ルート2 ~インフィニット・ストラトス~   作:葉月乃継

7 / 49
7、その始まり。

 

 

 男性IS操縦者の朝は早い。六時に起きると、Tシャツとジャージ姿で剣道場に向かう。オレは朝からいちいち道着になるほど真面目ではない。

「おっす」

「おはよう」

 そこで道着姿の真面目な篠ノ之箒と短い挨拶をかわし、並んで二人で素振りを始める。特に会話はない。時折、チラリと横の箒を見て、自分のフォームが間違ってないか確認したりする。何せ、篠ノ之流の師範の娘で、本人も優秀な剣術家だ。見て盗めるところは盗むに限る。あと、こいつは教えるのが非常に下手なので、ご教授などは期待していません。

 一時間ほど素振りや型の確認をした後、

「んじゃお先」

 と告げてジョギングがてら走って寮に戻る。

 自室に戻ると、軽くシャワーを浴びて制服に着替え、身だしなみを整えた。メガネをかけて準備完了だ。部屋を出て食事に向かっていると、理子と玲美がいたので誘って朝飯に向かう。

 三人で思い思いの朝食を口にしながら、軽く会話をしていた。

「今週末、研究所だって」

 玲美が紅茶を飲みながら、教えてくれる。

「了解。時間はいつも通り?」

「うん。迎えが来るから」

 迎えというのは、四十院財閥のSP部隊だ。無暗やたらと気を使われてる気がするが、神楽の親父様の厚意も無碍には出来ない。

 食パンをかじりながら、メガネ仲間の理子が

「そいやあの記事見た?」

 と尋ねてくる。

「どれ?」

「噂の男性IS操縦者を撮影!」

「おー。見た見た。あれ、オレじゃねえぞ」

「私も笑っちゃった。どこで取ったんだろね。背中からだったけど、髪型全然違うし」

 三流雑誌のネット記事で見かけた写真は、どうみてもオレじゃなかった。というか、どうしてオレだと思ったのだ、という後ろ姿だった。

「そいえば『インフィニット・ストライプス』と『蒼風』から、取材依頼が研究所に来てたよ」

 玲美が上げた名前は、どちらも業界紙である。

 インフィニット・ストライプスは国家代表やその候補生を主体にした、どっちかというと軟派な作りで、ファッション紙と区別がつかない表紙のときもある。

 それに対して蒼風は、主に機体に焦点を当てた硬派な作りで、昔ながらのミリタリー雑誌的な作りをしていた。日本のIS関係者はどちらも購読しているのが当たり前だが、発行部数はIS紙の方が上だ。半分アイドル紙みたいになってるから一般受けも良い。ちなみにそうは言っても『蒼風』だって発行部数は百万部を超えている。

「ストライプスはまたパイロット目当て?」

「みたいだね。こっちはパス。蒼風は試験機の取材だけ」

「ああ、もう一個あるテンペスタか」

「そうそう」

 四十院研究所にはもう一機、テンペスタがある。青色のカラーリングの予備実験機で、玲美もたまにテストパイロットをしているらしい。ちなみにISコアを民間の企業が二つを持てることなど、滅多にない。おそらく遥か昔から政府や自衛隊と繋がりがあるおかげだろう。ちなみに秋口に第三世代機であるテンペスタIIに換装予定だ。欧州統合軍のコンペが近いからだろう。

「ってことは、お前も取材受けるの?」

「まさかぁ。機体だけだよ。装着したところは、他の人が見せるし。だいたい、取材は平日だしね」

「そりゃそっか」

 トーストを食べ終わった理子が席を立つ。 

「そろそろ時間だよー」

「やべ、もうそんな時間か」

「おっさきー」

 パタパタと小さな体で理子が走り去っていく。

「んじゃ私もー」

 温くなった紅茶を一気飲みして、玲美は理子を追いかけていく。

 オレはまだ焼き魚と白メシが半分ずつ残っていた。

「チクショウ」

 慌ててかきこむ。一度部屋に戻って歯磨きをすることを考えたら、時間はかなり厳しい。焦ったオレの喉に、魚の小骨が刺さった。

 

 

 

 

 授業が終わり、また地味なISの展開練習と推進翼の方向指定練習を始める。もはや日課であり準備運動みたいなものだ。最初はもっと派手なことをしろと言っていた女子連中も、段々と何も言わなくなっていった。まあおそらくセシリアが何か言ったんだろう。

「そろそろ終わりまして?」

 第二グラウンドの隅にいたオレの元へ、セシリア・オルコットが滑走してくる。

「うん、もう終わる」

「それでは、そろそろ射撃をしてみませんと」

「え? いいの?」

「まずは慣れですわ。持ってきてはいますの?」

「ああ」

「では、あちらに」

 セシリアが先導して、グラウンドの逆側で広く開いている場所に向かう。流れ弾が他人に当たらないよう、壁に向かって距離を置いた場所に位置を取る。

「しかし何でまた射撃を?」

「そろそろよろしいかと思いまして。あと気になることが一つ」

「気になること?」

「もう一人の男性操縦者が現れた、という噂が欧州連合の一部でありましたわ」

「ほほぅ」

 ……シャルロット・デュノアか。先週、クラリッサ大尉が上官、つまりラウラ・ボーデヴィッヒをよろしくと言っていた。『前回の記憶』を辿れば、二人がやってくるのは同時期だ。そして記憶通りに事が進むなら、シャルロットはシャルルという男の姿で、このIS学園にやってくるはずだ。

「で、もう一人の男ってのと射撃練習の何の関係が?」

「それはもちろん決まっておりますわ。このセシリア・オルコットの教えた人間が、銃一つ撃てない半端者、と思われても困るということですわ」

 ふふん、と鼻息荒く胸を張る。

 お師匠様は何だかんだで、自分の弟子が不甲斐ないと思われるのがお嫌いらしい。

「射撃の経験は?」

「『射的屋台のワイルド・ビル』と呼ばれてたぜ」

 ちなみに『夜祭のジェシー・ジェームス』の異名を持つ男は弾だった。一夏はどうも射撃に向いていなかったと判明したが、ただし型抜きは超一流で、異名は『木台の上の籐四郎』だった。おそるべし主人公。ちなみに籐四郎は鎌倉時代の陶器の名工だ。一心不乱に型を抜く姿を見て『……真剣な一夏、カッコいい』とか呟いてた鈴の思考がさっぱり理解できなかった十二歳の夏の思い出。

「はぁ……何のことやらさっぱりわかりませんが、準備はよろしいですの?」

 セシリアがISの指で、空間ディスプレイをタッチして、四角い電子ターゲットを空中に映し出す。

「まずは地面で、慣れてきましたら空へと」

「了解したミストレス」

 腰の後ろにあるウェポンホルダーから、IS用の自動式拳銃を取り出す。

「イタリア製ですわね」

「伊達男なんだよ」

「ピースメーカーでも出てくるのかと思いましたわ」

「いつの時代の西部劇(マカロニ・ウェスタン)だよ。てかIS用のシングル・アクション・リボルバーなんてあんのか」

「少なくとも、わたくしは見たことありませんわね。では、あちらのターゲットを狙ってくださいまし」

「了解」

 黒い無骨なオートマチック・ピストルを両手で構える。引き金を引くとほぼ同時に、ターゲットの中央が撃ち抜かれ、次のターゲットが左側に現れる。

 込められていた九発を使い果たしたところで、ゆっくりと銃口を下げた。

「……意外ですわね」

「だろ」

「どこかで練習でも?」

「研究所での機体テストでさ。腕と頭だけ部分展開して、光線銃でターゲットを連続捕捉するバイザースコープ試験があったんだ。おかげで、狙って撃つだけなら飛ばなきゃ出来る」

「ちなみに回数は?」

「思い出したくない。五ケタ以下だと思いたいね」

「試験機はお互い、大変ですわね……」

 セシリアのブルーティアーズも、第三世代のテスト機であり、おそらく退屈なテストは山ほどあったのだろう。かく言うオレだって、土日は山ほど機体試験をしなければならない。

「目玉だけずっと動かし続けるヤツよりはマシだった」

「あれは本当にキツいですわね……それで、飛行射撃は?」

「もちろん、言いつけ通りやってない」

「ふふっ、よろしい。真面目ですわね」

「師匠の言うことは聞くよ。教えてもらってんだ、当たり前だろ」

「では、段階を飛ばして、飛行射撃に入りましょうか」

「オーライ。マニュアル制御飛行は得意な方だ」

 実践はしてないとはいえ、飛行射撃にの知識に関しては予習をしている。IS乗りとしては当たり前の話だけどさ。

「では、参りますわよ」

 セシリアのブルーティアーズが飛び上がるのを、ゆっくりとした飛行で追いかけた。

 

 

 

 

「拳銃でも結構流されるんだな。鈴、お前、どうやって制御してんの?」

「はぁ? 何となく出来るでしょ、あんなもん」

「そうだったそうだった。お前は昔から何となくで何でもやる女だったわ」

 グラウンドから一年専用寮に戻る帰り道、たまたま鈴を見かけたのでコツを聞いてみたのだが、さっぱり参考にならなかった。

「それよりアンタ、最近、一夏と連絡取ってんの?」

「そいやこの間送ったメール、返ってきてねえな。また忙しいのかな。なんかやってんのかね」

「ったく、あいつってば、ホントに唐変木ね」

「お前も大概だけどな、バカツンデレ」

「ツンデレって何よツンデレって!」

「あー、デレたことねえし、ツンだな、ただのバカツン」

「で、デレるぐらい出来るわよ、アタシだって!」

「いや、出来るとか出来ないの問題じゃねーし」

「うっさいわね、この女ったらし」

「てめぇがそんなこと言うから、ホントに女ったらしみたいな噂が流れただろうが、中学で」

「ざまあないわね」

「オレは一夏の方が女ったらしだったと思うけど」

「……それは否定はしないわ。天然だったけど」

 軽口を叩き合いながら歩いていると、すぐに寮へと辿り着く。

「んじゃな」

「んじゃね」

 友人同士とは気軽なものだ。

 特に深い思いもなく適当に喋って時間を共有し、それであっさりと別れて終わる。

 織斑一夏というヤツがいた。正義感が強く、基本的に善人で、シスコンで、困ったヤツが放っておけなくて、後先考えない行動派で、そしてシスコン。

 彼は何を思って今、どこにいるんだろうか。相変わらずのままでいるんだろうか。

 

 

 

 

 部屋に戻り、シャワーを浴びて着替える。夕飯の時間になったので、ドアを開けて、食堂へと向かいゆっくりと歩き始めた。

 寮の廊下でクラスの女子とすれ違う。特に挨拶はないが、軽く手を上げると、向こうも軽く手を振り返して、すれ違って行く。

 ここはIS操縦者育成特殊国立高等学校。インフィニット・ストラトス操縦者を育て上げる専門校だ。

 オレの名前は二瀬野鷹。タカと書いてヨウと読む。今まで女性しか扱えなかったISを、世界で初めて動かした男子であり、現在十五歳だ。

 身長176センチ、体重65キロ、やや細面の顔にメガネをかけた姿の印象は、軽薄そのものらしい。最新のニックネームはスケベメガネだチクショウ。

 今は凡人そのものだが、幼いときは神童と呼ばれていた。

 それは何故か、生れてくる前に他の人間として生きていた記憶を持っているからだ。そのときは、このISが存在する世界を『本の中の物語』として認識していた。

 そして、その物語の登場人物たちが、本物の人間として、『今の』オレの前に現れている。

 織斑一夏を初めとする人間。篠ノ之箒、凰 鈴音、セシリア・オルコット、シャルロット・デュノアという主要登場人物たち。そしてIS『銀の福音』操縦者ナターシャ・ファイルスや黒兎部隊の副隊長クラリッサ・ハルフォーフ、担任の織斑千冬と副担任の山田真耶。友人である五反田弾とその妹の蘭。

 知識の中でしか知らなかった、様々な人たちと出会ってきた。

 さらに、この世界でIS学園に来るまで知らなかった人間たちもいる。

 国津玲美、岸原理子、四十院神楽。そしてその親たち。クラスメイトのみんな、一緒に授業をすることもある二組の生徒や、寮の廊下ですれ違う同じ一年の子たち。剣道部の先輩。腐れ縁の友人二号の御手洗数馬やカルフォルニア基地の技術担当士官のジョン、篠ノ之箒の親で剣術の道場師範であった柳韻師匠などもそうだ。

 もはや、以前の人生の記憶の方が薄れてきていた。

 オレはこのIS学園で、ISパイロットを目指して頑張っている。

「やっほー、ヨウ君ご飯?」

 玲美が手を振ってた。隣には理子と神楽もいる。

「おう。三人とも一緒に行くか?」

「行こうぜー」

「真似すんな、バーカ」

「へへっ」

 三人の顔を見る。

「どうしたの?」

 理子が小首を傾げた。

「いや、何でもねえし。腹減ったー」 

 オレの名前は二瀬野鷹。タカと書いてヨウと読む。

 織斑一夏ではないし、専用機も白式じゃない。

 だけどこの世界で、ここで生きて行く。精いっぱいに。

 

 

 

 

 大好物である焼き肉定食サラダ大盛りを食ってると、周囲の女子たちが騒がしくなってきた。どうも中心はうちのクラスらしい。その一人である相川さんと谷本さんがオレたち四人の座るテーブルに駆け寄ってくる。

「ねえねえ理子、聞いた聞いた?」

「ほ? 何を?」

「明日、一組に転入生が来るんだって!」

「えー!?」

「そ、れ、も」

 谷本さんがオレを見て、ニヤリと笑う。

 ……そっか。とうとう、シャルロット・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒがやってくるのか。そろそろツーマンセル・トーナメントもあと一カ月を切ったしな。

「男が来るのか」

 余裕の表情のオレの回答に、相川さんと谷本さんが驚いた顔をする。

「何で知ってるの!?」

「極秘情報だったのに!」

 ヤレヤレだ。残念ながら、やってくるのは男の恰好をしたシャルロットっていう天使のような女の子ですよーだ。

「ってまずい!」

 シャルロット・デュノアが男装してやってくるってことは、オレと相部屋か! 今さら気付くなんて、バカかオレは。

 ……どうする、超どうするよ!?

 男装した、実は女である子と相部屋。うらやましいと思うのが普通だろうが、実際はそうではない。

 何が起きるかわからないのだ。

 オレは織斑一夏ではない。一夏みたいに惚れてもらえるとは限らないし、もし裸なんぞ見てしまった日には、不可抗力であったとしてもクラスで孤立するかもしれない。

 仮にシャルロットが悪いとしよう。だがそれでも結果的にオレは『誰か』を裏切ることになる。いや、誰かってのはすんげぇ身近な人物なんだけど、口に出すのが憚れるぐらいには恥ずかしい。

 しかも女子ってのは、感情が伝染する生物だ。一人が嫌えば、あっという間に噂が広まっていく。鈴のおかげで女ったらし扱いされた中学時代を思い出すと、ロクな記憶がない。

 オレのIS学園生活は、可能な限り空気に紛れるという細心の注意によって成り立っているというのに……。

「どうしたんですか?」

 冷や汗がダラダラ垂れてるオレを心配して、神楽が声をかけてくる。

「……い、いや、なんでもありましぇん」

「噛んでますよ?」

 玲美が怪訝な顔つきで見つめてくる。

 く、こうなっては、臨機応変に対応していくべきだ。

 男装したシャルロット・デュノアと同室になるとは決まっていないんだし、もしそうなっても話し合って解決しよう。というか、そうするしかない。

「い、いやーいいヤツだといいよなー男かーそっかー」

 あははははーと笑うが、どう考えても作り笑いにしか見えないよな、きっと。

 こうなったら後は野となれ山となれだ。

 

 

 

 

 夜、また嫌な夢を見る。

 車に吹き飛ばされ、地面に激突し、右目が見えず、左の視界は赤く染められ、手足はまともに動かず、頭が割れるように痛い。

 高い青空を、一羽の鳥が飛んでいた。それに手を伸ばそうする。

 いつもなら、ここで目を覚ますはずだ。だが、今日は違った。

 仰向けに横たわる『前回』のオレの顔を、誰かが覗きこんでくる。

 無様だな。

 嘲るような男の声だ。

 さっさとくたばれ。

 そう言って、男は足を上げ、オレの頭に振り下ろした。

 

 

 

 

 翌日、IS学園一年一組の、朝のショートホームルームの時間に、その一大事件が起きた。

「えーっと、みなさんに今日から同じクラスのお友達が増えます!」

 山田先生が小さく拍手を始めた。

 ちなみにアニメ版だと別の日に転入してくる二人だが、小説版だと同じ日に転入してくることになっている。

 で、今回はどうなんだ。

「では、入ってきてください」

 全員が期待の眼差しを教室の前の入口に向ける。すぐに圧縮空気で動く自動ドアが開いて、二人の少女が入ってきた。

「え? 女の子じゃん」

 誰かが呟いた。

 そう、ラウラ・ボーデヴィッヒとシャルロット・デュノアの二人という予想は合っていた。だが、オレの考えていた予想と違う点が一つ。

「フランスから来たシャルロット・デュノアです、仲良くしてくださいね」

 シャルロットは、ミニスカートタイプの女子の制服を着ていたのだ。

「うわーすごいかわいい子だね」

 その感想は同感だ。

 何だ、オレの心配は杞憂だったようだ。

 教壇に立つシャルロットがぐるっと教室を見回す。オレと目が合うと小さく手を振ってくれた。天使か。

 そしてもう一人の女生徒が鋭い眼差しで前方を見る。長い銀髪と小さな体に、鋭い目つきと左目を隠す眼帯が印象的な、刃物のような輝きを持った少女だ。

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。先日は部下のクラリッサが世話になったと聞く。私も同様によろしく頼む」

 そう言ってお辞儀をした。

 あれ、何か思ってたより全然柔らかいな。

 覚えてる前回の人生の記憶では、織斑先生に促されるまで挨拶すらせず、一夏を見つけると同時に顔を叩いていた。

 だが今、自己紹介をした少女は、たしかに鋭いイメージこそ損なっていないが、自己紹介は常識的だ。むしろ口調を除けば好感が持てるとも言える。

 二人の言葉を聞き終えて、笑顔の山田先生が小さく胸の前でポンと手を叩いた。

「みなさん、これから同じクラスの仲間です。仲良くしてくださいね」

 クラスの全員が、元気に返事をした。相変わらずの仲良しクラスである。

 はぁ。何はともあれ、波乱はなさそうだ。

 一気に気が抜けて、オレは机に突っ伏す。

「えーっと、そろそろ最後の一人が」

 そんな突拍子もないことを山田先生が言い始めた。

「一度に三人も?」

 クラス中がざわめき始める。

 どういうこった、誰が来る? もう心当たりはないぞ。箒、鈴、セシリア、シャルロット、ラウラ。これで全員揃ったはずだ。

 混乱するオレの耳に、

「い、いてえよ千冬姉」

 という聞き覚えのある声が届いた。

 ……なんだと。

「ほら、さっさと入れ。それと、ここでは織斑先生だ」

「は、はい、織斑先生」

 廊下からそんな姉弟のやり取りが聞こえてくる。

 入口のドアが開いた。

 一人の男が入ってくる。IS学園の、オレと似たような男子の制服を着た人間だ。

「さあほら、さっさと自己紹介をしろ」

 姉に急かされ、『彼』がラウラの隣に立つ。

「えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 相変わらずの、しっかりと響き渡るくせに、どことなく間の抜けた声。

「い、一夏!?」

 箒が思わず立ち上がった。

 そこに立つ男は、何故か左目にラウラと同じ眼帯をした織斑一夏、その人であった。

 

 

 ……何がどうなってるんだ。

 

 

 

 

 そこにラウラが一歩前に出て、一夏の腕を引っ張って抱きかかえると高らかに、

「こいつは私の嫁だ、手を出すなよ」

 と叫んだ。

「ラウラってば、もう……」

 シャルロットが困ったような笑みでため息を吐く。

「い、一夏ぁ!?」

 なぜか隣の教室から鈴が走り込んできた。一夏の顔を見て驚くと同時に、織斑先生に殴られる。

 

 ……ああ、もうわけわからん。

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。