ある日、未だにアークプリーストのモミジは始まりの街から進めていなかった。仲間がいないからだ。今のレベルのまま、遠くに出れば、殺されるのは目に見えている。
そんな中、掲示板にある面白いものを見つけた。パーティー募集の張り紙だ。
仲間がどうしても欲しいモミジはそこに行くしかない。そんなわけで、早速冒険者ギルドの、張り紙に指定された場所に向かった。
指定の場所には、男と女が座って待っていた。
「あの、さーせん」
「はい?」
声を掛けると、二人は振り返った。
「上級職の冒険者募集ってことで、とりあえず来たんだけど」
「! おお……!来た!来たわよカズマ!」
青い髪の女がヤケに興奮したような口調でモミジを指差した。「わかったから黙れ」と、カズマと呼ばれた少年が女を黙らせると、落ち着いた様子で聞いてきた。
「えっと……君、名前は?あと職業」
「アークプリーストのモミジだ」
「却下ね」
「何でだよ!」
シレッと言う女に、思わず大声で叫んでしまった。
「アークプリーストは既に私がいるもの。却下よ却下」
「おいアクア。こっちが募っといてその態度は無いだろ。それに、こっちは一人でも人材が欲しい状況なんだぞ」
「いらないわよ。私より優秀なアークプリーストなんているはずないし、こんな見るからにダメそうな男なんていてもいなくても同じでしょう?」
その言い草に、少なからずイラっとしたモミジは、1メートルほどの杖を取り出した。
「ほう、言うじゃねぇか青いの」
「私は女神アクアよ!」
「そこまで言うなら、俺とお前、どっちが優れてるか競うか?」
「いいわよ?」
「おい、アクア!」
和真が止めるが、アクアは聞く耳持たない。
「私が勝ったら、貴方に不採用の烙印を押させてもらうわ」
「俺が勝てば、そうだな。お前は出て行かなくてもいい。ただし、この俺がこのパーティにいる以上はお前は俺に逆らうな。いいな?」
「いいわよ!やってやるわよ!」
平気で乗ったアクア。すると、和真がアクアの耳元でコソコソを喋りだす。
「おい、アクア。お前大丈夫かよ。まだこの世界に来てまともに魔法使ってないだろ」
「大丈夫よ」
「その自信はどこから来るんだよ」
「女神だもの」
「………つまり、根拠なしね」
「まぁ見てなさい。あんな男だか女だか分からない名前の奴なんかすぐに倒してやるわ」
「名前関係ねーだろ……」
もう和真は何も言わなかった。勝手にやってくれといった感じだ。
「さ、あなたから先にいいわよ」
言われて、モミジは杖を出して呪文を唱えた。
「……スピードバーストレベル5」
直後、和真の下に黄色い魔法陣が出て、プアアッと光り出した。
「お……?」
「動いてみ?」
言われて、和真は立ち上がり、走ってみた。
「うおおっ⁉︎」
直後、和真はプォンッと音を立ててギルドから飛び出て行った。
「おおおおおぉぉぉぉぉぉ…………⁉︎」
「」
言葉を失うアクア。すると、和真がまたプォンッと音を立てて帰ってきた。
「スッゲェな!」
「一時的なステータスアップだよ。時間切れになると、今度は一時的に上げたステータスだけ大幅に下がるけど……」
「いやいや、エンハンス系は重要だ。よしアクア、お前いらん。俺、こっちと組むわ」
「ち、ちょっとカズマァッ⁉︎」
「いや、仕方ないだろ。ブリーストの癖にノコノコ近付いてカエルに食われる奴より、こっちのが全然使える」
「待ってよお!お願い捨てないで!ていうか一人にしないでよぉ!」
本気で泣きつかれ、ドン引きしながらも和真は答えた。
「じ、冗談だよ。アクアには回復専門になってもらうから、だから泣き付くな」
「………うん、ありがどう……」
涙を拭くアクアの横で、和真が言った。
「俺は佐藤和真。よろしく」
「ああ。それで、もう何かクエストに行くのか?」
「いや、もう少しだけ待とうと思う」
「じゃあ、その間に二人のことを教えてくれよ」
とのことなので、3人で雑談をしながら待機。
「つまり、カズマは冒険者なわけか。………冒険者の癖によくあんな上から目線で怪しい張り紙書けたもんだな」
「書いたのはアクアだよ。ったく、正直モミジに来てもらえて助かった。俺は誰も来ないことも少し覚悟してたからな」
「うるさいわね!この私が仲間にしてあげるって言ってるのよ⁉︎最初から上級職の私が!」
「あーそれそれ、そういうとこだよお前のダメなとこ」
「もしかしてこいつ、ずっとこんな上からなのか?」
「こいつって言わないでくれる⁉︎私はこれでも女神なのよ!」
「悪かったよ、女神(笑)」
「んなっ……!あんたこそ男(笑)じゃない!」
「は?俺は股間にちゃんと男の勲章付いてるわ」
「そ、そういうこと女の子の前で言わないでくれる⁉︎」
「もう女の子って歳じゃないだろ」
「このっ……!」
(この二人の相性は最悪だな……)
遠目から二人のやりとりを見てカズマがそう思った時だ。新たな声がした。
「上級職の冒険者募集を見て来たのですが、ここで良いのでしょうか?」
どことなく気だるげだな声と、眠そうな赤い瞳。いかにも魔法使いといった格好をしているのだが、何故か眼帯をした少女が立っていた。
「そーだけど?」
モミジが答えると、その子は突然マントを翻す。
「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者………!」
「………冷やかしに来たのか?」
「ち、ちがわい!」
「とりあえずチェンジで」
「ま、待った!待って!待って下さい!」
冷たい和真とモミジの反応に慌てて言う。すると、アクアが口を挟んだ。
「その赤い瞳……もしかして、あなた紅魔族?」
「いかにも!我が紅魔族随一の魔法の使い手、めぐみん!我が必殺の魔法は山をも崩し岩をも砕く……!……というわけで、優秀な魔法使いはいりませんか?……そして図々しいお願いなのですが、もう3日も何も食べていないのです。できれば、面接の前に何か食べさせては頂けませんか?」
急に素に戻って食料を乞うめぐみん。
「………飯おごるくらい構わないけどさ、その眼帯はどうしたんだ?怪我でもしてるならこいつに治してもらえよ」
言いながら和真はモミジを指差した。
「ちょっとカズマ!なんで私じゃなくてそいつを指すのよ!」
「ああ、悪い。モミジのが使えるって、もう頭の中で勝手にインプットされてるみたいだわ」
「な、何よそれ!私の方がそんなのより優れてるわよ!」
「いや負けたばっかだろお前……」
「あ、つーかなんでも言うこと聞く約束、忘れてないよな?」
「あっ………」
「ま、いいや。この件はあとでとっとく。その方が面白そうだし」
「あ、あんた……!本っ当に最低!いつか見返してやるんだから!」
「あっそ」
「おい、お前ら黙れ。話が進まん」
和真に怒られ、二人とも黙った。すると、めぐみんが言った。
「この眼帯なら気にしなくて良い……我が強大なる魔力を抑えるマジックアイテムであり……もしこれを外されることがあれば……」
「外してみようぜ」
「あっ、ちょっ……や、やめてください!引っ張らないで……!」
平気な顔でモミジがめぐみんの眼帯を引っ張り回す。
「い、いだだだだ!ちょっ……引っ張らないでって言ってるでしょうが!」
「痛っ!お、お前魔法使いの癖に蹴るのはないんじゃないの⁉︎」
「う、うるさいですうるさいです!」
目の前で初対面なのに喧嘩を始める二人を無視して、和真は一応アクアに聞いた。
「どう思う?」
「いいんじゃないかしら?爆裂魔法は最上級クラスの魔法だし」
「………いや、でも不安しかないんだが……」
4分の3、魔法使いの現状を改めて認識し、和真はため息をついた。