ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-   作:結城ソラ

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死ぬほど遅くなった上にまた長くなりましたぁ!(土下座)
とりあえず遅れてた原因の病気の方は小手術とかして何とかなりそうな感じなので次回は早めに投稿できるように心がけます。はい。


Build.06:天駆ける流星Ⅲ ~流星蒼翼~

 空を飛んでみたいだとか、虹を掴んでみたいだとか。そんな言葉を簡単に吐けるのは子供の特権だろう。

 大人になったら言えなくなるのはきっと、空など飛べず虹など掴めるハズがないという限界をはっきりと感じるから。

 それでも、ここが仮想の世界とはいえ。感じきった限界をこの世界にある重力ごと振り切って自在に空を飛ぶ。

 ミコトの全身をぞわぞわと泡立つような快感が駆け抜ける。

 

(やっぱ、たまんねぇ)

 

 飛行機乗りが空を飛ぶことに快楽を覚え、魅了されるという話を聞く。ヤナミ・ミコトもまた、この粒子の生み出した仮想の空に少なからず魅了されたファイターだった。

 

「ヤナミ、この辺でいいよ」

「ん、あー。了解」

 

 若干トリップしていた思考をトウジの声を聞きミコトは引き戻すと、そのままゆっくりと地上へとウィスタリアを降ろした。

 

「助かった」

「どーも。とりあえずセリザワがこっちに向かってるから合流してオリハの方を何とかしてくれ。上は何とか抑える」

「ずいぶん自信満々に見えるけど?」

「少しハイになってるかもな。・・・まぁ少なくとも、アレよりはまだ勝ち目があるし」

 

 これは偽らざる本音だ。ディザイア相手に唯一通用しそうなパルマフィオキーナでさえ致命傷を与えることができなかった以上ゲシュテルンでディザイアを倒すことはほぼ不可能だろう。

 

「そのシルエットがあっても?」

 

 翼を見ながらトウジがさらに言葉を紡ぐ。

 ゲシュテルの背に追加されたデスティニータイプのウイングユニット“EXシルエット・フリューゲル”。これを装備した“ゲシュテルンガンダムフリューゲル”は機動力と飛行能力に特化したフォース系統にソードの近接戦闘能力を組み込むことを目的としたシルエットだ。ついでに言えば機動力を安定供給するためにシルエットそのものにバッテリーが組み込まれているため今までのプロトタイプよりも全体的出力は上がっている。

 それでも結局は武装がビームに偏っている以上強烈なビーム耐性と、元より備わっているナノラミネートアーマーによる衝撃耐性を両立したディザイアに痛打を与えることはできないだろう。

 

「まぁダメージ叩き込める可能性も無いわけじゃないが、当てられる気がしねぇ」

「なるほどね。ってことは、飛べなくなったオレにはオリハさんの方を止めろってことね」

「頼んでも?」

「承った。何とか頑張ってみるよ」

「任せる。んじゃ、行ってくる」

 

 コンソールを操作しゲシュテルンが重力の束縛を振り切る。ふわりと浮き上がり、そのままオラシオンとダークハウンドの目の前で静止する。

 

『どっちかって言うとデスティニーインパルスだったのかそれ』

 

 何のつもりか、オープンチャンネルでオリヤが声をかけてきたのでミコトは肩をすくめて返す。

 

「デスティニーとインパルス、それぞれを学習し最適化したってコンセプトだよ」

『でも大丈夫かよヤナミ? 2対1だぜ?』

 

 自信満々にカイチが笑ってきた。何となくだが、それにミコトも笑みで返す。

 

「今の俺ら相手にむしろ2人で足りるかね?」

『言ってくれんじゃん!』

『そこまで言われちゃ、カイチだけじゃなくて俺も燃えてくるっての!』

 

 オラシオンがフラッシュエッジを握りダークハウンドがビームサーベルを展開する。

 対してゲシュテルンガンダムも両手のパルマフィオキーナを輝かせた。

 

「そんじゃあ、行くぜ・・・!」

 

 獰猛な笑みをミコトは刻む。新たな翼を震わせるその喜びを隠しきれないといわんがばかりに。

 

「GO! ゲシュテルンガンダムフリューゲル!」

 

 空気を揺るがしゲシュテルンが突っ込む。それと同時にダークハウンドとオラシオンも各々の獲物を振りかぶって突撃する。

 溜め込んだ粒子を解き放ち光球をオラシオンに向けて叩き込む。フラッシュエッジを振るい光球を叩き落とすがオラシオンは一時的にその足を止めた。

 その様を視界の端に捉えたミコトはオラシオンを一旦意識から排除し、迫るダークハウンドに対してシルエットによって追加されたリボルバーを引き抜き弾丸を撃ち込む。

 だが、そこは流石アキヅキ・カイチというべきか。

 

『おりゃぁ!』

「はっ!?」

 

 まるで不可視の床でもあるかのようにダークハウンドが“跳ねる”。そう表現するしかない勢いでダークハウンドがゲシュテルンの上を取る。

 ブースターによる急激な方向転換、アンカーを用いたワイヤーアクション、あるいはプラフスキー粒子の動きを読み切り本当に足場としたのか。真実は分からないが、少なくとも完全に一瞬死角に潜り込んだダークハウンドはサーベルを手の中で回転させ逆手に持つ。重力に合わせてブースターを吹かした猟犬は、己が牙を真下の獲物へ突き立てた。

 

『って、お?』

 

 しかしてその牙は突き刺さることなく機体ごとすり抜けた。

 残像だ。ダークハウンドが捉えたのは光の翼による高速移動とミラージュコロイドの併用により敵を幻惑する一瞬前のゲシュテルンの影。

 

『って、じゃあ本物は・・・』

「甘いんだよっ!」

 

 ダークハウンドの背後、光の翼を用いて前進したゲシュテルンは片翼のみ光の翼を使用することで180度の無茶苦茶なターンを決めて見せ、ビームサーベルをこちらも引き抜いていた。

 そのままサーベルを振るうのではなく勢いそのままに突き刺さんとするが勘だけでダークハウンドもサーベルを横薙ぎに振り抜く。果たして、その一閃はゲシュテルンのサーベルを捉え弾き飛ばした。

 

「デタラメにもほどがあんだろっ!」

『流石俺ェ!』

「鬱陶しい!」

『ぐぇふっ!?』

 

 左手に持ったままだったリボルバーをダークハウンドに向かって連射、数発の弾丸がダークハウンドを抉る。

 

『こっちも喰らえッ!』

 

 空気を裂く音と共に連結状態のフラッシュエッジが飛来する。それを対処しようとした瞬間に危険を報せるアラートが重なる。

 背に向かって元々キマリスが持つスラッシュディスクをファンネルへと改造したファンネル・ディスクが迫っていた。

 

「やる・・・! 逃げ場を潰す用に設置してたか!」

『カイチにかまけ過ぎたな! 数の不利があるのにタイマン重視し過ぎだ!』

「ご指導どうも!」

 

 言葉を放つと共に光の翼を先程よりも強く広げ、真下へ向かって全速力で飛ぶ。当然それをディスクは追う。

 

「こういうときの王道な対策は・・・」

『マジか!?』

「こうだろぉ!」

 

 地表に激突する寸前、V字を描くようにほとんど直角にゲシュテルンが再飛翔する。

 追撃していたファンネル・ディスクとフラッシュエッジは当然勢いそのままに地表に積もった雪の中に埋もれていった。

 

『マジかー・・・テンションごりアゲしてんなぁ』

『言ってる場合じゃねぇぜオリヤン! 同時攻撃だぁ!』

『おうよ! ガンガン行くぜ!』

「だったら俺も、いってみるか」

 

 リボルバーをラックへと戻しもう片方のハンドガンを抜く。それはゲシュテルンが今まで使っていたリボルバーよりも大型で、ドクロの装飾が刻まれている。

 

『豆鉄砲を切り替えたところで問題ねぇ!』

 

 ダークハウンドがバインダーを構えその身を弾丸から守るために隠す。先ほど弾丸を受けても大してダメージを受けなかった故のカイチの判断だ。

 

「豆鉄砲、ねぇ」

 

 一方のミコトはどことなくうんざりした表情でコントロールスフィアを細かく動かす。

 

「その方が嬉しいんだけどな」

 

 パルマフィオキーナを薄く両掌を覆うように展開し光の翼を姿勢制御のために大きく広げる。さらには片手で撃てるサイズではあるがハンドガンをしっかりと両手で構える。さながら気分はアロンダイトを白刃取りするストライクフリーダムだ。

 やりすぎと思われるかもしれないかもだが、これでもまだ足りない気が全然するのだから先入観というものはヒドイものだ。

 

「――いけっ!」

 

 トリガーを引く。

 ズドン、という轟音が遅れて響いてきた。

 

『・・・はっ?』

『はぁっ!?』

「・・・ハァ」

 

 それぞれ理解が追いつかないのカイチと驚愕が吹き荒れるオリヤ。そして予想通りの結果に嘆息するミコト。

 ハンドガンから放たれた弾丸は狙い違わずダークハウンドのバインダーを穿ち、貫通し腕を抉り取った。

 そう、文字通り腕が抉り取られた。命中した弾丸は途中で止まることなく貫通。貫通した箇所には大きな穴が開き、関節部が無くなった腕が重力に引かれて大地に向かって落ちていく。

 

『ううう腕がぁ!? っていうか何なんだよヤナミそのチート銃ー!?』

「自重ってヤツを知らない人には俺も困ってるよ!」

 

 カチカチと細かくコントロールスフィアを操作しゲシュテルンの状態をチェックしながらほとんど吐き捨てるように言う。

 ハンドガンを直接握っていた右腕が真っ赤に表示されている上に操作がうまくきかない。さらには反動が機体にある程度来ているのか全体的に動きが少し悪い。

 右腕の回復には少し時間がかかるだろうが全身に回る反動はすぐに回復するハズだ。とはいえ、このハンドガンはもう使えない。

 

(出力に多少余裕にあるフリューゲルで全力で備えてこれとか・・・まったくあの人は・・・)

『これならどーよ! ビームバリアバーッシュ!』

「ちぃっ!」

 

 シールドをより巨大なビームバリアが覆いそれを全身を捻って勢いを生み出したオラシオンが振り抜く。咄嗟にゲシュテルンはソリドゥス・フルゴールを展開した。

 ビームバリアどうしの鍔迫り合いという世にも奇妙な展開は、右腕がまともに動かないゲシュテルンが次第に押し込まれていく。

 

「くそっ!」

『そして抑え込んだところで!』

『真打が行くぜぇぇぇぇ!』

 

 オリヤの言葉に反応しカイチがダークハウンドを変形させる。

 

『ハイパァ・・・ブゥゥゥゥゥストォッ!』

 

 さながらスーパーロボットの必殺技のノリでカイチが叫び、ストライダーが突っ込んでくる。ドッズランサーを用いたスイカバーアタックにダークハウンド特有の超加速(ハイパーブースト)を重ねた突撃攻撃だ。

 

「やっべ・・・離脱できねぇっ」

『ハッハッハー! それが狙いさー!』

『オリヤンと俺の完璧な作戦さー!』

「さーさーうるせぇ!」

 

 馬鹿二人にツッコミを入れながらもコンソールの操作を続ける。だが回復は追いつかない。

 轟音と共に、機体が貫かれた。

 

『ぃよっしゃぁ! 大勝利ー・・・・・・って、おやぁ?』

 

 勝利を確信したカイチの言葉が不意に曇る。

 カメラが急に上を向いた後、グルグルと激しく回転しながら地面に迫っていく感覚が襲ってきたからだ。

 

『え、え・・・えー!?』

『赤いビームが飛んできた、ってことはぁ・・・』

「言ったでしょ、カイチ」

 

 カイチが叫ぶ中()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を見てしまったオリヤが何が起こったかを察する。

 そしてそれらの声に続いて響いた声と共に地上の何も無い空間が蜃気楼のように歪んでいく。

 四つ目(クアッドアイ)を怪しく輝かせながら“魔弾の射手”GN-X・オリジンがその姿を現した。

 

「スナイプ避けれないあんたに負けることは無いって」

『せっかくの初陣なのにぃ!』

 

 バチリと一際大きなスパークが巻き起こった次の瞬間、ダークハウンドが爆散する。

 

『なんでこぉなるのぉっ!?』

 

 妙に芸人チックなカイチの断末魔が響いた。

 

「汚い花火ね・・・」

「某王子かお前、は!」

『どわぁっ!?』

 

 呆気に取られていたオリヤの隙を突いてミコトは腰にマウントしたままのビームサーベルを起動する。

 本来は抜刀しやすいようにビーム刃発振口が背中を向いてマウントすることの多いビームサーベルだがゲシュテルンは敢えて発振口を前面に向けて装備している。

 そのためビームシールドでの鍔迫り合いという両機が密着したこの状態でサーベル刃を発生させればオラシオンの腹部に向かって刃が伸び、そのまま突き刺さる。

 

「刺さった、ならあっちよりは耐性低めか!」

『自分でビーム使うからどうしても、な!』

 

 それでも軽いダメージでしか無いようだ。ビームバリアを切りオラシオンが離脱する。

 だが、離脱した瞬間にオラシオンのシールドが吹き飛ばされる。見えない狙撃、地上のアマネの正確無比な“魔弾”だ。

 

「今度はそっちが数の不利ってわけだ」

『なるほどねぇ。でもさ』

 

 不敵に笑うミコトに釣られるようにオリヤも笑む。

 

『俺達を侮るなよ?』

「はっ?」

『――オリニィ!』

「きゃっ」

 

 木々を薙ぎ倒して不意に現れたのは、トップスピードに乗ったガンダムキマリス・ディザイア。その左手に握るデストロイヤー・ランスを振るいGN-X・オリジンを吹き飛ばす。

 

「セリザワッ」

『ナイスタイミングオリネェ!』

『オリニィ、任せた』

 

 ディザイアの腕のシールドブースターが反転しそのまま点火。ディザイアの腕から飛び立った。

 オラシオンが腕を薙ぐとピッタリとその位置まで来ていたシールドブースターがそれまでシールドが装備されたジョイントに接続される。

 さらにはシールドブースター裏にマウントされていたバトルブレードを引き抜く。盾と長剣を装備したオラシオンはさながら中世の騎士を思わせる凛々しい姿を見せた。

 

『こっちはこのまま倒させてもらうから』

「セリザワ、生き残れるかっ!」

「1人では流石にムリ」

 

 完全にディザイアに張り付かれたオリジン。しかしゲシュテルンもまたオラシオンを目の前にしてオリジンの援護に向かうことなど到底できない。恐らくこの騎士に背を向ければ一瞬で撃墜されるだろうからだ。

 改めて思い知る。得意なエリアでそれぞれに追い込み、分断したところで各個撃破。これがこの双子の得意戦法なのだと。

 しかしこの得意戦法、1つ穴がある。それは――

 

「こっちへ!」

「キャッ!?」

 

 ディザイアが進んできた森の影に隠れていたのか、影から飛び出してきたウィスタリアがオリジンを引っ掴んでそのまま滑り込むようにして急な斜面に向かって消えていった。

 そう、この双子の得意戦法。実は数的不利が取られた時点でわりと簡単に戦線離脱を許してしまう等の問題がある。特にディザイアがタイマン系に武装を偏らせているため余計にそういった事態になりやすいのである。

 故に、それら一連の光景を目にしてもオリハは落ち着いたものであった。チラリとオラシオンを一瞥しただけで何も言わずにディザイアも斜面へと身を躍らせた。

 

『オッケーオリネェ、任せたぜ』

「アイコンタクトか・・・? そもそも通信もできないハズなのに、なんで来るのが分かったんだ?」

『生まれた時から一緒に居てガンプラバトルも一緒に始めた。俺とオリネェはニュータイプ的感応波でお互い何してるかなんとなく分かるのさ』

「オカルトはサイコフレームかバイオセンサー搭載機使ってる時にでも言っとけ」

 

 とはいえ、なんとなく分かるというのは本当だろう。

 そもそも生まれた時から一緒に居るということはそれだけ相手を理解する時間があるということ。その思考の傾向は無意識にでも分かるだろう。

 第7回世界大会で初めて三代目メイジン・カワグチを追い詰めたレナート兄弟やイオリ・セイのアブソーブ技術をコピーし三機合体により猛威を振るったチームSD-Rのように双子や三つ子のファイター達は華麗とも言えるコンビネーションを魅せる者が多い。

 だがオリヤとオリハはそれらの名を馳せたファイター達とは少し違う。共に駆けるのではなく天と地をそれぞれに駆け抜け勝利を勝ち取る。どちらもが兄で姉である特異な対等関係は“生まれた時からの相棒”とも言うべきものを形成しているのだろう。

 

(ったく。ムカツクけど、正直羨ましい)

『オリネェより先に終わらせるから、覚悟しろよ!』

 

 ミコトの思考を切り裂くようにオリヤの鋭い言葉と共にオラシオンが剣を振りかぶりながら突撃を始める。

 どこまでも突撃一筋の双子に対してミコトもまた覚悟を決める。

 ほんの少しだけ、自分でも気付かないくらい小さく唇を歪ませながら。

 

☆★☆

 

 雪の積もった急な山道に三つの大きな雪煙が舞う。それぞれスライディングの態勢で無理矢理滑り落ちているだけのオリジンとウィスタリア、そして唯一姿勢を安定させ攻撃のチャンスを狙う騎兵形態のディザイアだ。

 

「これ、どこに向かってるの?」

「ヤナミのビーコンのおかげで把握できたけど、僕ら側のスタート地点」

「って、最初の温泉エリア? そんな開けた場所で戦わなくても、得物が大きいんだから森林地帯で戦えば」

「残念だけど、それだとオレが足手纏いになる」

 

 悔しげに唇を噛みながらトウジはウィスタリアの背を見る。ダークハウンドの攻撃によりウイングを1枚失いダメージも限界ギリギリ。最早飛行することも叶わないのが現状だ。

 機動力が大きく奪われた都合、相手の動きを予想しやすい開けた場所での戦闘が不可欠となってしまった。

 

「一人で戦おうか?」

「嫌み?」

「当然」

「勘弁。そもそもパルマでようやくまともなダメージになるような全身ビーム耐性の塊に狙撃で勝てるの?」

「ストフリの金間接使ってるならいける」

「無理ってことね・・・」

『はい、お喋りお仕舞い』

 

 地面の角度が激しくなったタイミングを狙いディザイアが翔ぶ。六基のブースターを巧みに扱いさながら無重力のようにディザイアがコの字の軌跡を残しながらウィスタリア達に突っ込む。

 

「重力下だろ!?」

『どこぞのジ・Oにできて私にできない道理は無い』

「見てて悔しくなっちゃったかぁ・・・」

 

 接客をしたり勉強をたまに教えてもらうアマネにはいつぞやミコトとの戦いであの白いジ・Oの重力振り切りを見て真似てみたことが容易に想像ができた。カザマ・オリハはこと加速においてはかなりの負けず嫌いだから。

 ディザイアが激突したショックで表面の雪が大きく巻き上げられ、二機が吹き飛ばされる。

 ボチャリと、トウジの耳をスピーカーから流れた水音が叩いた。目的地であるスタート地点の温泉にウィスタリアの一部が浸かったのだ。

 

「――着いた! セリザワさん!」

「うーん、調子に乗り過ぎたかなぁ」

 

 声の方にカメラを向けてトウジは言葉を失う。

 オリジンの左半身が大きく抉れている。先程の攻撃を避けきれなかったようだ。左腕が丸々無くなっており落下した際にライフルが折れてしまったようだ。

 

「防御面をGNフィールドに任せすぎたかな。いやスナイプする分にはそれが最適解なんだけど」

『その最適解じゃ倒せない相手も居るってこと。・・・終わらせる』

 

 態勢を立て直したディザイアがブースターを起動させ一直線に突撃する。

 

「どうする? 緩衝材になるくらいならできると思うけど?」

「・・・いや、緩衝材になられるとむしろ不都合かな」

「へぇ?」

「ビームのダメージを受けないわけじゃないんだろ? だったら」

 

 ウィスタリアが軽いステップを踏みオリジンの前へと出るとマルチバスターライフルをディザイアに向ける。

 

「無効耐性じゃないなら、上から撃ち砕くだけってね」

『斬られたバスターライフルで? 悪いけど、ツインバスターライフルだってディザイアは受け止めるよ?』

「それはバスターライフルの話でしょう」

『えっ?』

 

 ガコン、と鈍い音を立てながらウィスタリアが背負っていたキャノン砲が射出され宙を舞う。

 

「これは、マルチバスターライフルだ」

 

 マルチバスターライフルを天に向けるその様はまるでファーストガンダムの最も有名なポーズとも言えるラストシューティングの構えのようにも見える。

 構えた姿勢のままキャノン砲がマルチバスターライフルに接続される。大型のキャノンとなったマルチバスターライフルをウィスタリアは両手で大きく構えた。

 

「マルチバスターライフル【MODE3:CANNON】!」

『サテライトキャノン!?』

「全エネルギーを纏めて撃ち出す砲身です。これは、耐えられますか?」

 

 サテライトキャノンのような形状をしたマルチバスターライフルだがマイクロウェーブを受信することも無く粒子が砲身に集中し、一瞬の時間差を置いて解き放つ。

 マルチバスターライフル内に溜め込まれたすべての粒子がガンダムキマリス・ディザイアに襲い掛かる。機体よりも遥かに巨大なビームの塊がヒマラヤの大地を削り取り、白銀の世界を夕暮れ時のような色へと塗り替える。

 

『・・・いけっ』

 

 対してディザイアは、止まることなくランスを構えたまま真正面から突っ込んだ。

 ランスがビームとぶつかり合い、ビームが真っ二つに裂けディザイアの背後へと着弾する。

 

「マジですかっ!?」

『マジ、だよっ!』

 

 ビーム耐性の塊とも言うべきディザイアはゆっくりと、しかし止まることなくビームを切り裂きながら突き進む。だがウィスタリアもまた全粒子を振り絞った全力全開の攻撃だ。

 進めば進むほどに砲口に近付くためその威力と熱量はどんどん上がり、次第にデストロイヤー・ランスや肩の大型ブースターが溶解を始める。

 

『こ、の・・・!』

「堕ち、てくださいよ!」

 

 ディザイアがビームに耐えきれず呑み込まれるのが先か、あるいはウィスタリアが限界を向かえ突破され貫かれるのが先か。最早二人のファイターの意地だけで競り合っている状況と言えた。

 

 ――そう、二人の――

 

 ドスリ

 

『へっ・・・?』

「えっ、何が・・・」

「アイバ君、キャノン切って。私まで蒸発しちゃう」

 

 外部スピーカー越しに聞こえた声に大慌てでマルチバスターライフルのトリガーを離す。ビームが途切れ、夕暮れ色に染まっていた世界が銀世界の色を再び取り戻す。

 そしてトウジは今度こそ目を大きく見張る。あの難攻不落としか言い様の無かったディザイアを、貫いた真っ赤に輝く腕が見えたからだ。

 ガショリ、と腕を引き抜くと支えを失ったディザイアが崩れ去り、腕の主であるGN-X・オリジンの姿が現れる。

 

『アマネちゃん・・・どうやって後ろに・・・?』

「飛んで上から。幸い飛行能力は残ってましたから」

『にしても、入り込む速度が速いよ?』

「裏技は最後まで残しとく主義なんです」

 

 ブン、と腕を振るうとオリジンの右腕にまとわり付いていた赤い粒子が霧散する。

 ディザイアを貫いた腕の正体はGN-Xに装備されながらも特に使われた描写の存在しない武装、GNクローだ。GNフィールドを纏うことで威力を引き上げるのだが、オリジンはGNフィールドに防御を任せている都合上この武装も威力が上がる。

 実はアマネが気に入っている武装だったりした。

 

「あの赤い粒子、トランザム・・・? GN-XⅠなのに?」

「さて、どうでしょうか?」

 

 クスクスとカメラ越しに微笑むアマネに、声をかけたトウジは背中に何故か冷たい何かが走り抜けたような気分になる。そしてつい思ってしまう。

 このセリザワ・アマネというファイター、スナイパーというよりむしろ・・・。

 

暗殺者(アサシン)、なんだな根本的に・・・)

『うぅ・・・悔しい・・・後は任せたオリニィ』

 

 とりとめのないことをトウジが考えているうちに限界を迎えたディザイアがオリハの台詞と共に爆発する。これで残るは、カザマ・オリヤのガンダムキマリス・オラシオンのみ。対してこちらは三機が健在。だが、

 

「セリザワさん、ヤナミの援護に行く余裕ある?」

「無いかな。さっきの裏技で実はほとんど動けなくなってる」

「だよね・・・ウィスタリアも限界。これ以上動けそうに無い」

「ということは、図らずともヤナミ君には一人で頑張ってもらわないといけないわけだー」

「・・・あの、セリザワさん。オレの感覚が正しければ、声が弾んでるように聞こえるんだけど・・・」

「タダより高いものは無いのよ」

「はい?」

「タダで飲んでガンプラして、なんてしてるヤナミ君にもたまにはガッツリ働いてもらわなきゃ、ね?」

「・・・・・・」

 

 何かを言いそうになったがトウジはぐっと言葉を押し止めた。自分まで巻き込まれるのはごめんだった。

 

「ヤナミ、意外とその契約、悪魔の契約だったかもよ・・・?」

 

☆★☆

 

「背筋がゾワゾワァ!?」

『うおぉぅっ?』

 

 雑に力いっぱい振り抜きバトルブレードを弾き飛ばす。ゲシュテルンとオラシオンの戦いは近接戦闘に切り替わっていた。

 

「なんだったんだ今の悪寒・・・終わったらさっさと帰るべきか・・・?」

『にしても硬すぎるだろその銃! なんで剣を弾き飛ばすかねぇ!』

「そりゃああの火力を耐えるためにはそんだけ硬い必要があるって」

『納得いかねー!』

「ドーカン」

 

 ゲシュテルンが手に持つのは変わらず大型のハンドガンだ。だがその使い方は発砲すれば腕が吹き飛びかねないためバトルブレードを銃身で弾くという無茶苦茶なものだった。

 だがそんな無茶苦茶な使い方でもハンドガンは折れることも切り裂かれることも無く、真正面からバトルブレードと打ち合うという不思議な状態に陥っていた。

 

『へへ、まぁ硬ければそんだけ斬りがいがあるってもんだ。ちょうど馴染んできたしな』

「あ? 馴染む?」

『見て驚きやがれ!』

 

 バトルブレードを両手で祈るような構えをした後今度はホームラン予告のようにブレードをゲシュテルンへと向ける。

 変化はその一連の流れの後に訪れた。甲高く澄み切った高音が響くと同時にバトルブレードの刀身が根元から暗い朱色に染まったのだ。

 再びバトルブレードを両手で握り身体を捩りながらオラシオンが突撃する。対してミコトはそれまでと一変した雰囲気を感じ取り咄嗟に収納していたリボルバーを放り投げ、光の翼を展開してその場を離脱する。

 一瞬遅れてオラシオンが勢いそのままに振り抜いたバトルブレードは残されたゲシュテルンの残像とリボルバーを捉え、斬り裂いた。一切の停滞は無く、さながら熱したナイフに触れたバターのようにそこそこの強度を持っていたハズのリボルバーは真っ二つとなった。

 

「ちょっと待てぇ!?」

『どうよぉ! これが振動剣、単分子ブレードってヤツよぉ!』

「微妙に違うからなその二種!」

 

 ミコトが焦ったように叫べば得意げにオリヤが胸を張る。

 単分子ブレード。単分子ほどの薄さの刀身を持つ理論上最も鋭い切れ味を誇る剣。だがベースにバトルブレードを用いているためか刀身はそれほど薄いわけではない。故に単分子ブレードとオリヤは呼んでいるが実際は先に呼んだ振動剣の方が呼称として正しいのだろう。

 振動剣とは刀身を超高速で振動をさせることで触れたものを削り取る剣だ。場合によっては熱を用いて溶断する場合もあるがガンダムにおいてはアーマーシュナイダーやフォールディングレイザー、ソニックブレイドのような振動により強力な斬撃を用いることが多い武装。恐らくはオラシオンのブレードも同じだろう。

 

『単分子ブレードの方が響きはカッコイイだろう!?』

「そんな理由かよ!!」

 

 思わずツッコミを入れてしまったがあの切れ味はヤバイ。先ほどまでと違ってハンドガンで受け止めるのは厳しいだろう。

 となれば、対抗しうる武器は1つしか無い。再び単分子ブレードを構えて斬り裂かんと迫ってきているのをカメラ越しに見てミコトは武器スロットの今まで触れていなかったスロットを選択する。

 ガコンと、背中の大剣のロックが外れ重力に従い回転しながら落下する。

 半回転した所で柄が延び、それを握ったゲシュテルンは肩アーマーのスラスターを併用し力任せに振り回した。単分子ブレードとぶつかり合った大剣は一瞬の停滞も許さず単分子ブレードを弾き飛ばした。

 

『ウッソだろおい!?』

「Vガン要素は無いぞ?」

『そんなボケは要らねぇ!? 単分子ブレードで斬れないとかお前の追加武器さっきから何なんだよ!?』

「古代遺跡から出土したアーティファクトってことでよろしく頼む、わ!」

 

 柄を両手で握り直すとゲシュテルンは勢いそのままに一回転し振り下ろすような形で単分子ブレードを弾かれて態勢を大きく崩したオラシオンを大剣で捉える。

 ゴリ、と鈍い音を鳴らした直後オラシオンは凄まじい速度で落下、ヒマラヤの表面に叩き付けられた。

 

「ふぅ・・・少しは使えてるか? クラレント」

 

 クラレントの銘で呼ばれた剣はまるで応えるように翠のクリアパーツに陽光を反射する。

 途端、白銀の世界が黄昏へと染まった。

 

「なんだっ!?」

『隙ありぃ!』

 

 雪を吹き飛ばしながらオラシオンが高速で突っ込んでくる。咄嗟に反応が遅れたゲシュテルンの右肩のアーマーを単分子ブレードが斬り飛ばす。

 

「なんつー反応速度してやがるっ」

 

 悪態と共にクラレントをさらに振り回すがオラシオンはそれを両手で握り直した単分子ブレードで受け止め、そのまま受け流してみせる。

 

『動きが流石に重たすぎるぜ!』

「そっちこそ、動きが鈍くなってるな。さっきのダメージが思ってたよりデカかったんだろ?」

 

 お互いの振るう剣は共に必殺。しかし現状を見るならクラレントを受け流してみせたオラシオンの方が有利だろう。

 どうしても重たい大剣という武器の都合上振れる角度等も決まりがちだが、それを重さで補い撃ち砕くのが大剣という武器の性質だ。なのにオラシオンはその重量を的確なテクニックだけで受け流してしまうのだから、ある意味お手上げ状態だ。

 

(長引いたらこっちが不利。だったら、ダメージがまだ抜けきってないここで叩くしかねぇか!)

 

 スロットを呼び出しカーソルを“EX”へと合わせる。一拍の間を置いて、ミコトはスロットに内包されたシステムを解放する。

 

「【System・EX】! 行くぜ、ゲシュテルンガンダムフリューゲル!」

 

 ゲシュテルンガンダムに青い輝きが宿り蒼銀に輝く光の翼を広げる。クラレントを肩に担ぐような姿勢になるとオラシオンをにらみつける。

 オラシオンもまた、その視線に不敵に応える。

 

『真正面からのぶつかり合いってこったな。いいぜ、応じてやる』

「全力ってヤツだ。・・・叩き潰す」

『ハハッ! いいねいいねぇ! なんだよ、やっぱお前超熱いじゃん!!』

「今のやり取りでなんでそーなんだよ」

『決まってるだろ! 真正面からぶつかり合いたい、小細工も全部駆使して全力で叩き潰しにくるから俺にもそうしろって言ってんだろ! それを熱い以外にどう言えってんだよ!』

「・・・勝手に言っとけ」

 

 オラシオンもまた、全力で剣を振るうべく単分子ブレードを振りかぶり、シールドブースターを点火する。

 静寂。お互いに、最速で目の前の敵を打ち倒す一瞬を狙っている。

 そんな中でオリヤは青い輝きを放つゲシュテルンガンダムの現象について当たりを付ける。以前、白いジ・Oとの戦いでそれを見ていたオリヤには何となく正体が察せていた。

 

 ――あの時は蹴飛ばされて大きなダメージを喰らってた。その分火力とスピードが跳ね上がってたところを見ると、防御力を犠牲にした能力アップってトコだろ?――

 

 ならばあの状態になった時点でオラシオンの攻撃が確実に一撃必殺になる。

 オリヤは自身の勝利のルートを幾つか考え、その中の1つを絞り込む。

 不意に、視界の色が黄昏色から白銀へと戻る。それは1つの戦場での戦いが終わった証なのだが2人には分からない。

 睨み合っていた2機が世界の色が変わったことをトリガーにして弾かれたように飛び出し合った。そのタイミングは完全に同じ。

 

『予想通・・・りっ!?』

 

 オリヤの声が裏返る。オリヤはそれまでの幾度もの激突を経てゲシュテルンのスピードをだいたい把握していた。

 それ以上に早く鋭い激突を予測していたのだが、実際には。

 

『遅ぇ!?』

「速さは要らない! 一撃で砕いてやるぞ、クラレント!!」

 

 そう、遅いのだ。【System・EX】を起動するより前に比べても、全然遅い。光の翼を展開していることでようやくまともなスピードになっている程度だ。

 予想よりもずっと遅いためにタイミングが完全にズレたオラシオンはタイミングを取り戻すためにファンネル・ディスクを射出するが、ゲシュテルンはまるで意に介さずそのまま突き進む。明らかに防御力が上がっていた。

 

『ま、待てっ!? それって防御を犠牲に速くなって火力上がるんじゃねぇの!?』

「勝手に決めつけてんじゃねぇよ・・・!」

 

 止まることなく突き進んだゲシュテルンガンダムはそのままオラシオンへと肉薄する。大きくその身体を捩り込み、竜巻でも起こす勢いでクラレントを振り抜いた。

 一瞬遅れてオラシオンも単分子ブレードを振り抜く。2本の剣がぶつかり合い火花が激しく散る。

 打ち勝ったのは、剣の中の王者とも呼ばれし輝剣――ゲシュテルンガンダムフリューゲルが振るうクラレントだった。

 単分子ブレードがちょうど真ん中の腹の部分から砕け散り刃と刀身を覆っていた朱色の輝きがガラスのように陽光を反射して舞い散った。

 

『マジで?』

「墜、ちろぉ!」

 

 勢いそのままにクラレントが振り抜かれた。その剣筋の先にあったオラシオンを巻き込みつつ。

 オラシオンの胴体が、破砕された。

 

 

 

“BATTLE END!”

 

 

 

☆★☆

 

 

 

『完璧な威力やね・・・自分の才能が恐いわぁ』

「馬鹿言ってないで、セーフティロックかけるんで調整用のパスワードさっさと寄越してください」

 

 これ以上無く鬱陶しそうにミコトはパソコンから放たれた声に要求する。

 バトル終了直後、ミコトはガンプラカフェのすぐ外でネット通話を行っていた。相手側にはこちらの顔を見せろと強要されているため仕方なくノートパソコン備え付けのカメラで映像を流しているがミコトの通話相手は海賊旗のようなドクロの下に2丁の銃がバツを作っているアイコンのままだ。

 

『えぇー』

「何がえぇー、ですか! 撃つだけでこっちが撃墜判定貰いかけるハンドガンなんて聞いたことないですよ!」

『いやん、怒らんといてー』

「怒られたくないならさっさとパスワードをですね」

『おねえちゃん』

「は?」

『その気持ち悪ーい標準語止めておねえちゃんって呼び。そしたら教えたらんでもないで』

 

はぁ、とため息と共にミコトは頭を抱える。この必要以上にふざけているように聞こえるこの人物は、本気全開の発言なのが死ぬほど質が悪い。

 

「・・・姐さん」

『んー、まぁ固いけど良しとしたろう』

「頼むから勘弁してください。俺かてあんま得意やないし、そもそもあなたを姉なんて呼べるわけないでしょう?」

『実際ほとんどおねえちゃんやーん』

「・・・ふざけてでも言えませんよ。そんなん」

『責任感強すぎるンも考えモンやなぁ・・・』

 

 やれやれといった感じに肩をすくめる気配がパソコンの画面越しに伝わってくる。

 固いと言われようがきっと変わることはない。だってそれは、ヤナミ・ミコトの根幹の一部なのだから。

 

『ま、パスワードは送っといたる。今回のデータもあればある程度調整用のパーツも作って送ったるよ』

「今更ですけど銃匠(ガンスミス)がそんなポンポンと1人のファイターに提供して大丈夫なんスか・・・」

『おねえちゃんとオトート君の仲やないのぉー』

「一切そんな仲は無いんで」

『えー。・・・おっ、剣匠(ソードスミス)の剣もえぇ感じに使えるようになっとるやん』

 

 どうも今送ったさっきまでのバトルのムービーを現在進行形で見ているらしい。ちょくちょく感想が挟まっていくため話の腰が折れまくる。

 こうなってしまうとまともに話を聞かないだろう。というかほっといたら変な愚痴の相手にされかねない。

 

「切りますよ。外でパソコン開いてるのわりと重くてしんどいんで」

『んー、しゃあないなぁ。次のバトルも経過報告よろしくなー』

「はいはい、っと」

 

 軽く操作を行い通話を切りノートパソコンを閉じる。そのままさっさと帰路へと付かんとする。

 不意に目の前の扉が開いてその帰路を邪魔されたのだが。

 

「おう、ミコト」

「凄まじく馴れ馴れしいなっ」

「全力で戦ったのなら、もうマブダチ」

 

 グッとサムズアップするオリハとこれ以上なく笑顔を浮かべ同じくサムズアップするオリヤ。先ほどまで激戦を繰り広げたカザマ双子である。

 やはりというか、なんとなく暑苦しい。

 

「アァァァァァ!!!!」

 

 扉の向こうから何か聞こえてきたので全力で扉を閉めた。声はなんとなくアキヅキ・カイチのもののような気がしたが気にしてはいけない。気にして巻き込まれるのはただただ馬鹿なのだ。

 

「いやぁ、久しぶりにガッツリバトルできて楽しかったぜー。ありがとなー」

「いや、礼を言われるようなことなんてしてねーよ。こっちもいいデータが取れたし、そもそも勝ったのは俺らだぜ? 爽やかすぎやしねぇか?」

「オリニィは常に馬鹿みたいに全力で戦うから、勝ち負け関係無く自分がスッキリすればそれでいいって考えなの。馬鹿だから」

「オリネェだって同じだろう!?」

「揃いも揃ってあんたら双子は・・・」

 

 ため息を吐きながらもどことなく楽し気にミコトも応える。正直に言えば、ついつい熱くなったバトルの後だ。それを繰り広げた相手との会話は楽しいというところはあった。

 少しバトルを回想してふと持ちあがった疑問をミコトはオリヤに投げ掛ける。

 

「何で最後真っ向からぶつかってきたんだ? 別に応じる必要性はまるで無かったしむしろ少し距離取った方がそっちが有利になったろ?」

 

 それは最後のぶつかり合い。ゲシュテルンとオラシオンの剣撃対決。真正面からのぶつかり合いを望んだのはミコトでありオリヤが応じる必要は一切無かった。むしろ、あの段階で機動性に勝るオラシオンが機動戦を仕掛けていればゲシュテルンが打ち勝つのは厳しかっただろう。

 それは当然、歴戦のファイターであるオリヤも承知のハズだ。

 だがオリヤは、ミコトの予想だにもしないことをきょとんとした表情のまま言い放った。

 

「何でって、それが一番楽しいだろ?」

「ハァ?」

「お互い全力を出しきって戦うのってさ、結構難しいじゃん? 自分が全力を出せば相手が全力を出してくれるわけじゃない」

「毎回毎回全力を出せば相手も応えてくれるわけがない。それをやれるのは・・・それこそ、メイジンくらいじゃないかな」

 

 何かを思い出すようにオリハもオリヤの言葉に続く。

 

「残念だけど、私にもオリニィにもそんな技量は無いけどね」

「だけどさ、お前は全力で俺を真正面から倒そうとしてきてくれたじゃん。それが楽しくなっちまってさ! だったら俺も当然今出せる全力で真正面からぶつかってやらぁ! って気持ちに満ち溢れたってわけだ!」

「私はラストがラストだけだっただけにちょっと消化不良だけど・・・まぁオリニィはこの通り馬鹿だから全力出し合ったからスッキリしちゃってるの。オリニィの理論だから真面目に考えるだけ無駄だと思うよ」

「オリネェ何か消化不良だからって毒強くなってない?」

「なってない・・・とは言わない」

「オリネェ・・・」

「・・・くっ、くくっ」

 

 双子のいつも通りのやり取りなのだろう。慣れたように会話し合う2人を見ているうちにミコトは腹の底からこみ上げてくる笑いを抑えるのに必死だった。それでも漏れ出た笑いは何というか、低い笑い声なのだが。

 

「若干キモイなその笑い方」

「悪かったな。・・・ま、アレだ。俺も・・・楽しかった」

 

 笑い声を抑えてオリヤとオリハを見る。2人も笑んでいた。

 

「また遊ぼうぜ」

「おう、次は負けねぇからよ!」

「私は実質ミコト君には負けてないけど、また相手してあげる。・・・ちょっと生意気な年下だし、次勝ったらお姉さん呼びを強要してみようかな」

「ここでもそれは勘弁願いてぇわぁ」

 

 笑い声が反響する。

 ここはガンプラカフェ。ガンプラ好きがふらりと立ち寄り、ガンプラを通じて新たな繋がりを作る場所。

 

「イヤァァァァァ!? 店長もアマネも許してェェェェ!!?」

 

 たまにある者にとっては地獄と化すこともあるが、それはまた、別のお話。

 

☆★☆

 

 

「ただいま」

 

 一足早く帰宅したアイバ・トウジはリビングのミニボードに書かれた文字を見る。

 どうも母は用事で遅くなるらしい。夕食は冷蔵庫に入っているので自分の好きなタイミングを選べるのは正直ありがたかった。

 足早に自室に入るとすぐに専用のケースから愛機であるガンダムウィスタリアを取り出す。今日のバトルは激しかった。いくら設定されていたダメージレベルがCとはいえ、調整はやっておいて損は無い。それがきっと、強くなるためには必要だから。

 

「・・・・・・」

 

 ふと目線をベッドの上へと向ける。吊るされたコルクボードにはたくさんの写真が同じくコルクのピンで貼り付けられていた。

 目を引くのは、中央の写真。それは少しだけ今のトウジより幼いトウジと、もう1人が写る写真だ。

 写真の中のトウジはウイングガンダムを。

 もう1人の人物はガンダムXを持っている。

 2人とも輝かんばかりの笑顔だ。

 

「・・・強くなるんだ」

 

 ギリ、とトウジは歯を強めに噛み締める。

 

「そのために、藤の花(ウィスタリア)は咲いたんだから」

 

 アイバ・トウジ。彼が自分のガンプラバトルに求めるものは。

 強さ。

 

 

★☆★

 

次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-

 

「ガンプラから離れてリラックスする日も必要ってこったなぁ」

「お願いしますUFOキャッチャーさーん! 後生、後生ですからぁ!!」

「カイチなら潰れたけどさらに使い潰してる最中だけど?」

 

【Build.07:ヤナミ・ミコトの華麗でも何でもないとある1日】

 

「チームを組もう。チーム名は――」


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