俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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今月は忙しかったので自分へのご褒美買った!
低反発マクラと低反発マッドが月末に届くので、来月の俺の安眠は約束されたも当然である!
さらば煎餅布団よ。


オルコット夫妻拉致作戦(中)

「私はもう二度と他人の手術は見物しない。そう決めた」

 

 ちょっとお高いホテル。

 人目があるので、贅沢にも上層階のテラス付きの部屋を借りて紅茶をお菓子を楽しむ。

 優雅にイギリスの街並みを見下ろしながら紅茶を飲む俺の隣で、束さんはお疲れオーラ全開でテーブルに突っ伏す。

 

「適合手術は成功したんですよね?」

「したよー。でも手際が悪くてイライラハラハラが酷かった。途中で乱入しようか悩みまくったよ」

「よく我慢しました。はいマカロン」

「あむ」

 

 ほっぺをテーブルに乗せて文句を垂れる束さんの口にマカロンを押し込む。

 出来る人間が出来ない人間のプレイを見てストレスが溜まる。

 あると思います。

 オタクも他人のゲームプレイ見てるとコントローラー貸せって言うときあるよね。

 俺も友人のモンハン初心者がアカムに手こずってるの見てPSPよこせって言った事あるわ。

 

「これで心残りは執事さんの問題だけですね」

「その執事だけど、明日は半休だって。行動パターンから見て町に買い物に行くはずだから、その時に狙えばいいよ。チョコで」

「しかしいざDNAの入手って言われても意外と困りますな。出掛けて留守してる間に仕事部屋でコロコロするのが楽かも? ほい」

「むぐ。落ちてる毛が100%執事の物って保障がないじゃん。それとオルコット家の屋敷は普通にセキュリティーが厳重だよ? しー君じゃ忍び込むのは無理だね。スコーンをジャムで」

 

 流々武を使えば……無理か。

 屋敷に入るまでは行けるだろうけど、屋敷内で自由に動ける気がしない。

 いくら貴族様の屋敷でも、ISで自由に動ける程通路は広くないだろう。

 

「なら体中にガムテープ巻きつけてハグが鉄板か。ほいイチゴジャム」

「あーむ。その選択を選ぶしー君はある意味凄いよ。次は紅茶」

「……口移しで?」

「しゃきん!」

 

 あ、体起こした。

 

「危ない危ない、精神的疲労で油断してたよ」

 

 冗談に決まっているじゃないか。

 本当は吸い口で飲ませる気でした。

 

「ん、やっぱりちゃんとした紅茶は美味しいね。ほいしー君、迷える君にコレをあげよう」

 

 手渡してきたのは一つのケース。

 中に入ってるのは……針っぽいな。

 

「これは?」

「特注の針だよ。先端に極小の穴が開いていて、中心が空洞になってるの」

「刺せと? いや逆に難しくないかな」

「握手した時にチクっと、なんてマンガぽくていいじゃん」

「それは確かに」

 

 なんかのアニメで見たことあるようなワンシーンだな。

 ちょっとやってみたい気分になってきた。

 

 

「道聞いて、お礼言って、最後に握手。そんな流れですね」

「テンプレ感があっていいんじゃない? やるのはしー君だしご自由にどうぞ」

 

 うん、想像したら楽しくなってきた。

 不謹慎だが、物事は多少楽しむくらいで丁度いい。

 

「しかし明日ってのがなー。一度無人島に帰って明日またイギリスに……は面倒ですね」

「言いたい事があるなら言ってごらん?」

 

 爽やかな風が束さんの髪を靡かせ、後ろ広がるイギリスの街並みとも相まってまるで一枚の肖像画の様だ。

 口にイチゴジャムが付いてて色々台無しだけど!

 

「今夜はイギリスに一泊でどうでしょう?」

「いいよ」

 

 ありゃ、随分とあっさりと。

 一度泊まった事で抵抗がなくなってきてる?

 なんてことだ……これは近い未来、束さんは俺とホテルに泊まる事になんの抵抗も感じなくなるのでは?

 ネット上で篠ノ之束は俺の嫁! って言っても許されそうだな。

 

「今日の宿はここでお願いね」

 

 束さんが空中に画像を投影し、それを俺の目の前に飛ばしてくる。

 なにその近未来技術。

 ちょっと前までは空中投影だけだったのに、今は動かせるのか。

 一人だけ未来生きてるな。

 さて、束さんがご所望は――リーズ城?

 

 湖畔のお城かな? えーとなになに、過去に王妃様が暮らしていた事から貴婦人の城と呼ばれているのか。

 イギリスで最も美しい城とも呼ばれ、迷路の庭があって不思議の国のアリス気分に浸れると。

 日本人が想像する、ザ・貴族のお城だ。

 

「私、たまにはお姫様気分を味わってみたいな~」

 

 束さんが猫なで声で身を寄せてくる。

 こんなの……こんなの断れる訳ないじゃないか!

 キャバクラプレイありがとうございます!

 

「了解です。喜んで予約を入れさせてもらいます」

「よろしい。あ、ここは雰囲気重視で料理は期待できないらしいから、最高の料理とワインも用意しといて」

「姫の望むままに」

「うむ、苦しゅうない」

 

 満足げに頷く束さん。

 口にジャムを付けたままでも高貴な感じがするから不思議だ。

 これはなんとしてもリーズ城の部屋を取らなければ。

 即座に電話!

 

 

 宿泊タイプは三種類? 空きは2部屋?

 アッハイ、大丈夫です。

 

 所詮俺は束さんの下僕。

 姫様には最高級の部屋に泊まってもらいます。

 俺は低ランクの部屋で大丈夫です……大丈夫です!

 

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

「昨夜はお楽しみでしたね」

 

 翌朝、イギリスの上空高くでお約束のセリフを呟いてみる。

 しかし返事はどこからもない。

 

「良い夜だったよね?」

「う~ん、やっぱり朝はミルク多めのアッサムに限る」

 

 ISを纏う俺の肩に腰を掛け、優雅に足を組みながら紅茶を飲むお姫様。

 どんな場所で紅茶飲んでるんだか。

 しかしこれは眼福。

 束さんのスカートは長いから、チラリとふくらはぎが見えるだけでエロティックだ。

 風でスカートがひらひらしてるのもグッド!

 そんな神シチュが視線の横にあるんです。

 もうたまりませんわ。

 

「しー君」

「はいなんでしょう」

「キモイ」

「……すみません」

 

 束さんは俺の肩に乗ってる。

 つまり見上げる姿勢だ。

 威圧的に見下されるのも悪くないなぐへへ。

 

「最近サービスしすぎたかな? 調子に乗ってる気がする」

「俺は束さんと同じホテルに泊まった男。一皮剥けた男が調子に乗って何が悪いッ!」

「じゃあ大人しくさせる為に去勢……」

「あ、清々しい童貞の心を思い出したので大丈夫です」

 

 一瞬本気の目をしたのを俺は見逃さない。

 オーケー落ち着きました。

 

「で、レオンハルト氏は何処に?」

「今はまだオルコット家に居るね」

「休みは午後からか。ならそれまでどっかで時間を潰します?」

「うんにゃ、執事の休みは午前だよ」

「ん? でもオルコット家に居るんですよね?」

「あの執事は古き時代の執事なのです。しー君が好きな中世ファンタジーだと、執事は主に常に付き添う者でしょ? それと同じだよ。あの執事の部屋はオルコット家の屋敷の中にあるのさ」

 

 それはそれは、執事の仕事に夢を持つ人間には喜ばれそうな話ですな。

 よくよく考えればこの世界はラブコメの世界。

 執事が同じ屋敷で寝食を共にする事はあり得る話だ。

 ってことは……俺にもワンチャンある?

 将来は美少女貴族令嬢の執事として一生を終えるのもいいかもしれん。

 

「しー君さ、身分相応って言葉知ってる?」

「なにも言ってないのになぜ考えが……もちろん知ってます。俺に執事としての能力が足りないと? 別に今から頑張ればいいじゃないですか」

「容姿はどうしようもないし」

「酷くないッ!?」

「燕尾服とか似合わない顔だし」

「ほっといて!?」

 

 燕尾服が似合わなくとも和服が似合うからセーフ!

 更識家とかあるし、日本も探せば良家のお嬢様とか存在するのでは? 俺、そっちに期待します。

 

「ぐだぐだ駄弁ってる間にとうちゃーく」

 

 束さんに言われるまま飛んでいたが、気付けば眼下に大きな屋敷が。

 ほうほう、あれがオルコット家の屋敷か。

 

「そして執事が出てきたね。決まった時間に決まった行動を取る人間の動きは素直でいい」

 

 おおう、ロングコートを羽織ったナイスミドルが出てきたよ。

 血の採取抜きに漢として握手したくなる渋さがある。

 

「じゃ、行ってきて」

「行ってきてって、束さんを肩に乗せたままで?」

「私はここで降りるから。また後で合流しようね! ヂュワ!」

 

 束さんが肩から飛び降りた。

 その背中にはいつの間にかバックが。

 パラシュート的な物かな。

 

 …………束さんを追い越せばスカートの中覗き放題なのでは?

 

 

 

 

 

 

『殺すよ?』

 

 ほんの僅か機体を動かした瞬間、耳元で束さんの声が聞こえた。

 ふっ、これが本当の以心伝心ってやつか。

 

『残念ながら本当の音声です。しー君はそこで私の後頭部だけ見てなさい』

 

 了解ですご主人様。

 成長し、大きくなるにつれ束さんのガードが固くなる仕様はどうにかならないかね?

 心の中では、束さんが俺を男として意識してる証拠だ! なんて言って自分を慰めてるけど限度があるぞ。

 

「さてと」

 

 束さんの事は一時忘れて、今は自分の仕事をしようか。

 オルコット家から町までは距離がある。

 町に入られる前に接触しなければ。

 町中で迷子のフリしての接触が一番自然だろうけど、執事さんもオルコット家の関係者。

 もしかしたら監視なんかが付いてるかもしれない。

 束さんがこの場で俺を一人にしたのも怪しい。

 暗にここで行けって言ってる気がする。

 なので――

 

「この辺でいいかな?」

 

 ステルスモードで木々の間に降り、ISを解除。

 左右に森が広がる真っ直ぐな道。

 いいね、景観自体は日本と同じなのにどこか違う。

 こういった瞬間に母国との違いを感じるのが海外に居て楽しいところだ。

 景色を楽しみつつレオンハルト氏の方に向かって歩く。

 数分後、遠くの方に人影が見えた。

 地図を片手に……道に迷った子供作戦開始!

 

「あの、すみません」

「む? わたしかね?」

 

 少し横を通り過ぎたタイミングで話かける。

 迷子の子供、特に男子小学生は素直に大人に頼れないってよくあると思うの。

 我ながら見事な擬態だ。

 

「この自然公園に行きたいんですけど、道合ってますか?」

 

 観光客が持っているような地図を片手にレオンハルト氏に近付く。

 俺が指で示した公園は町から違う道を通れば行ける場所だ。

 冒険心溢れる子供が海外旅行中に一人で遊びに行って迷子になる。

 実に自然だ。

 

「今君が居るのはココです」

「全然違う道ですね。ここからだと……道が複雑だ。もしかして一回町に戻った方が早いですか?」

「その方がよろしいかと」

 

 嫌な顔ぜず子供相手でも丁寧に相手してくれる姿はまさに紳士。

 それと微かにコロンの匂いがする。

 嫌味にならない程度の匂いはむしろ好感度が上がる。

 加齢臭なんて全然しないし、俺がノンケじゃなきゃ惚れてたね。

 

「ありがとうございます」

 

 サッと右手を差し出すと、レオンハルト氏は疑問も持たずに握ってくれた。

 その瞬間、左手を握手している手に被せる。

 秘儀、童貞が惚れる瞬間あるあるコンビニ女性店員のお釣り渡し術改ッ!

 お釣り渡される時、差し出した手にそっと下から手を添えられるとドキッとするよね。

 

 ガシッ

 

 ……おりょ?

 

「少年、君の顔には見覚えがある」

 

 これでミッションコンプリート、そう思った瞬間……俺の手首は押さえられたいた。

 

「君の名は佐藤神一郎で間違いないね?」

「えっと、どこかでお会いしたり……」

「こうして会うのは初対面さ。ただ資料の写真を見たことがあってね」

「その資料って……」

「篠ノ之博士関連、とだけ言っておこうか」

 

 なる、ほど。

 これはつまり――

 

「そうそう、わたしは休日の行動をルーチン化しているんだ。何故ならその方がオルコット家に害がある人間を釣れやすいからね」

 

 釣られたクマ―!

 この執事様、日頃から自分を餌に不穏分子を釣ってるのかよ。

 

「さて、これは針ですか」

「あっ」

 

 俺が固まってる間にあっさりと針を奪われる。

 

「ふむ、一見薬物などの液体が付着している様には見えませんな。それで佐藤君」

「なんでしょうレオンハルト氏」

「君がここ、オルコット家の屋敷の近くに居る理由、わたしに針を刺そうとした理由、その他諸々を語ってもらいましょうか」

 

 ゾクリと産毛が総毛立つ。

 千冬さんを怒らせた事もあった。

 束さんを怒らせた事もあった。

 だがこの重圧は今まで感じた事がないッ!?

 

「流々武ッ!」

「なんと!?」

 

 恐怖に負けてISを展開。

 装甲が装着され掴まれた腕と握手が外れる。

 当たり前だが、今の俺は完全に予想外の行動を取っている。

 まさかISを晒すことになるとは……ここからどうすればいいかわからん!

 

「……君は……少女だったのかね?」

「正真正銘男の子です」

「男のIS適合者? それはそれは……是非ともお話を伺いたくなりました」

「じゃあ一緒にお茶でもどうです?」

「御冗談を。初対面の人間に針を刺そうとする人とお茶など怖くてできませんよ」

 

 今現在恐怖を感じてるのは自分なんですけどね!

 くそが、やっぱり普通じゃねーよ。

 束さんに騙された!

 

「お互いに誤解があるようですし、後日改めて謝罪に伺いますので、今日の所はこれで」

「させるとでも?」

 

 わぁ早い。

 もう目前じゃん。

 

「ラディカルグッドスピード!」

 

 ISの両脚の変換、足裏の車輪を回し詰めてきたレオンハルト氏と距離を取る。

 道路での戦いで最高に輝く装備なのだよ!

 

「一瞬でISの一部だけを交換したのですか? 素晴らしいスピードです。どうやら君は思った以上にISの使い方に慣れているようだ」

「おおおう!?」

 

 イケオジ執事様が凄まじいスピードで追ってくる!

 オリンピックで余裕で優勝できそうですよレオンハルト氏!

 

「しかし……」

「ふっ! とぉ! ふんぬっ!」

 

 こちらに伸ばしてくる手を必死に避ける。

 いやIS纏ってるんだから生身の人間の拳なんて痛くないだろうけど、なにされるか分からないから触られたくない。

 

「動きは素人のそれですな。随分と歪だ」

「自分、ISには乗りなれてるけど戦いは素人なんですよ。子供なんだから普通です」

「当然の顔をしてISを使用している男は普通ではありません」

「ですよねー」

 

 対話が不可能なら空に逃げる手もあるが、今のところレオンハルト氏は会話を続けてくれる。

 無害アピールしてなんとか話を聞いてもらわなければ!

 

「考え事ですかな?」

 

 あ、まず。

 余計な思考していたらレオンハルト氏が手が装甲に触れそうだ。

 

「ふっ!」

 

 腕を振るってけん制。

 恐怖を感じつつも、一応まだ冷静だ。

 ISの力で生身の人間を殴ればどうなるかなんて想像するのは簡単。

 目の前を鉄の塊が通り過ぎれば誰もが止まるはず。

 そう思ったんだが――

 

「流石に重いですな」

 

 レオンハルト氏怯むことなく更に一歩踏み出して、俺のパンチを受け流した。

 この人、技量は千冬さんレベルかな?

 

「捕まえましたよ」

 

 レオンハルト氏は俺の懐に潜り込んでいた。

 もうこのままハグできる距離だ。

 見下ろす俺と見上げるレオンハルト氏。

 うん、これはダメだな。

 手加減なしで動きを止めれる気がしない。

 そして一般人たる俺は生身の人間に攻撃はできない。

 束さんと千冬さん? 人外&人外なのでノーカウントです。 

 

「すみまん、やはり一度引かせてもらいます。今日中に束さんを連れてもう一回来ますので」

 

 空に逃げれば追ってこれまい。

 はっはー! ISこそ空の覇者なり!

 ……あれ、なんか体が動かし辛い。

 

「捕まえたと、そう言ったはずですが?」

「ってなんじゃこりゃ? 体中に糸が……大丈夫大丈夫。ISのパワーをもってすれば――」

「アラミド繊維とチタニウムを焼結させた特性の糸、いくらISでもそう動けないでしょう?」

「うそん。あ、本当に動かない」

 

 全力で力を入れるが切れる気配がしない。

 レオンハルト氏、そのルックスで糸使いってマジですの?

 

「若い頃はピアノ線を使っていたのですがね。いやはやこの歳になっても勉強をしなければならないとは、科学の発展は凄まじいものですな」

 

 なんかザ・最先端科学の結晶って感じの糸ですね。

 個人的にはピアノ線で戦ってほしかった。

 

「しかしまだ余裕があるようだ」

「それはそうでしょ。プロペラを止められたヘリは落ちるでしょうが、ISは違いますから」

 

 体中に糸が巻き付いてるかなに? 別に飛ぶことも動くこともできる。

 ビックリしたけど、それだけっていうか――

 

「ちなみに、糸の先は周囲の木々ですよ?」

「はい?」

 

 えっと、こういったパターンなら糸の先はレオンハルト氏の手や指先だ。

 だがそれが違うと。

 そういえば、糸を切ろうと力んだがレオンハルト氏は自然体だった。

 普通なら力に抵抗する為にレオンハルト氏も力む場面だろう。

 ハイパーセンサーを使用、視覚情報をより正確に。

 周囲の糸全てを把握。

 

 この場所は左右に森がある道路である。

 道路横の木々から糸が伸び、それが俺に巻き付いている。

 

 これ、空からみたら蜘蛛の巣に掛かった獲物じゃん。

 うける。

 

「って飛べないじゃんッ!?」

「少し締め付けを強くするとこうなります」

 

 キリキリッ

 

 糸の締め付けが強まり、俺の体は歪な形で空中に縫い付けられる。

 俺、こんな形のデッサン人形見たことあるぞ。

 さてさて、アニメだとこういった場合の逃げ方は――

 

「助言ですが、ISを一回解除して抜け出そうと思わない方がいいですよ? 生身になった瞬間に輪切りになりますので」

 

 さっきから俺の思考を先回りして希望を潰してくるなぁ!

 この人生身でISに勝てちゃうタイプの人じゃん。

 ISを解除して再度纏うよりレオンハルト氏が糸を動かすスピードの方が速そうだ。

 これはムリゲー。

 

「……やはり君は普通とは違う様だ。この状況でも取り乱すことなく冷静とは」

 

 そりゃあ絶対に助かるって確証があるからね。

 もういい加減助けてくれませんか? そんな思念を遠くに見える束さんに送ってみる。

 えぇ、居るんですよ天災が近くに。

 500m先の大木の天辺に立ちながら、ポテチとコーラ持って観戦してるんだよあの野郎!

 レオンハルト氏が普通ではないと分かった時点で、俺は束さんが近くで見てると確信して探してたのだ。

 

 ISを所持してるのに生身の人間相手に負けるとか弱すぎ(笑)

 

 そんな感じの笑みを浮かべている。

 もうさ、これ怒っていいよね? ちょっと悪ふざけが過ぎてると思うんだ。

 ってな訳で俺はいまから反撃にでます。

 

「冷静に決まってじゃないですか。だって、俺はあくまで囮ですから」

「囮?」

「四時の方向500m先、なにか見えます?」

「まさかッ!?」

 

 レオンハルト氏が俺と木の間に張られている糸の上に飛び乗り、反動を使って高くジャンプ。

 便利な使い方だな。

 しかし500m先とか見えるの?

 

「あれは……ッ!」

 

 レオンハルト氏は老眼とは無縁でしたか。

 だがこれで種は撒いた!

 

「悠長に俺の相手なんてしてていいんですか? 本丸ががら空きですよ?」

「本丸? ……ッ! まさか狙いは……」

 

 レオンハルト氏の周囲に緊迫した空気が生まれた。

 現れただけで害を及ぼすと思われてる束さんにワロタ。

 

「残念ながら君は後回しです。ここで大人しくしててください」

「レオンハルト氏、その前に俺のかい……ほう……を」

 

 最後まで聞く事無くレオンハルト氏は束さんが居る方向に駆けて行く。

 しかし俺を放置してでも束さんの元に向かうとは意外だな。

 俺程度いつでもヤれるって自信の表れか、それとも一秒でも早く束さんを排除したいのか……両方かな? 

 オルコット家はエクスカリバーの開発に生体融合コアの実験とか、束さんの地雷踏んでる様に見えし焦るのも無理はない。

 

「流々武解除っと」

 

 ISを解除し地面に着地。

 もしかしたら解除した瞬間に発動する罠でもあるかと思ったが、それもなし。

 捕らえた敵をそのまま放置なんて甘い事しなそうだし、単純に見逃されたっぽいな。

 レオンハルト氏の優しさに感謝を。

 そしてこれから――

 

「うさぎ狩りじゃぁぁぁぁぁ!」

 

 流々武、装甲一部展開! 森に突撃!

 あのアマ絶対に許さないッ! これ下手したら死んでた案件だぞ馬鹿野郎ッ!

 そんな訳でレオンハルト氏に協力します!

 

「追ってきましたか」

 

 両足と両腕と頭部、森で高速で動く為に最低限だけISを纏った俺が先行していたレオンハルト氏の隣に並ぶ。

 安心してください、目的は同じです。

 

「手伝います」

「……真意が読めませんな。君は篠ノ之博士の仲間では?」

 

 生身でISと戦える糸使いと戦わせようとする人間を仲間とは呼ばない。

 

「俺の目的は篠ノ之束からの解放です」

 

 そう、束さんの玩具って立場からの解放を求む!

 一緒に遊ぶのは良いけど、俺で殺意の高い遊びをするのは許さん!

 

「なるほど、君にもなにか事情がある様だ。声に含まれる篠ノ之博士に対する怒りの感情は本物……いいでしょう、同行願います」

「感謝します」

 

 ふっ、ナイスミドル糸使い執事とIS適性を持つ転生者。

 これは勝ったな!

 

「見えましたな」

 

 木々の間から遠くに見えるのは見覚えありまくるうさ耳。

 未だにコーラとポップコーンを持ってるあたり余裕を感じる。

 

「もう、役者が勝手に舞台を降りるなんてダメなんだよ?」

 

 なにをかわい子ぶってぷんぷんしてるのかなー?

 今の俺はその程度じゃ止まらないぞ!

 

「初めまして篠ノ之様。アポイントは取られてないようですが、オルコット家に何かご用ですかな?」

「やぁやぁどーもどーも。世界が求めてやまない束さんです! ところでお前ちょっと甘くない? しー君の手足切り落とすくらいはすると思ったのにさー」

「子供相手にそんな非道な真似をするように見えますかな?」

「敵相手なら容赦しないタイプには見えるね」

「動きは素人、殺意はなし、敵と判断する材料がどうにも見当たらなかったものですから」

「あー、しー君がダイコン過ぎたのか」

 

 穏やかな会話だ。

 だが内容が酷い。

 そうかそうか、束さんは俺がレオンハルト氏に無様にやられる姿をご所望でしたか。

 見てる方は楽しそうだね、見てる方は!

 俺の手が切り落とされた後にロケットパンチ改造手術とかするんだろ?

 ニコニコ顔で改造する束さんの姿が目に浮かぶよ!

 

「束さん、流石に今回はオイタが過ぎましたね」

「別に五体満足なんだし怒る要素なくない?」

「レオンハルト氏が冷静な人だったからの結果論でしょうが。本当に手足切られたらどうしてくれる」

「ん? 指さして笑ってた」

「……なんと?」

「だから、どうするって質問の答え。笑う」

「そうなんだ~」

 

 束さんが楽しそうに笑うものだからこっちまで笑顔になっちゃうよ。 

 本当に仕方がない子だなぁ~~~

 

「くたばれッ!」

「おっと」

 

 瞬時加速からのパンチは余裕で回避された。

 森の中ではISの性能を最大限に発揮できない。

 だがそれでも問題はない。

 所詮俺は誰かの引き立て役よ。

 

「捕らえました」

「おりょ?」

 

 気付けば束さんの周囲には糸が張り巡らされており、それが一斉に束さんを捕える。

 今がチャンス!

 拡張領域からハンマーを取り出す。

 今ならやれる!

 

「ハンマー×足の小指=死ッ!」

「狙いが凶悪過ぎじゃないかなっ!?」

 

 束さんの泣き顔は全世界の男が求める最高のオカズ! 最高画質で録画してやんよ!

 身動きが取れなくなったなった束さんの足元にハンマーを――

 

「このワイヤー、結構良いの使ってるよね。束さんには無意味だけど」

 

 束さんの周囲の糸が一瞬で細切れになり、俺のハンマーはあっさりと避けられる。

 ISさえ封殺できるはずなんだけどなー。

 

「表の世界じゃ最先端だろうと、そんなワイヤーは束さんの世界では五世代前の旧式なのさ」

 

 手でクルクルとナイフを回す姿は強者感満載だ。

 簡単に切断したのを見ると、高周波ブレードの一種かな? 

 

「なんと、こうも簡単に切り裂くとは流石ですな」

 

 しかしレオンハルト氏は取り乱さない。

 なんて頼りになるおじ様なんだ。

 

「ではこれならどうでしょう?」

「まだ懲りない――っとあぶなっ!」

 

 自分に巻き付こうとした糸にナイフを振るおうとした束さんが、途中で手を止めて慌てて回避行動を取った。

 はて? 自分にはさっきのと何が違うのか分かりませんが。

 

「ワイヤーにオイルを塗ってあるね。摩擦を減らし刃が嚙まないようにした訳だ。小技が得意なのかな?」

「弱者の浅知恵ゆえ、失礼」

 

 なるほど、ローション塗れにすれば切られないとは考えたな。

 

「で、も」

 

 束さんが左手に握られるのは外見はどう見ても日本刀。

 日本刀なら摩擦を無視して切れるとでも?

 

「流刃若火っ!」

 

 刀身が真っ赤に染まった刀が糸を切断する。

 お前そんなロマン武器作ってたんかいッ! 後で触らせてもらお。

 

「激しい運動は老骨に堪えるのですがねぇ」

 

 糸を足場にし、レオンハルト氏が森の中を駆け走る。

 完璧に人間やめてる動きだ。

 

「かもーん」

「ではお言葉に甘えて」

 

 束さんとレオンハルト氏の拳がぶつかり合い空気が弾ける。

 腕を取られたレオンハルト氏が投げられるが、途中で糸に捕まり地面に落ちるのを回避。

 束さんの背後からナイフが飛んでくる。

 レオンハルト氏が仕掛けたトラップだろう。

 ナイフ二本は体を軽く捻って避け、残り一本は指で受け止めた。

 捕まえたナイフをレオンハルト氏に投擲するが、高速で飛び回るレオンハルト氏の影に刺さるのみ。

 レオンハルト氏が腕を振るうと、大木に切れ込みが入り束さんに向かって倒れる。

 普通なら慌てて避ける場面だが、束さんは前に見せた高周波ブレードを取り出して一閃、迫る大木を真っ二つにした。

 木の陰から飛び出したレオンハルト氏が束さんに肉薄。

 拳と脚の応酬が数度行われた結果、レオンハルト氏が後ろに下がる結果になった。

 木々が倒れる衝撃で土煙が舞う中、天才と執事が睨み合う。

 これ、なんて人外バトル?

 

「力は下、速度はまぁまぁ、かな」

「手厳しい評価ですな」

「でもお前の強みはそこじゃないでしょ? 努力した秀才って感じかな。うん、自分の器を理解してる戦い方は好ましいよ」

「褒められてるのでしょうか?」

「凄く褒めてるよ。そこの置物に比べたら……ねぇ?」

 

 流れ弾が飛んできた。

 今あの子鼻で笑いました? 笑ったよなおい。

 こんな戦い見せられたら一般モブなんて置物か解説するしかやることないだろうーが!

 オーケーオーケー、ヤムチャの実力見ぜてやんよッ!

 

「せいッ!」

「後頭部狙いは本気過ぎないっ!?」

 

 背後からの回し蹴り。

 

「おりゃ!」

「このプリティフェイスに本気のグーパンだとぉ!?」

 

 人中への正拳突き。

 

「オラッ!」

「弁慶の泣き所はやめてっ!?」

 

 足にローキック。

 

 束さんに全ての攻撃は避けられるが、それでも俺は手を止めない。

 何故ならレオンハルト氏がなんとかしてくれると信じてるから!

 

「お待たせしました」

「ほ? これはこれは」

 

 束さんがぐるりと周囲を見渡す。

 木々の間に縦横無尽に張り巡らされた糸。

 今の束さんは糸で出来た籠に閉じ込められたウサギ。

 

「ふーん、糸の太さや色を変えて見えづらくしたりしてるんだ。頑張ってるで賞をあげよう」

「やれやれ、一見しただけで読まれるとは、わたしもまだまだですな」

 

 普通ならこれで決まりだと思えるんだけど、束さん相手だとそんな考えが浮かばないから不思議だ。

 だがここまでお膳立てしてもらえれば、後は隙を見てなんとか―― 

 

「なんとか動きを止めてください。そうすれば押さえてみせますので」

「了解です」

「二人仲良く束さんに挑んでもまだ戦力不足じゃないかなー?」

 

 そうだね。

 正面からじゃ勝てないさ。

 だがしかし、俺もレオンハルト氏も搦め手派なんだよ。

 

 シュルリ

 

「お? おーーーーっ?」

 

 束さんの足首に糸が巻き付き、それが一気に引き上げられる。

 落ち葉の中にも糸が隠してあったとは流石です!

 そしてこの宙吊り体制なら束さんのパンツがッ!

 

「ガードは完璧です」

 

 チッ! 両手でスカート押さえてやがる!

 だがそれならスカートを押さえる余裕をなくすまでだ!

 

「腹パンの時間だ!」

「なんの!」

 

 ハンマーでお腹を狙うも、束さんは腹筋の力で上体を起こして避けた。

 すかさずレオンハルト氏が束さんを糸で拘束しようと動くが、束さんに迫る糸は全てその体に触れる前に切られ地面に落ちる。

 そのまま足の拘束を切り束さんは地面に着地。

 

 こ こ だ!

 

「運動会! 一夏×短パン!」

「わふーっ!」

 

 せっかく両足が地面に着いたのに、束さんは自ら足ををまた地面から離した。

 

「レオンハルト氏!」

「お任せを」

 

 束さんを中心に糸のドームが収束する。

 一重、二重、束さんの体のみるみる糸で隠れていく。

 だが両手で一夏の写真をしっかりと握っているその顔はとても幸せそうだ。

 まだどうとでもなると思ってるんだろうな。

 だが甘い!

 この場には俺が居る。

 篠ノ之束がこの程度で終わるはずがないと信じてる俺がな!

 これがダメ押し!

 

「封印ッ!」

「……鬼かな?」

 

 束さんが自分の状況を見てポツリと呟く。

 糸の上から大量に貼られた千冬さんの写真は見事束さんを封印した。

 まんまるミノムシの千冬さんコーティングの完成だ。

 

「糸を切ればちーちゃんの写真も切ってしまう。まさかこんな方法で私を封じるとは」

「所詮はいくらでも焼き増しができる写真、気にせず切ってもいいんだよ?」

「できるかっ!」

 

 ですよねー。

 そして口調とは裏腹に満足げな表情。

 さては千冬さんの写真を貼られて喜んでるな?  

 

「いやはや、まさかこんな方法で篠ノ之博士を捕まえるとは」

「あ、レオンハルト氏、お手伝いありがとうございました」

「いえいえ、お気になさらず。それでこれからどうするおつもりで?」

「束さんですか? そうですね……イギリス政府に売り払うとか?」

「まさか篠ノ之束量産計画を実行する気っ!?」

 

 なぜ束さんがその計画を知ってるんだ。

 売った束さんが逃げてきたらまた売る。

 各国相手にぼろ儲けできる禁断の金策プランなのに。

 酔った拍子に口が滑ったりしたのかな?

 

「売るかどうかは佐藤君の判断にお任せしますよ」

「執事は人身売買を止める気ないのっ!?」

「オルコット家に害を与える存在ですので」

「問答無用で敵認定だとっ!?」

 

 ミノムシ状態なのに元気だなー。

 丁度良い具合に、戦いの余波で森の中なのに空白ができた。

 枯れ木集めてー。

 

「しー君はなにしてるのかな?」

 

 火を点けてー。

 

「おーい? しー君? なんで私の真下で焚火してるのかなー?」

 

 おや珍しい、束さんがちょっと焦ってる。

 

「ねぇ、しー君ってばごっほごほっ!?」

「煙が上がるので喋らない方がいいですよ?」

「容赦ないっ!?」

 

 涙目で苦しむ束さんは絵になるぜ。

 

「さてレオンハルト氏、せっかく火を起こしたんで、焚火で温まりながらコーヒーでもいかがです? 接触した理由も説明しますので」

「ご相伴に預かりましょう」

「放置? まさかの放置なの?」

「お前はそこで苦しんでろボンレスハム」

「ボンレスハムっ!?」

 

 さーて、ひと段落したところで束さんの苦しむ姿を愛でつつコーヒーブレイクの時間だ。

 

「しー君ごめんっ! ごめんってばっ! 煙が目に染みるのぉー!」

 

 束さんの鳴き声は売られているどんなボイスより耳に気持ち良い。

 幸せだなー。

 




糸でグルグル巻きにされ吊るされてるのにどこか幸せそうな表情の束さん。
その下で焚火をしながらコーヒーを飲む小学生と執事様。
楽しそうでいいよね(にっこり)

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