パンツとマントを強奪したバカ二人は頬にでっかい紅葉を付けてギルドに戻って来た。後ろからは涙目のクリスと、それを羨ましそうに見てるダクネスがついて来ている。
ギルドの酒場は大変な騒ぎになっていた。
「アクア様、もう一度!金なら払うので、どうかもう一度《花鳥風月》を!」
「ばっか野郎、アクアさんには金より食い物だ!ですよね⁉︎アクアさん!奢りますから、ぜひもう一度《花鳥風月》を!」
「芸ってものはね?請われたからって何度もやるものではないの!良いジョークは一度きりに限るって、偉い人が言ってたわ。そして私は芸人じゃないから、芸でお金を取るわけにはいかないの!」
男達に囲まれて、なぜか嬉しそうにアクアはそう返した。すると、「あっ」と和真に気付く。
「やっと戻ってきたわね。あんたのおかげでえらいことに……って、その人どうしたの?」
アクアの視線の先には涙目のクリスがいる。何か男二人が言う前に、ダクネスが言った。
「うむ、クリスはカズマとモミジにパンツとマントを剥がれた上に引っ叩いた慰謝料で何故かあり金も毟られて落ち込んでいるんだ」
「おいあんたなに口走ってんだ!待てよ、おい待て。間違ってないけど本当待て」
「公の場でいきなりパンツ脱がされたからって、いつまでもメソメソしててもしょうがないね!よし、ダクネス。あたし、悪いけど臨時で稼ぎのいいダンジョン探索に参加してくるよ!下着を人質にされてあり金失っちゃったしね」
「おいまてよ、なんかすでにアクアとめぐみん以外の女性冒険者達の目まで冷たいものになってるから本当待て」
だが、クリスは行ってしまっている。弁明のしようがなかった。すると、めぐみんも和真達に合流する。
「で、どんなスキル覚えたのですか?」
「ふふ、まあ見てろよ?行くぜ、『スティール』ッ!」
奪ったのはやはりパンツだった。
「……なんですか?レベル上がってステータス上がったから冒険者から変態にジョブチェンジしたんですか?……あの、スースーするのでパンツ返して下さい……」
「あ、あれっ⁉︎お、おかしーな、こんなはずじゃ……。ランダムで何かを奪い取るってスキルのはずなのにっ!」
慌ててパンツを返す和真。その直後、いきなりダクネスが立ち上がった。
「やはり、やはり私の目に狂いはなかった!こんな公衆の面前で幼気な少女の下着を剝ぎ取るなんて!」
「……おいモミジ。お前ドSだろ。なんとかしろよこのマゾ」
「ぶってくださいって言ってるやつぶって何が楽しいんだよ。趣味じゃねぇ」
「……お前も偉く歪んでるな」
すると、アクアとめぐみんが聞いた。
「ねえカズマ、この人誰?昨日言ってた、私とめぐみんがお風呂に行ってる間に面接に来たって人?」
「ちょっと、この方クルセイダーではないですか。いつの間にこんな人仲間に加えたのですか?」
「昨日な。壁役にはもってこいの性癖してたから仲間にした。ダクネスだ」
そう説明した時だ。ギルド内のスピーカーから大声が聞こえた。
『緊急クエスト!緊急クエスト!街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!』
「な、なんだ?おい、緊急クエストってなんだ?」
「キャベツの収穫だよ」
「………は?キャベツ?」
しれっと答えるモミジに、思わず和真が聞き返した。
「キャベツって、モンスターの名前か何かか?」
「ちげーよバカ死ねば?」
「キャベツとは、緑色の丸いやつです。食べられるものです」
「噛むとシャキシャキする歯ごたえの、美味しい食べ物だ」
冷静にめぐみんとダクネスに言われ、冷酷にモミジから死の宣告を食らった和真は言い返す。
「そんなこと知っとる!じゃあ何か?緊急クエストだの騒いで、冒険者に農家の手伝いさせようってのか、このギルドの連中は?」
「あー………。カズマは知らないんでしょうけどね?ええっと、この世界のキャベツは………」
アクアが申し訳なさそうに言いかけるが、その前にギルドの職員が大声で説明した。
「皆さん、突然のお呼び出しすいません!今年もキャベツの収穫時期がやって参りました!今年のキャベツはできがよく、一玉につき一万エリスです!ではみなさん、できるだけ多くのキャベツを捕まえ、ここに収めてください!なお、人数が人数なので、報酬の支払いは後日まとめてとなります」
そんなわけで、全冒険者は街の外に出た。向かってくるたくさんのキャベツ。
イマイチ、モチベーションの上がらない和真は、モミジに言った。
「なぁ、モミジ。帰ろうぜ?帰って大人しく大富豪やろうぜ?」
「はぁ?お前馬鹿なの?死ぬの?」
「いや、この街のテンションが馬鹿だろ。死んでるだろ」
「一玉一万だぞ?そりゃ本気も出すだろ。それよりお前、協力しろ」
「協力、ねぇ……。何すりゃいんだよ」
「お前は他の冒険者の気を引け。俺が後ろから殴ってキャベツを奪う」
「オイ!強盗だろうがそれ!」
「違う、弱菜強食だ。自然の摂理だ」
「そんな健康的な自然聞いたことねぇよ!」
が、和真のツッコミなど無視して、モミジは強盗に行った。一人にドロップキックした。それがアクアだった。殴り合いが始まった。もう無視することにした。
×××
ギルド。そこで出されたキャベツ炒めを和真は口に入れた。
「何故たかがキャベツの野菜炒めがこんなに美味いんだ。納得いかねえ、本当に納得いかねえ」
「納得いかねぇのはこっちだっつの。なんで他人のキャベツ奪った上にボコボコにブン殴っただけで報酬お預けにされなきゃいけねんだ」
「いやそれは納得しとけよ」
無事にキャベツ狩りを終えた五人は、振舞われているキャベツをいただいていた。
「しかし、やるわねダクネス!あなたさすがクルセイダーね!あの鉄壁の守りにはさすがのキャベツ達も攻めあぐねていたわ」
「いや、私など、ただの硬いだけの女だ。その点、めぐみんは凄まじかった。あのキャベツの群れを爆裂魔法一撃で吹き飛ばしていたではないか」
「ふふ、我が必殺の爆裂魔法の前において、何者も抗うことなど叶わず……それよりもカズマの活躍こそ目ざましかったです。潜伏スキルで気配を消して、敵感知で素早くキャベツの動きを細くし、背後からスティールで強襲するその姿は、まるで鮮やかな暗殺者のごとしです」
で、四人はモミジを見た。「で?お前は何してたの?」みたいな。
「な、なんだよ!俺だってキャベツを獲った量は多いんだぞ」
「他人の物でしょ」
「人としてないな」
「最低です」
女子3人に心をボコボコに抉られ、モミジはガクッと項垂れた。
で、ダクネスが改めて自己紹介した。
「では、名はダクネス。職業はクルセイダーだ。一応両手剣を使ってはいるが、戦力としては期待しないでくれ。なにせ、不器用過ぎて攻撃がほとんど当たらん。だが、壁になるのは大得意だ。よろしく頼む」
それを聞いて、アクアが満足そうに微笑んだ。
「……ふふん、うちのパーティーもなかなか、豪華な顔ぶれになってきたじゃない。アークプリーストの私とモミジ、アークウィザードのめぐみん。そしてクルセイダーのダクネス。5人中4人が上級職なんてパーティー、そうそうないわよカズマ?あなたすごくついてるわよ?」
殴りたい……と和真は思うしかなかった。だってほとんどの奴らが使えないからだ。上級職のうちの外れ枠を引いたとしか思えなかった。
「それではカズマ、たぶん……いや間違いなく足を引っ張ることになると思うが、その時は遠慮なく強めで罵ってくれ。これからよろしく頼む」
「モミジ、このマゾ罵るの頼む」
「だから趣味じゃねっての。それに俺にはめぐみんがいる」
「………は?」
「…………ん?」
「…………え?」
「……………ふぇっ⁉︎」
突然、告白紛いのことを言われ、四人とも反応した。そして、めぐみんがモミジの胸ぐらを掴んだ。
「もっ、もももモミジ⁉︎いっ、一体にゃにゃにゃにゃにを言ってるのですが⁉︎」
「は?何が?俺はお前が一番いじめがいがあるって言ってんの」
「……………」
「……………」
「………そういう意味ですか」
「………他にどんな意味が……?」
「………ねぇ、カズマ。撃っていいですか?撃っていいですか?」
「今はやめろ、俺たちもいるから」
「おい!俺だけなら撃っていいのかよ‼︎」
「「「いい」」」
満場一致で言われ、モミジは肩を落とした。