俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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インフィニット・ストラトスのゲームってなんでも萌えに全振りなんだろう?
メダロットとかガンダムカードビルダーみたいに、パイロットと機体と武装を組み合わせて育成とかの方が楽しそうでは?


モンド・グロッソ最終日 日本VSイタリア(上)

「失礼します」

 

 肩を揺さぶられ目が覚める。

 

「ん……おはようございます」

 

 立ち上がり背筋を伸ばし筋をほぐし体調を確かめる。

 結構休めたな。

 

「私はどれくらい寝ていました?」

「一時間ほどです」

 

 私はBグループの試合が終わったら起こしてくれと頼んだ。

 つまりアーリィーとアリアは一時間近く戦っていのたか?

 

「試合内容を聞いても?」

「まずカナダ代表が遅延戦闘を仕掛けました。引きながらアサルトライフルなどで牽制したりミサイルを撃ったり、ともかく近付かせないようにしてました」

「限られた空間でアーリィーから一時間も逃げるのはほぼ不可能だと思いますが?」

「カナダ代表はイタリア代表の動きを完璧に読んでいましたから、恐らくかなり研究したのかと」

「なるほど、それで結果は――」

「勝ったのはイタリア代表です。最後の最後にカナダ代表を追い詰め接近戦で決めました」

 

 アーリィーはノリは軽いが馬鹿ではない。

 アリアの狙いを読んで長期戦に望んだのだろう。

 そして隙を見て一瞬で勝負を決めたと。

 言葉にすると簡単だが、一時間に及ぶ戦いは二人の精神を大いに削ったに違いない。

 アリアはアダムズが認める戦闘巧者。

 そのアリア相手に長時間の駆け引きをし、最後はしっかりと決めたアーリィーは見事だな。

 

「アーリィーの機体の状況はどうでした?」

「ダメージは軽微ですね。大きなダメージは受けないよう立ち回っていました」

 

 となると、残り30分で機体のダメージはほぼ回復できそうか。

 問題はアーリィーだな。

 少しでも回復してくれれば良いのだが。

 

「情報ありがとうございます。そう言えば私の機体の方は?」

「そちらも問題なく。今は最後の仕上げをしてる最中です」

 

 自分の機体を見ると、パーツごとにバラバラにされ、そのパーツを念入りに磨いているスタッフの方々。

 あれはなにをしてるんだ?

 

「皆さん最後の試合だから汚れた状態で人前に出せないと言って……」

「まぁ綺麗になる分には構わないですが」

 

 私の視線に気付いた水口さんがひらひらを手を振る。

 一部のパーツは交換すると言っていたし、出来ればフィッティングなどを確かめたかったんだが、まだいいか。

 

「少し席を外します。戻ったらISの状態を確かめたいので、そう水口さんに伝えてください」

「かしこまりました」

 

 楽しそうにパーツを磨くスタッフの人達の脇を通りトイレに向かう。

 トイレに行くときはいつも緊張する。

 束が個室に居そうで怖いのだ!

 今はきっと神一郎で遊んでるから大丈夫だろうが、油断は出来ない。

 

「むぐ?」

「む?」

 

 トイレのドアの前でバッタリ出会う。

 

 ――ケーキを呑気に食べる次の対戦相手であるアーリィーに。

 

「栄養補給か?」

「んぐ、時間が限られるから時短の為サ」

「そうか……」

 

 微妙に気まずい!

 試合前のこのタイミング、しかもトイレの前ってのがなんとも。

 しかしこれは……ふむ。

 

「入ったままなんだな」

 

 アーリィーは気を張ったままだ。

 感じる気は試合中と遜色ない。

 呑気にケーキを食べトイレにも行くが、身体は休ませても心は休ませてないのだ。

 そんな調子でもつのか?

 

「下手に休むよりこの状態の方が良いサ。だって次の試合は千冬が相手なんだから」

 

 こちらの心配を他所にペロリと口元に付いたクリームを舐めながら楽しそうに笑う。

 そうか、全然問題ないって事だな。

 心身共に回復しほぼ平時の状態である私と、体力的に疲弊しているが試合中の高いテンションを維持しているアーリィー。 

 これはどうなるか分からんな。

 

「二人仲良くと言う訳にもいくまい。私が離れよう」

「アーリィーは気にしないサ」

「私が気にするんだよ。ではなアーリィー、次は試合会場で」

「楽しみにしてるサ」

 

 それは私のセリフでもあるさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「調子はどうですかー?」

「問題ありません」

 

 トイレから戻ったら整備が終わっていたので早速フィッティングテストを開始した。

 ISの腕部部分だけを装着し、指先の感覚を確かめる。

 握り、開く。

 最も基本的な動作を繰り返す。

 ん、問題ないな。

 

「次は脚を」

「はいは~い」

 

 腕と手が終わったら今度は脚を。

 空中戦なら気にならないが、地上戦なら足裏の感触などは大事な要素だ。

 床に足を付け感触を確かめる。

 よし、こちらも問題ないな。

 

「完璧です」

「それは良かったです~」

 

 体力、回復済み。

 心理状態、多少の高揚は見られるが平均内。

 負傷箇所、青アザ程度は残っているが骨や内臓にダメージなし。

 機体、原状回復済み。

 

 最高の状況だな。

 心置きなく全力で戦える。

 

「では行ってきます」

「ふぁいとですよー」

「織斑さんガンバ!」

「千冬さんなら絶対に勝てます!」

 

 登場口に向かう私の背中に声援の雨が降りかかる。

 今までの人生で味合った事がない恥ずかしさと嬉しさがある。

 団体戦はこんな気持ちなのか。

 負けられない気持ちが強まった。

 

「展開」

 

 ISを纏い空に飛び出す。

 

 ワァァァァァッ!

 

 今まで一番の歓声が上がった。

 観客もそろそろ疲れてるかと思いきやテンションは最高潮だ。

 さて――

 

「随分と急くな。そんなに私と戦いたかったのか?」

「許されるなら今すぐ殴りかかりたいサ」

 

 後入りのアーリィーはファンサービスもせず私の前に立つ。

 今すぐ殴りたいは冗談ではなさそうだ。

 その身から漏れる気迫は尋常ではない、最初からトップギア。

 私もそれ相応の覚悟をしないと初手から押し切られる可能性があるな。

 

「位置に着け。全力で相手をしてやる」

「期待してるサ。飛蘭にさえ見せなった“全力”を見せてくれる事を」

 

 遠回しな言い方だが、これは私の切り札を読まれてるのか?

 そう見た方が良さそうだ。

 アーリィー、切り札を切らせたければ私を追い詰めてみろ。

 

 ――3

 

 呼吸を早めろ。

 落ち着いて対処など考えたら一瞬で飲まれる。

 

 ――2

 

 熱を産め、指先まで気を通せ。

 

 ――1

 

 相手を、叩き潰せッ!

 

 ――0

 

「オオオォォォ!」

 

 獣の如き雄叫びを上げ真正面から突撃してくるアーリィー。

 待ちはない。

 こちらもブレード片手にアーリィー斬りかかる。

 互いに瞬時加速を使用して正面からのぶつかり合いだ。

 

 ギィン!

 

 ブレードと拳がぶつかり合い火花が散った。

 飛蘭の時の様な武器を折る為の打撃ではないが、それでもブレードを軋ませる。

 

「行くサァァァァ!」

「これ……はっ!」

 

 アーリィーの攻撃を捌き切れない……だと!?

 

「遅い! 遅いサ! まさか寝てるサ!?」

 

 アーリィーの勢いが止まらない。

 左右の拳がブレードを弾き、ついに被弾を許す。

 やはり私とは勢いが違う。

 この勢いはそう簡単に止めらない。

 ならばここは一つ試してみるか。

 

「ふんっ!」

 

 拳をわざとブレードの側面で受ける。

 一度では流石に無理だが、力を逃がさない、衝撃を一点で受けるやり方で何度か受ければ――

 

「ン? 千冬、なにか企んでるサ?」

 

 私の理に適わない行動にアーリィーが訝しむ。

 だがそれでも手は止まらない。

 警戒で手を止めるなんて真似はしないか。

 よし、これで――

 

「わざと折ったサッ!?」

 

 何度目かの攻撃を受け、ピキリとブレードにヒビが入る。

 計算通りだ。 

 続いて拡張領域からもう一本ブレードを取り出す。

 それをアーリィーに向かって振るう。

 拳で叩き落そうとする行動を利用、こちらも意図的にブレードに負荷が掛かる様にする。

 一撃、二撃、……防がれるが問題はない。

 アーリィーの反撃、これも落ち着いて新品のブレードでガード。

 蹴りで来い蹴りで。

 お前の蹴りなら一撃で折れるだろ……よし折れた。

 やれやれ、今日一日でいったいに何本のブレードを折っただろうな。

 こんな事なら水口さんらに頼んで作って貰えば良かった。

 

「またッ!? 何が目的サッ!?」

 

 いやちょっと神一郎が持っていたマンガで面白いのがあってな。

 マンガはマンガ、現実とは違うが、中には現実で使えそうなものがる。

 初めての試みなのでマンガに出て来る技などは流石に無理だが、取り回しはなんとなるだろう。

 

「小太刀二刀流と言う、面白いだろ?」

「短剣の二本持ち!? その程度で!」

 

 半ばで折れた二本のブレード。

 間合いが短くなっただ、その分振りが早い。

 そして両手に持つ事で手数は二倍だ。

 

「うん、使えるな」

「そんな思い付きでアーリィーの攻撃を防げるとでもッ!」

「防げるんだよコレが」

 

 腕を引き、伸ばす。

 殴る為には二つの動作が必要だ。

 だがブレードで攻撃を受けるのは違う。

 受け止め方や受け流し方を注意すればいいのだ、最短の動作は手首の動きだけ。

 な? なんとかなるだろ?

 

「負けるかァァァ!」

 

 アーリィーの回転力が上がるが、それでもまだ対応できる範囲内。

 熱くなってくれたのは儲けものだ。

 このまま体力切れを待つか、それとも大振りさせて隙を狙うか――

 

「なんちゃって。ツェイ!」

 

 パンッ!

 

 空気が破裂する様な音が響く。

 気付けば拳が頬に当たっていた。

 出だしは見えなかったが、拳を引く動作は見えた。

 縦拳。

 飛蘭が使った崩拳と同じ型だ。

 

「今のは崩拳か? まさか中国拳法を使えるとはな」

「中国拳法? ん~、大分類ではそうかもだけど、ちょっと違うサ」

「違うのか、なら――」

「口よりその身で味わった方が早いサ!」

「くっ!」

 

 拳の速度が上がった。

 小太刀二刀でさえ受けるのがやっととはな!

 先程までは実力を悟らせない為に手加減を? いや、そんな風には見えなかった。

 よく見ろ、タネは絶対にあるはず。

 なにが違う? 飛蘭とはまず威力は違う。

 飛蘭の縦拳は必殺の一撃と呼ぶべきものだが、アーリィーの拳は早いが軽い。

 どちらかと言うとボクシングのジャブだ。

 拳の攻撃全てが縦拳、腕を捻らず撃ち出すことで速度を上げている。

 

「ほっ! とうっ!」

 

 そして時々混ざる足技とのコンビネーション。

 なるほど、技の正体が分かったよ。

 しかしアーリィーめ、さっきまでとはまるで性格が違うじゃないか。

 これは騙された。

 熱く燃えてるかと思いきやクレバーのままだったとはな。

 してやられたよ。

 

「詳しく知ってる訳ではない、だが最速の技と言われてるのだけは知っている」

「お? 気付いたサ?」

「ボクシングのジャブさえ凌駕する速度。最速の格闘技、ジークンドーだな?」

「正解サ!」

 

 中国拳法を軸に他の武術の要素も取り入れた超実戦武術だったか。

 強敵だが脅威ではない。

 今が最大速度なら着いて行ける!

 

「なんとかなる。そう思ってないサ? 舐めすぎサ!」

「っ!?」

 

 ガードしたブレードが勢いよく弾かれた。

 今までにない衝撃。

 縦拳ではなく横拳、しかも打つ時に反対の腕を引いている。

 空手の正拳突きか!

 

「もらったサ!」

 

 懐に入られショートアッパー。

 

「まだまだ!」

 

 肘の打ち下ろし、膝蹴りからの――

 

「取った!」

 

 腕挫十字固。

 なるほど、これは私のミスだ。

 

「ジークンドー、空手、ボクシング、柔道か。やっとお前が見えたよ」

「答え合わせしてあげるサ」

「打撃……いや格闘技のスペシャリスト、それがお前だ」

Vero(正解)!」

 

 元々アーリィーは接近戦が強い。

 だが今まで見た動きの中には何かの武術に通じる“色”が見えなかった。

 意図的に隠してきたのだから大したもんだ。

 どれほどの格闘技を修めてるかは知らないが、引き出しの多さは飛蘭以上だろう。

 そしてアダムズと違いそれらを熟成させている。

 多くの武術を学んだ飛蘭。

 もしくは戦士として完成したアダムズと言ったところか。

 さて、アーリィーの性能は分かったところで抜け出すか。

 関節技はエラとの戦いで慣れたからな。

 

「およ?」

 

 右腕を取られたまま空に飛ぶ。

 そして瞬時加速で地面に向かって落下!

 

「ッ!?」

「無茶するサ!」

 

 二人仲良く地面に激突、衝撃でアーリィーの関節技が外れる。

 ついでに肩の関節も外れた。

 この感じなら……

 

「ふっ!」

「殴って戻した!?」

 

 ブレードの柄で右肩を殴る。

 よし、戻った。

 

「極めて終わりじゃなくて折っておけば良かったサ!」

「お前は近付かせると厄介だ」

 

 低姿勢で接近してくるアーリィーに切っ先を向けて牽制する。

 切っ先の寸前で止まったアーリィーの両手に槍が握られていた。

 急停止し、後ろに倒れた姿勢から跳ね上がる勢いを利用しその槍が投擲される。

 半身ズレて片方を回避、残り一本をブレードでガード。

 間合いに入って来たアーリィーを残りの一本で斬りつける。

 私の一撃はアーリィーの腕でガードされ、下がるかどうかの選択を余儀なくされた。

 ここで引く選択肢はない。

 腰を据え、アーリィーを迎え撃つ。

 

「リャァァァァ!」

 

 拳と刃が激しくぶつかり合う。

 アーリィーの機体であるテンペスタはスピード重視で軽量型だが、近接主体の為その腕だけは装甲が厚い。

 その装甲をブレードで斬るのは骨だ。

 狙うなら腕以外、だが折って使っている私のブレードは耐久力が低いので打ち合えば私の方が不利。

 力で斬るな、受け止めるな。

 流れる水の様に対応しろ――

 

「まるで踊ってるみたいに流麗サ!」

「それはどうも」

 

 自分で言うのは恥ずかしいが、戦ってる様は確かに踊っているようだろう。

 このシーンだけは録画を見たくないな。

 

「シッ!」

 

 拳に虚実は混じり始めた。

 ただ当てるだけの拳、殺意がある拳、それに合わせてボクシングのフェイント。

 そして最後に飛蘭が使用していた殺気を飛ばす技。

 厄介この上ない。

 とはいえ対策はある。

 飛蘭と戦い、その手の技を破る方法を考えていたからな。

 

「全部防いだ? えっ、マジでサ?」

 

 何発かはガードしそこねると思ったのだろう、アーリィーが素直に驚く。

 初見なら食らっていただろうな。

 だが今の私には経験がある。

 

「気配などの六感的要素は全て排除。動体視力だけで戦えば問題ない」

「この脳筋ッ!」

 

 おい失礼だな。

 殺気なんかに下手に反応するから釣られるんだろ? なら自分の目だけ信じて戦えばいい話じゃないか。

 スマートだろ?

 

「むぅ、千冬を追い詰めるのは大変サ。しょうがないからアーリィーが先に手札を切るサ」

 

 アーリィーの奥の手か。

 楽しみであるが、油断は禁物。

 なにが飛び出すやら。

 

「“パージ”」

 

 その一言でテンペスタの装甲がはじけ飛んだ。

 腕と脚にこそ攻撃の為の装甲が残っているが、その他はほぼない。

 辛うじて背中の装甲があるが、あれは飛ぶためだろう。

 

「いくサ」

 

 アーリィーの姿が消え、その瞬間に悪寒が全身を駆け巡った。

 先程まで無視していた己の本能に従い全力で回避行動を取る。

 

 ヂリッ!

 

 髪の一部にナニカが当たった。

 まるで棍棒が耳元を通り過ぎた様な風切り音が聞こえたが、もしかしてハイキックか?

 

「お? 反応するとは流石サ」

 

 背後からの声に反射的にブレードを振るうが、そこにアーリィーの姿はなかった。 

 次の行動に移る前にバランスが崩れる。

 まともに足払いをくらうのはいつぶりだろうな。

 倒れ斜めに変わる景色の中でアーリィーの脚だけが見えた。

 咄嗟にブレードを盾代わりに自分とアーリィーとの間に差し込む。

 ブレードは粉々に砕け、強い衝撃と共に身体が浮く。

 

「せっかくのIS戦、空中戦もしようサ」

 

 空中で姿勢を立て直し止まると、そこではすでアーリィーが私を待ち構えていた。

 出来れば自分の土俵で戦いたかったんだが、こうなっては仕方がないか。

 

「必要最低限の機能を残してそれ以外は排除。一撃でももらえば落ちる可能性があるのによくやる」

「千冬に勝つならこれくらいしないとダメだと思っただけサ」

 

 拡張領域から新たなブレードを取り出す。

 右手に太刀、左手に小太刀。

 気分は宮本武蔵だな。

 だがかの剣豪でも空中で燕と戦った事はないだろう。

 

「準備はいいサ?」

「来い」

 

 狙いはカウンター。

 アーリィーの攻撃に合わせるしかあるまい。

 しかし向こうも私の狙い程度分かっているだろうから簡単には行かないだろう。

 動体視力も感も、全てを使ってアーリィーの動きを感じ取れ! 

 

uragano(ウラガーノ)ッ!」

 

 アーリィーの姿がまた消えた。

 僅かに見えた影、そして自分の勘を信じブレードを振るう。

 

「チッ!」

 

 振るったブレードにはなんの手応えもなく、代わりに肩の装甲にアーリィーの拳の跡が刻まれるた。

 ウラガーノ、確か意味は暴風だったか。

 

「ガッ! グッ!?」

 

 まさしく暴風の真っ只中に立っているようだった。

 アーリィーの動きは捉えきれず、どんなにブレードを振るってもそこはアーリィーが通り過ぎた後だ。

 四方八方から襲われるという状況はまさにこの事を言うのだろう。

 今の私は正しく苦戦している。

 生身だと私以上に早く動けるのは束くらいか。

 それでも前に“鈍っていない”と付くがな。

 自分より速い相手がこうも厄介だとは知らなかった。

 良い経験だ。

 

「どうしたサ!? なにもしないならこのまま嬲り殺しサ!」

 

 そうは言っても手がないんだよ。

 自分より速い相手のすれ違いざまの一撃、ヒット&アウェイの戦法は攻略が難しい。

 腹とかに打ち込んでくれればダメージ覚悟で捕まえに行くのだが、アーリィーはしない。

 急所を執拗に狙うことはせず、当てられる時に当たられる場所に攻撃するのだ。

 文句があるなら腹や心臓を狙って来い。

 

「空でアーリィーに勝てる相手は存在しないのサ!」

「しまった!?」

 

 左手に持っていた元々折れていたブレードは根本から折られた。

 小回りの利く小太刀を失い、アーリィーの攻撃は更に激しくなる。

 

「地上に戻りたいサ? なら戻してやるサ!」

 

 背中に肘打ちが撃ち込まれる。

 スピードの乗せた肘が骨を軋ませ、背中がくの字に曲がる。

 

「がはっ!」

 

 地面に叩き付けられ肺から酸素が強制的に吐き出されれる。

 土煙が鼻孔を刺激し、頬に砂がまとわりつく。

 上から猛烈な殺気を感じ、恥も外聞なく地面を転がる。

 私が転がった後を追うように地面に槍が突き刺さった。

 ふふっ、こうも見事にやられると笑いが込み上がる。

 世界は本当に広いな。

 

「なぁ千冬、そろそろ本気になってくれないサ?」

 

 空に一人佇むアーリィー。

 圧倒的に優位にある彼女だが、気が緩んだ様子なく燃え続けている。

 アーリィーは私の切り札がどのようなものか気付いているのだろう。

 気付いた上で見せろと言っているのだ。

 確かにこれ以上の出し惜しみない。

 札を切るならこの場面しかないだろう。

 

「ここまでやってもまだ足りないサ?」

「いや十分だ。それと誤解はないように言っておくが、私は今まで本気だったよ。全力ではなかったがな」

 

 いつだったかふと気付いた……自分は二次移行できると。

 なにか確信があった訳ではないが、漠然とそう思えた。

 その時にふと脳裏に浮かんだのは束の言葉だ。

 神一郎のISである流々武は、搭乗者の意志に従い二次移行をしないらしい。

 それはISがこちらの意志を読み取っているということだ。

 なので私は自分のISに心の中で言い聞かせた。

 二次移行するな、と。

 これはモンド・グロッソでの切り札になると考えたからだ。

 

「しかし世界的に見ても初めてだ。隙だらけだったら倒して構わんぞ?」

「そんなもったいない事する訳ないサ。いいから早くするサ」

 

 ニヤリと笑い、我慢出来ないといった風のアーリィー。

 ワクワクと楽しそうだ。

 アダムズやエラ、飛蘭と戦った時の私の顔もあんな顔だったんだろうな。

 さて、アーリィーを待たせるのも悪いしやるか。

 

「二次移行、開始」

 

 目を閉じて意識をISを集中する。

 ほんの一瞬だが、意識が飛んだ様な感覚があった。

 次に目を開けると目の前には……日本庭園?

 

「どういうことだ?」

 

 私はアリーナに居たはずだ。

 幻覚? それとも瞬間移動でもしたか?

 まずは状況を把握しよう。

 私が立っているのはどこかの屋敷の縁側だ。

 足の裏はしっかりと板張りの感触を感じている。

 視界に広がるのは美しい日本庭園。

 池の隣では咲き誇る大きな桜が咲き誇っていた。

 空は茜色に染まり、風によって桜の花弁が舞い散る幻想的な風景を生み出している。

 どんな状況だこれ。

 

「ここは主様の精神世界。この風景は深層心理が具現化したものじゃよ」

 

 背後を振り返ると、そこには着物を着た少女が座っていた。

 畳の部屋に火鉢か。

 ふむ、茶室の縁側に立っていたようだ。

 それより気になる単語が出てきたな。

 

「主様と言ったか?」

「そうじゃよ主様。感付いているようだろうが名乗ろう」

 

 少女は姿勢を正し胸を張る。

 

「我が名は『――』っ! のじゃロリ型ISの『――』じゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あー、うん。

 名前の部分が聞き取れないとかツッコミどころはあるが、それよりまず言いたい。

 私のIS、なんかバグってないか?

 




???「多くの姉妹が居るのでキャラは早い者勝ち! 君にはのじゃロリとかオススメだよ!」
???「のじゃロリ?」
???「こんな感じ!(データ送信)」
???「理解したのじゃ!」


 姉妹の中でいち早く相棒を宛がわれ、乗り手を変えたことがないので一度もリセットした事がなく、稼働時間がぶっちぎり一位の姉なるものが居るそうです。
 ISがバグったらだいたいこいつのせい。

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