「『セイクリッド・ブレイクスペル』!」
そのアクアの一言で、ダクネスの身体から魔法は消え去った。
それから一週間たったギルドの酒場。
「クエストよ!キツくてもいいからクエストを受けましょう!」
「「「えー……」」」
アクアの台詞に、和真、めぐみん、モミジがドン引きした。それはもちろん、全員ある程度金があるからだ。無理して高難易度のクエストをやる必要はない。
「私は構わないが……」
ダクネスが呟くが、他の3人はノリ気じゃない。そんな様子を見て、アクアが泣き出した。
「お、お願いよおおおおおお!もうバイトばかりするのは嫌なのよ!コロッケが売れ残ると店長が怒るの!頑張るから!今回は私、全力で頑張るからぁっ‼︎」
「うるさい、ほれっ」
喧しそうにモミジが金を一枚放った。
「ワン!」
それを犬の真似事までして追うアクア。和真が割と本気でドン引きしたように声を出した。
「おい、いいのか元女神。そんな事で本当にいいのか元女神」
「もう、女神だなんだとつまらないプライドを言ってる場合じゃないわ!」
「自分の職をつまらないプライドと言ったよ」
「今は一銭も捨てられない状況なの!お願い助けてよぉ!」
「ほいっ」
「ワン!」
「おい、モミジもやめろ……」
そこを注意しておいてから、和真がモミジに言った。
「しょうがねぇなぁ……。じゃあ、ちょっと良さそうだと思うクエストを見つけて来いよ。悪くないのがあったら付いてってやるから」
アクアは言われるがまま、クエスト掲示板へと駆け出す。
「………あの、一応モミジも見て来てくれませんか?アクアに任せておくと、とんでもないもの持って来そうなので……」
「………うい」
めぐみんに言われ、短く返事をすると、モミジはアクアの後ろに向かった。
アクアは真剣な表情で掲示板のクエストを眺めると、一枚の紙を手に取った。
「…………よし」
「死ね」
直後、後ろからモミジがアクアの後頭部を掴んで掲示板に叩きつけた。
「おーいこれの何処が楽そうなんだ?マンティコアとグリフォンの縄張り争いの中に紛争根絶ってお前、バカなの?死ぬの?」
「いったいわね!女神である前に女の子の私に何すんのよ!」
「俺は男女平等主義なんだよ。良くも悪くも」
「良いじゃない!2匹まとまってるとこにめぐみんが爆裂魔法食らわせれば一撃じゃないの!」
「ザ・人任せだな。ならお前とめぐみんだけで行って来いよ」
「…………ごめん」
改めて選び直すアクア。すると、またまた何かを見つけたのか、「あっ」と声を漏らした。
「ちょっと、これこれ!これ見なさいよ!」
アクアの指差す依頼書を見た。それは湖の浄化の依頼だった。
「………お前、湖の浄化なんて出来んの?」
「バカね、私を誰だと思ってんの?」
「ゴミ」
「せめて生物にしなさいよ!」
「馬鹿」
「馬と鹿だけど意味的に違うじゃない!」
「………ちなみに、その浄化はどれくらい掛かるの?」
「半日くらい?私なら水に触れてるだけで水を癒せるんだけど……その間にモンスターが出て来るから、守ってほしいなーなんて……」
「………。ちと待ってろ」
と、いうわけでモミジは一度全員の元に戻った。しばらく話して許可を得ると、戻って来た。
「じゃ、行くか」
「ほんと⁉︎」
「ただし、和真の作戦通りにな」
「分かったわ!…………えっ?」
嫌な予感のするアクアだった。
×××
そんなわけで、アクアを檻に閉じ込めて湖の中に放り込んだ。体育座りして檻の中で退屈そうにパシャパシャするアクアから結構離れた場所で、残りの四人は大富豪をしながら待機していた。
「3」
「5スキ」
「激しば」
「パース」
「私も」
「7渡しっ」
「バッカお前いらねーよこれ。8切り」
盛り上がってるその様子を檻の中から見ているアクアは思わず呟いた。
「………………いいなぁ」
その直後だ。いつの間にか、紫色のデッカいワニの群れが、檻の周りを囲んでいることに気付いた。
「! カ、カズマー!なんか来た!ねぇ、なんかいっぱい来たわ!」
が、四人とも気付かずにトランプ大会に夢中だ。
ー浄化開始から四時間ー
四人が気が付いた時には、アクアは一心不乱に浄化魔法を唱えまくっていた。
「『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』ッッ!」
檻をワニ達がガジガジと噛んでいた。
「『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』!ギシギシ言ってる!オリが変な音立ててるんですけど!」
その様子を見て、流石に気の毒に思ったのか、和真が言った。
「………おいモミジ。念の為になんか方法あるんだろ?助けてやれよ」
「了解」
短く返事をすると、モミジは石を湖に投げた。直後、ダクネスの肩に手を置いた。
「へっ?」
「クイックトレード」
直後、石とダクネスが入れ替わった。
「えっ」
ドッボーン☆と水飛沫を上げて沈むダクネス。直後、ワニ達がダクネスを睨んだ。
「お、おいモミジ!何のつもりだ!」
「逃げろよー!」
「へっ?」
ワニ達のうちの数匹は、檻を諦めてダクネスを追いかけまわしている。
「うおおおおおおおお‼︎」
慌てて逃げるダクネスを見て、めぐみんが和真にいった。
「………鬼ですか」
「おーいダクネスー!どうだ!嬉しいか⁉︎」
「感謝するー!」
「………だってよ」
「モミジは優しいデスネ(棒読み)」
「ていうかこっちのワニ全部は消えてないんですけどー!」
ー七時間後ー
クイックトレードによって、ダクネスと檻は回収された。湖は綺麗になり、魚も何匹か泳いでいる。ダクネスは頬を赤く染めて、興奮した眼差しでモミジを見ていた。
「ああ!ありがとうモミジ!最高だった!」
「誰も聞いてねぇから。次口開いたらスカイダイビングな」
「ああっ!そんな……!」
ダクネスの姿は消え、上空に投げ出されていた。一方、アクアの方は、意外にも涙は流していなかった。代わりに、何やら負のオーラのような物が溢れ出ていた。
「おーいアクア。お疲れ。帰るぞ」
「みんなで話し合ったのですが、今回の報酬は全部アクアのものですよ!」
「だからいい加減檻から出ろよ。もうアリゲーターはいないから」
和真とめぐみんが必死に言うと、アクアから小さくて虚ろな声が聞こえた。
「………まま連れてって……」
「なんだって?」
「………檻の外の世界は怖いから、このまま街まで連れてって」
トラウマが刻まれていた。