幼稚園入学で、織斑一夏にカッコよく宣戦布告した『如月あきら』だぜ。
俺の宣戦布告に、一夏はビビって声も出なかった。
これで俺の素晴らしい未来への一歩を踏みしめたぜ。
だが、これで満足する俺じゃない。
もっともっと差をつけて、一夏に俺の凄さを思い知らせてやる!
というわけで、今は幼稚園の工作だ。
俺を含めた幼稚園児は、粘土を使って好きなものを作っている。
これは子供の創造力を鍛え上げることも出来るし、物を作る楽しさにも繋がる。
うん、こういうのって楽しいよね!俺、こういうのほんとに大好き!
だが、俺にとってそれは些細な問題でしかない。
俺にとって一番重要なのは、何を作るのかという『センス』なのだ!
そう!園児にとっては『なにか解らないがとてつもないものを作る奴』という存在、
これが目立つ要因だ!
故に俺の目的は、俺のセンスで織斑一夏に格の違い見せてやるのだ!
だからこそ、俺は手始めに粘土をコネコネしながら、隣の一夏に目を配る。
一夏はコネコネしながら、象さんの写真を見ている。
ふむ、どうやら一夏は象さんを作るつもりだな。
「いちかは、ぞうさんをつくるの?」
「うん。ぞうさんがすきだから」
「そうなの?ぜったいにまけないからな!」
「うん!」
ならば俺はそれ対抗して、首の長いキリンさんを作ることにする。
象さんが好きです、でもキリンさんの方がもーっと好きです。
とりあえず、動物図鑑のキリンさんがあるページを開き、コネコネと作る。
まず粘土の塊から、粘土を大きめに千切って手のひらで丸め、四本足を作って立てるようにする。
そして粘土の尻尾をつけて胴体の完成。
次に、残りの粘土二つに分け、大きい方の粘土を細長くし、先端を出っ張るように形作る。
これで首と頭が出来た。
少ない方を長く伸ばし、角として頭の部分に着ける。
それを胴体の方にくっ付ければ、デフォルメなキリンの形になる。
「あら、あきらちゃんはキリンさんを作っているのね」
振り向くと、保育士の先生が俺の粘土細工を見ていた。
ふふん、人に注目されるというのは嬉しいのだが、少しこそばゆい。
だが、俺にとってこれは第一段階であり、まだ完成ではない。
そう、ここからが俺の本領発揮となる。
言い忘れていたが。俺が神様から貰った特典は『物事を要領良く出来るようになる』だ。
つまり、物事に取り組めば取り組むほど、俺の技術は格段に上がる。
一見地味なスキルだが、この「物事」には限りが無い。それこそ、範囲は無限に広がる。
くくく、思い知るがいい織斑一夏。進化する俺の技術に、お前は慄くのだ!
だからこそ、今作ったキリンさんはまだ未完成だ。
これはまだ大まかな形でしかなく、完成には程遠い。
より素晴らしいキリンさんを作るために、俺は作ったキリンさんを塊に戻す。
「え、あきらちゃん何してるの?」
俺の行動に驚いた先生が声を上げる。だから俺言ってやった。
「みててねせんせい。ほんとうのきりんさんをおみせするから」
そうして俺は、作っては戻し、作っては戻しを繰り返すごと十数回。
コネ、練り、ヘラで削り、格部品を慎重にくっ付け、
いつの間にか俺は熱中し、気がつけば作品を作り上げた。
俺は自分の作品を見て満足した。
気付けば、後ろには先生の他に、同じ組の園児たちも作品を見ていた。
「それなに?」
俺の作品が気になったのか、隣の一夏が声をかけてきた。
ふふふ、お前も俺の作品に魅了されたか。俺は胸を沿って言った。
「キリンさん」
どうだ一夏!お前の象さんに対抗してキリンさんだぞ!
「でも、くびがながくない」
「え?」
何を言っているんだ。キリンさんは首がな・・・が・・・く・・・?
俺は自分の作品を見て言葉を失った。
俺はいつの間にか、『キリンさん』ではなく、『麒麟さん』を作っていたのだ。
うん、園児が聖獣の『麒麟さん』なんて知るわけないよね!
というか、よく粘土があったな!俺はどうやって作ったか憶えてないわ!
他の園児を見ると、誰もかれもが「ナニコレ?」な顔である。
ああー!集中しすぎてトンデモない物作ったー!
俺は、恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になるのを感じた。
この一件で、確かに俺は『なにか解らないがとんでもないものを作る奴』となった。
でも、俺の心は恥ずかしさでいっぱいです。泣きたい。
ちなみ、織斑一夏の象さんは可愛かったです。