俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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宇崎ちゃん見てたら、宇崎ちゃんが一人焼肉や一人回転寿司を笑っていた。
給料日の後は一人焼肉一人回転寿司で心身を癒す派の俺は悲しくなったよ。 
陽キャ大学生には一人焼肉の良さが分からんのです!


たばねさんじゅっさい

「よし! 問題なし!」

 

 一部の記憶を封鎖する事で疑似的な記憶喪失状態にし、それに催眠術を組み合わせて過去の私を呼び出す今回の実験。

 それが完成した。

 だがこれで準備が終わった訳ではない。

 

「問題は下着と着替えをどうするか、だね」

 

 しー君の為に特別にあつらえた部屋で一人悩む。

 普通にタンスでも良い気がするが、最近のしー君はケモノである。

 狭い空間に私と二人きりになればリピドーが爆発するかもしれない。

 うん、ぶっちゃけ信用できない。

 なんか『これも青春の思い出』とか言って、生前できなかった下着ドロとかしそう。

 

「やっぱり隠すが吉かな?」

 

 畳の一部を剥がして――

 

 ギュルーン!

 

 隠し空間的にして――

 

 ドドドドドッ!

 

 ここを小物置き場にしよう。

 これなら流石に見つからないだろうし。

 着替えは取り敢えず一週間分にして、後は洗濯して頑張ってもらおう。

 子供の私に!

 しかしこれは危険な実験だ。

 しー君の身の危険的にね!

 私の年齢は10歳にする予定です。

 それ以上年齢が高いと、たぶんしー君が死ぬから。

 12歳の私は人間嫌いを発症してかなり攻撃的、8歳の私は知識の収集と機械イジリしか興味なくて人間には無関心。

 10歳の私は一番今の私に近いだろうから、きっとしー君もやりやすいだろう。

 でも対応を間違えたら10歳の私でもしー君を殺すかもだけど。

 目が覚めたらしー君の死体が目の前とか嫌だなー。

 脳だけは破壊されない事を祈るよしー君!

 洗濯機と冷蔵庫を設置して、用意したパソコンの中に私の暇潰し用のデータを入れておこう。

 今までの実験記録や実験データ、それとISのデータとしー君のデータも必要だね。

 んー、冷蔵庫の中身は……なしでいっか!

 しー君は私への食料を持って来るだろうから、一週間分はあるだろうし……私としー君が食料を巡ってギスギスするの見たいもんね!

 今の私なら問答無用でしー君をしばき倒して奪うけど、子供の私はどうだろうね?

 生で見れないのが残念だ。

 録画用の隠しカメラ設置して後で楽しもうっと。

 これで準備は完了かな?

 

「かもーん!」

 

 部屋の中心にある天井の一部が降りてくる。

 設置してあるヘッドギアを装着。

 暗示に掛かりやすい様に、10歳当時の記憶を呼び覚ます。

 

 ――たばねの名前は篠ノ之束、年は10歳。好きな事は機械イジリで嫌いなのは無能とバカ。

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

 冬休みが終わってからの最初の週末、俺はいそいそと束さんの元に行く準備をしていた。

 お馴染みの業務用スーパーで束さんの食料を買い込み、ついでに週末キャンプ用の自分の食料も買う。

 チキンが丸ごとで一羽が700円だったので、アルミホイルに包んで焚火に入れてやるぜ。

 

「よしっ!」

 

 準備が終わった段階で日が落ち始めてたが、それでも俺は束さんの元に向かう。

 何故なら俺は問わなくてはならない。

 

 ――先日に俺に何をしたのかをッ!

 

 起きたら痛みで動けず、冷静に自分の身体の調子を確かめた結果判明した。

 あ、これ筋肉痛だと。

 分かった瞬間の安堵が恐怖がもうね。

 痛みの原因が分かって安心。

 でも理由が分からず恐怖。

 脳が混乱したわ。

 絶対に束さんが何かしたはずだ。

 途中でぷっつりと記憶が途絶えてるので、薬でも嗅がされた可能性がある。

 俺に何をしたのか、何故筋肉痛になってるのか、そこんところハッキリ聞かないと怖いんだよ!

 束さんへ文句を垂れ流しながら飛ぶこと数時間。

 どっぷり日が暮れたがデ・ダナンに到着。

 小さな島がいくつも浮かぶ諸島の中にデ・ダナンは停泊していた。

 着艦してISを解除、人用の入り口からデ・ダナンの中に入る。

 通路を歩いていると床が勝手に動き始める。

 これは束さんに呼ばれてると思っていいのかな。

 もしかして腹ペコ?

 くっ、丸ごとチキンだけは死守しなければ。

 しかしどこに向かってるんだこれ?

 デ・ダナンは大きい。

 当たり前の話だが、全ての部屋に入った事がある訳じゃないし、俺が知らない用途の部屋もあるだろう。

 今向かってるのは普段は足を踏み入れない区画だ。

 危険物がある部屋とかではなく、ただ部屋数が多くて把握できてない。

 なにかの作業中かな?

 

 ――ググッと体に掛かる圧力が強くなる。

 

 うーん、これはあれだ。

 スピードが上がって圧力が強くなってますね。

 

「っておい!?」

 

 壁が! 視線の先に壁が見える!?

 あんにゃろ俺を壁のシミにする気か!

 いや……壁だと思ったけど突き当りは部屋のドアか?

 恐らくあの部屋に束さんが居るのだろう。

 いいよやってやんよ。

 強制的にダイナミック入室させるって言うなら乗ってやる!

 それが男ってもんだろ!?

 目を限界まで見開き意識を集中する。

 突然足元が動き強制的に部屋に突入させられる。

 そんな場面なら、思わずISを展開して見当違いの場所に吹っ飛んでも仕方がない。

 例えば束さんの胸に飛び込んでも事故である。

 事故を引き起こす原因は束さんなので俺は悪くない。

 以上、自己弁論終わり。

 流々武脚部展開。

 膝を曲げて力を溜めてタイミングを計る――3、2、1

 

「ッッッ!」

 

 激突する手前でドアが開き、光が見えた。

 今ッ!

 溜めた力を解放し、全力で部屋に突撃する。

 待ってろ篠ノ之束。

 俺から会いに行きます!

 

「あん?」

 

 ……玄関開いたら1秒で束。

 エ? ナンデ? タバネサンナンデ!?

 お前目の前にいたら本当の事故じゃねーか!

 よけっ……無理!

 

「邪魔ァ!」

「おぶっ!?」

 

 高速で飛んで来る人間を回し蹴りで迎撃とは流石の身体能力。

 俺はほっぺに束さんの踵の温度を感じつつ地面に落ちる。

 

「間に合え!」

「ぐえっ」

 

 束さんが珍しく慌てた声を出して俺の背中を踏む。

 何を焦ってるんだろう?

 

「くっ」

 

 プシュッっとドアが閉まる音が聞こえた。

 もしかしてトイレですか?

 

「自分で呼び出しておいてこの仕打ちは酷くない?」

 

 痛むほっぺを撫でつつ立ち上がり束さんに視線を向ける。

 まさか自分の仕掛けを忘れてたのではあるまいな。

 

「…………お前のせいで」

 

 なんかめっちゃ睨まれた。

 研究に熱中して限界値を見誤ったのか?

 仕方がないなー。

 なんかいいのは――おう、午後ティーがあった。

 炭酸なら無理だったがこれならいける。

 蓋を開けて一気に飲み干す。

 束さん、自分の幸運に感謝するがいい。

 

「ほい」

 

 カラになったペットボトルを束さんに差し出すが、俺を睨むばかりで受け取ろうとしない。

 

「そのゴミはなんのつもり?」

「え? 膀胱が限界なんでしょ? 漏らすよりはマシかと思って」

「違う!」

 

 なんだ違うのか。

 あっ(察し)

 

「テントがあるから中にどうぞ。俺は急に大音量でアニソン聞きたくなったから気にしないで」

「そっちでもない!」

 

 大きい方でないと。

 ならもうお手上げだ。

 怒りの理由がさっぱり分からん。

 

「……お前は佐藤神一郎」

「はい佐藤です」

「IS適合者」

「はい」

「そして……たばねが作ったISを所持している」

「イエス」

 

 なんで急に確認作業に入ったの?

 うん、ボケたフリはやめよう。

 今の束さんはおかしい。

 俺に対して警戒してる感がある。

 記憶喪失なんてベタな展開あるまいな。

 

「ISは首から下げてるネックレスだな」

「ですよ」

「それを寄こせ」

 

 はい確定で健常ではありません!

 束さんが俺に流々武を寄こせとは言う訳ない。

 なにかしらの事情があったとしても、束さんなら無理矢理取り上げる!

 しかしどうしたもんか。

 今の束さんの言う事を聞くのは危険な気がする。

 

「返事は?」

 

 圧が強いなー。

 さてどうすっぺ。

 

『お困りだねしー君!』

 

「おわっ!?」

 

 睨む束さんと無言の俺の間で緊張感が増す中、突如として束さんの声が響く。

 思わず周囲を見渡すと、部屋の真ん中に設置されているちゃぶ台の上で俺が知っている束さんのホログラムが笑っていた。

 

『おはよう過去の私! 気分はどうかな?』

 

「最悪」

 

『だよね! でも私は反省しない!』

 

 まるで返答を聞いてるかの様な受け答えだな。

 でも束さんなら予測して答える程度やるか。

 それよりなにより……今さ、とてつもなく恐ろしい単語が聞こえなかった?

 

『そこでガクブルしてるしー君! 正解です! 君の前に居るのは私が作った装置で記憶を消した状態の私、すなわち昔の私でーす! ……言ってる意味、分かるよね?』

 

「俺を殺す気かッ!?」

 

 ふざけんなよ天災がッ! おまっ、お前なぁ! 出会う前の束さんとか、つまりそれ好感度ゼロって事だろ!

 しかも雰囲気から察するにバリバリ尖ってた頃じゃん!

 ちょっとしたミスで殺される! 触ったら死ぬ!

 

『そこで仏頂面してる私、自己紹介どーぞ』

 

「ふんっ!」

 

『ってそっぽ向いちゃってるかな? じゃあ代わりに私がしよう。しー君の隣に立ってるのは篠ノ之束10歳です。仲良くしてね!』

 

「容赦のない子供の暴力が俺を襲う!?」

 

 本当に許して。

 先日余計な事言ったからか? ロリ束さんに会いたいって言ったからか?

 でも一言言わせて欲しい。

 

「外見変わってねーじゃねーか!」

 

 ちゃうんよ。

 俺は幼い外見の束さんを見たかっただけで、中身だけ子供じゃ意味がないんよ。

 そりゃ普通の女の子なら急に子供になっても安心だよ?

 エロゲ―でもヒロインが記憶喪失で幼児化とかあるからね。

 でも今は世界最高のスペックを持つ肉体に未成熟な精神とか、恐怖しか感じない。

 

『しー君の情けない顔が目に浮かぶ。んふふ』

 

 めっちゃ楽しそうですね。

 リアルタイムでない以上、想像してるだけなのになー。

 束さんの脳内の俺はどんな顔してるのか。 

 あ、鏡見ればいいのか。 

 

『脳に関する研究してたら意図的な幼児化が出来ると思いつてね。せっかくだから一時的な記憶の封鎖と催眠術を組み合わせて試しみました。自分で!』

 

 そこで俺を実験対象にしなかった事だけは褒めて上げる。

 でも人知れずやって欲しかった。

 何故俺を巻き込むのか!

 

『この部屋は逃げ出せない様に密封されている。力尽くじゃ出れないからそのつもりで! 部屋から出る方法はただ一つ――』 

 

 聞きたくないなー。

 きっとロクでもない方法なんだろうなー。

 

『しー君が幼い私の好感度を上がる事! やったねしー君! ギャルゲーの時間だよ!』

 

「せめてセーブ&ロード機能はあるんだろうな!?」

 

 あるよね? あると言って天才科学者!

 初見プレイで選択肢外したら死ぬゲームの縛りプレイとか、俺は配信者でもプロゲーマーでもないんだぞ。 

 しかもだ、さっきから俺を睨んで様子を見るに、どうしてか束ちゃんの好感度マイナスから始まってない?

 ゼロじゃないってよっぽどだ。

 

『幼い私には暇つぶし用にパソコンを一台置いておいたけどもう見たかな? そこにはしー君の簡単なプロフィールも用意してあるからちゃんと目を通すんだよ? 私の友達なんだから仲良くしてね!』

 

 それが原因かァァァァ!

 たぶん見たね。

 んでもって見知らぬ男が友達を名乗ってる事にイラついてるね。

 ははっ、難易度上げやがったよコンニャロー。

 

『好感度の数値を判定する機械は用意してあるから頑張ってね! ではでは~』

 

 これで説明は終わりだと言わんばかりに束さんのホログラムが消えた。

 最後までテンション高めでしたね。

 して、この死んでる空気をどうしてくれる。

 束ちゃんが全身で不満をアピールしてるんですが。

 

「……パソコンの中にお前のデータがあった。確認するけど、お前って本当に友達なの? なんの魅力も感じない無能にしか見えないお前が」

 

 冷静ですなー。

 束ちゃん、目が覚めて見知らぬ場所で大人の体になってるにも関わらず情報収集から始めたのか。

 これで10歳とか末恐ろしい。

 ……末は天災だったね。

 

「友達じゃないよ」

「へ?」

「俺みたいな凡人が友達の訳ないじゃん。友達ってのは束さんの嘘だよ」

「嘘?」

「そうそう」

 

 反応を見るに、束ちゃんは“友達”って単語が嫌いみたいだ。

 先生に友達作りなさいとでも言われたんかね。

 今の束ちゃんに友達アピールしても逆効果だろう。

 まずは好感度をゼロに戻す!

 

「俺は束さんの実験動物です。時々お金を対価に働いたりします」

「働く? 子供なのに?」

「一発一万円でサンドバッグしたりとか」

「……嘘じゃないみたいだね」

 

 おや、もう人の嘘を見抜けるのか。

 なら俺の言葉に嘘がないと信じてくれるだろう。

 だけどなんでだろう、まだ好感度が若干マイナスな気がする。

 さてさて、お初の挨拶はこの程度いいだろう。

 閉ざれた空間で人間が二人。

 なにが起きるか分かるだろ?

 そう、マウントの取り合いである。

 ここで負ければ脱出が非常に困難である。

 頑張れ俺!

 

「束ちゃんがISを欲しがったのは外に出る為?」

「そうだけど……“ちゃん”って馴れ馴れしい」

「なら篠ノ之さんにする? それと無理だと思うよ。俺のISのスペックを一番理解してる束さんがISを使って脱出できる部屋を用意する訳がないし」

「別に呼び方なんてなんでもいいけど。ISでの脱出はやっぱり無理か」

 

 束ちゃんは俺に対して興味を失ったのか、ちゃぶ台に前に座ってパソコンをいじり始めた。

 俺のIS、完全非武装なんですか?

 土木工事用の工具と調理器具しかないのですか?

 流々武のデータは持ってないみたいだな。

 束さんが意図的に伏せてるならそれに従おう。

 取り敢えず落ち着いて作戦を立てよう。

 持ってて良かったお茶のパック。

 キャンプ用のマイケトルに水を入れて火に掛ける。

 次は部屋を軽く探索する。

 今気付いたけどこの部屋畳じゃん。

 靴を脱いで壁際に置いておく。

 ダナンの中にある部屋では珍しいな。

 広さは12畳程で台所と冷蔵庫がある。

 ドアが二つ。

 それぞれトイレと洗面所とお風呂で洗濯機もある。

 長期滞在可能な造りだ。

 蹴り飛ばされた時に落としたケースを拾って中身を確かめる。

 大丈夫そうだな、流石は束さん製のケース。

 中の食材を冷蔵庫に移す。

 壁を軽く叩てみると、硬質的な音がした。

 鉄みたいだけどきっと鉄以上の硬度だろう。

 次は拠点の準備だ。

 普段使いしているテントより一回り大きのものを拡張領域から取り出して組み立てる。

 下が畳なので引き布団は一枚でいいか。

 そして組み立て式の机を設置してノートパソコンを置く。

 積みゲーが溜まってから消化するのに丁度いいな!

 新学期が始まったばっかなのに休み事になるとはなー。

 こういったイベントは長期休暇の時期にしろと言いたい。

 お湯が沸いた音が聞こえたのでテントから出ると、束ちゃんは俺の行動を気にもしないでノートパソコンを凝視していた。

 束さんはどんな暇潰しを用意したのか気になるが、今話しかけたら好感度が下がると思うので諦める。

 コップを二つ用意してお茶のパックを入れてお湯を注ぐ。

 丸いちゃぶ台は距離感が難しいよね。

 隣はダメ。

 でも正面もダメ。

 束ちゃんから見て斜め45度の場所に腰を落とす。

 お茶の片方を束ちゃんの近くに置く。

 束ちゃんはお茶を一瞥したがすぐに無視。

 ではここから束ちゃん観察実験を始めます!

 マウント勝負を仕掛けるなら相手の性格知っておかないとね。

 

 ずずぅー

 カチカチ

 

 お茶を飲む音とマウスのクリック音だけが部屋に響く。

 ではまず軽いジャブで。

 

「くけー!!!!」

「(びくっ!?)」

 

 座ったまま奇声を上げる。

 それに対して驚く、と。

 

 ずずぅー

 カチカチ

 

 すっと立ち上がりズボンのベルトに手を掛ける。

 

「ふんっ!」

「(!?!?)」

 

 ズボンを下げてパンツを丸出しにする。

 それに対する反応は驚きながら二度見、と。

 

 ずずぅー 

 カチカチカチカチ

 

 少しイラついてる様子でマウスをクリックする束ちゃん……にあげたお茶を取ってそれを飲む。

 

「(っ!?)」

 

 お前が飲むんかい! って感じで目を大きくして驚いている。

 ふむふむ、なるほどなるほど。

 これはまだ救いはありそうだ。

 俺に対して興味はない――と見せかけて実は興味があると見た。

 そしてリアクションを見るに、まだ人間嫌いまでいってない。

 本当に人間嫌いなら、もうそろそろ俺を実力で黙らせてるだろうしな。

 束さんなら最初の奇声でうるさいって殴ってくるだろう。

 

 カチカチカチカチカチカチッ!

 

 そして今は『次はなにをされても無反応を突き通してやる!』って感じの意気込みを感じる。

 束さんが年齢を10歳にしたのは理由があるはずだ。

 束ちゃん8歳では精神が未熟で、子供らしい残虐性が高く危険。

 束ちゃん12歳だと完璧に人間嫌いで、交渉の余地や対話の余地がなく危険。

 って感じかな。

 んじゃまぁ束ちゃんの事も多少は知れたし、お待ちかねのマウント合戦の開始だ!

 

「でも意外と簡単に出れそうで良かったですね」

 

 俺から話かけても、束ちゃんはパソコン画面から目を逸らさない。

 

「たばねは目が覚めてから色々調べたけど、生身の人間にはどうしようもないって結論なんだけど? お前には出来るんだ?」

 

 でも答えてはくれるんだ。

 良い子だなー。

 

「案はありますよ」

「へぇ? 聞くだけ聞いてあげるよ」

「束さんならセーフティーを用意してるかなって」

「面白い考えだね。具体的にはどうするの?」

 

 冷蔵庫の中身は空っぽだった。

 ご丁寧に食料を用意する束さんじゃないもんね。

 食料不足のギスギス狙いかな?

 なんて性格の悪い。

 知ってたけど。

 

「俺は食べ物あるけど……束ちゃんは?」

「へ?」

「人間が水だけ生きれる期間で2週間でしたっけ? もちろん個人差はありますけど。俺は約1週間分の食料がありますから束ちゃんよりは生きれます。つまり――」

「もしかしてさ、たばねが死に掛ければ何かしらの安産装置が発動するかもって考えてる?」

「それが救済装置か、それとも束ちゃんを束さんに戻す装置かは分かりませんが」

 

 流石に死に掛ければ大人しくこの実験を諦めて元に戻ると思うんだよね。

 天井から食料降らして延命とかないと信じたい。

 

「え? でも……えぇ?」

 

 束さんの友人として、凄く単純に驚いてる束さんはレアな気がする。

 これもまた可愛い。

 

「でも閉じ込められたのは束ちゃんで良かったよ」

「……なんで?」

「だって普通の人間は信用できないじゃん。命の危機になれば他人の食料を奪うなんて誰でもするし。でも束ちゃんならそんな“他人から奪うしかない無能”や“暴力を振りかざして奪う低能”と同じ真似はしない。だよね?」

「…………アタリマエダシ」

 

 セーーーーーッフ!!!!

 あっぶな! この子、食料は奪えばいいやとか考えてたな!?

 先に予防線張って良かった。

 

「映画とかドラマだとさ、危機的状況ほど人間の本質が見えるじゃん。だから相方が束ちゃんで本当に良かった。束ちゃんがちょっと追い詰められた程度で、他人から奪うことしかできない無能と同じ行動取る訳ないもんね!」

「……たばねは無能とは違うし」

 

 ここまでプライドを刺激すれば大丈夫だろう。

 冷蔵庫の食料に手を出した瞬間、束ちゃんは人の物を奪う無能の同類となる。

 これで奪えまい! 

 相手が束ちゃんで本当に良かった。

 束さんなら問答無用で奪っただろうな。

 むしろ嬉々として差し出せとか言いそう。

 さて、種は撒いた。

 ここからは長期戦だ。

 束ちゃんの様子を見ながら少しずつ攻める!

 だがやりすぎは禁物。

 キレられて暴れられたら俺はミンチになっちゃうからね!

 なので今日はこの辺で。

 

「じゃ、俺はもう寝るんで。お休み束ちゃん」

「――――。」

 

 シカトですか。

 分かってたけど返事はない。

 だけど挨拶はしっかりとしておく。

 ほら、挨拶は会話の入り口だからね。

 今は無視してる束ちゃんだけど、いざ俺と話そうとすると会話の糸口が難しいだろうし。

 だから“おはよう”と”おやすみ”だけは言っておく。

 さて、時間をたっぷりある。

 今夜は妹もののエロゲ―だな!

 

 

 

 〇閉鎖空間二日目

 

 テントから出ると束ちゃんは相変わらずちゃぶ台の前に陣取っていた。

 そこで寝起きしてるのかと思うと少し心配。

 寝袋の余りはあるが、向こうから何も言ってこないので自分から提案はしない。

 朝は食パンと目玉焼き。

 束ちゃんがチラチラ見てたきたが気にしない。

 その後は朝シャン。

 お風呂場の壁に水滴が付着していたので束ちゃんが使った後らしい。

 俺が寝てる間にお風呂に入ったのだろう。

 こう……俺を意識して寝てる間にお風呂してたのかなー? とか思うと、この共同生活ドキドキしますね!

 悪くない!

 晩御飯はお米にウィンナーと梅干。

 束ちゃんのお腹の音が聞こえた気がするが無視。

 

 

 〇閉鎖空間三日目

 

 朝はお茶漬け。

 相変わらず束ちゃんはこちらを無視しする。

 でもご飯時はメッチャ気にしてる。

 良い感じだ。

 俺はトイレの時とご飯時にしかテントの外に出ない。

 いくらエロゲ―スキーでも気分が滅入る時もある。

 そんな時はギャグゲーだ。

 笑えて感動できる名作、家族計画をプレイ!

 時に爆笑し、時に感動しながら時間を過ごす。

 トイレの為のテントの外に出たら束さんにメッチャ睨まれた。

 うるさかったらごめん。

 晩御飯はバラ肉のみそ炒めと人参スティック。

 束ちゃんが唸ってた気がするが無視。

 おやすみとあいさつしたら殺意のある目で睨まれた。

 

 

 四日目の朝

 

「おはよう束ちゃん」

「……(ギロリ)」

 

 空腹が原因だろうけど、不機嫌具合が半端ないな。

 俺は本気で命の心配をし始めたぞ。

 束ちゃんの心が折れて協力的になるか。

 俺が自分の命惜しさに譲歩するか。

 チキンレースだな!

 さて今日の朝ごはんは何にしよう。

 うん、シンプルにタマゴご飯でいいか。

 しかし育ち盛りに一日二食はキツイ。

 絶食中の束ちゃんはもっとキツイだろう。

 元々研究や実験に熱中して食事を忘れるタイプだけど、俺が目の前で食べてるから意識しちゃうもんね!

 ご飯に生卵と醤油、それだけなのに何故こうもTKGは美味しいのか。 

 うまうま。

 

 ぐー

 

 音の発生源を見る。

 束さんが素知らぬ顔でパソコンを見ている。

 俺的TKG。

 それはバターを一欠けら入れる。

 こうするとうま味が増すのだ!

 だが入れすぎると味がくどくなるので注意。

 はふはふうまうま。

 

 くぅーん

 

 鳴いた!?

 バッと束さんを見る。

 

「…………。」

 

 先ほどと同じ姿勢だが耳が少し赤い。

 え? 今のお腹の音なの?

 なにそれ可愛い。

 では食事の続きを。

 TKGは奥が深い。

 きっちり混ぜる派や半混ぜ派などの派閥もある。

 人によってはバターは邪道だろう。

 だが俺は更に手を加える。

 マヨネーズだ。

 邪道だと分かっている。

 でも体が脂質を! 油を! 栄養を欲しているのだ!

 あ、でもこれ意外と合うな。

 まぁマヨネーズはタマゴなんだから合わない訳ないか。 

 

 ズキューン

 

 バッ!(思わず束さんを見る)

 バッ!(勢い良く顔を背ける束ちゃん)

 

 撃った? 今なにか撃たなかった?

 意外とお茶目だな束ちゃん!

 残りのタマゴご飯を美味しい頂き、最後はお茶で〆る。

 腹も膨れたし、マウント合戦の再開と行くか。

 そう、マウント合戦はまだ終わっていない。

 今まではずっとジャブ打ちの時間だったのだ。

 ここからはストレートパンチを狙う時間だ!

 

「食料、分けてあげようか?」

「……なにが目的」

 

 お、返事した。

 流石に今の状態はよろしくないと判断したか。

 俺から見ても少し顔色悪いもん。

 でも限界だろうに、それでも冷蔵庫の中身に手を付けない意思が凄い。

 

「目的ないよ。でももし救済措置がなかったら、このまま飢え死にした束ちゃんが徐々に腐っていく姿を見なきゃならないと思うと気分が悪いじゃん」

「……腐る」

 

 セーフティーと言ったけど、正直期待は薄い。

 あるとしたら時間経過か生命反応が減った場合かな。

 個人的に、二週間耐えればこの実験が終わると思う。

 いくら束さんでも自分の命を危機に晒してまで続けないと思うし。

 

「束ちゃんはさ、無能の俺から施しを受けるなんて嫌でしょ? でもね、物を手に入れるのはいくつか方法があるんだよ」

「……対価を払えってこと?」

「大雑把に分けるなら、奪う、買う、交換するとかだけど、その他にも手はあるよ。例えば懇願とか」

「懇願?」

「束ちゃんは子供じゃん。だから子供である事を生かして、お腹が空いて辛い、助けてって俺にお願いするんだよ。そうすれば情が湧いた俺が食べ物を分けるかもだよ?」

「そんな真似するくらいならたばねは飢え死ぬ!」

 

 だよね知ってた。

 こちらとしてはそれが一番ありがたいんだけどね。

 憂いなく食料を分けてあげるのに。

 

「なら何かと交換? 残念だけど、束さんならともかく下位互換の束ちゃんにお願いしたいことはないよ?」

「ぐむむ」

 

 あ、唸り方は束さんのまんまだ。

 

「でもさ、交換って別に物同士じゃなきゃいけないってルールはないよね」

「……何が言いたいさ」

「嫌な顔しながらパンツを見せろ」

「……は?」

「嫌な顔をしながらパンツを見せろ言った。束ちゃんも理解してるよね? その頭脳も今は無意味、対価として払えるのは身体だけだって」

「だからと言ってパンツはないよね!?」

 

 言動から硬さが取れてきたな。

 良い感じで束ちゃんのATフィールドが壊れてきたようだ。

 

「ならお願いする? 可愛くお願いできたらご褒美をあげよう」

「するか!」

「じゃあやっぱり力尽くで奪う? 人間の汚い心を丸出しにしてみればいいよ」

「それもヤッ!」

「ならもうパンツしかないじゃん」

「うぐぐぐっ」

 

 束ちゃんは可愛いなぁ。

 拳を握り締めながら必死に耐えてるよ。

 だが俺は例え相手が小学生だとしても容赦はしない男!

 攻める手は休めない!

 

「ほら、パンツを見せろ」

「うぎぎぎっ」」

「それが出来ないなら頭を下げろ」

「うぎぎぎっ!」

「じゃなきゃ無能になれ」

「うぐーっ!」

 

 もう涙目じゃん。

 束ちゃんが理性的で良かった。

 暴力で奪う=無能だと印象付けたけど、普通の小学生なら無視して奪うよね。

 よっ! 流石は天才小学生!

 だがそれがお前の弱点なんだよ! うぷぷー!

 

「さあ見せろ! 嫌な顔をしながらスカートを捲れ!」

「あ……ぐ…………ぐしゅ」

 

 拳を震えさせながら涙を流す束ちゃん。

 ふむ……これは事案ですか?

 




束ちゃんが無口過ぎて主人公のターンが多くて無念。
次は束ちゃんもっと出番を!

子供(中身は大人)が大人(中身は子供)を泣かせる事案。

Q・主人公はなんで無事なの?
A・束ちゃんが相手のスペックを把握しきれてないから。

束ちゃんは主人公がIS所持者だと知ってますがISの性能は知りません。
自分相手に態度がデカく挑発的なのもISを持ってる余裕なのでは? と考えてます。
なのでISを束ちゃんに渡し、その性能を把握され――

大人ボディのスペックなら素手で勝てる!

と結論が出たら主人公は肉塊になります。
なので

――ぐしゅ(なんでたばねがこんな目に! 余裕で勝てるのに! こいつがISを持ってなきゃワンパンで殺せるのに! 悔しい!)

束ちゃんの涙は悔し涙です。


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