ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-   作:結城ソラ

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「ふ、ぅ・・・」

 滴る汗を初めて拭いながら、アイカは大きく息を吐き出した。
 フリーダムのカメラが映し出すのは爆煙。周辺に浮いていた残骸も巻き込まれたらしく、その色は濃い。
 必殺のフルバーストには確かな手応えがあった。それこそ勝利を確信して笑んでしまうほど。
 なのに、何だろうこの違和感は。胸に引っ掛かる棘は。
 深く考える。音の無くなった宇宙はこれ以上無く静かで――。

「・・・なんで、終わってないの?」

 ハッと気付く。ミコトを打ち倒したハズなのに未だにプラフスキー粒子はこの世界を作ったまま。
 それが指し示す答えは、一つ。

『歌は、終わりだな?』
「ッ!?」
『こんだけ詰め込んだ勝ち確フラグが折れたんだ。つーことは、だ!』

 爆煙の内側から眩い輝きが吹き荒れ、月面を覆っていた爆煙が一気に吹き飛ばされる。
 ボロボロになりながら、さながら理不尽を纏った悪魔のように。光の翼を広げたデスティニーがその姿を現した。

『こっからは、俺のターンだ。アイカ!』
「何、っで!」

 口を三日月のように吊り上げて笑うミコトに対してアイカが思わず叫ぶ。
 何故必殺のフルバーストを受けてデスティニーが撃墜されていないのか。その理由を問われれば、“ヤナミ・ミコトのズル賢さ故”としか言いようが無いだろう。
 そもそもこのダイダロス基地付近を戦場に選んだのはデブリとMSの残骸達で的を散らすためだったのだが、散策していたミコトに嬉しい誤算が二つあった。
 一つは残骸の中にスウェン・カル・パヤン仕様のストライクEが二機も見つかった事だ。何故カスタム仕様だったのかというツッコミは呑み込み、内蔵されたワイヤーアンカーで複数のMSを繋げておいた。
 もう一つはファトゥムが動いた事だ。とはいえ無敵の突進力は無く前に飛ばすのがやっとなのだが、ストライクEのワイヤーに繋げて射出する事でMS達を牽引くらいはしてくれる。
 後はワイヤーを隠蔽し、ファトゥムの上に座って視線を反らす準備を整えた上で場所を知らせた。・・・結果、余裕を振る舞い過ぎて危うく撃墜される所だったのだが。
 そしてフルバーストの最にファトゥムを起動させファトゥムとMS達の壁、そして自身のソリドゥスで身を固めて何とか生き残ったというのが事の真相だ。
 初心者相手にやる罠ではない、という冷たーい店長sの視線は一切気にせずミコトはバトルを終わらせるべく月面を飛び立ちながらライフルを連射する。

『デスティニーなら、こういう戦いもできる!』

 ビームに対してフリーダムはアクロバティックな軌道で回避を行うが、その内の数射がフリーダムを捉え傷付ける。

『次はコイツをくらえっ』

 動きが鈍るのを分かっていたようにデスティニーは長距離ビーム砲を発射する。回避が困難だと悟ったアイカは咄嗟に両腕のソリドゥスを展開して受け止める。
 だがここまでの戦闘でダメージを受け続けた上にフルバーストで大量の粒子を消費していたフリーダムが受け切るのは難しく、ある程度の威力を減衰させた段階でソリドゥスは破壊され左手が吹き飛ばされる。

「ッ!」
『まだだ、逃がすか!』

 デスティニーがそれまで一度も抜いていなかった大剣――アロンダイトを構えながら光の翼を全開にして突撃する。アイカはすぐさまドラグーンに命令を下し残った粒子の大半をカリドゥスに注ぎ込んで解き放つ。
 フルバーストほどではないが充分な火線がデスティニーに殺到する。

「・・・えっ!?」

 目を疑った。デスティニーは、まるで螺旋を描くようにカリドゥスのビームに沿いながら飛んでいた。
 最も強い出力のビームに巻き込まれドラグーンの射撃はデスティニーに届かない。一方でビームすれすれを飛ぶデスティニーもまた、ビームの余波を螺旋状に飛ぶ事で逃がしてはいるのだが少しずつ装甲が焼けていく。
 いつぞやアマネが行っていたものと同じマニューバ。実は元々ミコトが教えたモノなのだ。
 敢えて違いを挙げるならアマネが行ったのは基本防御等をしっかり固めた合理的な“戦闘軌道”。対してミコトはそんな事を考えず、ギリギリ切り抜ける見栄えを重視した“曲芸飛行”。
 ぶっちゃけただの趣味回避なのだが、ドラグーンの攻撃を切り抜け踏み込むには充分な結果を残す。

『これで――!』

 迫る。迫る。迫る。残像を引きながらアロンダイトを振りかぶったデスティニーがさらに加速した。
 刹那の内にフリーダムの懐に潜り込んだデスティニーのアロンダイトが閃く。斬られたのだと気付いたアイカにさらなる衝撃が襲いかかる。
 振り抜いた勢いそのままに回転し切っ先をフリーダムへ向け、突撃。カリドゥス越しにアロンダイトが貫通し運動エネルギーに従って背後に飛ぶ。
 吹き飛びながらもフリーダムのCIWSが無茶苦茶に放たれるがデスティニーは冷静に頭部だけに狙いを定めたCIWSで返礼する。
 フリーダムの頭部が粉砕されると同時に二機はデブリへと激突する。深々とアロンダイトを突き刺しフリーダムをデブリに縫い付けるとデスティニーはアロンダイトを手放す。
 その右手を輝かせながら。

『吹っ飛べ――!!』

 パルマフィオキーナの閃光が宇宙の暗闇を照らし出す。一瞬の静寂の後。

 “BATTLE END!”

 バトル終了を告げるアナウンスが流れた。


Build.14:最果てへの挑戦

「むぅぅぅ」

「いやまぁうん、流石に大人げ無かった。反省してない」

 

 頬を膨らませながら恨みがましい目線をミコトに向けるアイカはそのまま提供されたオレンジジュースをストローいっぱいに吸い上げる。

 完膚なきまでに、それこそ初心者に行うようなものではない必殺コンビネーションで文字通り粉砕されたわけなのだが、アイカがご機嫌斜めなのは何も負けた事が原因ではない。

 

「そりゃあちょっとでも本気を出してくれたのは嬉しいけど、あんな風にガーっと迫ってきて突き刺すは頭吹き飛ばされるわ・・・流石に怖いというかぁ・・・」

 

 訂正しよう。負けた事“だけ”が原因ではない。

 別に自分の実力を過信するつもりは無いが、最後の攻撃にはまるで反応できなかった。それはつまり、ミコトの本気をまるで引き出せていなかったという事。その事実にアイカは落ち込んでいたのである。

 尤もミコトからすれば余裕ぶっこいた結果わりとシャレにならないレベルで追い詰められていたわけで。ぶっちゃけバクバクする心臓を悟られないように必死に取り繕っていたのだが。

 

「流石に初心者相手に連敗はプライドが許さねーというかなんというか」

 

 思いのほかクスノキ・メグルに敗戦が後を曳いているらしくバツの悪い表情のまま後頭部を掻く。

 その光景を微笑ましげに見る店長コンビの横をすり抜け、朱いドレスと銀の髪が舞う。ミコトの横にやってきたシャーロットはまるで絵画の一枚のような笑顔を見せる。

 

「素敵なバトルでした」

「・・・アレがか?」

 

 胡散臭い、と言わんがばかりのミコトにシャーロットはやはり笑みで返す。

 

「少なくともアイカが楽しく戦えるように舞ってたじゃないですか。ね、アイカ?」

「へ、あ・・・うん」

 

 不意に話を振られたアイカが慌てたように肯定する。

 

「楽しかった。特にほら、歌ってると頭がスーッとクリアになっていって、こうフィールドが全部感じられた時は凄く楽しくて・・・あれ、私何か変な事言ってるかな?」

「いいえ、そんなことありませんよアイカ。粒子は人の心に反応するんです。アイカの思いが伝わったんですよきっと」

「そ、そうなの?」

「えぇ。ミコトさんもそれを認めて、最後は名前を呼んだんですし」

「え?」

「・・・・・・」

 

 興味深そうに話を聞いていたミコトがサッと目を反らす。アイカが無言で詰め寄るが一切目を合わせないようにして逃げの一手を打ち続けるミコトを見て、どこかそれまでとは違った雰囲気を纏いながらシャーロットが口を開く。

 

「だからこそ、欲求が沸きました」

「あ?」

「アナタの全力全霊を」

 

 熱に浮かされたかのような瞳で、妖艶な笑みを浮かべたシャーロットにミコトは片目を閉じて僅かに表情を歪ませる。アイカもいつの間にかシャーロットから目を離せなくなっていた。

 

「アナタの愛機を用いた全力のバトル。それを是非見せていただきたいのです。ワタクシの熱が、それを求めています」

「熱、って・・・シャロちゃん・・・?」

「・・・別にやる分には構わねぇけど、相手が・・・」

「ちょぉっと待った」

 

 アイカが注文していたオレンジジュースのお代わりを持ったクゼが会話に割り込んできた。そのままシャーロットに背を向けてミコトに歯を剥き出しにした凶悪な笑みを浮かべた。

 

「その相手、私が勤めようじゃないか」

「クゼ店長が、ですか?」

 

 アイカが驚きの声を挙げると「まぁ」とシャーロットが手を軽く合わせる。

 

「ガンプラカフェの店長さんなら全力で問題無さそうですね。とても良いお話です!」

「却下」

「おや、フるのが早すぎないかヤナミ少年」

「相手にならねぇですよ。瞬殺されて終わりじゃデータもクソもねぇ」

 

 ジト目になったミコトが面倒くさげにため息を吐く。

 ガンプラカフェはヤジマ商事の展開する公式店舗である。そこを任せられる店長は自然とバトルの実力の高い者が選ばれる。

 実際問題ミコトは以前店長とのバトルでこっぴどく負けている。店長クラスとの実力差は身に沁みて分かっているのだが。

 

「何、その点は任せてくれたまえ。そこの加減をできぬMA馬鹿とは違うさ。私の戦い方は相手に合わせやすいモノだからね」

 

 ウィンク。アイカやシャーロットからの視線や店長の苦笑いで最早クゼから逃げる手段が存在しない事を悟ったミコトは面倒と言わんがばかりにため息を吐き出した。

 

「・・・存分な手加減を希望します」

 

 

☆★☆

 

 

 カバンから取り出した貸出の物ではなく本来の自分のGPベースをセットする。それを合図に青い粒子が噴き上がり、新たな世界を構築していく。

 手慣れた手付きでゲシュテルンガンダムを取り出しながらコネクタが露出した背面をジッと見つめる。

 

「・・・相手が何かも分かんねぇし特化型のフリューゲルじゃ何もできずにやられるかもしんねぇし・・・いっそ、アレで・・・」

 

“Please, set your GUNPLA”

 

 考え込むミコトにバトルシステムが催促してくる。舌打ちを1つすると万能対応が可能な“EXシルエット:コマンダント”を取り出してゲシュテルンのバックパックに装備するとそのままシステムにセットする。

 

“Battle Start !!”

 

「ヤナミ・ミコト、ゲシュテルンガンダム・コマンダント。勝ちに行く!」

 

 コマンダントシルエットを装備したゲシュテルンガンダムがカタパルトから射出される。

 吹き荒ぶ風が、ゲシュテルンガンダムの翼を撫でた。

 

「・・・マジか・・・」

 

 頭を抱えたくなる衝動をミコトは必死に抑えながら、抑えきれずに言葉が漏れ出る。

 カメラに広がるのは爽やかな緑。吹く風も柔らかく、地面を覆う短い草がゆるゆると揺れる。青空とキラキラと輝く太陽も含めて実に爽やかである。

 だが、それだけだ。

 木も建物も川も山も残骸も何も無い。地形の凹凸すら変わらないどこまでも平らな草原が広がるばかりだ。

 プレーンステージ。一切の障害物・ギミックを廃した実力だけをぶつけ合うためのステージであり、昔から格闘ゲーマーに愛されるタイプのステージだ。

 当然ガンプラバトルでもそういう希望があるので実装されたステージではあるのだがミコトからすれば苦手意識しかなかったりする。

 元々ミコトは自身の実力をカバーするために搦め手を駆使する事を基本戦術として確立している。故に市街地等の障害物の多いステージを好き好むのだが、プレーンステージではそんな搦め手の大部分が使えなくなるのだ。

 

「ただでさえ実力不足だって言ってんのによ・・・」

 

 いやそもそもクゼの目的は自分の実力を測る事だとか言っていた気がする。それはつまりガチの殴り合いをご所望という事だろうか?

 

「・・・おいおい」

 

 平原に立つ影を見つけた瞬間にゲッソリとした口調で思わずボヤく。

 影の正体は腕組みをして立ち尽くすクゼのガンプラだ。白を基調に全身に緑の刺し色が加えられ、装甲を追加されたグレイズがゲシュテルンをジッと見つめている。

 

「アクティ・・・」

『おっと、待ちたまえヤナミ少年』

 

 ビットに命令を下そうとしたミコトをよく通る声が静止する。

 

『キミにハンデの説明をしていなかった。だからこうして待ち構えていたのさ』

「・・・」

『そう露骨に警戒してくれるなよ。何、簡単だ。私のグレイズ・ブランヴェールに一発攻撃を直撃させる事ができれば、キミの勝ち』

「・・・舐めてます?」

 

 流石にイラついたような声を漏らすミコトにクゼは焦ったように言葉を紡ぐ。

 

『気を悪くしたなら謝ろう。だが』

 

 ブランヴェールが両手を広げる。

 それを合図にしたようにブランヴェールの周辺の地面が至る所でせり上がるとそこから次々と影が射出された。

 それはカタパルト。バトルフィールドに投入されるガンプラ達が必ず通る入口。その正体の意味する所は。

 

「ちょっと、待てっ!?」

『さぁ・・・これが我が軍団(クラン)!』

 

 大地に幾つもの影が降り立つ。

 指揮官機、改、流星号、マクギリス・ガエリオ専用シュヴァルベ、カルタ専用リッター、レギンレイズ、ゲイレール、リーガルリリー、アードラ、シルト、シュタッヘル、フレック。

 さらにバトルブレード、マシンガン、バズーカ、バトルアックスをそれぞれ両手に持ちさらに背に幾つもの武装を背負ったノーマルのグレイズが3体。そして1/100スケールのタワーシールドを両手に装備した量産カラーのリッターが3機。

 クゼのブランヴェールを含めればその総計は20体になる。

 

『安心したまえ。まだ余裕はあるがこれ以上追加しないしブランヴェール自体は移動しない。この破格の条件で、ブランヴェールに一撃当てればいいというわけだ!』

 

 頬を引き攣らせるミコト等気にせずクゼが得意気に笑った。

 

『さぁヤナミ少年! キミからの滾りは我が軍を動かせるかな!?』

 

 

☆★☆

 

 

「アレありなんですかっ!?」

「まぁレギュレーションを明確化してないからね。ハンデというのもクゼの独断と偏見でやってるから果たして成立してるのかどうか不安なラインだけど」

 

 諦めと諦観に満ち溢れた表情で紅茶を飲む店長に食いかかっていたアイカが謎の圧に押し返される。

 とはいえカメラに映る軍団はあまりにも圧倒的でありミコトの不利は誰がどう見ても明らかである。

 

「ですがアイカ、先程あなたが使ったドラグーンでも動かすのが大変だったでしょう? それ以上の数のガンプラを同時に動かす事の難しさも分かるのでは?」

「うっ・・・」

「まぁアレがクゼ・クランなのさ」

 

 店長は苦笑いをしながらズラリと並ぶグレイズ軍団を見やる。

 

「自前の制御プログラムを組んだ半オートと直接操作を代わる代わる1人で軍団を操作する指揮官。まさしくクラン(軍団)だろう?」

 

 

☆★☆

 

 

「クソゲーだわこんなもん!!」

『どうしたどうしたぁ。打開策を打たねば延々と打ちっぱなしだぞぉぅ!』

 

 大量の銃弾やミサイルの数々を避け回るゲシュテルン。ミコトが額に青筋を浮かべながら叫べば楽しげにクゼが応える。

 挑発への返礼代りにグレイズ軍団の地上からの絶え間ない攻撃を高高度で回避を続けるゲシュテルンが両手にそれぞれ持つDXのシールドバスターライフルをクゼがメインで操るブランヴェールに向けて発射する。

 しかし悲しきかな。ブランヴェールの前方に展開するタワーシールドを二枚装備したリッターにビームは受け止められ霧散する。シールド越しにチラリと見えるリッターの顔が何故かドヤ顔しているように見えて余計に腹が立った。

 

「この距離じゃナノラミを突破できねぇ、けどこれ以上高度を落とすと蜂の巣待った無しっ」

『ははは、そこが安全だと誰が言ったぁ!?』

 

 砲撃が一瞬止む。次の瞬間、近接武装に身を固めたグレイズが助走を付けて2体大ジャンプ。

 無論重力下での空戦能力を考慮していないグレイズではゲシュテルンの高度まで届かず、落下を開始すると思った。だが、その背後から強烈にブースターを吹かせて飛び上がる影――シュヴァルベ・グレイズが現れ、先行していたグレイズを踏みつけた。

 

「味方を踏台にしたぁ!?」

 

 味方を足場にさらにブースターの出力を上げたシュヴァルベ達がゲシュテルンへと迫る。お約束の叫びを上げてしまいついつい反応が遅れたミコトの不注意をクゼが逃すわけもなく、ガエリオ機がワイヤークローでゲシュテルンを捕まえる。

 すぐさまワイヤーを巻き取りながらガエリオ機らしくランスユニットを用いての刺突を狙う。

 

「ブラスター、起きろ(アクティブ)撃て(ファイア)!」

 

 そうはさせじとコマンダントシルエットに装備されたブラスタービットをミコトは起動。放たれた四基のビットの内一基がワイヤーを撃ち抜き残りの三基がシュヴァルベに砲撃。致命傷には程遠いが空中での支えを失ったシュヴァルベはそのまま地上へと押し返される。

 息を吐く間も無くガエリオ機に注意を奪われている間に頭上を取ったマクギリス機が何故か装備していた滑空砲を向け、放つ。轟音と共に放たれた砲弾が無防備なゲシュテルンを狙い撃つ。

 

「セイバー、起きろ(アクティブ)廻れ(スピン)!」

 

 シルエットに残されていたセイバービットが砲弾とゲシュテルンの間に滑り込む。直後、刃の無い平面部分を砲弾へと向けると回転を始め砲弾を受け止める。

 甲高い金属音を響かせながらセイバービットが砲弾を打ち落とすと、ガエリオ機を撃ち落としたのと同じように背面から四基のブラスタービットの一斉射でマクギリス機に叩き付け地上へと強制送還する。

 

『ほほう、不意討ちへの対処はやはり実に上手いな少年!』

「お褒めいただきどーも! 皮肉にしか聞こえませんけど!」

『ひねくれてるねぇ。そこは素直に喜ぶ所だよ。カトー君くらいは楽しませてくれそうで私はワクワクしているのに!』

「カトー?」

 

 攻撃を中断し一斉に「嘆かわしい」というポーズを取るグレイズ軍団に思わずイラッとする。

 

「誰の事言ってんスか。あれですか、糖分過剰接種系ファイターか、それともいつぞやの大会を騒がせた“ブラック・ナイトメア”ですか」

「いいや、“軍団の魔術師”のカトー君だが?」

「ほぼ世界級やないか!!!」

 

 今度こそ本気でブチギレながら発砲。怒りを吸い上げたかのような勢いと威力を持ったビームを受け止めたリッターはたたらを踏んだ。

 それを合図にしたようにグレイズ軍団が再び攻撃を開始。一転してゲシュテルンもまた回避に集中する。

 

『そーんなに怒る事でもないだろう。後数年も研鑽を積み続ければヤナミ少年もいいトコいくと思うという期待の現れなんだが』

「買いかぶりが過ぎ、るッ!?」

『というわけで洗礼だ。受け取れぃ』

 

 ブランヴェールの背後に控えていたグレイズ改と流星号が何かを持ち出し地表にバンカーを突き刺して姿勢を安定させながら構える。

 それはMSよりも遥かに巨大な狙撃用ライフル――俗にアンチマテリアルライフルと呼称される対戦車砲である。

 

「んなもん無くても死ぬほど戦車に優位だろっ!?」

『てー!』

 

 クゼの号令とブランヴェールの右腕を下ろすアクションに合わせてアンチマテリアルライフルが火を吹く。撒き散らした紫電により電磁加速された砲弾は目にも止まらぬスピードでゲシュテルンへと飛来し、シルエットの翼を木端微塵に粉砕した。

 

「ッ――!」

 

 飛行能力の要を破砕されたゲシュテルンが重力に引っ張られて落下する。咄嗟に手を伸ばしてビットを掴み落下速度を緩めようとするが、

 

「ぬおっ!?」

 

 バスターソードを振り回しながら迫り来るレギンレイズに邪魔をされる。

 

「ブラスター、ゴぶっ!?」

 

 ブラスタービットに迎撃を命令しようとした瞬間謎の衝撃に襲われ命令を中断させられる。カメラを向ければ、クリームカーキのレギンレイズが「これが正義の一撃だ!」と言わんがばかりのガッツポーズをしていた。

 イラッ☆としたのでとりあえずレールガンごと左腕をセイバービットで切り落としてから防御体勢を固め、回避不能のバスターソードに対して両手のディフェンスプレートを投げつける。

 

「おらぁっ!」

 

 軽くディフェンスプレートを切り裂きながらせまるバスターソードに対してミコトはその刃を直接掴み取る選択をする。次いで放たれるのは当然パルマフィオキーナだ。

 高熱と勢いだけでバスターソードをへし折ったゲシュテルンはすぐさまバインダーを展開。獲物を失い無防備なレギンレイズに追撃をかけようとする。

 

『それは流石に甘いなぁ』

「しまっ!?」

 

 ゲシュテルンの足を何かが引っ張り地表に引き寄せる。正体は、先程退けた二機のシュヴァルベのワイヤークローだ。

 既に飛行ユニットを攻撃特化の形態に変化させていた事が仇となり抗うことすら許されず、ゲシュテルンは地面へと叩き落とされる。

 

「まずっ・・・!」

 

 機体へのダメージを確認すらせずにミコトは左右にバインダーを展開しプラフスキー・フィールドを発生させると背後に全ビットを呼び寄せ、正面には両手のソリドゥスを全力で展開する。

 次の瞬間、最早“壁”と称するべき程の圧倒的な弾幕が四方八方からゲシュテルンへと襲いかかる。落下地点を囲んだグレイズ軍団全てが持つマシンガンの弾丸だ。

 延々と放たれ続ける弾丸は全力で敷いたゲシュテルンガンダム・コマンダントの防御を無慈悲に削り取り、装甲を削り取る。

 ダメージが入っているのを理解しながらクゼは一切手を緩める事無く軍団に発砲指示を送り続ける。

 やがて。装填されている弾丸を全て撃ち尽くしたのか、銃を下ろしフィールド全体を覆いかねないほどに広がった煙をグレイズ達が一斉に装甲を展開して先程まで発砲していた一点を見つめる。その様はあまりに不気味で無機質だ。

 痛い程の静寂。ゆっくりと煙が晴れていき、煙の中に揺らめく影が徐々にその姿を、現した。

 

 

☆★☆

 

 

「ッ――!?」

 

 固唾を飲んで見守っていたアイカが思わず息を飲んだ。

 煙の中から現れたゲシュテルンガンダムは未だ撃墜されていない。

 

 だが、それだけだ。

 

 元よりアンチマテリアルライフルによりダメージを負っていたコマンダントシルエットはアームを粉砕され、ベース部分は背後からの弾丸を受け止めるクッションとしての役割は果たしていたようだがめり込んだ弾丸が機能停止を訴えている。

 膝立ちしていたせいか脚部は他よりはマシではあったがそれでも抉れた足では立つことは叶わないだろう。ギリギリまで受け止めていたのか、その付近の地面には六基のビットの残骸が突き刺さっている。

 そしてソリドゥスを張っていた腕はオーバーヒートしたのか焼けただれて溶解していた。肩アーマーのおかげでかろうじて接続されてはいるがブラリと垂れ下がった力無い腕がまともに動くようには思えない。

 頭部と胸部はそれほどダメージを負っていないためか撃墜判定は出されていないらしい。しかし動くこともままならないゲシュテルンに、何ができるだろうか?

 

『わりと本気で仕留めにいったんだがね。確実に生き残れるように中心部を重点的に守ったわけだ』

『・・・・・・』

 

 返答は無く肩で息をするような呼吸音が聞こえるだけ。クゼは少しだけ肩をすくめると、ベロウズアックスを担いだリーガルリリーをゲシュテルンへと差し向ける。

 力無く項垂れたゲシュテルンに迫る姿はさながら斬首刑を行わんとする処刑人といったところか。重たい足音がフィールドの静寂を掻き乱す。

 張り詰めた空気に耐えきれなかったのは、アイカだ。バトル台の近くまで杖を付きながら駆け寄る。

 うっすらと青い壁の向こうで項垂れるミコトに向かって何かを言おうとして、迷い、惑う。

 その間にもリーガルリリーが迫る。両者の距離はほとんど無い。

 焦ったのか、それとも考えるのを止めたのかアイカにも分からない。それでも、気付けばスルリとその言葉が、唇から漏れ出ていた。

 

「ミコト君、負けちゃうの・・・?」

 

 リーガルリリーがついにアックスの射程に到達し、迷うことなくアックスを振り上げる。アイカはただ、ミコトの返答を待つ。

 

『――ハッ』

 

 そこでようやく気付いた。ミコトの指がせわしなく動き回っていることに。その口元に笑みが刻まれていることに。

 アイカの妙な不安は、たちまち掻き消えた。

 

『まだ、負けねーよっ!』

 

 アックスが振り下ろされるより早く、ゲシュテルンガンダムの足元が勢いよく飛び出し、ゲシュテルンを天空の彼方に投げ飛ばした。

 

 

☆★☆

 

 

 せり上がった地面。それはクゼが使用したグレイズ軍団を呼び寄せた出撃ゲート。

 どうやらクゼが使っていたのを見たミコトが自分でも使える事と場所を調整できる事に気付いたらしい。動けないゲシュテルンの真下に起動する事で逃がす辺りの選択に思わずクゼが舌を巻く。

 

『さぁ、何が出てくるんだい?』

 

 上に逃げたゲシュテルンは高すぎて狙えない以上グレイズ軍団は口を開けたゲートを見つめる。

 開いたという事は、何かが出撃してくるという事だ。

 

『換装が得意と聞いたが・・・やはりシルエットフライヤーかな? だが、シルエットだけで打開・・・』

 

 クゼの言葉の最中にギラリとゲートの奥が光る。ビームか、と思ったが違う。それは炎の灯だ。

 白煙と炎の尾を引きながら飛来したのは――大量のミサイル。甲高い音が響き渡りのぞき込んでいたグレイズに突き刺さり、爆発する。

 噴き上がるミサイルの爆煙を分厚い影が突っ切る。その正体は巨大な大砲とミサイルを放ったミサイルポッドを備えたタンクだ。

 

『アレは・・・Gホッパー!?』

「来い、EXホッパー!」

 

 タンク――EXホッパーはその厚い装甲を利用して包囲網を突っ切ると備え付けられたブースターを利用して宙を舞い、放り投げられていたゲシュテルンの元へと駆け付ける。

 それをカメラに捉えたゲシュテルンは両腕・脚部・シルエットを全てパージした。

 

『そう簡単にはさせんぞ!』

 

 動いたのはグレイズ改と流星号。バイポッドからアンチマテリアルライフルを取り外し空中のEXホッパーへと照準を合わせる。

 

「そう簡単に行くとは思ってない!」

 

 流星号に空から何かが猛烈な勢いで突っ込む。ゲシュテルンガンダムがパージした脚部、レッグフライヤーがアンチマテリアルライフルを抱えていたがために回避行動を取れない流星号に直撃する。

 さらにサイドアーマーのビームサーベルが刃を形成しアンチマテリアルライフルを貫く。弾倉を貫通したのか、レッグフライヤー共々大爆発に巻き込まれる流星号と爆風に煽られ体勢を大きく崩すグレイズ改。

 その間にEXホッパーは幾つものパーツを射出する。それはそのまま失われたゲシュテルンの四肢へと吸い寄せられ、新たな四肢を形成する。

 

『ふ、ふふ。なるほどなるほど。“進化”と“換装”。それらを主題にしたガンダムをベースに制作したその機体は、確かにウェアとの相性が良かったわけだ』

 

 してやられた、というには随分と愉悦に満ち溢れた声音でクゼが呟く。

 ウェア。“機動戦士ガンダムAGE”を象徴するギミックの一つであるこのシステムはバックパックの換装により戦闘スタイルを切り替えるストライカー、シルエット等の“SEED”系の換装よりもより大がかりな四肢の換装を行い、劇的に性能・戦闘スタイルを一新するシステムである。

 

『尤も。機構はAGE-3のモノなのに換装のやり方が旧式なのはご愛敬かな?』

 

 コアスプレンダーに牽引された新たなバックパックが変形したコアスプレンダーごと装着される様を見て、クゼの胸の奥からゾクゾクする愉悦が沸き溢れる。最早邪魔をする気は一切無いらしく、むしろその姿を早く見たいと言わんがばかりに見上げるだけだ。

 接続された各部から青白い粒子を蒸気のように吐き出しながら、ゲシュテルンガンダムの頭部が180度回転する。

 次いで正面を向いた後頭部のガードパーツも同様に180度の回転。ガードパーツの裏に隠れていたツインアイがAGE系特有のSEを響かせながら黄金に輝いた。

 

「これが、ゲシュテルンガンダム・カノニーア!」

 

 見得を切る。アニメの換装バンクを意識したモノをついついやってしまう辺りは悪癖と捉えるべきか?

 空中での換装を終えたゲシュテルンガンダム・カノニーアが落下する。勢い良く着地した瞬間、フィールド全体が振動した。

 

『重いな。うん、そのゴテ盛りなら当然か!』

 

 思わずクゼが叫んだ。それも当然だろう。

 右肩に二門のキャノン砲。同様の砲が腕にも同じく二門。左腕に至っては最早腕の代わりにガトリング砲になっており肩にはこれ見よがしに大型の弾倉が接続されている。

 フォートレスを転用して制作された脚部は新たに複数のミサイルポッドが装備されサイドアーマーがスラスターを搭載したバインダーになっており全体的なボリュームはとにかく肥大化している。

 極めつけは新たなバックパックだ。二段構成になったパックには上部ブロックに大型のウイングブースターとロングキャノン砲が一対ずつフレキシブルアーム越しに接続されており、下部ブロックにはシュツルムブースターとランチャーがこれまた一対。ランチャーに至ってはこれまでの全装備中最大のサイズを誇っている始末。

 ゴテ盛りとか全部盛りとか最早そんな言葉が馬鹿らしくなる程の過剰装備の代償に重量は凄まじく、ただ立っているだけで機体が地面に沈んでいる程だ。

 まさしく、砲兵(カノニーア)

 

『何というか、これまでとは随分とイメージが違う気がするな』

「本当はこれもシルエットだったんですがねぇ。俺のヘッポコ腕じゃ大した火力を出せなかったので“全身”使うしかなかったんですよ」

 

 ため息を吐く割に口元を歪ませている辺りミコトもこの結果にはそこまで不満を感じていないようだった。

 そもそも設計段階で高起動戦を重視して作成されたゲシュテルンガンダムでは火力を叩き出すための武装を使用するには装甲が保たない事は分かり切っていた事だった。それこそビームマグナムを放ったデルタプラスのような動作不良を起こしかねない。

 ちなみにこれがアマネが「要る?」と言っていた理由である。ぶっちゃけ採用理由はミコトの趣味でしかない。

 

「ま、敢えて旧式の分厚い装甲を採用して異常な火力を出す機体を見れたのが作成に踏み切った理由なわけなんですが」

 

 実を言えばウェアを用いようと思ったキッカケはハンス・リリーマルレーンのヘヴンズガンダムからインスピレーションを受けてのものだった。ヘヴンズは粒子制御能力の劣る分、装甲が厚いヴァーチェを用いる事で尋常ではない自身の火力を受け止めより火力に特化したセッティングを行う紗発想は実に目から鱗であった。

 結果フルアーマーのように装甲を被せるのではなく新たな四肢を用いるウェア換装を選択したのはほとんど意地でしかないが。

 

『だが、それ動けるのかい?』

「無理ッス。重量過多でホバー使っても浮く事しかできないんで」

『ほほう、では後ろから攻めてみよう!』

 

 激しく地面を蹴り上げて背後からバトルブレードを大上段に振り上げたグレイズが襲い掛かる。

 対してゲシュテルンはホバーを稼働させるが、先程の言葉通り機体が僅かに地面から浮くだけで動き出す気配も無い。・・・だというのに、ミコトの不敵な笑みは消えない。

 

「フレキシブル・アメイジング・ブースター、点火!」

 

 アームに接続された大型ブースターのウイングが開く。次いで高熱の黒煙が吐き出され背後のグレイズを飲み込み、吹き飛ばした。

 

『何っ!?』

「さぁ、突っ走るぞカノニーア!」

 

 黒煙が青い炎へと変わり、同様の炎を全身のスラスターもまた吐き出す。

 一瞬の後、ゲシュテルンが吹き飛んだ。

 

『無茶苦茶だなキミはっ!? らしくないようにさえ見えるっ!』

「ッ、ぅ・・・ハッハ、ハァ! 浮いてさえいれば、指向性のある推力を与えればその方向に進むのは当然でしょうっ!!」

 

 あまりの加速とその制御の難しさに軽く後悔しながらミコトが吠える。

 らしくない、とクゼは言った。確かに、とミコトは思う。

 過剰装備により重たくなった重量を同じく大量に増設した推進装置で吹っ飛ばす、等と今までのミコトならきっとやらなかっただろう。これに踏み切ったのはそれを実現したとある機体の入手と、カザマ・オリハのガンダムキマリス・ディザイアとのバトル経験を得てしまったせいだ。

 雪山という不安定な足場でありながらトルーパー由来の踏破能力を大量のブースターで強化しフィールドを駆け回りミコトを追い詰めた。そんな事が可能だと実際に経験しなければ、きっとこんな機体を作らなかった。それだけは間違いないだろう。

 

『なるほど。そしてそのブースター、遅ればせながらようやく気付いたよ! それは、アメイジングストライクフリーダムのヴレイブドラグーン! その運用の仕方はラピッドアメイジングストライクフリーダム、いや重装備の機体をかっ飛ばすというスタイル的にはアメイジングフルアメイジングストライクフリーダムかなっ!?』

「これのレプリカモデルが手に入らなきゃ、こんな事絶対しませんでしたよ!」

 

 アメイジングストライクフリーダムガンダム。三代目メイジン・カワグチが第八回世界大会で使用した名機。予選終了後はストライカーシステムとユウキのVPS塗料を併用した複数の形態を魅せた。

 このガンプラのレプリカモデルの一部を用いたのがカノニーアのメイン推力だ。尤も、推力に特化させるためにドラグーンとしての機能の一切が失われているのだが。

 

「さぁ、ぶち抜かせてもらいましょうか!」

 

 吹っ飛びながら機体姿勢をようやく整えたゲシュテルンが右腕を突き出す。右側に四門全てを偏らせたシグマシスキャノンから四発のビームが一斉に放たれる。すぐさま全てのビームが統合、一発の分厚いビームとなってグレイズ軍団に、その奥に居るブランヴェールに襲い掛かる。

 それを受け止めたのは進路上に飛び出したグレイズ改と流星号だ。ナノラミネートがビームに反応させ拡散させるが勢いそのものを殺しきれない二機はそのまま戦場の外れへと向かって吹き飛ばされる。

 

「ちっ、撃墜までは持ってけないか」

『はは、いいじゃないかぁ! ドンドン行ってみよぉぅ!』

 

 進路上に現れたリーガルリリーがベロウズアックスを振り被る。さらには左右からシュタッヘルとアードラ、フレックにゲイレールがアックスを持って挟撃をかける。

 

「しゃらくせぇ!」

 

 脚部のミサイルポッドが展開しリーガルリリーの攻撃を妨害するとミコトはF  A   B(フレキシブルアメイジングブースター)を真横へ向け右足のアンカーを地面に穿つ。アンカーが大地を抉り取りながら片足を軸とし、推力の方向が変わった事によりゲシュテルンがその場で独楽のように回転を始める。

 

『何、ぉぅっ!?』

 

 バックパック上部に装備されたロングキャノン――ツインドッズブラスターが左右に向かって放たれる。無論、回転したまま。

 編まれるのはゲシュテルンを起点としたビームの嵐。無差別に吹き荒れるビームが挟撃を掛けていたグレイズ達を何度も殴打し装甲を、フレームを抉り取る。元より装甲の薄い四機はそのまま膝を付く。

 

「次!」

 

 アンカーを外して再び前進を行おうとしたゲシュテルンを背後から二機のシュヴァルベがバズーカを構えながら突っ込む。完全に前しか見ていないミコトに不意打ちが決まったように見えた。

 しかして。ピンポイントに背後を向いたツインドッズブラスターから放たれた二条の閃光は狙い違わずシュヴァルベ二機を撃ち抜く。肩関節に撃ち込まれたビームはフレームを焼き切りバズーカごと腕を落とす。既にトリガーは引かれていたのか、バズーカから放たれた弾頭が地面にぶつかり爆発を起こした。

 

『キミは後ろに目でも付いて・・・・・・いるな! そういえば!』

 

 思わずクゼが叫ぶ。そういえば換装の際にエクストリーム由来のギミックである頭部の反転を行っている。バックパックやコアスプレンダーで隠れてはいるが今まで使っていたメインカメラが背後に付いているのだ。背後からの強襲には滅法強くなっているのだろう。

 

「セリザワみたいに動きながらの狙撃はやっぱムリだよなぁクソッ」

 

 チームメイトの腕前を改めて痛感しながら今度こそ一気に加速。体制を立て直そうとしていたリーガルリリーの懐へと入り込むと左腕を振り被り、アッパーカット気味に胸部を殴りつける。

 零距離を維持したままミコトの操作により弾倉に仕込まれたカートリッジが入れ替わる。

 

「撃ち、貫けぇっ!!」

 

 ゴゥン! という重々しい重低音が二度、三度――合計六度響き渡る。グラリとリーガルリリーがふらつき、倒れる。ガトリングから白煙と共に零れ落ちた薬莢と、背中を貫通している杭を見ればリーガルリリーが墜とされた事は火を見るよりも明らかだ。

 

『ガトリングバンカーとはまた浪漫武器だな! だが、足を完全に止めたのは愚策と言わせてもらおう!』

「ちぃっ!」

 

 排熱を行うゲシュテルンに向かってタワーシールドの影から二体のレギンレイズとカルタ専用リッターが飛びかかる。全機がバトルブレードを抜剣している。

 

「真正面からなら好都合!」

 

 ミコトの取った行動は迎撃。両足のアンカーを突き刺し姿勢を安定させるとシュツルムブースターに接続されたランチャー砲を正面へと向ける。

 

「最大火力のグラストロバスターなら、どれだけ溶けるかなっ!」

 

 グラストロランチャーを元に火力強化を施した最大装備であるグラストロバスターの最大火力。これまでのどのビームよりも巨大に、そして激しく地面を溶かしながら直進した極光をレギンレイズとリッターがバトルブレードを盾に防ごうとする。

 それでも、じりじりと押し込まれていく。

 

「なら、後先考えなけりゃいいんだろうがぁ!!」

 

 スラスターを吹かして勢いに負けそうになる機体を支えながらバスターの出力をさらに引き上げる。保たれていた拮抗が崩れ去り、モスグリーンのレギンレイズとリッターが何とか離脱するがビットの攻撃で損傷していたカーキのレギンレイズは逃げる事が叶わず飲み込まれる。

 レギンレイズを飲み込んだバスターはそのままブランヴェールの前に展開するタワーシールド持ちのリッター部隊に直撃する。

 

「・・・ちぃ!」

 

 それでも展開するタワーシールドを突破する事はできない。

 

『後一歩だぞ! だがそれでは抜けないなぁ!』

「なら、これがホントのホントな全身全霊!」

 

 両腕を突き出し右肩のシグマシスキャノン、バックパックのツインドッズブラスターをリッター部隊へ向けながらリロードがなされたミサイルポッドを開く。

 カノニーアに備わる全ての武装が一点を狙う。

 

「そうさ、こいつが俺の最果てへの挑戦だ!」

『来るがいいさ! 受け止めよう!』

「フル――ブラスティア!!!」

 

 FABとシュツルムブースターを含めた全ての推進装置をフル展開して勢いを殺しながら全武装一斉攻撃が放たれる。ミサイルの雨がタワーシールドを叩き、束ねられる事なく撃ち込まれた数多のビームがフィールドを極彩色に――やがて、真っ白に染め上げる。

 リッター達は耐える。ブランヴェールはその背後で微動だにせず腕を組んで仁王立ちしていた。

 永遠とさえ思える砲撃が穏やかな草原を薙ぎ払いながら、少しずつ、少しずつ消えていく。

 そして。極光が消え去った跡には。

 

『――ふっ』

 

 高熱にさらされ続けた結果抉れ、溶けたリッター部隊と周辺の地形。だが、ブランヴェールの周辺だけを避けて抉れた地形は、リッターの守護が勝ったことを雄弁と語っていた。

 

「まだまだぁぁぁ!!」

 

 リッターの屍を吹き飛ばしながらかろうじて残ったブースターを吹かせながら自らを弾丸としたゲシュテルンが突撃する。フルブラスティアの影響により既に砲身は全て焼け付いていており全身はボロボロだが、ツインドッズブラスターの砲身をパージし砲口のあった個所をブランヴェールに向ける。

 

 ――ギャリィィィィン――

 

『ふふ、砲身を変更したツインドッズキャノン。ならば当然、ビームソードの機能は残していると思ったよ』

 

 ツインドッズブラスターから伸びたビームの刃をバトルアックスとシールドで受け止めながらクゼが笑う。

 ミコトの勝利条件はブランヴェールに一撃でも当てる事。故に最後の突撃を仕掛けてくる事をクゼは読んでいた。読んだ上で、受け止めたくなったのだ。

 グラリとゲシュテルンが崩れ落ちる。最早ここまで、と誰もが思ったその時。

 

 ――カツンッ

 

『・・・へ?』

「一撃、もーらい」

 

 間抜けな声を上げるクゼの画面には、ブランヴェールが被弾した事を知らせる表示。何が、と思った瞬間、ブランヴェールのカメラはゲシュテルンの脚部から上がる一筋の白煙を捉えた。

 

『あ、ああぁぁぁぁ!?』

「奇襲で終わる気満々なんですよ? ミサイルの一発くらい、残しとくのが当然っしょ?」

 

 崩れ落ちたのはゲシュテルンガンダム。だが、勝者は違う。

 99回負ける前にした1勝を死ぬほど誇る。ヤナミ・ミコトの意地汚さは、ここに極まっていた。

 

 

☆★☆

 

 

「もう二度とやんねぇあんな分が悪いだけの賭け・・・」

「あら、お好きなようにしか見えませんでしたよ」

 

 ドッと噴き出した疲労に対応すべく糖分の溢れたミックスジュースを飲んでいたミコトに声をかけたのはシャーロットだ。

 激戦の後、本気で悔しがったクゼの恨み事と「もっかい!」から逃れるべくミコトはカフェの外で風に当たっていた。今は中でクゼをアイカと店長が取りなしているハズだ。

 既に日は沈みつつあり世界は夕焼けに染まっていた。

 

「お前のせいだぞ、こんなクソめんどくさい事にしやがって」

「いえいえ、お気になさらず」

「日本語としての使い方間違ってるぞ。故意かこんにゃろう」

 

 溢れかえる疲労のせいかミコトのツッコミにキレが無い。くすくすと笑った後、シャーロットは何も言わずにミコトの隣へと座り込んだ。

 

「素敵でしたよ?」

「あーそーかい」

「それに、既視感の正体も分かりました」

「あ?」

「推力を、片方に集中させての旋回機動。資料で知っていただけでしたが、クゼ店長も同じ結論を出してくれたので助かりました」

 

 微笑んだ。どこか、ゾクリとする笑み。

 

「ジン・ユウヒ」

 

 火照った身体が、急に冷めた。

 

「ッ・・・なん、の」

「心が、揺れましたね?」

 

 いつの間にか、シャーロットの人形のように整った端正な顔がミコトの文字通り目の前にあった。

 底が見えないガラス玉のような瞳が、ミコトの全てを見透かしているようだった。

 

「アハ・・・大正解を引けるのは、気持ちいいなぁ」

「シャー・・・ロット?」

「うん、何かな?」

 

 雰囲気が、変わった? という疑問を口にできなくなっていた。先程潤したハズの喉が異常に渇く。

 コロコロと笑いながら、距離がさらに詰まる。シャーロットの前髪がミコトの額を撫でる。

 

「僕は、どうにもキミを気に入ってしまったらしいんだ。・・・だから、さ」

 

 目の前にあった顔が霞み、視界に少女の首元と青白く輝くチョーカーが映り込むと同時に。

 額に、柔らかく暖かな感触が触れた。

 

「次は、ワタクシとも遊びましょうね」

 

 いつの間にかシャーロットとの距離が空いていた。夕陽を背に優雅に可憐に微笑む笑顔は今日一日見ていた笑みと同じものだった。

 

「全力、全霊でネ?」

「ッ、待て!」

 

 駆け出したシャーロットがすぐに曲がり角に消えたのを見てミコトが弾かれたように追いかける。

 だが、ミコトが曲がり角を曲がった先にシャーロットの姿は無く、真っ直ぐ伸びるだけの道があるだけだった。

 

「クソッ、何なんだよあいつは!」

 

 ガンッ、と憤りのままに壁を殴りつける。反動でめちゃくちゃ痛くてすぐに後悔した。

 

「・・・来るんじゃなかった。ったく、アイカは間違いなく疫病神だ」

 

 勝手にこの場に居ない少女を疫病神認定する。ヒイロに付き合うデュオはこんな感じなんだろうか、等と取り留めない事を考えながらふと遠くに沈みゆく夕日を見つめる。

 

「・・・ユウヒ・・・・・・やめやめっ、ガラじゃねぇよこんなん」

 

 一度舌打ちをして頭を振って押し寄せた感情を振り払う。

 沈みゆく夕陽に照らされるミコトの影が、揺らいで見えたのは。きっと、気のせいだろう。

 

 

★☆★

 

次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-

 

「やっぱ俺って、超! 最高!」

「カイチのバカがまたバカやらかしたんだろうなぁ」

「夏休みを利用しての新オープンのカフェへの遠征。勝手に決める内容じゃあねぇよなぁ」

 

【Build.15:明日のムチャ修行】

 

「お前はダークハウンドを! AGE-2を! どれだけ知っている!!」




クソ長くてスイマセンでしたぁぁぁ!!!(超土下座)

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