ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-   作:結城ソラ

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 深い黒の髪と目。ジャケットやパンツまでほぼ黒。シャツ以外は黒ずくめで覇気の無い目つきが印象的な少年。
 だいたいを面倒くさい、と言ってしまいそうなその感じを見てカイチもバカをやったのだろう。アレはそういうことを普通にやる。

 だが、バトル台に立った時に目つきが変わった。

『ガンプラはぁ…おもちゃなんだよおおおおお!!!』

 叫ぶ。そういうキャラには見えなかったがどうも盛り上がると周りが見えなくなるタイプなのだろう。

 少し見守っていると粒子が散っていった。結果は時間切れによる引き分けらしく再戦を持ちかけられていた。
 ……あ、押し切られた。

「んなの居ねーよ! 俺三日前にここに引っ越してきたばっかりなんだっての!!」
「え……まさかボッ」
「ボッチじゃねぇから! アテもねぇけどなぁ!?」

 対戦相手だった迷惑客が去っていった辺りでギャーギャー騒いでいる。どうも再戦の約束を勝手にしたようだ。
 とりあえず、バカをやっているサボり魔の首根っこを掴み捕獲する。そのままズルズルと引きずる時に彼とすれ違った。

「……わりとお人よしだね、キミ」

 そんな言葉が口から漏れ出たのは、何でだろうか?


Build.02:出会いと、プロトタイプ(前編)

「あー……何やってんだか……」

 

 濡れた髪の上にタオルを被せたままミコトは自室の椅子に身を投げた。その表情は疲れ切っていた。

 

「流されるがまま再戦することになっちまったし、逃げたらあのバカに何て絡まれるか分かったもんじゃねー…」

 

 結局あの後店長の口車に乗って再戦を承諾してしまった。一応勝利の暁にはカフェのガンプラをある程度融通する、という報酬を取り付けた。でなければこんなことはやらない。

 そもそもアレから逃げるのは気に食わないし。

 

『……わりとお人よしだね、キミ』

 

 店長を叩きのめして引きずっていた少女の言葉を思い出し確かに、と思わず苦笑した。

 

「……過ぎたことを気にしても仕方ねぇわな」

 

 頬を叩いて気持ちを切り替える。

 とりあえず今考えるべきは明日のバトルだ。他に味方が居ないことを基本に考えなければならない。

 

 GPベースをパソコンに接続し今日のバトルの映像を表示する。記録された白いジ・Oとウイングゼロの戦闘を確認し、改めて確信する。

 

「勝てたのはアレがバカだったおかげだ。でも今度はたぶん作ったヤツを引き連れてくるだろーし……ウイングゼロじゃ勝てないかもな。と、なれば」

 

 目線を画面から机の作業スペースへとスライドさせる。視界に入ってきたのはカッティングマットとその上に転がるパーツの数々。それはまだ、何かの作業をしている最中だと物語っていた。

 

「完成には程遠いけど、まぁお前に頼らせてもらうか」

 

 タオルの中に髪を包み込むような形でバンダナを作って装備するとミコトは机に備え付けられたスタンドのスイッチを入れる。

 スタンドの光に反射して、唯一完全な形をしていた頭部パーツのツインアイが輝いた。

 

 まるで、ミコトに応えるかのように。

 

★☆★

 

 翌日。昨日見たギャラリーたちが集まっていた。

 ミコトが現れると暖かい感じで迎え入れてくれたり背中をバンバン叩いたりといろいろ激励してくれた。

 

「じゃあ誰か一緒に戦ってくれよ……」

「「「いやムリムリ」」」

「なっさけねぇなぁ! まぁ俺に任せと」

「オリニィ昨日自分の指瞬着したせいでパーツ壊したよね?」

「あっ」

 

 知ってた。どーせこうなるって分かってた。めちゃくちゃ逃げたいけど、そうもいかないのが悲しい。

 そうこうしているうちにギャラリーの波が引いていく。その先に居たのは見るだけでげんなりする大柄な男と得意気にしている小柄な男。

 なんというかこう、某国民的たn……猫型ロボットアニメの凸凹コンビを思い起こす組み合わせである。

 

「逃げなかったんだなぁおい?」

「ブーメランの自覚ある?」

「くっくっく、1人でよくもまぁそこまで自信満々なことでやんすなぁ」

 

 小男が鬱陶しい表情でそう言う。つーかやんすって。

 とはいえ実際問題こちらは1人。あっちはきっちり二人目を連れてきてるわけで逃げたい感は凄まじい。

 

「まぁせっかくボコられに来たんだ。さっさと台に行ってかっこ悪い所を見せろや」

「ブーメランがお好きなこって。言わなくともかっこ悪くても勝手やるよ」

「けっけっけ。自信があるみたいでやんすが人生そう簡単にはいかないでやんすよぉ? ヒーローなんてものは現れないでやんすからなぁ」

 

『そォいつぁどうかなァ!?』

 

 ドデカイ声、というよりも音がカフェを揺らした。その場に居る全員が耳をふさぎながら音源を探す。

 居た。カウンターのすぐ横にテーブルをなぜか三段重ねにした上に金髪の少年がマイクを持って叫んでいた。テーブル周辺にはマイクとケーブルで接続されたイベント用の大型スピーカーが設置されていた。

 

「お、おいおい・・・あんなトコにあんなんあったか…?」

「無かった…」

「ってことはアイツ、わざわざこの登場のために作ったのか?」

「こいつ馬鹿だっ!」

 

『えーいうるせぇうるせぇ!』

「うるさいのはお前だバカイチ!!!!」

『ゴファォ!?』

 

 怒りの叫びと共に超級覇王電影弾(東方不敗師匠の頭付き)の形をしたクッションボールを投げつける店長。ルワン・ダラーラも真っ青な剛速球は狙いたがわず少年――アキヅキ・カイチの顔面を抉り飛ばす。

 宙を舞ったカイチはそのまま錐揉み回転の後に首から落下。その後積み上げたテーブルが雪崩のように崩れ落ちてきた。

 

「・・・何やってんだアレ」

「名物」

「ヤな名物だなぁ」

「うがぁッ!!」

 

 呆れながらミコトが呟くと同時にゾンビの如く腕だけを突き上げテーブルを押し退けながらの中から復活する。何らかの補正でも掛かっているのか深刻なダメージは無いようだった。

 

「とりあえずこのバカ分は給料から天引きしとくからな」

「ヒデェよ店長! …が、それはさておきそこなデッカイのォ!」

「あ?」

「俺のホームグランドよくも荒らしてくれたじゃん! お天道様が許してもこのアキヅキ・カイチ様が許しゃしねぇぜぇ!」

 

 ズビシッ! と指を突き立てながら決め顔で叫ぶ。「おぉ~」という声とパチパチという小さな拍手が見事にぶち壊していたが。

 

「ありがとうありがとう諸君マジありがとう」

「って言うけどカイチ、お前ガンプラそもそも持ってないだろ?」

「あぁ、それなら大丈夫。これがあるぜ!」

 

 どこからともなく取り出したのは細身の黒い素体に緑の装甲等のパーツを取り付けたかのような特徴的なシルエットに左右の長さの違うブレードアンテナを持った機体。

 GNX-Y903VS ブレイヴ一般用試験機。『劇場版 機動戦士ガンダムOO -A wakening of the Trailblazer-』に登場したソルブレイヴス隊が用いる可変機だ。パイロット達の実力もさることながら劇中の技術進歩により量産機としては破格の性能を誇る傑作機だ。

 

「あ、ああああ!? それはウチにこの前持って帰ったブレイヴ!? 何でお前が持ってんだカイチ!?」

「こいつがあるなら幾らでも行けるだろ!」

「まぁ盾にはなるかな」

「雑な扱いしないで!? せっかく連邦の技術体系じゃなくてCB(ソレスタルビーイング)系技術で再構成したブレイヴを作る予定なんだから!?」

 

 店長が叫ぶが原因となったカイチは気にする素振りも見せない。一方のミコトも1人で戦う気だったこともありカイチを比較的受け入れていた。

 

「ま、せっかくヒーローやるんだ。かっこよく決めてやるから期待しとけ!」

「じゃあお手並み拝見させてもらうとするよゆるキャラヒーロー。向こうもそろそろしびれを切らしそうだしさっさと行こうか」

「おうよ!」

 

 カイチを連れ立ってバトル台の前へと移動する。既に台には対戦相手二人組が待っていた。

 バトル台の左右には既にバトルがされているため自然と四台のバトル台を連結した大型のバトル台で今回のバトルを行うことになる。

 

「お待たー」

「気安いなテメェ…。ちくしょうまだ頭がクラクラする・・・」

「これがヒーローパワーってヤツ?」

「ぜってぇちげぇ」

「と、とにかく始めるでやんすよ」

「おっとその前に」

 

 全員が臨戦態勢に入った所で店長が現れる。

 

「ヤナミ君は知らないだろうから改めて説明するよ。ガンプラカフェは歴史が結構あってカフェごとにローカルルールができているトコが多いんだ。当然ウチもそうだね」

「あぁ、カフェルールってのは噂で聞いたことがあります」

「ウチのローカルはわりとガンプラカフェではよくあるヤツだけどね。ルールは大きく2つ。

 まず1つはステージ選択ルール。ランダムに3つのステージが選ばれるからその中から投票して得票率が一番高いものが選ばれる。もし票が同数だったらさらにランダム抽選になるけどね」

 

 このルールは地形を戦術を組み込むために決まったルールらしい。確かに水泳部MSが砂漠等の水が一切無い地上に放り出されればそれだけで不利だろうが投票である程度選べるならば戦闘の有利不利も減るだろう。

 

「もう1つは支援機(サポートマシン)を使用可能ってことだね」

「支援機?」

「シルエットフライヤーやGNアームズ、さらにはG-ビット何かも当たるね」

 

 言うならばメイン機体とは別に使用できるサブ機体、あるいは換装や補給等を行うためのユニットということなのだろう。換装を得意とした機体やゲーム等でよく見る召喚攻撃のような連携攻撃を行えるということであろう。

 

「ただし! 今までのバトルのようにサポート担当のコパイを用意できないから一人で2機分を操縦することになる。ついでに支援機は基本性能も下方補正がかけられる」

「なるほど。そもそもの操作難易度自体が上がるから手放しに使える強いわけじゃない、と」

 

 とはいえこれは今は関係ない情報だ。今後は使ってみたいシステムではあるが。

 

「さて、最後に確認だ。今回は時間無制限でダメージレベルはB。全滅した方の負け、でいいね?」

「あぁ」

「問題ねぇ」

 

 二人の了承の声を聞き店長がバトル台の電源を入れる。

 

 “Ganpura Battle Combat Mode!”

 

 “Battle Damage Level Set To 『B』”

 

 “Beginning, PLAVSKY PARTICLE dispersal”

 

 “Please Set Your GPBase!”

 

 システム音声が響く、要求されたBPベースをセットする。

 

“Begining Plavsky Particle Dispersal”

 

 “Stage Select”

 

 GPベースに“Forest”“Space”“Desert”の表示が現れる。これが先ほど言っていた投票システムなのだろう。

 

(・・・ジ・Oが相手なら砂漠がいいけど、こっちも厳しいかもな。だったら森か)

 

 “Forest”の表示をタッチする。しばらく画面にグルグルと回るローディング画面が表示された後に“Space”の表示が画面いっぱいに広がった。

 

 “Field1, SPACE”

 

 プラフスキー粒子が広がり宇宙空間を再現していく。どうやら投票の結果宇宙に決まったらしい。

 ジ・Oのホームグランドたる宇宙空間が選ばれたのは正直痛い。だがこっちの機体も宇宙への適応力は低くはないしブレイヴの適正は言うまでも無い。悪くはない、ハズだ。

 

 “Plase Set Your GUNPLA!”

 

 システムがガンプラを促す。持っていた小型のケースを開けてガンプラを取り出す。

 

青いガンダムという印象を受ける機体。全身に青が散りばめられるもガンダムらしい白が印象を引き締めている。バックパックもブースターが取り付けられただけのシンプルなランドセルタイプ。

全体的にスタンダートなアナザーガンダムといった印象を受けるがよく見れば型アーマーの下や胸部、袖口の内側に青いクリアパーツが組み込まれている。また青い耳飾りのようなパーツとV字のガードパーツが後頭部にあり兜のようなイメージを抱かされる。

 

これが、ヤナミ・ミコトが自身のために生み出したガンプラ。

セットされたガンプラをバトルシステムが読み込みプラフスキー粒子と共に魂を吹き込む。それを証明するように緑のツインアイカメラが輝き、上半身に散りばめられたクリアパーツが仄かに光る。

 

「……くくっ」

 

思わず笑い声が漏れた。やはりというか、この瞬間は心踊る。

息を吸い、全てを吐き出しながら現れたコントロールスフィアを握り締める。

 

 “Battle Start !!”

 

「ヤナミ・ミコト、ゲシュテルンガンダム・プロトタイプ! 勝ちに行く!」

 

 声と共にコントロールスフィアを押し込みカタパルトを起動。ゲシュテルンガンダムと呼ばれたガンプラがプラフスキー粒子の宇宙へと飛び出す。

 右手に持った大型のビームライフルを握りなおし、ランドセルのブースターを吹かす。初めてのゲシュテルンの初実戦であり初宙間戦だ。少し不安だったが問題なく全身が動いてくれた。

 

「・・・ん?」

 

 機能チェックを終えたところでふと周りを見渡す。ブレイヴが居ない。

 機能チェックをしている最中に先行した可能性もあったがレーダーにも映っていないのが気にかかった。

 

「おい、どうした。何かトラブルか?」

「・・・そういやお前名前何て言うの?」

「あぁ?」

「ヤ、自己紹介とかしてねーじゃんって思ってさ。ちなみに俺はアキヅキ・カイチな」

「あんだけ全力で叫んでんだから知ってるっての。ヤナミ・ミコトだ」

「そうか! じゃあヤナミ!」

「なんだよ」

「ところで、これどうやったら動くんだ?」

「バーカ!!」

 

★☆★

 

 アキヅキ・カイチは想定以上の馬鹿だった。まずバトル台の前に立ったのはその場のノリでだしそもそもGPベースすら持っていなかった。要するにホントに一切ガンプラバトルを知らない状態で出しゃばったらしい。

 なのでとりあえずカフェ貸出のGPベースを持ってきてもらい最低限の設定を行い出撃させた。それから操作を教え込むこととなった。

 ここでもう1つ誤算だったのはカイチの飲み込みが異常に早かったことだ。幼い頃からガンプラカフェに入り浸っていた影響か操作を自然と少し記憶していたのかものの五分程度で操作をほぼマスターするという離れ業を見せた。

 まさしく馬鹿と何とかは紙一重、というヤツだろう。

 

「おっし操作は完璧だぜー」

「今回は信じといてやるよ」

「任せとけって! ところでこのEXって書いてるのは試さなくていいのか?」

「触らない方が身のためだと忠告はしとく」

 

 EXスロット、つまりはトランザムの起動スロットだ。切り札と言えるこれをカイチには教えていない。

 そもそも初めてガンプラを動かすようなヤツが急激な性能変化を起こすトランザムを使いこなせるとは思えない。下手すれば自爆するまでありえる。

 間違っても「トランザムは使うなよ」とか言ってはならない。

 

「んじゃあ行こうぜ! さっさとあいつらぶん殴って退場させねぇとな!」

「・・・あぁ」

 

 飛び出すブレイヴを見てそれを追いながらミコトは考える。

 操作を覚えるのがやたら早かったカイチだがその間一切敵の襲撃が無かったことが引っかかる。正直狙われたら一網打尽の危険性もあっただけに助かったのだが、素直には喜べない。

 

(敵は準備を終えている、と見た方がいいかね)

 

 とはいえそれはこっちも同じだ。カイチは戦力として何とか数えれる状態になったしその中でゲシュテルンガンダムの操作最適化もほぼ完了した。今更恐れる必要等無い。

 

「――居たッ!」

 

 カイチの声にミコトもカメラを合わせる。漆黒の宇宙空間に揺蕩(たゆた)う廃コロニーを足場にして立っている白い大型MSとその横につき従うように大きく張った棘付きの肩とガスマスクのような特徴的な顔をしたモスグリーンに塗装された小型MSが居た。

 大型MSは前回戦闘したジ・Oだ。前回と見た目に大きな違いは無いが恐らくMLRSの中身が変わってる可能性が高いだろう。

 もう一方のモスグリーンのMSは“機動戦士ガンダムF91”に登場したクロスボーン・バンガードの主力量産型モビルスーツ、デナン・ゾン。技術の進歩により小型化と高出力化を両立した名機だ。

 

「デカ物とドチビが相手かよ」

「まぁ、横に居るのがジ・Oのせいでデナン・ゾンが余計小さく見えるよな」

 

 ちなみに設定上ジ・Oは28.4m。対してデナン・ゾンは14mとほぼそのサイズは二倍の差がある。操るファイター二人の凸凹っぷりを思い出して思わず納得してしまった。

 

『よう、負ける準備は万端か?』

「だからブーメランだっての」

「はっはっはー! 命乞いの準備は万端かー!?」

「お前はもう何キャラだよ」

『まぁぶっちゃけ奇襲をかけようと思ったら四台連結分のフィールドが広すぎたってオチがあるんでやんすがねぇ…』

 

 デナン・ゾンがやれやれといったジェスチャーをした。やはりというか、デナン・ゾンはやんすの機体のようである。

 

「そんじゃ、いくぜぇぇぇ!!」

 

 ブレイヴの背中のGNドライヴ[T]が音と赤い粒子を散らしながら稼働、突撃する。サイドバインダーに収納された直刀型の刀身を形成したGNビームサーベルがその手には握られている。

 その機動性はガンダムハルートさえも上回るブレイヴは瞬間的にトップスピードへ到達。ジ・Oの喉元にサーベルを叩きつけようとするが、到達寸前でブレイヴの胸元で爆発が起きる。

 隠し腕に収納された例のクラッカーだ。

 

「うわっ!?」

「よくやった! リソース削りと盾役両立は偉いぞ!」

「俺を何だと思ってんだテメェ!?」

「盾。おっと」

 

 デナン・ゾンがゲシュテルンに向けてショットランサーに内蔵されたヘビーマシンガンを放つ。ゲシュテルンはコロニーの破片を足場にしながら回避しつつビームライフルのトリガーを引く。大型のライフルに違わない出力のビームがデナン・ゾンが避けた後の廃コロニーの一部を穿つ。

 

『貫くでやーんす!』

「なんのっ!」

 

 ショットランサーによる突撃攻撃を掻い潜りビームライフルを振り回す。銃口からロングビームサーベルが展開し横っ腹に叩きつけんとするが咄嗟に左腕のビームシールドを展開することでデナン・ゾンも受け止める。

 

『げぇ、見た目はアナザーガンダムの癖に持ってるビームライフルはリゼルのものたぁ予想外でやんす!』

「その口調で今のを防がれるのも予想外だけどな!」

 

 袖口に仕込んだビームマシンガンを散らしデナン・ゾンから距離を取ったところに特徴的なSE(翼竜の咆哮)を響かせながら粒子ビームが飛ぶ。

 ブレイヴのビームライフル、ドレイクハウリングだ。

 

「ヤナミ! このビームの音超カッコイイぞ!」

「あーそーかい良かったねっと!」

 

 サーベルを切ってライフルを再び放つ。ジ・Oに向かったビームは隠し腕が投げたコロニーの破片を破壊する。

 

(ちっ、動きがよくなってるな。本来のスペックって感じか。それにあのやんすもザコくさい喋りしてるのにわりと油断ならない動きしてやがるし、観察力も高い)

 

 認識を改める。昨日と同じと舐めてかかったら足元をすくわれる。

 

「ヤナミ、デカブツを先に倒そうぜ! チビはなんとでもなりそうだ!」

「わりといい感してるじゃねぇかアキヅキ。連携して攻めるぞ!」

「OK、ヤナミ!」

 

 デナン・ゾンの横を一瞬で抜けジ・Oに向かって突撃する。だがジ・OもMLRSをこちらに向かって一発射出してきた。

 ミサイルが先に破裂し中から針のような小型の鋭いミサイルが降り注ぐ。

 

「アメアラレぇッ!?」

「あの程度なら大したダメージにならねぇ! このまま突っ込め!」

『できると思ってんじゃねぇ!!』

 

 ジ・Oの大型ビームライフルから高出力ビームが降る。針ミサイルと合わさって動きを狭められる。

 

『俺と出会った不幸を呪いながら落ちろ!』

「落ちるほどじゃねぇけど・・・・・・進めねぇんだけどっ」

「足止めでしかねぇ! 針ミサイルが切れればそれまでだ!」

 

 だが。

 足止めをするということは、時間を稼ぐと何かが起こるということだ。

 

 危険を知らせる音が、響いた。

 

「高エネルギーアラート!?」

「ヤナミ、アレ何だ!?」

 

 指差した方向にあったのは、デブリに足を突き刺して固定したMSよりも大きな超巨大砲台と、砲手を務めるデナン・ゾン。

 ビッグガン。ジオン公国軍リビング・デッド師団が使用する大型ビーム兵器。技術的問題による巨大さを誇る兵器だがそのサイズから狙撃距離と出力は一年戦争時代の物とは思えない火力を誇る。

 

「本命は、アレか!?」

 

 足止めをしつつデナン・ゾンがビッグガンに向かっていたのだろう。ビッグガンの設置自体はカイチの操作をレクチャーしていた間に行ったのだろう。だが、

 

(ビッグガンまでの距離が結構ある・・・あれじゃ破壊はできない。なのに、デナン・ゾンはどうやってあそこまで行った?)

 

 デナン・ゾンから目を離した時間はそこまで長くはない。先ほどの交戦で向こうの機動力も把握しているがあの距離を駆け抜けた上で隠してあったビッグガンを取り出すだけの時間があったのか。

 

(支援機、か?)

 

 SFS(サブフライトシステム)のような機動力を補助する支援機を導入しているのならあの移動にも説明は付くが――。

 

『吹き飛ぶがいいでやーんす!』

「ッ!」

 

 ビッグガンから巨大な光の爆流が放たれた。逃げ場は、無い。

 二体のガンプラが飲み込まれた。

 

『くぁはっはっはー! 一網打尽! この程度だったか!』

 

 哄笑が響き渡る。カフェがシン、と静かになる。

 

「舐めんなああああああ!!!!」

 

 爆煙を切り裂いて緑色の疾風が吹き抜ける。

 クルーズポジションの形態を取ったブレイヴと、その腕に捕まっているゲシュテルンガンダムだ。両機を赤いフィールドが包み込んでいる。

 

『バカなぁ!? GNフィールドで突破したとでも言うでやんすかぁ!?』

「このアキヅキ・カイチ様を舐めるなって話だよッ!」

 

 クルーズモードでGNフィールドを全開にした状態で突撃することでビッグガンの攻撃範囲を抜けだした。高機動を誇るブレイヴだからこそ成功した技だ。

 

「はっはー! どーよ、ヤナミ! めっちゃ心臓バクバクしてんぞ!?」

「・・・素直に褒めてやるド素人!」

 

 変形自体は簡単にできる。だが、戦闘中にそれをこなすのは難しいものだ。無駄な動作になりやすいものだし機動力や姿勢の変化に付いていけなくなることが多い。故にOOでは変形を取り込んだ機動(マニューバ)を“グラハムスペシャル”等と呼ばれている。

 

 口で教えた程度でそれをこなすカイチに、少しだけ嫉妬した。

 

「なーんて、な・・・アキヅキ、一気に近付いたら人型に戻れ! そのまま投げ飛ばしてくれればいい!」

「おうよ!」

 

 速度を殺さずに一気にクルーズポジション(巡航形態)からスタンドポジション(人型形態)へと移行する。その勢いを利用してゲシュテルンを投げ飛ばし、ブレイヴもそれに続く。

 ライフルを投げ捨てサイドアーマーのビームサーベルを引き抜く。ブレイヴも同様に片手にGNビームサーベルを握った。

 既にサーベルのレンジに入っている。スピードは、こちらが上!

 

「もらったァ!」

『馬鹿が!!』

 

 ジ・Oから電流のようなフィールドが迸り、二機を飲み込んだ。バチバチとスパークが爆ぜる。

 

「がァッ!? な、なんだ!?」

「プレッシャー、かっ!? ンで使えんだ!?」

 

 本来ジ・Oにはサイコフレームのようなオカルト装備は積まれていない。だが、この動きを止めるプレッシャー攻撃と呼ばれるモノは一部の格ゲーに実装されている。

 だがガンプラバトルでは基本的に原作で使用されている技が使用しやすい。別作品で生まれた技を実装するにはそれなりの技量が必要になってくる。前回使ってこなかったのは、恐らく前回では使えなかったから。

 

『あっしの秘密兵器第1弾、お楽しみいただいているようで何よりでやんす。ついでに第2弾も味わってもらうでやんすよぉ!』

 

 メカニックたるやんすの声と、高エネルギーアラートが響く。上方を見上げれば、そこに青い巨大な銃のシルエットを握ったデナン・ゾンが居た。

 

「メガバズーカランチャー! アレで移動してたのか!?」

 

 ランチャーはそれ自体が推力を持つ。支援機ではなくあのサイズなら一気に移動していたとすれば説明は付く。だが、

 

(あのサイズじゃあ小回りが効かない。今まで隠せていたことに説明が付かねぇだろ!)

「ちっくしょう動かねぇぞどうなってんだ!? コントローラ壊れてんじゃねぇの!?」

「プレッシャーにスタン属性が絡んでる! これを跳ね除けねぇと!」

 

 もがく。だが、拘束からは逃れられない。

 

『ここまでだな。まぁまぁ楽しかったぜぇ?』

 

 ジ・Oが離脱していくがスタンは抜けきらない。ランチャーの銃口に光が集まっていく。

 

 逃げ、きれない。

 

「ちっくしょう! さっきのバリアーで防いでやる!」

「・・・ここまでかよ」

 

 相棒の初陣が、一掃で終わり?

 冗談じゃ、ねぇ! だけど!

 

 

 

 

 閃光が、弾けた。

 

 

 

『ななな、何でやんすかぁ!?』

 

 朱い閃光が宇宙の果てからメガバズーカランチャーを貫いた。爆発に巻き込まれないようにデナン・ゾンが大慌てでランチャーから離れる。

 

「朱・・・疑似太陽炉のビーム? でも…」

『やっぱりアマアマだね、ヤナミ・ミコト』

 

 オープンチャンネルでソプラノ系の声が響いた。

 男だらけの戦場で響くことのない、聞き覚えの無い声。

 

「いや、この声どこかで――」

「ヤナミ! あそこに居るぜ!」

 

 カメラをめいっぱいズームする。コロニーよりもさらに向こう側、バトル台の端近くに何かが居た。

 全身を包む外套から伸びた右腕に大型のロングライフルを持った機体。一本角と四つ目が輝く特徴的な頭部を持った機体。

 

「GN-Xか、アレ? アイツが撃った……ってここはバトル台の中央周辺だぞ!?」

『あんなヤツバトル前には居なかったでやんすよ!?』

『乱入者だと!? 卑怯にも程があるだろうが!』

『・・・ホント、ブーメランがお好きなようで』

「その声・・・アマネじゃねぇか!」

 

 GN-Xの四つ目がOO独特のSEを鳴らしながら輝いた。

 

『――セリザワ・アマネ、GN-X オリジン。歪みに介入する』

 

★☆★

 

次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-

 

「げぇ!? あっしの自信作がぁ!?」

「アナタのガンプラ、その程度?」

「いい加減見苦しいったらありゃしねぇ!」

 

【Build.03:出会いと、プロトタイプ(後編)】

 

「【System・EX】起動!

 お目覚めだ、ゲシュテルンガンダム!」




長くなったので前後編に分けました。後編を早めに投稿できるように頑張ります。

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