俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~ 作:GJ0083
し「…………(涙と吐瀉物にまみれた物体X)」
た「お邪魔しました~(そっとドアを閉める)」
「はぁ~さっぱり」
タオルを頭に乗せたままシャワー室から出る。
ここはデ・ダナン内の俺の部屋である。
内装はシャワー付き6畳一間の1Kアパート。
台所とトイレもあるよ。
部屋にあるのは旅先で買った土産品だ。
アイヌ伝統の木彫り熊やミニトーテムポールなどが飾ってあります。
まぁ物置小屋に近いが、部屋中央のちゃぶ台がそこそこの生活感を醸し出している。
「この篠ノ之束のを待たせるなんて偉くなったもんだね。私の時間を時給換算にしたらいくらになるか理解してないのかな?」
で、ちゃぶ台の前で正座しながらお茶を啜る天災は一切の反省の色はないと。
エジプトで買ったヒエログリフの石板を膝に乗せましょうねー。
職人がイイ感じの石板に象形文字を彫った気合が入った一品です。
「重っ!? ちょこれマジの石板じゃん!?」
「一枚で足りなければマヤの石板も用意しますが?」
「まさかのシリーズものッ!? 調子乗ってすみませんでした!」
束さんが背筋をしゃんと伸ばしながら謝罪を口にする。
そうだよね。
涙と鼻水と吐瀉物にまみれた俺に対して謝るべきだよね。
「やー、思ったより大変な仕事でしたよ。ミサイルが当たると衝撃で視界が回る上に周囲は火
しか見えないし、国家代表の人達は殺意マシマシで銃口向けてくるし」
いざって時の為に買っておいたアレが確かこの辺に。
お、あったあった。
「安全性はちゃんと確保したんだよ? ミサイルだって電撃だって効かなかったでしょ?」
それとスケベ椅子にローションも必要か。
「電撃食らった瞬間、まるでブレーカーが落ちたかの様に周囲が暗くなって終わったと思ったんですが?」
冷蔵庫にあるもので使えそうなのは――マヨネーズと人参だな。
「でも無事だったでしょ? ギリシャ代表に電撃があるのは知ったから、その対策はちゃんとしてたもん」
無事って“俺の身は”だよね。
確かに球体内までは電撃はこなかった。
だが俺は、視覚内に電撃が広がってまるで電撃に包まれるという得難い経験をしたのだよ。
ゲームやアニメに出て来る電気使いが使う必殺技みたいだった。
たぶん【
もう恐怖通り越して感動だよ!
あ、クモの糸もいいね。
釣り糸も使おうっと。
「ところでもうそろそろツッコんでいいよね。ちゃぶ台の上に並んでる怪しげな品の数々はなんなのかなっ!?」
ふっ、聞くまでもないだろう。
「写真撮影に使うアイテムですがなにか?」
「そんな怪しげな品を使う写真ってまともなの!?」
「まともだよ。グラビアアイドルだって少年誌のカラーページでスケベ椅子に座ってたり、ローションでヌルヌルだったりする写真載せてるし。いたって普通の光景だね」
「日本の少年誌おかしくない!?」
健全です。
グラビアがないジャ〇プだってちくび券があるしね。
「過激なのはやらないって言ったじゃん!」
「過激なポーズはしなくていいよ。ただアイテムを使うだけだから」
「ぬかった!?」
口にマヨネーズを咥えていた状態で立ってもらったり――
釣り糸でグルグル巻きにした状態で床に寝転んだり――
シャワー室でローションぶっかけたりするだけだから。
ポーズは普通でいいさ。
だがアイテムは本気だ!
俺の怒りをぶつけてやる!
「……童貞に対して寛容な心を見せるのも悪くはないよね」
白髪のバニーガールが強気発言しながら睨む姿はそそりますなぁ。
そんな束さんに悪いニュースを一つ。
「束さん、これなんだか分かります?」
「ん? それってインスタントカメラ……はッ!?」
ふふ、気付いたようだな。
「篠ノ之束は間違いなく天才である。だが弱点は存在する……そう! それはアナログだ!」
「くそっ!」
「ネット上の写真、データ媒体、束さんなら鼻歌まじりで消せるだろう。だがWi-Fi機能もBluetooth機能もないインスタントカメラではどうしようもあるまい!」
「その弱点に気付くとは……!」
万が一の時はデータを消すとでも考えてたんだろ?
だがさせん!
この写真はお宝として守ってみせる!
「そろそろお喋りはやめて始めましょうか」
まずは人参からだ――
「ところでこの石板はいつまで乗せてれば……」
「暫くはそのままで」
「アッハイ」
立ち姿を撮る時まではそのままです。
ではではこの人参を――
「ぐもっ!?」
束さんの口にぶち込む。
「ちょ……くるし…ぐえっ……!?」
人参の先っぽが喉の奥に当たるのは苦しいだろうね。
でもね、俺はもっと苦しかったんだよ?
「や、やめて……おえッ!」
顔を真っ赤にしながら涙目で睨む束さんはとても官能的だ。
喉の奥を人参でゴリゴリしましょうねー。
「おくはやめっおぐえっっ!!!」
はいちーず。
「助けてちーうお゛えっっっ!」
カシャ
◇◇ ◇◇
む?
「どうかしたか?」
「いえ、なんでもありません」
一瞬束の声が聞こえた気がしたが、気のせいだと思い正面に顔を向ける。
正面のソファーに座るのは、少し前まで束に監禁されていた国会議員でありモンド・グロッソ実行委員会の国枝さんだ。
競技が終了した私は呼び出され、こうして彼の部屋で向かい合っている。
話の内容はお察しだろう。
「無事解放されてなによりです」
「心配をかけたようだな」
国枝さんは50過ぎの男性だ。
ずっと着たままだったのだろう、少しよれたスーツ姿のままグラスに入った酒を煽る。
それはもう疲れた顔をしていた。
「実行委員会の方々を軟禁したのはやはり束ですか?」
「そうだ。競技の内容を決める会議をしてる最中に乱入してきて、そのまま閉じ込められた」
束の友人として頭を下げたい。
だが表向きは他人なのでそれはできない。
ただただ罪悪感が募るばかりだ。
「会議室にはトイレもあったし、小さいが給仕室も備わっていた。シャワーはなかったが、一晩くらないならやり過ごせたのが救いだ」
「随分と設備が整ってますね。もしや初めから……」
「委員会の人間を監禁するのは篠ノ之博士の計画だったのだろう」
一般的な企業などが使う会議室は知らないが、流石にトイレは付いてないだろう。
たぶん計画的だ。
「それで、私はなぜ呼び出されたのでしょう?」
「会議室に閉じ込められた時、全員が外との連絡を絶たれた。電話も通じず、暇を潰するのは篠ノ之博士は用意した動画だけだった」
「動画ですか」
「そうだ。一番最初の動画の題名は【束さんVSアメリカ】だった」
なんかもう嫌な予感しかしなんだが。
あの馬鹿はなにをしてるんだろうな?
「内容は篠ノ之博士がアメリカと戦争した場合のシミュレーションをCGで描かれたものだったんだが」
グラスを持つ手が震えている。
よっぽどな事があったんだろうな。
聞きたくないが、聞かない訳にはいかない。
「まず家族の団欒が映ったんだ。ほのぼのとした食事風景だった。だが父親が電話を取った瞬間に様子が一変する」
国枝さんが語り口調で話し始める。
慌てて家を飛び出す父親とその様子を見て心配そうな顔をする家族たち。父親が向かった先は軍事基地だった。
車でゲートを通り、施設内を歩いて向かった先は作戦会議室と思われる場所。
そこでは軍人が慌ただしく走り回り、壁には大型のディスプレイがあり、アメリカの地図が映っていた。
その地図には青い点が多数あるんだが、西海岸にあるいくつかの点が赤いんだ。
そして少し時間を置くとその周囲にあった青い点が赤に変わる。
この辺で察しがついた。
あの点は軍事基地で、赤の点は落ちた基地なんだと。
そこから視点が変わった。
次に映ったのは篠ノ之の後ろ姿だ。
どかこかの軍事基地の正面に立つ篠ノ之博士が手を振るうと、ミサイルポッドがずらりと並んだ。
放たれたミサイルは雨の様に基地に降りかかり、火の手が上がった。
異変に気付いた軍人が篠ノ之博士に向かって走るが、その全てが途中で崩れ落ちてそのまま立つことがなかった。
そう、毒だよ。
自分には効かない毒を周囲に巻いてたのさ。
理にかなってると思わないか? 防弾ベストだろうが防刃ベストだろうが、毒には無意味だからな。
もちろんガスマスクを装備した人間も居たが、篠ノ之博士が相手の顔面に落ちてたコンクリ片を当ててノックアウトしてたよ。
そうこうしてる内に篠ノ之博士の目の前にISが立ち塞がる。
これでどうにかなると思うだろ? でもダメだった。
一瞬でISに近付いた篠ノ之博士は、ISに飛び掛かって装甲を素手で剥がしはじめたんだ。
ISの操縦者は必死に抵抗するが、あっと言う間にISを剥がされた。
自分は男だから知らないが、ISの装甲はエビの殻の様につるりと剥けるものなのか?
そしてまた視点が変わる。
今度は一人のアメリカ軍兵士の視点だった。
彼が戦ってるのは巨大なIS。
そう、君が戦ったあのゴーレムと呼ばれるISだよ。
落とされる基地の数が多かったのは理由があったんだ。
叫びながらゴーレムに向かって銃を乱射する姿はいっそ哀れだったよ。
後は篠ノ之博士のワンサイドゲームだ。
各地の発電所を破壊し混乱を呼ぶ。
妨害電波で通信網を封鎖。
アメリカ軍は篠ノ之博士を補足しようと奮闘するが、その足跡を見つけられず後手に回るしかない。
最後は篠ノ之博士がホワイトハウスの前に立つ姿が映ってエンドロールだ。
そうそう、委員会の彼が顔を青くした理由だがね、それは動画の最初に気付いたよ。
なにせ動画に出て来る人物と彼の顔がそっくりだったからね。
ちなみに、彼に聞いたら奥さんと子供の顔もそっくりで、家の間取りもまったく同じらしい。
敵対してはいけない人物だと、そう改めて思ったよ。
話しを締めくくり国枝さんがグラスに残ったブランデーを一気に飲み干す。
私も酒を飲みたい。
束はなんてシミュレーションをしてるんだ。
「その後はVS中国、VSロシアと続いた」
「内容はどれも同じですか?」
「壊し方の違いがあるが、どれも似たようなものだ。篠ノ之博士が国を破壊していく動画だ。どの国でも一方的にやられてお終いだよ。会議室の中は徐々に暗い雰囲気になってそれはもう酷い空気だった」
「心中お察しします」
「ちなみにVS日本戦では君と篠ノ之博士が一騎打ちをしてるシーンで終わりだった。万が一の時は期待している」
「……善処します」
他の国は負けて終わりだったのに、日本だけは勝敗不明か。
居心地が悪そうだ。
「そうそう、最後の動画は【束さんVS地球連合】だったよ。内容は一国を相手にするより悲惨な結果だ。聞きたいかね?」
「聞かなくても良いのですか?」
「ははっ、それは駄目だ。君には是非聞いてもらいたい」
拒否権ないじゃないか。
束案件はそうそう語る訳にはいかないので、話せる相手が限られる。
だからといって選手を愚痴相手にしないでほしい。
だが疲れた顔を見せる国枝さんにそんな事は言えないので、大人しく聞くしかないんが。
まず初手はステルスミサイルでの奇襲だ。
これはレーダーで捉えられないミサイルで、それによって大きな軍事基地の大半が沈黙した。
その後は無人機のISでかく乱。
国家代表や軍人の多くはそれの相手で封殺された。
その後は毒だ。
篠ノ之博士が作成した感染力と致死率の高い数種類のウイルスがばら撒かれた。
それは接触感染や飛沫感染で広がり、更に蚊やネズミを媒体にする。
なんとかワクチンを作ろうとするが、大手の研究機関は軒並みミサイルが撃ち込まれ沈黙。
大気中にも毒は混ぜられた。
篠ノ之博士は作物を枯らせる雨を故意に降らせる事ができるらしい。
建物は崩れ落ち、大地は茶褐色に変わり、海では魚の死体で溢れる。
そしていたるところで人間が腐っていく。
そんな動画だ。
篠ノ之博士曰く、土地や資源目的の昔の戦争ならともかく、今の時代“ただ殺すだけ”の戦争なら人類を滅ぼすのは簡単らしい。
各国で手を結ぶ? 船頭多くして船山に上ると言うが、足並みが揃わず数の有利を生かす間もなく人間は死んでいったよ。
正直言って、一人の人間をこうも恐れたのは初めてだ。
「と、まぁこんな感じの映像をひたすら見せられた」
「本当にお疲れ様です」
こちらとしては頭を下げるしかない。
何が怖いって誇張がないところだな。
束なら全部普通に出来る事だ。
そもそも束の居場所を特定出来ない段階で一方的な戦いになるのは仕方がない。
モンド・グロッソのアリーナで、束VS国家代表で戦えば勝てると思う。
だが囲われたフィールドもない場所で束に勝てる気はまったくしないな。
「束がそんな画像を見せたのは恐らく警告でしょう。政府の方で何か動きでもあったんですか?」
「これといってないな。他国は知らないが、日本政府は可能な限り刺激しない方針だ。金の卵を産むダチョウは殺さず飼うに限ると言うしな」
「家族に手を出さなければ束が日本を攻撃する事はないと思います」
「妹をなんとか愛国者にしようと画策する連中が居るが……」
「止めた方が良いでしょう。下手に手を出して寝てる虎の尾を踏む必要はないかと」
「あぁいった愚か者が必ず一定数存在するのは何故なんだろうな? 上に報告して対処するよう進言しよう」
無駄な事はしないだろうから、きっと日本だけではなく世界中で束に対するなにかしらの動きがあったのだろう。
それを察して脅したと思われる。
まぁ神一郎がストレス発散のサンドバック役をやってるから、今の束なら下手に触らなければ危険はないはず。
放置が一番だ。
「話しは以上ですか?」
「あぁ、長々すまなかったな。こちらの報告としての愚痴は以上だ」
「では失礼します」
愚痴だという自覚はあったのか……
「とまぁそんな話しだった」
約束した通り私は夕食を仲間たちと共にしていた。
話題の内容は試合後に呼び出された件についてだ。
「それアーリィーも聞いたサ。イタリアは海に沈んだらしいサ」
「中国は初手政府高官暗殺で浮足立った所を各個撃破だったネ」
「アメリカは正面から叩き潰されました」
「イギリスは腐海に沈みましたわ」
ちょっとイタリアとイギリスの戦いが気になるな。
束は国を潰すのに同じ手を使ってないらしいが、どんば方法を取ったのか少し興味がある。
「お? このウサギ肉が思いのほか美味いな」
「お気に召して頂いた様でなによりですわ」
ジビエなど初めてだからエラのおすすめを頼んでみたんだが、これはいける。
硬いかと思ったが思いの外やわらかく、肉そのものは少し淡泊な味だが、ソースを絡める事で噛むごとに味が染み出て舌を喜ばせる。
実に素晴らしい。
「ん、美味ヨ……やっぱり肉は血が滴るレアに限るアル」
「ジビエてレアって怖くないサ? む、このイノシシの赤ワイン煮込みは見事な味サ」
「エラさんが勧めてくれたのシカのすね肉なんですよね? 見かけは美味しそうですけど……」
「すね肉はじっくり煮込まれていて柔らかく、そしてコラーゲンたっぷりで美容にも良いのですわよ?」
「はむ……これは確かに美味しいですね」
ナイフ片手に止まっていたアダムズがエラの一言で動いた。
現金な奴め。
「それにしてもあの巨大ISを倒せてほんと良かったサ」
「倒せたのは良かったですけど、攻撃のほとんどが防がれてポイント的にはイマイチな結果だったのが残念でした」
「わたくしもですわ。同じ個所に銃弾を撃ち続けてなんとかダメージを与えましたけど、あの硬さは反則ですわ」
「アタシは千冬サンとの連携技でポイント美味しかったヨ」
「一位はエラに持っていかれたがな」
ゴーレムは倒したものの、結局私の成績は3位で終わった。
1位がカナダで2位が韓国だ。
上位はほとんど団子状態。
やはりコンスタンスにミサイルを当ててた後衛組はポイントが高かった。
四肢切断のポイントは不明だが、おそらく三人で割ったポイントみたいだったしな。
しかし手数、威力共に高い後衛組に喰らい付いただけでも上等だろう。
「そう言えば、総合優勝者にはブリュンヒルデと言う称号が送られるらしいですわよ」
「どういった経緯でそんな称号が……モンド・グロッソ委員会は思春期サ?」
「経緯は知らんが、個人的には嫌だな」
「そうなんですか? 織斑さんには合ってると思いますけど」
「ブリュンヒルデは物語の最後で恋人を殺すヨ。誉め言葉じゃないアル」
「そう言われればそうですね。あれ? 女性としては不名誉な称号では?」
「たぶん響きだけで決めたサ。深い意味はないはずサ」
英雄シグルズを殺した戦乙女のブリュンヒルデか。
束と昼ドラする気はないので遠慮したい称号だ。
てか他意はないよな? 私に対するメッセージ性を感じるんだが……。
気のせいであって欲しい。
「それと各競技一位の選手にはヴァルキリーの称号が送られるらしいですわ」
「戦士の魂を運ぶ者ですか。ちょっとかっこいいですね」
この場に居る人間だと、私とアーリィー、エラが該当しているな。
ヴァルキリーね……ブリュンヒルデよりはマシな称号か。
「うん? ヴァルキリーってワルキューレのことサ?」
「ですわね」
「確か北欧神話のワルキューレって、戦士の魂をヴァルハラに連れて行き、そこで戦士の面倒を見たりするのが仕事サ。給仕とか夜の相手も仕事の内だったような……」
アーリィーが気まずそうに周囲の反応を見る。
うむ、これはセクハラと訴えたら勝てそうだな。
私のイメージだとヴァルキリーは戦う女性天使なんだが、それはあくまで日本で触れられるイメージなんだろう。
戦士の魂を天上に運び、そこで面倒を見るのが仕事なのか。
嬉しい称号ではないな。
「ところで千冬様」
「ん?」
「モンド・グロッソが終わったら是非ともイギリスに遊びに来てください。歓迎しますわ」
イギリスか、一度はゆっくりと観光してみたいな。
一夏と一緒に城巡りなど楽しそうだ。
「あ、抜け駆けはズルいサ。千冬、イタリアはどうサ? イギリスより美味しい食べ物はいっぱいあるサ」
「食べ物なら中国が一番ヨ。千冬サンは本場の中華に興味ないアルか?」
「甘いですね。アメリカに来ればイタリア料理だとうと中華だろうとなんでも揃います。もちろんそれ以外も大丈夫です。人種のるつぼは伊達じゃありません!」
何故か四者四様で睨み合う。
なんで牽制し合ってるんだお前たち。
上の人間から懐柔するように頼まれたのかもな。
ところで、なんか私に食いしん坊属性が付与されてるんだが?
食べるのも好きだが、別にそれだけじゃないぞ。
「気持ちは嬉しいが、私はそうそう気楽に国外に出れる立場ではない。国家代表であると同時に束の関係者でもあるからな。専用機持ちの私が国を出ると言ったらきっと良い顔はしないだろう」
と、それらしく言っておく。
本音を言えば、一夏を連れて海外に行ったら束関連で狙われそうで怖いのだ。
他国に興味はあるが、遊ぶのは一夏が巣立って束の周辺が落ち着いてからでもいいだろう。
日本にだって行ってみたい場所は沢山あるしな。
「そうですわね、千冬様は普通の国家代表より難しい立場に居るのを忘れてましわ」
「残念だけど仕方がないサ。でもいつか日本に遊びに行くから、その時は案内して欲しいサ」
「それは良い考えアル。アタシも遊びに行くよ」
「もしかたら在日アメリカ軍の所で行くことがあるかもなので、その時はよろしくお願いしますね」
なんかこう、優しい視線を感じる。
真っ当な友人関係って本当に素晴らしいな。
「まだトーナメント表の発表がされてませんが、こんなにまったりしてていいのでしょうか?
アダムズが食後のコーヒーに口を付けながらそう呟く。
良いじゃないかまったり。
私には貴重な時間だよ。
「問題ないネ。この場にいるメンツで、気心が知れたからといって拳が弱くなる人間は居ないヨ」
「飛蘭の言う通りだ。それぞれ目的や背負う物があるんだ、多少慣れ合ったとしても揺らがないだろう。お前は違うのか?」
「そうですね……私にとって気持ちの問題は二の次です。自分が格下だと理解してるので、誰が相手でも全力で戦うだけなので」
元文学少女のセリフじゃないな。
順調に洗脳されて……いや、私が口を挟むことではないか。
「最近の予定調和になりつつあるけど一応聞くサ。全員これから予定はあるサ? 夜の内に対戦相手の発表があるらしいけど、それまで待ってるサ?」
食後のお決まりの言葉になりつつあるのは同意する。
さて、食後の予定か。
「私はないな。今日は早めに休んで体調を万全にしておく。対戦相手が誰だろうと為すべき事は変わらないからな」
少々体を動かしたい気持ちはあるが、そこはこらえて休むべきだろう。
予定と言っても、早めに起きて試合に備えてのウォーミングアップをするくらいだな。
本来なら対戦相手が決まってから、相手に対して戦略を練るのが正しいのだろうが……ワクワクして寝られなくなったら困るし。
「わたくしは暫く待機ですわ。対戦相手が決まってからミーティングする予定ですので」
エラは王道パターンだな。
「先輩方が今日までの試合データを元に15種の戦闘パターンを考えてくれたので、私は普段通り自主練するだけですね」
こっちはバックアップが万全組か。
すでに全ての国家代表に対する戦術は出来上がっていると。
「アタシも同じアル。すでに準備は――ちょっと失礼」
飛蘭が携帯電話を取り出しなにやらチェック。
画面を見てニンマリと笑った。
「予定が生えたアル。これから一緒に訓練場ネ」
「私ですかっ!?」
隣に座るアダムズの肩に飛蘭の手が乗せられる。
ウキウキとした良い笑顔だ。
「中国とアメリカでやり取りがあったみたいヨ。何故か中国拳法を教える事になったアル」
「……見様見真似ですが出来ますよ?」
「しっかり基礎から教えるアル」
「お手柔らかにお願いしますね?」
「安心するヨロシ。人体という名の建物の仕組みと、簡単な壊し方を教えるだけアル」
「言葉が不謹慎っ!」
良かったな、効率よく教えてくれるみたいだぞ。
アダムズはボクシングや空手などより中国武術の類が合うだろう。
一晩でどこまで仕上げてくるか期待だ。
「ん~二人の修行も楽しそうサ……」
「邪魔は駄目ネ」
「見てるだけでも?」
「駄目アル」
「了解。アーリィーは大人しくしてるサ」
「お前は練習や訓練はしないのか?」
「アーリィーも千冬とやることは同じサ。懐に飛び込んで殴る! 以上! だから作戦会議とかないサ」
逆に清々しい。
だがアーリィーはモンド・グロッソ二日目に見せた投げ槍がある。
意外と曲者なこいつのことだ、脳筋アピールしといて間合いの外から投撃などしてきそうだな。
油断ならん。
「ところで、そろそろ食後のデザートにしませんこと?」
とエラが切り出した。
食後のデザートか……なんかこう、自分がそんなものを食べるのは女の子してるみたいで気恥ずかしいな。
だけど別に悪い事ではない。
収入も増えたし、織斑家にも食後のデザートという文化を取り入れるべきか?
一夏は自分でおやつなど買わないし、きっと喜ぶだろう。
「色々種類があるんですね。……アイス、パイ……むぅ」
アダムズがメニューを見ながら悩む。
確かに色々と種類がある。
「なんならバラバラに頼んで少しずつ分けるサ? マナー的な問題があるけど――」
「わざわざ顔色を伺わなくても怒りませんわよ。かしこまった席でもありませんし、問題ないでしょう」
「と、言ってるが、どうサ?」
「別に構わないアル。実はいちごタルトといちじくタルト、どっちにするか迷ってたヨ」
「なら私はいちじくにしよう」
いちじくはスーパーやコンビニでそうそう売ってないからな。
家ではあまり食べないものだし、興味があったので丁度良い。
「ならわたくしはバクラワにしますわ。トルコのパイですの」
「自分はこのロクマってやつにします。一口サイズの揚げドーナッツらしいので分けやすいですし」
「じゃあアーリィーはキュネフェにするサ」
「この写真のやつですよね。説明文を見てもよく分からないのですが、どんなデザートなんです?」
「口で説明すると……キュネフェは……甘いデザートタイプのピザ?」
随分と悩んだ説明だな。
「ま、食べてみれば分かるサ!」
「甘いピザ……カロリーが凄そう」
アダムズが悲しげな顔でお腹を撫でる。
そんな心配しなくとても、この後に飛蘭との特訓があるんだから心配する必要はないだろうに。
「さて、デザートが来るまで時間がありますし、ここは千冬様の昔話でも――」
「私はエラに興味があるな。国家代表になる前はなにをしてたんだ?」
「わたくしに……興味っ……!?」
悪いが私に語る事はない。
楽しい思い出を語ると登場人物に束と神一郎が混ざるからだ。
そんな訳でエラ、頼む。
「千冬様がそう仰るなら仕方がありませんわ。国家代表になる前のわたくしは――」
「あれ、千冬が話を変えただけじゃないサ?」
「しっ、本人が満足してるようなので、そのままにしておきましょうよ」
「千冬サンの背後には怖い存在が居るし、きっとこれが正解よ」
ヒソヒソと話す三人、一応はエラの話を聞いてやれ。
「チッ」
自室のドアの前で思わず悪態をつく。
仲間たちと共に食事をし、ガラにもなくデザートの分け合いなんかをして楽しく過ごして戻ってきたというのにこれだ。
――部屋の中に誰かが居る。
気配は消してるが、きっと姿は隠していない。
中で待ち構えいるな。
日本のスタッフではない。
もちろん束でもない。
空き巣などの犯罪者にしては気配の消し方が慣れすぎている。
誰か人を呼ぶ……駄目だな。
相手の素性が知れない以上、犠牲者が出るかもしれん。
ISを所有してる可能性を考えるべきだろう。
ならば、自分がこのまま行くしかないか。
「こんばんわ。織斑千冬さん」
私を出迎えたのは一人の女性。
胸の部分が大きく開いた、赤いドレスを纏う金髪の女性が待ち構えていた。
次回、久しぶりに原作キャラの登場です。
約束された勝利の報酬
①人参を咥えるバニーガール(涙目で睨んでいる)
②釣り糸で縛られたバニーガール(今にでも殴りかかってきそうだ)
③ローションをぶっかけられるバニーガール(視線だけで人を殺せそう)
④その状態でスケベ椅子にお座り(目に諦めの色が出てきた)
⑤頭からマヨネーズ(感情が死んだ)