俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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俺は嫌だって言ったんだ! でも友達が無理矢理……俺のプレステ4にモンハンライズをダウンロードしたんだ!
ちくしょう……モンハンたのしいー(脳死)
来月はサンブレイクかー(諦め)


たばねさんじゅっさい⑤

「かゆ……うま……」

 

 本日のコスプレはナース服。

 白衣に身を包んだ束ちゃんが死んだ目でご飯を食べる。 

 

「かゆじゃなくてネコまんまだけどね……うま……」

 

 侘しい……あまりにも侘しい夕食を二人でつつく。

 インスタント味噌汁イン白米。

 たまにやると美味しいけど、追い詰められた状況だと泣きたくなりますよ!

 しかも飲み物は白湯だ。

 お茶もコーヒーも残り少なく贅沢品と化したのだから仕方がない。

 普段好き勝手に飲んでる飲み物だけど、制限が付くとその大切さを思い知らされる。

 健康の為とかじゃなくて、強いられてるって状況が辛い。

 そりゃ束ちゃんも死んだ目になるさ。

 

「あう……」

 

 一足先に食べ終わった束ちゃんがごろんと横になる。

 

「あうあうあー」

 

 そして左右にゴロゴロと転がり始める。

 はい、最近の束ちゃんには閉鎖空間に閉じ込められた事による異常行動が現れております。

 動物園の動物なんかが檻の柵の前をウロウロしたりするのが有名だね。

 無理もない。

 俺は引きこもりとしての嗜みがあり、ゲームがある。

 でも束ちゃんは違う。

 強制的に閉じ込められたストレスは半端ないだろう。

 最初こそ俺に警戒して緊張を高めていたが、多少は互いを知って今はその緊張感も薄れてきている。

 せめて好きに実験なんかが出来る設備があれば気も紛れるだろうが、そんなものはない。

 束ちゃんは俺と違ってストレスを発散できず、少しづつ溜めこんでるのだ。

 俺がお尻を差し出したら、怒りのままに蹴ったりしないかな? しないか。

 

「ご馳走様でした。今日で何日目だっけ?」

「十日目だね」

 

 パンと両手を合わせて束ちゃんに話題を振る。

 転がるのをやめた束ちゃんが素直に答えてくれた。

 うんうん、ちゃんと受け答えしてくれるようになって嬉しいよ。

 

「もう10日か……意外と粘れてるのにびっくり」

 

 束さんへの差し入れだった一週間分の食料。

 それと俺の週末キャンプ用の分。

 合わせて約8日分を二人で分けて10日目。

 我ながら頑張ってると思う。

 

「未来のたばねの救済措置でなんとか頑張れてる感じだけどね」

「確かに」

 

 ボクシングで挑むVS篠ノ之束。

 結果は1R3秒で負けたが、それは始まりに過ぎなかった。

 それからは一日に1~2回ゲームが行われたのだが――

 握力対決、げっぷ我慢対決、激マズジュース一気飲み対決、古今東西エロゲ―タイトル対決、ムエタイ対決、空手対決と様々だ。

 今の所の勝率は7;3かな。

 もちろん俺が3だ。

 少しは俺が勝てる内容にしてくれる束さんに感謝だ。

 ……ん? そもそも俺を閉じ込めてるのは束さんなんだから感謝とかおかしくない? 

 あぶねー、ストックホルム症候群の亜種か?

 全部束さんが悪い。

 これを心に刻まなければ。

 部屋から出れたら絶対に復讐してやる!

 

「そう言えばさ、最初ははぐらかしてたけど、お前って未来のたばねの友達だよね?」

「ですよ」

 

 もう嘘をつく必要もなのそうなので正直に答える。

 

「どうやって友達になったの? 今日までの付き合いで年の割には話せるとは分かったけど、それでも特別なナニカを感じるほどじゃない。外で出会ったら無視するレベルの人間なのに不思議なんだよね」

「言いたい放題じゃん。どうやってねー」

 

 ISで遊びたいですって言って興味を持たせ、未来知識があるって言って釣り上げた……なんて言えないな。

 もう少しオブラートに包み込み、そんでもって嘘にならない程度にまとめると――

 

「まず言っておくけど、俺は束さんの初めての友達じゃない。俺が出会った頃には束さんにはすでに友達が存在した。つまりお酒の味を覚えた状態だった」

「パソコンの中にも最低限の情報しかなく、お前も言わないから未だに名前も容姿も不明なたばねの友達……正直気になる」

「前にも言ったと思うけど、束さんが意図的に情報を制限してるなら俺からはなにも」

「……べっつにいいけどさ~」

 

 不満たらたらじゃないですか。

 俺が言っても問題ないとは思うけど、ペナルティーがあるかもなのでダメです。

 

「でね、前にも言ったけど、友達ってのは嗜好品なんだよ。つまり、俺が出会った束さんはお酒の味を知っていた訳よ」

「ふむふむ……自分から安酒飲むほど狂ってたの?」

「いや? 少しはお酒に興味を持ってたみたいだから、安酒も良いものだろ? って感じで時間を掛けて仲を深めた」

「馬鹿だね、未来のたばね」

「おバカだよ、未来の束ちゃん」

 

 本当に千冬様様だよね。

 束さんが大吟醸“千冬”を飲んでなかったら、2ℓパック酒“神一郎”を飲むことはなかっただろう。

 安酒バンザイ!

 

「うーむ、出会いはまぁいいとして、なんで続けてこれたの? たばねだったら飽きて捨てそうだけど」

「自分で言うんかい。そうだなー……俺はあくまで遊び仲間なんだよね」

「普通の友達となにか違うの?」

「束ちゃん、俺とIQ高そうな会話とかしたことある?」

「――ないね!」

 

 ちょっと考えた束ちゃんが良い笑顔で言い切った。

 だよね、ないよね。

 

「ただ遊ぶだけの人間相手に知能指数とか必要? そりゃ付き合う相手が同レベルの人間の方が付き合いやすいってのはある。でもさ、バカやって遊ぶなら相手はバカでいいじゃん」

「具体的に今までどんな馬鹿をやったの?」

「ISで南極に行って氷を取って来てそれでカキ氷を作ったり、秘密基地を作ったり、無人島を開墾したり、かな」

「想像以上に遊んでる……くっ、大人のたばねはなんでそんなに堕落した生活を――」

「息抜きでしょ。基本的に俺が束さんに会うのは週末だし」

「時間は有限なんだよ? 時間の無駄だと思う」

「それとストレス発散だね。束さんはよく俺で遊んでるから」

「未来のたばね、お前で遊ばなきゃ自分を保てないほど苦労してるの?」

「ISの発表から色々あったからね。だからこうして一人で潜水艦で暮らしるんじゃん」

「一人暮らし……うーん?」

 

 束ちゃんが首を傾げながら思案顔を見せる。

 

「なにか?」

「あのさ、たばねって一人暮らしなんだよね?」

「だね」

「食べ物とかどうしてるの?」

「……どう、とは?」

「人の目に付かない潜水艦を拠点にするのは理解できる。広大な海で自由に動ける潜水艦は隠れ家として妥協できるさ。でも人間が暮らす上で多少なりとも他人との関わりは必要なはず」

「束ちゃんが言うには意外と真っ当な意見」

「たばねがその気になれば一人で活動できる。服だって作れるし、艦内に畑を作って海から塩と海産物を得て海水を真水に変え、完全な自供自足が可能なんだけど……正直言って、これは時間の無駄なんだよね」

「無駄なんだ?」

「無駄だね。服も塩も水もお金で買った方が遙かに楽じゃん。制作物に関する全ての工程をオートメーション化すれば手間は減るけど、そもそもその機械を作るための時間も必要になる。たばねの結論は、お金で解決できる事はカネでしろ、だよ」

「それはごもっともで」

 

 その方が時間を自由にできるもんね。

 他人に関わるのは面倒だけど、それで自分の時間が作れるらなそうするだろう。

 お金で時間を買うのは誰だってしている事だ。

 ゲームをする時間を捻出する為に毎食外食とインスタントで済ませたりね!

 

「だからね、たばねの中で疑問が生まれた」

「疑問?」

「食料問題について、だよ。この潜水艦は便利だけど、食べ物を買いに行ったりするの面倒じゃん」

「まぁそうだね。港に直接潜水艦で乗り込む訳にはいかないし」

「でもさ……例えばさ、週末だけ会いに来る友達って存在が居たら便利だと思わない?」

「……何が言いたいのかな?」

「お前が都合よく持っていた一週間分の食料……あれ、なに?」

 

 なにと聞かれましても。

 うん、これはバレてますね。

 まさか友達の利用価値が物資配達だと気付くとは!?

 

「あの食料? あれは束さんへの差し入れ。毎回一週間分の食料を届けるのは俺の役目だし」

 

 はいはい、本当は束ちゃんの分だけど俺の物だと意識させました。

 でもお金を払われた訳でもないし、俺の分だと言っても過言じゃないよね。

 

「つまり、食料は全部たばねの分だね?」

「あれは束さんへの差し入れ。束ちゃんは関係ないじゃん」

「別に怒ってないよ? こんなのは騙された方が悪いと思うし。でも――」

 

 束ちゃんの全身がプルプルと震える。

 地震でもあったかな?

 

「納得いかな~い!」

 

 ドン! と束ちゃんの両手がちゃぶ台を叩く。

 

「少し考えれば分かる事なのにその事実に気付かなったたばねの馬鹿! 初日に気付いて食料を確保してればもっと優位に立ち回れたのに!」

「都合良く大量の食料を持ってた事に疑問を持つべきでしたね」

「疑問には思ったよ! でも口を利きたくなかったの! 質問するって行為にすら嫌悪を感じるんだよ!」

「それで自分を追い込むんだから自業自得じゃん。束さんはもうちょっと他人を上手く使えたから、その辺はこれから成長すると思うけど」

「友達って存在が居るだけで、研究室に引きこもり放題で好きな事だけできる人生が待ってるとはっ!」

「冷蔵庫に常に食料を補充してくれるし、身近な消耗品も頼めば買ってきてくれる。そんな存在をどう思います?」

「圧倒的に便利! 人生において“友達”って有限である時間を生かす為の必須アイテムだね!」

 

 食後の無駄話が意図してない方に着陸した件。

 これは良い事なのだろうか? ……友達の存在を受け入れる体制になってるならセーフかな。

 

「たばねは今一つの回答を得た。友達は人生にあると便利!」

「そだね。でも俺と束ちゃんは友達じゃないから、食後の洗い物やお風呂掃除、トレイ掃除をしている俺に感謝するべきだよね」

「……たばね、子供だから掃除とかわかんなーい」

 

 束ちゃんが目を泳がせながらそう言った。

 そこで下がるのは正しい判断だよ。

 だって掃除とか全部他人任せで自分は働いてなんだよ? 対価を支払っていれば問題ないが、残念ながら無給である。

 無能が自分の役に立つのは当然だなんて考えるのが篠ノ之束だろう。

 でも相手は俺。

 いい加減こっちの性格を知り始めた束ちゃんは危機感を持っているはずだ。

 俺が束ちゃんにただ奉仕して喜ぶほど殊勝な人間ではないと!

 不利になったら素直に下がる。

 成長したな、束ちゃん。

 

「そっかー、束ちゃんはお掃除できないかー」

「うん、そうなんだー」

 

 あはははっ

 

 カラ笑いが二人の間で響く。

 束ちゃんだってトイレ掃除や風呂掃除くらいは出来るだろう。

 料理以外の家事はやろうと思えば出来るはず。

 だが問題は、トイレも風呂も共用スペースって事だ。

 俺が使った後に掃除とか束ちゃんのプライドが許さないだろう。

 もう少し精神年齢が高ければ逆に自分が使った場所を男に掃除して欲しくないと感じるだろうが、残念ながら束ちゃんその辺りはまだお子ちゃま。

 掃除とか面倒。

 こいつが使った物の掃除とかしたくない。

 そんな感情の方が強いのだ。

 だから俺はこの話題は掘り下げない。

 マウントを取るチャンスではあるが……小学生相手に自分が用を足した後のトイレ掃除を強要できない!

 束ちゃんが泣く泣くトイレ掃除をする様を見たい欲求はあるが、流石にキレそうだし我慢だ。

 

「そうだ束ちゃん。打開策を思いついたから聞いてよ。仲良くなるには共通の敵があると良いと思うんだ!」

「っ!? そうだね。国はもちろん宗教でさえも取り入れてる簡単に群衆をまとめる手だから有用かも」

 

 話題が逸れた事に一瞬の喜びを見た束ちゃんがすぐさま食いついた。

 そうだよね、人心をまとめるには共通の敵を作れって言葉は聖書にも書かれているから有効だよね。

 

「だから束ちゃん、共通の敵として一緒に束さんを憎もうぜ!」

「うん、ちょっと待て」

 

 束ちゃんが手を前に出してストップをかける。

 

「なんでそうなるのか理論的に説明しろ」

「だって今の状況を作ったのは束さんじゃんか。怒りをぶつける相手なんて束さん以外存在する?」

「……たばねのIQでも反論できないっ!」

 

 でしょ? 

 俺たちの感じている空腹、怒り、閉塞感など全てのストレスをぶつけるべき相手は篠ノ之束しかいない。

 

「束ちゃん、ストレス発散だと思って一回だけやってみよう? 束ちゃんだって思うところはあるでしょ?」

「……うん」

 

 束ちゃんの目にほの暗い怒りの感情が灯る。

 例え未来の自分でも今の自分と違うなら他人と言っていい。

 怒りをぶつけたくもなるさ。

 

「でもそれをやったら無駄に泣きたくなりそうだから却下で」

「それは残念」

 

 一時的にスッキリする事は間違いない。

 その後は無性に悲しくなるだろうけど。

 英断だよ束ちゃん。

 ただ俺は束ちゃんVS束さんの絵面が見たかっただけだから無理強いはしない。

 

『ずるずる……』

 

 噂をすると突如現れる天災。

 突如現れた束さんのホログラムが、ちゃぶ台の上で座った姿勢でカップ焼きそばを食ってやがる。

 

「うーむ」

「ちゃぶ台にほっぺ付けてなにしてんの?」

「スカートの中覗けないかなって」

「聞かなきゃよかった」

 

 いやだって女の子座りしてる女性がいたらやりたいじゃん。

 男なら誰だって夢見るじゃん。

 相手がホログラムなら合法なんだからやるしかないだろ!

 ちっ! スカートの隙間が少しだけあるが、その先は暗闇一色だ。

 でもいいんだ。

 この覗いてる感、イケナイことしてる感が興奮するのだよ。

 

『んあ? 撮影始まってる? ごめんごめん、カップ焼きそばに夢中で気付かなかったよ』

 

「ちょいちょい子芝居入るのがムカつくな」

「このうさ耳って他人をイラつかせる才能があるよね」

 

 束ちゃんの束さんへのヘイトがヤベーす。

 そりゃそうだ。

 食べ物をチラつかせてこちらを煽る人間を自分だなんて思いたくないだろう。

 束ちゃんが想像してた大人の自分は、きっとクールでカッコいい自分だったに違いない。

 目を背けたくなるよね。

 

『小腹が空いたからしー君の部屋からパクッてきたけど、意外と悪くないね、沖縄チャンプルー味』

 

 俺が旅先でコツコツ集めたご当地カップ麺じゃねーか!?

 

「や、そこでたばねを睨まれても」

「束さんと束ちゃんは同一人物。だから犯した罪も背負うべきである。おーけー?」

「のー。たばねは世界に絶望してピエロ落ちした生き物を同一人物とは認めない」

 

 あ、束ちゃんの中ではあの束さんは闇落ちした姿なんだ。

 なんかどんまい。

 

『ご馳走でした。あ、しー君の部屋の机の上に150円置いておいたから』

 

 金さえ払えば許されると思うなよ!?

 ネット通販で買うんじゃない。

 旅先で自分で買うから定価プラス思い出のプライスレスがあるんだよ!

 

『さて、今回戦ってもらう内容は――じゃじゃん! 恐怖対決~!』

 

 ほんと問答無用で始まるよな。

 でも貴重な食べ物ゲットの機会だからやるけど。

 束さんが掲げるプラカードには泣き叫ぶ俺の顔が書いてあった。

 ほうほう、俺が負けると予想してるのかな?

 ふっ、甘いぜ束さん。

 精神的な未熟な束ちゃんなど敵ではないわ!

 

『恐怖は時間を掛けて熟成するのが効果的だけど、そんなの誰でも出来るからつまらないよね。だから今回は短期決戦にします。一人30秒の持ち時間でターン制で先行は子供の私ね。計測はお馴染み腕輪で。はいスタート』 

 

 えっ軽っる。

 恐怖の熟成とか怖い単語並べて、なんてない風にスタートしやがったよ。

 

「恐怖かー。大人も子供も睨めば引き下がるし、それでもしつこければ殴って終わりだし……よくよく考えれば意図して恐怖を与えるって初めてかも?」

 

 ゴキゴキ

 

 世界中に恐怖をばら撒いてる束さんの初めてか。

 ……光栄でもなんでもない初めてだな!

 

「痛みは強すぎると気絶させちゃうし、時間制限ありだと出来る事が限られちゃうなー」

 

 パキパキ

 

 凄い手慣れた感じで四肢の関節外すじゃん。

 え、束さんじゃないよね? 中身は束ちゃんだよね?

 ごく自然な会話をしながら関節外す小学生とか流石だぜ。

 

「ぐえっ」

「身動きできない状況で踏まれるどう? 怖い?」

 

 背中を束ちゃんに踏まれて苦しい……が! 苦しいだけだ。

 残念だったな束ちゃん。

 この痛みと苦しみは初めての経験じゃないんだよ!

 

「ごめん束ちゃん。俺、関節外されるの慣れてるんだわ」

「うっそ!?」

「むしろ小学生の束ちゃんに踏まれてる現状に喜びを感じてる」

「うっそ!?!?」

 

 背中から束ちゃんの温もりが遠ざかった。

 脳内でクソガキムーブしてる束ちゃんのちっちゃいおみ足で踏まれる妄想余裕でした。

 たかが四肢の関節を外されたくらいで恐怖を感じるなんて……そんな初心な心、とうの昔に忘れたわ!

 

「まさかの予想外な反応……むぅ、なら爪を剥いでから塩を揉み込むとかどうだろう?」

 

 束ちゃんがちっちゃいお手てで俺の手をもみもみ……ダメだ恐怖を打ち消せられねぇ!

 

「ふっ、表情に出したね」

 

 気取られたか!?

 

「ほら手を出せ! グーにすんなパーにしろパーに!」

「いーやーだー!」

 

 関節は外れてても力は入る! 死守だ死守!

 手を必死に握る俺と無理矢理開かせようとする束ちゃん。

 制限時間まで頑張れ俺!

 

「うぐぐぐっ! この低能にクセに無駄な抵抗を――!」

「ぐぎぎぎっ! 頭脳を売りにしてるクセに脳筋な手段を――!」

 

 早く終われ! 早く……早く!

 

『3、2、1,――しゅ~りょ~! 得点をほい!』

 

【恐怖値;153点(爪の間に爪楊枝を刺される寸前レベル)】

 

 まるで見てたかのような絶妙な点数!?

 束さんの無駄な技術力が光るぜ。

 中々の高得点だが逆転は可能。

 地獄を見せてやんよ! 

 

「……で、関節はめてくれない?」

 

 ぴくぴくと身体を震わせながら束ちゃんを見上げる。

 

「え? その程度を自分で治しなよ。なんでも他人に頼るとか良くないと思う」

 

 そんな俺をきょとん顔で見下ろす束ちゃん。

 掃除なんかを全部人任せにするクセに言ってくれる。

 自分で治す? マンガでも片腕ならともかく四肢の関節を自力で戻すシーンとか見た事ないんだが?

 

『それじゃあ次はしー君の番ね。スタート!』

 

 俺の番になった。

 でも俺も束ちゃんも黙ったまま見つめるだけ。

 こんな汚い真似をしてでも勝ちたいのかいやしんぼめ!

 そっちがその気なら俺も全力で戦おう。

 

「はいじゃあ一発芸します。和風ホラーに出てくる床を這いずる幽霊――ア゛ァァ!」

「うわきも」

 

 口を大きく開けて束ちゃんに近付く。

 大事なのは肩と膝の使い方。

 それにさえ慣れればこうして移動が可能なのだ!

 束ちゃんは油断してるのか、あーあー言う俺を冷めた目で見下ろすばかりで動かない。

 破れかぶれで物真似をしているとでも思っているんだろう。

 視線が低いと束ちゃんの生足を見放題だぜひやっほーい!

 そろそろ射程圏内だ。

 ステンバーイ、ステンバーイ――ゴー!

 

「がうっ!」

「……へ?」

 

 油断している束ちゃんのふくらはぎに噛みつく。

 

「……あんぎゃぁぁぁ!? 噛まれてる? もしかしてたばね噛まれてる!?」

「ふがふが」

 

 束ちゃんのヒラメ筋はうめーぜ!

 ……いや本当に美味しいな。

 塩っけと歯で感じる肉感が素晴らしい。

 肉食ってる感がある!

 

「あぐあぐあぐ」

「いったっ!? え? 本気で食べにきてない? 遊び抜きで噛んでない?」

 

 捕食される恐怖を知れ!

 冗談抜きの本気で喰う!

 

「あぐっ!」

「いったー! 歯が刺さってる!? この離せっ!」

 

 げしげしげし!

 

 束ちゃんが俺の背中を踏みつける。

 おいおい、束ちゃんってばそんなに無警戒で足を上げていいのかい?

 

「ふがふがふが」

「え? 足を高く上げるとスカートの中が見えるって?」

 

 いえす。

 俺が紳士だから視線を上に向けないだけなんだぜ? 感謝しろ。

 鮭の皮しかりクジラの皮しかり、皮ってのは美味いもんだ――レロリ。

 

「……コロス」

 

 片言で殺す発言頂きました。

 いいぞ束ちゃん。

 子供らしく感情爆発させてこうぜ!

 

『3、2,1、ゼロ!、しー君のターンは終了ね。得点は~?』

 

【恐怖値;87点(急に耳に息を吹きかけられたレベル)】

 

「ありゃ、思ったより点数低いな」

 

 束ちゃんから口を離して点数を確認。

 結果は残念なものだった。

 友達が急に噛みついてきたら恐怖以外のなにものでもないと思うんだが、束さんは子供の頃から心臓に毛が生えていたらしい。

 

「この結果は当然だよ? だって嫌悪感と怒りで胸が一杯なんだもん」

「なるほど、それは計算違いだった」

 

 怒りが恐怖を上回ったのか。

 舐めたりせず、もっと純粋に齧るのが正解だったか……失敗失敗。

 

『では勝者へのご褒美タイム! 大切に食べるんだよ!』

 

 ポトリ

 

 束さんのホログラムが消え、同時に天井から何かが落ちてきた。

 それを束ちゃんがいそいそと回収する。

 あれはなんだろ。

 帯状に折りたたまれた……あっ、10円チョコだ!

 

「あむ」

 

 駄菓子屋で定番の一個十円の小さいチョコレート。

 それが10枚綴りになっているのが今回の報酬だった。

 素早く包装を破きチョコを口に入れる束ちゃん。

 率直に羨ましい。

 

「束ちゃん、一個くらい――」

「断る」

 

 食い気味に断られたよ。

 

「断―る!」

 

 トドメのダメ出しですかそうですか。

 お酒やツマミを提供してあげたのにこの対応! どうしてくれようか――

 

「あむあむ」

 

 目をキラキラさせながらチョコ食べる姿が可愛いので良し!

 今この瞬間、束ちゃんは本当の意味で年相応の表情を見せている。

 

「……あむ」

 

 悲しみと喜びが混ざった顔で三つ目を食べる。

 きっと今日はこれで最後だと決めたんだろう。

 篠ノ之束がチョコ一つでここまでコロコロと表情を変えるとは……よっぽど飢えてたんだね束ちゃん!

 もっと色々な表情が見たいが、そろそろ決め時かもだな。

 これ以上ダラダラと実験を続けても良い結果にならないだろう。

 この閉鎖空間の中でこれ以上好感度を稼ぐのは無理だ。

 少ない食料と閉鎖感によるストレス。

 これから先はきっと余裕がなくなる。

 エロゲ―して精神的平穏を保つにも限界があるし、ここらが潮時だ。

 

「束ちゃん、絶対に好感度が上がる裏ワザを思い付いたんだけど試してみない?」

「……お前の思い付きとか嫌な予感しかしないんだけど? さっみたいな変な案じゃないよね?」

 

 あっれー? なんでそんなに信用ないの俺。

 束ちゃんに信じてもらえないなんて悲しいぞ!

 

「束ちゃん……俺みたいなザコに警戒するなんて恥ずかしくないの?」

「むっ」

 

 分かりやすくイラっとした顔。

 さぁ乗って来い!

 

「別に警戒とかしてないし。試す時間が無駄だなっと思っただけだし」

 

 唇を尖らせる束ちゃんも可愛いなー。

 

「大丈夫、俺もそろそろ限界だから本気の提案です」

「……本気?」

「うん本気。証拠として失敗したら束ちゃんに残りの食料を全部提供しよう」

「……正気?」

「うん正気。だってこっから先は殺伐とした状況になりそうじゃん。互いに精神的な余裕がない状況で喧嘩なんて始まったら殺されるの俺だし……全部掛けてもいいかなって」

「なるほど」

 

 束ちゃんが少し考える素振りを見せる。

 俺にとっては束ちゃんとのドキドキ同棲生活だけど、束ちゃんにとってはメリットがない生活だ。

 きっと乗ってくるだろう。

 

「そこまで言うなら試してもいいかも。で、どんな方法?」

「束ちゃんの好感度を測定してる最中にくすぐります」

「……なんて?」

「くすぐります」

 

 束ちゃんがポカンと口を開けて固まる。

 そこまで衝撃的な意見かね?

 

「好感度の測定ってのは何を基準に図ってるかは知らないけど、楽しい状態で測定すればクリアできそうじゃない?」

「……おぉ!?」

 

 束ちゃんがポンと手の平を叩いて相槌を打つ。

 この反応を見るに俺の提案はアリと判断したのだろう。

 

「腕輪の内部を見れてないからどんな機能があってどんな測定法をしてるかは不明だけど、笑う事によってエンドルフィンを分泌させてアルファ波を発生させれば……あり得るかも!」

 

 これはお墨付きを貰いましたわ。

 どうすれば束ちゃんの好感度が上がるのかエロゲ―をしながらずっと考えていた。

 出た結論は一つ。

 ドーピングしかあるまいて。

 吊り橋効果から始まるベタな展開が俺にこの発想を与えてくれた!

 大事な答えはいつでも近くにあるのだよ。

 

「さっそく試す?」

「試そう!」

 

 らしくもなく素直で元気なお返事。

 よしよし、束ちゃんも乗り気でなにより。

 二人で仲良く腕輪を着けてノートパソコンの前に。

 俺のターンはスキップ。

 ナース姿の束ちゃんに合法的におさわりできる――結果は言わなくてもいいよね。

 そして束ちゃんの番。

 光明を見てウキウキしてる束ちゃんの背後にスタンバイ。

 はいバンザイして。

 ではでは――

 

「こちょこちょこちょ」

「あははははっ!」

 

 束ちゃんの脇腹はあったか柔らかいぜ!

 合法的にもみもみもみ!

 

「きゃはははっ!」

「もっと笑え! 笑いの感情に全てを委ねるのだ!」

「もうやめっ……あはははっ!」

 

 目じりに涙を溜めて笑う束ちゃん。

 こんなに喜び楽しんでるならきっと機械も騙せるはず!

 脇腹の感触は名残惜しいが測定スイッチオン!

 

『どぅるるるるる』

 

 鳴り響く束さんのドラム音。

 

『じゃじゃん!』

 

 結果はッ!? 

 

【束さん、好感度77、……不正の疑いアリ。クリア扱いにするけど後でお仕置きかな?】

 

 ……クリア…………した?

 

「束ちゃん!」

「うん!」

 

 互いに顔を見合わせて、ぺチンと手を空中で合わせた。

 




し「決め手はエロゲ―、実際に仲良くなる必要はない。機械を騙せればいいんだよ(キメ顔」)

た「ハイタッチした後に余りの恥ずかしさに赤面しながらプルプルしてた」

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