粘土の麒麟さん事件により、『あきりん』の名がついた『如月あきら』だ。
多分、字にしたら『あ麒麟』なんだろうな。ちょっと泣きたくなった。
しかし麒麟さんのおかげで、俺の立場はグーンと急上昇!
幼稚園の中で、俺の存在は広まり始め、他の園児も俺のことに注目しだした。
いやー、周りの視線を独り占めだぜ!
だが、俺の野望は止まらない。俺の目的は一夏を追い落とすことだ。
まずは第一段階である、俺の地位の確立は大成功。
だからこそ、俺は第二段階に作戦を進めた。
さて、幼稚園で注目される行事とは何だ?それは『運動会』だ!
特に足の速い奴は注目度ナンバー1な上に、それだけで尊敬される。
そう、工作での目立ちっぷりに加えて、今度は身体能力で格を見せてやるというわけだ。
一夏の身体能力を甘く見てはいけない。
原作では色々と人間を辞めている千冬姉がいるし、
そして主人公故に、一夏の身体能力は、他の一般人からしても比較的優秀と言える。
それに、原作でのヒロインの横暴(言葉を濁す)を受けても頑丈だったし・・・。
あれ、ちょっとかわいそうに思えて・・・いや、惑わされるな!
俺は一夏を倒してヒロインを奪う。うん、それが目的だったし!
一夏に身体能力でも敵わないと思わせれば、一夏も無茶なことをしなくなる。
そして俺がカッコいいところをヒロインに見せる。
そうすれば、ヒロインらも一夏よりも俺に靡く。完璧だぜ!
というわけで、俺は運動会に向けて特訓を始めた。もちろん、一夏を誘ってだ。
こうしたところから、一夏に俺の凄さを刻み付けるというわけだ。
俺の誘いに、一夏は「がんばろうね!」と快く答えた。
くくく、その笑顔を真っ青にしてやるから覚悟しろよ!
特訓場所に選んだのは幼稚園に近い公園で、砂場やジャングルジムにブランコもある。
公園はそこまで狭くなく、かけっこの特訓には十分の広さである。
ここで俺と一夏は、運動会に向けての秘密の特訓をするというわけだ。
「オレはいちかにまけないからな!」
「ぼくだってまけないよ!」
俺と一夏は互いに笑いあいながら、来るべき運動会に向けて特訓を始めた。
まず、第一回目のかけっこの結果は一夏の勝ちで、両者の差は一人分。
くそ、流石主人公だぜ。だが、ここからが俺の逆転劇なんだよね!
二回目も三回目もそして四回目も一夏の勝ち。だが、その差は着実に狭まる。
そして五回目では、両者の差は埋まった。
一夏は、俺の力に驚いている。くくく、もっと怯えるがいい。
俺は少しずつ成長し、お前を追い越すことが出来るんだよ!
そして六回目。俺の予想では、ここで一夏を追い抜くことが出来る。
これでお前は俺に敗北するんだよ!顔を真っ青にしてやるぜ!
俺と一夏は、木の棒で引っ張った線をスタートにみたて、そこに並ぶ。
目指すはゴールに見立てた線。それを追い越してゴールとなる。
さて、俺と一夏はそれぞれ走る姿勢となり、そして・・・走り出す!
俺は腕を早く、そして大きく振る。これにより足も速くなるってテレビでやってた。
そして数回の練習による特典の効果で、俺の走る姿は洗礼される。
ふっ、一歩だが俺が前に出る。どうだ一夏、俺はお前を追い越したんだぜ!
そう思った瞬間、俺の両足は嫌な音を立て、俺はこけた。
問題です。まだ幼児故に成長途中で、骨もしっかりしてない体が、
スポーツ選手みたいな速度で走ったらどうなるでしょうか?
答え、反動がやばい。
俺は突然起きたことに訳が解らず、ただ痛む身体を必死で動かす。
あれ、動けない。あ、これ本当にヤバいかもしれない。
一夏は、突然の出来事に顔が真っ青である。
俺はなんとか動かせる口で、一夏に大急ぎで親を呼んでくるように頼んだ。
その後は、泣き続ける一夏に連れられた俺の親に救急車を呼んでもらい、俺は病院に運ばれた。
診断の結果は肉体疲労によるものらしい。
俺は両親に思いっきり怒られた。基本怒らないパパも怒った。
でも、その後に「良かった・・・」と抱きしめられた。ちょっと泣いた。
ちなみに一夏は、救急車に運ばれる俺を手を握り、
「大丈夫だから!」と、涙声で俺に言い続けた。
数日の入院中も、毎日俺の見舞いに来てくれて、
俺は気恥ずかしさに「別に大したことじゃない!」と言い続けた。
退院の際、女性看護師にニヤニヤ顔をされたのが辛かったよ。