どうも、護廷十三隊一番隊直轄財務監査室室長です   作:三角頭

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投稿が予定より遅れたことをお詫びします


お金があれば、とりあえず生きていける

「余計な出費だな、これは」

 

「拙者としては室長がご無事で何よりです。それに、先程の剣術、感服致しました」

 

「お前の斬魄刀があったからこそこの程度の損害で済んだし、あの男の剣にも耐えられたんだ、誇るのはお前だよ、左陣」

 

「はっ、有難きお言葉」

 

  どうにか更木を抜け出し、治安は悪いが更木よりはましな戌吊でズタボロになった俺の死覇装と笠の代わりを買って、再び流魂街(るこんがい)を探索する。流石にあの男のような事態に発展することはないだろうし、この後は比較的安心して捜索できるだろう。……ただし、今回の仕事で貰えるであろう特別手当は、俺の死覇装の新調で半分ほど吹き飛ぶ事を考えると、心底憂鬱な気分にならざるをえない。

 

「それでお次はどちらへ?」

 

「ん?一応、この近くに反応があるんでそこに向かおう」

 

「はっ」

 

  俺が探査回路(ぺスキス)の反応した方向へ足を向けると、誰かに俺の肩がぶつかった。どうにもさっきのやり取りとの落差か、気が抜けているらしいな。

 

「おっと、すまな……」

 

「……っ」

 

  俺が声をかける前に、ぶつかってしまった本人は何処かへと走り去っていった。

 

  ふむ、髪は黒髪短髪、性別は女性、年齢は十歳前後、衣服から察するに経済状況は貧しい、霊力はそこそこ……後ろ姿から得られる情報はこんなもんか。死神になるには少しばかり力不足なんで、仕事には関係ないか。

 

「先程の女性、何やらただならぬ様子でしたが、如何いたしましょう?」

 

「そうだな、別に気にしなくてもいいだろう。わざわざ世話をしてやるほどの縁でもないし、何かしらの盗みを働いた訳でもなさそうだ。他人の俺たちがどうにかする話でもないだろ」

 

「……はっ」

 

  左陣としては何かしらの助けになってやりたいとも思ったが、ここでそれをやってしまえば周囲の人間全員に縋られる事態になりかねないと分かったのだろう。

 

  とはいえ、俺もさっきの少女の事が気にならない訳ではない。その理由は簡単だ。先程の少女は来た方向は、探査回路(ぺスキス)が反応している方向と全く同じだったのだから。

 

「さてさて、単なるすれ違いか奇縁となるのか」

 

「室長?」

 

「いーや、単なる独り言だ」

 

  俺はの反応のあった箇所へと歩みを進め、霊力の強い人物を探り当てた。発見自体はそれなりに簡単で短時間で終わったのだが、事態としては色々と厄介な事になっている。

 

「赤ん坊か……」

 

「赤ん坊……ですね」

 

  さて、これは本当に困った。霊力は死神になるのに十分なんだが、これでは意志の確認もままならない。

 

  俺の仕事は勧誘であって拉致ではない。相手の意思に反する、または無視して連れて行くのは許可されていないのだ。如何にこの赤ん坊の素質が希少であっても、だ。

 

  しかし、このままここで放置すれば死ぬな。更木のようにいきなり殺される事は無いだろうが、少なくとも見ず知らずの赤ん坊を拾って育てる輩はいないだろう。

 

  さて、ここでの解決方法はなんだ?

 

  まず第一、このまま見なかった事にして放置する。却下だ。色々と理由はあるが、あまりにも寝覚めが悪くなりすぎる。

 

  次、俺が拾って育てる。これも却下。何が悲しくてそこまで手をかけなきゃならないんだ。流石にそこまでの義理は無い。派生で左陣に託すというのも考えたが、流石に左陣に子育てスキルがあるとは思えないので却下。

 

  次、護廷十三隊の何処かしらの預ける。不可能だ。素質があるからといって、流魂街(るこんがい)の捨てられた赤ん坊を育てるような余裕は護廷十三隊にはない。

 

  となると……多少なりとも博打を打つとするか。赤ん坊の髪の色は黒、今現在確認できる共通点はこれしかないが、状況面から考えればもう少し勝率は上がるか。

 

「左陣、その子を抱えて少し待っていろ」

 

「は、はぁ……」

 

  左陣は恐らく赤ん坊を始めて抱くらしく、凄まじくオドオドした様子で抱いていたが、すぐにどうすれば良いのか理解したらしく普段の様子に戻った。ただ何というか、左陣がいつもの堂々とした様子で赤ん坊を抱いているという絵は何が可笑しい訳では無いのだが、自然と笑みが込み上げてくるな。

 

「室長、如何なさいましたか?」

 

「いや、何でも無い。それじゃあ、すぐに戻ってくるから動くなよ」

 

  俺は左陣と赤ん坊を置いて、来た道を引き返して街の中を歩き回る。時間はそれほど経っていないのだからそこまで遠くにはいないだろうし、普通の魂よりは霊力があるので見つけやすいな。

 

  探し始めておよそ十分、彼女は裏路地で蹲っていた。さて、少なくとも生きては……いるな。

 

「おい、そこの君」

 

  名も知らぬ少女の肩を掴んで睨みつけるっていうのは、まるで悪人のような……認めよう、完全に悪人だな。総隊長あたりに見られたら弁解の余地なく灰にされる。

 

「……なんでしょう?」

 

  うわっ……こいつ、完全に目が死んでる。てっきり、捨てた赤ん坊の事なんて忘れようとしてるか、さっさと姿をくらまそうとしているものかと考えたんだが、このまま放っておいたら自害か、そこらへんの男に捕まって娼館行きがオチだったな。

 

「悪いんだが、少しばかり仕事を頼みたい」

 

「……どうぞ、お好きになさって下さい」

 

「うん、俺は一応公的機関の人間だから、誤解を招く言い方は止めてくれないか?社会的にも物理的にも破滅しかねないから」

 

  そもそも俺のタイプはもうちょっと肉付きの良いというか、雰囲気的にも儚げなタイプは好みじゃないんだよな。それ以前に子供に対してその手の感情を抱くのは無理だ、うん。

 

  幽鬼のようにフラフラと立ち上がった少女の手を引き、左陣のいる場所までゆっくりと歩いていく。手を引いてわかったのだが、少女の手足は随分とか細く力加減を誤れば折れてしまいそうな儚さだった。後ろ姿だけでは分からなかったが、血色も随分と酷く栄養失調寸前ってところか。

 

  彼女が捨てたであろう赤ん坊の様子から察するに殆ど食料も手の入らず、僅かに手に入れた物も赤ん坊に与えたのだろう。そんな生活に加えて、赤ん坊の世話をやっていたのだ。精神、肉体的に限界がきた結果、今に至るのだろう。いやはや、随分と世知辛い話じゃないか。

 

「あそこの木のあたりに赤ん坊を捨てたのは君か?」

 

「…………」

 

  沈黙ってことは肯定か。

 

「あの赤ん坊に恨みは?」

 

「…………」

 

  最後の問いに対して少女は小さくではあるが首を左右に振り、しっかりと否定の意思を示した。

 

  よしよし、恨みがないのならどうにかなる。そこが一番の問題だったんだ。

 

「じゃあ、ここに支度金である百八十万環の入った封筒が二つある。もしも君があの赤ん坊を一人で生きることが可能になるまで育てると約束し、君とあの赤ん坊二人で死神になる事を約束するのならば、この二つを今すぐにでもプレゼントしよう。

  それと、渡した金が誰かしらに奪われたなら近くの詰所に行って、封筒を見せた上で被害届を出せ。いくらここの治安維持にあたる死神が愚図だろうと、これを見せれば否が応でも動くだろうからな」

 

  封筒には総隊長直々の判が押印されており、これを無視した上でそれが判明した場合、総隊長命令違反ということで隠密機動のお世話になる。流石に、これを前にして不正をやる死神はいない。

 

「えっ?」

 

「えっ、じゃなくて、返事。育てるか育てないか、どっちだ?金に関しては多少の色は付けれるが、粘ってもそんなには出せないぞ。俺の財布から出せる額なんて大したもんじゃない」

 

  支度金に関しては一番隊の隊費から出ているので問題ないが、追加の要素は全額俺負担だ。金銭面で余裕がないわけじゃないんだが、死覇装の修繕でこの仕事の手当てが大分消えるので、これ以上に身銭を切ると働いたにもかかわらず金が減ったという、極めて意味不明な事になりかねない。

 

「……もし」

 

「ん?」

 

「もし、私がこのお金を持って逃げ出したらどうなさるのですか?」

 

「別に、その金は俺のものじゃないんで俺の懐が痛みはしないからな」

 

「随分と適当なんですね……」

 

「俺は仕事に関しては手を抜かないが、それ以上のことは知ったこっちゃない。そして、俺の仕事は人材の発見と勧誘。支度金に関しては、相手が必要である場合に渡せって事で貰ってるんだ。わざわざ、それを返せとは言わんよ」

 

  更木の男に関しては、金など渡す必要は欠片も無かったので渡さなかっただけだ。断じて、サボりでも忘れていたからでもない。

 

「そうですか」

 

「そうだ。で、返事」

 

「……あの、私にあの子をもう一度抱く資格はあるのでしょうか?身勝手な都合で見捨てた私に」

 

「資格?俺が知るか、そんなもん。それを答えられる人物がいるとしたら、それは捨てられた本人しかいない。じゃあ、その資格とやらを問うためにも君が育てるべきじゃないのか?自分は一度赤ん坊の君を捨てた、それについて君はどう思うか、ってな具合にな」

 

「……そうですね。少なくとも、あの子からの恨みを受けるためにも私が育てなければなりませんね」

 

「その言葉、受けるってことでいいんだな?」

 

「はい、お受け致します」

 

「そりゃ結構」

 

  俺は少女に金を渡してから、待たせていた左陣に赤ん坊を引き渡させて、俺たちはその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「室長、よろしかったのですか?」

 

「……なにが?」

 

  昼食として蕎麦屋で蕎麦を啜っていると、左陣が不意に俺に問いかけてきた。

 

「あの少女と赤ん坊をあのままにしておいて、無事に生き残る事ができるでしょうか?」

 

「どうにかなるだろ。それに、あの子供は一回心が折れてから、立ち上がったからな。お前が思うほど、あいつは弱くないぞ。挫折や絶望から立ち上がった奴ってのは、中々に頑丈な奴になるんだぜ」

 

「……失礼ですが、室長もご経験を?」

 

  左陣は優秀なんだが、妙に勘が鋭いのが厄介なんだよな。動物的直感とでもいうんだろうか、その顔的に。将来は、隠密機動の調査関係の部署で働いたらいいんじゃないだろうか。

 

「虚圏はそんなんばっかだ。年中殺し合いして、仲間みたいな奴ができても次の日には残骸で見つかった、そういうのが日常茶飯事だった。多分、俺もどこかしらで絶望したんだろうがこうして生きてる以上、どこかしらで立ち直ったんだろう」

 

  いかんせん虚圏(ウェコムンド)での暮らしは長かった上にロクな思い出が無いんだ、思い出すことすら億劫になるのも勘弁して欲しい。

  が、数日後、そんな嫌いの俺を嘲笑うかのような仕事が命じられたというのは、タチの悪い皮肉以外の何物でも無いだろう

 




今回は原作キャラを生存させるフラグを建てる回でした(断じて恋愛フラグではございませんのでご安心を)

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