ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-   作:結城ソラ

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 鉄血最終回の日に今年初の投稿が間に合って本気で良かったと思ってます!!! 次回から更新もっと早めます!


Build.08:激闘・強調者と三傑Ⅰ ~切札舞踏~

 シン、と静まり澄んだ朝の空気が道場を満たす。

 その空気の中に正座し空気の主となっている人物が居た。まだ年若いながら袴姿と堂に入った雰囲気がその少女の存在感を際立てていた。

 道場の窓から入り込んで来る風が菫色の髪を揺らしながら幾らかの時間が流れ、不意に空気の主の瞳が開かれる。それに連動するように立ち上がりながら手元に置いてあった薙刀を握り構え、そして振るう。

 

「――ふっ」

 

 鋭い呼気と共に真横へと薙刀を薙ぎ払い、振り切った瞬間にピタリと身体を停止させる。一瞬の間を空けた後に頭の上に向かって振り上げ、再びの停止の後に振り下ろす。

 静から動へ、動から静へ。精練された動きは美しく見る者によっては芸術的と称されるだろう。

 尤も少女――クスノキ・メグルはこの演舞を誰かに見せようという気はまるで無い。この演舞は幼い頃から続けているルーティーンに過ぎず、言うなれば朝のウォーキングとなんら変わらない。メグルにとってのウォーキングが演舞であっただけの話だ。

 

「・・・・・・」

 

 演舞の型を終えピタリと止まった所で息を整え、髪と同じ菫色の瞳を次の目的に向けた。

 道場の反対側へと姿勢を留めたまま移動する。そこには木で組まれた人型の人形に同じく木で作られた的が人体の急所に配置されている。

 

 

「はっ!」

 

 これまでよりも強い気迫と共に薙刀を振り抜く。三つの的のみを薙刀の刃が切り裂き、さらに残っていた1つの的を槍の要領で刺突、そのまま突き刺さった薙刀から手を離し足元に転がっていた弓を蹴り上げ握り締める。

 矢を正眼に構え背負っていた矢筒から三本の矢を抜き放ち弦に一本を番える。

 ヒュッ、と空気を切る音を残し的の中心を穿つ。その結果を見ずにメグルは二本目、三本目の矢を連射する。三本の矢は狙い違わず全てが的を捉えた。

 

「――」

 

 弓を捨て、立てかけてあった刀をメグルは手に取る。それまでの力強い動きから一転。刀を腰に構えたメグルは鞘と柄に手を添えたまま静止した。

 時間にして10秒程。一瞬が、永遠に感じられるほどの静寂の後、

 

「せぃっ!」

 

 鋭い剣閃が放たれる。その一閃は的を通り越し、人形さえも斬り倒した。

 

「・・・ふぅ・・・」

 

 息を吐き切る。メグルによって作り出された引き締まった空気が解き放たれる。

 パチパチパチ、と不意に緩んだ世界に音が鳴り響いた。

 

「ブラーヴァ、メグルー!」

「いやー、いつ見ても綺麗なもんじゃないかこれがさー」

「マ、マイちゃん!? それに部長!?」

 

 道場の入口に二人の制服の少年少女が立っていた。

 ヒノクニ・マイとカミシロ・アリマ。共に同じ部活に所属する人見知りなメグルにとって数少ない親しい友人だ。

 

「いやぁ、ようやくレアなメグルのダンスを見れたよー。大会とか出ればいいのに」

「わ、私の演舞は自分の修行みたいなものだしマイちゃんの魅せる踊りとは全然違うから・・・」

「もぉ、意地らしいなぁメグルはぁ! ぐりぐりー!」

「あぅわわわー!?」

 

 抱き枕か何かの勢いでメグルにダイビングしながらマイが抱き着く。バタバタと手を振り乱しながら真っ赤になる。

 見る人が見れば花とかハートとかが舞い散っていそうな空間が展開される勢いをほがらかと笑いながらアリマはその空間を見つめる。

 

「って、止めてくださいよ部長ッ!?」

「いやぁ、楽しそうだからつい、な?」

「もうっ! それで、こんなに朝早く休みの日に何の用ですかっ!」

「ふぇっ? メグル、もしかして忘れてる?」

「え?」

「これから出発だから迎えに来たんだが・・・クスノキもしかして」

「あ、あぁっ!?」

 

 今日が何の日だったかをそこまで言われてようやくメグルは思い出した。勢いだけでマイを振り解くと演舞の片付けもそこそこに道場に隣接した自宅へと凄まじい勢いで走り出す。その様を見ていた二人は揃って苦笑いを浮かべた。

 

「今日、ガンプラカフェってとこでの練習試合の日だったー!?」

 

 

☆★☆

 

 

「ヤナミー、目の下の隈が酷いけどどーしたんだよそれ」

「寝付けなくてロボSRPGやってたら太陽が昇ってた」

「ヤナミ君ってやっぱり馬鹿よね? 遠足の前日寝れなかったタイプでしょ?」

「うっせぇ遠足はそこまで楽しみでもなかったからグッスリ寝てたわ」

 

 日曜日の昼下がり。どこまでも眠たそうにミコトが反論するのをニヤニヤしながらカイチが弄ろうとしアマネが追撃する。わりと見慣れた会話だが珍しく違う部分はアマネが店のエプロンを着けておらず一緒に座っていることだ。

 チーム・アクセンツの結成から一週間。結成前から実は練習試合が組まれていたため店長には非難の嵐が巻き起こったものだが、拒否っても時間とは流れるものでいつの間にか試合当日。店長がバトルの準備を整えもうすぐやってくるという対戦相手を待つだけという状態だ。

 

「まったく、タイミングがいいんだか悪いんだか」

「そーいやヤナミ、“アレ”できたのか?」

「セリザワに手伝ってもらっておかげでなんとか。テストはもっとしたかったけどな」

「今回は見せたけど毎回こんな協力するとは思わないでね?」

「分かってるって。流石に毎度設計基礎を聞いたりしねーよ」

 

 ヒラヒラと手を振ってアマネに答えるがこれでミコトは結構アマネに感謝していた。

 “フリューゲルシルエット”に続く第二のゲシュテルン用の装備、その設計はアマネのGN-X・オリジンを参考にしてある。というより、何度か彼女のバトルを見るうちに設計に組み込みたくなった、というのがミコトの本音だ。

 チームに入ることを即決したのは実はそんな下心もあり、アマネも渋々といった感じだったが了承した。

 

「まったく。その分ちゃんと戦ってもらうからね?」

「もちろん、やれる限りの全力は出させてもらうから安心しとけよ。そうじゃなきゃ面白くないだろ?」

「快楽主義者にも程がない、それ?」

「面白くないガンプラバトルに何の意味があるよ?」

 

 けたけたと笑うミコトを呆れたようにため息を吐くアマネ。まるでそれを見ていたかのようにカララン、とカフェのドアに備え付けられた超級覇王電影弾ベルが鳴る。

 

「待たせた」

「ダグザさん、お疲れ様です」

「ヤナミ、キミまでそれで呼ばないでくれ。一作品ファンとして気恥ずかしい」

 

 ソフトモヒカンでがっしりした体つきをした男性――サクタさんが少し困ったように後頭部を掻く。

 今回の対戦相手のマッチングを行ってくれたのはこのサクタさんだ。何でも対戦相手の高校の顧問が友人らしくカフェに連れてくる手筈になっていたのだ。

 

「それで、対戦相手は――」

「ひゃぁ、これはナナハチの頭型ステレオ! こっちは1/1ラプラスの箱!」

「マ、マイちゃん急に入ってそんなにわちゃわちゃしたらっ!?」

「ま、マニアにはたまらんエリアだから仕方ないんだなこれが」

「部長も呑気な事を・・・」

 

 風のように入り込んできてカフェのガンダムグッズにダイビングした少女はとても大きい一挙手一投足で栗色のウェーブのかかった髪を振り回して喜びを表現している。後からほがらかとした表情で笑いながら入ってきた少年と、それらを慌てた素振りで諫めるそばかす少女。

 なんというか、一人に疲労が集中する凸凹感が凄まじいトリオである。

 

「ふふ、分かる人には分かるいいアイテムをそろえているからね・・・」

「店長仕事しろ」

「今一仕事終えて来たんだけどねっ!」

 

 奥の扉から現れた妙に笑顔満開な店長に辛辣な言葉をいつも通りミコトは投げかける。

 

「ってことはアレが?」

「そ、対戦相手の明星学園のガンプラ部のみんなさ。アマネは少しくらい知ってるんじゃないかい?」

「明星・・・確か去年選手権予選の二回戦くらいで戦ったかしら? でも、あの三人は誰も知らないけど?」

「そりゃあたぶん別の明星チームだからだよ」

 

 声を投げかけてきたのは三人組の中で部長と呼ばれていた少年だ。彼はアマネを見てニヤリと笑う。

 

「初めまして、“魔弾の射手”。明星学園ガンプラ部の部長をやらせてもらってる。去年は別チームに居たからそっちは知らないだろうけどなー」

「へぇ・・・そういえば明星は2、3チームを持ってる部だったものね」

 

 意外と大きい部、それを任せられる人物。思ってたより厄介な相手だな、と隠れてミコトはため息を吐き出すと立ち上がり、新シルエットの調整をするためにも先にバトル台へと向かうことにした。

 ふと、アマネと会話している部長と名乗った少年の向こうで店長がカイチを引き連れマニア魂を爆発させている少女へと得意そうに解説しているのが見えた。

 栗色の髪が揺れるのを見て、ガンプラを収めたケースの持ち手付近に付いている猫のキーホルダーに指が触れる。

 

「・・・ガラじゃねぇわ」

 

 頭の中にふわりと現れたいろいろ強烈なインパクトを残してくれた少女の幻影を振り払い、ミコトはバトルシステムの置かれた部屋への扉を開けた。

 

 

☆★☆

 

 

 “Ganpura Battle Combat Mode!”

 

 

 “Battle Damage Level Set To 『B』”

 

「ダメージレベルはBで助かったな・・・」

「あら、ヤナミ君ならAをガンガン推奨するかと思ったけど」

「セリザワの中の俺のイメージどんなんだよ。俺は基本的にAにはしてほしくないんだよ」

 

 “Beginning, PLAVSKY PARTICLE dispersal”

 

 蒼い粒子が世界を満たす。こみ上げてくるのは戦いの興奮。

 

 “Please Set Your GPBase!”

 

 GPベースをセットし表示が更新されたデータになっているのを確認する。こういった部分を怠れば一気に勝利というものは逃げて行くものだ。

 

 “Field X,SEA”

 

「・・・フィールド、エックス?」

 

 嫌な予感が爆発する。何だフィールドエックスって聞いたことねぇ。

 

 “Plase Set Your GUNPLA !”

 

 アナウンスにガンプラを催促され嫌な予感はとりあえず振り払いゲシュテルンガンダムを取り出す。ミコトが置いたゲシュテルンガンダムには背面に四枚、サイドに二枚の合計六枚のウイングバインダーと同じく六基のテールバインダー状のパーツが備え付けられたバックパックを装備している。

 新たなシルエット、“コマンダントシルエット”だ。

 そしてその手に持つのはとある人物からのオファーにより渋々持たされたジオン御用達の巨大な対艦ライフルだ。

 

「EXシルエット:コマンダント。さぁ、行ってみようか!」

 

 新しいシルエットへの期待半分不安半分といった面持ちでミコトは現れたアームレイカーを握り締める。それに応えるように、ゲシュテルンの瞳に光が宿る。

 そして、その時がついに訪れる。

 

 “Battle Start !!”

 

「アキヅキ・カイチ! ガンダムAGE-2ダークハウンドぉ!」

「ヤナミ・ミコト、ゲシュテルンガンダム・コマンダント」

「セリザワ・アマネ 、GN-X・オリジン。・・・チーム・アクセンツ」

 

 ゆっくりとアマネが口にしたチーム名を聞き、3人がより強くアームレイカーを握り締める。

 

「さぁ、行きましょうか!」

「おっしゃぁ!」

「あいよっ、と」

 

 アマネの号令に従いカイチとミコトもアームレイカーを押し込む。指示を受けたカタパルトが三機のガンプラを粒子が作り出した戦場へと送り出す。

 曇り空のせいで少し重たい雰囲気のフィールドは足元を海が埋め尽くしていた。よく見ればMSの残骸と思わしきパーツや朽ちて海に浮かぶ戦艦が見える。中には他の戦艦と明らかに違うものがあり、それを目にしたミコトは思わず呟く。

 

「アークエンジェルにミネルバか?」

「みたいね。さしずめ天使が墜ちた(エンジェルダウン)跡地の数年後と言ったところかしら?」

「何の話だよお前らー。・・・あり、そういえばヤナミ今回は飛べるんだな」

 

 手持ちぶさたそうにボヤいたカイチはふと今のゲシュテルンを見て言葉を繋ぐ。

 カイチは素のゲシュテルンを見慣れており、以前の戦いでも飛べないのを見ている。最後には飛んでいたものの見た目に分かりやすい翼を着けたフリューゲルだけの特性だろうと思ったのだろう。

 

「コマンダントは能力複合シルエットだからな。飛行能力はフリューゲルには及ばないがフライトユニットくらいは飛べるもんさ」

「なるほど分からん!」

「・・・とりあえず飛べる、くらいに理解しとけ」

 

 自分から聞いといて、という言葉を押し込めミコトが仏頂面を浮かべる。そんな様を見てアマネは改めてミコトの典型的なオタク気質を感じとりニヤニヤする。

 アクセンツの空気が弛緩しかったその時を、まるで狙い澄ましたように危険を知らせるアラームが鳴り響く。直後、遠くの艦船に一筋の光が曇天を貫いて降り立つのが見えた。

 

「ってちょっと待てぇッ!?」

「開幕マイクロウェーブ来ちゃうのはどうなのそれっ!?」

「え、何かヤバイ感じ?」

「ドヤバイ! 今すぐ散開しろっ!」

 

 慌てて回避行動を取るゲシュテルンとオリジンを見て遅れてダークハウンドも離れる。直後、天からの光が絶えるのを合図にそれまで三機が居た空間を暴力的という言葉でさえ生易しい光と熱の嵐が吹き荒れる。

 

「どわぁっ!?」

 

 危うく回避失敗しかけたカイチが悲鳴をあげる。嵐の如き強烈なビームはそのまま何もない空間を通過し上空を覆う曇天へと着弾する。

 雲が弾け飛び、強い月光と吹き飛ばされた雲が引火したかのように炎の雨が海面に降り注いだ。

 炎は演出なのだろう。ガンプラに影響は無いが中々に地獄絵図な状態になったフィールドを見て思わずカイチは冷や汗を流した。

 

「空が割れて炎が舞った・・・こりゃ次は巨大魔神が見参だな」

「バカイチ、少し黙って」

「炎はあくまで粒子の過剰演出だ。ま、もっかいサテライトキャノンされるのはイヤだし、一気に距離詰めるぞ。マイクロウェーブのおかげで位置は割り出せた」

「横から第二第三のサテライトキャノンが来ないことを祈りましょうか」

「警戒は任せる。アキヅキ、ストライダーで牽引してくれ! 俺らで先行してセリザワに後ろの警戒をしてもらう」

「おうよ!」

 

 ミコトの言葉に従いカイチはダークハウンドをストライダーへと変形させ、その背(正確には脚部なのだが)にゲシュテルンが乗る。

 

「いいぞ、頼む」

「おっしゃ任せとけぇ!」

 

 ゲシュテルンの体勢が安定したのを確認し、出された合図に従いカイチがダークハウンドを飛ばす。みるみるうちにオリジンの姿が離れて行く。

 

「――居たっ!」

 

 少しの間を開けて、その姿をカイチは見つけ出す。

 ミキシングビルド。その言葉をまるで体現したようにそのガンプラは赤、青、白が散りばめられたカラーリングは統一性の無さ故の派手さと力強さを感じさせる。

 アイリッシュ級戦艦ラーディッシュの甲板上で微動だにせず佇むその手には未だに放熱中なのか巨大なキャノン砲が握られていた。

 

「アスタロトか・・・? ってかなんでUC系戦艦がCE系ステージに配置されてんだ・・・」

「何かよく分かんねぇけど隙だらけだぁ! 一気にぶっ飛ばぁす!」

「ってバカ!? あんなの見え見えの罠に決まって――」

『分かっていてもムダなんだがな、これが』

 

 それは最早脊髄反射。ミコトは本能に従いダークハウンドを蹴飛ばしゲシュテルンを飛翔させ、ダークハウンドを海面に叩き付ける。

 直後、甲高い特徴的なSEと紅い粒子を伴った剣閃がそれまで二機が居た空間を斬り裂いた。

 

『逃がさん!』

「ふざけんなっ! いきなり使ってくるパターンじゃねぇだろうそれ!」

『物事はスマートに、な』

「これスマートかホントにっ!?」

 

 紅い残像を残しながら大振りな剣を構えて突進してくるガンプラを視界に捉えながらミコトは悪態を叩き付ける。

 

「開幕サテライトキャノンの次はアストレアのトランザムとかふざけんじゃねぇよクソッ!」

 

 ほとんどヤケクソ気味にミコトが叫ぶ。

 サテライトキャノンにトランザム。それはそこそこガンダムを知っている者ならば口を揃えて“必殺技”或いは“必殺武装”と呼ばれるものだ。

 ガンプラバトルでもこれらの武装は大きく粒子を消費する代わりに破格の能力を発揮する文字通りの“必殺技”になる。愛用するファイターは誰しもこれらを勝利の詰めの段階で使用することが多いものだ。

 だが、彼らはそれを惜し気もなく最初から使ってきた。後の事等考えない恐ろしいまでの超速攻。

 二機の連携、計略通りに自分達は動かされた。その事にミコトは歯噛みし、

 

(――待て。もう一人はどこだっ!?)

 

 相手のカードの枚数を読み違えていることに気付いた。

 トランザムの猛攻をギリギリでいなしながらせめて海上に居るアスタロトから距離を取ろうと上空へとさらに上がる。だが、そこでゲシュテルンに影が落ちる。

 

「しまっ・・・」

『やぁぁっ!』

 

 赤い身体に白の装甲を纏ったガンプラ――ガンダムアストレイ・レッドフレームが原典には無い大鎌を振り抜く。最初から感知できない程の上空に潜んでいたのだろう。その攻撃には何の淀みも無くゲシュテルンの腹部を切り裂く――。

 

「舐、めんなっ!」

『ッ!?』

 

 ゲシュテルンの上半身と下半身が“刃が届くより早く”分かたれる。大振りに振り抜かれた鎌の勢いに飲まれてレッドフレームが体勢を崩す。

 その隙を狙いミコトは分離した下半身――チェストフライヤーを呼び戻しながら大振りな対艦ライフルを大雑把に連射する。命中するかと思われた瞬間、レッドフレームは腰の鞘からガーベラストレートを僅かに引き抜き命中する弾丸のみを正確に弾いてみせた。

 

「おいおいマジかっ。腐っても対艦ライフルだぞ!?」

『業の前には無問題ってことだこれがなぁ!』

「しつこ、ぐっ!」

 

 レッドフレームとの距離を稼いだ瞬間にトランザム中のアストレアが回し蹴りでゲシュテルンを再びレッドフレームの元へと送り返す。

 すかさずレッドフレームは大鎌をフライトユニットにマウントし両腰に装備された二本の刀の柄を握る。体勢を大きく崩されたゲシュテルンに刀から逃れる術は、無かった。

 

『これで、終わりですっ』

「だ、か、ら、さぁ・・・!」

 

 距離が縮まり、刀のレンジへと後少しで突入する。

 

「舐めるなって、言ってんだろうがぁ!」

 

 ミコトが叫び、素早くそれまで触っていなかったコマンドを呼び出す。

 

「ブラスター、アクティブ!」

 

 その合図と共にシルエットに登載されたテールバインダー状の四基のパーツがゲシュテルンから離れ、レッドフレームへと殺到する。

 

『えっ!?』

『逃げろクスノキ、ビットだ!』

 

 アストレアの主が叫ぶ。レッドフレームは声に従い抜刀を止め空中を滑るようにその場を逃げ出す。

 直後、四門の砲門からビームが殺到する。間一髪レッドフレームはその砲撃をすり抜けゲシュテルンへと迫る。

 

『このままっ!』

「セイバー、アクティブ!」

 

 残った二基のビットがゲシュテルンから離れる。滑らかに滑り込むビットはそのままレッドフレームの首へと迫り――。

 

『させんっ』

「ちぃっ」

 

 割り込んできたアストレアの剣に甲高い音と共に受け止められた。

 

『ガンビットにソードビットを両方搭載してるわけか・・・だが、ビットを動かす間は動きが鈍っているぞ!』

「あ? 問題ねぇよ」

 

 不敵にミコトが笑むと次の瞬間何かに思いきりぶつかったようにレッドフレームが吹き飛ぶ。

 

『何っ!?』

『っ、すいません部長! 下のマイちゃんと合流します!』

『了解だ! ・・・見えない弾丸、“魔弾”。だが来る方向が分かれば!』

 

 離脱するレッドフレームを見届けるとアストレアがGNフィールドを展開し、追撃を狙ってきた狙撃を弾き飛ばす。

 

『ギリギリ防げそうだなぁ!』

「そうね、このままだと防ぎ切られる。だから」

 

 姿を隠していたGN-X・オリジンが、不意に現れた。

 

『なっ』

「収束、からの全解放(フルバースト)!」

 

 ライフルの先端に赤い球体が一瞬現れ爆発的に解き放たれる。さながらビームマグナムの如くビームの本流がGNフィールドごと地表へと押し流した。

 

「おま、そんなことできるのな」

「粒子結構使うけど、あぁいう防御をされるとしんどいからね。対策技は必須ってこと」

「はぁ、そういうこ、っとぉ!?」

 

 息吐く間も無く真下から銃弾の雨が昇ってくる。雨が昇ってくるとはどういうものか、とも思わなくもないがそう表現でしか言い表せなかった。

 咄嗟にゲシュテルンはソリドゥス・フルゴールを、オリジンはGNフィールドを展開しその身を守る。幸い距離が大きく離れているためか防ぐことは容易だった。

 カメラを向ければ、ラーディッシュの上に待機していたアスタロトが大型のガトリングを放っていた。ラーディッシュのどこかに隠していたのだろう。

 

「下に残したアスタロト、そんな武器まで持ってたかっ! セリザワ、狙撃!」

「ゲシュマイディッヒ・パンツァーも無いのにフィールド維持しながらどうやって狙撃しろと? その大きなライフルで何とかしてもらえる?」

「いやこっちも弾当たるから・・・あぁ、もう分かったよ! やりゃあいいんだろやりゃあ!」

 

 装甲がまだゲシュテルンの方が分厚い、という判断をされたのだろう。どうせこれ以上言っても無駄だと思いより高く飛ぶとゲシュテルンは対艦ライフルをアスタロトの付近に狙いを付け雑多に連射した。

 だが、その弾丸は数発がラーディッシュを貫通したに留まり、アスタロトには命中しない。

 

『おぉっと、ヤケクソかなぁ? それじゃあ当たらないよ!』

「ですよねー。流石にこの距離じゃあ足場を崩すのも無理が・・・」

「おっらああああああああ!!!!」

『ッ!?』

 

 ラーディッシュの甲板が不自然に膨れ上がる。異変を感じ取ったアスタロトが射撃を止めラーディッシュから一足飛びで離れる。

 膨れ上がった甲板はそのまま一気に限界を迎え真下から黒い影――カイチのダークハウンドが現れる。どうやら海から真下に潜り込みラーディッシュを貫通したようだ。

 

「あ、忘れてた」

「テッメェヤナミ!! お前が海に落としたんだろう!?」

「ケンカしてる場合じゃないから。カイチ、その向こうにあるカラフルな戦艦、そっちに行って。合流するから」

「カラフルって・・・ディーヴァのことか」

 

 ちょうどアスタロトが退避した別の戦艦――フリーデンと向き合うように配置されたその戦艦にアマネは指示を出す。もはや世界観とか陸上戦艦とかのツッコミはするだけ無駄だなぁ、等と気の抜けた考えを頭に浮かべながらミコトもダークハウンドがディーヴァに乗り移るのを見てオリジンと共にゲシュテルンを降下させる。

 ディーヴァに降り立ち合流したところで対面に存在するフリーデンを見やれば向こうも三機が合流していた。

 

「アストレイ、アストレア、アスタロト。全員がAS(エース)の名を冠するガンダム、か」

『ふふーん、いい風に言ってくれるね強敵さんたち! 燃えてくるよ!』

 

 アスタロトから聞こえた声は、どうやらあの栗毛のやたら元気の良い少女の声だ。彼女はさらに言葉を紡ぐ。

 

『こりゃあ改めて、名乗りを上げるしかないね!』

『いや何でそうなるのマイちゃん?』

『そうだな、そういえばしっかりとまだ名乗ってない。こっちは向こうを少しは知ってるんだし、自己紹介は必要だろうなこれが』

「ところでそっちの部長さん、さっき喋った時とキャラ変わってない?」

『あ、部長はその、好きなゲームのキャラクターに影響受けててそれがバトルとかで出ちゃう感じでして・・・』

『クスノキ? 途端に俺が痛いヤツになり下がったぞ? 分かってるのか?』

『す、すいません・・・』

「・・・さっきまでの緊張感どこ行ったよ」

「いいじゃんいいじゃん! せっかく見せてもらおうぜ!」

 

 思わずミコトはボヤくがカイチが妙に興味津々といった感じで声を上げる。

 

『では、リクエストにお答えして!』

 

 アスタロトが一歩前に出て優雅に胸に手を当てて礼をした。

 

『ヒノクニ・マイ、ガンダムアスタロト・D・Arne! さぁ踊ろうよ、これは楽しいガンプラバトル!』

『なら続いては俺、ガンダムアストレア・シュバリエとカミシロ・アリマだ! スマートに、勝たせてもらうぞこれがなぁ!』

『え、私が〆ですかっ!?』

『大丈夫大丈夫! メグルならかっこよくいけるからさ!』

『何の自信!?』

『まぁまぁ、ほれ。お客さんがお待ちだ。頼むぞクスノキ』

『・・・分かりました』

 

 不承不承、と言った感じだがアストレイのファイターが一度息を吸い、吐き出す。

 たったそれだけで、雰囲気が変わるのを感じた。

 

『クスノキ・メグル。我が相剣の銘は、ガンダムアストレイ・二刃(フタバ)!』

 

 言葉に力が宿り、フィールドの空気を飲み込む。

 

『三位一体一意専心、チーム・デルタエースが参る。・・・お覚悟を!』

「デルタエース・・・三人の、エース」

 

 そのチーム名を聞き、ミコトの心の奥の何かがチクリと蠢いた。

 

「くぅー! カッコイイじゃん! 俺たちもやらね!?」

「バカイチの発想に付き合う必要は無し、と。そもそもアドリブでできるほど私達は役者じゃないわよ?」

「・・・あぁそうだな。あれはあいつらだからこそ決まるんだろうよ」

 

 ピリピリとした空気を一瞬で作り上げたデルタエースは、紛れもなく強敵だ。だが、だからこそ面白い。ミコトは笑いながら、自然とその言葉を口に出した。

 

「俺達は、アクセンツだからな」

「・・・へっ、そーだな。名乗りはしっかり後で考えようぜ」

「考えるかどうかはさておき、まぁヤナミ君の言葉には同意かな。私達は私達」

 

 カイチが鼻をこすって笑い、アマネもまた静かに笑う。強敵を前に、三人のファイターの思いは1つ。

 

「・・・勝ちましょうか」

「おうよ! アクセンツとして、初勝利を貰いに行くぜ!」

『申し訳ありませんが、デルタエースも負ける気はありません!』

「はっ、当然だろ! 全力で勝ちを奪い合おうじゃねぇの!」

 

 最早言葉は要らない。

 戦いは遭遇戦から本格的な戦いへと移行した。

 激戦が、始まる。

 

 

★☆★

 

次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-

 

「女の子に剥ぎ取るなんて、やらしーんだ」

「これがジョーカーだ!」

「ヤベェ俺もしかして甘く見られてね!?」

 

【Build.09:激闘・強調者と三傑Ⅱ ~切札閃煌~】

 

「ガンプラバトル、教えてやるよ!」




 最後に、実は本作には友人のとり肉さんからイラストやらキャラデザやらをちょこちょこいただいておりまして。今回一枚公開させていただきたいと思います。


【挿絵表示】

 チーム・アクセンツの三人、左から順にカイチ・ミコト・アマネの三人になります。
 お正月にいただいてたのに執筆速度が遅すぎて四月になりましたごめんなさい!? でもホントにありがとうございます! アクセンティアはホントにたくさんの友人に支えられておりますが、こういう時に改めて強く実感しますね・・・。
 ガンプラ何かも少しづつ完成してきておりますのでデルタエース編と合わせて公開していきたいところ。よろしければまた、お付き合いくださいませ。ではでは!

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