俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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Huluでボーボボやってましてね。
どんなに年を重ねても、ボーボボを楽しく見れるならまだ大丈夫って思える!


きっとたぶん黒歴史

「しー君は海と山のどっちが好き?」

「どっちも好きですよ」

「富士の樹海でのキャンプと海でサメと戯れるのどっちいい?」

「どっちも嫌です」

「嫌なの? もー、我儘なんだから」

 

 ツンツンと束さんが俺のほっぺをつつく。

 だって選択肢が余りに酷いんだもん、仕方がないじゃん。

 

「ところで束さん」

「んー?」

「ロープ解いてくれない?」

「だーめ♡」

「ちくしょう離せ! 俺に自由を! ギブミ―自由!!」

 

 椅子に縛られた状態で必死に暴れる。

 だが固く縛られたロープはびくりともしない。

 潜水艦の一室で椅子にロープで縛られてる小学生ってどう見ても事案だろ。

 助けて国家権力!

 

「ふっふっふっ、しー君は言った! なんでもすると!」

「貸し1って言っただけでなんでもは言ってない!」

「そんな理屈が通るとでも?」

「思ってないけど!」

 

 えぇ思ってませんとも。

 だけど抵抗してしまうんだ! 本能が逃げろって言ってるんだよ!

 自分の顔を鏡を見てみ? 目がね、獲物を狙う猫の目なんだよ。

 

「だが待って欲しい。約束はシャルロットママを助ける報酬としてのはず。まだ報酬を払う必要はないのでは?」

「この私に一年待てと申すか」

「うん」

「断る!」

 

 断られちゃったよ。

 報酬の先払い(強制)とか聞いてない。

 シャルロットママの元を立ち去ってすぐにこれだよ。

 どんだけ俺で遊びたいのか!

 ストレス溜まってるのかな? ……確かに最近は束さんの時間を拘束し過ぎてたのは認める。

 

「なにがいいかなー? どれがいいかなー?」

 

 束さんがくるくると踊りながら回る。

 楽しそうですね。

 でも樹海もサメも許して欲しい。

 

「うん、ただここで遊んでいても良い案でないし、散歩しながら決めようか」

 

 ごく自然な動作で首輪が着けられる。

 なんていうか、首に金属が当たっても違和感を覚えなくなった自分が怖い。

 まぁ少し前まで日常で着けてたから当然なんだけど。

 

「はい行くよー」

「うぇい」

 

 束さんがリードを引っ張るので大人しく着いて行く。

 行先はどちらで? 人が居る場所なら流石に全力で抵抗するぞ。

 通路に施されている動く歩道の上に乗って移動を開始。

 ……おいおい待て待て。

 この方向、デ・ダナンの中心部じゃないか。

 この潜水艦の一番強固な場所になにがあると思う?

 答えは天災のラボです。

 そう、篠ノ之束の研究所である。

 しかもかなり危険度が高いものを集めた場所だ。

 束さんの発明品の代表格はISだが、もちろんそれだけではない。

 世に出したらそれこそ国を亡ぼす可能性すらある、束さんの闇を凝縮した場所がダナンの中心部なのだ。

 ちなみに俺も入った事はない。

 なぜなら束さんに命が惜しければ近付くなとガチトーンで警告されたからだ。

 気のせいでなければ、俺はそこに向かっている。

 

「束さんや」

「うん?」

「どこに向かってるの?」

「私のプライベートルーム的な? ちーちゃんにも見せた事がないから、しー君が人類で初めてだよ。やったね!」

 

 嬉しくないお誘いだなぁ!

 プライベートルームにご招待とか、もっとドキドキ甘酸っぱいのもじゃないの? 今の俺は別の意味でドキドキしてるけども。

 

「とうちゃーく!」

 

 あぁ、地獄への入り口に着いてしまった。

 扉の外見は金属製の自動ドア。

 やけに分厚く見えるのが恐怖心を煽る。

 

「ふんふふーん」

 

 ご機嫌に鼻歌を歌う束さんが手をかざすと扉がゆっくりと開く。

 うっすらと暗い部屋の中に束さんが一歩踏み出すと、明かりが点灯し――

 

「なんてこった!」

「……なんで急に床に膝着いてるの?」

「こんなんみたらそらこうなるわ!」

 

 ビシッと指差す先にあるのは映画に出てくる巨大ビーカー。

 液体に満たされたそれが床から何本も生えていて、それらの中には異形の怪物が目を閉じて浮かんでいる。

 まさかここまでコテコテな研究所だとは思わなかったんだよ!

 

「うんうん、しー君はモンスターパニックの映画好きだもね。テンション上げちゃって可愛いんだから」

「ちげーよ!」

 

 そりゃ好きだけど! ジャンルんで言えば好きだけど! でもこんなガチモンスター求めてないんだよ!

 えぇぇぇ? これ特撮用の偽物だよね?

 あの妙に全身ツルツルな蛇の皮膚感を持つワニっぽい生き物とか、ハリウッドで使う特注品だよね?

 そうだと言ってバニー!

 

「お、アレが気になっちゃう感じかな? 中々見る目あるじゃないか! アレはAC0033typeIⅡだよ!」

「日本語で」

「アレは33番目に作られた対都市用無差別殺戮生物兵器の水中型だよ!」

 

 聞くんじゃなかった!

 なんでそんなもん作ってんだよこの天災は!

 千冬さん! 世界の敵が此処に居ますよ!

 

「ほら、近代都市って下水道が設備されてるのが普通でしょ? だから下水に住み着く生き物を造ってみました!」

 

 倫理がッ! 倫理が仕事していない!

 

「主な材料はワニで、ヘビやコウモリの特徴を持ってるんだよ。本来、別種を混ぜるのは不可能に近い。何故ならただ繋ぎ合わせただけじゃ普通に拒否反応が出て死んじゃうからね。薬などを使って押さえるにも限度がある。そこで着目したのが生き物が持つ免疫力さ。ワニは汚水の中でケガをしても病気にならないくらい高い免疫力を持ち、コウモリは数多のウィルスを保有しても死なない免疫力を持つ。それらを遺伝子を組み換えながら混ぜて、ワニの身体とヘビの鱗を持ち、その血に多くのウィルスを持つ生き物が誕生したのです!」

 

 ワニの様に水中に潜み、ヘビの様に狭い空間でも柔軟に移動し、コウモリの様にウィルスをばら撒く。

 外道の極みっすね。

 

「増える形式は産卵ですか?」

「うん、簡単に駆除出来ない様に水底や壁面に産み付けるタイプにした」

「……爬虫類ですよね?」

「うんにゃ、両生類だね。カエルも混ぜてるから」

「凶悪なランナップの中にカエル?」

「皮膚呼吸と単為生殖が出来るからだよ。それと皮膚のヌルヌルでウィルスを纏う事も出来るのです」

 

 水陸両用で触ったらアウト系!

 カエルを混ぜただけで凶悪度がアップだよ畜生!

 ……よし、見なかった事にしよう。

 これ以上掘り返したら陸地用と空戦用のキメラを紹介されそうだし。

 ぶっちゃけ聞きたくねー!

 えーと、なんか話題逸らしの為のネタは――

 

「ん? これは空っぽ?」

 

 近くにある水槽の中には何も見えない。

 まさか人間の目に見えない保護色持ちの生物とか?

 

「どれの事? あー、それか。しー君、もっとよく見てごらんよ」

 

 小さくて見えない系か。

 あ、なんか居る。

 これはアリだな。

 ……映画でアリが敵だと結構エグい作品多いよね。

 アリと天災とか混ぜるな危険では?

 

「これはどんな生き物なんです?」

「アルゼンチンアリをベースに軍隊アリの特性を持たせて、ちょっと凶暴にしただけの生き物だよ」

「それって、どんな生き物……」

「高い繁殖力と凶暴性を持ち、夜行性で肉食なだけのアリだね」

「眠れない夜がやってくるッ!!」

 

 もうアメリカンホラーの生き物じゃん。

 住人が夜な夜な家の中で震えてる様子が目に浮かぶよ。

 

「いやー、今見るとちょっと恥ずかしいね。若い頃の私はIS研究の合間に息抜きでこんなのばかり……これも中二病ってやつなのかな?」

「思春期の方向性が異常ッ!」

 

 なんで恥ずかしそうに頬を掻いてテヘヘ顔してるんですかね?

 中学生くらいの年頃に暴力性が現れる事あるよね。

 うん、それは分かる。

 だがお前の方向性はおかしい!

 封印された邪気眼ならともかく、本当に世界を亡ぼす可能性がある封印物は中二病とは言わん!

 

「戦ってみる? ISの使用を許してあげるよ?」

「IS使用が前提の戦いッ!?」

 

 IS使っても戦いたくないわバカチンがッ!

 もうやだ、助けて千冬さん。

 

「嫌なの? んじゃもう少しイージーな相手にしようか。んーと、しー君が生身で戦える程度の強さでそこそこ面白いのは――」

 

 こっちの意思無視で見繕ってやがる!

 

「あ、この巨大ハリガネムシとかどうだろう」

「一見すればデカいミミズですね。体格以外で普通のハリガネムシと違うところは?」

「普通のハリガネムシは人間に寄生しない。このハリガネムシは寄生する」

「却下で」

「じゃあこのノミ」

「水槽に豆粒みたいのが浮いてますね。で、どんなノミなんです?」

「体内で複合毒を生成できる。んでもって腹ペコ属性。積極的に跳ね回って獲物に取り付き、神経毒で動きを止めた所で吸血する。ちなみにしー君なら二匹に刺されたら指一本動かせなくなる」

「却下」

「ならもうヒルでいいよ。動きも鈍いし柔らかいから踏めば潰れるし」

「で、どんな魔改造を?」

「動物の体内に卵を植え付けるタイプのヒルだね」

「お前は二度とジャンプを読むな!」

 

 朝から晩までビール飲めば大丈夫ってか。

 いやそれだけじゃなんも安心できないよ!

 

「しー君」

「なんです!」

「怖い?」

「もちろん!」

「んふふ~」

 

 キレ気味に返事する俺に対し、束さんが楽しそうに笑う。

 もうドS大爆発ですね。

 シャルロットママ、どうかこの天災に立ち向かう勇気を俺に!

 

「よし、んじゃ違うのにしようか」

「ほ?」

 

 束さんがすたすたと部屋の奥に向かって行く。

 へぇ、更に奥の部屋があるのか。

 奥ってことは……更にやべーのがあるって事です?

 

「手前は生物ゾーン、奥は無機物ゾーンなのです」

「生物より危険なんですか?」

「生き物はなんだかんだで殺す手段があるし、生き物である以上生息可能領域やエサの問題なんかが生まれる。でも機械の発明品は安価で大量生産できるでしょ? ぶっちゃけ世に出たら兵器の方が被害はデカいね」

 

 見本さえあれば、理屈や機能を理解してなくても模倣は出来るもんね。

 それに生き物は食べる為に殺すのが主な目的だけど人間は違うし。

 確かに被害は兵器の方が酷そうだ。

 

「ちなみに、正しい使い方は合わせ技だね。生物兵器と科学兵器を同時に使えば、私は一ヶ月で人類の93%を殺してみせる」

 

 たった一人の人間がガチで人類を滅亡させられるって恐怖だよな。

 媚び売って生き残らなきゃ。

 

「肩でもお揉みしましょう」

「セクハラはやめろ」

 

 冷たい目に睨まれた。

 あっれ、もしかして俺の信用度低すぎでは?

 さてさて、不気味な水槽の間を歩き奥に続く扉の前に到着。

 この奥に反抗期真っ盛りの篠ノ之束の作品が眠ってるのか。

 ……そのまま寝続けて欲しい。

 

「はいオープン」

 

 あっさり開く地獄の扉②。

 少しは錆び付け。

 

「ほー」

 

 こちらの地獄はまるで博物館。

 ショーケースが並び、壁には大きな機械が飾ってある。

 怖いのは素人の俺では見ただけじゃどんな機械か分からない点だ。

 だが見る分には生物ゾーンよりマシだな。

 壁に掛かってる機械の大剣とかむしろカッコイイ。

 金属じゃなくて機械である所がミソだ。

 両手持ちバスターソード型で、浮き出たチューブと金属の光沢のコントラストが素晴らしい。

 

「あの機械の大剣はどんなものなんです?」

「ん? あぁ、アレはただの爆弾だね」

「爆弾かい!」

「うん、ブービートラップ用の爆弾。でも調子に乗って威力上げすぎちゃってお蔵入りしちゃった」

 

 ブービートラップ用……そりゃ引っ掛かるわ!

 あんな武器が置いてあったら思わず近付くし、触ってしまうだろう。

 全世界の男の内8割は釣れそう。

 なんて恐ろしい物を作りやがる。

 もっと平和な感じのないかッ!?

 

「このボールは?」

 

 ショーケース収められてるのは金属の野球ボールと言ったところか。

 これが兵器だと、せいぜい手榴弾じゃないかな。

 

「それは私のオススメだよしー君!」 

 

 あ、テンション上がりやがった。

 これはダメですわ。

 

「それは窒素をゼリーに変えるガスを放出する物なのです! 名付けて“チッソDEエンド”!」

 

 野球ボールがまさかのネームドかー。

 ワニモドキでさえ型番だったのにまさかの名前有りとは。

 でも窒素をゼリーに? 窒素と言われると思い浮かぶのは液体窒素だけど、固体だとどうなるんだ?

 そもそもここにあるのは兵器な訳で……ゼリーで人を殺すとか無理だろう。

 

「窒素をゼリーにって、それ凄いんですか?」

「凄いよ。凄くヤバい。なんせ私だって殺せるもん」

 

 ……俺の中でゼリー最強説が浮上中。

 

「ピンと来てないみたいだね。しー君、大気の中で一番割合が多いのは?」

「窒素です」

「今しー君が吸ってるのは?」

「酸素と窒素」

「アレは窒素を”ゼリーに変えるガス”です」

 

 ほむほむ、理解してきたぞ。

 大気の7割は窒素である。

 今も俺は窒素を吸っている。

 そして、あのガスが漏れればそのガスも吸うだろう。

 窒素と一緒に――

 

「ちなみにゼリーって言ったけど、硬度はコンニャクレベルだね」

 

 イメージする。

 口の中、喉、肺がコンニャクで詰まる自分を――

 

「いや死ぬわ!」

 

 え、こわっ。

 想像したら鳥肌立つレベルの恐怖だぞこれ。

 

「使用したら人間は立ったまま溺死する。肺の中が固体化された窒素で詰まり、どんなに口を開けようと二度と酸素を吸える事はないのだ」

「ホラーかな?」

「人間は窒素に取り囲まれてると言ってもいい。ガスに包まれたら厚さ数メートルのコンニャクに埋もれて、一切の身動きが取れず酸欠で死ぬ」

「地獄かな?」

「まぁガスって点が弱点かな。屋内なら大量殺戮は余裕だけど、屋外だと効果減だね」

「でも……あれだ、有効利用もできそうですよね。飛行機に搭載したら墜落時の救済措置とかに使えそうですし」

 

 機体全体を分厚いコンニャクでガードすれば生存確率上がりそうじゃん。

 なんだったらエアバックの代わりでもいいぞ。

 良い所! 良い所だけ見て行こう!

 束さんの発明品だって使い方次第!

 

「後は爆弾の処理とかにも使えるかもね。爆弾の周囲の空気を固体化すれば被害は抑えられるよ。でも今の所は世に出す気はないけど」

「それまたどうして」

「や、これ相応の量のガスを用意すればISも捕殺できるんだよね。しー君が身バレして、専用機持ちだとか私との関わりとかが知られたら……世に出しちゃっていいかな?」

「このまま封印で」 

 

 黒歴史はダンボールに入れて押入れって決まってるから。

 それもちゃんと封印しとけ。

 嫌だ! コンニャクで溺死は嫌だ!

 

「あ、これならしー君でも安心かな?」

「安心すか。信用できない」

「あれ? もしかして私の信用度低い?」

 

 お互いにある意味で信用できないからお相子ですね。

 

「で、どんな危険物を紹介してくれるんです?」

「危険物って決めつけてるし。そんな人を信じられないしー君にオススメなのはこれ! その名も“ブルーウィシュ”!」

 

 束さんが取り出しのは一本の青いバラ。

 青いバラで名前が“青き願い“とは洒落てるな。

 

「本物じゃない。造花ですか」

 

 手渡された一論のバラを触ってみると、質感が固く偽物だと分かる。

 うん、普通に綺麗だ。

 

「匂いを嗅いでみて」

「匂いがあるんですか? どれどれ――」

 

 あ、本当に匂いがある。

 微かに甘い匂いが鼻孔をくすぐる。

 なんか落ち着く匂いだな。

 分類するならアロマディフューザーなのかな?

 普通に素晴らしい発明品じゃないか。

 あー、なんか幸せー。

 

「落ち着くでしょ?」

「ですね~」

「ずっと嗅いでたいでしょ?」

「はい~」

「ところでお尻蹴っていい?」

「どぞ~」

「ていっ!」

 

 バスンッ!

 

 束さんにお尻を蹴られた。

 そんなに蹴りたいならお好きにどうぞ~。

 

「なにげに人に使うのは初めてだけど、やっぱり封印して正解だったね。しー君、気分はどう?」

「さいこうれふぅ」

「あ、ダメだこれ。回収&目覚めの一発!」

「へブッ!?」

 

 あ、バラを取られた。

 酷いじゃないか。

 もっと嗅いでたかったの……に?

 

「束さん」

「正気に戻ったみたいだね。で、どうだった?」

「クソ最悪な発明品ですね」

 

 覚えてる。

 尻を蹴られてもふあふあした幸せな気持ちだった。

 全部記憶にある。

 なにをされても許せるムーブだったわ。

 

「究極の世界平和を願って作りました」

「嘘だ!」

「いやホントだって。世界平和とか馬鹿みたいな夢を語る人間に、真に優しい世界ってものがどんなものか教える為の青いバラだもん」

 

 余りにも皮肉が効いてやがる。

 そだね。

 自分がなにされても全て許すとか、もうこれ社会が成立しないわ。

 

「意味なく幸せな気分になった理由は?」

「麻薬みたいなものだね。無理矢理多幸感にさせてるのさ。でも麻薬と違って害はないよ。まぁ本人の意思が弱ければ一生バラを握ったままの生活になるけど」

 

 仕事に疲れてる頃ならハマったかも。

 でも今だと、特に何もないのに強い幸せを感じてた自分が怖いわ。

 

「上手い具合に調整すれば、脱麻薬を目指す人の助けになりそうですけどね」

「そんな使い方もあるかもね。でもしー君、人類は本当にそんな平和な使い方するかな?」

「無理ですね。だってそれ、エロゲに登場するタイプの道具じゃないですか」

 

 なにをされて受け入れるんだぞ?

 催眠アプリ並みにやべーよ。

 しかも相手は幸せで笑顔だから合意の上だと言われかねない。

 こんな物が世に出たら絶対犯罪に使われるわ。

 童貞紳士として見過ごせない。

 ノンフィクションはダメ、絶対。

 

「んー、なんかどれもイマイチだなー」

 

 じゃあもう部屋に戻ろうよ。

 これ以上SAN値を削りたくない。

 

「どれも殺意高すぎてしー君が死んじゃうのばかりだしなー」

 

 そんなにも多くの危険物を作り出す中学生って……束さんの闇の深さを感じるぜ。

 今でもマジになってるんだなとつくづく実感する。

 仮に俺が同級生だったとしても、絶対に親しくなれない。

 俺がどうこうじゃなくて、束さんが許さないだろう。

 調子乗った発言したら本気で半殺しにしてきそうだもん……。

 

「束さんて、これでもまともに成長したんですね」

「どーゆー意味かな?」

「いや、千冬さんの偉大さと一夏と箒の存在のありがたさを実感しました」

「なる。仮にしー君が同級生だったとしたら……肉塊程度にしか思わないんじゃないかな? んでもって馴れ馴れしくしてきたら半殺し」

 

 だいたい俺の想像と同じじゃないか。

 精神が成長し、友達って概念を覚えた束さんと出会えた事は本当に僥倖である。

 だがしかし――

 

「正直、ロリ束さんには会いたかった」

「そんなに死に急ぎたいの?」

「怖いけど、絶対に可愛いだろって想像できるからね。……ねぇ束さん、アポトキシン4869はないの?」

「あってたまるか!」

「不老長寿は人間の夢じゃん」

「そだね。ちなみにアポトキシン4869をしー君風に読むと?」

「合法ロリ製造薬」

「一回去勢しようか?」

「男の夢なんだよ!」

 

 いいじゃん合法ロリ。

 精神大人で体が少女とか男なら大歓喜じゃん。

 それなのにないって……はぁーつっかえ!

 

「あのさ、束さんは俺が成長して殴りやすくなったって言うけど、自分も成長してるって理解してる?」

「そりゃ私だって成長くらいするよ」

「だよね。……果たして、束さんはいつまで“可愛い”でいられるかな?」

「え゛?」

「そりゃ束さんは可愛いよ。うん間違いなく可愛い――“今は”、ね」

「これから先は美人って言われるだけだし。美少女が成長して美人になるのは自然の摂理だし……」

 

 平然とした風だけど声が震えてるぜ。

 ふふっ、成長って良い意味だけど、言い方変えると老化だもの。

 女として気になるだろぉ?

 ならアポトキシン4869作ろうぜ。

 

「好みって人それぞれですよね。ちなみに俺は可愛い派です」

 

 ギャルゲーだと、幼馴染が可愛い系でクラスのマドンナが綺麗系のパターンが多いよね。

 巨乳派と貧乳派。

 ショート派とロング派。

 女性の好みは様々あるが、その一番最初の分かれ道が可愛い派と綺麗派だと思う。

 別に綺麗が嫌いな訳じゃない。

 ただ可愛い方が好きなのさ。

 

「別にしー君に好かれなくてもいいし」

「本当に? これから成長し、女盛りになった瞬間……束さんへの興味がなくなって冷たくなるかもだけど許してくれる?」

「……くふふ、もうしー君てばそんなに私を挑発するなんて悪い子だなー。そんなに私に若返りの薬を作らせたいの?」

 

 むっ、立て直したか。

 このまま不安を煽りたかったのに。

 

「でもそっか。今から酷い目に合うって理解してるはずなのに、そこで私を挑発するくらいロリ束さんに会いたいんだね」

 

 忘れてたッ!

 今は遊んでる場合じゃなかった。

 俺のバカ!

 

「でもうん、それはそれで面白いかも。丁度アレも完成間近だし、この際やってみるのも面白いかも」

 

 篠ノ之束の独り言ほど怖いものはない。

 その頭の中でどんなロクでもない計画を立てているのか。

 そしてその計画に誰が巻き込まれるのか……あ、俺か。

 

「しー君てさ、催眠術って信じてる?」

「不安を煽る語りだしッ! えぇと催眠術ですか? 条件付きで信じてます」

「ほうほう条件とな。それはどんなん?」

「ちゃんと集中できる環境である事ですね」

 

 俺は催眠術は信じている。

 だがテレビのは信じてない。

 いやあんなん無理だろ。

 テレビ慣れしたタレントはともかく、素人がテレビカメラを無視してリラックスしたり催眠術師の声に集中したりとか出来る訳がない。

 だから条件付きなのだ。

 

「ふむふむ、んじゃこれをちょっと見て」

「うん?」

 

 束さんがショーケースの中から取り出しのは、なんの変哲もない電球。

 恐る恐る観察してみる。

 外見は小学校の理科の実験で使った様な、白いボックスに3つの電球が付いたやつだ。

 束さんの発明って言うか、小学生の夏休みの図工だな。

 

「ちゃんと見ててね」

 

 電球が光る。

 赤、緑、青の三色だ。

 光の三原色ってやつだな。

 それぞれが点いたり消えたりを繰り返す。

 一色だけだったり、二色同時だったりと規則性が読めない。

 なんか目がチカチカしてきた――

 

 赤緑赤赤青緑赤緑青緑赤赤赤緑青緑赤青青緑赤緑赤赤青緑赤緑青緑赤赤赤緑青緑赤青青緑赤緑赤赤青緑赤緑青赤緑赤赤青緑赤緑青緑赤赤赤緑青緑赤青青緑赤緑赤赤青緑赤緑青緑赤赤赤緑青緑赤青青緑赤緑赤赤青緑赤緑青緑赤緑赤赤青緑赤緑青緑赤赤赤緑青緑赤青青緑赤緑赤赤青緑赤緑青緑赤赤赤緑青緑赤青青緑赤緑赤赤青緑赤緑青緑赤緑赤赤青緑赤緑青緑赤赤赤緑青緑赤青青緑赤緑赤赤青緑赤緑青緑赤赤赤緑青緑赤青青緑赤緑赤赤青緑赤緑青緑赤緑赤赤青緑赤緑青緑赤赤赤緑青緑赤青青緑赤緑赤赤青緑赤緑青緑赤赤赤緑青緑赤青青緑赤緑赤赤青緑赤緑青緑赤緑赤赤青緑赤緑青緑赤赤赤緑青緑赤青青緑赤緑赤赤青緑赤緑青緑赤赤赤緑青緑赤青青緑赤緑赤赤青緑赤緑青緑赤緑赤赤青緑赤緑青緑赤赤赤緑青緑赤青青緑赤緑赤赤青緑赤緑青緑赤赤赤緑青緑赤青青緑赤緑赤赤青緑赤緑青緑

 

 アカ アオ ミドリ アカ――

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

「気分はどうだい?」

「――――」

 

 しー君は私の問いかけに反応を見せない。

 よしよし、しっかりと催眠状態になったね。

 うん、虚ろな目で虚空を見るしー君は中々に良い。

 私が使用したのはただの電球。

 三色の電球を一定のリズムで点灯させる事で脳ミソをバグらせたのだ。

 お手軽催眠である。

 なお、材料費はワンコインでお釣りが出るレベルなので、危険物として封印した。

 人類が使うには早すぎる。

 さて、今のしー君で遊びたい欲求はあるけど、残念ながら遊んでる時間はない。

 思い立ったらすぐ行動! それが私の生き方なのだ!

しー君が子供の私に会いたいと願うなら、それを叶えてあげようじゃないか。 

 最近思いついた脳への新たなアプローチ方法、危険はあるが自分に使ってみよう。

 まだ理論は完成してないからすぐに取り掛からないと。

 

「だけどその前に」

 

 未だに微動だにしないしー君の頭を優しく撫でる。

 

「腹筋500回、スクワット500回してから家に帰れ。一眠りしたら全ては元通り。いいね?」

「――――(コクン)」

 

 しー君を催眠状態にしたのはただの嫌がらせです。

 今から帰宅後のしー君を想像するだけで笑顔が漏れる。

 楽しみだなー!

 お金を全部巻き上げるのもいいけど、それだけじゃね。

 ちょっと遊ばせてもらう! やふー!




その後

し「あれ? 俺なんでベットに……体中が痛い!? 動けない!? なんで!? ……束さんの黒歴史見学してる最中からの記憶がない? えっ、普通に怖いんだけど。俺に何をした篠ノ之束ッ!!」 

た「ぷーくすくす(筋肉痛で動けずベットの上で藻掻く姿を観察中)」

 

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