俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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原作との改変点があります。

原作一夏の零落白夜

→日本刀が縦に割れて中心からエネルギーそのものが刃になったものが生える。見た目は大剣というかバスターソード?

モンド・グロッソ千冬

→エネルギーそのものを刃に纏わせる。

 
いやさ、変身機能がある武器のロマンは理解できるんだけど、オーラや魔力や闘気、色々あるけど日本刀ならそのまま纏った方がオサレじゃね? となりました。
  




モンド・グロッソ最終日 日本VSイタリア(下)

 千冬の機体が光りに包まれる。

 日常で目にする人工的な光や太陽の光とは違う温かく柔らかい光り。

 幻想的な雰囲気に会場全体が息を呑んだ。

 

 やっと……やっとサ。

 千冬の戦い方はどこか窮屈そうだったサ。

 まるで体中に鎖を巻いたまま戦ってる様だったサ。

 フェイとの戦いの時にその鎖が千切れたかに見えたけど、千切れた鎖の下には更に鋼鉄の帯が巻いてあっサ。

 それもまるで内側から溢れるものを抑えてるかの様な感じでサ。

 漠然と思ったサ。

 きっと千冬は二次移行できると。

 そしてどういった方法かは分からないけど、二次移行せずに戦っているんだと。

 

 戦いたい!

 

 そんな感情だけがアーリィーの内に溢れたサ。

 フェイとの戦いで千冬は確かに本気だった。

 だけど本気だったのは千冬だけ。

 ISの方は本気じゃなかった。

 それじゃあダメサ。

 アーリィーも熱くなって相手も熱くなる。

 なにもかも出し尽くして精魂尽き果てるまで戦う。

 そんな戦いを望んでるのサ。

 

『彼岸へ誘え』

 

 徐々に弱まる光り、その中心から千冬の声が響く。

 

『――暮桜』

 

 光りがはじけ飛び、今まで光りで隠されてた千冬の姿が露わになる。

 ISの各部は今までと少し違う程度で大差ない。

 一番の違いは千冬が握るブレードだ。

 西洋の大剣型だったのが日本刀に近い形になっている。

 

 この時を待ってたサッ! 

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

「積もる話もあるのだし、まずは座ってはどうかの?」

 

 自称ISが畳を叩いて座れとアピールする。

 私は束や神一郎と違ってこういった不思議体験に免疫がないんだよ。

 そもそも今は試合中だ。

 

「出来れば早急に戦いに戻りたいのだが?」

「今は機体の改装中じゃからすぐには無理じゃ。それに外とここでは体感時間が違うから多少のお喋りは問題ないのじゃ」

「そういう事なら」

 

 二次移行に時間が掛かるなら仕方がない。

 私は大人しく火鉢の前に腰を下ろした。

 火鉢を挟んで正面に座る少女を改めて観察する。

 年の頃は12歳ほどで艶やかな黒髪は畳に着きそうなほど長い。

 白を基調にした着物は桜の花びらで彩られている。

 まるで日本人形みたいな子だな。

 ふむ……

 

「お前はISコアそのものなのか?」

「如何にも! ISコアの人格が擬人化したのがこの姿なのじゃな! 美しいであろう?」

「……現実世界に実体化したりしないよな?」

「うむ? 今は無理じゃな」

「今は、なのか?」

「そもそも方法が分からん。もしかしたら出来る様になるかもしれんし、母上がその手段を見つけるかもしれん。だから今は無理という答えなのじゃ」

「そうか、それならいいんだ」

「我に現実世界に居て欲しいのかの?」

「いや、特に意味はない質問だ。気にしないでくれ」

「ふむ……?」

 

 質問の意図が分からず首を傾げる姿は……大変に危険だ!

 もし現実世界に現れたら、私は束と神一郎を手に掛けなければならないかもしれない!

 束はどう動くは判断しかねるが、神一郎は確実に騒ぐだろう。

 アイツだけには絶対に秘密にしなければ。

 もし存在がバレたら『俺、千冬さんの心の中で和服美少女と永遠に一緒に暮らす』とか言いそう。

 そして本気で実行しそう。

 注意しなければ。

 

「ところで主様」

「なんだ」

「主様は我の名は聞き取れたかの?」

「……聞こえなかったな」

 

 わざわざ自己紹介してくれたのに悪いが、私には名前の部分が聞き取れなかった。

 何故聞こえなかったのかは自分でも分からない。

 

「主様、それじゃよ。我が主様をこの場所に呼んだのはそれが理由なのじゃ」

 

 少女の顔が悲しげに歪む。

 

「のう主様、主様はなぜ我の名は呼んでくれないのじゃ?」

「それは――」

「名とはその存在を示すもの。自称では駄目なのじゃ、名とは誰かに呼ばれて初めて意味があるのだと我は思う」

 

 他人に呼ばれて初めて意味が、か。

 私には織斑千冬という名前がある。

 だがそうだな、仮にプロジェクト・モザイカで産まれた後でも個体番号や実験名で呼ばれてたらとしたら、それはとても悲しい事だろう。

 

「機体は改装中だと言ったが、それだけで形態移行が終わる訳ではないのじゃ。二次移行とはそんな単純なものではない、操縦者とISの繋がりが大切なのじゃ」

「私は――」

「なんての。主様がどうして名を呼んでくれないか、その理由を我はとっくに知ってるのじゃ」

 

 なんとか言葉を出そうとする私のセリフを少女がぶった切った。

 ここで満面の笑みとは良い度胸をしている。

 仮にも主を翻弄して楽しいか? 束の血を感じるよ。

 

「主様に寄り添い、その人柄や性格をもっとも理解する存在が我じゃ。主様の想いなど言葉にせずとも理解しているのじゃ」

 

 自慢げに胸を張られても困るんだが。

 束のねちっこさが遺伝してないか心配だ。

 

「私の気持ちが理解出来ると言うなら答え合わせをしようか」

「よいじゃろ。なぜ主様が名を呼んでくれないか――それは我と母上に対して後ろめたさがあるからじゃな?」

「……正解だ」

 

 少しは誇張があるのだとうと思っていたが、少女はきっちりと私の心情を読んでいた。

 誰にも知られたくなかった私の覚悟。

 それを知っているというのか。

 

「主様は我を兵器として使う可能性を考えている。だから我を物扱いしてるおるのじゃろ?」

「あぁそうだ。ISは自己を持つ存在だと私は知っている。だが場合によってはISの……お前本人の意思を無視して血に染まる事になるかもしれない」

 

 ISには意志がある。

 しかしIS本人は自分を動かすことが出来ず、乗り手の意志には逆らえない。

 思うのだ、もしかしたらIS自身は戦いを拒否してるのではないのかと。

 やめてくれ、そう叫んでるかもしれないのだ。

 だが私は戦う。

 たとえISが拒否しようと、私はいざとなれな愛機を血に染めるだろう。

 なぜなら――

 

「弟を守る為に――じゃな?」

「……そうだ」

 

 私も一夏も普通ではない。

 今は周囲は平穏だが、それが絶対だとは保証されてないのだ。

 もし争いが起き、それに一夏が巻き込まれたら私は人を殺める事を躊躇しない。

 一夏を失うくらいならきっと容赦なく殺せるだろう。

 例えISが人を殺す事を嫌がろうとだ。

 

「色々と苦悩がある様だが主様……一夏を守る為なら我は敵を殺す事に迷いはないぞ?」

「そうなのか? 意外だな。お前に一夏を守る理由など――」

「だって一夏はめんこいからのぉ~」

 

 ……あん?

 

「あんな愛らしい一夏を傷付ける存在など滅殺あるのみなのじゃ!」

 

 どうしよう……私のISが箒を愛でてる時の束と同じ顔をしてるんだが?

 やはり束の影響かッ!?

 

「主様の考えは我には分かると忘れてないかの? 一夏愛は母上の影響ではなく主様の影響じゃぞ?」

「馬鹿なッ!?」

 

 姉として弟を想う気持ちを誤魔化す気はない。

 だがそんなだらしない顔をするような“想い”ではない! 絶対にないぞ!

 

「我は主様の影響を受けて育ったISじゃぞ? 我の感情は主様の感情じゃよ。見よ! これが我の愛の証明じゃ!」

 

 どんと取り出されたのは写真アルバム。

 パラパラとめくって見ると、一夏の写真がびっしりと……。

 もうただのストーカーだぞこれ。

 ん? 一夏の後ろの風景が変だ。

 見覚えがるな、これは神一郎の家だ。

 だが写ってるのはエプロン姿の一夏、私が見た事がない姿だ。

 それにこっちの剣道大会の写真、これは神一郎と出会ったばかりの頃だから私はISを所持していなかった。

 この写真は私が見た映像や記憶を写真化してるのかと思ったが、それだけではないな。

 

「この写真の出所はどこだ」

「んむ? 主様の記憶とるーねぇから貰ったものじゃな」

「るーねぇとは誰だ」

「流々武姉上じゃ」

 

 コアネットワークを通じて写真データのやり取りしてやがる!?

 私の想像以上にISコアが俗物だった。

 このバグ具合は私の影響だけじゃないな。

 ある意味安心した。

 

「お前の気持ちは理解した。一夏を好んでくれて姉として嬉しいとだけ言っておこう」

「好みではない! 愛なのじゃ!」

「戯言は流して続けるぞ。つまりお前は一夏を守る為などの、理由がある殺しなら問題ないから名前を呼び自分を受け入れろ、と言うことだな?」

「戯言じゃないんじゃが……まぁそういうことかのぉ」

 

 私のISに対してのアレコレは杞憂だったらしい。

 ISの感情を無視して戦う可能性を心配していたが、まさに無用な心配だった訳だ。

 しかしこの出会いは決して無駄ではないだろう。

 むしろ都合が良いと言える。 

 

「名前を呼ぶのは構わん、それで形態移行が終わるなら私も問題ないさ。だがその前に一つ頼みがある」

「なにかの?」

「単一能力の指定は出来るか?」

「ほぉ?」

 

 目が一瞬細くなり、瞳の奥に好奇心が見えた。

 今度は私が驚かせる事ができたな。

 

「単一能力は主の性格や戦い方など、多くの情報を元に生まれるものじゃ。それを自分で決めたいと?」

「ISは意志を持つ存在、ならば交渉も可能だと思ってな」

「くくくっ、主様は面白いのぉ」

 

 そんなに笑う事だろうか?

 誰だってISとコンタクトが取れる手段があったら試すと思う。

 きっと神一郎もやるだろう。

 どんな能力か分からない不安を抱えるより、交渉して“こんな力が欲しい”と頼んだ方が建設的だ。

 

「出来るかどうかはともかく、話だけは聞こうかの。主様はどんな力が欲しいのじゃ?」

「一撃必殺系だ」

 

 前々から思っていたことだが、モンド・グロッソで数多くのISと戦って確信した。

 もしISが敵となれば厄介この上ないと。

 搭乗者を守るシールドバリアー、思考速度や動体視力を引き上げるハイパーセンサー、戦闘機を上回る機動力。

 素人でも武装した生身の人間を圧倒出来るようになる。

 敵が現れたとして、一夏が人質になり敵にIS乗りが居たら正直マズい。

 生身の人間なら行動不能にするのは楽だ。

 だがISではどうしても時間が掛かってしまう。

 致命的な事態になりかねないのだ。

 

「く……ふふっ……」

 

 少女は口元を袖で隠し必死に笑いを堪えている。

 その目尻には涙が溜まりちょっとの刺激で決壊しそうだ。

 

「で、どにかなるのか?」

「まっ……主様、少し待って欲しいのじゃ。今落ち着くから、今すぐ落ち着くから……くふふっ」

 

 割と真面目な話をしてるつもりなんだがな。

 まぁ反応を見る限り交渉自体は可能そうだから文句は言わないが。

 

「あー、ごほん。すまなかったの主様、もう大丈夫なのじゃ」

「別に構わないが、何がそんなに面白かったんだ?」

「提案自体がじゃ。よいかの主様、我が生み出そう考えていた力――主様の単一能力は一撃必殺系じゃ」

「……つまり?」

「主様の事を深く知る我に対して馬鹿真面目な顔をするのがツボだったのじゃ」

 

 もう出会いそのものが無駄だったのでは?

 私に協力的で単一能力も望み通り。

 素直に名を呼んでおけば深層心理の世界なぞに呼ばれることもなかっただろう。

 

「そう残念な顔をしないで欲しいのじゃ。少なくとも我はこうして主様と話せて嬉しいぞ?」

「あぁすまん。そうだな、私も共に戦う相棒と話せた事は嬉しく思う」

 

 長い付き合いになるのだし、顔合わせと思えばいいか。

 

「一夏を守る為に安心して単一能力を使うのじゃ」

 

 まったく、ISとはたいしたものだよ。

 だがこれで憂いはなくなった。

 もし一夏を害する敵が現れたら私は遠慮なく戦える。

 それが分かって良かった。

 

「主様」

 

 少女が立ち上がり私の前に立つ。

 そして小さな右手を差し出してきた。

 日本人と言えば、だな。

 

「これからよろしく頼む、“暮桜”」

「我が名は『暮桜』。これより主、織斑千冬の剣となり全ての敵を斬り伏せよう」

 

 手と手が重なった瞬間、そこに光りが生れた。

 二人の中心から風が吹き荒れ周囲の家具や壁を吹き飛ばしていく。

 それでも私は小さな手を握ったまま離さなかった。

 

「――完了じゃ」

 

 晴れ晴れとした顔で暮桜が笑う。

 そうか、私の単一能力が生まれたんだな。

 

「良い景色だが、住み家が台無しだな」

「なに、この程度すぐさま直るのじゃ」

 

 壁も屋根も吹き飛んだ座敷の中心で私達は夕暮れの光りに包まれる。

 怪しくも美しい赤い光り。

 なぜか目が惹かれる。 

 

「美しいがそれと同時に人の心を不安にさせる。逢魔が時と言うのだったな」

現世(うつしよ)常世(とこよ)の境界が曖昧になる時間じゃ。主様にぴったりじゃろ?」

 

 夕暮れが似合う女と言われても困るんだが。

 だが悪い気はしないな。

 世界を照らす日の出。

 空に静かに佇む月。

 それらに比べたら確かに私に似合うかもしれない。

 

「そろそろお別れの時間じゃな」

「ちなみに現実時間ではどれくらい経ったんだ?」

「三分ほどかの」

 

 そこそこ長話をしたと思っていたがそんなものなのか。

 いや、アーリィーを三分も待たせたとも言えるな。

 早く戻らなければ。 

 

「主様、最後にこれを」

 

 暮桜がすっと差し出してきたのは日本刀だ。

 

「オマケじゃ。持って行くといい」

「貰えるなら有り難く貰おう」

 

 遠慮なく受け取ると確かな重みを感じる。

 もしかしてこれは現実世界に持ち出せるのか?

 

「銘は『雪片』じゃ。その刀をを引き抜いた時、主様は現実世界に戻る」

「そうか」

 

 左手で鞘を握り、右手で柄を握る。

 

「暮桜、お前と話せて良かったよ。機会があればまた会おう」

「そうそう会えるとは思わんが、我も主様とまた話せる日を楽しみにしているのじゃ」

 

 どこか照れくさそうに笑う暮桜。

 その姿は年頃の少女そのものだ。

 願わくばこれ以上は束や神一郎のISである流々武の影響を受けずに育ってほしい。

 さて、せっかくだから待たせてしまった詫びに観衆へのサービスでもするか。

 取れ高と言うやつだな。 

 ゆっくりと刀を引き抜く。

 刀身が夕暮れの光りを反射し、刀自体が朱く輝いてる様にも見えた。

 

「彼岸へ誘え、暮桜」

 

 残りの刀身を一気に引く抜く.

 周囲の風景が歪み始め、捻じ曲がって見える。

 アーリィー、今戻るぞ。

 

「のう主様、彼岸は仏教用語で涅槃の向こう側という意味で、その言い方だと日本語的には“天国に送る”じゃ。決して悪い意味ではないからの? 殺意マシマシで使うのは間違いなのじゃ」

 

 そんなツッコミが歪んだ風景の向こうから聞こえてきた。

 いいだろ別に。

 天国だろうが地獄だろうがあの世なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歪んだ景色が光りに塗りつぶされ、一瞬めまいに襲われる。

 それと同時に耳には観客の声が届き始めた。

 

「ふぅ」

 

 静かに目を開けると、私は日本刀を片手に持った状態で立っていた。

 今までのブレードとは違う、そして芸術的な日本刀とも違う。

 肉厚で重厚、日本刀の鋭さとブレードの硬さを併せ持つ刀だ。

 分類するなら野太刀になるだろう。

 これは良い物を貰った。

 

「この時を待ってたサ! さぁ、アーリィーと殺し合おうサッ!」

 

 見上げると空中でアーリィーが吠えていた。

 待ち時間で落ち着くどころか更にテンションが上がっているな。

 

「少し待て」

 

 そんなテンション高めのアーリィーに手で待てのジェスチャー。

 

「なんでサ!?」

「機体状況を把握したい。全力でやるには必要な事だ」 

「む、それなら仕方ないサ」

 

 アーリィーは渋々ながら聞いてくれた。

 新しい機体のスペックを知らずに戦うのは愚かな行為だ。

 アーリィーもそのへんを考慮してくれたのだろう。

 さて、二次移行した暮桜の機体状況は――

 

 ――PICを含む各種ブースターの強化。

 

 機動力より加速力と速度重視か。

 今なら全ISの中で直線スピードは一番だろう。

 それに瞬間最高速度までの到達点も早い。 

 好みの強化だ。

 

 ――装甲

 

 こちらは変化なし。

 細部の形状が少し変わった程度だ。

 

 

 ――単一能力

 

 シールドエネルギーを別のエネルギーに変換。

 雪片にそのエネルギーを纏わせる事で効果を発揮し、敵のシールドエネルギーを切り裂く事が出来る様になる。

 

 

 なるほど、これはまさしく一撃必殺だな。

 ISはシールドエネルギーで守られてるので、多くの人間が軽装だ。

 その気になれば首を刎ねる事も容易となる。

 シンプルだが強力な力だ。

 使い方を誤らないよう気を引き締めなければ。

 

「よし、把握した」

「終わったサ? なら早くやろうサ!」

「その前に悪いお知らせだ」

「なにサ?」

「私はそう長く戦えない」

「……なんて?」

「エネルギー残量がな……どうやら二次移行をする為には多くのエネルギーが必要とするみたいだ。ガス欠寸前で通常戦闘なら一分も持たん」

「なん……だと……!?」

「だが安心しろ。一分も戦う気はない。この勝負、一撃で終わりにする」

「……へぇ」

 

 単一能力を使用した短期決戦。

 それが私が勝つ為の唯一の方法だ。

 挑発の意味も込めて一撃で決めると言ったのだが、効果覿面だ。

 試合開始から笑顔だったアーリィーの笑みは、今まで見た事がないほど深く獰猛なものに変わり、まるで猛禽類のようにさえ見える。

 時間稼ぎをするか逃げに徹していれば楽に勝てるだろうに、そんな様子は一切見せない。

 どうやら乗ってくれるみたいだ。 

 

「真正面からの勝負に応じてくれる事に礼を言う」

「構わないサ。本気で戦ってくれるなら時間なんて関係ないサ」

 

 雪片の腰に備え付けられた専用の鞘に納める。

 うん、やはり日本刀とはこうでなくては。

 刀身の長い野太刀は本来抜刀術には向かないが、ISなら問題ない。

 

「千冬、ちょっといいサ?」

「どうした」

「昔から疑問だったサ、抜刀術ってそんなに強いサ? 速度も威力も上段の方が強いと思うサ。それに結局は横の薙ぎ払い、動きが読まれて損するだけサ」

 

 第三者から見ればそういった意見もあるか。

 そうだな、確かに下手な抜刀術は確かに弱い。

 実戦で使用するなら、腰の捻りを使った無駄のない力の運用や鞘から刀を引き抜く技術など、求められる要素が多い。

 だが一番大事なのは技術ではない、心構えだ。

 

「アーリィー、抜刀術とは覚悟の現れだ。相手の刃が自分の命に届く前に斬る、避けられる前に斬る、そんな覚悟の現れなんだよ」

「捨て身ってやつサ?」

「捨て身とは違うな。そもそも自分の命を捨ててもなんて考えはしていない。なぜなら相手を斬ることしか考えてないからだ」

「それはそれは……アーリィーも見習いたい心構えサ」

「なら見習えばいいさ。まだ奥の手の一つぐらいあるんだろ? お前も全力で来い」

「ならお言葉に甘えてそうさせてもらうサ。――これが私の最高の姿サッ!」

 

 アーリィーの背に六枚の翼が出現する。

 追加のブースターか。

 スピード特化の今の状態で更に翼の追加。

 恐らくブースターを使用した状態では、自身のスピードに反応できず普通の攻撃さえままならないだろう。

 となると……自分自身を弾丸にした体当たりか?

 アーリィーのスピードで突撃されたら……壁のシミになりそうだな。

 だがアーリィーも大きなダメージを受けるはず。

 人の事をなんだかんだ言っておいて、自分こそ捨て身の攻撃ではないか

 

「もう会話はいいサ。後は――」

「あぁ、互いの技で語ろう」

 

 アーリィーがアリーナの壁ギリギリまで後退する。

 立ち位置は地表スレスレ。

 上空からの攻撃の方が有利だろうに、私に合わせてくれるとはな。

 礼は……全力で当たる事しかないか。

 

 

 空気がひりつき、気付けば観衆さえも今は声を潜め戦いを見守っていた。

 心臓の音だけが聞こえ、視線はアーリィーに釘付けになる。

 人外の私だが、今だけは人として生きてる気がする。

 呼吸を整え全ての筋肉から力みを捨てろ。

 脱力こそが最速を生むのだ。

 繰り出す技は篠ノ之流ではない。

 篠ノ之流をIS戦で使用する為に改変したオリジナルだ。

 

嵐の大天使(アルカンジェロ・ディ・テンペスタ)ァァァァ!!!!」

 

 アーリィーの姿が掻き消えた……ように見える。

 だが二次移行した暮桜はその姿をしっかりと捉えた。

 小細工なしの真っ向勝負。

 己を弾丸に変えて向かってくる。

 

「零落――」

 

 鞘から引き抜かれた刃が白く輝く。

 これこそが暮桜の真の力、全てを切り裂く白刃。

 

「白夜ァァァ!」

 

 迫り来る弾丸とそれを迎え撃つ白刃。

 交差は一瞬。

 勝敗は―― 

 

 

 

 

 

「私の、勝ちだ」

 

 空中で鮮血をまき散らし、灰色の天使は地面に落ちた。




た「二次移行きたぁぁぁぁ!(大興奮で嬉し泣き)」
し「そして斬ったぁぁぁぁ!(地獄が終わって嬉し泣き)」

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