数日後、和真が絡んできた男に聞き返した。
「おい、もう一度言ってみろ」
その男はニヤニヤとほくそ笑みながら言い返した。
「何度だって言ってやるよ。荷物持ちの仕事だと?上級職が揃ったパーティーにいながら、もう少しマシな仕事に挑戦できないのかよ?大方お前があしをひっぱむてるんだろ?なあ、最弱職さんよ」
和真は我慢した。何も言い返さないように。他の街からやって来た戦士風の冒険者達が、モミジ不在の和真のパーティを見て難癖付けてきたのだ。
和真はなんとか無視しようとしたが、さらに追い討ちをかけて来る。
「おいおい、何か言い返せよ最弱職。ったく、いい女を3人も引き連れて、ハーレム気取りか?しかも全員上級職ときてやがる。さぞかし毎日、この姉ちゃんたち相手にいい思いしてんだろうなぁ?」
それを受け、ギルド内に爆笑が巻き起こった。以前の和真達の活躍を知る者の中には、注意する奴らもいた。それを見れば和真はなんとか我慢出来た。
その時だ。
「うぃーっす、悪い遅れた和真。あれ?何この騒ぎ」
我慢を知らない馬鹿、モミジが現れた。それを見て、男はさらにほくそ笑んだ。
「おいおい、今度はアークプリーストかよ。本当に恵まれてんだな冒険者」
「カズマ、喧嘩?どいつを殺せばいいの?」
「いや、喧嘩って程じゃない。ただ、俺たちが荷物持ちのクエストを受けようとしたら、上級職のメンバーがいるのに情けないだのなんだの難癖付けてきたんだよ」
「ふぅーん………」
しばらく考え込んだ後、モミジは絡んで来た連中に言った。
「そうだ、なら入れかわればいいじゃん」
その一言に、その場にいる全員が「は?」といった顔をする。和真と絡んで来た男を除いて。
「おお、それいいなモミジ!」
「そうだな!名案だぜあんた!」
その二人の言葉に、他の全員はまた「は?」といった顔を浮かべた。
「そういうわけだアクア!今日1日俺はこっちの方々と一緒に行く!」
「悪いなテイラー!俺もしばらくこっちに行くわ!」
そう言って、二人は入れ替わった。ちなみに、モミジはさりげなくフェードアウトした。
×××
あの後、入れ替わったダストという男は本気で和真とパーティメンバーに謝ったそうだ。一方の和真は、ようやく冒険者らしい冒険ができてとても満足したそうだ。
それから数日。和真とアクアがダンジョンに入って、リッチーを浄化させたりと色々あった。
さらに数日後。一同は郊外の一軒の屋敷にいた。この屋敷の悪霊を祓って、和真パーティの拠点にしようということだ。
「と、いうわけだ。いいな?」
「悪霊、ねぇ……」
呟きながらモミジは耳に小指を突っ込む。そのモミジの横からめぐみんが注意した。
「ちょっとモミジ。汚いからやめてください。それに、耳聞こえなくなりますよ」
「へいへい」
「返事くらいまともにしてください。……ああ、もう。肩にゴミ付いてますよ」
ボンヤリしてるモミジの肩のゴミを払うめぐみん。
「………おい、なんかお前ら家が近所の幼馴染みたいになってんぞ」
「毎日毎日、モミジの身の回りのお世話させられてたので、仕方ありません」
和真に言われてもさほど気にした様子なくめぐみんは返した。
「まぁいい。さっさと終わらせて来いよ。俺ここで待っててやるから」
モミジはそう言うと、鞄から本を取り出して読み始めた。
「いや、何言ってんの?お前も来るんだよ」
和真に言われ、ビクッと肩を震わせるモミジ。
「……えっ?いや、俺はいいよ。今日あれ、腰痛いんだよね」
「いいから行くぞ。アークプリーストのお前に消えられると困るんだよ」
「そんなことねぇよ。お前らならやれるって」
「いや、お前それどのスタンスで言ってんの?」
「もしかして、モミジ怖いの?」
アクアがニヤニヤしながら口を挟んだ。
「は?怖い?何それ、どういう事?全然意味がわかんない」
「や、だから霊とかそういうの怖いのって聞いてるの」
「は?アンデッドはいても霊なんているわけねーだろ。仮にいたとしてもどこに怖がる要素があるわけ?てかまず怖いって何?怖いっていう感情が俺にはそもそも理解できないからね、うん」
「……………あ、モミジ後ろに」
直後、クイックトレードでめぐみんとダクネスを自分の前に召喚し、後ろに隠れた。
「ほらほらぁ、全身全霊で怖がってんじゃない」
「こ、これは怖がってんじゃねぇから。魔法の速度を上げるための特訓だから」
その様子を見て、全員がニヤリとほくそ笑んだ。
これは、使える、と。
×××
屋敷の中。夜半過ぎ。全員、鎧などは脱ぎ、屋敷で寛いでいた。一人を除いて。全員で飯を食ったりトランプやらボードゲームやらしてる中、モミジはソファーでずっとソワソワしながら本を読んでいた。
「………あの、モミジ?」
「にゃっ、んんっ!な、なんだよ」
「あの、さっきから足を組み替えたりしててすごく鬱陶しいんだけど」
ダクネスと遊んでるめぐみんに注意されてしまった。
「どんだけ怖がってるんですか」
「だからビビってねぇって言ってんだろ。ビビる要素がねぇだろ」
「いやそれもういいですから……。無理ですから。とにかく落ち着いて下さい」
「は?落ち着いてますけど?無我の境地ですけど?」
「あっ!モミジ後ろ!」
アクアに言われた直後、モミジはヘッドスライディングで机の下に隠れた。
「ぷふー!嘘に決まってるんですけど!モミジ、フルスウィングで超ビビってて超ウケるんですけどー!」
直後、モミジは机から出てアクアの顔面に椅子をダンクシュートされた。
「今のはアクアが悪い」
シレッと言う和真。すると、ダクネスがモミジの頭に手を置いた。
「落ち着け、モミジ。大丈夫だ、ここには私やアクアがいる」
「ダクネス………」
涙目でダクネスを見上げるモミジ。が、そのダクネスの顔を掴んで、ソファーに叩きつけた。
「ビビってねぇって言ってんだろ」
「うわあ………」
「意地張るのも大概にしとけよ……」
めぐみんも和真もドン引きしていた。
×××
飯を食って、各々は自室に戻ってベッドの中だ。が、当然モミジは眠れないわけで。
ガッツリ目が開いていた。
「………………」
眠れねぇ……と、思うのは寝ようとして72回目だ。今は夜中。頭の中で柵を越えた羊はすでに千を超えていた。
その時だ。カタカタと音がした。何かが震えているような音。自分も震えてるけど、その音ではなかった。早い話が、ポイルターガイスト的な震えの音だ。
(………いやいやいやいや、ありえないだろ。多分あれだ。隣の部屋のバカズマが貧乏ゆすりしてんのなんだかんだあいつもビビってんだよったく情けねーなおい。とりあえず明日しばく)
だが、カタカタという音が二つに増えた。モミジの部屋は一番端なので、仮に貧乏ゆすりなら二つに増えることなんてあり得ない。
(………さてはアクアのやつが仕返ししてやがるな。上等だよあのハゲ。あいつは明日本気で殺す)
だが、カタカタは止まらない。さらに増えていく。そこがモミジの限界だった。
「カタカタカタカタうるッッッせェンだよォォォォ‼︎」
怒鳴り散らしながら布団を引っぺがして起き上がった。直後、周りは人形に囲まれていた。口を大きく開けたままフリーズ。
「ァーーーーーーーーーーーッッ‼︎」←声にならない叫び声
が、そんなモミジに構わず、人形達は襲い掛かった。
「ま、待て待て待て待てお前ら!タンマタンマタンマタンマ‼︎分かった!分かったから!300エリスあげるから!だからやめっ……!」
直後、めぐみんと和真が部屋に飛び込んできた。