俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~   作:GJ0083

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幕間的な感じでサクっと短めに。



彼女たちの二次会

「うん……」

 

 光が眩しくて目を閉じる。

 身体が熱い。

 床がひんやりとしてて背中が気持ち良い。

 

 ――――うむ?

 

 脳ミソに酸素がまわり、意識が覚醒する。

 あぁそうだ、私はちーちゃんとイチャついて……。

 

「ん」

 

 身体を起こすと、ズキズキと痛む箇所がいくつもあった。

 

「目が覚めたか?」

「ちーちゃん? あいた……」

 

 横を見ようとすると、頭に痛みが走った。

 そういえば、頭を何発も殴られたんだっけ?

 

「ほら」

 

 ちーちゃんがミネラルウォーターを渡してくれた。

 中身は半分ほどで、どう見ても飲みかけだ。

 ――ちーちゃんが自分から間接キスを許してくれる? なにこれ、私はまだ寝てるのでは?

 

「飲まないのか?」

 

 飲みますとも! うほーい!

 

「んくんく……ぷはぁ!」

 

 熱を持っている身体に水が染み込んでいく。

 オマケにちーちゃんのDNAも染み込んでいく。

 いや、オマケはH2Oの方だね。

 ちーちゃんのDNAが本命です!

 ありゃ、勢い余って全部飲んじゃった。

 もう一度お願いすればくれるかな?

 

「ちーちゃん、まだお水ある?」

「ないな。それが最後だ」

「この水って何処にあったの?」

「クーラーボックスの中だ」

「なんで一本だけ水が……」

 

 しー君が用意してくれたんだろうけど、どうして一本だけなんだろう?

 まさか今の状況を読んでた?

 私とちーちゃんは殴り合い、精根尽きた状態。

 身体はくたくたで、喉はからから。

 そんな二人が一本の水を飲む。

 うん! とっても青春だね! しー君に感謝!

 

「これ以外は全部酒だ。神一郎も気が利かないな。ホストならソフトドリンクも用意しとくものだろう。アイツ、私と束が未成年だって忘れてないか? まぁビールばかり飲んでた私が言う事ではないが」

「しー君なりに気を使ったんじゃない?」

「気を使う? 何を言っているのか分からん。この水は料理に使った余りだぞ?」

 

 ……カレーを温めた時、水を加えながら温めてたね。

 しー君にはがっかりです!

 残りはお酒だけ。

 嫌いじゃないけど、正直言って気分じゃない。

 ちーちゃんも私と同じなのか、お酒に手をつける様子はない。

 こんな時こそ私の出番。

 お水を用意してちーちゃんに褒めてもらう!

 

 えーと、今の手持ちは――ふむふむ。

 なんとかなりそうかも。

 

「ちーちゃん、ちょっと待っててね」

「ん? なにかするのか?」

「うん、水を作ろうかと思って」

「それはありがたいな。頼んだ」

「がってん!」

 

 やっぱりちーちゃんも飲みたいんだね。

 やる気はMAX。

 必要な機材を取り出し、ばらし、組み立てる。

 

 

 

 

 

「出来た!」

 

 出来上がったの大型の遠心分離機。

 外見はカタツムリです。

 

「ちーちゃん、お酒を適当に頂戴」

「これでいいか?」

 

 ちーちゃんが渡してきたのは、缶チューハイが数本。

 もしかしてビールは自分の楽しみにとっておきたいのかな?

 さてさて、中身を機械の穴に注いでスイッチオン!

 

「このカタツムリが水を作るのか?」 

 

 ちーちゃんにもカタツムリに見えるんだ。

 可愛いでしょ?

 

「そうだよ」

「なぜ酒を入れた?」

「え? お酒を水とそれ以外に分離する為だけど?」

「……そうか」

 

 ちーちゃんが苦虫を噛んだ様な顔をする。

 なんで?

 機械の音が止まった。

 出来上がりだね。

 注ぎ口にペットボトルの口を近づけ、蓋を開ける。

 

「束、どんな原理でアルコールと水を分けたんだ?」

「遠心分離」

「その理屈はおかしい」

「ほえ?」

 

 二種類以上の成分が混ざった液体を分離するには、遠心分離でおけ。

 それが答えです。

 

「どうぞ」

「そうだな。お前に聞いたのが間違ってた」

 

 納得してくれたみたいだね。

 内部で一度沸騰させてたりとか、何枚ものフィルターで不純物を取り除いたりとか、そんなの説明してもつまんないもん。

 

「ん。普通の水だな」

「私にも頂戴?」

「ほら」

 

 おぉ!?

 ちーちゃんが普通にペットボトルを渡してくれる。

 なにこれ感動。

 

「お前の機嫌を取った方が最良だと判断した」

 

 ちーちゃんは私と反対の方を向いてそう言った。

 照れてるの?

 もー、ちーちゃんてば可愛いんだから。

 

「あまり調子にのるなよ?」

「はーい」

 

 水を飲んで気分も落ち着いた。

 改めて状況を確認する。

 

 身体のあちこちが熱を持っていて痛い。

 口の中が切れていて、水を飲むと口の中が痛い。

 服はボロボロで、スカートなんか縦に裂けてるので太ももが丸見えだ。

 

 次にちーちゃん。

 破けた服の隙間から見える肌は真っ青だ。

 青タン痛そう。

 ちなみにちーちゃんの顔と二の腕は綺麗です。

 流石に日常に影響が出ないように注意したからね。

 特筆すべきは脚だね。

 ストッキングが良い感じに破れてエロス。

 違った。

 まるでしー君みたいなミス。

 “破れています”だね。

 うん、エロい。

 

 はぁ……。

 熱を含んだため息が出る。

 痛い。

 ちーちゃんの拳が当たった肋骨が痛い。

 ちーちゃんの蹴りが当たった橈骨が痛い。

 ちーちゃんを蹴った時、肘でガードされた。

 舟状骨にヒビが入ってるみたいで足が痛い。

 身体の芯から痛い。

 ジワジワと、内側から痛みが溢れる……。

 

 幸せだなぁ~!!

 この痛みも! 熱も! 全部ちーちゃんから貰ったもの!

 誰にも渡さん!!

 

「変な顔してどうした?」

「欲情してる顔だもん」

「もう二、三発殴るか?」

「是非に!」

「また今度な」

 

 ちーちゃんはやれやれと首を振って、結局殴ってくれなかった。

 おあずけプレイってやつだね!

 今度会うときが楽しみです。

 

「ところでちーちゃん、スッキリした?」

「……分かるか?」

 

 ボロボロの状態だけど、ちーちゃんはとても嬉しそうだ。

 

「神一郎には悪いと思うが、だいぶスッキリした」

「私も頑張ったよ?」

「だな。お前の相手をするのが疲れるが、今はその疲れが心地良い」

 

 ちーちゃんはストレスを溜めていた。

 それは、しー君が考えてるよりずっと酷いストレスだ。

 

「無能共の相手って疲れそうだもんね」

「……相手が自分より低脳でも、従うのが社会人なんだ」

 

 ちーちゃんが低脳呼びとは珍しい。

 イラついてますな。 

 

「社会の中では能力が優れていればいいわけではない。例え相手が一撃で殺せそうな軟弱な人間だろうと、大学を卒業していない私より頭が悪かろうと、社会の順列は絶対だ」

 

 うんうん。

 高卒で女で能力が高い。

 やっかみの対象だよね。

 しー君は新入社員のちーちゃんが苦労してると思っていた。

 それは間違っていない。

 だけど、能力がある未成年の女って凄く敵が多い。

 しー君の想像以上にね。

 なんせ研究所なんて、頭でっかちでプライドが高い人間が多い。

 ISなんて世界中の注目を浴びてる研究をしてるんだから、お察しである。

 でも私は何もしない。

 ケンカを売られたのはちーちゃんだから、私は手を出さない。

 殺してやりたいけどね!

 

「分かってると思うが、手を出すなよ?」

「もちろん。ちーちゃんが買ったケンカでしょ? 空気は読むよ」

「ならばよし」

 

 ちーちゃんに褒められた!

 出来る女は違うのです。

 あ、そうだ。

 出来る女として一つ忠告しないと。

 

「ちーちゃんさ、やっぱり自分の産まれ気にしてる?」

「お前はコロコロ話しが変わるな。産まれ? 気にしてるに決まってるだろ」

 

 ちーちゃんは普通じゃない。

 そんなちーちゃんは誰よりも普通に憧れている。

 私としては無駄な感傷だと思うけど、ちーちゃんの生き方を否定する気はない。

 もどかしいけどね。

 

「しー君の前で自分を人外扱いしないで欲しいの。自嘲もダメ」

「何故だ? 神一郎が私に気を使ったり哀れんだりするからか?」

「まずはコレをご覧ください」

 

 空中に画像を投影。

 映し出されたのは、しー君のパソコンから拝借してきた画像である。

 

「上半身が女で下半身が蛇、それに下半身が蜘蛛? 肌が青いのも居るな。なんだこのバケモノは……?」

 

 ラミアにアラクネ、それと悪魔っ娘だね。

 人外娘やモンスター娘と言われている存在だ。

 他にも、スライム娘やカマキリ娘なんかも居るよ!

 

「世の中には様々な趣味の人がいてね……」

「待て、もしかして……」

「“人外萌え”って言葉があるんだよね」

 

 次の画像は、そんなモンスター娘が男とチョメル姿。

 しー君お気に入りの画像です。

 

「…………(ぽかーん)

 

 ちーちゃんが口を開けたまま画像を見つめる。

 照れとかないね。

 きっと理解出来ない趣向なんだろうな。

 

「男にとって、その、……こういった女? も性の対象なのか?」

「今はマイノリティにも程があるけどね。でもしー君が言うには、未来では同好の士が増えてるらしいよ?」

 

 アニメやエロゲで、一つのジャンルで受け入れられてるって言ってたし。

 ふふっ、しー君が秘密にしてた性癖暴露しちゃったぜ!

 今度ちーちゃんに会った時、冷たい目で見られればいいよぷっぷー。

 

「で、神一郎の性癖がどうした? 私はアイツに襲われる可能性があるのか?」

「違うよちーちゃん。しー君は怒るんだよ。しー君なら言うだろう……『特殊な産まれだからって人外アピールすんなよ。せめて角を生やすか肌を青くしてからアピってどうぞ』ってね」

「そっち!? 私の見た目が普通なのがむしろダメだと!?」

「見かけは普通の美人さんだもん。その外見で人外ぶられても、人外萌えにはケンカ売ってるに等しいんだよ」

「……プロジェクト・モザイカで産まれた私は恐ろしい存在だよな?」

「少なくとも私はちーちゃんを怖いと思った事はないよ」

「そうだったな……」

 

 テンションが落ちたちーちゃんは、普段では想像出来ないくらいシュンとしている。

 影のあるちーちゃんもきゃわいす。

 落ち込んだちーちゃんのテンションを上げてあげないとね。

 ネタはもちろんしー君で。

 

「そう言えばさ、しー君って可哀想だよね」

「お前の面倒を見てた事か?」

「じゃなくて、私に同情してた事だよ」

 

 ちーちゃんは暴れてスッキリ。

 私は遊べてほっこり。

 だけど、しー君が得られた物って何もないんだよね。

 

「私に気を使って馬鹿みたい――とまでは言わないけど、滑稽だよね」

「待て」

 

 私の肩にちーちゃんの手が置かれる。

 どったの?

 

「神一郎はあれだ、お前の為に頑張ったんだよな? お前が寂しがってると思って相手をしてたんだろ?」

「そうだね。しー君の行動原理は私を想ってだった。でもねちーちゃん、よく考えて欲しいんだけど、私って不幸?」

「ん?」

「しー君に会って、私は箒ちゃんと会えなくなると知った。ちーちゃんと会えなくなると知った。いっくんとも会えなくなると知った。で、今の私は?」

「神一郎の為にも聞きたくないな」

 

 残念。

 私はちーちゃんとお喋りしたいので黙りません。

 

「箒ちゃんとは月に一日会えてるし、こうしてちーちゃんと遊んでる。いっくんには会えないけど、時々しー君からいっくんの成長写真を貰ってるから文句はない」

「一夏の事については一言言いたいが、今は言わん。で、つまりお前は――」

「別にストレスとかないよ? そりゃたまに無能共にイラつく事はあるけど、だからって鬱憤溜まるとかないです」

「神一郎オォォ……」

 

 ちーちゃんがなんとも言えない顔で天を仰ぎ見る。

 今日はよく天井を見上げる日だね。

 

「今の私の状況は、私が想定していた未来よりはるかに明るい。日々楽しんでますが、なにか?」

 

 しー君から未来を聞いた後、私は未来が怖かった。

 その時想像した“もしもの未来”に比べたら全然ましです。

 

「そうだな、今のお前は不幸とは程遠い」

「しー君のお陰だよね。最初は妹を捨てた冷たい姉であるべきだと思ってたもん」

「その恩人を滑稽だと言ってるんだが?」

「だってさ、自分で私の生活環境を整えてくれたのに、それでも私がストレス溜めてると思ってるんだよ? なんて言うか……可愛いおバカ?」

「それ、絶対に本人に言うなよ」

「せっかく甘やかしてくれるんだもん。言わないよ」

 

 常日頃から遊べるのはしー君だけっていうのも事実。

 遊び仲間だもん、大切にしますとも。

 

「それで、お前は神一郎で色々と遊んでた様だが、目的はなんだ?」

「おりょ? 遊ぶのに目的とか必要?」

「必要だな。特にお前みたいに腹黒い人間には」

 

 破れた服からチラチラと見える自分のお腹。

 自画自賛だけど、綺麗なお腹です。

 だよね?

 服をめくって誘ってみる。

 ちーちゃんは見向きもしない。

 この程度のお色気ではダメか。

 しー君なら一発なのに。

 

「ちーちゃんはヤジロベエって知ってる?」

「子供のオモチャだろ?」

「そうそう。重心が支点より下にあるから、左右に動いても倒れない子供の玩具」

「それがどうした?」

「左右に倒れず動くだけなのに、それが子供の玩具として成立している。そう、何故だか説明できない面白さがあるんだよ」

「言いたい事は理解した。だから言うな」

「しー君の心を揺さぶるの最近のマイブームです」

「神一郎オォォ……」

 

 またもちーちゃんが天井を見上げる。

 上になにかあるのかな?

 ん、何もないね。

 

「今日の事で神一郎に少し怒りを覚えたが、やはり優しくしてやるか」

「あ、それはダメ」

 

 ちーちゃんてば優しいんだから。

 でも私の為に厳しくあって欲しいのです。

 

「ちゃんとした理由があるんだろうな? くだらなければ――」

 

 くっ!? 話して協力を得るか、黙ってご褒美を貰うか……悩む!!

 殴られてから正直に話せばいいのでは?

 ふっ、天災は伊達じゃないぜ。

 

「しー君に優しくするくらいなら私に膝枕でもッ!」

「触るな」

「あいたっ」

 

 ちーちゃんの膝に頭を乗せようとすると、拳骨が落ちてきた。

 これで私の脳細胞が増えるに違いない!

 にゃふふ。

 しーあーわーせー! 

 

「ごめんちーちゃん。ちゃんと真面目にお話しします」

「最初から真面目に話せ」

「今回、私がしー君のイベントに乗っかったのには理由があるんです。その理由と、しー君に優しくして欲しくない理由が同じなのです」

「乗っかったという認識はあるんだな」

 

 もちろん。

 どう転んでも損がない以上、全力で楽しませてもらいました。

 

「私の目的はね、流々武の二次移行だよ」

「ほう?」

 

 ちーちゃんも興味があるらしい。

 いそいそとビールの蓋を開けた。

 私もお酒飲もうかな。

 しー君はツマミとして最適だよね。

 

「私は常に流々武のデータを取ってたの。でね、ISの稼働時間や、流々武の搭乗者への理解度から見て、そろそろ二次移行してるはずなんだよね」

「“はず”なのか?」

「なのです。でも私の計算と違って未だに二次移行は起きていない」

 

 計算を外すのって、腹ただしくもあり嬉しくもある。

 しー君は本当に私を喜ばせてくれるよ。   

 

「だからね、昨日の軍事基地強襲と、今日の模擬戦は二次移行を促すのには丁度良いかなって」

「その為に精神的に追い詰めたり、闘争心を煽ったりしたのか」

「いえす」

 

 二次移行。

 それはISの進化とも呼べる現象。

 操縦者がISを理解し、ISもまた操縦者を理解した時に起きる奇跡。

 今はまだ二次移行を成功させた機体はいない。

 このまましー君が二次移行しなければ、ちーちゃんが最初になるだろう。

 

「いくら二次移行させたいとは言え、少しやりすぎじゃないか? 軍事基地を襲うなど刺激が強すぎる。下手したら……なんだったか……あぁそうだ。神一郎が闇落ちするぞ?」

 

 闇落ちとはオシャレな言い方だね。

 個人的には、闇落ちしたしー君を見たくもあるんだよね。

 でもなー。

 しー君はなー。

 

「あのね、昨日と今日とデータを隅々まで調べた結果なんだけど、流々武を二次移行させるのは難しいんだよ」

「そうなのか?」

「しー君は“二次移行”って現象を知っている。それはいい?」

「ISの勉強はしてるんだろ? なら知っているだろう。研究所の科学者も、知識として二次移行と言うものがあるのは知っていた」

「しー君が“普通のIS操縦者”なら問題ないんだよね。普通なら――」

「……残念ながら、今の主流からは外れているな」

 

 なんとなく察してくれみたいだね。

 そうなんだよちーちゃん。

 ISを大事に使ってくれてる。

 その事に対して不満はない。

 嬉しいよ? その事に対して本当に嬉しいです。

 でもね、しー君が現状に満足しちゃってるのが問題なんだよ!!

 

「しー君は二次移行したいなんて思っていない。別にISに対して火力なんか求めてないから、当然と言えば当然なんだけど」

「二次移行した際に、独自の武器が発現する場合があるんだったな」

「それと、スラスターの追加や装甲の増減なんかもだね。ISが操縦者に適したカタチに変化します」

 

 お分かりだろうか?

 

 火力は?

 モンド・グロッソなどのIS戦をしないので必要ありません。

 

 スピードや優れた操縦性は?

 スラスターは後付のブースターでカバー。

 近接格闘もしないので、優れた操縦性なんかも必要ないです。

 

 装甲の変化は必要?

 今の装甲は束スペシャル。

 太陽光発電で生み出した電気を、シールドエネルギーに変換する機能と、レーダーを掻い潜り姿を消すステルス性を有している。

 脆いけど、装甲に傷を付けるのはちーちゃんくらいなので、絶対に必要ではない。  

 

 しー君が二次移行する必要がないんだなこれが!

 

「私は二次移行した流々武を見たいの! しー君のマンガ脳やエロゲ脳が、単一仕様能力にどんな影響させるか見たかったんだよ!」

「アイツがどんな能力を得るのか、確かに興味深いのは認める」

「だよね? しー君はISへの理解も深いから、面白い能力を得られるかもだし」

「炎を出したり氷を飛ばしたりか? 重力や斥力の操作なんかもいいな」

「それと、問題はしー君だけじゃないんだよ。流々武にも問題があるんです……」

「ISに問題が?」

「流々武はしー君を理解してる。しー君から影響を得て成長してる。だからかな? 流々武自身が『二次移行しなくていいの? おっけ了解』って感じなんだよね」

「軽いな。誰に似たんだが」

「どう見てもしー君です」

 

 搭乗者はやる気がない。

 ISも同調してやる気がない。

 私がちょっと無茶するのも分かるよね!?

 昨日のアレコレ。

 今日のイロイロ。

 それは全部しー君の覚醒を促す為。

 私は悪くない!

 

「ワンオフ・アビリティーか……確かに私も興味はある。だが束」

「なぁに?」

「ISは人の心を写す。お前が神一郎を追い詰めれば、二次移行した時に流々武が武器を生み出したり、殺傷能力が高い単一仕様能力が発現する可能性があるぞ?」

「そだね。そんで私に対して罪悪感を抱くしー君を、ネチネチ苛めたい」

 

 武器や殺傷能力を持てば、しー君が心の中でISを兵器扱いしていると言っていい。

 しー君がどんな顔で私の前に立つのか。

 想像しただけで面白いよね?

 

「是が非でも二次移行させたいのではないんだな? お前はどっちに転んでも良いと思って……違うな。“どちらにでも転べるように”したんだ」

「以心伝心だね」

 

 しっかりと私の気持ちを理解してくれるちーちゃんラブ。

 

 ゲーム風で言うなら、今のしー君はカルマ値一桁の成長期。

 名付けるなら“グレイシークン”だね。

 進化先は“ビックグレイシークン”一択。

 そんなの、つまんないよねぇ?

 

 育成キャラの進化先が一択なんてとてもつまらない。

 進化先はせめて三つは欲しい。

 なので、しー君には進化先追加の為に頑張ってもらいました。

 

 銃で撃たれるのは怖いよね?

 耳に届く炸裂音、悲鳴、血。

 しー君の心に少なからず影響を与えたはずだ。

 怖い、死にたくないって思ったはず。 

 

 自分より強い相手を策で倒すのは楽しいよね?

 天災を装備しての戦い。

 格上を搦手で追い詰めるのは、心がキュンキュンしたはずだ。

 思想はどうあれ、世間一般では卑怯と言われるだろう。 

 

 しー君はカルマ値を稼ぎ、見事に進化先を増やした。

 その名も“ブラックシークン”。

 恐怖を糧に二次移行したら、防御系の単一仕様能力が発現するかも。

 しー君がより攻撃的な性格なら、自分を脅かす奴は先に殺せと言わんばかりに一撃必殺系の能力を得るかもしれない。

 格上をハメる楽しみを糧にすれば、エゲツナイ能力に目覚めるかも。

 想像するだけでワクワクするよね。 

 

「お前は私に“神一郎を甘やかすな”と言った。それは自分が神一郎に優しくするという意味だな?」

「その通り。私の役目なんだから、いくらちーちゃんでも譲れません」

 

 今度はしー君を甘やかすつもりです。

 “ホワイトシークン”をゲットする為にね!

 白、灰色、黒。

 どの色でも私はカモンである。 

 もちろん二次移行しないまま成長してくれても構わない。

 それはそれで面白そうだもん。

 だから私は、強制的に二次移行させる気はない。

 ちょっかい出して、心を乱したり平穏にしたりして遊ぶだけ。

 ちーちゃんが言う“どちらにでも転べるように”が正しいのです。

 私はキッカケを与えるだけで、決めるのはしー君だもん。 

 

「神一郎の事はひとまず置いておこう。悲しくなる」

「笑えばいいと思うよ?」

「ちっとも笑えん。私の精神安定の為に話を変えるぞ」

「それじゃあ他国のISや操縦者の話でもする?」

「それはフェアじゃないから聞きたくない。普通に、国を出てからでのお前の行動が知りたいな」

 

 私の行動?

 ちーちゃんてば、私が気になってしょうがないんだね。

 それなら語ってしんぜよう!

 

「そうだね。しー君を病院送りにした後は――」

 

 えっと、グラサンをトイレに蹴り込んで、しー君を盗撮……のくだりは話さなくてもいいよね。

 

「あ、国のお偉いさんにしー君の存在バラした」

「神一郎ォォォ……」

 

 また?

 今日のちーちゃんは変だね。

 最近の流行りなのかな?

   

「なあ、神一郎とは今年いっぱいお前の面倒を見ると賭けをしてたんだが、もしかして……」

「忙しいちーちゃんの邪魔する気はないよ? 今後も普通にしー君にちょっかい出す気まんまんです」

 

 しー君の前だから何も言わないで黙ってたけど、仕事が忙しい親友と暇人の友人、どちらを優先するかなんて決まってる事だもん。

 

「神一郎を騙したのか?」

「私は賭けに参加してないよ? 賭けは二人が勝手にやった事だもん」

 

 私はいつだって自分が第一。

 自分の為ならしー君の感情なんてクシャぽいです。

 

「お前、神一郎に嫌われるぞ?」

「大丈夫だよ。近いうちにしー君は私に頭が上がらなくなる。だから嫌うとか有り得ないんだよ。むしろ感謝して敬うようになるかも」

「弱みでも握る気か?」

 

 弱み?

 しー君の弱みなんて、選り取りみどりで探す必要もないくらいです。

 

「そろそろしー君の貯金がなくなるんだよね」

「……都合を付けてやった方がいいか?」

「お金貸すの? それはダメだよ。私はしー君がどんな顔で縋ってくるのか楽しみにしてるんだから」

「お前は本当に怖いな。神一郎が哀れに思えるよ。二次移行とか関係なしに遊び道具扱いじゃないか」

「んふふ。褒め言葉だと思って受け取るよ」

 

 仮にしー君が本気で怒っても、背中におっぱいを当てて、耳元で“ごめんね”って可愛く言えば大丈夫だからへーきへーき。

 

「よし、飲むか。神一郎の事は忘れよう。同情してもなんの役にも立たないからな」

「ちーちゃんが私生活を犠牲にして遊んでくれるなら、しー君は救われるよ?」

 

 ちーちゃんが遊んでくれるなら、しー君は放置します。

 

「ほら、お前も飲め。今日だけは付き合ってやる。今日だけはな」

「うんうん。そうなるよね」

 

 しー君は犠牲になったのだ。

 私とちーちゃんの穏やかな生活の為にね!

 

「乾杯!」

「かんぱーい!」




○○○「自由だひゃっほーい!」
○○○「手の平ころころ」
○○○「…………(そっと目そらし)」

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