また不定期になってしまうことを、先に謝罪します。
「いっちにっ!いっちにっ!」
俺の動きに合わせて、軋む音が聞こえる。
「いっちにっ!いっちにっ!」
俺の動きに合わせて、砂煙が舞う。
「いっちにっ!いっちにっ!」
俺の動きに合わせて、それが俺に呼応する気がした。
「あー、つっかれたぁー!」
俺は滝のような汗をかきながら、その場で大の字になった。
地面から見た景色は、真っ青な空と白い雲、うむ、快晴快晴!
そんなことを思ってはみたものの、俺の身体は疲労に伏していた。
やっぱ、実際にやってみないとわかんねぇな。
俺は自分の状態を省みて思い知らされる。
小説だとなんか軽くやれそうだったけど、やっぱ現実は違うぜ。
思ってたよりもきっつい。
あー、それにしても地面がひんやりして・・・・・・ねぇじゃねぇか!
あっつ!焼けちゃう!こんがり焼けてステーキになっちゃうだろうが!
俺は慌てて身体を起こすと、一目散に休憩室へと転がり込んだ。
よっす、『如月あきら』だぜ。今、何してたかって?
ISに乗ってたんだよ、きたるセシリア・オルコットさんとの試合に向けてな。
肉体というか、体力をつけるための特訓は、
俺と一夏、それに飛び入りの箒ちゃんと共に、毎朝のランニングなどで頑張ってるわけだけどな。
やっぱ、それだけじゃ駄目だと思ったんだよ。
ちなみに、山田先生に頼み込んで、俺と一夏の訓練機を確保して貰った。
決定戦までは、データ収集も兼ねて、俺と一夏の専用機になってもらった。
訓練機は、搭乗者に合わせるために、毎回データをリセットされている。
試合に向けてデータをとったのにリセットされてありません、なんてのは流石に酷いからな。
そう、そもそもIS、インフィニット・ストラトスで試合をするのに、
ISに触ってない時点でおかしいじゃん!という訳だ。
一夏にも言ったが、道具に触れてないで試合に出ようなんてのは、
テスト勉強をせずにテストで満点を取ろうとすることだ。
はっきり言って無理。
それに、これはテストじゃなくて試合、相手のいる戦いなんだから、更に無謀が追加される。
その上、相手は性格が螺子曲がっているが、実力は代表候補、うん、無理ゲー。
と、言うわけで、少なくとも基盤だけは整えたいと思い、俺は山田先生の許可を貰い、
ISの訓練機を借りて、特訓しているわけだ。
ちなみに、さっきのはISに乗って、アリーナを走ってた。
あ、俺のライバルは、箒ちゃんに引っ張られて剣道場に引き摺られていったよ。
「一夏!肉体面だけでは駄目だ!精神面も鍛える必要がある!」とかなんとか言って。
まぁ、精神統一とかは武道でもやってることだから、強ち間違いじゃないんだけどさ。
「終わったらこっち(訓練場)に来いよー。来なかったら迎えに行くからなー」
「いや止めてくれよ!俺はあきらと訓練す・・・って、箒!待った!襟が千切れるから!」
そんな感じ。
今頃一夏の奴、箒ちゃんと剣道をしてるんだろうなぁ・・・。
取りあえず、彼奴のために飲み物でも買っといてやるか。
そう思いながら、俺は休憩室で涼んでいると、扉が開いた。おう、噂をすればって奴か。
「おい一夏、これから飲み物買って来るけど、何を飲・・・」
「お生憎様、ワタクシですわ」
その声に、俺は目を細めて振り返った。
そこにいたのは、金髪の縦ロールが特徴的な、お嬢様が立っていたのだった。
「で、何しに来たんですか、セシリア・オルコットさん?あ、もしかして視察ですか?」
「いいえ、個人的な事でお話をしたかっただけですわ。
山田先生にお伺いしたところ、ここで訓練をしているとお聞きしまして」
「そうですか。それで俺に何を訊きにわざわざここまで?」
俺は目を更に細めた。
要するに、視察する必要もないということですか。
解ってはいたけれど、その事実に、右手の拳に力が籠る。
その姿を知ってか知らずか、セシリア・オルコットは俺の目を見ながら口を開いた。
「なぜ、織斑一夏を助けるのですか?」
「・・・はぁ?」
俺はその言葉に口を開けてしまった。
セシリア・オルコットの言っている意味が分からない。
俺が一夏を助けている?違うな、俺は一夏を助けてなんかしていない。
「あの代表戦が決まった後、ワタクシは織斑一夏とあなたを見ていました。
ええ、不思議なほどにあなたは織斑一夏と共にいます。
それこそ、特訓と称して織斑一夏を鍛えているではありませんか」
え、ずっと見ていたんですか。それってスト・・・
「今、とても失礼なことを考えませんでしたか?」
セシリア・オルコットの視線が痛いです。
取りあえず、仕切り直しとして咳払いを一つ。
「それのどこがおかしいんだよ」
セシリアは溜息を吐き、俺を見た。
「ワタクシから見て、あなたの実力は素人ながらも、なかなかなものと見ました。
まぁ、ワタクシには遠く及びませんが」
「それ、褒めているんですか?」
「もちろんです」
セシリアの顔は、まるで子供を諭す教師のような表情をしている。
その表情が少し歪む。
「ですが、織斑一夏は違います。
多少なりと素質はあるようですが、あなたと比較すれば差は見えます。
ですから、ワタクシは不思議なのです。なぜ、あなたは織斑一夏を助けるのか」
「そんなのは俺の勝手だろ」
なんだろ、セシリアの言葉に、俺の何かがピリピリと感じる。
なんだろ、言葉に出来ねぇ。
「それこそワタクシには理解できませんわ。そもそも織斑一夏は・・・」
「おい」
駄目だ、なんかムカついた。
「お前に・・・一夏の何が解る?」
いかん、すっげぇ腹が立った。
「!?」
セシリアが驚く顔をするが、構うもんか。
もう取り繕う気もない。
「確かにアンタの言う通りかもな。あいつは見た目がイケメンなだけかもしれねぇ。
何も知らないアンタからすれば、わかんねぇだろうな」
俺はセシリアをまっすぐ見つめる。
「でもな、俺は知ってる。あいつはすげぇ奴だってな。
それこそ、料理・洗濯・炊事なんて出来て、お嫁さん候補に挙がるんだぜ?
勉強だって、基礎さえ覚えりゃ普通に出来る。剣道をやってたから体力だってあるんだよ。
俺が教えたし、鍛えもしたからな。
素人?は!誰だって初めは素人だろ!素質があれば十分だ。一夏は絶対にすげぇ奴になる!
それにな」
俺は笑う。
「あいつは俺が認めたライバルだ。それで十分なんだよ」
「」
「うん?どうしたセシリア・オルコットさん?」
俺の呼びかけに、セシリアははっとして我を取り戻したのか、俺を見据えてと笑った。
「良いでしょう。そこまで言うのであれば、ワタクシもお相手しなければなりませんね。
試合、楽しみですわ!」
「おう、全力で立ち向かってやるからな!」
俺の言葉を背に、セシリアは扉から出て行った。
あれ、もしかして俺、すっごい拙いこと言ったのか?
俺は自分の発言を思い出そうとするが、さっぱり出てこない。
うーん?うーん?と頭を捻っていると、また扉が開く。
「悪い、あきら。箒と試合してたら時間を忘れて・・・ってどうしたんだよ?」
見ると、一夏が息吐きながら入ってきた。
「あ、なんでもねぇよ。それより剣道はどうだったよ?」
「あー、やっぱ久々にやると感覚がズレててさ、箒にボロボロ」
どうやら俺の予感は的中したみたいだ。
いや、加減してあげてよ箒ちゃん・・・。
「おいおい、大丈夫か?試合前に怪我で棄権しました、なんて笑えねぇぞ」
「まぁ、それは大丈夫・・・じゃないかな。取りあえず、後で箒と話すし。
それで、お前の方はどうんだよ?」
俺は一夏に、先ほどの訓練で思ったことを話す。
「やっぱ思ってたよりもキツイ。こりゃ、貸出時間ぎりぎりまでやらなきゃ駄目だわ」
「マジか。やっぱISって大変なんだな」
「阿呆、それに乗って俺たちは戦うんだから、バカな事言ってんじゃねぇ。
さっさと訓練を始めるぞ・・・とその前に、飲み物買ってくるから。何か飲むか?」
「ありがとな。じゃあ、スポーツドリンクがあればそれで。お金は後で渡すわ」
「おう、取りあえず準備しておけよ」
俺は扉から休憩室を出て、自販機へと足を運ぶ。
そして、一夏のお望みのスポーツドリンクとミネラルウォーターを購入。
さて、飲んだらもういっちょ頑張りますか!
そういって俺は、自分に活を入れ、休憩室へと走るのであった。
「よっしゃぁいちかぁぁぁぁ!これからISを来てアリーナを走り回るぞぉぉぉ!」
「サーイエッサー!」
「取りあえずエネルギー消費の計算するぞぉぉぉぉ!今から俺がお前を殴る!」
「ちょっと待て!いきなり何を言いだすんだよおまえは!」
「あきらぁ!一体何をしているんだぁぁぁぁ!?」
「山田先生、俺たちの特訓を見て貰ってもいいですか?」
「よろしくお願いします!」
「え?え、ええ!私は先生ですからね!生徒の頼みはしっかりと聞いてあげませんと!」
「大分データが溜まって来たな。でもまだまだ行くぞ一夏!」
「おう!」
そんなこんなで、俺は一夏と共に訓練に明け暮れた。
それがたとえ付け焼刃だとしてもだ。
そして時間は過ぎていき、クラス代表選の日がやって来たのだった。