ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア- 作:結城ソラ
――向かい合う、二機の強者。
片やトリコロールにクリアパーツを散りばめた星の輝きを誇る攻撃者。
片やアシンメトリーの身体をトレコローレに染め上げ、幾つもの激戦の証したる傷を刻んだ不死鳥。
互いにその身はボロボロであり武器も何も持っていない。ただ、“意地”だけで彼らは戦っていた。
攻撃者の拳が輝き、不死鳥の拳をビームマントが覆う。
止まることなく、頭さえ失いながらも。
二機は、同時に最後の拳を振るった。
☆★☆
「いやー、ガンプラバトルはいいねぇ。心が潤うようだ」
「はいはい、っとー」
「ちょっとヤナミ君! これの凄さと感動が分からないキミじゃないだろう!?」
「俺が今一番分からないのは仕事を普通にサボって客に絡みにくる店長そのものですかね」
普段は使わないPC用の眼鏡を付けカタカタと持ち込んだノートパソコンをタイピングしながら話半分にミコトは受け流す。ついでにシャットアウトしきってしまおうとノートパソコンのジャックに刺さったイヤホン手を――。
「・・・ちぇ」
愛用のイヤホンが断線して使いものにならなくなったことを思い出して嘆息した。
「近場のいい電気屋教えようか?」
「こういうのは自前で探し回らないと納得できないタチなんですよ」
その一言で気分を切り替えてパソコンの操作に集中する。パソコンにはUSBを介してGPベースが接続されており、GPベースには普段は使われないスタンドパーツが装着されている。
スタンドされているのは言うまでもなくゲシュテルンガンダムだ。パソコンに繋げることでGPベースに記録された設定やデータを編集することで機体のバージョンアップを行っているのだ。
「だいたい何で第7回世界大会の映像なんて持ってんですか。アレ今結構貴重でしょう?」
「ん、あぁ実はドイツのカフェの関係者さんに以前から交渉しててね。最近こっちにいらっしゃったからもらったのさ♪」
「私は不満があるけどね」
コーヒーを運んできた少女が頭の上から声を投げかけてきた。声の方に顔を向けるとライムグリーンを基調としたセーラー服の上にカフェ従業員用のエプロンを着けた赤毛の少女が居た。
「セリザワ」
セリザワ・アマネ。以前のバトルで乱入して不正を暴いた“
「はい、サービスの『俺と一緒に地獄へ逝こうぜぇ珈琲~ハイパージャマーに隠された角砂糖~』」
「長いなおい」
「地獄のような苦さと熱さでデスサイズのビームサイズを表現してるらしいけど」
「サービスならもうちょいノーマルなヤツでいいものを……」
「一回来店の度にドリンクサービスなんだから文句言わないの」
サービス、というのは実は正確ではない。このコーヒーは以前凸凹コンビを打ち倒した報酬なのだ。
「ガンプラのパーツ融通するだけに飽き足らず一回来店の度にドリンク一杯無料はぼったくりじゃない?」
「それくらいの働きはしたってのー。それにちゃんと居座る時はピーク時とかは避けてきてるだろ」
「単純に人口密度高いのが嫌いなだけでしょ?」
「何のことだかさっぱりー」
適当に話を切り上げる。これ以上追及されるのも面倒だし実際アマネの言ってることは図星なので言い訳はこの辺でいいだろう。
「珍しく突っかかってるけどもしかしてアマネまだスネてる?」
「?」
「いや映像くれた人が『1ドット分の画質低下も許さない!』って人でね。わざわざドイツから直接持ってきてくれたんだけどアマネが希望してた第6回世界大会のライナー・チョマー対パトリック・マネキン戦の動画を忘れてさ」
「謝り倒されたけど絶対転送しない主義を通されたのよね」
「何、セリザワってライナー・チョマーのファンなの?」
「ビルダーとしての能力は凄いと思うしコメディアンとしても毎回楽しんでるけど私の目的はそっちじゃないわ」
さらっと世界大会常連をコメディアン呼ばわりしやがったコイツ。
「私の目的はパトリック・マネキンのGN-X」
「あぁ、そういえばセリザワの機体ってGN-Xだったな」
全身を外套に包みブレードアンテナの着いた頭とライフルを持った腕しか見えていないため忘れていたが、確かに彼女の機体は初期型のGN-Xをベースにした機体だった。
世界大会常連のファイターが駆るGN-Xともなればその能力はトップクラス。同系統の機体を持つアマネにとってその詳細な戦闘データはそれこそ喉から手が出るほど欲しいだろう。
そこまで考えた所で先に注文しておいたカッティングマットをイメージしたというカッティングワッフル(色の再現の都合上抹茶味で固定)を口に運ぶ。
「そら拗ねるわな」
「拗ねてない。そのワッフルはサービスじゃないけど」
「俺だってコーヒー以外も頼む」
「旨いもんなー。アマネの焼き菓子とか特に――」
声と一緒に影から手が伸び、ワッフルを掴まんとする。
しかし慣れた二人は早かった。まず店長が椅子から滑り落ちるように地面に降り立ち手の主に足払いをかける。次いで倒れゆく影の背中を一寸の狂いもなくアマネの足が捕らえ踏み抜く。
背中の中心点を抑えられ完全に床に縫い付けられたソレに一切の慈悲は無く、周辺にあった椅子をパズルのように組み合わせて見事に拘束した。
唯一動かなかったミコトは途中で何が起こったかを把握し、全てが終わったところで思わず拍手を送った。
「おー」
「ヤ、ヤナミ助けて・・・・・・俺達相棒だろ・・・・・・」
「何のことかさっぱり」
自身の相棒を自称する少年――言うまでもないが正体は常習犯のアキヅキ・カイチである――を見ることすらなく見捨てコーヒーを口にする。
苦い。が、どこか遠くの方に甘味を感じないでもない。そして何故沸騰してないのか分からない勢いで恐ろしく熱い。
「ビームサイズの熱量もできる限り追い求めてる」
「要らねぇわその追求」
無表情でサムズアップしたアマネをスルーしてワッフルとコーヒーを持って移動する。最早慣れたパターンだがこの後カイチの
「・・・・・・相席、どうぞ」
「ん、あぁ。ありがとう」
別の席を探していると声がかかった。ちょうどカイチ拘束に使ったためか他の飽き席も無くなっていたので素直に好意を受け入れる。
招き入れてくれたのは藤色の髪をした少年だった。読書中らしく顔を上に向けないがとりあえず座る。
特に動きも無いため会話による親睦を深めようという考えも無いらしい。カイチの件を理解した常連なのだろう。特にお喋りをしたいタイプでもないのでミコトも静かにコーヒーを飲む。
「とりあえず屋根の塗装剥げてたから塗り直させる?」
「ちゃんと上がった後に梯子回収しとかないとね」
「だー! 今回は断ってやる!」
「「無理無理」」
「しかァし! 今までの俺と違って今の俺は抗議する力を得たァ!」
「頭ワいた?」
「アマネ、元からだよ」
「ひでぇ」
法廷的な有り様と化した椅子の牢獄からまるで蛇か軟体動物かのようにヌルリと逃げ出したカイチは「パッパパー!」というセルフSEを駆使しながらどこからともなく何かを取り出した。
黒い人型をしたガンプラだ。海賊をイメージさせる帽子に髑髏のシールが張られており片目をバイザーパーツが覆っている。両肩にはアンカーが装備されたバインダーがある。
一部が白くなっている部分があるがそれは“機動戦士ガンダムAGE”第3部に登場するガンダムAGE-2 ダークハウンドに間違いなかった。
「アマネと店長が普通にブレイヴくれなかったから作ったこの何かカッコイイ黒いガンプラ、こいつで勝負だアマネ! 俺が勝てば免除でいいな!」
「え、ヤダ」
「おぉい!?」
「だって流石に素人に負けるとは思えないから。あんたスナイプ避けれないでしょ」
「そ、そんなことねぇし」
「最低でもフォローしてくれる味方確保してから来なさいな」
「よっし俺たちの力見せつけてやろうぜぇヤナミィ!」
「めんどくせぇ」
「裏切る速度ォ!?」
助けを求めて来たが一切の迷いなく斬り捨てた。それでもなお無様にあがいているが特にカイチを助ける声は店内から上がらない。
「アキヅキ・カイチは触れずに観賞用」。これがこのカフェの77の暗黙の了解の一つであるらしい。
「話は聞かせてもらったぁッ!」
たまにそれを破るヤツも居るわけだが。
バターンと激しく扉を開けた人物がそのままカイチの元に歩み寄りそのまま手を握る。
「俺が助けよう兄弟!」
「助かったぜ兄弟!」
そのまま暑苦しいテンション全開のまま二人はひしっと抱き合った、ところで脳天にチョップが叩き込まれた。
「オリニィ、暑苦しいし鬱陶しい」
「オリネェ、もうちょい優しく・・・」
そんな二人を見てミコトは軽く目を張った。
男性の方は青白い髪を刈りあげたスポーティなスタイルで服装もジャージ系のモノでさわやかな感じの男性だ。露出した肌は引き締まった筋肉をしておりスポーツマンらしい。
一方女性の方はショートよりも少し長い程度の同じ青白い髪にうなじを隠す程度の長さをした髪のパンツスタイル。スポーティさが故の薄着は女性らしい彼女のスタイルを強調している。おかげで“彼女”と断言できる。
二人の顔はほぼ一緒だ。顔つきだけで見分けるのはかなり困難だろう。
「ヤナミ君はカザマーズは初めてだったっけか」
「なんスかその小学生ネーミング」
「あの二人は大学生だよ? まぁ見ての通り双子でね。高校生の時にガンプラ選手権に出るからってここに作りに来て以来よく利用してくれててねぇ…大学の受験勉強の指導を大人組がするのも以前は恒例だったんだよ?」
いつの間にか近付いてきていた店長がどこか遠くを見つめて感慨深げに呟く。
そういえばこのカフェに入り浸る原因になったバトルの時もしゃしゃり出てきては話しかけてきた二人組だ、と今になって気付いてから別の疑問にミコトは突き当たる。
「あんな呼び方だけどどっちが兄姉?」
「ん、あぁ。それが本人達も分かんないんだって」
「ハァ?」
「なんでも生まれた時に病院が停電になって先にどっちが生まれたか分かんなくなったんだってさ。んで、物心つく頃にはお互い“ニィ”で“ネェ”になってたんだって」
「カザマ・オリヤだ! 改めてよろしくなァ!」
「・・・カザマ・オリハ。よろしー」
話していることに気付いたらしく手を軽く振って自己紹介してくれる。
「んで、ヤナミ君アマネを助けてもらっていいかい? あのままだとアマネが1vs3になだれ込みそうだ」
「片方が別れれば2vs2じゃ?」
「あの二人喧嘩でタイマンすることはあるんだけどチーム戦は必ず二人セットのチームなんだよ。今回もオリヤ君がカイチの味方するならオリハちゃんも出るだろうね」
「えぇ・・・」
まぁとはいえセリザワ・アマネには借りがあるわけで、ほっとくのもアレなのだ。
「俺も少し取りたいデータがあるからいいッスけど、とはいえもう一人欲しいッスよ」
「うーん・・・あ、アイバ君。コーヒーおごるからキミが出てみない?」
「オレですか」
本から顔を上げた眼鏡の少年は少し困ったような表情をして、しかしすぐにため息を吐いた。
「・・・いいですよ。どうせ店長が逃してくれるわけないの知ってますし、試してみたかったところです」
立ち上がったアイバと呼ばれた少年は鞄の中から一体のガンプラとGPベースを取り出した。
「アイバ・トウジ。協力させてもらうよ」
「ヤナミ・ミコト。まぁ短い付き合いになるだろうけどよろしく」
軽く必要最低限の会話だけで挨拶を終えると二人はほぼ同時に立ち上がった。
☆★☆
“Ganpura Battle Combat Mode!”
“Battle Damage Level Set To 『C』”
“Beginning, PLAVSKY PARTICLE dispersal”
“Please Set Your GPBase!”
青い粒子が世界を作りだすのを見ながらGPベースをセットしガンプラを取り出す。
バトルシステムの向かい側には予想通りカイチとカザマ双子が立っている。一方ミコトの側にはアマネとトウジ。
“Stage Select”
GPベースに表示されたステージは“Forest”“Colony”“Mountain”。
「コロニー?」
「カフェのはステージセレクトがあるから店舗によっては普通のよりステージを小分けしてることがあるの」
「へぇ」
「中には気象とか属性を設定する店舗もあるけどね」
「それで、今回はどのステージを選ぶんだ?」
「コロニーはカイチの馬鹿が壊してフィールド変化されると困るわね」
「森は個人的に目立つ色合いしてるからイヤ、かな」
「セリザワとアイバの意見を総合すると・・・山だな」
二人が頷き全員が“Mountain”を選択する。
“Field4,Mountain”
粒子が満たされフィールドを作りだす。白銀の雪が降り積もる山岳地帯の一角が作りだされる。
“Plase Set Your GUNPLA!”
ミコトはゲシュテルンガンダム、アマネは外套を身に纏ったGN-X オリジン。そしてアイバ・トウジは真っ白な機体を取り出す。
白い機体カラーに薄い青のラインが刻まれたウイングガンダムだ。元の翼に加えてもう一対V字型の翼を持っている他背中に大型のキャノン砲を背負っている。
「・・・
「残念。実際にはウイングの系列機の親戚くらいだよ」
「新型?」
「あぁ、少し事情があってね。ようやくテストをクリアして実戦レベルまで持ってこれたんだ」
少しだけ苦笑いのような表情を浮かべたのが気にかかったが特に言う必要も無いだろうと判断し、ガンプラをセットし現れたコンソールを握る。
それと連動するように三人を操縦席が覆い、ガンプラ達の前にはフィールドへと飛び立つためのカタパルトが生成される。
“Battle Start !!”
「ヤナミ・ミコト、ゲシュテルンガンダム・プロトタイプ! 勝ちに行く!」
「セリザワ・アマネ、GN-X・オリジン。撃ち抜いていこうか」
「アイバ・トウジ、ガンダムウィスタリア。出る!」
雪山に三機のガンプラが飛び出す。オリジンとウィスタリアはそのまま雪の降る空を駆け、ゲシュテルンガンダムは雪の積もる大地を踏み締める。
その際ゲシュテルンガンダムの足が水のたまった穴に足を取られた。よく見ればその自らは白い湯気が立ち上っている。
「温泉・・・これヒマラヤか」
ミコトがポソリと呟く。『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』においてアプサラスと共に大破し墜落した陸戦型ガンダムの出力最弱に絞ったビームサーベルが温泉を作り出したシーンを思い起こし、視聴した記憶を何とか漁って地形を把握しようとしてみる。
「・・・・・・」
「・・・悪いんだけど、シローとアイナの混浴シーンのインパクト強すぎてそれ以外の情報が思い出せない」
「男に限らず、私も同じく」
「まぁ、仕方ねぇわ。どーせ相手も条件同じだろ」
三人が頭の中に浮かぶ問題のシーンを振り払おうとした時、不意に敵の接近を知らせるアラームが鳴り響く。
「幾らなんでも早すぎないかっ!?」
「元々一台で動かしてるからフィールド自体そんなに大きくないけど、このスピードは一直線に先行して突っ込んで来てるタイプ・・・ってことは」
「あー・・・オチが読めた」
『ハーハッハッハのッハァー!』
想像通りの大音量の声がスピーカー越しに響いた。オチを予測していたミコトとアマネは揃って音量を絞っていたがトウジだけはダイレクトに喰らってしまいちょっとした衝撃に倒れそうになった。
『アキヅキ・カイチィ! ガンダムAGE-2 ダークハウンドォ! ぶっ飛ばしていくぜぇぇぇ!!!』
ストライダーモードで姿を現した漆黒の猟犬が雪を吹き飛ばしながらオリジンに狙いを定めトップスピードで突っ込んでくる。カイチは意図していないだろうが完全にスイカバー・アタック等と呼ばれる突撃攻撃の構えだ。
『ハッハァー! アマネ、覚悟ォ!!』
「――えぃっ」
『おっわぁっ!?』
酷く冷めたテンションのまま突撃してきたダークハウンドをマントを翻すようにしてスッと位置を少しだけずらした。ただそれだけ真っ直ぐに突撃していたダークハウンドは狙いを外し雪山の一角へと激突した。
「って、おい!」
軽く雪崩が起きて雪の波がゲシュテルンガンダム周辺を襲う。
「待て! 飛べねぇから! それはマズイ!」
「こっちへ!」
ウィスタリアが素早くバードモードへと変形しゲシュテルンに向かって飛ぶ。固定された足の部分を咄嗟に掴み空へと逃れる。少し後にゲシュテルンが居た付近を雪崩が通過していった。
「あっぶねぇ・・・」
冷や汗を拭いながらミコトは改めてバードモードへと変形したウィスタリアを見る。元のウイングよりも長めの砲身による機首と四枚の翼が空中での安定感を生み出している。背に追加された巨大なキャノン砲が重量感を感じさせる。
恐らくは、敢えて大型化させた装備を追加することで火力を増強しつつ空戦での安定感を追及しているのだろう。
「――――」
そのカラーリングと合わせて、ミコトの頭の片隅にある“ソレ”がチリチリと焦げるような感覚がした。
「・・・ウィスタリアが、どうかした?」
「あぁ、いや。少し思い出にふけってただけだ。それより助かったよ」
『うぉっらぁ!!』
ゴバァ、と雪崩跡から人型形態へと変形する勢いを利用してダークハウンドが飛び出してくる。右手にビームサーベルを持ちそのままぶら下がるゲシュテルンに刃を振り抜く。
「ぃよっと!」
ウィスタリアの足を放しサーベルを真っ向からパルマフィオキーナをぶつける。パルマ特有の高音と閃光を撒き散らす。
『おっととぉ!?』
「おらよっ! AGE-2にはもってこいってな!」
右手に持っていたGバウンサータイプのドッズライフルを撃ち込む。ギリギリでダークハウンドは回避するが。
『げっ』
カイチの視界に飛び込んできたのは自らに向けて可変しながら飛び込んでくるウィスタリアの姿。
「マルチバスターライフル【MODE2:SWORD】!」
振り抜いたマルチバスターライフルの銃身が展開し緑色のビームソードが現れる。咄嗟にダークハウンドも自らのビームサーベルで受け止めるが、停滞は一瞬。次の瞬間には出力差があったのか弾き飛ばされる。
「マルチバスターライフル【MODE1:RIFLE】!」
刀身が消え展開していた銃身が戻る。再び形状をバスターライフル状に戻したウィスタリアが態勢の崩れたダークハウンドに照準を合わせる。
「悪いけど、藤の花の前に二度目は無い。確実に仕留める」
その宣言の通り、ウィスタリアのマルチバスターライフルに収束した粒子は直撃すればダークハウンドを一撃で吹き飛ばす分が溜まっていっていた。
『そら流石にムリだって!? ここは六十六系統、逃げるが勝ちなんだよぉ~!』
「兵法三十六計逃げるに如かずだから。逃げるくらいしか合ってないわよカイチ」
ストライダーへと変形しようとするダークハウンドを不意に衝撃が遅い変形をキャンセルした。見えない狙撃、セリザワ・アマネの“
ダークハウンドのカメラがオリジンの姿を映した時には既にオリジンのライフルにも目に見えるレベルで粒子が収束している所だった。これも狙撃とか関係無く当てて一発で吹き飛ばそうという意図によるものだ。
『もしかしなくても大ピンチってヤツぅ!?』
「さっさと屋根登ってきなさい!」
『やらせるかよ!』
ギュン、と風切り音が響き六枚の手裏剣のようなディスクが飛来する。咄嗟にチャージを止めた二機が避けようとするが、ディスクは二機を追いかけ軌道を変える。
「えっ!?」
「サイコミュ!?」
ウィスタリアが頭部バルカンを発射する。六枚の内四枚を撃墜することに成功するが煙を突き破り残った二枚がオリジンとウィスタリアを捉える。サイズは大きくないが回転速度が早いためか二機を弾き飛ばす。
態勢を崩した所を見逃さずダークハウンドはすぐさま離脱を試みるがそうは問屋が卸さないとばかりに地上に降り立ったゲシュテルンがドッズライフルで狙い撃つ。
『させない』
轟音が響いたと思った瞬間、射線上にそれまで居なかったハズの影が割り込む。影はその左腕に装備されたシールドでDODS効果を発揮するビームを受け止める。一瞬の停滞の後に、ビームは四散した。
「ビームコートか!?」
『オリニィ!』
『行ってこい! ファンネル・ディスク!』
オリジンとウィスタリアを攻撃したディスクがさらにゲシュテルンを襲う。
「チッ!」
舌打ちしながらもミコトは機動自体はそこまで複雑なモノではないことを確認している。両袖のビームマシンガンを乱射しディスクを一つ残らず破壊する。
だが、それにより位置を固定されてしまったことに気付いたのは目の前に巨大な鋭い鉤爪が飛来していたのを確認した時だった。
「ぐぅっ!?」
両手のソリドゥス・フルゴールを展開し直撃を避けるものの衝撃は殺せず、雪崩によって深く積もった雪の塊へと投げ出された。
『これが俺たち双子の!』
『ぜったいむてきのこんびねーしょーん。かっこぼーかっことじ』
まるで熱血主人公のような気の張った声と、気等抜けきったと言わんがばかりの声。
『オリヤンにオリハ!』
『大丈夫かよカイチ! あんまムチャすんなよ!』
『一人で先行しすぎ。でも、的確に敵を見つけた嗅覚はぐっじょぶ』
漆黒の猟犬を追い抜き、雪空を切り裂きながら騎士が舞う。それはあらゆる侵略者を許さず天空を守護する
そして大地を震わせ雪を巻き上げて突撃してくる影は巨大な突撃槍を手にし、自らが侵略し抗うものを撃退する
「ガンダムキマリスに、キマリストルーパー!」
雪の中から脱出したミコトが現れた二機の姿を確認して叫ぶ。
片や大型の肩とブレードのようなウイングパーツが目を引く青空の如き騎士は完全に重力の井戸に縛られることなく自在に空を舞い、空中で静止してみせる。『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』において宇宙空間を自在に駆け抜け鉄華団と激戦を繰り広げたガンダムキマリスをベースにした機体である。
『お祈りは済んだか? ガンダムキマリス・オラシオン!』
片や射出していた大型の爪を持った異形の籠手を右腕に戻した、肩・背・腰にそれぞれブースターと左腕にシールドブースターを装備する徹底的な推力の強化が見て取れる紫電の如き騎士もまた『オルフェンズ』において地球上での戦いのために換装されたガンダムキマリストルーパーをベースにした機体だ。
『希望は捨てた方がいいよ・・・ガンダムキマリス・ディザイア』
空と大地にそれぞれ君臨した二騎はその
『カザマ・オリヤ!』
『カザマ・オリハー』
力強く叫ぶオリヤと力の抜けた声音のオリハ。
対極とも言える、まるで共通性の無い二つの声は。
『――突撃、開始!』
一切のズレも無く、一つの声となった。
★☆★
次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-
「やっぱ俺って、不可能を可能にしちまうんだな!」
「まだ生きてる! まだ生きてるから勝手に夕日とか召喚すんなっ!?」
「地上は私が、空中はオリニィが制覇する。勝ち目、無いよ?」
【Build.05:天駆ける流星Ⅱ ~双騎乱舞~】
「プロトを超えて、そっちの舞台に乗り込んでやろうじゃねぇか!」
月一投稿から月二投稿にペースアップしたい今日この頃。そしてようやっとカザマ双子がギャラリーからファイターに格上げでございますやったぜ。