俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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正月早々パソコンがぶっ壊れた!
通勤途中で靴紐が切れ!
仕事中にメガネが壊れた!

消耗品とは言え、不幸連鎖しすぎでは?
初詣行かなかったのが悪かったのかな(´・ω・`)


オルコット夫妻拉致作戦(前)

「見事に完成しましたなー」

「したねー」

 

 オシャレな外観、機能的な内装。

 ザ・高級リゾートのログハウスだな。

 こんなにも立派なマイハウスなのに、何故こうも心が寂しいのか。

 うん、原因は分かってるんだけどね。

 

「俺が手を掛けた場所って地下室だけなんですが」

「そこも私が手直ししたけどね。仕事が雑なんだもん」

「家具の配置も直しましたよね?」

「だってしー君センスないし」

「俺が建てたって言っていいですか?」

「プライドが許すならどうぞ」

 

 言えるかッ!

 こんなプロが手掛けた完璧なログハウスを自分で建てたなんて絶対に言えない。

 だからこそ寂しい。

 俺、伐採と道の整備と畑作りしかしてないんだよ?

 トロッコやログハウス、電気系統を含むライフラインの設備は全部束さんがやったもの。

 俺の仕事? パイプを通す道を作ったりはしたよ。

 って土木工事しかしてねーし!

 流石は世界中で秘密基地や研究所を作ってだけある。

 無駄のない流れでみるみる完成させちゃうんだもの。

 

「しかし束さんにしては本当に珍しく協力的ですね」

「だってさ、オルコット何某が避難を拒否したらしー君はここに住むんでしょ?」

「ですね。まぁ学校には通うから別荘的な扱いですが」

「ならさ、私もこのログハウスに入る事もあるよね?」

「遊びに来る気ですか? それは全然構いませんが」

「私は掘っ立て小屋に泊まる気はない!」

 

 お年頃の女性、魂の叫びである。

 ん? それって――

 

「泊まる前提? まさかあのダブルベッドって……」

「一人で使うに決まってるじゃん。童貞は居間で寝袋」

 

 ふっ、束さんの蔑んだ目が気持ちいいぜ。

 だが残念だな束さん。

 如何に天才と言えど、童貞のハードルの低さは計算できないらしい。

 束さんが普段自分が使ってるベッド寝る、自分が束さんが寝てたベッドを使う。

 どっちでも興奮しますが?

 寝袋上等。

 童貞はそんな場所で戦ってないのだよ。

 そう、俺は篠ノ之束と同じホテルの部屋に泊まった男。

 例えベッドとソファーの違いがあろうと、”束さんとホテルに泊まった”と俺は言える。

 今後の人生においても俺はその事実を一生忘れない。

 それが童貞のハードル!

 

「なんで寝袋で寝ろって言われて目をキラキラさせてるの? ドМだから? 殴ろうか?」

「ちゃうわ。ところで今日のご飯はどうしましょう? まだ無人島開発自体は終わってませんが、ログハウス完成記念で豪勢に行きたいですよね」

「期待してるよしー君。なんなら三ツ星レストランとか予約しちゃう?」

「や、高級すぎるのは緊張で味が分からなくなるから。んー、庭でBBQとか?」

「しー君はすぐに焼き物ですませちゃうからなー。やるなら松坂牛でね」

 

 松坂牛でBBQとかなんて贅沢。

 焼き方ミスして炭にしたら松坂牛に失礼だから、それはそれで緊張感のある食事になりそうだ。

 しかしやっぱり違和感が酷いな。

 最近の束さんは高級志向過ぎる。

 高いものは美味いってのは理解できるが、物欲なんて一部に尖ってるだけでブランド物なんて興味ないはずなのに、家具は高級品だしバッグやらなんやら欲しがるし……。

 どう考えてもおかしいよね?

 

「うーむ」

「どったの?」

「最近の束さんはやはりおかしいなーと」

「ギクリ……そんなことないんじゃないかなー? 束さんはいつも通りの天才美少女だぞっ☆」

「どう見ても異常じゃないか」

 

 なんだその媚びっ媚びの笑顔。

 ガラにもなくウィンクなんてしちゃって……最高の笑顔ご馳走様です!

 いやそうじゃねーよ。

 

「やっぱりなにか企んでますよね? 聞くたびに色々と理由を付けられて誤魔化されてたけど、流石にもう無理です」

「……無理かな?」

「無理です」

 

 聞き返す時点で企みがあるってことじゃん。

 いい加減キリキリ吐きやがれ!

 

「あのねしー君」

「なんでしょう」

「お金だけで私の笑顔を見れる気分はどうだった?」

「……はい?」

「いろんなものをおねだりされて、それを買ってるあげる気分はどうだった?」

 

 どうだったって……まぁ悪い気はしなかった。

 前世でも女性におねだりされるなんて経験なかったし、新鮮な気分だった。

 そう、まるでキャバクラのお姉様におねだりされる気分。

 行ったことないけどね!

 ん? つまり、束さんがここ最近俺に散財を強いてきた理由って――

 

 

「キャバクラにハマる童貞、近くで見る分には最高に滑稽で面白い見世物でした」

「趣味悪すぎではッ!?」

「なんだかんだ文句言いつつ高い買い物して、それで私が笑顔になったら嬉しかったでしょ?」

「っ……否定はできない!」

「お金だけで異性の好感度を得られるってどんな気分だった?」

「それ……は」

「ねぇねぇ」

 

 束さんがニヤニヤ笑いながら俺を顔を覗き込もうとする。

 正直悪くなかったです!

 キャバクラで彼女でもない女性に貢ぐとか馬鹿じゃねーのと思ってました!

 でも経験して理解した。

 お金だけで女性が笑顔になってくれるのって、非モテ童貞にとってやべーわ。

 

「しー君、君は本当に良い玩具だよ」

「良い笑顔でトドメ刺すな」

 

 だがまぁこれで今までの束さんの行動の意味が分かった。

 まったく、童貞で遊ぶとはたちが悪い。

 

「出来れば人の心を弄ぶ遊びは控えてください」

「はーい。………ふっ、ちょろい」

 

 なんか返事の後に小声で言った気がするが気のせいか?

 もう束さんの事はいいや。

 

「ログハウスは束さんおかげで完成したし、次は何から手を付けるべきか」

 

 果樹を植えたりとまだまだ仕事はある。

 後はあれだ、ニワトリ小屋も作りたい。

 この島、魚を捕れるけど動物性タンパク質がないんだよな。

 ニワトリなら柵だけ作って放置でいいし、素人でも育てられると思う。

 卵は料理でいくらでも使うしね。

 ニワトリの捌き方のハウツー本とか売ってるかな? オルコット旦那さんには頑張って覚えてほしい。

 

「やる気出してるとこ悪いけどさ」

「なにか問題でも?」

「問題っていうか本題? オルコット何某の暗殺日が決まりました」

「ついに、って感じですね」

 

 元々この無人島はオルコット夫妻を匿う為に買ったものだ。

 開拓に夢中になってたけど、俺の目的は無人島開発で遊ぶんじゃなくてオルコット夫妻の保護。

 緊張してきたぜ。

 

「エクシアちゃんの生体同期型ISコアとの適合手術は終わってるんですか?」

「それは今日の午後からだね。だから私はちょっと見学に行ってきます」

「束さん一人じゃ心配ですし、俺も同行……はしなくていいですね」

「意外な選択。しー君なら来ると思ったのに」

「だってどんな手術か分からないじゃないですか。嫌ですよ、お腹が開いた美幼女を見るの」

 

 俺はな、薄着の術衣とか大好きだけど血とか臓物はNGなんだよ。

 手術は必ずしも大量の血が出たり内臓が見えたりするものじゃないけど、可能性があるからな。 

 

「しー君も来ていいんだよ? むしろ一緒に行くべきだね」

「断る!」

 

 束さんがウキウキしてそう言うなら、手術は多少なりとも出血があるパターンじゃないですか。

 絶対に行かん!

 

「相変わらずのヘタレめ」

「ほっとけ。それで暗殺日は?」

「ISコアとの適合が成功すれば一週間後だね」

「結構急な話ですね。暗殺とかもっと時間を掛けて計画を練るもんだと思ってました」

「一週間後に絶好の暗殺チャンスができたから、急遽決めたみたいだよ」

「暗殺チャンス? なにかあるんですか?」

「ここで問題です」

 

 デデン

 

 なんか音楽が流れた。

 今は暗殺とか暗い話してるシリアスターンなんだから自重して欲しい。

 

「暗殺するならどんな場所、時、シチュエーションが相応しいと思う?」

「正解すると良いことあるんです?」

「なでなでしてあげよう」

「よっしゃ任せろ!」

 

 束さんのなでなでとか狙うしかないでしょーが!

 原作で死因語られてたっけ? 流石に覚えてない。

 だから本気で考えよう。

 まず場所。

 対象が確実に居る自宅だな。

 勤務先、移動中は予定外の事態が起きる可能性があるし。

 時は夜。

 目撃されないようにするには当然の選択だ。

 シチュエーションは……対象が眠った時だな。

 人間が一番眠りが深くなるのって朝方なんだっけ?

 つまり――

 

「対象の帰宅を確認できる自宅で、朝方の3時~4時の深い眠りに入っている間に速やかに排除する」

「それが答えでいいんだね?」

「はい」

 

 ゴクリ

 

 束さんと視線が合い緊張が生まれる。

 果たして俺の答えは正解か、それとも――

 

「残念!」

「クソが!」

 

 まじかー。

 俺が暗殺するならそう考えると思った答えなんだが、ダメだったか。

 

「予想通りの素人考えな答えで私は満足である」

「喜んでくれてどーも。で、答えは?」

「正解は――大勢の人間と一緒に確実に吹っ飛ばす! でした!」

 

 ほお、大勢に人間に一緒にね。

 それってつまり無座別にテロに見せかけてって事か。

 んー、なんか聞いたことあるな。

 なんかの海外ドラマかアニメで似たような話が……

 

「大勢の犠牲を出すことで標的が誰だったのか悟らせない工夫……でしたっけ?」

「おりょ? 知ってるじゃん」

「聞いた事があります。犠牲は多ければ多いほどいいと、なぜなら初動が遅れるから。被害者の確定から始まり、それが事故なのか事件なのかの調査があり、解決に膨大な時間が掛かるんですよね?」

「そうだね。んで適当なテロリストグループ名で犯行声明とか出せば解決はほぼ不可能。完全犯罪の出来上がりだね」

「オルコット夫妻もその形で狙われると?」

「いえす! 対象が狙われるのは電車に乗った時だよ。脱線事故で多くの死傷者。事故なのか事件なのか、事件なら狙いは国なのか鉄道会社なのか個人なのか。個人なら誰なのか。地元警察と国の機関との間でギスギスして情報共有が疎かになり……うん、怪しむ人間は居るだろうけど、それがとある夫婦狙いだと確信は持てないだろうね。なんせ都合よく国の高官も乗車してるし」

「暗殺だとしても、オルコット夫妻以外にも暗殺される可能性がある人間が居るって事ですか。それは確かに狙いたくなるシチュエーションですな」

「ちなみに助けるなら電車に乗ってからの方がいいよ。その方が死体の偽装が簡単だから」

「却下」

「なぜに? しー君が助けたいのはオルコット何某だけでしょ? その他大勢が死んでくれた方がいいじゃん」

 

 これは本気で言ってるのだろうか? きっと本気なんだろうな。

 束さんは善悪で語ってはいない。

 オルコット夫妻の死を偽装して匿うにはどっちがいいのか、それを理論的に言ってるのだ。

 だからこそ俺は気持ちで語ろう。

 束さんには人命の大切さを知って貰わなければならないからな。

 

「大勢ってさ、ヤリチンリア充だけ?」

「ほえ?」

「だからさ……男だけが犠牲になるかって聞いてるんだよ!」

「突然のガチギレっ!?」

 

 ダメだわ。

 束さんのダメな所が出ちゃってるわ。

 

「あのさー、その中には年頃の女性や少女が居るんだよね?」

「居るだろうね」

「それを見殺す? テメェ……童貞舐めてんのか?」

「失礼な。嘲笑ってるけど舐めてはない!」

 

 笑ってるのかいっ! いやいいけど。

 

「もしかしたら将来の嫁になってくれるかもしれない相手。それをを見殺すとかありえない!」

「……現実みよ?」

「見てるよ。見てるから言ってるんだろうが。可能性が0.0000000000000001%以下でも、可能性は可能性だ!」

「うん、そだね。宝くじがあたる可能性より低いけど、可能性は可能性だもんね」

 

 優しい手つきで肩叩くのやめてくれない?

 半分冗談なので慰めるな!

 普通に考えて事故が起きると分かっているのに見殺すはずがないでしょうが。

 そんな事したらストレスで胃が死ぬっての。

 

「さて、しー君の戯言は置いといて、どう動こっか」

「束さんはなにかプランあります?」

「100パターンはあるね。でも今回はしー君主体で動くべきだと思うんだよねー。ってな訳で、どう動くはしー君が考えてね」

「まじですか」

 

 これは下手な作戦を立てられんな。

 電車に乗る前に拉致しなければならない。

 だが大切なのは篠ノ之束の存在を悟らせない事。

 イギリス政府にも亡国機業にもだ。

 だってもしかしたらセシリアが束さんを両親の仇だと勘違いしたり、勘違いさせられたりする可能性がある。

 俺、二次小説の原作介入による改変には詳しいんだ。

 よかれと思ってやった事が後々になって大事件を引き起こす。

 あると思います。

 

「束さん、電車に細工されるのって当日ですよね? オルコット夫妻が乗り込んでからとか」

「だろうね」

 

 暗殺の当日、前日に攫うのは都合が良い感じがして生存を疑われるか?

 なら三日前くらいが無難かな。

 

「ちなみにどの程度手伝ってくれます?」

「それがオルコット何某を助ける為に必要な行為ならしー君の指示に従うよ? だってそうすれば今回の件の全てはしー君の責任だもん。もちろん……失敗した場合の責任もね!」

 

 こいつ、笑顔でなんてこと言いやがる。

 人助けってさ、もっと気軽で気分がよくなるものじゃないの?

 なんで俺の胃はズキズキしてるんだろう。

 

「ねぇ、プレッシャー感じる? 胃が重い? 今どんな気分?」

「確信犯かこの野郎! 気分は最悪、今すぐにでも束さんの双丘に挟まれて癒されたい!」

「しー君如きにはおっぱいマウスパットがお似合いだよ」

 

 おっぱいマウスパッドかー。

 一度ふざけて買った事あるけど、思ったより手首の負担減らなくて残念だった思い出がある。

 外見は素晴らしいけど、機能性は残念だよね。

 

「色々言いたいが、束さんが動いてくれるなら問題ない。俺の言葉を曲解したり、悪ふざけで無視したりしないように」

「……それはフリってやつかな?」

「残念だがガチです。もし余計な真似をしたら、箒と一夏にあることないこと吹き込んで束さんの好感度を下げる」

「最悪な脅しだっ!?」

「俺の目を見ろ。マジでやるからな?」

「プレッシャーで余裕がないんだね! 了解しました!」

 

 本当に頼みます。

 俺だって一夏や箒の束さんの悪口は言いたくないのだ。

 おふざけしたらガチで悪意満載の嘘を吹き込むけどな!

 

「じゃあ早速しー君に作戦を考えてもらおうか。……二人の人間の命がしー君に掛かってると思うと心がポカポカするね!」

 

 わーい。束さんのキラキラ笑顔を間近で見られる俺は本当に幸せ者だなー……クソが!

 絶対にオルコット夫妻を助けて美味い酒飲んでやるからみてろよ。

 

「日常でオルコット夫妻が二人だけで車に乗ったりするパターンはありますか?」

「ないね。移動は車だけど運転手付きだよ」

 

 ないんかい! 初手から躓いたよ。

 そう言えばお貴族様だったな。

 二人だけなら楽だったのに。

 

「同じ車の乗るのは運転手一人だけ?」

「場合によるかな。買い物の時とかはメイドも一緒だね」

 

 メイド連れて買い物とかラノベかよ。

 あ、ラノベだっだ。

 

「夫婦と運転手だけの時ってどんな用の時です?」

「政府関連施設に行く時だね。今はエクスカリバー打ち上げ前でほぼ毎日行ってるよ」

 

 ふむ、それならなんとかなるか。

 となると次の問題は仕掛けるタイミングだな。

 

「行く政府施設って一か所だけですか?」

「うんにゃ、都会にある施設と郊外の施設に2パターン」

 

 都会にあるのはお偉いさんが集まって会議したりしてるイメージ。

 郊外の方はエクスカリバー関連の施設かな。

 

「オルコット家からその二つの施設のルートを出してください」

「ほいほい」

 

 さてさて、オルコット家は郊外の豪邸。

 会議場(仮)は町中のビルで、研究所(仮)はオルコット家と同じ郊外にあって町を挟んで反対側だな。

 出来れれば郊外の方で襲いたい。

 その方が周囲に被害が出ないからだ。

 でも俺は町中で襲いたい。

 オルコット夫妻の死を多くの人間に目撃して欲しいのだ。

 

「マンホールが信号機の前にある個所ってあります?」

「ふむふむ、しー君の狙いが分かったよ。ほい表示」

 

 あ、もう分かっちゃいましたか。

 王道と言えば王道だから仕方がないけど、ちょっと悲しい。

 ルート上に赤い点が追加される。

 町中にはそこそこあり、郊外に向かうにつれ少なくなっていく。

 これはどこにするか迷うな。

 

「人通りがなく、周囲に他の車もないなんて状況は難しいですよね?」

「帰宅時間に狙えば大丈夫じゃないかな。イギリスは17時~18時に帰宅ラッシュだし、それが過ぎれば閑散とすると思う」

「それもありですが、暗殺じゃなくて事故にしたいので、目撃者は欲しいんですよね。そして犠牲は出さないでスマートに終わらせたい」

「となると、現場の近くにガラス張りのショーウインドーやドアがないのが好ましい感じかな?」

「ですね」

「そんでもって道路と歩道に距離があった方がいいと」

「それも必要な要素ですな」

「んーと、平面マップじゃ分からない点もあるから3Dマップにして、そんでもって必要なデータを打ち込んで自動的に適した場所を表示!」

 

 便利! 圧倒的に便利!

 流石は篠ノ之束ですわ。

 くーくるアースを見ながら必死に探す必要なんてないんや。

 

「要望に合うのは二ヶ所だね」

「やっぱり少ないですね。だけどあるならラッキー」

 

 人参マークが表示されるのはオルコット家から車で市街に移動するまでの途中の一ヶ所、それと市街地に入って少し進んだ所だ。

 この二ヶ所なら後者かな。

 

「束さんなら周囲に被害を出さず、ついでに消音性のある爆弾も作れるよね?」

「爆風の向きなんかは簡単だけど、消音っている?」

「テレビで爆発音で耳がやられたって聞いたことがあるので」

 

 テロ被害者のインタビュー映像だったかな?

 被害は絶対に出したくないじゃん。

 たまたま近くに居た人が耳に障害が……なんてなったら胃が荒れる。

 憂いは絶つのみ!

 

「まぁ余裕だけど」

 

 さすたば!

 

「ところでしー君、運転手の執事はどうするの?」

 

 運転手は執事さんでしたか。

 一応の案として、束さんにその執事さんの変装をしてもらおうと考えている。

 だがその場合、執事さんをどうするか問題があるんだよな。

 生かしておけばオルコット夫妻の死に疑問を覚えられるだろうし……うーん。

 いっそのこと一緒に攫うか? オルコット夫妻が家事できるか不明だし、お貴族様なんだから身の回りの世話をする人間が必要だろう。

 つっても執事とは言え雇われ者。

 誰が無人島まで行って面倒見るかと言われたらそれまでだけど。

 オルコット夫妻の下の者に対する態度が試されますな。

 ブラック企業の管理職なら見捨てられるのは確実だが、どうだろうね?

 断れたら話し合いだな。

 大金渡して口止めし、第二の人生楽しんでもらおう。

 なお口を滑らせたら束さんのお仕置きで。

 

「オルコット夫妻と一緒に攫います。んで一緒に無人島にご招待で」

「偽装の為の肉塊追加だね。そんなしー君に残念なお知らせ」

「なんです?」

「オルコット何某のDNA情報を私が用意してある。ま、サービスだね。でも執事のはない」

「……つまり?」

「あの執事から髪の毛の一本でも取ってきて。別に髪じゃなくてもいいよ? 皮膚片、血液、唾液でも可」

「それって手伝ってくれたりは……」

「爆弾作ったりして忙しいから無理だね!」

 

 清々しい笑顔で嘘つくな!

 この束さんの発言の裏の意味はなんだ?

 俺にやらせるには理由があるはず。

 

「執事さん、なにかあるの?」

「それを考えるのもしー君の役目だよ」

「執事のプロフィールをください」

「ほいほい」

 

 簡単にプロフィールが出てくるあたり、それなりに普通じゃないんだろうな。

 で、プロフィールだが。

 

 名   レオンハルト・カリバーン

 年齢  66歳

 職業  オルコット家執事長

 趣味  園芸

 特技  紅茶を淹れること

 

 以上の情報に加え、ナイスミドルだと付け加えておく。

 秋葉原の執事喫茶なら指名率№1確実のおじ様である。

 ふ、なるほどな――

 

「これ絶対に強キャラじゃん!? この顔と名前って絶対に主人公だろ!?」

 

 なんてこった……まさかこの世界がインフィニット・ストラトス3の世界だったなんて!

 あれだろ? 成長した無印主人公がサブキャラとして出るパターンだろ? よくあるよくある。

 

「どう見てもただの初老のおっさんじゃん」

 

 本気かこいつ。

 

「束さん、俺の目を見てください」

「ん」

「この執事様普通の執事ですか?」

「ごく普通の執事です」

 

 束さんの瞳は引き込まれそうなほど綺麗で、一切の濁りがない。

 ……こんな綺麗な目で見られちゃ信じない訳にはいかないよな。

 

「ごめん束さん、ちょっと疑心暗鬼が過ぎた」

「慎重なのは悪い事じゃないよ」

 

 謝る俺に対し、束さんが慈愛の表情を見せる。

 ほんとアメと鞭の使い方が上手い。

 俺が訓練された童貞じゃなければ一発で惚れるところだったぜ。

 

「おっと、そろそろ出ないと適合手術に間に合わないや」

「なら俺はレオンハルト氏の所に向かいましょうか。名前からいってエクシアちゃんのおじいちゃんですよね?」

「だよ。施設までオルコット何某と幼女を連れてくるのは彼だから、一緒に行く?」

「その施設って、東洋人の少年が歩いていても違和感をもたれない場所ですか?」

「3秒で捕まると思う」

 

 声掛けられる段階をすっとばすのか。

 病院とかじゃなくて“施設”って時点でお察しだよね。

 んじゃダメだな。 

 

「今日の所は諦めます」

「それが無難だね。あ、でもイギリスまでは運んで」

「了解。せっかくだから果樹とか今日揃えちゃおうかな」

「帰りはイギリスでアフターヌーンティー!」

「エクシアちゃんの手術が無事成功したら豪勢にしますよ。失敗したら俺の手作りクッキーです。俺がネチョネチョ練った小麦粉で焼くから」

「聞くだけで食欲失せる! もし失敗しそうになったら全力で介入するよ!」

 

 悲しいなぁ、一夏が作ったクッキーなら喜んで食べるクセに。

 だがこれでエクシアちゃん生存の可能性がグッと上がっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて平穏な会話をしてた数日後。

 

 

「少年、君の顔には見覚えがある」

 

 俺は血液採取の為に手の甲に針を刺そうとした瞬間を取り押さえられていた。




ぼくが考えた最強の執事……出陣!





た「え、嘘は言ってないよ。主人を守る為の武力と、仕える家を守る為の情報収集力を持つ、アニメやゲームでよくある普通の執事だよ?(暗黒微笑)」

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