俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~ 作:GJ0083
「おおう……」
攻略サイトを見ようとケータイの電源を入れたのが失敗だった。
メール着信114件
メールBOXには未読のメールが大量に溜まっていた。
送り主の名前は文字化けして読めない。
一見チェーンメールにも見えるが、これは全て束さんからのメールだ。
内容は――
【今暇?】
【お酒を飲みながら干物を囓る小学生とかないと思う】
【その命中率98%は避けられるよ? めんどくさがらず“必中”使いなよ】
【研究所爆破なう(添付画像付き)】
絶対監視カメラ仕掛けてあるだろ!?
天井、壁、テレビ台――
周囲を見渡すが、カメラレンズらしきものは見えない。
ブブッ
新たに着信。
【トイレと寝室とお風呂にはないから安心してね。友達とはいえプライバシーは大事だよね♪】
――そうだね。
気を使ってくれてありがとうございます。
プライバシーは大事、とても。
中学生になったら、ノートパソコン片手にトイレに入り浸りそうだ。
俺はまたケータイの電源を切った。
さて、なぜこうも束さんがうざっ……もとい、かまってアピールをしてるのかと言うと――テンションが上がっているのだ。
今の束さんは一人暮らしを始めたばかりの大学生そのもの。
だるい大人達から解放され、思う存分好きなことに没頭でき、姉妹仲も良好。
そりゃ大はしゃぎして友達にメールを送りたくもなるってもんだ。
俺だってその気持ちが理解できる。
だから最初は相手をしてあげた。
しかしだ、毎日100件以上のメールに律儀に返すのは俺には無理だった。
束さんがヤンデレならまだ分かる。
彼女なら喜んで相手してあげるさ。
だが、残念ながら束さんは彼女ではなく友達だ。
俺が次の日にはメールをシカトするようになったのはしょうがないと思うんだ。
それに、束さんおそらく片手間でメールを送ってきてるはずだ。
どうせ俺の私生活など作業用BGM代わりに違いない。
そして、束さんは一日三十時間生きている女(本人談)
律儀に付き合ってては俺の身が持たない。
「ん?」
なんてことを考えていると、ふと後ろに気配を感じた。
◇◇ ◇◇
「準備完了っと」
実戦テスト相手を見繕い、私は正面の映像に視線を向ける。
国の連中がしー君の部屋を調べた後、私はまた隠しカメラを仕掛けた。
居間の天井中心に仕掛けたカメラには、のんびりとゲームをするしー君が映っている。
しー君の日常はとても平和なものだ。
平日が学校に行き、夜はゲーム三昧。
金曜日の夜から流々武で飛び立ち、土、日は海外で過ごす。
ちなみにしー君の行き先は、中国、韓国、台湾、ロシアなど、日本に近い国ばかりだ。
世界中を飛び回るかと思っていたが、焦らずゆっくり楽しむ所存のようだ。
先週末、ロシアの人里離れた山奥でテントを貼り、アニソンを口ずさみながら焚き火でお肉を焼くしー君はとても楽しそうだった。
しー君の夢を満喫中なのは理解している。
だけど、なんで私を誘ってくれないのだろう?
焼肉するのに一人である必要ないよね?
【今どこに居るの? 一緒にご飯食べない?】くらいのメールをしてくれても良いと思う。
こっちから連絡してもシカトするし……なんというか、蔑ろにされている様で非常に遺憾である。
しー君がケータイを開いた。
そしてため息を吐きながらケータイを閉じた。
――わたしへの返信はない。
「良い度胸じゃないか」
別に寂しいとかそんなんじゃない。
そう……これはしー君へのお仕置きだ。
遊びに来るって言ってたのに……。
しー君の為に潜水艦の外装をしー君好みにしてあげたのに……。
私をシカトするとどうなるか思い知らしめる必要があるよね?
「ってな訳で、発進せよ! 機械ゴキブリ“ゴキジェットG”!!」
機械ゴキブリ――本来は、直接手を下さずに敵を無効化する為に作ったものだ。
本物と同じ外見のこの機体は、高い耐水耐熱機能を有している。
狭い隙間やパイプ内、それらを本物のゴキブリが如く通り敵地の中枢に侵入する。
そしてお腹に付けた卵鞘――を模したカプセルに詰まっている、病原菌や毒ガスなどを撒き散らす恐怖のゴキブリなのだ。
我ながら恐ろしい物を作ってしまったぜ。
待機状態だったゴキジェットGが起動する。
カメラアイに映るのは髪の毛やホコリだ。
やはりゴキブリと言ったら冷蔵庫の下が住処だよね。
カサカサとゴキジェットGが動き出す。
もちろん擬音です。
ステルス性は完璧ですとも。
台所から移動を開始、居間に移動する。
ゴキジェットGの視界にソファーに座るしー君を捉えた。
しー君にバレないうちに背後に回り込む。
おっと、行動を起こす前に流々武の機能を一時的に封印しておかないとね。
万が一だけど、防がれるかもしれないし。
流々武の機能封印完了――さぁ、ショータイムの始まりだ!
「飛べ! ゴキジェットG!」
羽を広げ、ゴキジョットGの体が浮かぶ。
そして、しー君を見下ろす程の高さに到達した。
『ん?』
しー君が振り返り、口を開けてゴキジェットGを見つめている。
ここで卵型カプセルを投下!
このカプセルは中に仕切りがあり、二種類の薬品が入っている。
睡眠薬と筋弛緩剤だ。
空中でカプセルが割れ、薬品を散布する。
『ふぉぉぉおぉぉ!?』
叫び声をあげるしー君が滑稽だぜ。
『――はへ?』
しー君の体がビクリと震え、動きが止まった。
ちゃんと薬を吸い込んだようだ。
あ、そっちに倒れたら……。
『うごっ!?』
しー君が後ろに倒れこみ、頭をテーブルにぶつけた。
これは痛そうだ。
『うぅ……が……』
おや? しー君の様子が……。
ピクピクピクピクピクピクピク
倒れたのままのしー君が手足を痙攣させている。
普通なら、頭を押さえて転がりまわりたい痛さだろう。
しかし、私が使った筋弛緩剤は持続性はないが即効性がある。
だからこそ――
ピクピクピクピクピクピクピク
しー君が死にかけの虫の様に有様に……。
まるで道端に落ちてるセミだね。
さすがの天災も同情を禁じえない!
ピク……ピクピク……
しー君の動きが徐々に弱まってきた。
これ、死にそうだからじゃないよね?
ピク………ピ……――――
しー君の動きが完璧に止まった。
死んだんじゃないよね? 眠ったんだよね?
「流々武起動!」
流々武の頭部だけをしー君の頭に装着し、容態を確かめる。
――内出血は確認できるが、今のところ命に別状はない……はず。
うーん……人間って意外と脆い生き物だよね?
脳内出血で死ぬ可能も……。
「流々武! しー君連れて来て! なるはやで!!」
流々武を全身に纏わせ、ここまでの飛行ルートをインプット!
発信機を誤魔化して、私はしー君を窓から飛び立たせたのだった。
◇◇ ◇◇
「うっ……」
目を開けると知らない天井だった。
ならば言わなければならない。
「知らない天井だ」
「いやいや、知ってるはずだよしー君」
天井は知らないが、声の持ち主は知ってる。
目を開けたら近くに天災――このパターン多い気がする。
「こんばんは束さん」
「おはようしー君。具合はどう?」
「具合って……いっ!?」
なぜそんな心配そうな顔を?
そんな事を考えながら身を起こそうとすると、頭に痛みが走った。
思わず手で痛んだ箇所を押さえると、そこにはたんこぶがあった。
「え? たんこぶ? なんで?」
ぷっくらと膨らんだ後頭部。
たんこぶがズキズキと痛んで存在を主張している。
「しー君覚えてないの?」
「覚え? えっと……」
確か俺は――ゲームをしていて、それで……あぁそうだ、後ろから羽音らしきものが聞こえて、それで振り返ったら……。
「思い出した?」
「……思い出しました」
Gが空、飛んでたんだよね――
それで……そうだ、体が倒れる感覚は覚えている。
床かテーブルにでも頭ぶつけたのかな?
やけに頭が痛かった様な記憶がある
「最後にGを見たのは覚えてるんですけど、俺ってなんで気絶したんでしょう?」
「え?」
「なんでそこで束さんが驚くの?」
「ふむ、なるほど――」
なにがなるほどなのか……。
「あのねしー君。しー君はGにビックリしてひっくり返りかえって、テーブルに頭をぶつけちゃったんだよ!」
なんでそんなに嬉しそうなの?
あれか、俺の滑稽な姿をリアルタイムで見てご満悦なのかちくしょう。
「動かなくて心配だったから此処に運んだんだよ? 感謝すると良い!」」
束さんがえへんと胸を張る。
頭のケガは怖いものだ。
確かにその点は感謝していいかもしれない。
「ありがとうございます」
「むふふー」
素直にお礼を言うと、束んさんが嬉しそうに笑う。
なぜだろう……笑顔なんだけど、見てると何故か不安になる。
寝てる間になにかされた? いや、体調の変化や着衣の乱れは感じない。
気のせいか……。
「そう言えば、此処って――」
「ん? 私の移動要塞【吾輩は猫である(名前はデ・ダナン)】に決まってるじゃん」
いつから移動要塞になったのかってツッコミは置いておいて、周囲を見渡す。
俺と束さんが居るのはだだっ広い空間。
家具も家電も無いが、ここは確かにデ・ダナンの中に作られた居間だ。
そうそう、この潜水艦、名前が決まりました。
俺の前世の知識で、束さんが【吾輩は猫である(名前はまだ無い)】という名のラボを使用してることは知っていたので、そこに俺の趣味を混ぜてもらったのだ。
束さんも意外と軽くOKしてくれたので、あっさりと決まった。
だって……ねぇ? ダナンをダナン以外の呼び方するのはオタクとしてイマイチだったし、ちょっと名前変えた程度じゃ原作に大きな影響ないだろうし、これくらいの我が儘なら許されるよね?
愛称はデ・ダナンかダナン、もしくはトイ・ボックス。TDD―1も可。
そこは譲れない。
「はい氷枕。冷やして横になった方がいいよ」
「どもです」
束さんから長方形の氷の塊を受け取る。
本当の意味での氷枕だ。
氷の塊にタオルが巻いてあるのが救いかな。
これを氷枕と言いたくないが、用意してくれただけありがたい。
余計な事を言わずに素直に横になろう。
「冷た――ッ」
頭を氷に乗せて体を横にする。
――意外と冷たくて気持ち良いのがなんか悔しいな。
「ところで、何用です?」
俺の視線の先には天井ではなく束さんの顔。
いつの間にか俺の頭の方に座り込んだ束さんが、何故か俺の顔を覗き込んでいる。
「いや~それにしても久しぶりだねしー君」
「え? 三週間ぶり程でしょ? そんな久しぶりって感じじゃ――」
「久しぶりだねしー君」
「いやだから、そんなに久しぶりじゃ――」
「久しぶりだって言ってんだよ」
「言葉使いが怖い!?」
え? 束さん怒ってるの? なんで?
「しー君、随分とまぁ楽しそうな日々を送ってるね」
「そりゃまぁ」
ジト目の束さんに睨まれながらも、俺はそう答えた。
平日は小学校でのんびりと過ごし、週末は気ままに海外旅行。
楽しくない訳がない。
「でさ、あのメス猫はなにかな?」
「メス猫? 猫なんて飼ってませんよ?」
「あの! 中国人は! なんだって聞いてるんだよ!」
あーなるほど。
一夏とリンが仲良くしてるのが気に食わないのか。
って痛い! 冷たい!
頭を押さえつけるのヤメロ!
「答えてくれるよね?」
「答えるから手をどかしてください!」
「ほい」
手が退けられたので、腹筋に力を入れて後頭部を氷から離す。
まさか氷枕が俺への優しさからではなく、拷問器具だったとは!
「ほら答えなさい」
束さんが人差し指を俺の額に押し当てる。
氷に後頭部が当たらないようにすると、額に爪が刺さる仕様ですね分かります。
……俺、そんなに悪い事したか?
「束さんはさ、一夏とリンが仲良くしてるのが気に入らないの?」
「気に入らないね」
ほんと、自分が好きなものに対する独占欲が強い子だよな。
「――――束さん」
「ん?」
「いくら一夏が大好きだからって小学生相手に嫉妬するなよみっともない。自分の年齢考えろ」
「てい」
「冷た痛い――ッ!?」
顔面を手の平で押され、後頭部が硬い氷にグリグリと押し付けられる。
ケガ人に対する優しさが足りん!
「今のは俺が悪かった! 真面目に答えるから!」
「素直でよろしい」
顔に掛かる圧力が消え自由になる。
俺はすかさず頭を上げて氷枕から後頭部を離した。
頑張れ俺の腹筋!
って冗談はともかく、これはまずい。
下手したらリンが束さんにちょっかい出される可能性がある。
どうにか誤魔化さないと。
「さあしー君。なんであのメス猫がいっ君に近づくのを許してるのか語ってもらおうか。箒ちゃんの気持ちを知っているのにも関わらず、あのメス猫を応援すると言うなら、残念だけどそれなりの対応をしなければならない」
あかん、目がマジだ。
このままではリンだけじゃなくて俺もピンチ。
だが、俺だってこの程度は想定済み。
言い訳は完璧ですとも!
立ち上がり束さんの正面に座る。
「あのね束さん。リンは……一夏の虫除け担当なんだよ!」
酷いことを言っている自覚は、ある。
「虫除け? 適当なこと言って煙に巻こうとしてない?」
束さんが疑うのも仕方のないこと。
だが俺は未来を知る人間。
原作知識にちょっとスパイスを効かせれば、束さんを説き伏せるなど簡単なこと!
「束さん、今から俺が言う事をしっかりと聞いてください。なんなら嘘発見器を使ってもいいです」
「ほう? なにを聞かせてくれるのかな?」
「いいですか? リンは……凰鈴音という少女は……」
呼吸を整え、酸素を肺に取り込む。
――いざ勝負!
「一夏と付き合うことなど、絶対にない!」
ぜったいに――ぜったいに――ぜったいに――
俺の声が室内で反響する。
束さんはポカンとした顔をしていた。
ここで畳み掛ける!
「一夏はモテます。ですが、凰鈴音がいるからこそ、これから先も彼女が出来ることがないのです!」
「ほ、ほう?」
束さんがなにやら唖然としてるが、今は放置で。
「彼女は一夏のことが好きです。それは束さんも気付いているでしょう。だからこそ、箒の為に必要な存在なのです!」
「へ、へー? そうなんだ?」
「そうなんです! 恋する乙女たるリンは、一夏に他の女が近付くのを邪魔するでしょう。そう……一夏を独占する為に!」
「で、でもそれじゃあいっくんと付き合ったり」
「ところがぎっちょん。それはありえないのです」
「なんでそう言い切れるの?」
まだ疑っているのか。
後は力尽くだな。
「束さん!」
「は、はい!」
束さんの肩を両手でがっしりと掴み、顔を近づける。
「俺が知ってる未来でも、一夏とリンは付き合ったりしてませんでした。ここまで言えば分かりますね?」
「え? 全然」
なんと鈍い。
それでも天災か!
「つまりです。リンは一夏に近付く女を排除する役目なのです。――自分の恋が実らないのも関わらず!!」
「だから“虫除け”?」
「です!」
「ふーむ」
よし! 束さんがなにやら考えだした。
なんとかなりそうだな。
俺が言ったことに嘘はない。
少なくても“俺が知っている未来で一夏とリンは友達止まり”ってのは本当の話だ。
その先の未来は知らないけどな!
俺は積極的に二人の仲を取り持つ気はないから、原作通りに進むのは間違いない。
そして、世界の法則で一夏はハーレムルートのはず。
将来、箒の想いも、リンの努力も実を結ぶだろう。
――ハーレムルートだよね? 俺、最後まで知らないからそこだけちょっと心配。
神たる原作者が余計なことしてなきゃいいけど……。
バトル系のラブコメラノベは、主人公が特定の彼女を作らないまま『俺達の戦いはこれからだ!』ってのがお約束だけど、“お約束を破る自分格好良い”ってなってないよね?
頼むぞ担当者。
俺の平穏の為にもハーレムでお願いします!
「ふむ。しー君の意見はよく分かりました」
「で、判決は?」
「無罪とします」
よっしゃあ! お仕置き回避成功!
「確かに虫除け役は大事だもんね。しー君の未来の話に嘘は感じなかったし……うん、実らない努力をする哀れな小娘に目くじらを立てることもないか」
随分と上から目線ですね。
一夏が複数の女の子と付き合う事になったら、束さんはどんな顔するかな?
……ハーレムの維持は主人公の仕事。
なので、束さんの怒りを鎮めるのは一夏の仕事だ。
そこまで面倒を見る必要はないか。
「ところでしー君」
「なんです?」
「いっくんとメス猫の間柄は理解しました。でもね、しー君もだいぶメス猫を気に入ってる様に見えるけど……」
「ん? 気に入ってますよ? 普通に可愛いし」
「へ~」
なんで俺の太ももつねってるの?
笑顔が怖い。
ほら、笑って笑って。
「しー君はやっぱりロリコンなんだね」
「だからロリじゃねーよ。普通に可愛いと言ってるだけです」
「ふんだ」
束さんがそっぽを向く。
俺の太ももはつねったままだけど……。
もしかして俺にまで妬いてくれてるの?
なんというか、嬉しいようで嬉しくないな。
「束さん、さっきも言いましたが、大事な事なのでもう一度言います」
「うむ?」
「小学生相手に嫉妬するなよ恥ずかしい」
自分以外の女を見るな的な嫉妬ならともかく、友達ってだけで妬かれても対応に困るよね。
さすがに束さんに気を使って友達辞めるとか、そんな選択肢はないし。
って、あれ? 束さん、なんで俺の脚掴んでるの? プロレス? いやだなー俺と束さんが力勝負したって――え? 頭をガードしろ? ジャイアントスイング? 室内は危険だからダメだす。へ? 障害物はないから安心? そりゃそうだけど――ってまわってるぅぅぅぅ!!手離すなよ! 離したら戦争だぞ――いやぁぁぁぁぁ!!??
この後めちゃくちゃプロレスごっこ(ガチ)をした。
◇◇ ◇◇
【吾輩は猫である(名前はデ・ダナン)】
真上から見れば西洋の両刃剣の様な形をしているが、ヒレの様な部位があるため、水中を進む姿はまるで首長竜にも見える潜水艦。
全長218メートルという大きさがあり、乗組員が束さん一人であるため、通路や1つ1つの部屋は大きい。
艦は3ブロックに分かれていて、ブロックごとに特色が有る。
船首――立ち入り禁止区域。人にお見せできないものが多々あるらしい。束印のウイルスや束さんが手を加えた危険生物などが保管され、それら関係の実験設備があるとか。ついでに拷問室も。
中央――機械関係の施設が集中している。ISの部品制作や、束さんの趣味工作の場だ。
船尾――居住区。寝室や台所、お風呂場などがある。ちなみにISの洗浄場兼などではなく普通のお風呂でした。空き部屋多数。
先程まで居た場所は、居住区の中心部である“居間”だ。
現在、俺はその居間の奥にある操舵室に移動中だ。
束さんに俵抱きされて……。
束さんは玉座の様な椅子に座っているが、移動は床が自動に動くため座りっぱなしだ。
俺の視界には流れる床しか見えない。
これ、なんて言うんだっけ? 昔新宿で見たことがある。
ロラーザロード? 違うか……これもエスカレーターでいいのかな?
全長218メートルのデ・ダナン。
船首から船尾まで簡単に移動出来る様、通路にそってこの道が敷いてある。
便利な世の中だよね。
「ねえ束さん」
「なーに?」
散々暴れてスッキリしたのか、束さんの口調は穏やかだ。
普段からお淑やかな女性であって欲しいと願うのは、男の我が儘かな?
「俺、そろそろ帰りたいんだけど」
「あれ? もう動けるの?」
「誰かさんのせいでまだ動けないよ!」
「だよね」
マットも敷いてない床に投げられ、関節を極められ、俺は散々な目に合った。
腕ひしぎ逆十字固めを極られたさいに、反撃の意味を込めてさり気なく手の甲を胸に当てたら、肩の関節外されるし、てか今も外れっぱなしだし。
いい加減俺を解放してくれ。
「到着っと。しー君、変に動いちゃダメだよ? ぽいっと」
「は? ――い゛ぃぃ!」
操舵室に到着し、束さんは俺を床に投げ飛ばした。
するとどうでしょう。
肩が落ちた衝撃で、激痛と共に見事にはまったのだ。
――天災って怖い。
「頼むから無茶苦茶するなよ」
肩を撫でながら周囲を見回す。
赤や青に光る電球。
低いモーター音を鳴らす機械。
――潜水艦の操舵室とか、下手になにか触るの怖くて動きづらいんだよな。
「で、なんで俺をここに連れてきたんです?」
ボコられるのはまだ分かる。
きっとメールをシカトされイラっとしたのだろう。
だけど、なぜ俺をこんな場所に連れてきたのか、そこが分からない。
「しー君」
「はい」
立ち位置的に、俺は束さんに見下ろされてる。
だからだろうか、なんかこう、逃げ出したい気持ちで一杯だ。
「今からダナンの実戦テストするから付き合ってよ」
「……実戦……テスト?」
「そうそう。ほら、ダナンは出来立てホヤホヤだからさ、理論上の性能はだけじゃなくて、ちゃんと実戦での性能もみないとダメじゃん?」
「……具体的になにするの?」
「自称世界の警察とドンパチ」
「帰る」
今ここにいたら絶対ヤバイ。
俺はダッシュで出口に向かった。
「ISコア、三番四番起動。一番から四番までの出力を通常モードから戦闘モードに移行。ダナンの全域を戦闘レベルに設定。隔壁閉鎖、これより私の許可なしに全てのドアが開くことはない」
ダッシュしたのはいいが、束さんのセリフを聞いて足が止まる。
もう逃げられないようだ。
デ・ダナンは、通常二つのISコアで動いている。
戦闘モードで四つ。
航空戦を視野に入れた決戦モードで六つを使う。
俺さ、一般人なんだけど?
帰してくださいお願いします。
そんな視線を束さんに向けてみる。
(ニマニマ)
めっちゃ笑ってやがる。
玉座に座り、足を組んで笑う姿はまさに女王様。
――濡れるッ!!
「しー君、今どんな気持ち?」
「逃げ出したい気持ちで一杯です」
「よしっ!」
どうしてガッツポーズするのかなぁ?
◇◇ ◇◇
――ミシガン、フロリダ、ジョージア、指定ポイントに到着
――これより作戦名【闇夜のウサギ狩り】を始める
――全ては世界の平穏の為に
次回はVS潜水艦
手本にフルメタ読もうかと思ったが、実家でした。
頑張るけどお粗末になるかも……。