注目を集めた。このゲームセンターにはもう来ない」

 

いつの間にか目の前にいたアシハラの言葉で、はっと周囲を見渡す。

遠巻きから、様々な年齢層の野次馬たちが少年たちを、携帯片手に眺めていた。

 

「公式審判員です!恐れ入りますが撮影や無用な風評の拡散はご遠慮ください!撮影した内容のSNS投稿は、犯罪になる可能性があります!」

 

僕がライセンスを掲げながら彼らのプライバシー侵害を止めている間に、アシハラ・ユウジの気配は遠ざかっていった。

 

~ side ユウジ

 

「それにしても、とんでもない幕引きだったね、ヒカワくん?おかげで警備部のサイバー対策課からの抗議が飛んできたよ」

「ご迷惑をおかけし、申し訳ございません」

 

翌日。

俺とヒカワ・コウイチは、公式審判員支部の、ハカドさんのオフィスにいた。

少ない調度品と表彰状以外は、たいして置かれていない、がらんとした部屋である。

彼はそこでデスクに座り、俺たち二人に苦笑いを向けていた。

ヒカワは上司の面前で頭を下げたまま、横目で器用に睨みつけている。

何故昨日の騒動の一因が、けろっとした顔でここにいるのか、理解ができないといった様子だった。

結局パーツハンターの事件は、発端が子供同士のささいな喧嘩であったことから、世間へはほとんど広がりを見せず、興味本位で顛末を撮影した連中も、公式審判員からの要請によりネットへの投稿を削除していった。

それでも記録が完全に消えることはないだろうが、この程度のいざこざならビルドファイターたちの間では日常茶飯事だ。

やがて、ガンプラバトルの歴史の『影』へと埋もれていくに違いない。

 

「ところでアシハラ・ユウジくん。これは確認だが、君は我が支部最初の『特務ファイター』になってくれるんだね?」

「その解釈で構わない」

「ちょっと待ってください。どういうことですか、ハカドさん!」

 

ヒカワが身を乗り出す。いちいち芝居がかった挙動はどうにかならないものか。

 

「おや、言っていなかったかい。先日、彼がスカウトを承諾してくれたのだよ」

「あれだけ拒否していたのに!」

「気が変わった。この通り、制服も支給された」

「え?……そ、そういえば、いつの間に」

 

『Ζガンダム』でアムロやハヤトが着用していたフライトジャケットの形状を模した制服を見せる。

ゲームセンターに乗り込んだときも着ていたのだが、こいつは今気づいたらしい。

わざわざジャケットの裾を掴んでぐいぐい引っ張るのは、生地が傷むのでやめるべきだ。

 

「いやあ、喜ばしいことだよ。アシハラくんがスカウトを受けたおかげで、特務も幽霊部署を卒業だ」

 

実際のところ、俺の気が変わったというのには語弊がある。

あの電話で「特務ファイター」になるにあたって、俺はハカドさんから、金額などとは別の報酬を提示された。

 

『君を苛んでいる記憶障害の原因となった『あの事件』にまつわる情報を提供できる。もちろん、他の人間には、情報提供の事実そのものを伏せてだ。悪い話ではないと思うが』

 

最初は、自分のデリケートな部分まで知られていたという確信で苦虫を噛み潰した気分にもなったが、冷静に考えてみればこれはチャンスだった。

俺の記憶を奪い、強さへの渇望を植え付けた根源と、今度こそ向き合えるかもしれない。

 

「きちんと説明してください。何がどうしたらそんな事態に」

「落ち着きたまえ。ヒカワくん。今回の一件、もし彼がいなければ解決できなかったのではないかね?」

「そんなことは」

「ないとでも?」

 

上司と部下のやり取りは、すっかり形成が逆転していた。ハカドさんは鋭い視線でヒカワを見据えながら、慣れた手つきで追及の矛先をあらぬ方向へと向けていく。

 

「君は審判員の心得、第一項を忘れたのかね?」

「…………。『審判員は規則を把握し、公正であれ』、でしたよね」

「そうだ。今しがた聞いた限りでは、君は公正な采配を下したとは、私には思えないのだがね」

 

かつて俺に心得を叩き込んだとある人によると、『心得に反する行動は審判員において重大な問題』らしい。

教わった当時はあまり深刻にとらえていなかったが、なるほど、こういう人間が下手に動く場合も想像した上での第一条だったのだ。

ヒカワはギロチンにかけられる側にでもなったかのように神妙に首を垂れた。

 

「処分は受けます。減俸でも、謹慎でも、なんでも構いません」

 

ハカドさんが腕を組み、ちらりと俺を見やった。

それは、俺が特務ファイターの任を受けると決めた後、告げられた内容をヒカワにも知らせてもいいか、という確認であった。

余計な前ふりはいらないのでさっさと告知してやってほしい、という意思を肩ですくめて伝えると、ハカドさんはにやりと口角を上げた。

 

「ふうむ、それなら、ユウジくんとバディを組んでもらおう」

「わかりまし……なんですって?」

「実はもう手続きは済ませている。これは上司としての配属通知のようなものだし、君の同意を得る必要はなかったからね」

 

案の定、ヒカワはハトが豆鉄砲を食ったような間抜け面となっている。

俺ももう少し表情筋の使い方を覚えていたら、昨日同じ顔になっていたかもしれない。

なにせ、どう考えても俺たちは相性最悪である。

 

「『ヒカワくんが捜査して』『ユウジくんが戦う』。役割分担として理想的だと思うがね」

「何をおっしゃるのですか。よりにもよって、こんな、ガンプラを大事に扱わないような人間と」

「ガンプラの破損は自分でどうにかすべき現象だろ。所詮はおもちゃだ」

「ふざけるな。いいか、その理屈で一体何人の人間が苦しんだと思って……」

「ヒカワくん。ユウジくん。それ以上の諍いはやめたまえ」

 

ぐっ、とヒカワが息を呑む。

どういう理由かはまだ知らないが、こいつはガンプラが壊されるのを極端に嫌うようだ。実際にガンプラそのものを動かすガンプラバトルの特性上、確実に起こり得る事象に、どうして文句をつけるのかが俺にはさっぱり理解できない。

そんなに傷つくのを見たくないのなら、棚に飾った機体を眺めて暮らせばいいのに、何故わざわざ公式審判員という、バトルに首を突っ込む資格を得たのだろうか。

 

「ともかく、これは書類上で申請、認可された決定事項だ。『特務ファイター』アシハラ・ユウジと『公式審判員』ヒカワ・コウイチは現時刻をもって、チームを結成して任務にあたること」

「了解」

「……了解しました」

 

今回の失敗ですっかり気落ちしたのも手伝ってか、喉に何かつっかえたような顔色ではあるものの、ヒカワは了承した。

その返事を聞いて、やや険しくなっていたハカドさんの表情が、ぱっと元の好人物のものへ戻る。

切り替えの早い人だ。

 

「そうと決まれば、握手でも交わしたまえ。これから確実に長い付き合いになるからね。ささ、見ていてあげるから」

 

しかも、非常にどうでもいい提案までしてきた。

気が進まないが、ここで拒否しても後が面倒なのは察しがついていた。

傍らに立つヒカワへ向き直ると、右手を差し出す。

ヒカワは俺の手を見てもしばらくやりきれない表情のままだったが、ハカドさんの視線に負けたのか、しぶしぶ握り返してきた。

生白くて、ひ弱そうな手だった。

 

「……よろしく」

「三流同士、仲良くやるとしよう」

「やっぱりむかつくな。お前は」

 

こうして俺とヒカワのバディは結成された。

そこに交わされる言葉も表情も、最低のはじまりだった。

 




どうにかこうにか、満足のいく出来にこぎつけました。
感想をいただけると嬉しいです。モチベ維持などなどになります。

それにしても、二代目メイジンってあんなボロクソに言われるほど戦い方ひどいですかね?

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