俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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友達の妹の旦那って限りなく他人な人とゲームする機会がありましてね。

顔面偏差値と年収が負けてるのは許そう。
でも俺よりゲーム上手いのはあんまりだろォォォ!(血涙)
やっぱデキる奴はなにやってもデキるんだよ(諸行無常)


たばねさんじゅっさい②

 目が覚めたら見知らぬ部屋に居た。

 気分的には寝起きの感覚。

 脳がぼんやりと機能してない中、目の前の机に置いてあるノートパソコンに【おはよう】の文字が見えた。

 パソコンに触れると、自分がどんな実験をしたのかが分かった。

 

 ――過去への回帰。

 

 脳への電子刺激で記憶の一部を封印し、それに催眠術を組み合わせて人格を限りなく過去の自分に戻す実験。

 我ながら面白い実験だ。

 記憶を消すだけなら簡単だが、意図的に狙った年齢に精神を戻すのは難しい。

 だが、それでも許せないものがある。

 パソコンにある“友達”の情報がたばねを苛立たせる。

 友達なんて無駄な生き物に関わるなんて、大人のたばねは堕落したらしい。

 たばねはこの実験に協力する必要はないのだ。

 実験のタイムリミットは二週間なので、今から来るであろう他称友達から食料を奪って時間が過ぎるのを待っていればいい。

 だけどそこは大人の自分と言うべきか、実験を放り出さない様にたばねにご褒美を用意してあった。

 それは“親友”の情報である。

 篠ノ之束が認める自分と同価値の人間。

 これは是非とも知りたい。

 だから他称友達と実際に会って、場合によっては協力してもいいか――なんて思っていた。

 うん、大人のたばねが“友達”と認める人間を甘く見てたのは認める。

 

 ――ねぇ大人のたばね。

 ――コイツ、頭おかしくない?

 

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

 

「ぐしゅ……あむ、はふはふ」

 

 束ちゃんは久しぶりの食事なのでお粥を用意した。

 束さんの胃腸なら気にする必要もなさそうだけど、一応の配慮だ。

 

「熱いから気を付けて食べるんだよ」

 

 ちょびちょびお粥を食べる束ちゃんの頭を撫でる。

 

「……触るな」

 

 お粥を食べながらギロリと睨む。

 だが手を払ったりしないし、睨むだけで攻撃もない。

 この野良犬に餌付けしてる感がたまらんっ!

 可愛いぞ束ちゃん!  

 

「しかしまさか束ちゃんが泣くとは……まだまだお子様ですな」

「だって泣く事で感情を消化しなきゃお前を殺しそうだったんだもん。仕方がないじゃん」

 

 はい束ちゃんの頭から手を放します。

 牙を見せて唸ったら触るの止めないと危ないからね。

 

「お茶」

「へい」

 

 ごく自然にパシッて来るな。

 まぁいいけど。

「次からはちゃんと対価貰うから」

「パンツは断る!」

「うん、それに関しては悪かった。初っ端からスロットル回し過ぎたのは反省。なのでコスプレ程度にしときます」

「……コスプレ」

「束さんは常時コスプレの女だけど、束ちゃんはコスプレするの?」

「今はヘンゼルとグレーテル」

「まさかのチョイス」

 

 一人二役してるのかな?

 上半身が男の服で下半身がスカートとかだろうか。

 レベルの高い小学生だ。

 

「慣れてるなら食事中は俺が用意したコスプレを着るのが対価って事で。別にご飯が要らないなら拒否してもいいですけど」

「ごはん……コスプレ…………」

 

 悩んでる悩んでる。

 女子小学生にパンツ見せるはないよね。

 普通に犯罪だわ。

 コスプレならセーフ!

 期待してるよ束ちゃん!

 

「なんでたばねはこんな目に」

 

 束ちゃんが仕事に疲れたサラリーマンの様に湯呑でお茶を飲む。

 見知らぬ男と密室で同棲とか疲れるよね。

 俺は今の状況楽しんでるけど、束ちゃんのストレスは計り知れない。

 可哀そうだけど可愛い。

 ちょっと弱ってる感じがキュンキュンする!

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方、食後はストレス緩和の為に束ちゃんを放置していたが、夕飯の時間になったので動き出す。

 テントから出ると束ちゃんと目が合った。

 無視しないとは、これは良い兆候。

 やはり篠ノ之束と言えど人間。

 三大欲求には抗えないと見た。

 

「覚悟は?」

「決まった。なにかするにも脳に栄養が回らないと動けないし」

「了解。体調はどうかな、重めと軽めどっちがいい?」

「重め」

 

 うむ、素直でよろしい。

 ならばラーメンにしようか。

 袋ラーマンを二人で分けて、具材はもやしとゆで卵だな。

 と、その前に――

 

「はい、じゃあこれ着てきて」

「……契約は守る」

 

ウキウキで用意したコスプレ衣装を入れたビニール袋を用意する。

 嫌な顔をしながらもビニール袋を受け取った束ちゃんが脱衣所に入っていく。

 もしかして束さんより素直なのでは?

 暫くは束ちゃんの好感度稼ぎ……なんてもったいない真似できるか!

 今遊ばなくてどうする!

 大丈夫大丈夫、束さんは天邪鬼だから変に正面から付き合うより馬鹿やった方がいいって。

 

「ねぇ」

「早い着替えだね束ちゃん。今はゆで卵作ってるから待ってね」

 

 背中越しに束ちゃんに返事をする。

 まだだ、まだ振り返るのは早い。

 だってまだコスプレ束ちゃんを見る覚悟が決まってないから!

 流々武ヘッド装着!

 

「ん? それってISの頭部?」

「ですよ」

「なんで?」

 

 それはね……お前の艶姿を記憶する為だよッ!

 さぁいざご対面!

 

「……おぉ」

 

 振り返り束ちゃん全体を視覚に収める。

 口から漏れるのは感嘆の声。

 白い太もも、むぎょっと寄せられた窮屈そうなおっぱい、不機嫌な顔。

 全てが素晴らしい!

 篠ノ之束のスク水姿とか今後一生見れないかもだ。

 この映像を全力で脳膜に刻み込む!

 俺、幸せです。

 

「ふーん、ヘルメット型なんだ? ってそうではなく!」

「ではなく?」

「なんでコスプレがスク水なのさっ!」

「なにか問題でも?」

「あるよ! 問題ありまくりだよ!」

「小学生でしょ? 着慣れてるのでは?」

「大量の汚物が浮いてる汚水なんかに浸かれるかっ! たばねはプールの授業に出た事ない!」

 

 いや言い方が悪い。

 海に囲まれ大小様々な川が流れる日本では泳げる技能は大事よ?

 どうせ授業に出なくても泳げるんだろうけどさ。

 

「なんで大人のたばねサイズのスクール水着があるの!?」

「俺の私物だからです」

「なんで胸元に“たばね”って書いてあるの!?」

「入魂の一筆です」

「お前おかしいよ!?」

「束ちゃんに言われるなら本望です」

 

 スク水姿で騒ぐ束ちゃんてばなんて愛らしい。

 密室って点が更に興奮度が増すね!

 

「はい、これ追加装備ね」

「コスプレに追加装備とは?」

「スク水にはランドセル(赤)を合わせるに決まってるだろ」

「たばねが知らない常識っ!?」

「大人の常識だから知らないのも無理ない。覚えとくといいよ」

「そんな意味のない情報に脳の容量を取らせてたまるかっ!」

 

 ふがーと荒ぶる天才小学生。

 なんか初見に比べて言動が幼くなったな。

 はいはい、大人しくランドセルを装備して座っててね。

 麺茹でて、もやし入れて、スープの素入れて、それを二つのどんぶりに均等に分けたら半分に切ったゆで卵を乗せて完成だ。

 

「お待たせ」

「待ってた」

 

 二人で仲良くちゃぶ台に座ってラーメンを啜る。

 スク水姿でランドセルを背負ってラーメンを食べる束ちゃんがラブリー。

 しかも俺の視線が気になるのか、若干警戒気味に食べてるのが可愛い。

 人間慣れしてない野良猫ですな。 

 

「ねぇ」

「はい?」

「食べないの?」

「おっと失礼」

 

 流々武ヘッドを録画モードのまま取り外してちゃぶ台の上に置く。

 もちろんカメラアイは束ちゃんに向けている。

 一日二回の食事時間は毎日の癒しになりそうだ。

 

「お茶は?」

「貰う」

「どうぞ」

「ん」

 

 食後はまったりお茶の時間。

 ゆっくりとお茶が胃に染みていく。

 さて、と。

 

「そろそろ建設的な会話したいんだけど、いいかな?」

「ふんっ、お前と話す事ないし」

「つっても、このままジリ貧でやってくだけじゃダメでしょ。なんか脱出のアテあるの?」

「……うぐるるっ」

 

 唸るな唸るな。

束ちゃんも理解してるのだろう。

 恨むなら束さんを恨め。

 

「食料があるのは俺だけ、そして脱出する為にコミュニケーションを取ろうと歩み寄ってるのも俺だけ。ねぇ束ちゃん、なんの貢献もせずお情けで食べるご飯は美味しい?」

「やめて!」

 

 束ちゃんが頭を抱えたままイヤイヤする。

 互いに協力しないとどうしようもないのは理解してるよね。

 この数日、自分の力だけで脱出できないか考えたはずだ。

 でも無理だと結論は出ただろう。

 諦めろ。

 

「別に仲良くしろとは言わないけど、協力くらいしよう?」

「たばねが無能と協力なんて……でも…………ぐぬ……」

 

 随分と悩んでるな。

 共同作業がそんなに嫌なのか。

 

「そんなに嫌なら自分一人で頑張ってみる?」

「それは断念した。自力じゃ無理だったんだよ。床、壁、天井の硬度は部屋の中にある全ての物質以上の硬度だし、何かを加工するにも工具がない。物質を緩める周波数を試したいけど……」

「物質を緩める?」

「どんな物体にも弱点の波があるんだよ。この部屋を構築している物質の弱点である振動数が分かれば、分子結合を緩めて砂の様に脆くできるのさ」

「なにそれ凄い」

「でも今の状況だと難しい」

「なにか機材が必要なの?」

「ヴァイオリンとそれを弾ける人間」

「持ってないし弾けません」

「最初からお前に期待してないし」

 

 酷い。

 そして脱出方法も酷い。

 もしかし束ちゃんがヴァイオリンを弾くと、部屋の壁なんかがボロボロと崩れるのだろうか?

 どんな小学生だよ。

 

「ヴァイオリンじゃなきゃダメ?」

「低音から高音まで出せるし、望んだ音を出し続けられるから弦楽器が理想」

「なるほど。でも無いものはないので諦めて。ちなみにこんなんならあるけど」

 

 拡張領域からハンマーを取り出す。

 重い音を立てて畳の上に落ちるハンマーを見てふと思う。

 

「この畳剥がしたら逃げれたり?」

「それもうやった。無理だった。これISの装備だけよね? ふーん、ただの鈍器か」

「このハンマーと壁だとどっちが硬いか分かる?」

「んー」

 

 束ちゃんがハンマーを片手で持って、それを触ったり叩いたりして調べている。

 ……片手で持って?

 それ、IS用の装備なんですが?

 普段俺を殴る時は手加減してくれるんだなー。

 全力で殴られたら死ぬわ。

 

「無理だね。壁の方が硬い。他に装備ある? 時間を掛けて壁に攻撃を続ければあるいは――」

「手持ちの武器は4本だけ。全部打撃系です」

「……レーザーとかミサイルは?」

「光化学兵器はなし。ミサイルもなし。ってかこの閉鎖空間じゃミサイルは使えないじゃん」

「お前のISなんなの? なんでそんな原始的なの? 未来のたばねはなにをしているっ!」

「たまには原点に返りたくなるじゃん。肉弾戦仕様です」

「お前の肉体にはなんの鍛錬の形跡も見えない駄肉しか見えないんだけど? そんなんで戦えるの?」

「俺の戦い方は束さんのアシストが主だよ。乗せて飛んだり足場になったりとか」

「ふーん」

 

 疑ってるな。

 だけどここで、戦闘能力がゼロだとバレてはいけない。

 なんせスク水まで着せてるからね!

 

「本当に俺の戦い方はアシスト系だよ?」

 

 なんて言い方するとカッコいいよね。

 でも嘘じゃない。

 実際、束さんを肩車して千冬さんと戦ったし。

 

「アシスト系で物理全開ってのも変な話だけど……ま、いいか。となるとやっぱりISじゃ無理って結論は変わらない訳だ」

「だよね」

「ちなみに単一能力は?」

「二次移行してないので」

「……クソザコ」

「ほっとけ」

 

 だって二次移行とかどうでもいいし。

 単一能力ガチャ、確定で透視能力か瞬間移動能力が当たるなら頑張るけど。

 

「でだ、束ちゃんは俺と意思疎通する気はある? 思うんだけどさ、束さんは好感度を上げろって言ったけど、それはゼロを30にしろくらいだと思うんだよね」

 

 流石に束さんもこの密室で友達関係までいけとは言わんだろ。

 てか無理ゲー。

 束さんの想定値は、他人以上友達以下のラインだと思うんだよね。 

 

「別に仲良くなる必要はない、と?」

「うん、だから取り敢えず束さんが用意したっていう好感度を図る装置を使って、それから目標値を決めない?」

「……わかった」

 

 束ちゃんが一歩近寄って来てくれた。

 これは感動的だ。

 この調子で、束ちゃんで遊びつつ好感度を上げるぞ!

 

「ところで好感度を図る装置ってどこにあるか知ってます? 部屋の中で見た覚えがないんですが」

「それならパソコンにアプリが入ってたよ」

 

 束ちゃんがノートパソコンの画面をこちらに向けてくれる。

 ふっ……プログラムの名前がラブラブ相性占いとは――

 

「束ちゃん、そのアプリ名は束さんの罠だから怒っちゃだめだよ。気にしたら負けだ」

「ねぇ、大人のたばねってなんかおかしくない?」

「俺から見たら平常運転です。で、使い方は?」

「この腕輪を着けて」

「……爆発しない?」

「お前はたばねの事をどう思ってるのかな?」

「や、束さんは俺に爆弾付きの首輪を着けた前科があるから」

「ほぉ、流石は未来のたばね」

 

 なんで目を輝かせてるの?

 別に憧れる要素ないだろ。

 

「調べてみたけど、危険はないよ」

「ならば」

 

 腕輪を装着するとアプリが反応する。

 画面の中では二頭身の束さんの【計測中】の看板を持っている。

 細かい造りだな。

 

『どぅるるるるるる』

 

 束さんの口ずさみドラミング!?

 くそ、音声の録音現場に居たかった!

 

『じゃじゃん!』

 

【しー君:好感度89、束さん大好き! ヘタレ童貞なのに束さんに恋をする哀れな生き物。可哀そう】

【たばね:好感度11、マンマルコガネレベル。珍しい昆虫だけど所詮は虫。努力が足りない】

 

 ふむ、二桁だし悪くない結果だ。

 コガネムシの中でも珍しい種類のコガネムシってことだろ?

 まだ慌てる時間じゃない。

 

 ピコン

 

【たばね:好感度03、銀バエ。嫌悪感の対象である。死にたいの?】

 

 あっれ現在進行形で好感度が下がったぞ。

 

「好感度が高くて気持ち悪い」

 

 ちょっと俺との距離が物理的に遠くなってない?

 だってしょうがないじゃん。

 スク水姿を間近で見てたらそりゃ好感度上がるさ!

 勘違いするなよ篠ノ之束! 好感度の内、80は顔とおっぱいだからな!

 

「落ち着け束ちゃん。スク水から私服に着替えて露出を減らせば好感度は下がる。男ってのは単純な生き物なんだよ、別に束ちゃんに対して特別な感情を持ってる訳じゃないから」

 

 ピコン

 

【たばね:好感度01、お前はシマ蚊だ。潰せ殺せ慈悲はない。そろそろ挽回しないと挽肉になるよ?】

 

 

 更に下がりやがった!?

 好感度の暴落が止まらんとです!

 お前に興味ない発言が原因ですか!?

 乙女心ちゃんとあるんですね。

 

「お前にどう思われようとどうでもいいけど、それはそれでムカつく」

「なんかゴメン」

 

 はい気を取り直して好感度を上がて行きましょう。

 マイナスになったら流石にまずい。

  

「まぁこれで、束ちゃんさえどうにかなれば脱出は簡単って証明はできたね。まずは軽く遊んでみる?」

「……遊ぶってさ、同レベルの人間が二人居て初めて成立すると思うんだよね」

「遊びに対する発想が重い。それは我慢してください。束さんと同じように遊んでれば、虫から犬位には変わるかもしれないし」

「犬扱いはいいんだ?」

「美少女天才科学者に飼われる男子小学生はアリなので」

「……なんで未来のたばねはお前を受け入れてるんだろう」

「たばねちゃんも二次性徴を迎えれば理解できるよ」

「したくないんだけど?」

 

 したくなくてもしちゃうのですよ。

 さて、遊ぶにしてもなにしよう。

 流石にエロゲ―はないし、俺相手にトランプなんかのテーブルゲームじゃつまらないだろう。

 やっぱり仲良くなるには肉体接触が一番かな。

 なので畳の上で仰向けに寝転がって。

 

「顔を踏め」

「……なんて?」

「俺の顔を踏めと言っている!」

「無駄に凛々しい顔で何言ってんの!?」

「たばねちゃんは男の子の顔を踏んだことある?」

「ないよ!」

「なら試してみましょう。なんせ束さんは俺の頭を踏んで喜んでだから、束ちゃんも楽しいと感じるかも」

「人間は確かに嗜虐趣味を持つ生き物だけど、たばねは格下を虐めて喜ぶ趣味はないよ?」

「まだ種の段階であるその嗜虐性を育てるのが目的です。限られた時間で相互理解とか知られざる一面とか、そんなの面倒なんで、手っ取り早くSとMの関係で親睦深めましょう」

「このたばねにも予想だにしなかった手段っ!?」

「いいから踏め。どうせ束ちゃんは異性と仲良くなる方法なんて知らないでしょ?」

「うぐぐ……それはそうだけど……」

 

 さぁ踏めいざ踏め素足を見せる。

 くっくっくっ、どんなにIQが高かろうと所詮はお子様。

 これは俺が受けのS役ではない。

 嫌な顔しながら俺の顔を踏む束ちゃんで楽しむSプレイなのだ!

 

「お前、いい加減にしないと――」

 

 おっと、束ちゃんの目に暗い感情が見え隠れ。

 力で俺を押さえつけるつもりか?

 だがさせん!

 

「話は変わるけど、束ちゃんって暴力を振るう人間ってどう思う? 俺は無能の証拠だと思うんだよね」

「へ?」

「身近な例だと、暴走族が脱退する人間をリンチするぞって脅したりするし、マフィアなんかの裏社会の人間も暴力で下を支配してるイメージあるじゃん」

「うん」

「それってさ、暴力で支配しなければ下が従わないって言ってる様ものじゃないですか」

「うん」

「人を従わせるにはいくつか方法がある。魅力で相手から従いたいと思わせる、話術で信頼を得る、財力で自分に付くことに利益があると提示する、なんかですね」

「うん」

「だから、人を惹き付ける魅力がない、人を動かす話術を持たない、人を動かす財力がない、そんな人間として低レベルな奴が、それでも人を従わせたい場合に使うのが暴力だと思うんですよ」

 

 束ちゃんにはまだ通じないだろうから言わなかったけど、一番の例はパワハラ管理職だよな。

 中にはそれが楽しくてやってるクズもいるだろうけど、大抵の原因は部下が言うことを聞かないから仕方なく、だろう。

 いや、暴力の支配って一番簡単なんだよ。

 会話で理解を深めたりだとか、高い報酬て釣ったりだとかよりよっぽど簡単なのだ。

 そりゃパワハラがなくならないよね。

 パワハラ減らさせようと頑張ってる企業もあるが、だったら管理職に適した人材を選べと言いたい。

 売上が高かったり仕事できたりしてもな! 人をまとめる才能とはまた別なんだよ!

 最前線で輝く人間を後方支援に回すのって本当に無駄だと思う。

 暴力での支配はまさに能力不足の証拠なのだ。

 

「束ちゃんはどうやって人を従わせる? まさかとは思うけど、暴力なんて無能が楽したいが為にやる様な方法は取らないよね?」

「お前は寝転びながら何言ってるのっ!?」

 

 寝転びながら束ちゃんの暴力を封じようとしてますがなにか?

 下から見上げる束ちゃんのご尊顔も乙である。

 

「俺の事なんでどうでもいいんですよ。で、束ちゃんは暴力で支配するの? しないの?」

「…………しないし」

 

 葛藤があったようだが、束ちゃんはなんとか頷いてくれた。

 プライドが高いと生きるの大変ですなぁ!

 束さんならこんな戯言を無視して容赦なく殴って来るぞ。

 

「束ちゃんが真っ当な感性を持つ天才でなによりです。さぁ、踏みなさい」

「まだ終わってなかったっ!?」 

 

 終わってないよ始まりだよ。

 その未熟な精神にイロイロ教えちゃう!

 

「う……」

「う?」

 

 全身をプルプルと震わしてどうした。

 殴りたいけど殴れない。

 でも踏みたくもない。

 そんな感情を堪えてるように見える。

 顔を踏むのにそんなに抵抗が?

 

「うがぁぁぁぁ!」

「げふーッ!?」

 

 脇腹を蹴られて畳の上を転がる。

 

「あだっ!?」

 

 ゴンと鈍い音を立てて壁にぶつかる。

 脇腹は防御力低いからやめろ!

 

「ぼ、暴力は振るわないって……」

「暴力違う。これツッコミ」

 

 か、片言で言い訳しやがって。

 

「たばね知ってるよ。友達ってこうやって親睦を深めるんでしょ?」

「それは間違った認識ですね。俺が正しい人付き合いってものを教えますから」

「お前如き羽虫に、たばねに教えられる事なんてない」

 

 痛む脇腹を押さえつつ立ち上がると、ハイライトを消した目の束ちゃん。

 これはプッツンしますね。

 

「へぇ? 俺が虫だと?」

「自覚ないの? さっきからブンブンと煩い羽虫だよ」

「虫宣言感謝。これで俺は罪悪感なく好きな事できます」

「は?」

 

 束ちゃんの正面に立って胸を凝視。

 スク水美少女の胸の谷間を間近見れるなんて幸せだなー。

 しかも束ちゃん公認で。

 

「なんのつもり?」

「ん? だって俺は虫って言ったじゃん。束ちゃんさ、まさかと思うけど虫に胸を見られて意識しちゃう様な特殊な性癖はしてないよね?」

「……なんて?」

「これからは束ちゃんの着替えもお風呂も近くで見ても許してくれるよね? だって虫を気にして肌を見せる事に抵抗する人間なんていないもん。だよね?」

 

 ――ニチャア

 

 我ながらゲスイ笑顔してるだろうけど、ニヤニヤがとまらない。

 そんなテンプレ人間嫌いキャラのセリフ言われたらオタクしては言わざるえないじゃん!

 虫扱いありがとう! ってね!

 虫なら視姦はセーフ!

 

「これからおはようからおやすみまで近くに居るよ束ちゃん!」

「お、お前――っ!」

「んー? 怒ってるの? まさかだよね。だって束ちゃんが俺を虫だって言ったんだし」

「ああ言えばこう言う――っ!」

 

 束ちゃんの悔しそうな顔は素晴らしいですな。

 揚げ足取りが凄く楽しい!

 

「覚えておけ束ちゃん。確かに俺は知能も身体能力も束ちゃんより下のザコだ。だがな……口喧嘩だけは負けん! それだけは覚えておけよ!」

「――ねぇ気付いてる? たばね、割と本気で殺意抱いてるんだけど?」

「ほーほー殺意を。で? 気に入らない相手は暴力で排除する? 偉そうにしてるけど、天才小学生もやること無能と同じですか」

 

 殺意は感じてます。

 だけどここで引いては今までのやり取りが無駄になる。

 一歩でも譲歩したら立場が逆転しそうだから、このままマウント取り続ける!

 

「ブンブン煩い羽虫は叩き潰されれても仕方がないよね?」

「なに束ちゃん、ハエにでも悩まされてるの? ちゃんと風呂入れよ。今から一緒に入って身体を洗おうか」

「……いいね、一個人に対してここまで怒りを覚えたの初めてかも。だったら――」

 

 束ちゃんの姿勢がやや前傾姿勢に変わる。

 もしかして攻撃に入ろうとしてない?

 まぁいいさ、俺は一切抵抗しない!

 女子小学生にボコられる成人男性っての悪くないッ!

 でも骨折レベルまでいきそうになったら抵抗を考えよう。

 さぁ来い! どさくさに紛れてセクハラしてやんよ!

 

『突如現れる私! だからこその天災!』

 

 ホログラムの束さんが登場したことで張り詰めた空気が霧散した。

 このタイミングでの横やりは喜ぶべきかどうか。

 

『突然だけど二人ともお腹は空いてないかな? ちなみに私はお腹いっぱいです』

 

 聞いてねーよ!

 このタイミングでの煽りはほんとやめろ。

 見ろよ、束ちゃんも束さんの発言にイラついてるし。

 

『二人とも空腹なのが可哀そうなので、ここでボーナスタイム!』

 

 お? まさか救済イベント発生ですか。

 肉と甘味が欲しいです!

 

『ほいっとな』

 

 トサッと軽い音を立てて棒状の物体が落ちてきた。

 それを手に持って確かめる。

 これは子供用おもちゃかな?

 ただのスポンジの棒だ。

 

『今から二人にはスポーツチャンバラで勝負してもらう! チャンバラ棒には一定の衝撃で数字がカウントされ、得点に応じた量のウメー棒が貰えるので双方頑張る様に! 制限時間は三分! ではでは、3――』

 

 え、もう始めるの?

 商品ウメー棒か。

 手軽で美味くて種類が豊富! まさに日本人のソウルフード! これは本気出すしかないな。

 束さん的には俺と束ちゃんを争いさせるのが目的だろうけど、このゲームの攻略法はすでに見えた。

 

「束ちゃん、分かってるよね?」

「(こく)」

 

 流石に食料が掛かってる場面で協力拒否はしないみたいだ。

 束ちゃんは真面目な顔で頷いた。

 

『――2、1、GO!』

 

「うぉぉぉ!」

 

 束ちゃんに背を向けて壁に向かってチャンバラ棒を振り上げる。

 そう、このゲームの穴は審判が居ないこと!

 別に束ちゃん相手にチャンバラごっこを仕掛ける必要なないのだ!

 壁を殴るだけで得点が入るなんてラッキー! まだまだ甘いぞ篠ノ之束!

 

 ぺし!

 

 ……後頭部に衝撃。

 ゆっくりと振り返ると、そこにはチャンバラ棒を振り上げる束ちゃんの姿が。

 あれ? 意思疎通しっかり図ったよね? 頷いたよね!?

 

 ぺしぺしぺしぺしぺし!

 

「ちょっ、まっ! なんで俺に攻撃!? ここは二人で壁を殴ってだな!」

「…………。」

 

 ぺしぺしぺしぺしぺしぺしぺしぺしぺしぺしぺしぺしぺしぺしぺし!

 

 無言の連続攻撃だと!?

 こんにゃろ!

 

「二人で得点狙った方が効率的だろうーが! バカなの? 束ちゃんはそんな簡単な事も理解できないバカなのッ!?」

「………っ!」

 

 べしべしべしべしべしべしべしべしべしべしべしべしべしべしべし!

 

 威力が上がりやがった!?

 カメの様に丸まって背中で攻撃を受けるが、チャンバラ棒もそこそこの力で殴られると意外と痛い。

 さてはゲームに乗じてストレス発散してやがるな。

 イロイロごめんね束ちゃん!

 

『戦況はどんな感じかな? そろそろタイムアップなのでラストスパートの時間だよ!』

 

 戦況ですか?

 

 べしべしべしべしべしべしべしべしべしべしべしべしべしべしべし!

 

 一方的に殴られてます!

 これ絶対に背中赤くなってる。

 絶対に許さん!

 次のコスプレは、サイドテール+スポンジ棒二本持ち+競泳水着だな。

 武蔵ちゃんにしてやるから覚えておけよ!

 

【5、4,3,2,1,しゅ~りょ~】

 

 まさかのワンサイドゲーム。

 俺の得点は……3点。

 殴られた衝撃でカウントが動いたのだろうか? ふふっ、これでも商品貰えるのかな。

 

【結果発表! 商品は頭上から落ちてくるので注意するべし!】

 

 天井を見上げてると、また穴が開きそこからウメー棒がぼとぼとと落ちてくる。

 うん、俺の分はなさそう。

 あそこから脱出は……無理か。

 頭がなんとか入る程度の穴だ。

 ヨガの達人ならいけるかもだが、残念ながら俺は達人じゃない。

 束ちゃんは……胸とお尻が詰まるか。

 

「……ウメー棒」

 

 落ちてきたウメー棒を拾った束ちゃんが、ちゃぶ台の前に座ってウメー棒を食べ始める。

 もしかしてウメー棒大好き人間?

 

「束ちゃん、言い訳あるなら聞くけど?」

「あむ……んぐ。たばねはお前が望む通りコミュニケーションを試しだけなので悪くない」

 

 あれが友達同士のコミュニケーションを言うか。

 一方的な暴力はコミュニケーションなんて言え……いえ……あれ? 俺と束さんなら普通のやり取りな気がする。

 なんか友達っぽく感じる不思議。

 

「ねぇ」

「はい?」

「たばねも可能な限り協力する姿勢見せるからさ、もっと普通のコミュニケーション取らない?」

 

 ここで束ちゃんからの驚くべき提案。

 やんちゃ時代の篠ノ之束が”協力する姿勢”を見せる? んなのないない。

 となると……なるほどそうか。

 束ちゃんはコスプレさせられたり、言葉尻を捕らえられて行動を抑制させられたりと不利な状況だ。

 だからこそ、なんとか状況を元に戻したいのだろう。

 チャンバラで少しばかし痛い目に合わせて、俺に譲歩させたい。

 普通のコミュニケーションをしろ。さもなくばまた痛い目に合わせるぞって脅しだ。

 

「それは無理」

「……なんで?」

「だって束ちゃん、心の底から友達なんて必要ないって思ってるでしょ? 友達ってモノに興味も関心もない相手に馬鹿正直に接したって時間の無駄じゃん」

「……へぇ?」

 

 ザクっと、ウメー棒が嚙み千切られる音が部屋に響く。

 視線は真っ直ぐ俺を捉えている。

 目に光はなく、ガラスの様に無機質。

 まるで人形の様な目だ。

 一つの生き物と認められて、観察対象になってると判断していいかな?

 

「分かるんだ? そうだね。たばねは友達なんて存在にこれっぽっちも興味はない。欲しいとも思わないし必要だとも感じない」

「でしょ? だからセオリー通りにやっても無意味なんだよ。暇潰し程度に遊び半分でちょっかい出す程度が丁度良い」

「お前、少し面白いね。これならうん……ちょっと真面目に相手してあげる」

 

 束ちゃんから圧を感じる。

 どうやら少しは興味を持ってくれたらしい。

 でも束ちゃん、一ついいかな?

 

 ――スク水姿でガラスの様な目をしてるからダッチワイフ感がある!

 

 無性にエロいんで、取り敢えず写真一枚いいすっか?

 

 




た「ジー(観察中)」
し「ジー(興奮中)」




束ちゃんはもっとぶっきらぼうにしかったけど、そうするとセリフが少なすぎて書いてて楽しくないので束さん寄りにしました。

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