俺、アークプリーストです   作:アリオス@反撃

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魔剣の行方

 

 

「ドナドナドーナードーナー……」

 

「……お、おいアクア、もう街中なんだからその歌はやめてくれ。ボロボロの檻に入って膝抱えた女運んでる時点で、ただでさえ町の住人の注目集めてるんだからな?」

 

「嫌。この中こそが私の聖域よ。外の世界は怖いからしばらく出ないわ」

 

完全に引きこもってしまっている。モミジですら手を出そうとしない始末だ。まぁ、おかげで何事もなくクエストが無事に済んだ。

そんな事を和真が考えながら歩いてるときだ。

 

「め、女神様っ⁉︎女神様じゃないですかっ!何をしているのですが、そんな所で!」

 

叫び声と共に、オリに引きこもってるアクアに駆け寄り、鉄格子を掴む男が現れた。

その檻をいとも簡単にグニャリと捻じ曲げ、中のアクアに手を差し伸べた。

 

「女神さま!早く外へ……」

 

「……おい、私の仲間に馴れ馴れしく触るな。貴様、何者だ?知り合いにしてはアクアがお前に反応していないのだが」

 

珍しくお怒りのダクネスが男の肩を掴んだ。すると男は、ダクネスを見て溜息を吐きながら首を振る。いかにも、自分は厄介ごとに巻き込まれたくはないのだけど仕方ない、といった感じで。

ダクネスがそれを見て、明らかにイラッとする。

 

「おい、俺たちクエスト終わって疲れてんだよ。分かったら180°回転してそのまま永遠に競歩してろ」

 

モミジが言うが、男は「君と話すことなんてない」とでも言わんばかりに無視した。直後、モミジの下に緑色の魔法陣が出て来る。フルバーストの色だ。ちなみにパワーバーストは赤、プロテクトバーストが青、スピードバーストは黄色だ。

 

「落ち着いてくださいモミジ。き、気持ちは分かりますが……」

 

めぐみんがモミジをなだめる中、和真がアクアに耳打ちした。

 

「……おい、あれお前の知り合いなんだろ?女神様とか言ってたし、お前があの男をなんとかしろよ」

 

その囁きにアクアは一瞬「何言ってんの?」みたいな表情を浮かべたあと、

 

「………ああっ!女神!そう、そうよ、女神よ私は。それで?女神の私にこの状況をどうにかして欲しいわけね?しょうがないわね!」

 

と言って檻から出てきた。で、外の男と顔を合わせた直後、首を傾げた。

 

「………あんた誰?」

 

「何言ってるんですか女神様!僕です、御剣響夜ですよ!あなたに魔剣グラムを頂いた!」

 

「………………?」

 

「おい、アクアも知らないっぽいし人違いだろ。分かったら右向け右でそのまま……」

 

「君は黙ってろ!女神さ……」

 

「フルバーストレベル5」

 

「お、落ち着いてくださいってばモミジ!」

 

「いーや殺すね。ブチ殺す」

 

「ま、待てモミジ!やるなら私を……!」

 

「お前は黙ってろカス」

 

「ああんっ!」

 

その御剣というのに、和真はピンときた。おそらく、転生されるときに強力な武器をもらったタイプの奴だ。どうせアクアに「あなたは選ばれた」とか適当なことを抜かされて自分でもやる気満々になったタイプの人なのだろう。

すると、アクアも思い出したのか言った。

 

「ああっ!いたわねそういえばそんな人も!ごめんね、すっかり忘れてたわ。だって結構な数の人を送ったし、忘れてたってしょうがないわよね!」

 

その言い草に、若干顔を引きつらせながらも御剣は言った。

 

「ええっと、お久しぶりです。アクア様。あなたに選ばれた勇者として、日々頑張ってますよ。職業はソードマスター。レベルは37にまで上がりました。……ところで、アクア様はなぜここに?というか、どうしてオリの中に閉じ込められていたんですか?」

 

チラチラと和真とモミジを見ながら言った。すると、和真は今までのことを話した。アクアがこの世界に来たことの経緯と今日の出来事を。

 

「……バカな。ありえないそんな事!君は一体何を考えているんですか⁉︎女神様をこんな世界に引き込んで⁉︎しかも、今回のクエストでは檻に閉じ込めて湖に漬けた⁉︎」

 

いきなり御剣は和真の胸ぐらを掴む。それをアクアが慌てて止めた。

 

「ちょちょ、ちょっと⁉︎いや別に、私としては結構楽しい毎日を送ってるし、ここに一緒に連れて来られた事はもう気にしていないんだけどね?」

 

「君もだアークプリースト!男ならなんで止めないんだ⁉︎」

 

アクアを無視してモミジに掴みかかる御剣。

 

「同意の上だからな。一応、今回の報酬は全部アクアの物になるし」

 

「同意の上だとかそういう問題じゃない!どうして止めないんだよ!」

 

「何なんだよおまえメンドくせーな。てかその手離せ。俺と戦争したいのかコラ」

 

「……ふん、口だけはいっちょまえの身の程知らずってとこか。僕が誰だか分かってるのか?」

 

「うんっ!もう殺そう!そうしようみんな!良いよね⁉︎」

 

モミジの視線の先にはめぐみんとダクネスがいる。

 

「……クルセイダーにアークウィザード?……それに随分綺麗な人たちだな。仲間には恵まれているんだね」

 

「いやいや、俺もアークプリースト。恵まれてるのはそこのバカリーダー」

 

モミジの視線の先には和真がいる。すると、御剣の攻撃対象は和真に向いた。

 

「そうだ、君。アクア様に不自由ない暮らしをさせているんだろうな」

 

「させてるよ。むしろそいつが勝手に借金してるまである」

 

「シャッキン⁉︎……ちなみに、今はどこで寝泊まりしてるんだ?」

 

「馬小屋」

 

「は⁉︎こんな綺麗で優秀な人たちを馬小屋で寝泊まりさせて恥ずかしくないのか⁉︎」

 

和真も段々とフラストレーションを溜めてきている。この世界で冒険者は馬小屋で寝泊まりは基本なのだが、御剣は最初から持ってる魔剣のお陰で何不自由なく過ごして来た。

それを察して、さらにイラッとする和真。なんでなんの苦労もせずに暮らしてきた奴に1から頑張ってきた自分が上から目線で説教されなきゃいけないのか。

一方の御剣は、まるで同情するかのごとく、めぐみんとダクネスに言った。

 

「君達、今まで苦労したみたいだね。これからは僕と一緒に来るといい。もちろん、馬小屋なんかで寝かせないし、高級な装備品も買い揃えてあげよう」

 

その言い草に女子組は少なからず引いた。

 

「ちょっとヤバイんですけど。あの人本気で引くくらいヤバイんですけど。ていうか勝手に話進めるしナルシストも入ってる系で怖いんですけど」

 

「どうしよう。あの男はなんだか生理的に受け付けない。攻めるより受けるのが好きな私だが、あいつだけは何だか無性に殴りたいのだが」

 

「撃っていいですか?あの苦労知らずのスカしたエリート顔に、爆裂魔法撃ってもいいですか?」

 

その様子を見て、結論は出たとでも言わんばかりに和真が言った。

 

「えーと。俺の仲間は満場一致であなたのパーティには行きたくないみたいです。俺たちはクエストの完了報告があるからこれで……」

 

そう言って立ち去ろうとしたとき、御剣は和真の前に立ちふさがった。

 

「………どいてくれます?」

 

「悪いが、僕に魔剣という力を与えてくれたアクア様を、こんな境遇の中に放ってはおけない。君にはこの世界は救えない。魔王を倒すのはこの僕だ。アクア様は、僕と一緒に来た方がいい。君は、この世界に持ってこられる物としてアクア様を選んだということだよね?」

 

「……そーだよ」

 

「なら僕と勝負しないか?アクア様を賭けて。君が勝ったらなんでもひとつ言うことを聞こうじゃないか」

 

「よし乗った‼︎じゃあ行くぞ!」

 

我慢の限界が来ていた和真は、小剣を引き抜いて殴り掛かった。

 

「えっ⁉︎ちょっ!待っ……⁉︎」

 

慌ててガードする御剣。が、その時だ。

 

「クイックトレード」

 

その魔剣が雑草に代わった。

 

「ええええ⁉︎」

 

その結果、和真の剣は御剣の頭をガンッと殴って気絶させた。

うわあ……と仲間達も引く中、和真とモミジは「ウェーイ」とハイタッチした。

 

「じゃ、行くか」

 

そう言って、冒険者ギルドに帰ろうとしたときだ。

 

「卑怯者!卑怯者卑怯者卑怯者ーっ!」

 

「あんたら最低!最低よ、この卑怯者!正々堂々と勝負しなさいよ!」

 

御剣の仲間の女の子たちの和真とモミジに対する罵倒。

 

「るせーよ。エロい格好したクソビッチども。レベル差的に見ても二対一でいいだろうが」

 

「だ、誰がビッチよ誰が!」

 

「とにかく、俺の勝ちってことで。こいつ、負けたらなんでも言うこと聞くって言ってたな?それじゃあ、モミジの盗った魔剣いただいていきますね」

 

「あ、いいねそれ」

 

「なっ⁉︎バカ言ってんじゃないわよ!その魔剣はキョウヤにしか使いこなせないわ!」

 

その台詞に、和真はアクアの方を向いた。

 

「……マジで?」

 

「マジです。残念だけど、魔剣グラムはあの痛い人専用よ」

 

なんてこった……とは思ったが、和真はすぐに「ま、いーや」と思い直した。

 

「でもまあ、せっかくだし貰っておこうか」

 

「そうだな。売って二人で山分けするか」

 

「結構、良い値が付きそうだぜ。これは思わぬ副産物だ」

 

と、盛り上がってると、御剣の仲間の少女達が武器を構えた。

 

「ちょちょちょ、ちょっとあんた待ちなさいよ!」

 

「キョウヤの魔剣、返して……」

 

「クイックトレード」

 

「……もらうわよってあれ?私の武器……」

 

「いや悪いなお前ら。わざわざ武器提供してくれて」

 

「あっ……!」

 

悔しそうにモミジを睨む少女達。それにトドメを刺すように和真が言った。

 

「真の平等主義者な俺は、女の子相手でもドロップキックを喰らわせられる公平な男。この公衆の面前で、俺のスティールが炸裂するぞ」

 

手をわきわきさせて言うと、二人の少女は違う意味での身の危険を感じ取ったのか、不安気な表情で後ずさり、逃げて行った。

最低最悪の二人のコンビネーションに、アクアとめぐみんとダクネス達まで、「うわあ……」と引いていた。

 

 


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