と、いうわけで、しばらくはそれぞれのやりたい事をする事となった。アクアはバイト、ダクネスは実家で筋トレ、することのない和真、モミジは、めぐみんと一緒に交代で爆裂魔法の練習に向かった。
今日はじゃんけんで負けて、モミジの日。
「早くもうその辺で撃っちゃえよ」
「ダメなのです。街から離れたところじゃないと、また守衛さんに叱られます」
「………なに、お前もしかして前も同じことしてて怒られたのか」
「…………はい」
それを聞いて、ため息をつくモミジ。
「……あっ、そうだ」
「どうしました?」
「俺、良い練習の的知ってるぞ」
「ほ、ホントですか⁉︎」
「ああ、ついて来いよ」
二人して移動した先は、古城だった。遠く離れた丘の上にある古城が見える道。
「ほら、アレだ」
「おお!ほんとです!良い的です!」
「あれに撃てばいいんじゃね?」
「そうですね、ありがとうございます!では、いきます!」
それから、その場所に和真と代わり番こでめぐみんと爆裂魔法の練習を始めた。
×××
それから一週間が経った日の朝。
『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってください!』
街中にギルドのお姉さんのアナウンスが響き渡った。全員、言われるがまま正門に集まると、呆然と立ち尽くした。
目の前にいたのはデュラハン、首無し騎士が首のない馬に乗って立っていた。
「! あれは……!」
「デュラハン……?」
「なんでこんなところに……!」
冒険者達が騒然とする中、首の無い騎士は、小脇に抱えた自分の首からくぐもった声を漏らした。
「……俺は、つい先日、この近くの城に越してきた魔王軍の幹部の者だが……」
怒りに震え、プルプルと小刻みに震えつつ、デュラハンは言った。
「まままま、毎日毎日毎日毎日っ‼︎おお、俺の城に、毎日欠かさず爆裂魔法撃ち込んでく頭のおかしい大馬鹿は、誰だああああああーッ‼︎」
魔王の幹部は、それはもうお怒りだった。今まで律儀にも我慢してたのだろうが、それがとうとう爆発したのだろう。
冒険者達の間で「爆裂魔法?」「爆裂魔法使えるやつっていえば……」みたいな囁き声が聞こえ、その視線はやがて一か所に集まった。言うまでもなく、めぐみんの所である。
するとめぐみんは、視線をふいっと逸らし、別の魔法使いの子を見た。それにつられて、全員そっちを見る。
「ええっ⁉︎あ、あたしっ⁉︎なんであたしが見られてんのっ⁉︎爆裂魔法なんて使えないよっ!」
突然、濡れ衣をなすりつけられ、慌てる魔法使い。が、そんなの気にならないほど、和真は大量の汗を流していた。めぐみんもだ。毎日練習台にしていた古城、あれがデュラハンの城だとしたら……。
そこで、和真はハッとする。練習台に丁度いいと言った奴がいるはずだ。隣のモミジをギロリと睨むと、モミジは言った。
「あーあ……やっぱ仕留められてなかったかー」
「てめええええ‼︎やっぱ気付いてやがったなああああ‼︎」
「当たり前だろ。つーかお前ら気付いてなかったのか」
「何でだよ!何で⁉︎何でそんな事したの⁉︎」
「練習になるついでにあれ仕留めてくれれば一石二鳥やん」
「『やん』じゃねぇよ!どうすんだよお前あれ!」
「まぁ、こうなった以上、責任は取るよ。すいませーん、通りまーす」
人の群れの中を通って、モミジがデュラハンの前に出た。
「お前が……!お前が毎日毎日俺の城に爆裂魔法……!」
「クイックトレード!」
「えっ」
直後、デュラハンの首と石が入れ替わった。首を手に入れたモミジは、手元でポーンポーンと取ってはキャッチする。そして、手元のデュラハンと目を合わせた。
「………………」
「………………」
直後、モミジがニヤリと口を歪ませた。完全に悪役の顔である。
「アタックバァァァァァストレベル5ゥウウウウ‼︎」
自分の攻撃力を底上げすると、首を思いっきり蹴り上げた。
「ああああ!ちょっおおおおお!やめてー!何やってんのてかマジやめてええええ‼︎」
「ィヤッフゥウウウウウウ‼︎」
「ああああ‼︎悪かった!俺が悪かったからマジやめてええええ‼︎」
頭を蹴りまくり悪い笑顔を浮かべながら遊ぶモミジ。それを後ろから和真が止めた。
「やめろ」
「いだっ!な、何すんだよ!」
「なんか可哀想だろデュラハンの人が。今回は完全にこっちに非があるし……」
そこで言葉を切ると、モミジの耳元で小声で言った。
「見ろ、後ろの冒険者達を……」
「あ?」
「なんかみんなお前の事睨んでるぞ」
「なんでだよ。俺今魔王の幹部を一人倒しそうなんだぞ」
「頼む。これ以上、俺たちのパーティの評判を下げないでくれ」
「……………」
すると、モミジは頭を持って、パッパッと土を払うと、胴体に返した。
「あの、すいませんした。なるべく、爆裂魔法は控えさせますので」
「……い、いや、俺も悪かった……」
何も悪くないのに謝るデュラハン。完全にモミジにビビっている。
「そ、その……もう帰るから」
「じゃ、ごめんね」
そう和解して、デュラハンが帰ろうとした時だ。
「『ターンアンデッド』!」
後ろからアクアが魔法を放った。
「ウグオアア!な、何をする!」
「「オイッ‼︎」」
モミジと和真がアクアに怒鳴った。
「チャンスよ二人とも!ここでデュラハンを倒せば私達のパーティにお金が入るわ!」
「お前話の流れ追えよ!」
「今、和解しかけた所だろうが!」
すると、デュラハンがさっきより怒りのオーラを濃くして、アクアを睨んだ。
「貴様ァ……!帰ろうとしたところを狙うなんて!お前らさっきから本当に冒険者か⁉︎」
「敵は倒せる時に倒すのよ!さぁ、行くわよ二人とも……」
「クイックトレード」
モミジがアクアとデュラハンの前に落ちてる石と交換した。
「キャッ!ち、ちょっとモミジ!何するのよ!」
だが、和真もモミジもそれを無視して冒険者の輪の中に戻っていく。
「ち、ちょっと!置いてかないでよー!」
手を伸ばすアクア。すると、真後ろのデュラハンからドス黒いオーラを感じた。
「あっ……」
「ほう……一人で挑んで来るか……!」
「あっ……ま、待って!お願いだから待って!二人ともぉ〜‼︎」
「その度胸に免じて、一週間だけ貴様に猶予をやろう」
「ないから!私に度胸なんてないから!」
「汝に死の宣告を!」
直後、デュラハンの手から黒い呪いが出て来た。それがアクアに迫る。だが、その前にダクネスが立ちふさがった。
「なっ⁉︎だ、ダクネス⁉︎」
アクアが声を漏らした。ダクネスに死の宣告が掛かる。
「その呪いは今はなんともない。が、そのクルセイダーは一週間後に死ぬ。フハハハハ!」
デュラハンの言葉に全員が青ざめる中、ダクネスが叫んだ。
「な、なんてことだ!つまり貴様は、この私に死の呪いをかけ、呪いを解いてほしくら俺の言うことを聞けと!つまりはそういう事なのか!」
「えっ」
「ど、どうしようカズマ!見るがいいあのデュラハンの兜の下のいやらしい目を!あれは私をこのまま城へ連れて帰り、呪いを解いて欲しくば黙って言うことを聞けと、凄まじいハードコア変態プレイを要求する変質者の目だ!」
「………えっ」
「この体は好きにできても心までは自由にできるとは思うなよ!城に囚われ、魔王の手先に理不尽な要求をされる女騎士とか!ああどうしようカズマ!予想外に燃えるシチュエーションだ!」
「やめろ!デュラハンの人が困ってるだろ!」
慌てて和真がダクネスの前に戻った。ちなみにモミジは冒険者の群れの中に戻って他人のフリ。
すると、ようやくデュラハンの人が戻って来た。
「と、とにかく!これに懲りたら俺の城に爆裂魔法放つのはやめろ!そこのクルセイダーの呪いを解いてほしくば、俺の城に来い!じゃあな!」
デュラハンの人は帰って行った。