俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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ちち!しり!ふとももーッ!!(挨拶)
以前作中に書いたGS美神ネタですが、こうしたちょっとしたネタが分かる読者様が居ると作者は二ヨっとする。




シャルロットママ

 

 シャルロット・デュノアとは?

 ISのヒロインの中で最も高い人気を誇る少女である。

 フランスの国家代表候補であり、原作登場時は男装して二人目の男の適合者としてIS学園に入学した。

 一夏の専用機である白式のデータを盗むために来たスパイである。

 母親を亡くした後に父親に引き取られるが、その父親はDV野郎であり、娘を道具扱いしスパイまでさせる男だった。

 

 ここまでがシャルロット・デュノアのバックボーンだ。

 そしてシャロットに関しては大きな問題がある。

 それは――誰がシャロットをDV親から救ったのか問題! である。

 いやマジで不明なんだよね。

 

 アニメ版だと――

 

 ①目的があって一夏に接触したと告白。

 ②その後に一夏とどうしたら学園に残れるのか色々話し合う。

 ③ISを使用した学園内の大会に出場。

 ④大会翌日に全て解決したと女性服で登場。

 

 以上!

 原作者君さぁ。

 ギャグアニメ、萌えアニメなんかは面倒な裏設定を無視するのは分かるけど、あまりにも適当過ぎないか?

 ちなみに原作の方はほとんど覚えてないと言うか……当てにならない。

 だって二次創作者が……二次創作者が面白い話いっぱい作るんだもん!

 原作を思い出そうとすると、一夏が『シャルはお前の道具じゃない!』なんてデュノア父に怒鳴ってたりするけど、この記憶は原作じゃないよね? たぶん二次創作だよね?

 シャロットの問題が山なしであっさりと解決された事に怒った二次創作作者たちが、一夏やオリ主に解決させようと多くの名場面が生まれたからなー。

 もうどれが原作の記憶か分かんないのさ。

 まったく二次創作者たちめ、面白い話を作りやがって……転生者の気持ち考えたことあんのかッ!?

 裏でなにがあったのか知らないから迂闊に動けないんだよなぁ。

 もしかしらOVAや外伝なんかで絵が描かれてるかもだが、生憎とライト層なのでそこまで見てないのよ。

 って事なので、ロリシャルロットには会いません。

 セシリアと同じ対応だね。

 あわよくば親を助けて恩を売って好感度上げたかった!

 ロりシャル&ロりセシリアを抱きしめたかった!

 

「うぅぅぅ……ぐすっ」

「なんか急に泣き出した!?」

 

 そりゃ泣きたくなるよ。

 合法的に金髪美ロリを嫁にできるチャンスだってのに。

 親の命の恩人って手札があるのに使えない苦しみが分かるまい!

 ま、実際にやったら大人としての罪悪感と男としての情けなさで死にたくなるだろうけどね。

 だからこれでいいのだ。

 

「大丈夫だよ束さん。俺、束さんの近くに居られるだけで幸せだから」

「そしてなんか勝手に解決した!? そんでもって良い笑顔が逆に気持ち悪い!?」

「失礼だなおい。んで俺が知るシャロット・デュノアの情報ですが、デュノア社社長の愛人の子供ってだけですね」

「情報少なすぎでは? まぁすぐに見つかるけど。名前が分かってれば余裕ですとも」

 

 原作には触れず最低限の情報だけ渡す。

 情報と言うのも烏滸がましいけど、束さんならそれだけで余裕だろ。

 箒と違って偽名で学校に通ってる訳ではないだろうし、一夏と同い年のフランスのシャルロットちゃんを探せばいいだけだろう。

 ”だけ”と言っても俺には出来ないけど。

 

「ところでしー君、会うのは明日でもいいよね?」

「まだ冬休みだから大丈夫ですよ」

「なら今日はフランスで一泊してもいいよね?」

「……宿を探しておきます」

「期待している。それだけ言っておこう」

 

 期待に答えなければ許さない、そんな目をしておられる!

 最近の束さんは贅沢が過ぎる! んだけど、シャルロット母が病気などの場合はまた束さんを頼るしかなく、無力な俺はひたすら奉仕するしかないのだ。

 はい、フランスの高級ホテルを調べてーの――

 

「候補①、ベルサイユ宮殿」

 

 ベルサイユ宮殿って宿泊できたんか。

 しかし一泊23万とかお高いが、一室ごとに専属執事が付く豪華仕様だ。

 人生で一度は泊まってみたいね。

 でも世話してくれる人は執事よりメイドを希望する。

 

「候補②、五つ星ホテルのホテル・ド・パレ・ロイヤル」

 

 流石はフランス、五つ星ホテルが多数存在する。

 今回はその中でも一番人気の高いホテルをチョイス。

 スイートのお値段はなんと33万です。

 ベルサイユ宮殿以上とか五つ星ホテルぱねぇす。

 

「お城は前回泊まったし、今回は普通のホテルにしようかな」

「いや、束さんにはお城が似合うと思うよ? それに専属執事が付いてくるとか凄くない?」

「他人が近くに居ると煩わしいからホテルでいいや」

 

 くっ、逆に興味を失ったか!

 だが考えればこれもまたチャンス。

 今夜も束さんとホテルで一泊だぜ!

 

「今夜はこのホテルか。お、ベランダ広いじゃん。これならしー君のテント張れるね」

 

 内装を確認した後に流れる様に俺の宿泊先決めやがったッ!?

 さてはこいつ、俺に『同じホテルに泊まった』という既成事実も許さない気だな!?

 

「束さん、この部屋も広い、二人ぐらい余裕だけど……」

「そうだね。だが断る」

「……スイート埋まってるかもだし、ランク下げてもいいかな?」

「安心して、運よく空いてたからしー君名義で予約しておいた」

「……そですか」

「そですよ」

 

 ちくしょうッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガラガラガラ

 

「はいしー君、部屋にあったお菓子の残り」

「どうも」

 

 ベランダへと続く窓が開かれ、束さんの手がニョキっと伸びてくる。

 俺の手の平に乗るのは三枚のクッキー。

 これ、束さんの食べ残しでは?

 へへっ、冬の冷たい風が身に染みるぜ。

 

「せめてシャワーくらい貸してくれません?」

「や」

 

 震える俺に端的なお断りの言葉が突き刺さる。

 こうなっては束さんは意地でも俺を部屋の中に入れてくれないだろう。

 だが俺だって週末はキャンプなどをするアウトドアな人間!

 厳寒期用のテントも寝袋も持ってるもん!

 

「じゃあしー君、また朝に会おうね」

「もう寝るんですか?」

「んな訳ないじゃん。私だって忙しいんだよ? 色々やる事があるのさ。朝までしー君に構ってあげれないから諦めてねって事」

「なるほど」

 

 束さんならパソコン一台あれば暇しないですもんね。

 高級ソファーに腰かけ、優雅に紅茶を飲みながらフランス政府の裏を覗いたりするんだろ?

 ご自由にどうぞ。

 だが忘れるな。

 俺はこの程度で大人しくする男ではない!

 

「じゃ、おやすー」

「おつでーす」

 

 ご満悦で温かい部屋に戻る束さんの後ろ姿を鏡越しに見送る。

 さて、風邪をひかないように厚着してっと。

 束さんがよく見える様に窓にへばり付いてっと。

 うん、カーテンの隙間からよく見える。

 

 じー

 

 束さんがパソコンでなにか作業している。

 

 じー

 

 束さんがお菓子を食べた。

 

 じー

 

 束さんが紅茶を飲んだ。

 

 じー

 

 束さんがこちらを見た。

 

 じー

 

 束さんが俺の視線に困惑している。

 お、こっち来た。

 

「一応聞くね。なにをしてるのかな?」

 

 窓を開けた束さんがジト目で俺を睨む。

 なにを、か――

 

「新しい自分を探す旅的な?」

 

 別に女性の私生活を覗いて喜ぶ趣味はない。

 だが相手が束さんな面白いかなって。

 性癖なんてちょっとした切っ掛けで増えるしね。

 

「鬱陶しいからやめてって言ったらどうなるかな?」

「ジト目で睨む束さんも好きなので興奮します」

「そっか~興奮するんだ~」

「そうなんですよー」

 

 アッハッハッ

 

「ひたいっ!」

「あべしッ!?」

 

 刺さった!? なんか額に刺さったぞ!? ……あれぇぇぇ?

 

「ちか…ら……が、ぬけ……」

「よっと」

 

 フラフラと倒れそうになる俺の首根っこを束さんが掴む。

 毒か何かは分からないけど、体に一切の力が入らない。

 だがそれはいい。

 体が動かないのは気にしない。

 でもね――

 

 思考能力が残ってる事が恐怖なんだが!?

 金縛りってこんな感じなのか。

 動けないのに考える事が出来るって怖い!

 

「ほいっ」

 

 雑にテントの中に放り込まれる。

 ただいまマイホーム。

 

「じゃ、今度こそおやすみしー君」

 

 はい、おやすみです。

 先に寝袋敷いといてよかった。

 体が動かないなら俺に出来る事は一つ。

 もう寝るしかない。

 や、本当は二つなんだけどね。

 流々武を纏ってブースターを全開にし、部屋に戻る為に俺に背を向けてるだろう束さんに突撃。

 そんなプランも一瞬よぎったんだが、そこまでやるとトドメ刺されそうなので忘れよう。

 ではおやすみグー。

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

「はい! やってきましたフランスの片田舎!」

「失礼な言い方するな。まぁ立派な田舎だけども」

 

 束さんが調べてくれたシャルロットちゃんのお家近くなう!

 寝てる内に薬の効果が切れたのか、同じ体勢で寝続けた事による床ずれや関節痛がなかったが救いだ。

 ちゃんと寝返り打てて良かったな俺。

 

「しー君だって言ってるじゃん。――サクサクサクサク」

「ってクロワッサンの食べカスが流々武に付いちゃってるでしょうが!?」

「やっぱりクロワッサンはサクサク系に限るよね。しっとり系も増えてきてるけど、私はこっちが好きかな。しー君は?」

「俺も好き! だがそれ以上流々武にパンくず付けたら怒る」

「もうクロワッサンは食べ終わったもん。次はフランスパンだから大丈夫」

 

 束さんがフランスパンにイチゴジャムを塗って食べている。

 俺の肩の上で!

 ISを纏った俺の肩の上で!

 今度から肩の上での飲食は禁止にしようかな……。

 ホテルで朝ごはん食べたのに健啖な事だ。

 まだ昼前だってのに。

 

「やー、長閑なフランスの田舎風景を見ながら食べるフランスパンは一味違いますなー」

 

 シャルロットちゃんが住む場所はブドウ畑の中にある一軒屋だ。

 ドラマや映画で使われそうなくらいザ・フランスの田舎の家感がある。

 とは言っても家はそこそこデカい。

 屋敷と言っても良いだろう。

 ブドウ農家って儲かるのかね? いや、この畑の規模だと土地を貸してる地主なのかも。

 

「むぐぐ?」

「どうしました?」

「ごきゅん……そろそろ娘が出てくるね」

 

 反射的にお家の玄関に目を向ける。

 そこから出てきたのは――

 

「……俺は天使を見た」 

 

 綺麗な金色の髪は彼女の躍動に合わせてサラサラと揺れ、太陽の光を浴びて輝いて見える。

 白い肌はまるで陶器様でありながらも健康的な色艶で、男なら思わず触りたくなるだろう。

 原作のシャルロット・デュノアをそのまま幼くした美少女が、ニコニコと笑顔でブドウ畑に囲まれた道を掛けて行く。

 流石は人気投票一位のヒロイン。

 その存在感たるや――

 

「きもっ」

 

 なんか右肩辺りから辛辣な言葉が聞こえたが、たぶん気のせいだろう。

 

「しー君、目的忘れてないよね?」

「もちろんですよ。安心してください、今の俺はロリより未亡人の気分なので」

「脳内で旦那殺してやがるっ!?」

 

 そりゃ殺すでしょ。

 あんな可愛い娘が居るのに放置とか、もう男して終わってるじゃん。

 死んでもいいよ。

 

「さてさて、女は病院に行ってないのでカルテなどはない。でも近い未来死ぬんだよね?」

「病死だった……と思うんですけど」

「ちゃんと覚えておきなよ面倒な」 

 

 へへっ、お手数をおかけします。

 手を揉みながら束さんにへつらう。

 

「なのでまずはこの天災自らが診察する!」

「おぉ~パチパチ」

「取り出したるはこのモンスターボール!」

「どう見てもガチャポンの玉ですけどね」

 

 なにが入ってるのかなー?

 ラッキー? ミルタンク? そ れ と も ――

 

「行け! ”ブラッディ・モスキート”!!」

 

 チマミレカだー! 

 って想像以上に厳つい名前が出た!?

 ボールが割れ、中から恐るべきモンスターがッ!

 

「……なんもないですね」

 

 モスキートってもしかしてまんまモスキート?

 比喩ではなく本物の蚊ってこと?

 そりゃ見えねーわ。

 

「しー君、指を立てて」

「ほい」

 

 人差し指を立ててみる。

 お、なんかとまった。

 

「ほぉ~、蚊のロボットですか」

 

 一瞬本物の蚊かと思ったが、近くでよく見ると分かる。

 メカメカしてる蚊ですわ。

 これ、見方を変えれば爪先サイズのドローンだよね?

 そっかー、束さんが未来に生きてるの忘れてたわ。

 

「これで血液を採取します」

 

 しかも吸血オプション付きか。

 ますます凄いな。

 

「なお、本当の使い方は毒やウイルスを敵に注入する事です」

「ブラッディーの意味に納得」

 

 感染力の高いウイルスをあの蚊でバラまけばそれでで大量無差別虐殺できるとか、もう天災じゃん。

 あ、天災じゃった。

 

「ゴー! モスキート!」

 

 指先から蚊が飛び立つ。

 いってらってしゃい。

 ん? まてよ――

 

「どこから侵入するんです?」

 

 今は冬だ。

 窓なんて開けてないし、侵入する場所なんてないだろう。

 

「これで」

 

 束さんが手の平に乗せているパチンコ玉を見せる。

 

「風と降下速度を予測――投擲っ」

 

 二個のパチンコ玉が放物線を描いて空に飛んでいく。

 人間の視力では瞬く間に見えなくなる。

 シャルロットちゃんの家まで直線距離で300mくらいだけど、届くの?

 

「壁に穴でも空けるんですか?」

「この天災がそんな雑な仕事をするとでも? 人様の家なんだから、入るにはノックしてからでしょーが」

 

 絶妙な力加減で玄関のドアに当ててノックに偽造するんですね分かります。

 生身の視力だとドアさえ見えないな。

 壁とドアの境目が分からないから見分けがつかない。

 束さんは本当に見えてるのだろうか?

 流々武ヘッド装着からの望遠モード!

 よし、これでよく見える。

 家に向かう飛行物体発見。

 すげーよ、本当に家に向かって飛んでる。

 徐々に高度と速度を落として…………お、ドアに当たった。

 お見事です。

 

「あ、ドアが開いて人……が……」

「しー君?」

 

 一人の女性がドアから顔を出す。

 ノックの音がしたのに誰も居ない事に困惑しながら周囲を見渡している。

 インフィニット・ストラトスのヒロイン人気投票第一位のシャルロット・デュノア。

 その彼女が美しく年を重ね、色気を増した姿がそこにはあった。

 そう、俺は――

 

「女神を見た」

「だからキモイってば」

 

 隣の喪女がうるさいわ。

 女神の前で恥を知れ。

 束さんの目をジッと見つめる。

 やはり束さんは可愛い。

 だがしかし、まだ可愛いだけなのだ。

 プライドが高い束さんは自分より美しい存在に会っても大丈夫なのか心配になる。

 

「束さん」

「……なにさ」

「今からあの人に会うけど、色気の面で負けてるからって嫉妬しちゃダメだよ?」

「束パンチ!」

 

 あ、ちょっ! グーパンはやめてッ!?」

 

「パンチ! パンチ! 束パンチッ!」

 

 的確に急所を狙いやがる!?

 レバーはダメッ! 内臓は狙わないで――ぐふっ!?

 

「今から採取した血液を調べるから、そのまま大人しくしてなさい」

「……いえっ……さー」

 

 脇腹を押さえながら倒れこむ俺の頭上から冷ややかな声が掛かる。

 すみません、調子に乗ってまじすみません。

 

 

 

 

 

 

「結果発表~!」

「わ~パチパチ」

「たぶん1~2年で死ぬんじゃないかな?」

「ざっくりしすぎでは?」

 

 人を待たせておいてその結果ってさー。

 ちょっと残念だわー。

 

「や! しょうがないじゃん! だって薬や生活習慣でも結果は変わるんだよ!? それに血液検査程度じゃ限度があるって! 流石の束さんでも今の段階で死期までは見通せないってば!」

「それもそうですね」

 

 慌てて言葉を並べる束さんてレアですね。

 ちょっと冷たい目で見たかいがあった。

  

「初期段階って事は病気である事は確実なんですね?」

「血中のアミノ酸濃度が増えてるから多分ね。これ以上調べるならちゃんとした検査しなきゃ無理」

 

 ふむ、まぁ血液検査だけで人体の全てが分かるほど甘くないか。

 未だ通院履歴がなく、初期段階みたいって事は本人に自覚症状がないのか。

 ある程度病状が悪化してるならともかく、今の段階で死にたくなければ取引に応じろって言って通じるかな?

 個人的には無理そう。

 人間、本気で死を感じないと死への恐怖なんて感じないもの。

 

「しー君的にはどうしたの? 治すだけ?」

「治療からの無人島にご招待が考えてる流れです」

「ふむふむ、子供の方は?」

「父親に引き取ってもらうつもりです」

「DV野郎でしょ? いいの?」

「そこはまぁ話し合いですよ。……拳で」

「脅すのね。了解」

 

 脅すなんて酷い。

 俺はただクソDV野郎に娘の大切さを教えるだけさ。

 原作の流れを考えるに、シャルロットが父親に引き取られるのは必要な流れだ。

 でも放置は罪悪感が湧くので少しだけ介入する。

 ぶっちゃけ、余り非道な事をするなよと言うだけだけど。

 シャルロットが引き取られるのは中学生になってから。

 そう、つまり思春期を迎えている!

 別にさ、父親とかウザいだけだろ?

 産まれてから会ったことがない父親にベタベタされても、鬱陶しいだけだと思うんだよね。

 だからDV一歩手前、私生活の面倒は見るけど過度の接触はしないようにしたい。

 この辺は加減が難しいので、上手く事が運ばれない時は天災パワーで傀儡になってもらおう。

 

「んじゃ方針も決まったところで行きますか」

「いてら~」

「束さんも来るんです」

「……お昼寝したい」

「ダメです」

「ぶー」

 

 さてはお腹いっぱいになって動くのが面倒になってるな。

 流々武を装着し、だるだるモードの束さんを抱き抱える。

 玄関前に着地してIS解除。

 ノックしてもしも~し。

 

「……どなたかしら?」

 

 玄関のドアから顔を出したシャルロット母は首を傾げて俺と束さんを見比べる。

 うさ耳付けた変な女性と東洋人の子供の組み合わせだもんな。

 そりゃ驚く。

 しかし近くで見るとますます凄いな。

 顔はどちらかと言うと可愛い系だが、子持ちであるからか色気も内包している。

 シンプルなデザインのセーターに下にある巨峰が素晴らしい。

 これが人妻の魅力か――

 

「ずっと前から好きでした」

 

 はっ!? 手を取って告白してるだとッ!?

 これが魔性の女か。

 

「えぇっと……シャルの同級生……じゃないわよね? 初めて会うと思うんだけど……」

「年下はお嫌いですか?」

「嫌いとかではなくてね? どうすればいいのかしら」

 

 子供だからと雑に扱うか真摯に対応するか悩んでおられる。

 その姿をまた良しッ!

 

「うっとい」

「おぐぅ!?」

 

 隣に立っていた束さんに雑な裏拳で殴り飛ばされた。

 ここは黙って見てろよ!

 あわよくば筆おろしとかしてもらいたいじゃん!?

 

「黙れ童貞。どうせその場になったら尻込みするヘタレがなんだから、無駄な時間使ってないで本題に入れ」

 

 俺の思考を読んでのツッコミ&処刑に泣きたくなりますよ。

 実際問題、本当にそうなったら逃げる可能性があるからなんも言えねえ!

 

「えっと……大丈夫?」

 

 その優しさだけで痛みが引きますよ。

 ママと呼ばせて欲しい。

 

「ただのじゃれ合いなのでお気になさらす。すみませんが、お邪魔させてもらってもいいですか?」

「それは構わないけど……」

 

 シャルロット母改め、シャルロットママがチラチラと束さんの様子を伺う。

 突如子供を殴った束さんに対して不信感を持ってのだろう

 子供がいるママさんなら当然の反応だ。

 

「警戒心を持たせてどうするんですか」

「なんもかんもしー君が悪い」

 

 俺は悪くねぇ!

 全ては母性が悪いんだ!

 パブみが俺を狂わせるんだよ!

 と、心の中で思う。

 

「それではお邪魔します」

「え、えぇ」

 

 これ以上のおふざけは束さんをマジギレさせそうなので自重だ。

 ここで帰られても困るしね。

 

「紅茶でいいかしら」

「ありがとうございます」

 

 居間に通され、ソファに座る俺と束さんの前に紅茶が置かれる。

 ちなみに束さんは家に入ってから無言を通している。

 これだからコミュ障は……あ、違うわ。

 この子眠くてテンション下がってるだけだ。

 だって薄目で頭が左右にフラフラ揺れてるんだもん。

 頼むから用事が終わるまで我慢しておくれ。

 

「それで、我が家にどういったご用かしら?」

 

 対面に座り、紅茶を一口飲んだシャルロットママがそう話を切り出した。

 やっぱり警戒されてるな。

 だが日中からコスプレして出歩く変人が横に居る状態で警戒心を薄めるのは不可能に近いので諦める。

 

「実は貴女が病気で亡くなりそうなので助けに来ました」

「……え?」

 

 人間、近い内に死ぬと言われればどう思うだろう?

 唖然としたり、馬鹿な事を言うなと怒ったりするのが普通かな。

 でも彼女は違った。

 驚いてはいるが、その驚きは“心当たりがある”驚きだ。 

 

「最近、不調を感じたりしてませんか?」

「少し体の芯が重くて疲れが取れにくく感じてるのだけど……この不調は病気が原因だと言うの?」

「束さんが言うにはそうですね」

「その束さんと言うのは、貴方の隣に座っている篠ノ之束博士のことよね?」

「ご存じで?」

「田舎だけどテレビくらいあるのよ? でも私には彼女が本物かどうかは分からないけど……」

 

 有名人の名を使った怪しげな宗教の勧誘や健康器具の押し売りだと思ってるのか?

 シャルロットママは束さんに視線を向けているが、束さんはそんな視線を気にせず頭を左右に揺らしている。

 今はシリアスタイムなんで居眠りやめてくれません?

 

「束さんが本物だと証明する方法は色々ありますけど――」

「いえ大丈夫よ。勘だけど、彼女がテレビで見た本物の篠ノ之束博士なのでしょう」

 

 半分寝てる束さんをあっさりと受け流し、子供の俺が会話の主導権を握ってる状況でも気にしない。

 これらをあっさりと受け入れてるシャルロットママ、もしかして大物?

 

「それで私の病気を治してくれると言う話だけど、それでそちらにどんなメリットがあるのかしら?」

「メリットは一人の少女の未来が明るくなる事ですかね」

 

 オマケで小学生男子の胃も守れるヨ!

 

「少女? 私が生きる事で未来が……それってもしかして……」

「えぇ、娘さんです」

「シャルの友達なのかしら?」

「残念ながら会った事も喋った事もないです」

 

 本当に残念だ。

 帰り際にハグしてから帰りたい。

 成人男性がやったら犯罪だけど、子供同士ならじゃれ合いで済むのに!

 

「貴方の娘さん、シャルロットは高いIS適正を持っています」

「IS適正を? でもこんな田舎でISに触れあう機会なんてないから、適正があった所で――」

「旦那さん……ではないですね。シャルロットの遺伝子上の父親、アルベール氏の職業はご存じですよね?」

「……デュノア社は最近IS開発に着手したと聞きました」

「ISで戦うのは特殊なスーツを着たスポーツ競技、なんて表向きの事情を信じてませんよね? スポーツ競技メーカーなんて可愛いものじゃない、その本質は兵器開発。アルベール氏に子供を託すには心配になりませんか?」

「あの人が娘を、シャルをISに乗せると? でもそんな――」

「テストパイロットにするには最適だと思いますが」

「それはそう思いますが……」

「それでですね。諸来有望な娘さんがアルベール氏に虐待されるんじゃないかと心配になり、余計なお世話かもしれませんがこうしてやって来た訳です」

「虐待? 待って、どうしてそうなるの?」

「アルベール氏が娘さんを道具の様に扱うと思っているからです」

「……シャルを道具に? でも……いえ、もしかして……」

 

 一人で思考の海に沈むママさん。

 時々頷いてはなにかを確認している。

 俺はアルベール氏の事はよく知らない。

 表向きの立場、デュノア社の若き社長だとは知っているが、その内面はさっぱりだ。

 

「貴方はアルと会った事は?」

「ありません」

「ならシャルが虐待されるかも、というのは」

「客観的に見てそう思ったからですね」

「そう……」

 

 シャルロットママは紅茶を一口飲んで姿勢を正す。

 うーん、空気が重い。

 隣で背もたれに体重を預け幸せそうに口を半開きにしている束さんが憎い。

 気付いてる? シャルロットママは天災を完璧にヤベー生き物だと判断して無視してるぞ?

 そりゃそうだ。

 初めて会う他人の家のソファで寝こける人間なんて、精神が怖くて話し掛けたくないもん。

 

「まずはそうね……いくつか誤解があると思うの」

「誤解ですか?」

「まず、確かにシャルが虐待される可能性はあるわ」

「そこだけ聞くと誤解もなにもないんですが?」

 

 もうクズ決定でいいですか?

 束さん起こしてデュノア社の株買いまくって、会社の影の主になるルートに入りますね。

 

「勘違いしないで欲しいの。アルがシャルを虐げる可能性があるのは、それがシャルを守る為に必要な行為だからよ」

「ど言いますと?」

「アルはね、可哀そうな人なの」

 

 ……DV男を可哀そうな人とか言っちゃうのは貢ぎ系やメンヘラ系によく見られると聞く。

 一児の母で若くて可愛くて巨乳でダメ男好きとかなんて高性能なママなんだ。

 俺の人生のヒロインはここに居た?

 

「アルは元々家業を継ぐ気はなかったの。でもアルのお父様が急死して、彼は自分の幸せか社員とその家族を守るかを突然選ばなければならなくなった……」

 

 とても優しい顔と口調でアルベール氏を語るその姿はまさに乙女。

 ちっ、すでにアルベールルートに入ってエンディングを迎えてやがる。

 どうやらママは俺のヒロインではなかったらしい。

 

「この家と周囲の土地は、結婚したら二人で田舎に引っ越してブドウ畑をやろうって、そう話した事を覚えててくれたアルからの最後の贈り物なの」

 

 手切れ金が家と土地とはこれだから坊ちゃんは。

 親の金で家と土地買って愛人を囲うのは楽しいですか?

 楽しそうですねコノヤロー!

 ここから甘い話始まります?

 できれば紅茶じゃなくコーヒーを頂きたい。

 ない? なら無糖の紅茶で戦います。

 

「デュノア社は最近は落ち目と言われてるけど、フランスでは大きな会社よ。アルと今の奥様の間に子供は居ないわ。そんな時に子供が現れたらどうなるかしら?」

 

 ――大きな会社、社長夫婦に子供なし、突如として現れる愛人の子供。

 

 以上の単語から連想されるものは……ははーん、さてはこれ昼ドラだな。

 となると原作シャルロットが冷たくされてたのは守る為だという可能性が微レ存?

 ちょっと紅茶に砂糖入れますね。

 糖度の心配する必要なさそうだし。

 

「理解してくれたかしら? アルはシャルを可愛いがれないでしょう。もし娘として愛すなら、奥様と別れるしかない。でもそんな自分勝手は出来ない。きっとアルは他人行儀に接し娘を愛してないとアピールするはずだわ」

「母親である貴女はそれを許すんですか?」

「許すわ、だってそれがシャルの為なんですもの」

「ISのパイロットとして仕立て上げる為に、厳しい訓練や勉強を強制するかもですよ?」

「そんな未来があるかも知れないわね。でもそれって悪いことかしら?」

「本人の意思が無視されてます」

「親なんてそんなものよ」

 

 うっすら笑うシャルロットママに背筋がゾクリとする。

 あるぇえ~? 俺、優しいママンと会話してたよね? 

 なんで急に悪役夫人が現れたの?

 口調こそ優しいままだけど、なんかこう……怖い。

 

「じゃあお前は娘が酷い目に合うのを見逃すんだ?」

「酷い目、ですか。私は高度な教育が酷いとは思いません」

 

 って束さんが会話に参入!?

 お前は大人しく寝てろよ!!

 ラスボスVS裏ボスとかやめろ!

 

「娘が親に愛されない状況にあっても許容するんだ?」

「シャルはもう少しで思春期です。父親なんてお金だけくれればいい存在になるでしょう」

「戦いたくないのに戦う技術を無理矢理学ばされるのは?」

「シャルは可愛いわ。将来を考えれば自衛手段を学ぶ事はむしろシャルの為よ」

「学びたくもないのに勉強を強制されるのは?」

「知識は財産よ。それを生かせるかどうかはシャル次第だけどね」

「なるほど、お前は娘の教育にデュノア社社長の財力や権力を使う気なんだね」

「言い方が悪いわ。ただね、私が死んだ方がシャルが幸せになれるんじゃないかって、そう思っただけよ」

 

 シャルロットママがどこか困った様に笑う。

 それはとても綺麗で、それでいて見ていられない笑顔だ。

 無意識に握っていた拳の力を緩める。

 いやはや、男だったら殴ってたね。

 

「しー君、自分がイラついてる理由は理解してる?」

「自分の気持ちなんだから分かってますよ」

 

 声の中の楽し気な気持ち隠せてないぞ~?

 まったく趣味が悪い。

 俺が地雷を踏まれた様を見て喜んでやがる。

 

「あら? なにか粗相でも――」

「気にしないでいいよー。しー君はベッドの上で死にたくないって願ってたタイプの人間だから」

 

 そこは気にしろ! そして人の生き死を勝手に分類分けするな!

 

「それはその……ごめんさないね?」

「お気になさらず」

 

 もう互いにそう言うしかないじゃん。

 だってママンに悪気はないもの、目の前の人間が死にたくないと願ってたなんて知る由もない。

 そして俺はただの八つ当たりみたいなものだ。

 あー空気が気まずい。

 どうすんだこれ。

 

「まぁ気にしなくていいよ。童貞に我が子を思う母の気持ちなんて分かるはずないんだから」

 

 ケラケラ笑いながらぶっこんでんじゃねーよ!

 そうだね! ちょっと怖いと思ったけど、子供により良い環境を与えたいと思うのは自然な事だもんね!

 でも子供が可哀そうだと思うのは俺が童貞だからか?

 

「貴女は自分が死んでアルベール氏に引き取られた方がシャルロットが幸せになると、そう思っているんですよね?」

「そうよ」

「でも貴女が死んだら娘さんは悲しむと思いますが」

「子より先に親が死ぬ。当たり前の話よ」

「引き取られた先で辛い目に合うのは?」

「人生は思い通りに行かない事の方が多いもの。もしシャルが辛く苦しい思いをしてアルを許せないと思うなら、アルの元で得た知識や人脈を使って復讐するくらいの気構えが必要だわ。例えば会社を乗っ取ったりとかね」

 

 うーん、これはこれは――

 

「どうしようしー君、この生き物を少し気に入り始めてる自分が居る」

「束さんの琴線に引っ掛かるって事はそれだけヤベーんですよ」

 

 この胸の中にある気持ちを言葉にするのは難しい。

 だが言葉にするなら『強いッ!』だな。

 親としてどうこうじゃなくて、母として、女として逞しい。

 そしてこの人は娘にも強くなって欲しいと思っている。

 こりゃ強い。

 

「お気持ちは理解しました。では死んだフリして姿を隠すなんてのはどうです?」

「どうしてそんな案を提案してくるのか分からないけど、それもお断りするわ」

「何故です? 別に貴女に不利益がある話ではないと思いますが」

「そうね……ちゃんとした理由がある訳じゃないよ。ただ死期が近いって言われて思ったの。自分の人生はここまでなんだって」

「死が怖くないと?」

 

 無性にイラつく。

 目の前の生き物が理解できない。

 人間だれだって生きれるなら生きたいはずだ。 

 だってそれが生命として当然なんだから――

 

「先ほども言ったけど、親は子より先に死ぬものよ。シャルの花嫁姿が見れないのは残念だけど、それが運命なら仕方がないわ」

「……馬鹿げてる。まだ死を覚悟する年齢じゃないでしょう」

「覚悟? そんなものしてないわ。そうね……繰り返しになるけど、シャルには幸せになって欲しいの」

「自分の死がシャルロットの幸せなると本気で思ってるんですか?」

「えぇそうよ。だって――私が死ねばシャルに『親に愛された生活』と『裕福な親元での生活』の両方を与えられるのよ? ならもう死ぬしかないじゃない」

 

 とても良い笑顔で言い切ったよこの人。

 なんかもう怒るのも馬鹿らしい。

 見事な親バカだよ。

 

「なんで死んだフリはダメなんですか?」

「だって私はこれからシャルに大好きだっていっぱい伝えるのだもの。死んだフリをする人間の言葉が真摯に伝わると思う?」

「なるほど。死を覚悟するからこそ、貴女は本気の愛をシャルに伝えられる」

「その通りよ」

 

 なんかもう覚悟決まってません?

 確かに死が迫った人間の言葉は相手に伝わりやすいかもだけど、それで生きるチャンスを諦めるとは。

 説得する材料がないのがなー。

 娘の花嫁姿を見るより娘の幸せな生活。

 そう言い切られると難しいぞおい。

 

「しー君、もう諦めれば? 別に死にたがるやつを無理矢理生かす必要はないと思うじゃん。この女が死んでも罪悪感なんて湧かないでしょ?」

「こんな男の理想をこれでもかと詰め込んだ女性が死ぬのは世界の損失です」

「なんかもうただの我儘になってない?」

 

 なってるね。

 自覚してたけど、俺はただこの可愛い若奥様に死んで欲しくないだけだ。

 童貞の我儘だよそれがどうした!

 

「さて、潔く娘の為に死を選んだお前に束さんからプレゼントをあげよう」

「あらなにかしら」

 

 って説得しないで死ぬ方向で話が進んでるッ!?

 

「ほい、この薬をプレゼント」

「薬……くすり?」

 

 束さんが胸元から取り出した二本のビンをテーブルに乗せる。

 一つは真っ赤。

 もう一つは真っ青。

 シャルロットママが戸惑うのも無理はない。

 アメ玉と言われれば違和感ないけど、薬と言われると……。

 

「鎮痛剤と栄養剤だよ。一日一錠食後に飲むべし」

「病が治るものではないんですね?」

「本人の意思を無視して生かすほどお人好しじゃないよ。それはお前の選択に対する束さんなりの敬意。飲めば少ない痛みで穏やかに死ねるし、寿命もほんの少し伸びるから」

「シャルに辛い顔を見せなくて済むのは素直に嬉しいです。ありがとうございます」

 

 口を挟む間もなくシャルロットママの終活は始まってるんですが?

 でもこれ、どうしようもないよね。

 無理矢理仮死状態にして、死んだ事にしてから連れ去る手もあるが……恨まれそうなんだよなー。

 死を正面から受け止める彼女の意思を無視するか、それとも敬意を持って受け止めるか――いや待てよ。

 

「ねぇ束さん」

「うん?」

「思ったんだけどさ、別に俺がシャルロットママの意見を聞く義理も義務もなくない?」

 

 なんで他の男の人生のヒロインに気を使わなければならないのか。

 わざわざ相手を尊重してまで自分の心がモヤモヤするのを我慢する必要なくない?

 

「しー君、もうこの話は終わったんだよ?」

「なんも終わってねいよ。って事で決めました」

「決めたって……私の事よね?」

 

 シャルロットママの瞳を正面から見つめて宣言する。

 

「死ぬ直前に攫いに来ます」

「え?」

「死ぬ直前に束さんに仮死状態にしてもらって、偽物と入れ替える。これで行きましょう」

「えっと、今までの意見がまる無視されてるのだけど? それに偽物って――」

「サラッと私に仕事押し付けてない?」

 

 無視してるし押し付けてるね。

 だがそれがどうした。

 ここでシャルロットママが死ぬのを見過ごせば心にモヤっとしたモノが残るじゃん。

 俺に得がない。

 それに――

 

「今はそう言っても、死の直前になれば娘との別れに悲しみ生きたいと思うはずなので問題ないです」

「そういうものかしら?」

「そういうものですよ」

 

 娘に泣きながら死なないでと言われたら、ママの決心なんて鈍るでしょ。

 その時に俺の提案を蹴った事を悔やまないよう、先回りして宣言するのは俺の優しさです。

 

「貴方の行動を縛る権利は私にはないけど、その時になっても私の意見が変わらなければ静かに死なせてくれると嬉しいわ」

「それは約束しましょう」

 

 流石に泣いて死なせてくれと頼まれた諦めざる得ないからね。

 

「ちょいちょいしー君、なんか話が進んでるけど、その案を実行するならこの女の経過を観察しなきゃダメじゃん。それをやれって? この天災に面倒を押し付けるなんて調子に乗りすぎだと思う」

「貸し1でどうです?」

「……へぇ? その言葉の意味わかってる? 最近は暴れたりなくて、色々遊びたいと思ってたんだよねー」

 

 ぐちゃりとした嫌らしい笑顔を浮かべんなよ。

 なんて愉悦に満ちた笑顔なんだ。

 早まったかも……いやでも束さんの力は絶対に必要!

 

「俺は束さんの善性を信じてますので!」

「その、別に無理して助けてくれなくてもいいのよ?」

「信じて! ますので!」

 

 俺、そんなに心配させるような顔してます?

 してるんだろうなー。

 自分でも声の震えが分かるもの!

 だがこれは必要な犠牲なのだ。

 だって束さんの仕事が多すぎる。

 シャルロットママの病状を監視し、死ぬ直前で仮死状態にし、DNA培養で偽物を用意してもらって、治療する。

 全部が束さん任せだ。

 俺の仕事は……特にないな!

 無人島開発より酷い状況です。

 これは良いホテルで一泊程度では許されないだろう。

 なら身を切るしかあるまいて。

 

「いいよしー君。その言葉に免じて手伝ってあげる」

 

 はい勝ち確です。

 俺程度の犠牲でシャルロットママが助かるなら安いものですよ!

 もしかしたら、将来はシャルロットの婿に……なんてなるかもだしな!

 これはポジティブに見れば先行投資!

 

「あの、本当に無理しなくでいいのよ?」

 

 くどいぞママン! 俺の覚悟を無駄にするな!

 

「そんな青ざめた顔でプルプル震えてるから心配されてるんだと思うよ? もうしー君てば、そんな顔を見たら期待に答えなくちゃいけないか。ぐふふっ」

 

 束さんの汚い笑い声を聞くたびに体が震えるんですぅぅぅぅ。

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

「うふふっ」

 

 窓の外の月を見ながら思い出すのは少し前の記憶。

 

「ママ?」

「ふふっ、ちょっと思い出し笑いしちゃった」

 

 思い出したのは一年以上前に会った二人の人物。

 突然現れて死を予言してきた珍妙な二人。

 片やテレビで見た世界で一番有名な女性。

 もう一人は娘と同い年くらいなのに妙に大人ぶった男の子だ。

 会話は主に男の子からだったけど、あの大人ぶった口調が一転してふるふると震える様は今思い出しても可愛くて笑える。

 あの二人は親しい友人みたいだから心配してないけど、こんなおばさんの為に頑張らなくてもいいのに。

 

「ねぇシャル、普段大人っぽいのにふとした時に子供らしさが見える男の子っていいわね?」

「急にどうしたの? もう、変な事ばっかり言ってないで大人しく休んでよ」

「はいはい」

 

 シャルがズレた布団を掛け直してくれる。

 今の私は死にかけだ。

 あの日言われた通り、私の体は徐々に弱り死に向かって行った。

 篠ノ之束さんの薬には随分と助けられた。

 だって本当なら身動きすらとれず、苦痛に顔を歪ませてるはずの私が今もシャルに笑いかけてあげれてるのだから。

 でも回復してるのは気力だけ。

 体内はもうボロボロだ。

 感じる……私は今夜死ぬだろう。

 きっと朝日は見られない。

 

「シャル、こっちへ」

「どうしたの?――わぷっ」

 

 寝たままの姿勢でシャルの頭を抱きしめる。

 柔らかくて暖かい最愛の娘を抱き締めながら死ねるなんて、私はなんて幸福なんだろう。

 

「急にどうしたの? ……ママ、泣いて……」

 

 あぁ、もう自分を誤魔化せない。

 少年の言う通りだ。

 死にたくない。

 失いたくない。

 シャルともっと一緒にいたい。

 この一年でシャルに一生分の愛を与えたつもりだけど、まだ足りない。

 むしろもっと一緒に居たい気持ちが強くなるばかりだ。

 私は自分の死が神に定められた運命だと思っている。

 思っているけど――

 

「シャル、大好きよ」

「ママ!? もしかしてどこか痛いのっ!? 待ってて、今薬を――!」

「聞いてシャル。ママはもう長くないわ」

「やめてっ! そんなの聞きたくないっ!」

「聞きなさいシャル。いい? 私が死んだ後は――」

「嫌っ!!」

 

 シャルが首にしがみ付くので続きが話せない。

 よしよし、最後の言葉くらい言わせてよ。

 ママだって頑張って別れを告げてるのよ?

 

「お願いママ、死なないで――」

 

 涙ながらのシャルの言葉が耳に届く。

 その言葉を聞いた瞬間、迷っていた私の天秤は片側に傾いた。

 

「大丈夫よシャル。ママはずっと貴女を見守ってるわ」

「ママっ! しっかりしてママっ!」

 

 あら? もう頭を撫でる余力もないみたい。

 ごめんねシャル。

 最後まで情けない母親で。

 

「すぐに先生を呼んでくるから!」

 

 薄れる瞳にシャルの背中が見える。

 ぼんやりとシャルが出て行った開けっ放しのドアを見ている。

 もう頭すら動かせず、ただ見る事しか出来ない私。

 そんな私の視界に、一年振りに見る二人の姿が見えた。

 そう……宣言通り来てくれたのね。

 男の子の方は大分大きくなったわ。

 この年頃の子供の成長は本当に早いわね。

 

「その綺麗な笑顔が死を受け入れた人間の笑顔だとしたら、貴女は聖女ですね」

 

 残念ながら違うわ。

 これは死を受け入れた笑顔じゃない。

 希望を見た人間の笑顔よ。

 

「ではシャルロットママ。約束通り貴女の意見を尊重するので教えてください。貴女は死にたいですか? それとも――生きたいですか?」

「……い…き………たい」

 

 掠れた声でなんとか言葉を発する。

 

「了解です。今はゆっくり休んでください」

 

 朦朧とする私の耳にその言葉が届いた瞬間、安心して気が抜けた私の意識はぷっつりと途切れたのだった――

 




シャルロットママのイメージ的にそう簡単に靡かないイマージがあったので、なんかややこしい話になった。
自分でも読んでてなんか矛盾を感じるけど、どこを直せばいいのは分からないから投稿!


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