どうも、護廷十三隊一番隊直轄財務監査室室長です   作:三角頭

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フカフカは、正義

「助けてもらったことには感謝するが、あたしたちが従うのはハリベル様だけだからな」

 

「仕切るな、馬鹿。まぁ、言葉の内容に関しては……」

 

「同意しますわ」

 

  ……ハリベルの子分三人組は俺の前でそう啖呵を切った。字面だけ見れば、それなりにカッコいいんだが、残念ながら現在の彼女達の姿を見れば、色々と残念過ぎて涙さえ誘ってしまう。

 

「せめて、そういうのは立って言ってくれないか?それと座るならそこのソファーにでも座ってくれ」

 

「「「……はい」」」

 

  無事に破面となった彼女達三人だが、以前まで鹿、獅子、蛇という二足歩行とは縁遠い生活だったせいか、未だにまともに立てないのだ。

 

  彼女達が一体何年間中級大虚だったのかは知らないが、ハリベルによると十数年程度は一緒だったらしい。それだけの期間があれば、二足歩行を忘れるのも仕方がないといえば仕方がないか。

 

  生まれたての子鹿のような足取りでプルプルと震えながら、なんとかソファーに腰掛けた三人の前に、俺は菓子と茶を並べる。

 

「色々と聞きたい事があるんだが……まず、あのアヨンってのはなんだ?」

 

「あたしたちの左腕を使って作った化け物だ」

 

  鹿の娘、アパッチは不満そうな表情で空っぽの左袖を指差して、俺の質問に答えた。

 

「ご覧の通り、あたしたちはこんなザマなんでな。アヨンに色々やってもらうしかないんだ」

 

  獅子の娘、ミラ・ローズがアパッチの言葉に付け足す形でそう言った。

 

「まぁ、狛村さんがいなければどうにもなりませんでしたけれど……」

 

  蛇の娘、スンスンが溜め息混じりにそう言った。

 

「左陣が?どういうことだ?」

 

「アヨンは力はあるのですが、頭の方がこちらの二人同様、残念な出来でして「「スンスン、てめぇ!」」……はっきり申し上げますと、私たちの命令もロクに聞いていただけませんの」

 

  彼女は突っかかろうと立ち上がった二人が、哀れにもバランスを崩して、テーブルの上に倒れた姿を鼻で笑いながら話を続けた。中々にいい性格してるな、こいつ。

 

「ですが、狛村さんはどうやらアヨンと意思疎通できるようで、先程のように飼い主の私たちよりも上手く扱えるのですわ」

 

「犬以外の動物とも意思疎通できたんだな、左陣」

 

  と言っても、左陣は作業を終わらせてから外でアヨンの遊び相手をやっているので、今現在この部屋にはいないんだがな。ちなみに、アヨンのようなデカい獣相手にどうやって遊んでやっているのかといえば、彼は自分の斬魄刀である天譴の巨大な手やらを出現させて、荒地で遊んでやっている。

 

  ……正直、端から見れば怪獣大戦争みたいな様相だが、当の本人達が楽しんでいるのだから良しとしよう。ただ、何かの拍子で建物を全壊させないか心配だな。

 

「それはそうと、君達は事務仕事と肉体労働、どっちがいい?」

 

「「「は?」」」

 

  塩大福片手に、三人とも素っ頓狂な声を上げて、一斉に俺の方を向いた。こいつら、意外と仲良いいな、おい。

 

「いや、君たちが生活するにあたって、住居の提供に関しては面倒を見てやるが、食事と衣類に関しては流石に面倒を見かねるぞ。一応仕事の伝手はつけてやるから、方向性くらいは教えてくれ」

 

  流石に破面三人の生活費を出すというのは、俺の懐事情的にも難しい。余裕がないという訳ではないが、三人となると無理がある。特に食費がな……破面は割と燃費が悪いんだよ。

 

「ハリベル様は?」

 

「私はここで事務仕事をする事になっている」

 

  わらび餅を一人黙々と食べていたハリベルは、湯のみで茶を啜ってから、いつも通りの淡々とした口調で答えた。口元から胸の辺りまで覆っている仮面のせいで、その表情は分かりにくいが、若干目を細めているあたりわらび餅は気に入ったらしいな。

 

「じゃ、じゃあ、あたしも!」

 

「できますの?」

 

「無理だろ、アパッチ」

 

  嬉々として手を挙げたアパッチだが、同僚二名から憐れみすら感じるような視線と共に止められた。彼女も何か言い返そうとしたのだが、薄々向いていない仕事だと思っていたらしく、そのまま黙って引き下がった。

 

「その辺りは君達でどうにかしてくれ。因みに、肉体労働の方は虚の討伐とかが殆どだ。相手は色々といるが……殆どは最下級大虚くらいの相手だと考えてくれればいい」

 

  ……いつぞやの最下級大虚ではなく、トカゲ野郎とやり合ったのは事故みたいなもんだ。そんなものは、百回中一回もないような不運でしかないので無視していいだろう。

 

  それに尸魂界に来た個体程度なら、彼女達でも倒し切れずとも、倒されることはないだろうしな。

 

「もっとも、今は仕事よりもリハビリが先だろうけどな」

 

「「「……はぁ」」」

 

  三人ともそれは分かっていたらしく、ため息混じりながら頷いた。

 

「お前達、焦らずにゆっくりと慣れるといい。しばらくは私の蓄えもある、食うに困らせることはない」

 

  ハリベルが三人にそう声を掛けると、三人は目を潤ませながら彼女に礼を言った。が、ちょっと待ってくれ。

 

「ハリベル、君の蓄えってなんだ?」

 

「総隊長から頂いた、私の身体データ、研究データ、及び調査協力に関する報奨金です」

 

  彼女は三人に聞こえないように俺に耳打ちし、懐から分厚い封筒を取り出して俺に見せた。確かにハリベルとあの三人組がしばらく暮らすには、十分な額が入っているな。

 

  だが、なんというか、そういう金は万が一の時用のものじゃなかろうか?それ以前に、本来はこういうのは俺が出すもんじゃないんだろうか?

 

「ハリベル。それは君のものだ、何かあった時のためにとっておけ。流石に何年も、というのは無理だが。彼女達が普通に生活できるようになるまでくらいの額は、俺の方から支給する」

 

  ハリベルはそれを固辞したが、彼女達の所属は俺の預かりである、俺にだって男としてくだらない意地のようなものがある、というより彼女達がこうなったのは俺のせいでもある、などなどの理由を付けて納得させた。いや、納得させたというよりは半ば押し付けるような形になったんだがな……

 

  その後、菓子を食べ終えた俺たちは表で遊んでいたアヨンと左陣を呼び戻し、再び部屋の片付けに勤しむことにした。

 

 

 

 

 

 

  「こんなところか?」

 

「そうですな。これ以降は彼女達の好みの話になるでしょう」

 

  ホコリやらの汚れを落とした空き部屋に、ベッドと机、収納用の棚など最低限の家具を運び込み、作業に関してはとりあえずの終了となった。元の建物の雰囲気的に、どうにも牢屋っぽくなってしまうのは残念だが、その辺りは好みの壁紙でも貼ってどうにかしてもらうとしよう。

 

  因みに、アヨンは慣れない作業をしたせいか、ハリベルの横で死んだように眠っている。作業中に分かったのだが、あの三人組から作られただけあってか、アヨンは言葉の通じる左陣以上に、ハリベルに懐いているらしい。逆に俺に対しての対応が割と素っ気ないあたり、あの三人の意思がはっきりと出るようだ。

 

「じゃあ、アヨンを戻してもらうとするか」

 

  流石にこのまま放置しておくわけにもいかない上に、このサイズの生き物を飼うだけのスペースは、ここには無いのだ。

 

  俺が下の階にいる三人に依頼しようと、階段の方に足を向けると何かに首根っこを掴まれた。しかも、割と物凄い力で。

 

「うおっ!?」

 

  なんとか振り向くと、蛇が俺の死覇装の襟を咥えていた。その蛇を辿っていくと、どうやらその蛇はアヨンの尻尾のようだ。

 

「オッオッ……オッオッオッ!」

 

「いや、何言ってるのか全くわからんねぇ……」

 

  アヨンは物凄くウルウルした目でこっちを見て、必死に何かを訴えているのだが、残念ながら俺は左陣と違って、アヨンの言葉を理解できないのだ。

 

  左陣の方に視線をやると、彼はこちらの意を察してくれたようですぐに翻訳してくれた。

 

「ふむ、どうやら、まだ消えたくないとのことです」

 

「消えたくないとか言われてもな……とりあえず、飼い主に聞いてみるとするか」

 

  そもそもアヨンをどうにかできるのは、あの三人しかいないのだ。どのみち彼女達に相談するしかないだろう。

 

  三人は壁にもたれながら、執務室の前の廊下をウロウロと歩き回っていた。流石に独力での歩行は無理だが、この調子であれば明日には杖があれば歩けるようになるか。

 

「リハビリ中悪いが、少し質問してもいいか?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

  三人の中で、比較的俺の近くにいたスンスンが反応した。

 

「アヨンって小さくできるのか?」

 

「はぁ?……そうですわね。不可能ではないと思いますわ」

 

  どうせ無理だろうと踏んで聞いてみたので、その答えに少なからず驚いた。

 

「どの位に?」

 

「このくらいでしょうか?」

 

  スンスンは手でおおよその大きさを、俺に提示する。大きさとしては手提げ鞄程度か……

 

「じゃあ、やってくれ」

 

「それは構いませんが、一つお願いしてもよろしいですか?」

 

「なんだ?」

 

「義手を用意していただけませんか?」

 

  スンスンはウンザリしたような表情で、空っぽの左袖を指差す。そういえば、アヨンが出てると腕が使えないんだったな。

 

  となると、無理にアヨンを呼び続けるのも悪い気がするな。

 

「それはいいんだが、やっぱり不便じゃないのか?」

 

「そうでもありませんわ。私は元々腕なんてありませんでしたし、霊力も生み出す時の分以外はあの子が勝手に賄いますから、私達に負担はかかりませんから」

 

  そういや、スンスンは蛇だったな。まぁ、本人が別に構わないというのであれば、お言葉に甘えさせてもらうとしよう。

 

「それじゃ、頼む」

 

「了解しましたわ。お二人とも、よろしいですね?」

 

「おう」

 

「ああ」

 

 

  三人が左肩に手をやり、霊圧を放つと徐々に虚特有の赤い光と共に、手首の辺りまで腕が生えてきた。どうやら、再生されていない分の手首より上の部分のみに限って、アヨンの霊子に変換したままにしたのか。

 

「では、ここから先の分をお願いしますわ」

 

  彼女はプラプラと手首より先の無い左腕を俺に見せ、冗談交じりの笑みを浮かべた。

 

「分かった。後で手のサイズを測って、俺に教えてくれ。明日にでも喜助に頼んでくる」

 

  アヨンがどうなったのかを確認するため、階段に足をかけたところ、上からハリベルが降りてきた。ぬいぐるみサイズまで縮んだアヨンを抱えて。

 

「室長、アヨンが縮みました」

 

「お、おう……」

 

「アヨンの管理を任せていただけませんか?」

 

「……気に入ったのか?」

 

「……はい、フカフカです」

 

「おっ?」

 

  声も変わったのか、アヨンよ。

 

  そして、ハイライトの無い目でこっちを見るな、スンスン。

 

 




次回あたり、ちびアヨンをUPする予定です

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