俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~ 作:GJ0083
大晦日に熱だして三が日は寝正月(ガチ)して初出勤日には全開して仕事に行きました。
どなたか神様と会える場所しりませんか? えぇ、ちょと一発キツイの入れたいので。
ではFGO新章配信までの暇潰しにどうぞ。
悪くない空気の中で始まった俺と束ちゃんの飲み会。
最初の異変は飲み会開始から30分ほど経った頃だった。
それまで黙々と料理と日本酒を口にしていた束ちゃんだったが――
「……はぁぁ~」
深いため息と共に動きが止まった。
「どうしました?」
お猪口を見つめたまま動かくなった束ちゃんに話し掛ける。
もしかして酔いが回ったかな?
酔った束ちゃんに膝枕を! 酔った束ちゃんに赤ちゃん言葉を! ここで弱みを握ってこの箱庭で絶対な優位を得る!
「……まれ」
「はい?」
「黙れ」
「はい」
姿勢を正して両手は膝の上に。
あっれー? 束ちゃんの声めっちゃ怖いんですけど?
束さんと関わってきた経験が逆らうなって言ってる。
「んくっ……ふぃー」
束さんの口から熱い吐息が漏れる。
……もうそろそろお酒は止めた方がいいのでは? うん、飲み過ぎは良くないよね。
「あの……そろそろお開きに」
「あぁん?」
ギロリと睨まれた。
目が据わってるじゃんアハハ。
うっかり魔王封印解いちゃったモブの心境ですわ。
俺、またなにかやっちゃいました?
「気持ち悪くなったりしてません? ね、水飲んで休みましょうよ」
「……黙れって言ったよね?」
「うす」
ひと睨みですごすごと引き下がる。
酔った勢いで命の危機になるのは予想外だわ。
「たばねさー、意識を取り戻した後少し興奮したんだよね。知らない部屋に成長した体、目の前のパソコンには未来の知識が詰まってて……なのに……ぐすん」
泣いたー!
そりゃあね、ドキドキ未来体験かと思ったら見知らぬ男と密室で二人っきり。
限られた食料は同居人に握られ、なんとかしようとしても口八丁で逃げられる。
普通の小学生だったら泣くわ。
いや普通の小学生相手だったら俺ももっと優しくするけどね?
「ねぇ」
「はい」
「これでもたばねは我慢してるんだよ」
そうだね、凄く我慢してるのは伝わってくる。
イヤイヤ渋々で俺の相手してる顔してるもの。
「だいたいさー、なんでたばねが巻き込まれてる訳? 実験体なら自分でやれよクソがっ!」
「はい」
束ちゃんも束さんも同一人物だからね?
俺は束ちゃんで嬉しいよ。
束さん相手だったら食料を巡って争ったからな。
むしろ一方的に奪われてたまである。
「お前もいい加減にしろ。死体と暮らしたくないから我慢してるって理解して欲しいんだけど」
「はい」
密室で腐った肉と一緒って嫌だもんね。
わかるわかる。
「処理が面倒だけどさー、殺した後に包丁で分解して肉をトイレに流すって方法もあるんだからね?」
暗く輝く目の奥にあるのは、本気だという意思。
そっかそっか、肉を削ぎ落してトイレですか。
……束ちゃんがめんどくさがり屋で本当に良かった!
「……ビールがない」
束ちゃんが全部飲んじゃったもんね。
自分用に用意した分しかないから、量は多くなかった。
だがまさか全部いかれるとはッ!?
ないものないんだからそんなに睨まないでおくれ。
「……日本酒」
残り半分切ったんだが?
頼むから俺の分は残しておいてくれ。
「ふぃー……、ねぇ、一度でいいから殴らせてくれない?」
「嫌です」
「うぅぅぅ……なーぐーりーたーいー」
今度は額をちゃぶ台に押し付け、ぐでぐでと甘えた声を上げる。
この一面だけ見れば可愛い子供の我儘。
だが内容がちっとも可愛くない。
「こんなザコに……ザコにいい様にやり込めれた自分が憎い!」
今度は泣き上戸ですか。
まぁ不機嫌になられるよりはましか。
「一発殴らないとたぱねの怒りが収まらない! だけど殴ったらたばねのプライドが傷付く!」
そこで躊躇するのがお子様なのだよ。
他人の評価なんて気にせず殴ってけ。
それが束イズムってもんだ。
「どうしたらお前を殴れるかな? どうすればいいと思う?」
それを俺に聞くんかい。
そのくらい自分で考えなさい。
「ねぇ、教えて?」
束ちゃんが少しだけ身を寄せて来て俺を見つめる。
お酒で充血したお目々で上目使いとか最高かよ! くっそ可愛い!
そんな上目使いでお願いされたらお兄さんなんでも答えちゃうぞ!
「痛みを与えてスッキリしたいだけなら、デコピンとかしっぺでいいのでは?」
「デコピンにー」
ビュッ!
たばねちゃんが指をデコピンの形に作り試し打ちする。
唸る風切り音! 見えない指先! 果たして俺の頭蓋骨は耐えられるのか!
「しっぺねー」
スパンッ!
仮想俺の腕である空きビール缶の一部が爆ぜた。
俺、生きて夜明けを迎えられるかな?
「まぁ確かにこの程度なら暴力判定じゃないね。よし、やろうか」
「うん、ちょっと待とうか」
ごめん待って、本当に待って。
前にしっぺとかやられた事あるけど、ここまで威力はなかったはず。
大人の体に子供の心……さてはスペックに振り回されてるな!?
「なんで? お前がやろうって言ったんじゃん」
「やろうとはまでは言ってないよ!? いやね、束ちゃんって今は大人の体じゃん。力加減とかどうかなー? ってね」
「その辺は目が覚めたから直ぐに把握した。流石は大人のたばね、中々良い体だね」
流石の勤勉さ! なら安心だな!
……つまり篠ノ之束の肉体スペックを扱いきれてると? なら案心だな!
「もうこの体に慣れたし大丈夫! ほらほら」
見せつけるかの様にビール缶を素手でコネコネしてる。
あっれー? アルミ缶ってあんなネリケシみたいに出来るんだっけ?
人間の指先って鍛えればあぁなるんだすげー……ではなく!
俺が心配してるのはそうじゃないんだよ束ちゃん!
「さぁやろう!」
「初めて見る満面の笑み!? なんかやたらワクワクしてない!?」
「お前の目に恐怖が見えるから楽しい。痛いの嫌いなんだね」
このドS小学生め!
酔ったせいか、それとも酔ったおかげが、どちらにせよ今の束ちゃんはしっかり俺を見ている。
ちゃんと俺の感情を読めるようになったね偉い!
でもこのタイミングの成長は望んでねぇ!
「デコピンとしっぺ、どっちがいい? 選ばせてあげるよ」
「そもそもなんでやる流れに? こういった罰ゲームはやるにしても理由がないと」
「理由……理由ね、ちょっと待ってて。ほい」
束ちゃんが自分の横の畳を上から叩くと、まるで跳ね橋の様に畳が跳ね上がる。
なにその素敵機能。
俺の家にも作って欲しい。
「よいしょ」
束ちゃんは畳の下に入って行く。
地下室的な空間があったのか。
「その場所はなんです?」
「たばねの私物置き場。覗いたら爪剥がすから」
「らじゃ」
上げかけてた腰を降ろす。
タンス的な物がないから着替えとかどうしてるのかと思ったが、どうやらそこにあるらしい。
「ほい」
「おっと」
穴の中から顔を出した束ちゃんが何かを投げた。
受け止めた手に伝わる感触は……服かな?
何かを丸めたもの。
広げてみると――
「……は?」
大きな窪みが二つ。
メロン入れかな?
最近のメロン入れは入れ物なのに模様があるなんて凝ってるな。
まるでブラジャーじゃないか。
あ、自分で言っちゃった。
「それ、大人のたばねが用意した替えのブラジャー」
「あばばばっ!?!?」
「未使用の新品だけど」
スンと感情が抜け落ちた。
いくら童貞でも未使用のブラジャーで取り乱したりはしない。
下着売り場の前は気まずくて通れないけどな!
「お前はたばねのブラジャーを持っている」
「持たされてるんですが!?」
「グーパンとデコピンとしっぺ、どれがいい?」
しれっと混ざるグーパンの恐怖よ。
そしてこんな雑な方法で罰ゲームとか正気ですか束ちゃん!
「んふふー。日本酒うまっ!」
酔っ払いだったね束ちゃん!
「選べ。さもないとそのブラジャーをお前の口に突っ込みその様を写真に残す。んで処分は大人のたばねに任せる」
「デコピンでお願いします!」
束さんに選択を委ねる気はない!
未使用品とか束ちゃんの無理強いとか、そんな言い訳を無視して嬉々として襲い掛かってくるだろう。
なので大人しく束ちゃんに付き合う。
デコピンとしっぺならデコピンが無難なはず。
しっぺは皮膚を剥がされそうだけど、デコピンで頭蓋骨は割れないはず。
俺は自分の頭蓋骨を信じる!
「んじゃおでこ出して」
「へい」
前髪を上げておでこを丸出しに。
酒の匂いをプンプンさせて笑顔で近付いてくる束ちゃん。
いい笑顔してやがる。
その笑顔を見れただけでも飲み会を開いた甲斐があった!
さぁ来い!
バゴンッ!
衝撃で頭が弾かれ意識が飛びかける。
視界が点滅し……気絶なんてさせないぞと、そんな硬い意思を持ったかの様な痛みが襲ってきた。
篠ノ之束が与える痛みは人に気絶での逃避を許さないのだ。
「がァァァァ!?」
いったッ!? 痛い! 痛い痛いイタイイタイイタイッ!
「うごごごご!」
額を押さえて畳の上を転がる。
割れてない? 俺の頭蓋骨割れてないこれ?
「くすくすくすっ」
無邪気に笑う束ちゃんの声は可愛いなー!
お前まじこらお前!
ダメだ痛みで呻き声しか出せねぇ!
「ねぇ痛い? 痛い?」
キャッキャッと楽しそうにはしゃぐ束ちゃんは可愛いなー!?
ここまでしないと笑顔を見せてくれないとか流石は束ちゃん。
選択肢には名前は出るけど専用ルートが実装されてないキャラ並みに理不尽だよ!
「あー痛かった。……なんか手の平に血が着いてるんですが?」
束さんの笑い声を聞きながら我慢すること数分、やっと痛みが引いてきた。
おでこを押さえていた手の平を見ると血がびっちゃり。
なんか結構な量の出血があるんですが?
「皮膚が割れたのかな? まぁ分類するなら軽傷だから問題なし!」
問題ありまくりだよバーロー!
あんな鈍器で叩かれた様な音がすればそりゃ血も出るわ。
「血ってさ、完全栄養食なんだよね」
束ちゃんが自分の指先を見ながらそんな事を言う。
指には俺の血が着いていて、束ちゃんのデコピンの威力を物語っていた。
「水分、鉄分、各種ミネラルに加えてタンパク質もある」
「……だから?」
「あむ」
束ちゃんが血に染まった指先を口元に運ぶ。
口をもごもごと動かし、ゆっくりと引き抜かれた指先は唾液でテラテラと輝いていた。
――女性が指を咥える姿はクルものがありますな!
例えその指先が真っ赤に染まってたとしても!
「……しょっぱ美味い」
血液と皮膚の塩分かな?
「そして……」
束ちゃんがお猪口を口に運び、にんまりと笑った。
「日本酒と合う」
唇を舌で舐める姿は小学生とは思えないほどに色っぽい。
是非ともロリ束ちゃんの姿でやっほしかった。
束さんでも色っぽいけど、これがロリ束ちゃんの姿だったら憤死ものだっただろうな。
「昔は塩や味噌が酒のツマミだったらしいですね」
「そうなんだ。それってつまり…………血はツマミだね?」
「その結論はおかしい」
確かに塩分とアルコールは相性良いけどそれは違うでしょ。
ねぇ、なんでウサギが肉食獣の目付きしてるの? なんでにじり寄って来るの?
や、やめっ――
「もっと飲ませろ!」
「この酔っ払いがッ!」
飛び掛かって来る束さんの腕を押さえ込み……られねぇ!
知ってた! 篠ノ之束と取っ組み合いで勝てる訳ねぇ!
両の手首を片手で抑え込まれ、俺はあっという間に組み伏せられる。
わー、にこにこ顔の束ちゃんのドアップだ可愛いー。
「がぶっちゅ」
「んがっ!?」
額に吸い付かれた!?
待って束ちゃん! 俺は指先を刃物で切って時、それを美少女幼馴染に咥えて欲しい願望はあるけどこれはなんか違う!
こっちは童貞だぞ! こんな高度なプレイに対応できるか!
「んく」
満足気に酒を飲みやがってクソがッ!
よーし、落ち着け俺。
逆らたって勝てない。
ならば今を楽しもう。
……猫のコスプレした束ちゃんが甘えて顔をペロペロ。
これならイケる!
「よっしゃ来い!」
束ちゃんと俺はラブラブカップル! そんな妄想をすれば血をツマミにされる事くらいなんでもないさ!
酔った勢いでイチャラブしようぜ!
「……うぷ」
……うぷ?
「き゛も゛ぢ゛わるいっ……」
あー、酔いが本格的に回ったか。
本当にしょうがないな束ちゃんは。
このタイミングでそれはないだろ!
こっちが覚悟決めたタイミングでこれだよ!
「あ、だめ……吐きそう」
さっきまでのハイテンションはどこへやら。
今は青い顔をして口を押えている。
うんうん、これがお酒の恐怖だよね。
楽しく騒いでたのに急に具合が悪くなる。
あるあるだわ。
「取り敢えず吐いてきたら? それでスッキリするから」
「……そうする」
束ちゃんがよろよろと俺の上からどいた。
足を震えさせながら立ち上がり、ふらふらとトイレの方へ。
産まれたばかりのカモシカの様に震えてるよ。
めっちゃ背後からツンツンしたい。
弱った束ちゃんも可愛いよ!
つまりどんな束ちゃんも可愛いって事だ。
「あっ……(束ちゃんがちゃぶ台に足をぶつけよろける)」
「あっ……(前に倒れた束ちゃんを咄嗟に両手で支える)」
「……こぷっ(受け止められた衝撃で束ちゃん終了のお知らせ)」
おぼぼぼぼぼぼォォォォ!
スローモーションで見える束さんの口を見ながら、生存本能が一瞬の隙に酸素を肺に入れて口を閉ざさせる。
瞳を閉じた顔に生暖かい液体が当たり、額のキズがアルコールのせいかズキズキと痛んだ。
おげっ…………おぼぼぼぼっ……
束ちゃんはまだまだ出したりないらしい。
しこたま飲み食いしたもんね。
あぁ、俺は今はビールと日本酒と鶏肉と自分の血を浴びている――
「……うごっ」
なんか汚い最後っ屁が聞こえたが液体は飛んでこなかった。
もう終わったかな?
目を瞑ったまま立ち上がり手探りで台所へ。
水で顔を思いっきり洗う。
襟や袖が濡れるが構わない。
だって今はもっと汚い汚水浴びてるからな!
「ぷはっ!」
呼吸を我慢してたから酸素が美味い!
んでもって臭い!
酸っぱい匂いが染みついてるよこれ。
一言文句を言おうと背後を振り返ると、束ちゃんが四つん這いになって固まっていた。
「水飲みます?」
なんか可哀想って感情が大きすぎて追撃出来なかった。
「…………飲む」
顔を上げて座り直した束ちゃんはボケーと虚空に視線を向ける。
「ほい」
「あんがと」
コップを受け取った束ちゃんは美味しそうに水を飲み干す。
大丈夫、この程度ので俺の束ちゃんへの愛はなくならないさ! たぶん!
「………んあっ」
フラフラと束ちゃんの頭が揺れ、床に倒れこむ。
そしてそのまま猫の様に体を丸めて動かなくなった。
「束ちゃん?」
急性アルコール中毒って単語が脳内をよぎる。
恐る恐る声を掛けるも反応がない。
「くかー」
緊張して強張った筋肉が一瞬で緩まった。
寝落ちしただけかい。
しかし――
「くぴー」
嗜虐的な笑みを浮かべる束ちゃんは可愛い。
青い顔でプルプル震える束ちゃんも可愛い。
だが口から酸っぱい匂いをさせ、ゲロ溜まりの真横で寝る束ちゃんは……
「いや無理だわ」
流石にこの状態の束ちゃんを可愛いと思えない!
だって口元になんかの固形物が着いてるし!
同人誌でも女の子を酔わせて――なんてシチュエーションがあるけど、現実なんてこんなもんだよな。
現実の酔わせてプレイなんて特殊性癖の変態しか楽しめないんや。
この悪臭漂う中では寝てる束ちゃんにイタズラとか、そんな気持ちもしぼんでしまう。
もう今日はお開きでいいだろう。
まずは、シャワー浴びてから止血だな。
「くぴぴー」
束ちゃんは放置で。
「手強い戦いだった」
額の血を止めたかったが、それよりシャワーを浴びて綺麗になりたかった。
頭を洗ってる最中も痛むが、止血してからのシャワーでは意味がない。
なので痛みを我慢して頭と顔を洗った。
一回の洗髪で匂いが落ちないのが無性に悲しかったわ!
やっと匂いも落ちて綺麗になり、額にガーゼを当てて止血を終えた俺を迎えたのは――
「んむにゃ」
汚物の真横で幸せそうに寝る束ちゃんである。
さーて、この状況どうするか。
畳の汚物は明日束ちゃんに片付けさせよう。
んで束ちゃんは本体は……このままじゃマズいよな。
寝返り打って顔からダイブして窒息死とか怖いもん。
なので一人用テントを拡張領域から取り出し、タオルケットを敷く。
流々武を両腕だけ展開して束ちゃんを抱き抱える。
「くー」
抱き抱えた事で束ちゃんの寝顔が近付く。
本当に顔だけ見れば天使だな。
でもその天使の口から吐き出される悪臭ってどう思う?
正解は――泣きたくなる残念さがある。でした!
「ていっ」
「うー」
束ちゃんをテントに投げ込みしっかりとジッパーを閉める。
これで平和になった。
俺も大人しく寝ようっと。
◇◇ ◇◇
「み゛ゃぁぁぁぁ!?」
「――ッ!?」
突然の奇声で目が覚める。
なんだ今の? 首を絞められたニワトリの断末魔か?
「くっさ!? なにこれくっさ! ……やっぱくっさ!?」
あぁ、束ちゃんの断末魔か。
そりゃ吐いた後に歯を磨かず口も漱がなきゃ臭いに決まっている。
さ原因は分かったし俺は優雅な二度寝に興じよう。
「なんでたばねはテントに? 取り敢えず脱出! って外もくっさ!?」
うるさいなー。
「……なんで畳の上に汚物が?」
お前の汚物だよ。
「……あ」
その“あ”は昨夜の事を思い出した“あ”だな。
「えっと…………アレに片付けさせるか」
そのアレが俺を指してるなら断固として断る。
「おい」
テントの外から声が聞こえるが……うん、きっと独り言だろ。
「おーい」
朝ご飯までには片付けてくれるといいなぁ。
流石にあの悪臭漂う中で食事はしたくない。
ジー
ん? 入り口のジッパーが上がる音が。
幼馴染ヒロインよろしく可愛く起こしてくれるなら少しは考えてやろう。
「ふぅー」
「……くっさ!?」
「たばね相手に寝たふりとか良い度胸じゃん」
臭い息をテント内にまき散らすとかテロ行為では!?
悪臭に負けて思わず飛び起きるとジト目の束ちゃんと目が合った。
小学生の束ちゃんが朝起こしてくれるイベントはもっと色気か可愛いが欲しかったよ。
ゲロ臭で起こされるとか……現実はどこまでも残酷だ。
「おはよう汚物」
「汚物っ!?」
「外のゲロは自分で片付けろ。それが終わるまで飯抜きだ。それと臭いから入り口閉めろ」
「言い方が辛辣っ!?」
なんでかショックを受けてる様子。
篠ノ之束だろうと口の周囲にカピカピに乾いたのゲロをくっ付けてたら汚物扱いされるんだよ。
「一応アドバイスするけど、身綺麗にする前にゲロを片付けた方がいいよ。ほら、顔を近付けると匂いでもらいゲロとかしちゃうから」
「こっちの反応を無視して合理的なアドバイス!?」
酒飲みにはゲロの掃除は通過儀礼だからね。
もちろん俺も経験済みだ。
ありがたい助言だろ?
義理を果たしたのでもう終わりでいいかな。
驚きで前かがみになってる束ちゃんの肩を押して外に押し出す。
ジッパーを閉めて――
「って待て~い!」
ジッパーの隙間に手を差し込まれ密室の完成を阻止される。
往生際が悪いぞ束ちゃん。
しょうがないのでジッパーを上げて束ちゃんとご対面。
「何用です?」
「えっと、その……畳の上の片付けて欲しいなぁ~って」
アレにやらせようとか言ってクセに随分と下手に出るじゃないか。
さては俺の対応が冷たかったから作戦を変えたな?
ここで力技に出ないのは良い事だ。
代わりに掃除ね~?
まぁしてもいいけど、タダって訳にはいかんよね。
「条件がある」
「……一応聞こうか」
「『お兄ちゃんお願いっ♪』って可愛く言ってくれ」
「……その行為にどんな意味があるのかな?」
「俺の心が満たされる」
「そーなんだー」
目元と口元が怒りでヒクヒクしてやがる。
人を動かすのに対価を払いたくないなんて我儘ってもんだぜ束ちゃん。
「無理にとは言わない。でも先輩として忠告しとくけど……自分のゲロを四つん這いになって掃除してる時、とてもつもなく悲しいぞ?」
いや本当に涙が出るくらい情けない気持ちになるからね。
束ちゃんはあーとかうーとか唸りながら葛藤している。
自分を当てはめて想像しているんだろう。
そして徐々に意気消沈していき――
「……お兄ちゃんお願いっ」
ついには折れた。
羞恥と屈辱と怒りで顔を赤くし、嫌々ながらもお願いする様子はツンデレ妹感があって可愛かったのでよし!
「たばね復活!」
真新しい服に着替え、心身ともに綺麗にした束ちゃんが現れた。
よっぽど磨き上げたのかキラキラ輝いてるエフェクトが見える。
そんなに束ちゃんに俺を用意しておいた衣装をポンとプレゼント。
「これは?」
「朝ごはんを食べる為の服」
「ガッデム!」
いつもの服装も嫌いじゃないけど、せっかく束さんを好き放題コスプレできる権利があるのに使わない訳なんだよなぁ。
「今度こそ復活!」
「お帰り束ちゃん」
「ねぇ、この服って」
「私物です」
「だよね」
むき出しの太ももと二の腕。
お尻のフォルムとはっきり分かる紺色のパンツと胸の形がよく見える白い上着。
やはり体操着は最強じゃけぇ!
まさか束さんにブルマを履かせられる日がくるとは――
「クルっと回ってみてください」
「んっ」
ブルマと言えばそう……お尻だ!
おっぱい派だが尻が嫌いだとは言ってない!
ブルマが少し食い込んで太ももととお尻の境界線見えるのがグッド!
「ぐすっ……生きてて良かった」
「閉鎖空間に閉じ込められて食料難のこの状況でその感想が出るんだ?」
束ちゃんのブルマ姿を見れたので今の所は収支はプラスですね。
昨夜の事も許せる。
「それにしても綺麗になったね。匂いも……うん、マシになった」
束ちゃんが鼻をヒクヒクと動かし安堵の表情を見せる。
持ってて良かった制汗スプレー!
服なんかの匂いを取るファブ的なものはなかったけど、制汗スプレーだけは持っていたのだ。
キャンプ先にお風呂があるとは限らないから必需品なんだよね。
それを畳に使ったんだが、多少は効果があって良かった。
「それでご飯は?」
「ラーメンです」
「別に朝からラーメンに文句はないけどさぁ……しょぼくない?」
一袋のラーメンを半分にしてトッピングは同じく半分に切ったウィンナー一本と輪切りにした人参が三枚。
確かに寂しい。
まったく、誰のせいだと。
「どっかの誰かが貴重な食料を酔った勢いで暴食して汚物に変えたせいで、これからは毎食こんな感じです」
「たばねラーメン大好き~!」
小学生感全開で逃げたよ。
そんなキャラじゃない姿を晒してでも昨夜の事は話題にされたくないのか。
「で、束ちゃん」
「ずるずる……朝ラーってアリかも」
「食料の底が見え始めたのでそろそろ焦らないといけないと思うんですよ」
「そだねー」
「人間が仲良くなる為には心理学に基づいた動きをするべきだと具申します」
「ほーほー、具体的には?」
「束ちゃんに俺を慣れさせる。パーソナルスペースに俺が居ても気にならない様にする為に常に引っ付いて生活しましょう」
「え? 普通に嫌だけど?」
「ですよねー。でも今は本当に手詰まりなのです。今のペースで仲を深めるとそれまでに食料が尽きそう」
「困ったねー。頭脳なり身体能力なりが高くて生き物としてそれなりの価値があれば良かったんだけど」
酔って人の顔にゲロをぶちまけた女がなにか言ってますわ。
しかないなーと、やれやれ口調で上から目線のセリフにイラっとしますよ。
「おいゲロ女」
「なんだい低能」
「人を作ったラーメン食べながら随分と毒を吐くじゃないか」
「ラーメンが美味しいのは乾燥麺を作った製作者の実績じゃない? 無能な人間ほど他人の手柄を横取りするよね。ん、うまかった」
最後の汁まで飲み干した束ちゃんが両手を合わせる。
ブレねーなこの野郎ッ!
あれだけの醜態を晒して未だにこの天災ムーブ。
ある意味尊敬する。
「でもまぁなんとかなると思うよ?」
「その心は?」
「たぶん大人のたばねがなんとかする。色々考えたんだけどさ、こっちの食料事情によっては救済措置があると思うんだよね」
「束さんが? どうかなー、個人的には食料を巡って争う姿をニヤニヤすると思うけど。それにいくら束さんでも未来の食料事情なんて分からないじゃん」
「冷蔵庫に重量センサーを設置したり、監視カメラに体脂肪を測定する機能を持たせたりとか方法は色々ある」
「で、一定以下の基準になるとお助け束さんが出現すると。んー、束さんなら苦も無く実装出来そうなシステムだけど、そこまでするかな?」
「たばねとお前が早々に仲良くなるなんて思ってないはず。なら前みたいに景品を用意したゲームを催すと思うんだよね」
「なるほど、ゲームを通じて仲良く遊べと。……食糧を巡って争う姿に変わりないのでは?」
限られた食料を奪う戦いか新たな食料を奪う戦いかの違いしかないじゃん。
どっちにしろ趣味が悪い!
だが上手い手だ。
束ちゃんの言う通り食料を奪い合うゲームが用意されてるとして、たぶん協力系もあるだろう、
だってそうじゃなきゃ俺がひたすら奪われるだけで仲良くなる機会なんてないからね!
「それにきっと大人のたばねは食料切れで実験が中断するなんてつまらない結果を求めていない。だから実験の期間を延ばす為の何かがあると思う」
「なるほどね~」
束ちゃんの意見を聞くに普通にありそうだ。
食べ物がなくなったので実験中止! なんて許さなそう。
なら食料面は大丈夫か?
俺は束さんが善意で食べ物を用意するなんてこれっぽっちも思ってないけど、束ちゃんの言う通り実験の早期中断の阻止と俺と束ちゃんの中を取り持つ役目、そして食料を巡って争う二人を見るという三つの利点があれば用意してくれそう。
「ところで束ちゃん」
「ん?」
「一応好感度見てみない? 一緒にお酒を飲んだ仲だし、少しは上がってるかも」
「……無駄だと思うけどなー。まぁ気になるならいいよ」
はいそんな訳で二人で仲良く好感度測定の時間です。
俺の好感度はゲロ事件でだいぶ下がったが、ブルマ姿で持ち直したので大丈夫。
問題は束ちゃんだな。
『どぅるるるるる』
相変わらずの良いドラム音。
着信音に設定したいぜ。
『じゃじゃん!』
【しー君、好感度95、もう束さんしか見えない。過去の束へ、性的に変な事されたら躊躇せず潰せ】
【束さん、好感度22、プラチナコガネレベル、世界一綺麗なコガネムシ。しー君頑張ったね】
「未だにコガネムシじゃねーか!」
貴重な酒と食料を提供してまだ虫なのかよ!
せめて哺乳類になりたい!
「たばね、昨日は流石に悪い事したかなーって思ってたんだけど、この好感度の高さ……マゾなの?」
「あ、悪いとは思ったんだ。寝起きは好感度50だったけどブルマで+45だね」
「たばねの半分はブルマで出来ていた!?」
「まったく、俺は色々と手を掛けて好感度を維持してるに束ちゃんときたら……しょうがない子だなー」
「まったく、俺は色々と手を尽くして好感度を維持してるのに束ちゃんときたら……しょうがない子だなー」
「堂々と言えばディスるのが許されると思うなよ?」
これだけ尽くしてまだこの好感度なのか。
いやでも……相手が篠ノ之束と見れば上々の結果と見るべきか?
少しでも上がったからよしとしよう。
取り敢えずは今のまま関係を維持して地道に上げるしかないか。
なんで俺はこんな苦労をしてるんだろな?
『やーやーお二人さん元気にしてるかな? そっちは何日目かは分からないけど束さんが遊びに来たよ! あぐあぐ――ケバブうめー。あ、こっちは昼食時なので食べながら失礼』
なんもかんもお前のせいだバカ野郎!
「やっぱり出てきた。冷蔵庫の中身が減ったからかな? ……これみよがしに肉をアピールしてるね」
ちゃぶ台の上に降臨したホログラムの束さんはこれ見よがしにケバブを見せつける。
束ちゃんもイラっとする束さんのケバブアピール。
普通に美味そうだと思ってしまう自分が憎い!
よーしよし、そっちがその気なら――
『この映像が流れるって事は二人ともロクな食事取れてないはず。可哀想な二人に天災からの試練を――』
「うおぉぉぉぉぉ!」
「え? ちょっと急になにを――」
ちゃぶ台の上に登ってまずは束さんのおっぱいに顔を押し付ける!
ぐへへ、ぱふぱふしやがれ!
次はそのケバブの油が着いた口だ! 俺が舐めましてやんよレロレロ!
尻も揉ませろ! 分かるか束さん、俺は今はお前の尻に顔を埋めてるぞ!
ホログラムだからって調子に乗るなよ!
俺は! ホログラムでも! エロい気分に! なれる!
「邪魔!」
「おぶし!?」
足を蹴られてちゃぶ台の上から転げ落ちる。
「いたた……急に暴力とかどうした? ストレス溜まってんの?」
「いや純粋にウザかったから」
「それはごめん」
『――では健闘を祈る!』
束さんのホログラムが消えた。
セクハラに夢中でなにも聞いてなかったよ。
「束ちゃん、束さんはなんて?」
「さぁ? たばねも知らない」
「聞いてなかったの?」
「お前の奇行のせいだよ! 脳が一瞬情報の処理を拒否した!」
「人の行動に目を奪われるなんてまだまだお子ちゃまだな」
「コイツ――ッ!」
拳を震わせてどうしたのかなー?
しかし束さんのホログラムにセクハラするのは楽しいな。
良いストレス発散を見つけた。
毎回してやろ。
ボトッ
天井からボクサーグローブが二つ落ちてきた。
「……これでなにしろって? 紐を結んで縄跳びとか?」
「どう見ても殴り合えって事じゃん。あ、パソコンのデスクトップに鐘とタイマーがでてきた」
なんで早々に着け始めてるの?
「マジックテープ式だし随分と分厚い……子供の玩具かな? ま、なんとかなるか」
シュ! シュシュ!
なんでそうなにウキウキとシャドーボクシングしてるの?
「ねぇ、着けないの? それともハンデとして素手でやりたいって意思表示? たばねは構わないけど」
「やったるわい!」
ボクシンググローブを用意されてボクシング以外にやる事ないよな!
商品は分からないが俺が貰ったる!
ちゃぶ台を端に寄せてグローブを装着する。
そして束ちゃんと向き合う。
真っ当な殴り合いで勝てる訳がない。
ならば初手から奇策で行くのみ!
カーン!
「必殺クリンチ!」
「チョッピングライト!」
本来なら元旦に投稿予定だったの下種ネタが多めなのです!
し「必殺クリンチ!(抱き着き)」
た「チョッピングライト!(打ち下ろしの右ストレート)」