ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア- 作:結城ソラ
『突撃、開始!』
宣言と共に二機のキマリスが動き出す。地上を駆け抜けるディザイアがゲシュテルンに狙いを絞り、オラシオンはウィスタリアとオリジンを薙ぎ払わんとする。
『おっしゃー! 俺も続くぜぇ!』
合わせてダークハウンドが突撃を開始した。それを見て地上からゲシュテルンがドッズライフルの照準を合わせる。
『おっと、そっちには動かないでもらうぜー!』
「ちっ!」
上空のオラシオンがその手に持つビームバズーカを発射する。一瞬のチャージの後にゲシュテルンの周辺を拡散したビームが吹き荒れる。
舌打ちと共に防御行動を取るがビームの幕が視界を遮る。
『こっち』
「ぐぅ!?」
ビームの中をシールドで弾きながら迫ってきたディザイアが左手に持ったデストロイヤー・ランスをフルスイングする。ディザイア本体よりも巨大なランスによる殴打は強烈な衝撃を
生み出し、ゲシュテルンを吹き飛ばす。
「ヤナミ君ッ」
『このまま追撃かける』
『任せた!』
『おっしゃぁ! 俺も行くぜぇ!』
雪の積もった森林に姿を消したゲシュテルンを四足のホバークラフト状態、
それに合わせてオラシオンが肩に装備したフラッシュエッジを引き抜きビーム刃を生み出し、ダークハウンドはドッズランサーを構える。
「・・・悪いけどアイバ君、少し時間稼いでもらっていい? 狙撃できるポジション取りしたい」
本来ならミコトとトウジが敵とエンカウントする前にポジション取りをする予定だったのだが後先見ず、勘だけでこちらの居場所に最速で到達されたため狙撃手としての役割を果たせない状態なのだ。
それを理解したトウジは軽く頷く。
「アキヅキの方は素組だしオリヤさんも何回か戦ってるから戦い方はなんとなく分かるから、ある程度何とかなると思う」
「悪いけど、お願い」
言葉と共にオリジンの姿が消えていく。ステルス迷彩だ。
『おおっ? やっべーよオリヤン! アマネ居なくなっちまったぜ!?』
『落ち着けカイチィ! それ対策の作戦があるだろっ!』
『ハッ! そうだった!』
「・・・バカが増えた・・・」
思わず頭を抱えたくなる衝動をアマネは必死に抑えた。
それが一瞬の油断に繋がった。不意にダークハウンドの胸部の髑髏がキラリと輝き、オラシオンの頭部から四つの弾が放たれる。
光が、爆発した。
☆★☆
雪山の一角を巨大な衝撃が襲い、雪や木々が弾け飛ぶ。吹き飛んだ雪の中に機影がある。ゲシュテルンガンダムと二足形態へと戻ったガンダムキマリス・ディザイアだ。
「馬鹿力がっ」
『褒め言葉』
吹き飛ばされながら悪態を吐くミコトの言葉に無表情のままオリハが答える。
(どれだけ飛ばされた? 結構離されちまったか)
思わず舌打ちする。離れようとしても騎兵形態になることで相手は足場を気にせずに走るうえ、馬鹿みたいな推力を叩き出せる装備をしている。
さらには推力を用いてデストロイヤー・ランスを振り回す勢いが激しいため防御を幾ら固めても当たれば大きく吹き飛ばされ、あるいは回避を繰り返しているうちに最初の会敵したエリアからは遠く離されていた。
「こんのっ!」
さらなる突撃に合わせてドッズライフルを撃ち込むがシールドに受け止められる。しかし構えたシールドによってふさがった視界を狙ってビームサーベルをシールドの死角から叩き込むが今度は右手の籠手がサーベルを受け止める。
ドッズライフルよりかは、ある程度サーベルの方が効いているような気がするがダメージは大して見えない。
「全身にビームコートでもしてんのかよ」
『鉄血機体だから、ビーム耐性バッチリ。この耐性が世界からビームを奪った』
さらっと言い切りランスによる連続突きを放つ。サーベルはリーチの差があることに加えてランスにまでビームコート加工されてサーベルを弾かれるとどうしようも無い。
「だったら・・・!」
回避行動を取りながらサーベルを腰に戻し両手を開き、バックステップでバーニアを吹かしながら逃げる。
『逃がさない』
肩と腰のスラスターが火を噴き突撃の構えをしながら左手の籠手を射出する。鋭利な爪が、ゲシュテルンを逃がさず抉りとらんとする。
「こ、こぉ!」
バーニアを切り、地面を全力で踏み締める。
雪が溶かし跡を残しながら速度を無理矢理削り取る。踏み止まった瞬間に身体ねじり込み爪の射線の内側へと潜り込む。
『えっ』
「破ァ、ってな!」
射出されたクローにパルマフィオキーナを叩き込む。甲高い音と共にクローが吹き飛ぶ。その瞬間を逃さずにバーニアを再び着火し突撃する。
「たとえビームが効かなくても、パルマフィオキーナで直接ビームを叩き込めば幾らビーム耐性があろうが関係ねぇ!」
光が右腕に集中し、ディザイアの胴体へとその右腕を突き出した。
だが、
『惜しい』
「・・・はっ?」
吹き飛ばされた。ディザイアは態勢を崩したままで対応しきれないハズだというのに。
『突撃に関しては、私達双子が負けるわけにはいかない』
ガシャン、と前のめりに倒れるようにして態勢を立て直すディザイア。その脚部は既に騎兵形態へと変わっている。
「・・・ッ! そうか、ホバークラフト!」
ホバークラフトを展開する前足を構成するパーツは人型形態の膝アーマーの内側に収納されている。カメラの死角で展開、ゲシュテルンに向かって突き出されたホバークラフトを放つ先端から強烈な空気圧が放たれ吹き飛ばされたのだろう。
それにしても突撃に合わせて完璧にカウンターを決められた。完全にタイミングを把握されている。
『本当の突撃は、こう・・・!』
「うっ、そだろ!?」
シールドブースターを含めた七つの加速装置が一瞬で火を噴き、その推力は一瞬で最速へと到達する。
ドンッ、という轟音と衝撃を響かせながら距離を詰めたその様は外から見ていればまるで数コマを飛ばした瞬間移動のようにも見えたほどの圧倒的加速。
“本当の突撃”。それを謳うに相応しい瞬間的突撃だった。当然それに対応できるわけもなく、シールド・バッシュを受けたゲシュテルンが吹き飛ばされた。
「ちっくしょう!」
思わず悪態を吐き捨て溜め込んだパルマフィオキーナのエネルギーを地面に向かって解き放つ。
高熱を伴ったエネルギーが雪を一瞬で吹き飛ばし、白煙が吹き荒れる。
『・・・小癪。でも、甘い』
肩の大型ブースターを前面に向け、一瞬だけ全力で噴射する。押し出された大量の空気が白煙吹き飛ばした。
『・・・・・・むぅ』
だが、白煙の晴れた後にゲシュテルンの姿は無い。
『逃げ足凄い。まるで私のプリン食べた時のオリニィみたい。・・・仕方ないな』
オリハは一つため息を吐くと、通信回線を開こうとしつつ移動を開始する。
『・・・・・・山狩りって響き、ちょっと楽しそう』
☆★☆
真っ白に染まった視界を振り払うようにカイチは頭を振る。
「目がイったかと思ったゼ・・・」
「フラッシュアイと閃光弾で視界を奪う、しかもアマネちゃんはスナイプするべくセンサーの感度を引き上げてる! その結果保護用の視界カメラのセーフティがかかって無力化できる!」
HAHAHA、とアメリカンな高笑いを上げるオリヤにノリだけでカイチも続く。
「ところでオリヤン、肝心のアマネどこ行った?」
「んん? ステルスが継続してるのか・・・だけどどーせウイングの後ろに下がったままだろ! 突撃するぜぇカイチ!」
「OK! オリヤン!」
ウィスタリアの背後に照準を絞り一気に突撃を開始する。
『5・・・・・・4・・・・・・』
「ッ!? カイチ、止まれ!」
「え、ムリだって!?」
ゆらり、とウィスタリアが動いた。それを感じた瞬間に止まろうとするがトップスピードに入った二機は止まれない
『2・・・・・・1・・・・・・・・・1つずらして、今ッ!』
「なッ!?」
「うぉぉぅ!?」
すれ違った一瞬後にダークハウンドの足とオラシオンの手首をウィスタリアの両手が掴み変形する。
まったく警戒をしていなかったカイチとオリヤは対応が遅れそのまま空に向かって連れ出された。
「おおおお!? これどうされるんだあああ!?」
「まっじぃぞカイチ! ここのバトル台の通信システムは店長の拘りで戦闘で大きく粒子が動いている時は使えなくなってる仕様だから目的はアマネちゃんとヤナミの合流だこれ!」
ちなみにこの仕様は店長が「ミノ粉っぽく通信阻害起こしたら盛り上がんないかな!? 戦闘中は通信繋がりにくくなるからよりチームの連携が大事とかさ!」とかのたまったため実装されたシステムだ。
『このまま引き離・・・』
「おぃっしょぉ!」
『してぇっ!?』
急上昇が止まる。オラシオンがカメラを向ければそこに映ったのは両肩のバインダーからアンカーショットを放ち片方をウィスタリアに巻き付け、もう片方のアンカーを地上に楔として打ち込むダークハウンドの姿。
「やっぱ俺って、不可能を可能にしちまうんだなァ!」
「素ッ晴らしいぜぇカイチクゥン!」
「まぁなぁ! さて、この状態から切り抜けるには・・・お! この時だけ使える特殊技とかあるじゃん!」
「え、ちょ、待てカイチ! それたぶん――」
「ポチッとな☆」
途端、三機を光が包んだ。ステータスアップのオーラ的なモノでは断じてなく、チカチカと電飾のように点滅する光であり、要するにガンダムお馴染み“ワイヤー+高圧電流”である。
さてここで状況を整理してみよう。
電流の大本であるダークハウンドはそのアンカーを地表に突き立てもう片方をウィスタリアに巻き付けている。だが、ウィスタリアの両手にはダークハウンドとオラシオンが捕まれている。
そんな状態で高圧電流を流すと――。
「アバババババ!?」
「そりゃ俺らも揃って感電するってのー!?」
『抜かった・・・アキヅキ・カイチのバカさを計り損ねてた・・・』
しばらく電流が流れたところでオラシオンが放されウィスタリアとダークハウンドがワイヤーで絡み合ったまま落下していく。元々ダークハウンドの高圧電流はパイロット及び内部機器にダメージを与えるモノのため、操縦システムが一部麻痺したのだろう。
ある程度風に流されながら自由落下したところでオラシオンの制御系が復活し、慌てて空中で体勢を立て直してプラフスキークラフトを再起動する。
「あぶね・・・流石に墜落は洒落になんないぜ・・・」
次いでカイチの反応を探してみるが見当たらない。周辺を見回してみても先ほどと少し景色が変わっている。
「カイチが地面にアンカーを刺してたしワイヤーが絡まってたから重たい分一気に落ちたか・・・んで、俺は山風に乗っちまって結構離されたっぽいなぁ」
『オリニィ』
「おわっ、オリネェ!?」
不意に目の前の画面にオリハの姿が映る。どうやら大きく離れたことで通信回線が回復したようだ。
「もしかして仕留めたー?」
『・・・・・・』
「あ、うん。ごめん」
半眼になって睨まれたので何かを言われる前に謝る。早めに言っとかないと後でプリンとか奢らされる。
『ところでオリニィ』
「うん?」
『・・・山狩りって響き、かっこよくない?』
少しタメを作ってからオリハが言う。その目は基本さざ波くらいの動きしか無い目がちょっと輝いてる気がする。
「オリネェ・・・・・・」
オリヤはその瞳を見、言葉を聞いた瞬間に抱いた感情をストレートに紡いだ。
「ワルカッコイイにもほどがありすぎてグッジョブだぜ!」
『うん、ぐっじょぶ』
双子は一寸のズレもなく画面に向かってサムズアップした。
☆★☆
「正直シンドイわー・・・」
山の一部、ぽっかりと空いた空洞に身を隠したミコトは思わず呟いた。
「座標軸確認用のビーコンがようやく機能し始めたな。プロトの利点だわな・・・このまま通信も回復すれば・・・」
『あっ、繋がった?』
不意に画面上に“Sound Only”の文字が浮かぶ。スピーカー越しに響くのはアマネの声だ。
「セリザワ。生きてたようで何より」
『厄介なの喰らっちゃったけどね』
そこからアマネは離された後の事情をミコトへと話す。
ステルスで狙撃ポジションに移動しようとしたところ閃光弾とフラッシュアイを喰らいセーフティがかかったたらしい。スナイプに専念するためにセンサーの感度を引き上げていた故のダメージ。
幸いステルスは機能を失わなかったらしく、ウィスタリアが二機を無理矢理抑え込んでその隙に逃げ出したらしい。一応ウィスタリアの撃墜マークは出ていないので無事逃げ延びたのではないだろうか。
『こっちの話はこんな所。そっちもしんどそうだし何とか合流したいわね』
「あぁ、それならいいのがある。今データそっちに転送するけど・・・合流してもフレンドリーファイアはゴメンだぜ?」
『スナイパーは伊達じゃないわよ。ノーマルなアッガイくらいならエレドア抜きでも一発で撃墜してあげる。・・・流石に、高機動空戦機二体を目隠ししたまま一発で撃ち抜く自信は無いけどね』
「おーけー。信用しとく」
コンソールを操作しとあるデータをアマネへと向けて送り出す。視界以外のシステム面は何とか復旧してきているようだ。そんなことを思いながら転送が八割ほど済んだ時。
――ズゥゥゥン――
『キャッ!?』
「うぉ!? 何だ!?」
重々しい振動と共にパラパラと小石が天井から落ちてくる。それが2度、3度と続く。
『まずっ・・・!』
「どうしたっ?」
『音か・・・・・・て・・・雪崩がま・・・気をつ』
ブツリ、とまるでコンセントが抜けたようにノイズがかったアマネの声が消え通信が途絶する。その原因を悟ったミコトはランドセルのブースターを点火し洞窟の外を目指す。
ノイズがかかり、少ししてからそれまで良好だった通信が不意に切れた。ということは。
(俺かセリザワの付近に粒子が乱れる程急接近してきてる敵が居る――!)
光が近付く。出口はすぐそこ。その光を突っ切り――。
『・・・いらっしゃいまーせー』
「ブースターパージ!」
直進方向にキマリス・ディザイアが待ち構えて居た。だがその長大なデストロイヤーランスによる突きのモーションより先にゲシュテルンの背のランドセルが分離しその推力を余すこと無くディザイアの頭部付近にぶつかり小規模の爆発を起こす。
その隙を見逃さずスライディングの形でゲシュテルンがディザイアの足下から背後に逃げ出す。
『あう。・・・ヒドイんだー、女の子の顔狙うなんてー』
「うっせ知ったことか。近付かれてるの分かった時点で対策打つ準備はするっての」
オリハが少し頬を膨らませるような素振りをした。ミコトには見えないが言葉を聞いて肩をすくめる。
――キュァァァン――
「いっ!?」
ゲシュテルンとディザイアが向かい合った直後、空から幾重もの重なったビームがほどけ、雨のように降り注いだ。
『んー、オリニィ炙り出し作戦まだ続いてると思ってるのかな? もう通信できないし』
「雪崩とか洞窟が崩れかかったのやっぱお前らのせいかっ!?」
『・・・山狩り』
「は?」
『山狩りって響きは、とっても、ぐっじょぶだった』
不意にオリハが語り始める。呆気に取られ、つい聞いてしまうミコトにオリハはさらに言葉を紡ぐ。
『とりあえず、空からオリニィが旋回しまくって、私は騎兵モードで悪路をものともせず探し回った』
「お、おう」
『でも飽きた』
「おい」
『そこで二人でいっぱい考えてみた。時間にして約13秒』
「短いからな? それだいぶ短いからな? ギリギリ即断即決じゃないだけだからなっ?」
『とりあえず空からビームバズーカ撃ちまくって炙り出す作戦にした』
「バカじゃねぇの!?」
『破壊も楽しいガンプラバトルは、自由だ』
「自由と無法を間違えんなダァホゥ!!」
ダメだこの双子。頭痛を必死に押さえ付けながらミコトはツッコミと同時にドッズライフルを放つ。これをディザイアは何事も無いように右手の籠手で弾いてみせる。
『無駄。希望は無いよ?』
「勝手に決めんな」
『ブースターをパージしてこの雪崩で荒れまくったヒマラヤで私とディザイアから逃れられると思ってるの? よしんば逃げられても上にオリニィが居る』
ディザイアが籠手の爪をゲシュテルンに向け、左手の槍で空を指し示す。
『地上は私が、空中はオリニィが制覇する。勝ち目、無いよ?』
何の澱みも無く彼女は言い切る。当然だと。誰もが分かりきっていることだと。
『ガンダム最初の主人公がアムロ・レイなくらいは当然だと思ってる』
「・・・・・・」
その言葉には答えず、ミコトはディザイアの足下周辺をビームマシンガンで薙ぎ払い視界を奪わんとする。
『無駄、だって・・・・・・』
意にも介さずディザイアが動いた。一瞬の加速でゲシュテルンをランスの間合いへと納め、振り抜く。
それに対応せんとドッズライフルを投げ捨てたゲシュテルンの右手が輝く。
『言ってる!』
語気を幾分強めたオリハの言葉と共に籠手が射出される。咄嗟にパルマのエネルギーを光球に変換し放つことで籠手を弾き飛ばすが、結果としてランスを防ぐ手段は無くなった。
トった――! 否応なしに、オリハの口元が僅かに歪む。
――ギュァン!
故に、ディザイアを横殴りに突き飛ばした衝撃に。オリハの思考はフリーズした。
「ぉぉらぁ!」
左のパルマフィオキーナが輝き、その粒子エネルギーを余すこと無くディザイアの内側へと叩き付ける。
『ぁう・・・!?』
「散々吹き飛ばしてくれた礼だっ!」
声と共に吹き飛ばされ、弾丸と化したディザイアがそのまま壁面へと轟音と共にめり込む。
「容赦の無いことで」
「容赦したら撃墜されるっての」
森林の葉が揺れ、赤い粒子が渦巻けばそこにブレードアンテナを持ち外套で身を隠したアマネのGN-X・オリジンの姿が現れる。その特徴的な四つ目には一つとして光が灯ってはいない。
『なん、で・・・? まだ目は見えてないハズなのにここまで正確に来れてるの?』
よろけながらもディザイアが立ち上がる。パルマもまたビーム攻撃判定になるためかビーム耐性を真面目に考え組み込んだだけありその威力は半減しているのだろう。それでもダメージはあるのが目に見える。
「スナイパーの直観、というのは半分冗談。ここまで来れたのはまぁ上からの砲撃が止んだからっていうのとここの座標位置を正確に掴んでたから」
『座標を正確に・・・?』
「ディザイアが丸々ビーコンになってれば流石に、ね」
『ビーコンって、そんなの、いつの間に』
「ランドセルをぶつけた時に、さ」
ニタリ、と笑いながらミコトが説明を引き継ぐ。
「あのランドセルには元々サーベルとかをオミットした代わりにガイドビーコンが詰まっててな。実はちょこちょこ逃げながら設置して現在位置を確定させてたわけだ」
『それで、ランドセルの爆発した時に飛び散ったビーコンを頭から被ったディザイアがビーコンにされてたってこと・・・?』
「そーいうこった」
『で、でも何でビーコン? ギャラリーで初陣を見てたけどそのガンプラは、チーム戦を意識して作った機体じゃないハズ・・・』
「何で、ねぇ」
途端、ミコトの表情が歪んだ。それはもう悪どさ全開の歪みっぷりであり、もしもオリハやアマネがこの顔を見れば間違いなくドン引くだろう。
「さっきあんたこう言ったよな。『地上と空中を制覇する以上勝ち目は無い』『それはガンダムの初代主人公がアムロ・レイなくらい当然』って」
『だいぶ要約されてるけど、言った』
「北米で最初に放映されたガンダムは『ガンダムW』だからその辺では初代ガンダム主人公はヒイロ・ユイだって知ってる?」
『え・・・?』
「舞台が変われば当然の法則も変わる。じゃあ、俺が負ける当然を覆すにはどうするか?」
不意に。
ディザイアのスピーカーが何らかの高音を捉える。普段からディザイアでの高速戦闘を行うオリハにはその音の正体が高速で飛来する“風切り音”であると直観的に理解した。
「今の舞台じゃ、プロトじゃあダメだってんなら!」
森林を突き抜け、ゲシュテルンガンダムに向かう風切り音の正体が現れる。
赤い翼が、大きく目を引いた。
「プロトを超えて、そっちの舞台に乗り込んでやろうじゃねぇか!」
☆★☆
時間は少し遡る。
しっかり双子で相談しあったこと13秒。オリヤは上空でビームバズーカを拡散モードに設定して撃ちまくっていた。
「ヒマラヤ破壊は楽しいぞい、ってな」
撃つ度にヒマラヤが揺れ、ちょこちょこ雪崩が起きる。
「やっべ、正直気持ちいい・・・」
『ちょ、ま、オリヤン待て待ぁぁぁぁ』
「あっ」
スピーカーから響いた声に気付きとりあえずバズーカを撃つのを止める。
轟音と共に雪崩が巻き起こる。同時に雪崩と共に響いた悲鳴を聞き、しばらく見たところでそっと西の空を見つめた。
何故か夕日が召喚された。
「さらばカイチ。お前のことはちょっとだけ忘れない」
「まだ生きてる! まだ生きてるから勝手に夕日とか召喚すんなっ!?」
雪をかき分けてダークハウンドが飛び上がる。焦ったコミカルなアクションと共に何かSD目のようなものが見えたのは気のせいであろうか?
「おぉ、カイチ! 信じてたぜ! ところでアイバっちは?」
「んー、雪崩に揃って巻き込まれたんだよな」
「おいおい。確認くらいしとけよぉ~」
「オリヤンが俺のこと忘れて雪崩起こしまくったからだろうっ!?」
「てへっ☆」
「うわキモッ」
軽口を叩き会う二人の間に弛緩した空気が流れる。
そんな空気を、狩人は見逃さない。
雪崩により深く積もった雪の一部が赤く赤熱し吹き飛ぶ。雪の中からバードモードのウィスタリアが飛び出す。
「真下っ!?」
「でもバードならバスター撃つしかないだろ! 避けれる!」
『マルチバスターライフル【MODE4:STRIKER】!』
マルチバスターライフルの先端が展開しビームが形を成す。
それは先程使ったビームソード形態ではない。矢尻のように尖った巨大な先端からは移動に合わせて機体を覆うように尾を引くその様は、さながらウィスタリアそのものが
「緊急回避!」
「OK!」
一声で二機が向き合い各々に蹴りを叩き込む。衝撃で二機が少し飛ばされると、一瞬後にウィスタリアが通りすぎる。だがそれでもダークハウンドのバインダーの一部がビームファランクスの粒子の端に触れ、触れた部分が抉り取られる。
「周りの部分に触れただけでこれかよっ!?」
「高出力のバスターライフルで形成するビームファランクスだ、シールドクラスの役割を持つシールドアタックみたいなもんなんだろ!」
太陽を背にしたウィスタリアが変形する。人形へと戻ったその手にはシールドから再び取り外されたマルチバスターライフル。既にビームファランクスは消え、代わりに大量の粒子が光球として銃口に集う。
『マルチバスターライフル、出力最大』
「やっべオリヤン! あれだいぶ範囲デケェから避けれねぇぜたぶん!?」
「カイチ、そこ動くなよ!」
「オリヤン!?」
『――破壊するっ!』
さながらヒイロ・ユイの如き台詞と共にトウジがトリガーを引く。一瞬の収束と後に解放された粒子はMAでさえ飲み込むであろう巨大なビームへと姿を変えカイチとオリヤに迫る。
それに対してオリヤが取った行動はダークハウンドの前に移動し盾を構えることだった。
激突が轟音を生む。ビームがオラシオンに激突したことで拡散しヒマラヤの表面を穿つ。世界がほの暗い黄色気味の色に塗り替えられビームが触れた地表は雪崩云々の前に蒸発した。
『ッ――!』
溜め込んだ粒子が無くなり砲身から大量の白煙が吐き出され排熱処理がされる。オーバーヒート寸前だったのか、マルチバスターライフルの一部が歪んでいた。
「――おぉぉ!」
『なっ!?』
無意識に仕留めたと感じていたトウジの心の隙を突くようにダークハウンドがビームサーベルを振りかぶりながら一気に突っ込んでくる。先程と完全に立場が逆転した。
一閃。サーベルがバスターライフルの銃口を切り裂いた。
「ちぃ! やっぱ狙いがちょいズレた!」
『何で・・・!』
「当然、オリヤンのおかげ!」
慌てて距離を取りながらウィスタリアのカメラが晴れ行く黒煙の中を映す。
そこに居たのは構えたシールドからピンク色のビームシールドを形成したオラシオン。機体の各所に傷を負っているもののまったくもって健在だ。
『ビームバリア! どこまでΞなんですその機体!』
「どこまでもに決まってるだろ!」
ビームバリアを解除したオラシオンがお返しと言わんがばかりにモードを収束モードへと切り替えたビームバズーカを撃ち込む。ウィスタリアはそれをシールドで受け止める。が、その背後からダークハウンドのドッズランサーが打ち込まれる。
思考すら挟まない動物的勘による連係。仕留めきれる獲物を前に、猟犬はより鋭く牙を食い込ませんとする。
『うぁっ・・・!』
「おらぁ!」
さらにドッズランサーを振るいウィスタリアを吹き飛ばすが、それでもギリギリ致命傷とはならずに四枚のウイングのうち一枚を奪い取るに止まる。
ウィスタリアの墜落が始まる。
「しぶてぇ!」
トドメと言わんがばかりにランサーをマウントしたダークハウンドがビームサーベル二本を引き抜き急降下する。
自由落下するウィスタリアと加速し接近するダークハウンド。二体の距離はどんどん縮まり、やがて、ゼロになろうとした。
「――ッ?」
不意に。
カイチの視界の端で何かがチカリと光ったような気がした。
いや、気のせいなどではない。
なぜなら視界の端で捉えた光は、
『でぇぇぇぇらぁ!』
さながら大地から天へと駆け上がる流星の如く、ほんの数瞬で自らに迫ってきたのだから!
蒼く輝く光の翼を震わせながら、その機体はダークハウンドの二本のサーベルを己が二本のサーベルで受け止めてみせる。バチバチとビームが干渉し合うスパークが巻き起こる。
「随ッ分ご機嫌な格好じゃねぇのぉ・・・ヤナミィ!」
『お前は常時テンションが鬱陶しいなアキヅキ!』
鍔迫り合いを止め、ダークハウンドを弾き飛ばし、片方の光の翼を消しながらゲシュテルンガンダムが回し蹴りを叩き込む。片方の推進材が切れたことでゲシュテルンを中心に回転したことで回し蹴りの威力が上乗せされる。
飛ばされたダークハウンドに向けてゲシュテルンがビームマシンガンを乱射する。
「させねぇ!」
オラシオンが割り込みIフィールドを展開する。ビームマシンガンの弾が当たっては弾け飛ぶ。
『鬱陶しい!』
ビームマシンガンの雨が止み次いでパルマフィオキーナの光球がビームバリアを襲う。ぶつかり合った瞬間フィールドがスパークと共に軋み、ビームバリアを発生させるシールドの中央部から煙が上がり爆発する。
ビームバリアと共に光球が弾け飛んだ。
「あー、やっぱ流石にバスターライフル真正面から受け止めるのはムリがあったかぁ」
「必殺目くらまし!」
カッ、とフラッシュアイが輝き視界を包む。 その瞬間を見逃さずに態勢を立て直したオラシオンがダークハウンドと共に離脱する。
「ナイスカイチぃ! しかしあんな隠し玉があったとはなぁ」
「おう、アレなんだよ聞いてねー」
『――オリニィ、ゴメンミスった』
通信回線が開きオリハの顔が映る。その語調は少し早口気味だ。
「オリネェ結構焦ってる?」
『油断した。まさか
「あぁ、もうこっちまで来てるぜ」
カメラをアップにするとウィスタリアを地上へと下ろしているゲシュテルンが見えた。既にあの青い光の翼は消えてそのシルエットがよく分かる。
本体はインパルスのように色が変わってはいない。所々にクリアパーツがあしらわれた真っ赤な翼が目を引くがよく見れば武装ラックのようなものが伸びているのが見えた。
そして後姿を見せていたためその背には巨大な剣が背負われていることに気付く。アロンダイトやエクスカリバーのようにも見えなくもないが明らかにそれらとは別物だ。
『ついでにアマネちゃんも逃がしちゃったからとりあえずそっちに合流しに行くから』
「オッケーだオリネェ。とりあえず、その間に倒しとく」
ゲシュテルンが再び空へと舞い上がり、オラシオンとダークハウンドの目の前で止まる。
通信回線を閉じ、オープンチャンネルでオリヤは口を開く。
「どっちかって言うとデスティニーインパルスだったのかそれ」
『デスティニーとインパルス、それぞれを学習し最適化したってコンセプトだよ』
「でも大丈夫かよヤナミ? 2対1だぜ?」
カイチが自信満々に笑うが、ミコトもそれに応えるように笑い返した。
『今の俺ら相手にむしろ2人で足りるかね?』
「言ってくれんじゃん!」
「そこまで言われちゃ、カイチだけじゃなくて俺も燃えてくるっての!」
オラシオンがフラッシュエッジを握りダークハウンドがビームサーベルを展開する。
対してゲシュテルンガンダムも両手のパルマフィオキーナを輝かせた。
『そんじゃあ、行くぜ・・・!』
獰猛な笑みをミコトは刻む。新たな翼を震わせるその喜びを隠しきれないといわんがばかりに。
『GO! ゲシュテルンガンダムフリューゲル!』
★☆★
次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-
「なんでこぉなるのぉっ!?」
「無効耐性じゃないなら、上から撃ち砕くだけってね」
「なんだよ、やっぱお前超熱いじゃん!!」
【Build.06:天駆ける流星Ⅲ ~流星蒼翼~】
「速さは要らない! 一撃で砕いてやるぞ、クラレント!!」
長くなりまくり場面転換わりと多め。いやはや、勉強すべきことは数知れず、ですね。
次回で一応この戦闘は終わりになります。さてどーなることやら。