ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-   作:結城ソラ

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Build.09:激闘・強調者と三傑Ⅱ ~切札閃煌~

 ドカン、と激しい衝撃がフリーデンを揺らす。その衝撃は二機のガンプラが武器を打ち合わせたことに起因する。

 片や、突撃馬鹿(カザマ)双子の影響を受けまくりドッズランサーによる突撃戦法を好むようになったアキヅキ・カイチとダークハウンド。

 片や、納刀した刀を抜かずに大鎌を振るう幾つもの武器に精通した武術を収めるクスノキ・メグルとレッドフレーム・二刃(フタバ)

 ドッズランサーと大鎌。高速で飛来したカイチのスピードと重力を乗せた一撃を的確に受け止め二刃は勢いを足元に逃がす。

 衝撃が海へと伝わりそれは世界を伝播する波へと変わる。

 武器を交え動作を止めた黒と赤のガンダムに計四基の板状の武器――ブラスタービットが飛来しその銃口に粒子を集めビームを放つ。

 二刃のみを狙ったビームだったが実際にそれを受け止めたのは射線に瞬間的に割り込んできたシュバリエとD・Arneだ。GNフィールドとナノラミネートがビームを受け止め拡散する。

 すぐさまミコトはゲシュテルンの付近に待機させていた残り二基のセイバービットを二刃に差し向けんとするが目を離した瞬間を逃さずにシュヴァリエが一瞬だけトランザムを纏い加速、懐に潜り込みGNソードを振るう。

 紅蓮の騎士の剣戟を防ごうとビットを操作するが、それよりも早くオリジンの魔弾がシュバリエを撃ち抜く。何かに大きく殴り飛ばされたかのように跳ねるシュバリエに向けてセイバービットを飛ばす。

 体制を崩したシュバリエにビットを避ける術は無い。それを察知して飛び出したのは二刃だった。ダークハウンドの勢いを受け流し、手を胸に添えて背後へと飛ばした。その結果を見ることなく跳んだ二刃を感知したシュバリエは、粒子制御により勢いを強め自身とセイバービットとの間の空間に二刃が入り込む余地を作り出す。

 果たしてその作り出された空間に入り込んだ二刃は大鎌の一閃を以ってセイバービットを刈り取る。それより一瞬早くミコトはセイバービットに帰還を命令していたために撃墜を免れ、コマンダントシルエットへとセイバービットが戻る。

 ビットの無事を確認したところでミコトは舌打ちをした。

 

「ちっ、やっぱ向いてねぇ!」

 

 悪態を吐き散らす。そもそもコマンダントにビットを装備する気等無く、店長から試作のシステムを渡され渋々組み込んだだけなのだ。悪態はとにかく増える。

 のだが、

 

『がっら空きぃ!』

「ブラスター、撃て(ファイア)!」

『うわわ!?』

 

 隙と感じた瞬間を逃さずゲシュテルンに突っ込んできたD・Arneをブラスターの砲撃が迎撃する。咄嗟に腕をクロスして防御体制をD・Arneが固めビームの嵐を耐え抜く。

 

『ヘタクソだと思ったけどやっぱ上手い!?』

「ヘタクソだよ。チート使ってるようやくなんとかなる程度はな」

 

 どことなく諦め気味にミコトはボヤく。

 オールレンジ武器は便利且つ強力な武装ではあるがその操作難易度ははガンプラバトルでも特に高く、両手でそれぞれペンを持って別々の文字を書くようなものだ。

 さて、そんなオールレンジ攻撃だが最近“ガンプラ学園”のビルドファイターが思考制御を行っているという噂が流れ、ある全国大会の地区予選でも使用されたなんて話がある。

 眉唾物の噂だが、その情報はガンプラバトルへの革命でもありファイター達がニュータイプを本気で夢見てオールレンジ攻撃を学び始めるキッカケを作り出した。

 尤もミコト曰く、

 

「そういった特殊能力じみた技はそれこそ主人公やライバルが得るべきものだろ。俺には欠片も縁なんて無ぇよ」

 

 と愚痴り、早々に諦めたタイプだった。そんな中、店長から提供されたのが“音声認識システム”のテストモデルだ。

 このシステムは“意思”に反応するプラフスキー粒子に“声”を媒介に叩き付けることであらかじめ設定しておいたプログラムを起動させる。

 今回の場合は“起きろ(アクティブ)”“撃て(ファイア)”“行け(ゴー)”“戻れ(バック)”“散れ(フォール)”の五つだ。

 ビットの操作をある程度オート化した上で手を動かさにオート以外の行動を起こせるこの機能はバトルにおいて画期的とも言える。少なくとも自他ともに認める「ヘタクソ」のミコトでもデルタエースに通用しているのは完全にこのシステムのおかげだった。

 未だ世間に広まっていないヤジマ商事の試験システムを運用できるのも公式サイドと言えるガンプラカフェの専属チームの特権とも言える。だからこそ「チート」でありミコトが嫌々な理由なのだが。

 

「助けられちまったなぁ・・・」

 

 舌打ちではなく珍しく苦笑を浮かべた。なんだかんだで未知の技術を使うことの好奇心等はまるで抑えられないようである。

 

「ま、こっちのが得意なんだよなッ!」

『へっ? ってわわぁ!?』

 

 四基のブラスタービットをコマンダントへと戻すとそのままビームを放つ。勢いが付いたゲシュテルンはそのままD・Arneへとパルマフィオキーナを突き出す。

 完全にD・Arneを捉えたと思った攻撃は何とマト○クス避けを披露、さらにはグルングルンと連続バク転を決め距離を取る。

 

『さっすがガンダムフレームの可動! なんともないぜー!』

「いろいろ規格外だなこんちきしょう!」

『うーん、しっかし正面からぶつかるのはダメかな! じゃあ、とっておき・・・出しちゃおうかなぁ!』

『・・・ってちょっと待てヒノクニ!? こんな乱戦状態でかっ!?』

『マイちゃん、ストップ! 流石にマズイよ!?』

『二人とも、私の後ろに下がっといてねー!』

 

 焦ったようにシュバリエと二刃がゲシュテルンに向けてダークハウンドを蹴飛ばし離脱する。

 それを視認したマイはD・Arneの背負う巨大な砲身――サテライトキャノンを構えリフレクターを展開する。

 

「いぃっ!? ヤバイ感じ!?」

「サテライトならチャージ時間がかかる! 目の前で構えるもんじゃねぇ!」

『そーれーはー、どうかなぁ!?』

 

 周辺の光をキャノンが吸い込み、内部で光が膨れ上がると砲門から光が漏れ出す。

 

『これがジョーカーだ!』

 

 マイの言葉をトリガーに、キャノンからマイクロウェーブを待たずに砲撃が放たれた。光の爆流が自分達へと迫ることを確認して一瞬思考を止めた後カイチが叫ぶ。

 

「ってそれチャージ時間とか結構要るんじゃねーのかよっ!?」

『ふっふっふ、D・Arneは粒子制御系統に特化した構築をしているのさ! さっき撃ったサテライトキャノンは65%! つまり今は残りの35%ってこと!』

 

 そもそもD・Arneはビーム兵装をまるで使わない『鉄血のオルフェンズ』のMSを素体にしたガンプラだ。当然ビームを操作する系統技術を持たないのだがマイは改めてビームを制御するシステムを構築しそれに特化させたガンプラを完成させた。

 この結果サテライトキャノンのエネルギーを分割して放つことが可能になり、開幕当たろうが当たるまいが構わないのでとりあえずサテライトキャノンぶっぱという戦法をデルタエースに確立させていた。

 

「ちょ、これどーすんだよっ!?」

「そっから動くなアキヅキ!」

『おぉ、庇って一人犠牲になる感じっ!?』

「こいつのために犠牲になるかよっ!」

 

 ミコトは叫びと共にコンソールを制御し指示を送る。

 途端にコマンダントシルエットのウイングバインダーが展開し三本一基のベースパーツ二基がゲシュテルンの前に突き出され、三角形を描くように広がる。

 巨大な波打つ蒼壁が現れ、光の爆流を受け止めた。

 

『んなっ。ウソでしょっ!?』

「粒子制御はこっちも・・・コマンダント(指揮官)の得意分野なんだよっ!」

 

 これは実はミコトにとっては嬉しい誤算であった。器用貧乏を命題に作り上げたコマンダントだが音声認識によるビットを装備したことにより副次的に粒子制御能力が高まっていたのだ。

 この点に着目し飛行制御のウイングに粒子を操作し展開するシステムを構築した。それがこの大量の粒子を前面に展開することで大出力のビームを防ぐフィールド――プラフスキー・フィールド発生システムだ。

 約十秒間のぶつかり合いの後、サテライトキャノンに貯蔵された粒子を吐き出しきったのかD・Arneの砲撃が止まり、それを合図にフィールドが蒼い煌めきを残して砕け散る。

 

「出力50%なら危なかったかも、な」

『うっそぉ・・・』

『マイちゃんのアレを防ぐなんて・・・』

「そしてこっから俺の出番だぜ!」

 

 ストライダーモードへと変形したダークハウンドが何度目かの突撃を行う。その突撃をいなすのはD・Arneの前に躍り出たシュバリエだ。勢いを乗せたランスを受け流すがさらに変形したダークハウンドがサーベルを振り抜きシュバリエもGNビームサーベルで迎え撃つ。

 だが不意に、朱く光るビーム刃がD・Arneの展開したままリフレクターが切断された。

 

『いっ!?』

『マイちゃん、動かないで!』

 

 二刃が大鎌をブーメランのように投げつける。豪快な風切り音を響かせD・Arneに迫る大鎌を何かが弾く。ダメージを受けたのかサーベルの持ち主――姿を消していたGN-X・オリジンが身に纏う外套の一部を切り裂かれながら現れる。

 

「勘が鋭いわね」

『スナイパーが後ろから斬りかかるってどーなの!?』

「あら、狙撃だけが取り柄と思われてたなんて心外ね」

『ちぃ、押されてきてるな・・・仕方ない、な。ヒノクニ、プランK・M・Gだ』

『了解、やるしかないね!』

「まだ何かあんのかよ!?」

『ふふん、まぁキミには分からないだろうけど私達にはスーパー作戦の数々があるのだよダークハウンドのアキヅキクン!』

「ヤベェ俺もしかして甘く見られてね!?」

「何を今更」

『え、待って二人とも私もそのプラン知らな』

『よし、じゃあ頼んだよメグル!』

『お前なら安心できる。というわけでガンバレ!』

 

 シュバリエが二刃のフライトユニットに触れる。一瞬トランザムを解き放つと不意に“フライトユニットがトランザム特有の輝き”を放つ。

 さながら破裂した爆弾の如き勢いを持ちフライトユニットがロケット噴射する。爆発的推力で真正面へと向かった二刃はそのまま前に居たゲシュテルンに衝突――して止まることなく、そのまま共々吹っ飛んでいく。

 

『ちょ、ウソ、え!? 部長にマイちゃんこれいったいいいいいい!?』

「なんっで巻き込まれてんだ俺ぇぇぇ!?」

「ヤナミ、ワイヤーに捕ま、あムリヤッパハナシテェェェェ!?」

 

 赤い粒子の軌跡を残し、二機とゲシュテルンにワイヤーアンカーを捕まれたダークハウンドが水平線の果てまで消えて行く。唖然と見送ったアマネに対してマイとアリマは笑顔でサムズアップした。

 

『プランK・M・G・・・クスノキ・メグル・ガンパレ』

『トランザムの粒子を流し込んで疑似トランザムを発生させフライトユニットの出力を大幅アップ。敵一人とクスノキを纏めて今の戦場から大きく離すことでタイマン性能が高いクスノキに頑張って討ち取ってもらう・・・完璧なプランだなこれが』

『一人付いて行っちゃったけどワイヤーなら途中で切れそうだったしまぁ結果オーライってことだね!』

「あなたたち人間の心とか持ってる?」

 

 呆れ気味に呟くがアマネは冷や汗が流れたことを感じる。内容はどうあれ、完全に目の前に二人の敵を残した状態で孤立してしまったのだから。

 

『さて、さっきクスノキの大鎌に切り裂かれてステルスが乱れたところを見ると・・・“魔弾の射手(ファントム・シューター)”の秘密はその外套にあるということだな』

 

 スッとアリマは目を細めオリジンを見据える。

 

『ならばその秘密を崩すためにもその外套、剥ぎ取らせてもらう』

『ちょっと悪役っぽいけど、ごめんねー。これ真剣勝負なのよね』

 

 シュバリエは剣の切っ先をオリジンに突き付け、D・Arneは二刃の残した大鎌を手に取る。

 冷や汗を感じながらもアマネは不敵な態度を崩さず、一言だけ言葉を返してみせた。

 

「女の子を剥ぎ取るだなんて、やらしーんだ」

 

 

☆★☆

 

 

 水柱が上がる。対艦ライフルの能力を存分に発揮し足場兼オブジェクトである戦艦達を轟沈させていく。

 そんな暴力的な弾丸の嵐を二刃は避け、斬り、突き進む。

 ゲシュテルンと二刃の戦いは直前まで戦闘していたエリアから大きく離れた位置で展開していた。直接注入された粒子が切れたために改めて戦闘となったわけだが正直ここまでしっかり戦闘ができるまでにモチベーションを復活させたミコトとメグルの苦労と気まずさは想像に難くない。

 ちなみにカイチは吹き飛ばされたかなり早い段階でワイヤーが切れて海にまた沈んでいった。

 

戻れ(バック)撃て(ファイア)!」

 

 ブラスタービットに号令を出し整列、斉射。真っ直ぐ突っ込んでくる二刃のルートを潰し動きを鈍らせるとそのまま戦艦の影を利用しその場を逃げ出す。

 

『させません』

「ちょっ!?」

 

 最早神速としか言い様の無い速度でサムライソードを抜刀した二刃は何の躊躇いも無くそれを投げ付ける。狙い違わず飛来した刃はゲシュテルンの右足を掠めて戦艦――ハーフビーク級の艦首席のあるエリアへと突き刺さった。

 残念ながらクジャン公は乗っていなかったらしく見事に貫通イヤそうではなく。

 

「反応速度が馬鹿げてやがる・・・強化人間か超兵か、よっ!?」

 

 イラつくのを隠しもせずに悪態に変換した瞬間、サムライソードに括り付けられていた閃光弾が強烈な光と共に弾け、ミコトの視界を奪う。

 

「流行ってんのかこれっ!?」

 

 だがいつぞやのジ・Oとの戦いのおかげで対処法は身に付いている。咄嗟にメインカメラをサブカメラに移行し逃げを続行しようとする。

 が、それを許す程メグルも甘くはない。投擲直後に降り立った白い扇形の艦――ピースミリオンを足場に力を込める。

 ズガン、という鈍く重たい轟音と共に足場を“踏み砕き”、文字通りの一足跳びでゲシュテルンの懐に潜り込む。外から見ていた店長らには瞬間移動のようにさえ見えただろう。

 

「デタラメにも程があるやろうがっ!?」

 

 ミコトが反応できたのはたまたまサブカメラに切り替えた瞬間に迫り来る二刃が映り込んでいたからだ。必死にビームサーベルを引き抜き二刃の軌道上に突き出し迎撃を狙う。

 二刃は首を少しだけ曲げると、必殺を狙った光刃は二刃を素通りした。

 納刀されていたガーベラストレートの刃が鞘から少しだけ覗き、ギラリと輝いた。

 

『トった・・・!』

「なんて言わせるか!」

 

 ゲシュテルンのビームマシンガンが放たれ二刃を穿つ。

 

『ッ・・・ですが、甘く、そして浅い!』

 

 衝撃を受け軌道を変えた二刃だがダメージは微々たるものと言わんがばかりに崩した態勢を整えることなく無理矢理ガーベラ・ストレートを抜刀する。

 ――ミコトの目に捉えられたのは、刃が通りすぎた後の銀の輝閃のみ。気付けばアラートが鳴り響きコンソールにはライフルを持った右腕が失われたことを示す表示が現れていた。

 斬り飛ばされたのだ。落ちていく右腕はライフルの先端下に向けて先程二刃が踏み砕いたピースミリオンに突き刺さった。

 理解が追い付かないミコトをさらに衝撃が襲う。打撃。二刃はガーベラ・ストレートを納刀し、その流れで肘鉄をゲシュテルンへと打ち込む。

 続けてその身をくの字に曲げたゲシュテルンの顎を目掛けて掌底を叩き込むとそのまま止まらず膝による追撃。完全に力が抜けたところで追い討ちに一本背負いの要領で残った左腕を掴んで投げ飛ばす。

 

「呆れる程有効なコンバットだ・・・」

「流石、クスノキの娘だ。実用面に振り切れているのに幅広いスタイルだ」

「サクタさん知ってるんですか?」

「門下生に部下が居てその縁でね。何度か尋ねたことがある」

「世界って狭いもんですねぇ」

 

 外から観戦している二人はその動きに感嘆しながら他愛のない話をするが実際に戦っているミコトからしたらたまったものではない。必死にウイングバインダーを動かし態勢を制御しながら海面スレスレで制止する。

 復活したメインカメラを使い見上げた二刃は天に向かって突き出した左手にバチバチと音を立てる光球を生み出していた。

 

『光雷球!』

「【System・EX】起動!」

 

 投げ付けられた光雷球を蒼い輝きを放ちながらゲシュテルンは無事な左手を煌めかせ鷲掴みにする。放たれたパルマフィオキーナが、光雷球を握り潰した。

 一瞬気圧されたようにメグルの動きが止まるがすぐにフライトユニットに取り付けられたグレネードランチャーを連射する。

 

「おっらぁぁ!」

 

 ミコトはすぐさまソリドゥス・フルゴールを展開し裏拳で叩き落す。爆風を少し喰らったがダメージらしいダメージはまるで見えない。

 次いですぐにゲシュテルンはまるで空気の足場を踏みしめるように構えると二刃がやったように空気を揺らして超加速をする。

 

『速い・・・けどっ』

 

 構えを取り直し二刃は迎撃態勢を整える。それを見てゲシュテルンはコマンダントのバインダーベースを前方に展開する。

 

『またバリア・・・?』

「残念!」

 

 メグルの予想とは異なりベースは展開することなく先端を向いたまま――回転を始めた。

 

『ドリ・・・!?』

 

 高音を響かせながらドリルと化した二基のウイングベースが二刃へと迫る。完全な不意打ちを二刃は身体を捻り両手に再び光雷球を放つ。ドリルとぶつかった光雷球が強烈な爆発を巻き起こす。ダメージを受けながらも、その爆風に乗って二刃が離脱する。

 

『っ・・・やりますね』

「そりゃどー、っも!」

 

 光雷球のお返しとばかりにミコトもまたパルマフィオキーナから光球を放つ。メグルはそれに焦る素振りもなくハーフヴィーク級に突き刺さっていたサムライソードを引き抜いた勢いで一刀両断してみせた。

 粒子変容塗料、かとも思ったが恐らく違うとミコトは直感する。先程見せた居合い共々、あれは『技』だと。

 

「冷酷無情、悪鬼羅刹な化け物かよ」

『・・・・・・そ、そこまで、悪口羅列しなくても・・・』

「今更紙メンタルみたいなこと言ってんじゃねぇよ!?」

『・・・でも、少し分かったことがあります』

「あ?」

 

 ツッコミを思わず飛ばしたミコトの言葉を受けて少しだけ言葉尻が弱まったがメグルも言葉を返す。

 

『その光は気功のようなものですね。急激に動きが速くなったり硬くなったように感じますが、今のドリル攻撃を光雷球ではじけた・・・今までぶつかっていた感触ではあんなに簡単にできるとは正直思っていませんでした』

「・・・・・・」

『攻撃力を防御力と素早さに変換した内気功。もしかして、今回以外のパターンもあるんじゃないですか?』

「・・・やっぱ才能とかある化け物って俺嫌ーい」

 

 拗ねたように呟いた後ミコトとゲシュテルンが肩をすくめる。

 

「大正解だ。【System・EX】は【Experience point】、経験値を由来にしたシステムだ。発想元がRPGだから若干引っ張られたが、まぁゲシュテルンのベースに組み込んでるエクストリームガンダムとイクスにも引っ掛けてある」

『経験値?』

「戦いってのは得意分野と不得意分野をどう扱うかで大きく変わるだろ? 俺はバトルでは自分の得意な事を常に相手に押し付けたい。ま、凡才故の見苦しい足掻きってヤツだ。・・・なんで俺今回こんなに自虐しなきゃいけねーんだよ」

 

 ケッ、と忌々しそうに悪態を吐き出しながらもミコトは自身の愛機の核心たる部分を包み隠さず話す。

 それは隠しても無駄だと考えているのか、ただ語りたいだけなのか。それとも。

 

「ゲシュテルンには粒子を多く貯蔵できるようエクストリーム由来のクリアパーツを組み込んである。これは普段のバトルじゃ使わないが、ゲシュテルン本体を動かす粒子を全部機体外に吐き出した時に流れ込むようになってるのさ。ちなみに今起こっている発光現象は粒子を吐き出す余波みたいなもんだ」

『外気功、のようなものですね』

「その中華な感じの響きの内容は詳しくねーから察しきれねぇが、まぁそんなもんじゃね? とにかく、貯蔵した粒子を適切に分配してやることでゲシュテルンには1つ変化が起こる。機体性能、言うなればパラメータをイジることができるんだよ」

 

 本来ガンプラの性能というのはガンプラ本来の特性等の他にGPベースによってビルダーが設定した部分をある程度反映し決まるものだ。攻撃に特化した機体やある程度万能に戦える機体までそれはファイターの個性によって決まるものだろう。

 だが例えば敵が高い防御力を持つ機体であったなら、攻撃力が足りずにまるで歯が立たないというようなこともあるだろう。バトルが始まった時点である種のジャンケンが既に起こっているのだ。

 あまりにも性能差・実力差があるならばこの前提は覆るものの拮抗した戦いであればこのジャンケンは大きな意味を持つ。ミコトは何度かこのジャンケンに敗れ、敗北を喫した経験がそれなりにあった。

 ならばと考案し構築されたのがゲシュテルンガンダムの【System・EX】――戦闘中に攻撃力・防御力・スピードの三つのどれかを削り残りを大きく高めるというシステムを搭載した。これに加えてインパルス由来のシルエットによる換装システムを行使することにより相手の弱点たる部分を狙い撃つことができる。

 要するに、後出しジャンケンである。

 

「尤もー? システムのプロトタイプを動かしてる時に分かったが所詮は小技だから二戦目以降に対策されたりとかは結構あるんだがな」

『それ、どうなんですか・・・?』

「ハッ、最初の1回だけ勝てば後99回負けようがとりあえず優越感に浸ってられるだろうが」

『なんて根暗なポジティブシンキング!?』

「はっはっは。ちなみに以前この話をしたらとあるヤツに『性悪根暗糞人間』とか言われたことがある。まぁ気にしてない、さっぱり気にしてないがな!」

『え、それ気にしてるんじゃ』

「まぁバトル中1回しか使えないとか弱点は結構あるんだが、俺は好き好んでる。こんな所でとりあえずお話は終わりだが・・・ちょーっと迂闊すぎるぞ、お前」

『えっ』

 

 ニヤリと悪い笑みを浮かべミコトはコマンダントのバインダーを展開する。展開状態で高速回転を始めたベースパーツが海へと沈み、プラフスキー・フィールドを形成するほどの過剰な粒子が注入する。

 直後、過剰な粒子にフィールドを構成する粒子が反応し海面が大爆発を起こした。

 噴き上がる水柱がゲシュテルンを覆い、空から見下ろしていたメグルの視界から隠した。

 一瞬メグルも慌てかけるがすぐに落ち着く。円柱を描くように噴き上がる水柱は一時的に姿を隠してもそこから逃げるためには水を突っ切る必要がありすぐに分かる。ならば目を凝らせばいいだけだ。

 十数秒ほどの静寂の後に水柱の一部を吹き飛ばして飛び出る影を二刃のカメラが捉える。弾かれたように二刃が影に向かって飛び出した。

 

『・・・ッ!?』

 

 だがすぐにメグルは間違いに気付く。影は人型ではなく小さな鳥のような形状――ゲシュテルンが背負っていたコマンダントシルエットのみが飛んで行るのだと。

 囮だ、と気付いた瞬間すぐに反転する。背後で水柱が弾けることを感じたからだ。

 

『逃がさない!』

 

 それほど早くゲシュテルンは動いていない。シルエットが外れたことにより推力が大幅にがた落ちしているのだ。そのためすぐ近くにあったピンク色の戦艦へとギリギリたどり着くのがやっとだった。

 だが、ミコトはニヤリとあくどく笑う。そのままゲシュテルンを走らせ戦艦の砲台へと辿り着くとシルエットが外れ露出したコネクタに接続した。

 

「接続成功・・・ミーティア、リフトオフ!」

 

 ミーティアが戦艦――エターナルが離れ空中へと浮かび上がり、二刃へと砲身を向ける。

 

『そんなのありですかっ!?』

「ありだよ、ガンプラバトルなんだからさぁ!」

 

 ロックオンを示す心地よい音を聞きながらトリガーを引く。ミーティアに内蔵された60cmエリナケウス 対艦ミサイルと93.7cm高エネルギー収束火線砲より放たれた巨大なビームが二刃を襲う。

 焦りながらも必死にメグルはアームレイカーを操作しビームを回避し、迫りくる大量のミサイルを弾き、斬り飛ばす。無尽蔵とも言えるその物量を被弾こそあれどメグルは直撃無く捌ききった。

 

「まだまだぁ!」

 

 だがミコトは手を緩めずミーティアソードを展開し進路上にあった戦艦を破壊し轟沈させながら二刃へと突撃する。

 

「おっらああああ」

『く、ぉぁああああああ』

 

 迫るソードに対してメグルはビームサーベルを初めて抜き放つ。二本の刀身を交差し身体を潜らせる。

 停滞は一瞬。すぐにミーティアソードが二刃を飲み込む――直前、内蔵電力が切れたのかソードが消失した。

 

「ちっ、流石に引っ張り出しただけじゃダメか!」

『ッ・・・腕へのダメージがスゴイけど動けないわけじゃありません。でも、そちらはそうはいかないでしょう』

 

 ゆっくりと落ちて行くミーティアを足場にして佇むゲシュテルンへとメグルは言葉を紡ぐ。

 

『そこまで大きなものを動かし、攻撃を全力で行っていた以上もう限界のハズです。ここで一思いに落とさせてもらいます』

「あー、そうだな。ミーティア内蔵電力で動かしていたとはいえ、流石に粒子限界が近いし降参が手っ取り早いなぁ・・・くくっ」

『・・・なんで、笑うんですか』

「お前の常識ならそうなんだろうな、って面白くなっちまったのさ」

 

 ミコトはくぐもった笑いを隠さない。自分の予想が正しいのだと信じて疑わない彼は、言葉を吐き出した。

 

「お前、ガンプラバトル経験まだ全然浅いだろ」

『えっ!?』

「粒子が足りない? なら、供給すりゃあいいじゃねぇか」

 

 曇天が吹き飛び何かがゲシュテルンへと迫る。巨大な紅い翼を装備したその戦闘飛行機というべきそれをメグルはアストレイの知識を得る際に同シリーズの中にそれを見た。

 シルエットフライヤー。ということは、フライヤーが装備しているそれは。

 

「来いっ!」

 

 シルエットがフライヤーから外れゲシュテルンへと向かう。そうはさせるかと二刃が駆けるがシルエットフライヤーに取り付けられた機関砲の攻撃を受け妨害に失敗する。

 赤外線のガイドラインに従いゲシュテルンの背へと翼が舞い降り、合体する。余剰粒子を吐き出しているのか、ゲシュテルンは空へと浮かび上がりながら蒼銀に輝く光の翼を展開した。

 実を言えば先程長々と【System・EX】の解説をしていたのは近場にあったエターナルのミーティアが稼働するか、そして射出したシルエットフライヤーが近くに来るまでの時間稼ぎの一環だったのだ。口八丁で乗り切り逆転の一手を狙う。それは長くバトルをしてきた“凡人”ヤナミ・ミコトが貪欲に勝利を欲するが故に手に入れた彼特有の武器であった。

 

「・・・うっし、シルエットフィッティング完了。ゲシュテルンガンダムフリューゲル、いくぜっ!」

『そんな、装備が飛んでくるなんて・・・』

「ありえないってか? そうだな、リアルな戦闘ならなかなか無いようなことだろ」

 

 普段は持たない左手でフリューゲルに装備された大剣――クラレントを引き抜き二刃に切っ先を向ける。

 

「だけどこういうのが起こることこそガンプラバトルなのさ。面白いだろ?」

『え・・・』

「だから、さ」

 

 メグルの困惑をよそにミコトはこみ上げてくる兪悦を顔に浮かべる。

 これ以上無く楽しい、と言わんがばかりに。

 

「ガンプラバトル、教えてやるよ!」

 

 

★☆★

 

次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-

 

「がぼごぶごばぼばばばば!」

「クラレント、モード:スラッシュ!」

「“魔弾の射手”・・・その名前、私大嫌いなの」

 

【Build.10:激闘・強調者と三傑Ⅲ ~切札廻炎~】

 

「――刃が無くとも斬り裂く。私は、“二刃”だ――」


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