どうも、護廷十三隊一番隊直轄財務監査室室長です   作:三角頭

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最近いろいろと忙しく、更新が遅れ気味なことをお詫びいたします


番犬は、もう少し可愛くてもいいんじゃないだろうか

 無事退院となり、烈さんに諸注意を受けてから病院を出ると、新しい服装に身を包んだハリベルが俺を待っていた。

 

「お待ちしておりました」

 

  口元の仮面を隠すための国の長い白のセーター。俺の死覇装と同じデザインのホットパンツとベスト。戦闘用も兼ねてのハーフフィンガーの黒いロンググローブ。……俺としては正直もう少し露出を減らしても良かったんだが、その辺りは彼女の断固とした態度でこの様な姿になった。

 

「それでは参りましょう、室長」

 

「ああ……世話をかけるな」

 

「いえ、部下として当然の事ですので、お気になさらず。お荷物、お預かり致します」

 

  では、とハリベルは、俺の荷物を持って、俺を先導する。服装に関して目を瞑れば、優秀な美人秘書といったところか。

 

「ハリベル、破面化して体に異常はないか?」

 

「お気遣い、ありがとうございます。体の端々に不足がありましたので、その誤差を修正するのに手間取りましたが、現在は修正済みです」

 

  その辺りは俺と同じか。俺の場合は破面化して鎧やらなんやらが全部無くなって、しばらくその違和感にうんざりしたな。彼女に関しては背中にあった背びれや、尻尾の様に生えていた尾ひれ部分が無くなっているので、重心やらなんやらのズレは俺より大きかったんだろう。

 

  最上級大虚は一応人型なんだが、その鎧めいた装飾やら尻尾やらは正真正銘自分の一部なので、破面化は人間で言えば体の一部が無くなってしまう感覚に近い。要は、地味に日常生活に差し障るってことだ。

 

「そりゃ結構」

 

  ……会話終了。なんだろう、ものすごく話し辛い。それほどコミュニケーション能力に自信があるわけではないが、こうも話題に詰まるというのは想定外だった。

 

  いや、俺は彼女の個人的な事を殆ど知らないので、話の振りようもないというのもあるか。

 

「こっちの生活はどうだ?」

 

「申し訳ありません。検査や手続きなどで外出する時間もありませんでしたから」

 

「そんな中、昨日はわざわざ来てくれたのか?」

 

「いえ、検査施設があの病院でしたので……」

 

  あ、ついでってことね。いや、別にそれに対して文句はないんだが、こうもハッキリ言われると凹むな。

 

  そんな風に精神的ダメージを受けながら、少しばかり彼女の言葉に引っかかりを感じた。俺がこっちに帰ってきたのは数日前、彼女はその間ずっと検査やらなんやらで自由がなかったってことか。少しばかりその事を反芻してから、財布の中身を確認する。

 

  普段から多額の金銭を持ち歩くことはしない俺だが、今の財布には特別手当やらなんやらでそれなりの額が入っている。具体的には、向こう三ヶ月収入が無くても、楽に生きていける程度にはある。

 

「ハリベル、少し寄り道をしたい」

 

「承知いたしました」

 

  彼女は俺に一礼すると、俺の後ろに付き従い、先導を俺に任せた。流石にこんな時間だ、まだ夜一さんは仕事中か捕獲されているはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  というわけで、瀞霊廷の中でも中々に有名な和菓子屋、清乃にやってきた。ここの菓子は俺も好きなのだが、夜一さん行きつけの店ということもあり、あまり近寄れないのだ。

 

「確かオススメは塩大福なんだが……ハリベル、アンコは大丈夫か?」

 

「いえ、私は結構ですので」

 

「無理なのか?」

 

「そうではありませんが……」

 

  ああ、単に遠慮しているだけか。

 

「じゃあ、遠慮はいらない。折角、こちらに来たんだ。食の楽しみくらいは知っておくといい。なんなら君への祝いの何かしらだと思ってくれ」

 

  そんな事を言いつつも、ここに来たのは、俺が甘物を食べたいというごく個人的欲求も兼ねているのだ。とはいえ、理由無く余計な出費をするというのは、なんと無く心苦しいものがあるので、こうして理屈をこねているわけだ。大義名分さえあれば、無駄な出費という罪悪感を感じることなく、自分の好きなものを好きな様に、公然と買うことができる。

 

  少なからず人間性に問題を感じる様な思考だと自覚しつつ、俺はずらりと並んだ菓子を眺める。定番どころを揃え、季節物を付け足す形がいいだろう。

 

「塩大福と豆大福、羊羹……それとところてんと蜜柑大福を。ハリベル、他に何か欲しいものはあるか?」

 

「それでは……わらび餅を」

 

「わかった。じゃあ、それも頼む」

 

「かしこまりました」

 

  注文を受けて、店員は菓子別に包装し始めた。いかんせん量が多かったせいか、しばらく時間がかかりそうだな。

 

「退院早々、女性と逢い引きですか、室長」

 

  凄まじいまでの誤解によって発せられた挨拶をされ、その誤解を解かんと振り返ると、そこには凄まじく不機嫌そうな表情の砕蜂が立っていた。まぁ、色々と突っ込みどころはあるのだが、まずは最初に浮かんだ疑問から質問するとしよう。

 

「なんで、君がここにいるんだ?」

 

「夜一様の命です」

 

「なるほど、おつかいか」

 

  ということは、今現在は机に縛り付けられて仕事をやらされてるんだろうな、夜一さん。直属の暗殺部隊に大福を買いに行かせる貴族……字面だけみれば面白いな。

 

「おつかい……色々と訂正したい箇所はありますが、置いておきましょう。室長こそ、いったい何をしているんですか?」

 

「菓子を買いに来ただけだが?」

 

「こちらの女性と二人で?」

 

「ああ、新しい俺の部下、ティア ハリベルだ。で、なんだってこっちをそんなに睨むんだ?」

 

  俺が問いかけると、彼女の表情は一層険しくなった。……どうにも、俺は地雷を踏んだみたいだな。

 

「まさか、お忘れではないでしょうね?浦原喜助を調査した事に対する報酬の件」

 

  ああ……それか。忘れていた訳ではないのだが、色々と予定が重なったり、俺が動けなくなったりで延ばし延ばしになっていたな。

 

  砕蜂はどこかで、俺が夜一さんの訓練相手になっているという噂を聞いたようで、俺を倒すことができたのであれば、夜一さんの訓練相手になれるのではないか、と考えたようだ。俺個人としては、訓練相手ではなく実験台でしかないという事を、声を大にして言いたいのだが、彼女の耳は夜一さんへの批判をシャットアウトする機能でもあるらしく、普通に無視された。

 

  で、月に一度程度の割合での手合わせを、喜助の調査の際に要求してきたのだ。しかし、俺の意図しない形で延期になっているというのが現状だ。

 

「忘れている訳じゃないんだが、俺も俺で色々と忙しかったんだ。また、近々相手してやるよ。白打に関しては当てにするなよ?どっちかというと鬼道とか剣術寄りだからな、俺」

 

「ええ、それでも構いませ……ん?」

 

  砕蜂の視線が俺の方から外れ、ハリベルに注がれた。一方、ハリベルは置物としてここにいるらしく、彼女の視線に対しては一切反応しない。

 

  しばらく無言のままハリベルを凝視し、自分の体とハリベルの体の比較を始めた。……何をやってるんだ、こいつ?

 

「あの、失礼ですが、何か格闘術かなにかを?」

 

「……?ああ、半ば我流だが」

 

  ハリベルは一瞬戸惑いを見せたが、すぐにいつもの調子で淡々と答えた。

 

「よろしければ、お手合わせ願いたいのですが?」

 

「……室長」

 

  彼女は自分の立場を鑑みて、俺に対して許可を求めてきた。そりゃ、一応の認められてこそいるものの、彼女はここでは一切の信頼を得ていない虚だ。慎重になるのも当然か。

 

「構わない。というより、白打に関してはコネホに仕込まれてる君の方が、俺より優秀だろうしな」

 

「ありがとうございます。では、必要な手続きなどが済んだら呼んでくれ」

 

「ありがとうございます」

 

  砕蜂はぺこりと頭を下げると、店員に塩大福を注文した。俺はその姿を見ながらふと、疑問に思ったことを口にした。

 

「ところで、なんでハリベルにまで敬語なんだ?」

 

  俺は権限はともかく副隊長、三席くらいの地位として扱われているので、一応は砕蜂よりは階級は上になる。形式などを重んじる彼女が俺に敬語なのは分からなくもないんだが、ハリベルは監視対象扱いで地位は砕蜂より下になるはずだ。

 

「自分より優れた方には敬意を払う、ましてそれが私と同じ女性であるならば尚更です」

 

「そういうものなのか?」

 

「そういうものです」

 

  彼女は夜一さんとそれ以外で世の中を分類していると思ってたんだが、どうにも認識を改めるべきだな。

 

「室長、そろそろ」

 

「ん?ああ、そうだな」

 

  ハリベルに急かされるような形で、俺は店を後にして我が家に帰る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?左陣はどこだ?」

 

  久方ぶりの職場に戻ってきたのはいいんだが、執務室には誰もいなかった。左陣の机を見るに、少し前まではここにいたようだ。

 

「ハリベル、なにか知らないか?」

 

「おそらく、二階ではないでしょうか?」

 

「二階?」

 

  この建物は元々懺罪宮の看守たちの宿舎だったもので、その内の部屋の幾つかを俺が使っている。二階の一室は調理用のスペースとして使っているのだが、それ以外は空き部屋しかなかったはずなんだがな。

 

「ええ、先日、私たちの部屋を作ると仰っていらしたので」

 

「ああ、片付けってことか」

 

  俺は左陣の様子を見るために、菓子を置いて、二階の様子を見に行く事にした。俺がここの住み着いてから触ってなかったので、相当に散らかっているだろうし、持ち主として多少なりとも手伝ってやらないとな。

 

「オッオッオッ」

 

「は?」

 

  えっ、なにあれ。物凄い筋肉質の化け物がベッドとテーブル抱えて、俺の目の前を通っていたんだが……なんだ、あれ。

 

「アヨンよ、そこで良い」

 

「左陣、なにあれ」

 

「おお、失礼致しました、室長。もう、よろしいのですか?」

 

  真っ先に俺の心配をしてくれるあたり、喜助をぶん殴ったのは本当だったんだろうな。

 

「ああ、それは大丈夫なんだが……こいつはなんだ?」

 

「そうですな……ここの番犬です」

 

「マジで!?」

 

「オッ?」

 

  小首を傾げても可愛くないぞ、その外見じゃ。




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