ディアベルが死の運命を覆そうと奮闘するようです 作:導く眼鏡
やぁ、俺の名はディアベル。職業はナイト(血盟騎士団)やってます!
今回、俺達は第一階層の隠しダンジョンの攻略に赴いている。
攻略に赴く事になった理由だけど、その理由はこれからの攻略に大きく関わりかねない情報の出現だった。
第一階層の隠しダンジョンに、GMコンソールに連なる代物が隠されている
どこからこの情報が出たのかは全くの不明だ。そんなものが存在していて、プレイヤーが操作する事が出来ればデスゲームの終了、そして生存者全員をログアウトさせる事が出来るかもしれないからだ。
無論、本当にGMコンソールに連なる代物があればの話だ。
情報の真偽を判断する材料なんて存在しないし、誰かが勝手に噂しただけのガセ情報という可能性だってある。
だがそれでも、GMコンソールに連なる物の存在が例え噂レベルであろうともそこにダンジョンがあるのは事実。
ならば、ダンジョンを攻略して真偽を確認する価値はある。仮にGMコンソールに連なる代物がなかったとしても、ダンジョン攻略でアイテムが手に入るはずだから全くの無駄という事にはならない。
以上の点を踏まえて、ダンジョン攻略中にドロップしたアイテムはドロップした人の物というルールの元、俺が誘った4人の人物とアスナ副団長、ヒースクリフ団長と共にダンジョン攻略に赴いた。
「見ろよ、スカベンジトードの肉がこんなに獲れたぜ! アスナ、後で調理してくれよ」
「ちょっと、それ持ってこっちに来ないで! 絶対調理しないわよ!?」
「調理したら美味そうなのに……帰ったらサチに調理してもらうか」
「!?」
前方で微笑ましいやりとりをしているのは、黒の剣士ことキリト君と血盟騎士団副団長のアスナ君。
キリト君が道中のMob狩りを自ら名乗り出た為、彼を最前線に無双、アスナ君も対抗意識を燃やして実質二人だけで道中Mobが狩られていくという事態になっている。
おかげで、俺を含む5人は手持無沙汰な状態でダンジョンを進む事になった。
ちなみに、アスナ君がキリト君に少なからず好意を抱いているであろう事は察している。
キリト君がはたしてサチ君を選ぶのか、アスナ君を選ぶのか。SAO内や日本では一夫多妻制は認められていない。キリト君が最終的にどっちを選ぶのか、楽しみだ。
ついでに言うと、キリト君がどちらを選ぶのかは全く分からない。何故かというと、そこまでたどり着く前に俺は死んでリセットされるからだ。
「しかし、二人共凄い張り切り具合だね」
「彼等は攻略組の最前線に立つ二人だからね。その実力は折り紙付きさ」
「ディアベルがそういうなら、疑う余地もねぇな」
「攻略組最前線に立つ二人の内の片割れであるアスナ君を我が血盟騎士団の副団長に任命した私の目に狂いはなかったようだね」
「違いねぇな。で、キリトの野郎に関してだが……あいつはどっちを選ぶんだろうな?」
「にゃははは、同じギルドに所属していて普段からキー坊を献身的に支えるサッっちゃんと最前線でキー坊を支えるアーちゃん、両手に花ダ。キー坊も隅におけないヨ」
「羨ましい限りだね。花と言えば、シンカーは何時ユリエールにプロポーズするんだい?」
「なっ!?///」
「もうとっととアタックしちまえよ」
「そ、それはその……だな……」
「おーおー、若いっていいなぁ。俺も向こうにいる妻と早く再会したいぜ」
「ふむ、色々な人物がいる中でも色恋の話は出てくるもののようだね。色恋と縁がなさそうなのは、私とアルゴ君位かな?」
「団長のファンは結構いるみたいだけどね。ファンクラブの中に気になる娘はいないのかい?」
「生憎と、そういった事は苦手でね……そういうディアベル君こそ、どうなんだい?」
「ベル坊も幼子からオトナのお姉さんまで、結構様々な層のファンがいるけどネ。ん? どうなんだいベル坊、一人位気になる娘はいないのかい? オネーサンに話してごらん?」
「その手には乗らないよアルゴ、それに俺も団長と同じでその手の事にはうとくてね」
「へぇ、ベル坊が恋愛事苦手……ネェ」
アルゴがジト目でこちらを見つめて来るが、気にしない事にする。
キリト君とアスナ君以外のメンバーは、俺、ヒースクリフ団長に加えてALSリーダーのシンカー、商人のエギル、そして情報屋のアルゴだ。
シンカー君は第一階層の治安維持に協力してくれている筆頭で、一時期暴走しかけたALSを正しく纏め上げたのも彼だ。ちなみにユリエール君とは推測相思相愛。プロポーズも時間の問題と思われている。
エギル君は商人として店を運営していて、俺もよく利用させてもらっている。一部のプレイヤーだけが知っている事だが、彼は店の儲けのほとんどを中層プレイヤーの育成支援に費やしている。
アルゴ君はSAO随一の情報屋だ。こちらから会いに行こうとしても探すのには苦労する。本気で彼女が隠れたら見つけるのはほぼ不可能だ。
だが、彼女の情報は最も信用出来る。今回彼女は俺達が第一階層の隠しダンジョンを攻略する事を聞きつけて同行を申し出たのだ。
当然の事だが、少しでも信用出来ないと思っていたら問答無用で置いていっている。
ここにいる全員が、周回を繰り返して来た俺が最も信用出来ると思っているメンバーだ。
「ディアベル君、この迷宮がどれほどの深さなのかは未知数だが……大分奥の方までは進んでいるだろう。何時ボスが来てもいいように、気を付けてほしい」
ヒースクリフ団長から忠告を受ける。確かに、なんだかんだでキリト君がほとんど殲滅してしまっている為俺達はほとんど戦闘をしていない。
しかし、これだけの迷宮だ。第一階層にあったとはいえ、出てくるMobのレベルは50階層やそこらのレベルでは太刀打ちできないものだ。
そんなダンジョンのボスともなれば、やはり気合を入れなければいけないだろう。
「皆、下がれ!」
通路を進んでいると、キリト君が突然大声で叫びだした。
俺達はすかさず数歩下がる。すると、目の前に大鎌を持った死神のようなモンスターが壁から現れた。
「なんだ……こいつは!?」
「ステータスが見えない……気をつけろ、こいつの強さは90階層レベルかもしれない!」
「あたって欲しくねぇ嫌な予感ってのはどうしてこうも当たっちまうんだろうなぁ」
キリト君の言っている事が真実ならば、このMobはとんでもない強敵だ。
下手をすれば全滅する。ここは大人しく引き返すか? だが、その先には白い部屋がある。
もしかしたらあれが最奥なのかもしれない。あそこに……ログアウトの鍵があるかもしれない事を考えると、ここで退くのは……いや、ここで皆が死んでしまったらこの周回では生き返らない。
死に戻っていた事で感覚が麻痺していたが、冷静に考えれば他のみんなは死んだらそれで終わりなのだ。
それを考えると、無理な突破を試みる事はできない。
「奴がボスなら、無理に突破しようとするのは危険だ! 守りに徹して、隙を見て全員で離脱しよう!」
「いや、撤退を宣言するのはまだ早いかもしれないよ」
ヒースクリフ団長が前に出て死神の攻撃を盾で防ぐ。
さすがは神聖剣といったところか、彼は涼しい顔を崩さずに敵の攻撃を防ぎきってしまった。
「ヒースクリフさん!?」
「団長!」
「私が敵の攻撃を凌ぐ、キリト君達は隙を見て攻撃したまえ!」
彼は退くつもり等ないと言わんばかりに、敵の前に堂々と立ち塞がっている。
ここまで進んで来た以上、この先に何があるのかを俺は確かめたい。
危険だが……周りを見ると、全員退くつもりはないのか俺の指示を武器を構えながら待っている。
それを見て、決心がついた。剣を掲げ、力強く宣言する。
「全員、戦闘開始! 犠牲者を絶対に出さず、全員で突破しよう!!」
結論から言うと、ボスを退ける事は出来た。
途中、シンカー君とユリエールさん、エギル君が犠牲になってしまったという点を除けば、突破出来た事自体は喜ぶべき事なのだろう。
むしろ、あの敵を相手に犠牲者が三人で済んだ事自体が奇跡的だった。そう呼べる戦いだった。
キリト君やアスナ君ではとてもじゃないが受けきれない理不尽な攻撃力。
ヒースクリフ団長の鉄壁ぶりがなければ、瞬く間に全滅していただろう。
「シンカー君……ユリエールさん……」
「三人共、どうして……!」
「たかが三人、されど三人と考える事は出来るけれど……その三人の犠牲が、ここでは大きいわね」
アルゴ君も思わず何時もの口調が外れてしまう程に沈痛な表情をしている。
そう、たった二人……一万人の内の三人だが、それでも長い時を共に過ごしてきた俺達にとっては大きすぎる犠牲だった。
だが、全員がいつまでも沈んだままでは先に進む事はできない。何も解決しない。
「行こう、皆……これ以上、犠牲を出さない為にも。あの先にある物が全員のログアウトに繋がる鍵なら、残っている人達を開放しなくちゃいけない。この場所でいつまでも立ち止まっていたら、その間にも犠牲者が出る」
振り絞って出した声は、震えていた。
皆、無言で立ち上がり……奥の部屋へと向かった。
「これは……?」
中にあったのは、よく分からない何か。
これが何なのか、これを使って何が出来るのか。そもそもこれはどう使えばいいのか。
正直、よくわからない。
「これは一体……うおっ!?」
キリト君が鎮座している何かに手を触れると、それが起動を開始した。
「なんだこれ……高度すぎるプログラムがたくさん組み込まれている」
「キリト君、分かるのかね?」
「キリト君、これが何か分かるの?」
「あぁ、一応これでも自作のマシン組み上げたりコンピュータ弄ったりしてるから、こういうのは得意分野だ」
「へぇ、キリト君って機械に詳しいんだ」
「まぁな。ただこれは解読に骨が折れそうだからしばらく待っててくれ」
どうやら、キリト君ならなんとか分かるらしい。見てもさっぱりな俺達が下手に介入するより、ここは彼に任せた方がいいだろう。
そう考えて、しばらく様子を見ていた時だった。
「なん……だ……これ」
「何かわかったのかい?」
キリト君が何かを見つけたらしく、俺達は彼の傍に駆け寄る。
「これは……どういう事なの?」
「ホライゾン計画……繰り返される実験記録がここに載っているようだね。なるほど、驚くのも無理はない」
ヒースクリフ君とアルゴ君もこの謎の羅列を理解出来るらしい。だが、気になる事がある。
「ホライゾン計画?」
「これに書かれている文言によると、どうやらアインクラッド全体に大きな仕掛けが施されているらしい。そしてそれはある特定の人物を中心に行われている、と書かれているね」
「そして書かれている文言にある特定の人物は……ベル坊、君の名前ダヨ」
「なっ!?」
心当たりはある。繰り返して来た死に戻り。何度も俺は死に、巻き戻って来た。
それが、このホライゾン計画によるものだとしたら……
死に戻っているのが俺だけなのも頷けるし、だが何故こんな事を?
どうして、選ばれたのが俺なんだ? どうして……
ドッ
「……え?」
一体、何が起きた?
どうして、俺の身体に剣が生えて……いや、生えて等いない。
これは……誰かに、刺された?
だけどこの場には俺達以外誰もいない……なら、一体……誰……が……
「君の役目もここまでだ、ここからは真の……始ま……」
潰えゆく意識の中で微かに聞こえた声は、男性のものなのか女性のものなのかもわからない。
そうして、俺は……
「…………ここは?」
気がつけば、始まりの街。
何事もなかったかのように、死に戻っていた。
いや、それは違う。
ループの最初に俺は戻されていたのだ。