俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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各種ソシャゲのバレンタインイベの後ににウマ娘の配信が重なったのが悪い。
育成の運要素強すぎない? 



モンド・グロッソ最終日 その頃の二人

 拍手と歓声が鳴り響く中、気を失ってぐったりとしたアダムズを抱えて私は表舞台から退場する。

 そんな私を出迎えたのは三人の女性。

 どこかで見たと思ったが、初日にアダムズの後ろに居た三人か。

 

「そいつは気絶してんのか?」

 

 その中の一人が私に近付いてくる。

 荒っぽい雰囲気と口調……アダムズが悪役してるときはこの人物の真似をしてると見た。

 

「ケガはたいした事ない。疲労が主な原因だろう」

「……たった一試合で情けない限りだぜ」

 

 アダムズを落とさない様に気を付けながら渡す。

 口では情けなと言っているが、その視線は優しい。

 素直じゃないタイプみたいだな。

 

「じゃあな。コイツに勝ったんだ、お前は責任持って優勝しろ」

 

 そう言って相手はアダムズを抱きかかえ背を向ける。

 私の返事など聞く必要がないといったていだ。

 彼女の後ろに居た二人が私に向かって頭を下げ、アダムズを守るように横に付き去っていった。

 良い仲間に恵まれてる。

 

 

 

 

「戻りました」

 

 日本に振り当てられたスペースに到着すると、多くのスタッフが私を待っていた。

 

「お帰りなさいですよー。まだISは解除しないでくださいねー。むー、背中の傷も酷いですねー。床に膝をついた状態で降りてくださいー」

「了解です」

 

 作業スペースの中心で膝をつく。

 その状態でISの前面だけを解除、一瞬の重力を感じた瞬間に遠隔操作でISを元の状態に戻す。

 私はそのまま生身で床に着地した。

 

「お見事ですー。それでは技術班の皆さんは集合してくださいー」

「「「「はい!」」」」

 

 水口さんの前に技術スタッフの人達が集合する。

 あの性格と見た目なのに慕われてるのが不思議だ。

 まぁ腕は確かな人だからな。

 

「ISのエネルギーを充電しつつ細部のチェック、ダメそうなのは交換して、使える部分は……そのままの方がいいんですよねー?」

「はい。出来るだけ補修、修理の方向でお願いします」

「だそうなので、まずは致命的な部分があるかどうか確認しますよー。それでは作業を開始してくださいー」

「「「「はい!」」」」

 

 自分の我儘で作業の手間を増やして申し訳ないが、その方が操縦者としてありがたい。

 傷付いたISを次の試合前にどうするのか。

 例えば右腕部が完全に破損してた場合、丸ごと交換する事になるだろう。

 その事も考えて、各パーツの予備が用意されている。

 だがこれには問題はあるのだ。

 まずは時間。

 用意してあるパーツは外部の物だ。

 なので拡張領域にデータとして保存する時間が必要となる。

 試合前までにそれが間に合わないと失格だ。

 これは束が各国の技術力やチームワークを見る為の決まり事だと思う。

 次に選手として可能な限り不安要素を消したいという気持ちだ。

 新しい腕、新しい脚、それらが前と変わらず動くかというと、実はそうではない。

 違和感や反応の鈍さなどを感じることがままあるのだ。

 研究所に居る車が好きな研究員が言っていたのだが、新品のパーツは“クセがないのがクセ”らしい。

 自分の色に染まっていないパーツは違和感を覚えさせる。

 普段なら問題ないが、今日だけは出来るだけその違和感をなくした状態で戦いたいのだ。

 油断していい相手など居ないのだから――

 

「ふーむふむふむ、パーツを交換するほど損傷が激しい場所はないですねー。ではでは1班の皆さんは装甲に刺さっている手榴弾の破片と銃弾の除去を、2班はパテで穴を埋めてくださいねー」

「「「「はい!」」」」

 

 装甲の補修に使用されるパテは、水口さんを始めとする技術スタッフの方々が作った特別製だ。

 これなら大丈夫だろう。

 

「織斑さん、タオルです」

「ありがとうございます」

「お食事に致しますか? それともお飲み物でもお持ちしましょうか?」

「食事でお願いします」

「ではすぐに用意しますね」

 

 私の言葉を聞き、二人の女性がパタパタと動き始める。

 スペースのすみにビニールシートが引かれ、その上に座布団。

 

「お茶は冷たいのと温かいのどちらにします?」

「温かい方で」

 

 温かいお茶と同じく温められた料理が並ぶ。

 なんだろう……こうも気を使われると自分がダメ人間になった気分になる。

 二人の後ろ姿が一夏に被るというか……。

 

「準備終わりました!」

「他になにかご用はありますか?」

 

 圧倒的補佐力にむしろ私が気後れしそうだな!

 もう休んでもらっても……いや、まだあるな。

 

「タオルケットかなにかありますか?」

「すぐにご用意します」

「取ってきます!」

「助かります」

 

 速攻で一人が走り出した。

 なんかもうほんとすみません。

 

「織斑さん、冷めないうちにどうぞ」

「頂きます」

 

 戻って来るまで立ってる訳にもいかないので、大人しく座布団に座る。

 レンゲでおじやを掬う。

 ほんのり温かいお米は噛むと甘く、喉の奥にするりと落ちていく。

 豚肉は出来るだけ噛んで繊維を潰して飲み込む。

 梅干しを食べ口の中をリセットしまたおじや。

 それらを食べ終えたら今度はニンニクを手に取る。

 アルミホイルに包まれたニンニクは暴力的なまでの香りだ。

 無論、良い意味で。

 ……成人したらニンニクで焼酎だな。

 最後はデザートにはちみつ漬けレモンを食べ食事を終える。

 

「ご馳走様でした」

 

 手を合わせ頭を下げる。

 素晴らしい食事だった。

 惜しむべきはゆっくり味わう事が出来なかったことか。

 

「お粗末様でした。よければこちらをどうぞ」

 

 渡されたのは中に液体が入ったカプセル。

 ブレスケア用品まであるとはなんと手厚い。

 

「これから如何なさいますか? 休むのでしたら一室用意しますが」

「いえ、ここで大丈夫です」

「あ、タオルケットどうぞです!」

「ありがとうございます」

「他にご用はございますか?」

「次の試合が終わったらまた食事にしたいので、同じ内容の物を用意してもらっていいですか?」

「かしこまりました」

 

 暗に次も勝つと言ってるみたいで負けたら恥ずかしいな。

 自分にプレッシャーをかけると考えれば問題ないが。

 

「では準備があるので失礼します。飲み物はこちらに用意してありますので」

 

 一人になったところで座布団を畳んでマクラの代わりに。

 そこに横になって受け取ったタオルケットを掛ける。

 幸運な事に私の試合は一回戦の第一試合。

 次の試合まで7試合ある。

 心身を休め胃の中を消化するには十分な時間だろう。

 少しづつ呼吸を浅くする。

 脳に送る酸素を徐々に減らし、体から力を抜く。

 酸欠状態の手前を目指し――私の意識は闇に落ちて行った。

 

 

◇◇ ◇◇

 

 

「ちーちゃんの穏やかな寝顔を見てるだけで優しくなれる気がする」

 

 壁て映された千冬さんの寝顔アップを見て恍惚の表情を見せる。

 綺麗だと思うけど、さっきまでの戦いを見ると巣穴で寝る熊である。

 

「嘘みたいだろ? アレ、さっきまでチェーンデスマッチをしてた上に戦車砲を受けてもピンピンしてた怪物なんだぜ」

「教育的指導っ!」

「アウチッ!」

「クソ雑魚童貞がちーちゃんを悪く言うとかさぁ……調子に乗っちゃだめだよ?」

 

 蹴り飛ばされ床を転がる俺の頭を束さんが踏みつける。

 優しくなれてる気がするって言葉はどこに行ったの?

 あぁ、あくまで“気がする”だけか。

 

「しかし千冬さん男前過ぎでは? バキ飯モドキに週末のサラリーマンみたいな食事内容でしたね」

「栄養面だけ見れば正しいけど、ちょっと量が多いのがネックかな? くっ! 許されるなら栄養満点の束特製スープカレーを届けてあげたい! 私のカレーなら栄養面でも上位互換、コップ一杯で体力満タンになるのに!」

「それはもうカレーの名を借りた名状しがたいナニカでは? そんでもって千冬さん寝るの早いですよね。普通なら次の試合を見て相手の対策とかする場面なのに」

「ちーちゃんは本気で楽しんでるみたいだね。実戦なら相手の戦力なんて分からないのが当然! 初見で殺す勢いじゃないとね! それを意識してると見た!」

 

 バーサーカーかな? いやバーサーカーかも。

 千冬さんは造られた存在なんだから、どこぞの馬鹿科学者が英雄の遺伝子情報とか組み込んでそうじゃん。

 人間を造るなんて集団なら遺骨からDNA採取とかしてそうだもの。

 

「それにしてもトーナメント表が露骨にいじられてる感じなんですが、やりました?」

「やったよ。でも私がしたのはバランス良く配置しただけ。勝てるかどうか知らん。上手く行けばちーちゃんが退屈しなくて済むかなと思って」

 

 千冬さんと愉快な仲間達、イイ感じにバラけてるんだよね。

 まるでマンガかアニメのご都合主義の如く。

 初戦はアメリカだった訳だが、お友達が勝ち進んでいくと――

 

 二回戦、イギリス

 準決勝、中国

 決勝、イタリア

 

 になるのだ。

 友を倒し続けて優勝とか道が血まみれだと思う。

 本人はウキウキしてそうだけど。

 

「さてと、次のちーちゃんの試合まで暇になったね?」

 

 ウリウリと頭を踏まれる。

 声が色っぽくて好きよ?

 出来れば違うシチュエーションで聞きたかった!

 

「……取り合えず千冬さんの寝顔を鑑賞してれば良いと思うんだけど、どうでしょう?」

「寝顔を堪能しながらしー君を殴るなんて朝飯前だから、気にしなくていいよ?」

「……最愛の人の寝顔は集中して見るべきじゃないかな? 片手間よくない」

「視線をちーちゃんに固定しつつ手足でボコるだけの簡単なお仕事なので大丈夫です」

 

 ふむ……なるほどね。

 

「やられてたまるかァァァァ!」

 

 頭に乗せられた束さんの足を払いのけ、立ち上がってダッシュで逃げる。

 俺は負けない! 俺は折れない! 俺は……ッ!

 

「チェーンデスマッチしようぜ! お前サンドバックな!」

「あんぎゃ!?」

 

 足首に鎖が絡まり前に倒れる。

 そしてズルズルと床を引きずられる。

 モップじゃねーんだぞコラっ!

 

「楽しい楽しい拷問の続きをしようぜ、しぃ~くぅ~ん」

 

 ぬっちゃりとした笑顔の束さんとの距離が徐々に縮まる。

 千冬さんの試合中は良かった。

 流石の束さんも俺を椅子にするくらいで大人しく試合見てたもの。

 

「ここならどれだけ暴れても大丈夫だから、精々抵抗してみればいいよ」

 

 ここはデ・ダナン内にある施設の一つで、各ある施設の中で一番大きな部屋だ。

 ただ広く、遮蔽物などない部屋。

 大き目の体育館って感じだ。

 この場所は、ISの起動実験やちょっと危ない実験をする場所となっている。

 そこで俺の拷問は行われていた。

 

「はい捕まえた。私だってしー君に酷い事はしたくないんだよ? だからさ、諦めてカメラの隠し場所を素直に吐きなよ」 

 

 はい、引きずられて束さんの足元まで戻ってしまいました。

 カメラね……うん、カメラか……

 

「海に落としました」

「まずは軽く火責めから」

 

 束さんがハンマー投げ選手の如く回り始める。

 ん? この場合はハンマーは俺か? それは勘弁しあっつい!?

 

「シリが熱いッ!? あ、でもこれなんか懐かしい――ッ!」

 

 思い出した! 体育館でジャージでスライデングとかすると摩擦で服が焦げるアレだ!

 よく膝を燃やしたもんだよ。

 あれ摩擦熱でジャージの繊維が溶けたようになるよね。

 懐かしいなおい!

 

「噓つきはお尻が真っ赤になります」

「海だよ海! てか自分で探せばいいじゃん!?」

「監視衛星で録画した当時のしー君の動きを見たけど、捨ててる動作はないんだよねー」

「レーザーが当たった衝撃で落としたの!」

「でも科学的にしー君から嘘をついてる反応があるからなー」

「科学だって間違えるだろ!? ポリグラフだって的中率100%じゃないはず!」

「でも心理学的にも嘘ついてる反応だしなー」

「人間の心理が全て暴かれてるとでも!? 人間ってのはもっと深い生き物なんだよ!」

「まぁしー君の目に光りがある限り何を言おうが信じないんだけどねー」

「ダメじゃん!?」

 

 クソがッ! 人の言葉を信じないなんて本当に最低だな。

 まったく、せっかくカメラを隠したのにこれじゃあ意味ないじゃないか。

 しかしお尻がまじでヤバい。

 ここは束さんの説得よりシリの救済が先か。

 ってことでゴロゴロしましようねー。

 

「……痛くないの?」

 

 痛い! 普通に痛いよ!

 お尻を床に付けて腹筋してるような体勢だったが、あえて体勢を崩してゴロゴロ転がる。

 これで俺のお尻は救われた。

 だが今は目を回してるし、純粋に身体全体が痛い。

 動きが止まった後が地獄だな。

 

「もう、無駄に強情なんだから。それじゃあこれでフィニッシュ!」

 

 束さんが鎖を手放した。

 その瞬間にハンマーたる俺はゴロゴロと床を転がっていく。

 最終的に仰向け状態で俺の身体は止まった。

 あ~視界がギュルギュルするんじゃぁ~

 

「どう? 降参する?」

「…………まだまだ」

「そうこなくちゃ!」

 

 なんかイキイキしてる気がするね。

 暇潰しの玩具が壊れてなくて安心てか?

 だが! それでも! 俺はカメラを渡さない!

 少しでも逃げるんだ!

 

「しー君はイモムシの真似が上手だよね」

「誰がイモムシか」

 

 転がったせいで鎖が足に巻き付いて立てないんだよ!

 俺に許されてるはほふく前進のみ。

 それでも生き残ろうと努力する姿勢をもっと褒めて?

 

「ところで束さん」

「ん?」

「他の試合見ないんですか? 最終日だし、個人的には全部の試合見たいんですけど」

 

 体力回復の時間稼ぎ急務!

 や、今立たされたら吐きそうなんだよね。

 

「え~見たいの? どれもこれも試合内容に大差ない泥臭い戦いだと思うよ?」

「まぁレーザー系もないですからねー。ぶっちゃけミサイルはともかく、鉛玉は見てる方からはすれば地味ですよね」

 

 マンガやアニメじゃあるまいし、銃弾なんて普通は見えない。

 IS同士の撃ち合いって、離れて見てると迫力はないんだよね。

 これがレーザーなら見応えあるんだが。

 ちなみにゴーレムの中に入った時だけは鉛玉も迫力満点でした。

 

「レーザー兵器の類はこれから解禁だね。今のISだと武装の威力が高すぎてバランスが悪くなっちゃうから」

「次回のモンド・グロッソこそオタクが期待する人型兵器バトルになりそうですね」

「そしてそれらをブレード一本で斬り伏せるちーちゃんの独壇場だね。束印の兵器でヒャッハーしてる各国をブレードだけで黙らせるちーちゃんの雄姿が目に浮かぶよ」

「自分が生み出した物があっさり負けるのに嬉しそうですね」

「嬉しいよ。だからちーちゃんが好きなのさ」

 

 千冬さんを語る時の束さんは本当に嬉しそうな顔である。

 花丸100点の笑顔です。

 この調子で俺への拷問も忘れてくれると嬉しい!

 んで理解した。

 兵器とは生き物を殺す道具である。

 では殺せない兵器は兵器と言えるのだろうか?

 答えはノーだろう。

 洗脳兵器だとかは置いておいて、一般的な兵器は殺せなければ意味がない。

 巷では危険な兵器を生み出すと誤解されがちな束さんだが、本人にその意識は薄い。

 だって殺せない存在がいるんだから。

 どこぞの人が束さんに『これ以上危険な兵器を作るな』と言っても、『もっと身体鍛えたら?』って言われて終わりそうだな。

 

「あ、そうだ。しー君が好きそうなブツが完成間近なんだけど、見たい?」

「是非とも!」

 

 新しい発明品か。

 俺に対する興味を失ってくれるならなんでもいいよ!

 この調子で時間を潰そう!

 

「ポチっとな」

 

 束さんの正面に投影されたスクリーン。

 それを操作し、最後にボタンを押すと空中にボールが現れた。

 

「これは?」

「凄く簡単に言うと、ファンネル」

「ファンネル!?」

 

 思わず上半身を起こして束さんを見る。

 これってあれか、ISのヒロインの一人であるイギリスの国家代表候補のセシリアが使用していたビットか!

 原作武器のひな型を見れるとは軽く感動。

 

「これって束さんの意志で動くの?」

「だよ」

 

 ふよふよとボールが目の前に移動してくる。

 大きさはバスケットボールくらいかな。

 触ってみると表面はゴムだった。

 うん、まんま空飛ぶバスケットボールだ。

 

「まだ未完成なんですか?」

「本体がもう少し小型化できそうだから、それが終わってからどこかの国に情報を渡す感じかな」

「ところで、これは俺にも使えたり?」

 

 ISに武装を積まないが信条の俺ですが、目の前に生ファンネルがあればやはり揺らぐ。

 原作だとビーム兵器搭載型とミサイルポッド型があったんだっけ?

 ロマンが溢れそうだね!

 

「うんうん、しー君が興味を持ってくれて嬉しいよ。ちなみにしー君ならどう使う?」

「大型ブレードに仕込むとかですかね。自分の意志で操作できる武器とか素敵」

 

 踊れ! などど叫びながら剣を操作するとか良いと思います!

 英雄王ごっこできて強キャラ感もあってイイね!

 

「ほうほう、それは確かに面白そうな使い方ではあるね。でも……」

 

 ゆっくりと俺に近付きながら束さんの口が弧を描く。

 千冬さんの時とは違って性格の悪さが滲み出てるぞおい。

 

「しー君には才能が微塵もないから使えないけどね!」

「期待させて落とすの止めてくんない!?」

 

 世の中なんでも才能才能と凡人に厳しすぎる!

 ニュータイプ専用武器ですかこの野郎!

 

「本人の資質も大事だけど、これってマルチタスクが出来るがどうかも大切なんだよ」

「アニメ見ながらアクションゲームしつつ会話できるけど?」

「たがが三つじゃお話にならないね。そもそもしー君はシングルタスク型じゃん」

 

 マルチタスクは複数の作業を同時に行う事だ。

 俺の三つはオタクの標準機能だもんなー。

 テレビアニメ見ながらFPSしつつスカイプで連携。

 ごく標準的な範囲だ。

 束さんが言うシングルタスクは一点集中型。

 自覚は……あります。

 ボス戦などは会話はともかくアニメの情報は入ってこない。

 更に集中すると会話もおざなりになる。

 うん、シングルタスク型だ。

 

「頑張れば一本くらいは操作できるかもだけど、本体の動きはかなり鈍ると思うよ? 私ならブレード無視して本体にワンパンです」

「たった一本の空飛ぶ剣じゃ迫力はないけど……俺自身も接近戦、死角から攻撃とかなら……」

 

 敵とつばぜり合いしてる最中にさ、『後ろがガラ空きだぜ?』なんて言って攻撃とかしたい。

 やっぱ厨二病は完治しない不治の病なんだなって。

 

「……そんなに使ってみたいの?」

「あ、結構です」

 

 言ってる事が違うって?

 邪悪スマイルの束さん相手に嫌な予感がビンビンなんだよ!

 笑顔がねっちゃりと湿ってるんだよ!

 

「そっかそっか、しー君がそこまで言うなら仕方がないね。この天災が協力してあげようじゃないか!」

「結構だって言ってるじゃん!」

 

 ちょっと待って? なんかバスケットボール増えてない? ひうふう……全部で10個の空飛ぶバスケットボールが俺を囲んでる気がするんだけど?

 

「マルチタスク能力は鍛えようと思えば鍛えられるもの! 私が付きっきりで指導とか、束さんファンなら泣いて喜ぶ場面だよ? やったねしー君!」

 

 わーい、バスケットボールが俺の周囲を回ってるよ!

 まるで得物を囲む狼みたいだね!

 ってこれ拷問の続きじゃないですかヤダ―!

 

「せめて足の鎖をオブッ!?」

 

 横から飛んで来たバスケットボールが脇腹にヒット。

 情けなくまた床を転がる。

 あ、鎖が緩くなった。

 絡まった時と逆回転で転がったからか。

 ありがとう束さん。

 流石にイモムシ相手に無茶はしないよね。

 逃げない虫より、走り回る小動物の方が遊びがいがあるとか思ってるんだろうけどなぁ!

 

「人間、一つの飛来物を避ける程度なら子供でも出来る。だけどこれが複数になると難易度は一気に上がるんだよね。さぁ覚悟はいいかなしー君!」

 

 覚悟を決めろ俺! 逃げようが泣こうが追及の手を緩める相手ではない!

 そもそもカメラを隠してから大分痛い目に合ったんだよ? 今になって降参とか無駄な我慢してただけじゃないか。

 あ、そう考えるとますます喋りたくなくなってきた。

 束さんが飽きるのが先か、それとも俺が折れるのが先か――

 いざ勝負!

 

「ラディカルグットスピード!」

 

 脚が装甲で覆われる。

 ついでにヘッドと両腕部だけISを展開!

 

「ん? やる気になったのはいいけど中途半端だね?」

「だって装甲で全て隠したら、絶対に力尽くで突破しようとするじゃん」

「把握。私は胴体と股間を狙えばいいんだね?」

「胴体だけでお願いします!」

 

 胴体と股間丸出しで恥ずかしいが、これも自分と流々武を守る為だ。

 下手に隠したら装甲割ってでも俺にダメージを与えてきそうだが、これなら純粋に生身の部分だけ狙ってくれるだろう。

 ヘッドはハイパーセンサーの使用と、倒れた時に頭部を守る為。

 腕部はいざとなった時に鉄板やスコップを使用する為だ。

 でも股間だけは止めてね!

 ……やっぱり股間隠すか? でも今から隠したら更に狙ってきそうだからダメだな。

 ではスイッチを入れよう。

 

 

 ――篠ノ之束は非実在性美少女である。暴力ヒロイン? オタクなら喜べ!(オタクスイッチON)

 

 ――これさ、どさくさに紛れてタッチとかあるパターンでは? オラ、ワクワクしてきたぞ!(童貞スイッチON)

 

 ――拷問とか抜きにすれば実はまともな修行ターンなのでは? 空飛ぶ剣が俺を待っている!(前向きスイッチON)

 

 

「デュフフフ……アニメでは自在に動く武器での攻撃なんてテンプレだぜ束さん」

「なにその笑い? そしてなにその手を動き?」

「近過ぎる相手には使えない。そうだろ?」

「や、全然余裕だけど」

「なにせ下手をすれば自爆だ。手数の多さにビビッて下がれば相手の思うつぼ……そうだろ?」

「や、自爆とか絶対にないけど。ねぇしー君」

「どうした? まさか怖気付いたか?」

「攻撃を言い訳に触ろうとか思ってない?」

 

 ふっ……

 

「行くぞオラァァァァ!」

 

 両手をワキワキしながらいざ突撃~!

 

「拷問+お仕置きに変更だよバーカっ!」

 

 10個のボールが俺目掛けて飛んで来た。

 




ち「食って寝る!(益荒男乙女)」
し「まだまだ戦いはこれからだ!(引くに引けなくなっている)」
た「ちーちゃんの雄姿見れて幸せ! しー君で遊べて楽しい!(にっこにこ)」

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