どうも、護廷十三隊一番隊直轄財務監査室室長です   作:三角頭

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過去語りは、眩しい時がある

「アンヘル、いつまで寝ているんだ」

 

「なんだって俺が事務手続きなんてやってるんだよ……」

 

  次々と机に置かれる書類を前にうなだれる俺に、容赦なく追加の書類を持ってくる狐面の最上級大虚(ヴァストローデ)がいる。夜しかない虚圏(ウェコムンド)で言うのもなんだが、ここのところ外の光を浴びることなく机に噛り付いているのだ。そろそろ休みをくれてもいいんじゃないだろうか?

 

「休んでも構わないが、貴様の言葉を信じてやってきた虚達に何と言うのか考えてから休むといい」

 

「それを言われるとな……」

 

  虚圏(ウェコムンド)は延々と殺し合いの留まることのない世界だ。そこを変えることはどうやったところで無理だ。しかし、何も知らないまま、何もできないまま、ただ生まれて死にというのは余りにも悲しい話じゃないか。そんな考えを持っていた俺は友人と呼べる虚達とある事を考えた。

 

  狩られるだけの弱い虚や、戦う事が出来なくなった虚、戦い方を知らない虚に生きていけるだけの力と知識を提供する場所を。そんな事を掲げて俺たちは虚圏(ウェコムンド)に一つのコロニーを作り、虚夜舎と名付けた。

 

  最初はごくごく小さな、創設者である友人を含めても二十名程度の小さな規模だった。しかし、虚達の中で俺たちの噂が広がり、今ではちょっとした町くらいの規模にまで拡大した。

 

  結果、それらの管理の為に発案者の俺はあらゆる事への許可を出す立場となり、食用霊蟲などの食料の配給、住居の提供、教育施設の備品、加入を希望する虚の書類、それら全てに目を通して判子を押さなければならなくなっているのだ。

 

「分かっているなら働け、怠け者め」

 

「お前は一応の上司に対して随分と酷い言い草だな、ソラ」

 

「貴様が敬意を払うに値する人物なら、それ相応の対応はするつもりだ。それとも貴様は、社会的地位を振りかざしていれば、無条件に敬意を払ってもらえると思っているのか、うつけ者め」

 

  つまり、俺は値しないと……いつもながらこいつは他人に対して、いや、俺に対して極端に当たりがキツいな。こう、親しき中にも礼儀あり的な言葉を知らないんだろうか?

 

「知らんな。親しいとはどういう意味だ?どういう文字を書けばいい?」

 

「心を読むなよ……」

 

  ソラは霊圧やらの感知能力が異常に高いのか、擬似的な読心能力を持っている。中級大虚(アジューカス)時代は感情を読み取る程度の能力だったが、最上級大虚(ヴァストローデ)となった今では思考の内容を完全に読み取る域の到達していた。

 

「貴様の心が極端に読みやすすぎるだけだ。貴様は自分の霊圧を隠す努力をしろ、愚か者め」

 

  今日も部下の毒舌は絶好調です。我ながら、よく百年以上付き合いを続けているものだ。しかし、逆に考えてみよう。こんな口の悪い奴と付き合えるのは、いくら世界広しと言えど俺くらいのものだろう。そう考えると、俺が付き合いを止めてしまったら、意外とこいつも寂しいやつなのかもしれないな。

 

「ほう、無駄口を叩く余裕があるとは結構。ちょうど、こちらに回ってきた監査関係に引っかかった書類があってな、その辺りも引き受けるといい」

 

「ちょ、ちょっと、ソラさん?俺が死んじゃいますよ?そして、口には出してないですよ?」

 

「なに、貴様のしぶとさに関しては太鼓判を押しているのだ。少なくとも死ぬことはない。存分に苦しめ」

 

「お前、俺に恨みでもあるのか?」

 

「いや、これが仕事なだけだ」

 

「俺を罵倒するのが仕事なのか?」

 

「違うぞ、貴様を躾けるのが仕事だ」

 

「俺は家畜扱いなのか……」

 

「………………」

 

「否定は無しかっ!?」

 

  俺の友人は鬼らしいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……引退したら、もう二度とデスクワークなんてしねぇ」

 

「わぁ、随分と疲れきった様子じゃありませんかっ!」

 

  何とか一時間の休憩をソラから勝ち取った俺は、気分転換の為に職場の近くの広場で伸びていると、ウサギ面の小柄な最上級大虚(ヴァストローデ)が俺の腹の上に乗ってきた。

 

「疲れてると分かるなら退いてくれ、コネホ」

 

「あらら、可愛い女の子に乗られるというハッピーな状況に対して、酷い言い草ではありませんかっ!」

 

  彼女は二本の長い耳をピクピクと動かして、俺の言葉に対して抗議する。

 

「少なくとも子は無理だろ。お前、俺とそんなに変わらないだろ、年齢」

 

「およよ、女性に対して年齢の話はNGなのをご存知ないのですかっ!」

 

  どうして休みたい時に限って、こんな喧しい奴と遭遇するんだ。そして、払いのけようにも近接戦闘の達人であり、虚夜舎の戦闘面での教師でもあるこいつは、下にいる俺が飛んでも跳ねてもピクリとも動きやしない。一体、どんな体幹しているんだ?

 

「というか、仕事はどうした仕事は」

 

「おや、お仕事のし過ぎでボケてしまいましたかっ?今は昼休みの時間ではないですかっ!」

 

  あ、ソラが休憩をくれたのは俺が頑張って説得したからじゃなくて、単に昼休みになっただけなのか。……つまり、昼休みが来なければ休みは貰えなかったってことか。

 

「まぁ、オチはそんなもんか。ところで、今期の虚達で優秀そうなやつはいたか?」

 

「当たり前じゃないですかっ!特に皆さん、やる気があって私としても嬉しい限りなのですよっ!特に鮫型の中級大虚(アジューカス)の女の子が優秀なのですよっ!」

 

「そりゃ結構。皮を剥がれないように気をつけろよ」

 

「日本神話ですね、博識じゃありませんかっ!」

 

「はいはい……いい加減、重いんだが」

 

「その言葉には色々と言いたいですが、のいてあげるとしましょうかっ!」

 

  彼女は俺に衝撃を感じさせることなく俺の上から飛び退き、空中でクルクルと回転してからドヤ顏で着地した。相変わらず、こいつの身体能力はどうなっているのか理解不能だな。

 

  というより、コネホと手合わせして彼女に触れることのできた奴はソラだけだったな。リンセと俺に関しては触れる事が出来ない代わり、全てを受け切るって事で引き分けだったか……

 

「そういや、リンセは何処に行ったんだ?」

 

「さぁ、リンセさんの動向なんて私が知るわけないじゃないですかっ!」

 

「そういやお前はリンセが苦手だったな」

 

  まぁ、理論型のリンセと直感型のコネホじゃ相性的に合わないのは当然か。しかし、いつも最終的に辿り着く結論やらは二人とも全く同じというのは、一体何の皮肉なんだろうな。

 

「お説教の長いリンセさんが悪いのではないですかっ!」

 

「ソラよりマシだ」

 

「ソラさんのあれは、アンヘルさん限定の挨拶みたいなものですよっ!」

 

「そんな特別扱いなんていらねぇ……」

 

「愛の鞭ですよっ!」

 

「勘弁してくれ。あいつのあれは鞭じゃねぇよ、棍棒かなにかだ」

 

「おやおや、愛の部分は否定しないのですかっ!?」

 

「実際、ソラの言葉は間違ってないからな。あいつもこっちに不手際が無ければ暴言を吐かないさ」

 

「……本心から言えますかっ?」

 

「ああ、多分……きっと……」

 

「ダメダメじゃないですかっ!」

 

  正直、記憶を辿れば辿るほど、暴言の六割くらいはあいつの趣味で言ってるような気がしてきた。あれ、おかしいな目から汗が……

 

「まぁ、そんなことは置いておくとしましょうかっ!」

 

「そんなこと扱いで流されるのか!?」

 

「たまにはアンヘルさんも教師として働くのはいかがでしょうかっ?」

 

「は?おい、それは俺が過労死するパターンじゃないか」

 

「仮にも虚の組織のトップに立つ人物でしたら、たまにはご自身の力を示すという事も必要なのですよっ!」

 

「聞けよ、人の話」

 

  どうして俺の周囲には俺の話を聞かないやつばかりなんだ?……いや、ソラの場合は聞いた上で無視するタイプか。

 

  そんな風に一人凹んでいると、一瞬だけ地面の揺れを感じた。この揺れはコロニー内での衝撃じゃない、外側でなにか起きたのか?

 

「今日の当番はリンセだったな」

 

「となると私達の出番は無しですかっ!」

 

「だな」

 

  虚圏(ウェコムンド)で一番大きな勢力の主であり、実質的な虚圏(ウェコムンド)の支配者であるバラガン ルイゼンバーンはどうにの虚夜舎の存在が気に食わないらしき、定期的に軍隊を送りつけてくる。それに対処するために俺、ソラ、コネホ、リンセの四人は日替わりで虚夜舎の周りを見張っている。で、この揺れは今日の見張り役のリンセの虚閃によるものだ。

 

「それにしても不幸だな。よりにもよってリンセの日に来るってのは」

 

「それには同意しますよっ!」

 

  虚夜舎にいる最上級大虚(ヴァストローデ)は俺、ソラ、コネホ、リンセの四人で、各々が特定の能力に特化している。俺は突破力、ソラは探知能力、コネホは格闘能力、そしてリンセは狙撃能力だ。

 

  リンセ以外の俺を含めた三人は手段はどうあれ、最終的には近付いてから相手を倒すこともあって、何匹か撤退する虚に対しては討ち漏らしがでる。しかし、リンセに関しては一匹たりとも逃す事なく、全てを虚夜舎の半径2km以内に入る前に額を撃ち抜いているのだ。

 

「射程がおかしいんだよ、あいつ」

 

「確か10kmまでは確実にヘッドショット可能でしたかっ?単なる虚閃とはいえ、私でも当たれば痛いのですよっ!」

 

「あれを単なる虚閃扱いするお前も大概だがな」

 

  最下級大虚であれば首から上が吹き飛び、中級大虚(アジューカス)でも貫通、最上級大虚(ヴァストローデ)でも重傷になりかねない威力の虚閃だ。それを正面から受けて痛い扱いするコネホも大概なんじゃないだろうか?

 

「というか、兎ってか弱い生き物じゃないのか?その辺り、お前の仮面と一致しなさ過ぎるんじゃないか?」

 

 少なくとも俺の知る兎は相手に足払いをかけ、相手が宙に浮いた一瞬を蹴りで撃ち抜くなんて真似はしない動物なんだがな。

 

「ええ、私はか弱い女の子じゃないですかっ!」

 

「お前が?か弱い?寝ぼけてんのか?」

 

「喧嘩なら買いますよっ!」

 

「 いくらで?」

 

「298円くらいですよっ!」

 

「えらく買い叩かれたもんだ」

 

  そんな茶番をしている内にコネホは生徒に呼ばれ、俺はソラに捕まり、各々の職場に戻された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソラ、コネホが俺に授業をやらせるなんて言っていたんだが、ありゃなんだ?」

 

  仕事がようやく区切りを迎えた頃、昼間……というのも虚圏(ウェコムンド)でいうのもおかしな話だが、昼間にコネホから言われていた事を聞いてみた。

 

「あれか。コネホは明日の見張り役でな、その分の授業を貴様が代理として担当するという話だ」

 

「じゃあ、明日の俺の仕事は……」

 

「それは貴様の分だ。他の者の業務であれば兎も角、貴様に関しては免除などあるものか、戯け者め」

 

「聞いた俺が馬鹿だったよ。だが、代理といっても俺は何をすればいい?」

 

「簡単だ。千人抜きをやれ」

 

  ……は?千人抜きって、俺一人で千人相手にやり合えってことか?

 

「安心しろ、千人が同時に襲いかかるわけじゃない。十人グループと百回戦うだけだ」

 

「百回ねぇ……」

 

「それに貴様が退屈せんように、中級大虚(アジューカス)の参加も認めている。存分に楽しむがいい」

 

「ソラ、お前、やっぱり俺の事嫌いだろ?」

 

「いやいや、それはないよ」

 

  ソラの後ろから不意に声が聞こえた。同時にソラは霊圧を込めた爪を、躊躇うことなく声の主に振るった。

 

  しかし、声の主は背中に背負っていたライフルでそれを受け止め、やれやれといった様子で弾き返す。ソラはそれに対して忌々しそうに舌打ちをするが、それ以上の手出しをしようとはしない。

 

「リンセ、貴様は見張り役の筈だが?」

 

「40km先まで観測したが、敵の姿はない。少なくともしばらくは大丈夫だ、私が保証する」

 

リンセと呼ばれた山猫の面を被った最上級大虚は肩をすくめて答えた。

 

「ほう、職務怠慢に対する言い訳か、それが」

 

「やめろ、ソラ」

 

  俺は爪ではなく尾に霊圧を込めはじめたソラを制し、リンセの方を向く。

 

「で、リンセ。さっきの言葉はどういう意味だ?」

 

「言葉通りの意味さ。態度はどうあれ、僕ら三人の最上級大虚(ヴァストローデ)は君を認めているんだ。その中でもソラ君は特に君を……」

 

「虚閃」

 

 とりあえずソラが虚閃のおかげで、俺の執務室が消し飛び、一日かけて完成させた書類が焼け落ちたという事だけは言っておこう。

 

 




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