「じゃあ、咲を家まで送ってくる」
「はい。気を付けてくださいね」
「お邪魔しました」
玄関でモモの見送りを受け、俺は咲の家に向かっていた。
二人は思ったより馬が合ったらしく、ずっと仲良くしていた。隣同士で座っていたし、ニコニコ笑ってたし。
そう考えると連れてきたのはやっぱり正解だったな。
名采配、俺!
「……なんでドヤ顔してるの、京ちゃん?」
「え? 顔に出てた?」
「うん。もう鼻高々って感じで」
「そうか……。ちょっと考え事をしていてな」
「……彼女さんのこと?」
「なっ」
「あっ、やっぱり。今も手を振ってくれているもんね」
「えっ、マジで」
咲に言われて振り返ると確かに玄関でモモが大きく手を振っていた。
浮かべる微笑。その姿は良妻。
……あいつ、本当に可愛さに磨きがかかったよなぁ……。
「あー、やっぱり見惚れてる」
「……別にいいだろ? 俺の彼女なんだから」
「……それはそうだけど……」
むーっと頬を膨らませた咲。どうやらお怒りのようだ。
でも、理由がわからん。あれか? 俺がのろけたからか?
モモは写真には写るのでそれを証拠に周囲に自慢しては反発を買っているのは確かだしな。でも、あいつらはモモが視れないという優越感。
ふふっ、モモは俺だけのものだ。
「……あれ? そういえばなんで咲はモモの姿が見えたんだ?」
「なんでって……あー、多分、京ちゃんが紹介してくれたからだと思うよ。注意が東横さんに集中したから認識できたんじゃないかな」
「なるほど。そうすればモモももっと友達ができるわけだ。いいこと聞いたな」
「…………京ちゃんは東横さんのことばっかりだよね」
「どうしたんだよ、咲」
「……もっと周りに目を向けてみるべきだよ」
「周り?」
……本当にどういうことだ?
これでも結構気は使って生きている。だから、咲とも仲良くできたし、モモとも出会えた。
ハンドボール部でもキャプテンにその性格を買われて次期部長に指名してもらって……うん。
「俺ほど周囲に目を配っている奴はいないと思うぜ!」
「…………はぁ」
決め顔で言ったらため息を吐かれた。
「なんで!?」
「がっかりしたからだよ。そうじゃなくてさ」
咲はそこまで言って何かを言い淀む。
口をパクパクとさせてはうつむいた。
「咲? 何か言いたいことがあったら言えよ?」
「……うん。その、ね? 東横さんとのことなんだけど」
「モモか?」
「うん。……その京ちゃんはなんとも思わないの?」
「なにが?」
純粋に質問の意図がわからないので、聞き返す。
そんな俺の態度を見てどう思ったのかは知らないが、咲は『なんでもない』と言って会話を終わらせる。
無言の状態が続き、気が付けば咲の家の前についていた。
「じゃあ、ありがとう。京ちゃん」
「おう、気にすんなよ。俺もモモに言われるまで気づかなかったし……」
「……京ちゃんの世界は東横さん中心で回っているんだね」
「まぁ、彼女だしな。それにあいつには俺が居てやらないとさ」
「……そっか。……でも、京ちゃんに覚えておいてほしいことがあるの」
そう言うと咲の顔が急に近くなって、頬に柔らかい感触を感じた。
……え、あっと、これは……。
混乱する思考。
ただ一つだけはっきりとしているのは目の前の少女から向けられた感情。
「あなたには東横さん以外にもあなたのことが好きな女の子がいるってこと」
「…………咲」
「じゃあね、京ちゃん。また明日」
短くつぶやくと足早に彼女は家の中へと入っていく。
……どうしてだろう。唇が触れた箇所を手でなぞり、考える。
……戸惑いとか、嬉しさよりも。
立ち尽くす俺にはモモへの様々な感情だけが溢れ出ていた。
まとめればよかったかも……。
あと、三人称で書けばよかったですね。反省。