ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-   作:結城ソラ

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Build.12:ガンプラコスプレカフェ狂想曲 -後編-

「先手必勝です!」

 

 先んじて動いたヘヴンズが再びGNビッグキャノンを発射し直撃させるが、ギガモックはまるで堪えた素振りを見せない。

 お返しと言わんがばかりにハルバードを振り払う。大雑把な狙い故かヘヴンズの真横を刃が通過するが、付近にあったコロニーに激突したハルバードはコロニーをそのまま破砕する。

 

「巨体も合わさって硬すぎる!? 当たったらタダじゃ・・・」

「ならまず得物から!」

 

 ヘヴンズの背後から飛び出したオリジンが動きを止めたハルバードの上に陣取ると、ハルバードの一点に向けてライフルを連射する。的確に、一点のみを狙い撃つ狙撃はハルバードの柄を穿ち、8射目で貫通した事を確認するとビームサーベルを打ち込みハルバードを叩き折った。

 

「硬いけど、倒せないまでじゃ・・・」

「アマネさん、下がって!」

 

 ハンスの声が響く。いつの間にかギガモックの巨大なモノアイが、オリジンを見つめている。

 ギガモックは折れたハルバートを投げ棄てながら空白になった手を握り締め、その巨大な腕を前へと突き出す。

 腕の付け根から炎が舞い、オリジンへと向けて飛翔した。

 

「ろ、ロケットパンチッ!?」

 

 半分悲鳴が混ざったようなハンスの声を受けてオリジンが回避行動を取ろうとするが、その巨大さ故の攻撃面積の多さと存外早いスピードを見たアマネはふぅ、と息を吐いた。

 

「ムリ、かな」

 

 最後の抵抗と言わんがばかりに展開したGNフィールドはあっさりとロケットパンチに破壊される。

 圧倒的な破壊がオリジンを襲おうとした、その時。

 蒼く輝く小さな影が割り込み、その身の丈に合わない巨大な双剣で拳を受け止めてみせた。

 

「根性見せろよ飛駆鳥! 飛燕・・・竜巻返し!」

 

 青い身なりをした武者――武者飛駆鳥がその手に握った二本のエクスカリバーに灯るビームが輝きを増し、回転と共に振り抜かれた瞬間輝く竜巻となり拳を吹き飛ばす。

 代償に、二本のエクスカリバーが見事に折れたが。

 

「ちっ・・・やっぱ旧HG版じゃ厳しいか」

「・・・仕事はどうしたのヤナミ君?」

「助けてやった第一声がそれかよ。別に俺だけじゃねーよ」

 

 途端に不機嫌そうな声をしたミコトは飛駆鳥の肩越しに後ろを指差すと同時に複数のモックが吹き飛ぶ。

 巧みにGNガンブレイドを操り吹き飛ばし、切り飛ばすのはダブルオークアンタフルセイバーだ。ELSをも殲滅できると称される力を絶え間無く放ち続け、背後から迫るバスタードソードを持ったモックを腰に装備していたGNソードⅤの居合いの一刀で片付ける。

 二本のビームダガーの軌跡を刻みながら美しい剣舞(ソードダンス)でモックを切り刻むのはピクシーだ。本来地上戦用に回収されたその機体にはFbのユニバーサルポッドが装備され、妖精の名に恥じない踊りを魅せていた。

 宇宙の黒を引き裂くように飛ぶ二つの赤い閃光は備え付けられたビーム武装を駆使し巧みにモックを追い詰める。一塊の集団になった所で二機の戦闘機は合体し一機のMS――リバウに姿を変える。そのままSDEXシナンジュを変形させた高出力ビームライフルの一射で固まっていたモックを纏めて吹き飛ばした。

 それぞれがある程度撃墜していく内に警戒したのかモック達が下がっていく。それを見た三機が近寄ってくる動きを見たアマネはそのファイター達を見破る。

 

「クアンタはクスノキさん、ピクシーはヒノクニさんで、リバウはオリハさん?」

「はい。店長さんからの新しいお仕事で助太刀に来ました」

「流石に騒ぎが大きすぎて他のお仕事にも支障が出るからってねー」

 

 神妙なメグルの顔とどこか楽しげにヤレヤレといった素振りをするマイがモニターに映し出される。オリハは無言でサムズアップしており、どうやら店長からの助っ人というのは本当らしい。

 そうこうしている内にギガモックが再び動き出す。並のガンプラよりも巨大なヒートサーベルを振りかぶる。

 

「まずいです、固まってたら一網打尽に」

「問題無し。ここまで含めて囮作戦だから」

「ぃよっしゃぁぁぁ!」

 

 オリハに続くようにやたらとボリュームの大きな声が響き渡る。すぐにその正体を見抜いたアマネは文句を言おうと繋がった通信モニターを見る。

 

「プッ」

「一目見ただけで笑ってんじゃねーよ!?」

「アキヅキ、その主張する暇があったらしっかり制御してっ!」

 

 トリコロールのアッガイ、もといカイチがかなり泣きの入った声の抗議を別の声が遮る。

 次いで姿を現したストライダーでハイパーブーストするダークハウンドは別の鳥のような戦闘機系の機体を牽引していた。

 ギガモックの図上まで到達したダークハウンドは牽引していた機体を離して離脱する。ダークハウンドから放たれたその機体はすぐに変形し人型を取ると、背負っていた砲身をバスターライフルに接続する。背中のウイングが展開する。

 ガンダムウィスタリアの瞳が光るのを合図にアイバ・トウジがトリガーを引く。ビッグキャノン以上の出力を誇る大出力の砲撃がギガモックを穿つ。

 防御態勢を取っていた巨大な体躯が、離れた位置にあるデブリ帯まで飛ばした。

 

「流石に撃墜はムリとは分かってたけど、ちょっとは堪えたかな?」

「アイバ君まで・・・これどういう事?」

「オレは臨時バイト、かな。安全地帯(セーフゾーン)作りのための」

「安全地帯?」

 

 疑問の声が響く中、ミコト達乱入組全員が堪えきれないように笑う。

 すると変化が訪れる。

 宇宙に、無数の穴が開いた。

 

 

☆★☆

 

 

 

 真っ暗な宇宙を無数の“色”が染め上げる。

 “色”の正体は様々だ。ビームだったり、バーニアの火だったり、爆発だったり。

――そして、数えるのが馬鹿馬鹿しい程の無数のガンプラだったりした。

 

「さぁ、シークレットイベントである悪のギガモック軍団と有志により結成された“ガンプラカフェ連合”との激しい戦いが繰り広げられています! 果たして元凶のギガモックを打ち倒し、撃墜数を稼いだスーパーエースの称号はどのファイターが勝ち取るのかぁ!」

 

 渡された即興のカンペを全力で読み上げるリサ。この大問題を店長は“自由参加型大規模レイドイベント”と称してイベントの一環だと言い張る事にした。

 そのために他のバトル第を追加しカフェ側のスタッフを一部送り込んだ。送り込まれた面々はモック達を吹き飛ばし安全地帯を作り出すと、そこに有志の参加者達が出撃できるエリアを作成した。

 後はありったけ追加したバトル台から順次出撃する事でモック軍団に対抗する“ガンプラカフェ連合”の出来上がりというわけだ。

 尤も連合を維持するために店長がシステムのコントロールルームで必死になって制御を担当している(時折悲痛な悲鳴が聞こえてきたがスタッフは全員ガン無視した)。

 

「・・・スッゴいなぁ」

 

 一人司会を任されたリサはひっきりなしに色んな戦場を映し出すモニターに釘付けになっていた。

 様々なガンプラ達がハイモックと激闘を繰り広げる。撃墜し、撃墜される度に観客達から声が上がる。

 

「あぁ、宇宙での戦いなんだから周りに気を使わないと!」

「ザコの数が多すぎるって・・・」

「モックたちはだいたい攻撃力重視の装備で装甲が薄いみたいだから距離を取って戦うのが有効じゃない?」

「デカブツが動き始めてる! 前線に誰か伝えろー!」

「サポート組、しっかり考察しろよー! 外からギガモックの弱点を見つけるんだ!」

「っていうかモニター足りねぇ把握しきれねぇっ!?」

 

 バトル台の数に限りがあり出撃できるファイターにも限りがある。出撃できないメンバーは他のファイターをサポートするために入り込んでいるし、それでも出撃できないギャラリーはモニターの映像から少しでもサポートのための情報を読み取ろうとする。

 この熱気はせっかくの楽しいイベントを邪魔する(モック)を何とかしたい、という正義感故か?

 

「・・・ううん、違う」

 

 すぐにリサはその考えを改める。なぜならそれは、ギャラリーたちの反応を見ればすぐに分かる事だからだ。

 掌底に蒼い風を纏ったステイメンがモックを内側から粉砕すれば、その身を紅白に染めたバルバトスがクタンと連携しながら自慢の打刀で叩き切る。

 コロニーの外壁を滑走するヅダが立ちはだかる(モック)を吹き飛ばし、漆黒のアデルが乱雑な徒手空拳で蹴飛ばし砕く。

 片翼のストライクフリーダムが失った左翼の代わりに追加したブラスターを含めたフルバーストで何十ものモックを撃墜すれば、その撃墜により発生した大爆発の炎熱を取り込んだ炎剣をV2が振るい溶断する。

 さらにはHAFbに牽引されてダブルドラゴンとSDサザビー達も駆け付け、戦場はより混迷を深めていく。

 個性豊かなガンプラ達が活躍すればするほど、ギャラリーのボルテージはどんどん上がっていく。

 

「みんな、好きなんだなぁ」

 

 ガンプラ好きのビルドファイターズ。彼らは、総じてお祭り好きなのである。

 モニターが全体を映し出すように引いていく。幾つもの輝きが、リサの瞳に反射した。

 

「あの、くあんた? っていうガンプラも特別綺麗だったけど・・・」

 

 ほぅ、と無意識に息が漏れ出ていた。

 

「みんなホントに綺麗・・・まるで、星屑の宝石みたい・・・」

 

 ホシナリ・リサ。彼女もまた、ガンプラバトルに魅了されつつある者であった。

 

 

☆★☆

 

 

 

「ハチャメチャが押し寄せてるねぇ」

「クスノキさん、ツッコミ待ち?」

「分かってるならツッコんでよぉアマネっちぃ」

 

 オリジンを小突いたピクシーはそのまま離脱する。

 

「セリザワ、あのデカブツどもは俺らの“仕事”の範囲内だ。・・・つーわけで、元凶は任せた」

「・・・そうね。ハンス君、行きましょう」

「え・・・・・・いえ、分かりました」

 

 一瞬逡巡したがすぐにハンスも頷き、ヘヴンズとオリジンが粒子を散らしながら飛ぶ。少し移動した所で思い出したようにオリジンが振り返る。

 

「ところで機体が普段と違うのは何でなの?」

「火力系のシルエットのテストに店長と戦った時にゲシュテルンが吹き飛ばされてオーバーホールしてるからだよ! 何だよ1/100アプサラスにザク頭の代わりにPGZZの上半身装備って!?」

「あはは・・・こんなことになるとは思ってなかったので二刃を置いて来てて・・・」

「ガンプラ教室で作ってみたしせっかくだからこっちで踊ってみたくなったんだー!」

「・・・オリニィに、武器盗られたままだから・・・絶許」

 

 四者四様の声が返ってきた。特に最初と最後には色々な感情が渦巻いていたがアマネはそこに触れない事にした。

 

「・・・信頼してあげるんだから、ヘマしないでよ?」

「うっせ。信頼してんならさっさと何とかしてこいよ」

「はいはい。じゃ、頑張ってね」

 

 ウインクを一度飛ばすとアマネのモニターが消え、オリジンが加速した。そうはさせないと離脱していく二機に向けてギガモックがヒートサーベルとハンマーを降り下ろし行く手を阻もうとする。

 

「やらせねぇよウスノロがっ!」

 

 攻撃に飛駆鳥が割り込みその瞳をSDガンダム特有の鋭い目付きへと変え、その背から身の丈を遥かに超える閃光翼(ビームウイング)を展開し迎撃する。

 翼が動きを抑え込んでいる間に完全にオリジンとヘヴンズは離脱する。そのまましばしの拮抗を見せるが、質量差はどうしようもないらしく飛駆鳥が押され始める。

 

「だー!? こんな事ならリクエストなんぞ無視して普通のV2作りゃ良かったー!?」

「ミコっちの感情の爆発が足りないから負けてるんだよきっとー!」

「飛駆鳥的には間違ってない・・・マイ、助けてあげよう」

「ほいほい、了解だよオリハ先輩!」

 

 素早くギガモックの身体を駆け上がるようにピクシーとリバウが舞う。そのまま武器を保持した腕にロックをかける。

 

「巨大機体を狙う時の御約束~!」

「関節、狙い!」

 

 ピクシーはビームダガー二本を、リバウはビームナギナタを構えると関節目掛けて回転しながら突っ込む。一回転する度に斬撃が叩き込まれていき、ものの十秒程で腕二本を切り落とした。

 

「やった! マイちゃんオリハさん凄い!」

「あ、ありがとうメグウプッ」

「き、気持ち悪い・・・リバース、案件・・・まっし、ぐら」

「助けてくれたのは感謝するがお前ら馬鹿だなやっぱ!」

 

 閃光翼の推力を利用して飛駆鳥がピクシーとリバウを回収する。

 次いでその隙を突いてハイパーブーストで超加速したダークハウンドが突っ込む。が、物悲しい金属音と共に見事に装甲に弾かれた。

 

「あぁぁ槍が折れたどーすんだこれぇぇぇ!?」

「アキヅキ、相手はダークハウンドの天敵典型例なんだからこっちで護衛してくれ! クアンタの人、合わせて!」

「は、はい!」

 

 矢継ぎ早に指示を飛ばしたトウジに従いメグルのクアンタがウィスタリアと並び立つ。

 近寄ってくるモックをカイチが追い払っている間にウィスタリアのキャノンとクアンタのGNバスターライフルに粒子を集める。

 

「マルチバスターライフル【MODE3:CANNON】!」

「トランザム、ライザー!」

「「イッ、けぇぇぇ!!」」

 

 GX譲りのマルチバスターライフルのキャノンモードと全長最大約1万kmにも達するトランザムライザーソード。

 どちらも戦術兵器に分類されるMSには過剰過ぎる文字通りの“必殺技”が束ねられ、残った四本の腕を防御姿勢で固めたギガモックに直撃する。

 だが、使う必殺技が常識はずれならギガモックもよっぽど常識はずれだった。

 

「か、貫通すらしない!?」

「一射目で後退りさせるだけしか出来なかったから束ねたのに、これが店長クラスの作り込みって事ですか!」

 

 驚愕の声を挙げながらも攻撃続けるがギガモックの防御は分厚く突破は叶わない。次第に全力の攻撃の代償に粒子を食い潰していき、トウジとメグルの耳朶をアラートが叩く。

 焦りが二人を支配し始める中、まるで激励するように大出力のビームがギガモックを穿った。

 

「何っ!?」

 

 ツインアイに何故かSDガンダム風のニッコリ笑顔の瞳を浮かべサムズアップする機体がショルダーキャノンからビームを放っていた。

 

「パーフェクトガンダム! なんて出力の・・・」

 

 パーフェクトガンダムの影から新たに二体の機体が飛び出す。ビームサーベル六刀流を構えるビギニングガンダムとオオワシストライカーを装備したストライクガンダムだ。激しいビームの嵐を絶妙なマニューバでギガモックに迫ると、ビギニングは六本のサーベルを鋭く振り抜きストライクは73F式改高エネルギービーム砲をそれぞれ防御する腕に叩き込む。

 先程オリハとマイが必死になって壊した腕をビギニングとストライクはあっさりと破壊し、鉄壁と思われたギガモックの防御をついに崩す。

 

「今なら! この後の事なんて考えず、全力で!」

「お願いクアンタ、切り開いて!」

 

 ウィスタリアとクアンタがありったけの粒子を振り絞りキャノンとライザーソードの威力を引き上げる。それに合わせるようにパーフェクトも放ち続けていたビームキャノンの出力をさらに引き上げた。

 防御の崩れたギガモックを穿ったビームはそのまま腹部に突き刺さると、やがて轟音と共に貫通した。

 

「よし、倒し・・・ウプッ」

「いや、まだだ!」

 

 オリハが吐き気と戦いながら希望を口にするが即座にミコトが否定する。

 キャノンとライザーソードに注げる程の粒子が無くなりギガモックの姿が克明に宇宙に浮かび上がる。だがその姿は腹部に大穴を開けられて尚、何かを掴むようにその巨大な腕を伸ばしているものだった。

 まだ、動いている。

 

「う、噂のゾンビットなモックとか・・・ウェェ」

「――天来変幻!」

 

 声と共にミコトはカタパルトから黄金に輝くサポートメカを発進させる。すぐに飛来したそれを、黄金の羽衣へと変え飛駆鳥が纏う。

 そのまま鋼鉄迦楼羅・超鋼(メタルガルーダ・スーパーハガネ)にマウントされた目牙閃光爆星(メガビームバスター)目牙閃光銃(メガビームライフル)をギガモックへと照準を合わせる。

 

「こういう時に言ってやる台詞は、一つだろ」

「・・・なるほど。その通リ・・よ、よし復活してきた」

「わ、私も何とかー・・・メグル、ガンブレイド貸してー」

「うん、私も一本分くらいならまだ使えるから、一緒に」

「ライフルモードくらいなら、ウィスタリアもまだ撃てそうだ」

「え、ちょ、何お前ら分かり合ってるの俺さっぱりだよ!? 仲間外れ良くないと思うぞー!?」

 

 混乱するカイチをよそに全員が武器を構える。それは何もミコト達だけではなく、その場に居るガンプラカフェ連合のほとんどがギガモックに照準を合わせていた。

 ニヤリとミコトは笑い、ギガモックに最後の言葉を贈る。

 

「戦いは、数だよ」

 

 みながトリガーを引く。

 ビームが、砲弾が、魔法が、技が、天驚拳が。多種多様な攻撃がギガモックへと纏めて打ち込まれる。

 腹を、背中を、足を、腕を、頭を。命中した攻撃は少しづつ、少しづつギガモックを削り取っていく。やがてそれらは積み重なり――。

 最後には、不死身のギガモック消滅させていた。

 

 

☆★☆

 

 

「もうやだ・・・」

 

 諦めたようにハンスが肩を落とす。

 最早あらゆる場所が戦場となっている宇宙で戦闘が見えないエリア。そこには複数の撃墜されたガンプラと、前が見えないレベルでびっしり陣形を組んでいるモック軍団が居た。

 

「肉の壁ならぬモックの壁ね」

「向こうから反応があります。でもあの陣形・・・」

「邪魔物が来たらすぐに壁を解いて誘い込む罠でしょうね」

 

 モック達はみな両手にサブアームを使って合計四枚の大楯を構えており、攻撃の気配はまるでない。だというのに、周辺には撃墜されたガンプラがある。

 それはつまり、撃墜したのが向こう側に居る二人に違いないという事だ。

 

「一撃で突破して、不意討ち。実力差を考慮するならそれしかないけど・・・」

「なら・・・情けない話ですがアマネさん。不意討ちを頼んでいいですか?」

「えぇ。というか、それが最適解でしょ?」

「・・・Vielen Dank。いずれ、お礼をします」

 

 心底申し訳なさそうなハンスに二つ返事で頷くアマネ。それに対してハンスは深々と頭を下げる。

 そして、顔を上げたハンスの表情には既に先程までの穏やかさ、申し訳なさ、可愛げ等は消え去っていた。

 

「ヴォワチュール・リュミエール、オーバーロードモード・・・トランザム、スタート!」

 

 苛烈で好戦的。そんな印象さえ抱かせる表情へと変わったハンスはヘヴンズに二つの指示を送る。

 指示に反応したヘヴンズから二色の強烈な輝きが放たれる。ヘヴンズそのものは真っ赤に染まり、ヴォワチュール・リュミエールは周囲の色を塗り潰さんとばかりに計7つのリングとなり高速回転していく。

 異変に気付いたモック達が密集を深めるのを尻目に展開されたヴォワチュール・リュミエールはさらに加速しながら次第にヘヴンズへと迫る。

 リング全てがヘヴンズへと同時に触れ、内部へと潜り込むのを合図に一際強い閃光が放たれる。

 閃光が晴れると、ヘヴンズの姿が少し変化していた。

 白。純白の、しかして最も強く全てを塗り潰す光を機体の内側から放つその姿は名前に相応しい神々しさがあった。

 ヘヴンズガンダムが全ての砲門に純白の粒子を集めると、それぞれの砲門に光球が発生する。

 計六つの光球はどんどん巨大化していき、やがて触れ合った光球は一つになる。そのサイズはいつの間にか、ヘヴンズよりも遥かに大きく成っていた。

 

「――Fire――!」

 

 圧縮された粒子がビームとして解放される事無く球状のまま放たれる。たまらず飛び出した数機のモックがシールドを構え立ち塞がるが、粒子は一瞬でモックを飲み込みながら停滞することなく突き進む。

 惨劇を目の当たりにしたモックが陣形を組み直しより壁を分厚くする。果たしてその目論見は当たり、壁の大半を飲み込んだ光球はその威力を弱める。

 壁の向こう側に居たHi-ブロッサムのビームスマートガンの砲撃とケンプファーASのシュベルトゲベールが力を失った光球を破壊し霧散させる。

 

『素晴らしい一撃だったよハンス。だが、捨て身でもギリギリ届かない』

「――届いた」

 

 ビッグキャノンごとオーバーヒートした疑似太陽炉をパージすると、ハンスは額を伝った汗を拭いながら不敵に笑った。

 白い燐光を失いながらもツインアイに宿した光は消えずに、ASの背後に不意に現れる紅い影を見据えた。

 

『しまっ・・・アマネさん!?』

「背面の装甲、ケンプファーなんだから薄いですよね!」

Unwahrscheinlich(ありえない)!? Hi-ブロッサムのレドームの索敵を掻い潜る等・・・』

「油断大敵だよ、父さん。さっきのオーバードライブで粒子がそこには溢れかえっている。索敵の精度は落ちるし、アマネさんなら当然掻い潜る」

 

 ハンスがしたり顔で頷き、アマネはトランザムの粒子をそのままライフルに注ぎ込む。砲身がひしゃげるのも構わず背中に勢いよく付き出し、零距離でGNロングライフルのトリガーを引く。

 収束した粒子が、放っているライフルのバレルを破砕しながらもビームマグナムに似た重たいSEを響かせながらケンプファーASを貫通した。

 

『ティア!』

『タ、ダで・・・終わらない!』

「ッ!?」

 

 アマネにダメージを知らせる揺れとアラートが届く。既に限界を迎えていたハズのケンプファーASは、振り向いてバーニアに僅かな火をつけるといつの間にか握っていたアメイジングナイフをオリジンの胸に突き刺しながら組みつく。その状態でついに力尽きたのか静かにモノアイの光が失われる。

 しかしナイフを突き刺しオリジンに組み付いた腕の力は弱まらない。ASはその巨体でオリジンの動きを大きく制限していた。

 

『よくも・・・だが、ティアが最後に残してくれたこの状態・・・まさしく愛だ!』

「だからそれが、迷惑なんです!」

 

 叫びと共にアマネはGNフェザーを展開する。空気の無いハズの宇宙に強烈な風圧に似た衝撃が周囲に広まり、拘束していたASを突き放す。

 

Nutzlosigkeit(無駄)! ビームスマートガンは伊達ではない!』

 

 フェザーを展開する間に既にリチャージを済ませていたビームスマートガンをブレージは放った。圧倒的出力を誇るビームがオリジンに迫る。回避など、考えるだけ無駄な速度だ。

 

「ここで足止めをされて避けれないのが愛だというなら」

『あっ!?』

「こうできるのも、愛ですかっ!」

 

 だがアマネは冷静に、その手の奪った大剣――ケンプファーASのシュベルトゲベールを振り抜きビームを迎撃する。

 粒子変容塗料の効果は凄まじく、放たれたビームは見事に切り裂かれた。

 

『ちょ、アマネちゃんそれは反そ・・・!?』

「何が、ですか?」

 

 ゾワゾワッ。

 恐ろしいまでに底冷えする声に、対面するブレージのみならずたまたま通信を拾ってしまったファイター達皆の背筋を冷たい氷塊が伝った。

 そして偶然か必然か。何故かブレージのモニターにアマネの表情が映る。

 目元に影がかかっているがその目は決して笑っていない。なのに口許にはブリザード吹き荒れる微笑が刻まれていた。明らかに、アンバランス。

 

『ひっ』

「悔い、改めろっ♡」

 

 何故だかやけに可愛らしい(語尾にハートマークが付きそうな勢いで)声と共に展開するGNフェザーと同等レベルのGN粒子でコーティングされたシュベルトゲベールがHi-ブロッサムに叩き込まれる。

 一際強いGNフェザーの輝きが真っ暗な宇宙を照らし出したのを合図に、混沌吹き荒れる傍迷惑な夫婦喧嘩は幕を閉じたのであった。

 

 

☆★☆

 

 

「刻の涙が、見える・・・」

「しっかりしてブレージ・・・ここを、ここを乗り切れば!」

「二人とも余裕だねぇ。じゃあ追加」

「「ィャァァァァッ!?」」

 

 殆ど断末魔と化した声が響く。幸いスタッフルーム間にしか届いていないらしく、あらゆるスタッフはそれを無視した。

 

「まぁ、ギリ恩情だな・・・」

「カイっチ。アレ結構拷問めいてるよ?」

「拷問めいてるだけなら、マシよ?」

「闇が深いよオリハ先輩!」

 

 覗き込んでいたカイチとマイ、オリハの視界には赤茶色の髪をしたわりと引き締まった体格をした男性とどこか優雅さや気品を感じる金髪の女性が刺々しい健康マット上に正座させられ、その膝の上にガンプラの箱――中身はガンプラではないものが詰まっている――が積まれていた。

 言うまでもなくこのいつの時代の拷問かというような罰を受けているのは本日の騒ぎの元凶のリリーマルレーン夫妻であり、執行官は頬が痩せこけたように見えるも額にハッキリと青筋を浮かべた店長であった。

 満面の笑みで新しい箱を絶妙なバランスで積み上げ、夫妻を的確に追い込んでいく様は話に聞くフランスの処刑人を連想させる。

 

「さー、そろそろクゼも来る頃です。御説教の準備できてませんね? その状態でしっかりみっちり受けてください♪」

「「Brachial(人でなし)!?」」

「・・・ところでブチョー、どこ行ったんだろ」

「オリニィと戦ってたコなら、撃墜されて復帰できない判定喰らってたから拗ねて横で膝抱えてたよ」

「あー。何か分かるかも」

 

 それ以上は見るに耐えなかったのかカイチ達は撤退し、何事も無かったように世間話を始める。

 

「あの、そのクゼさんって・・・」

「今日のイベントの共同したカフェの店長さんよ。あの人の御説教凄くてね。しっかり心構えしてないと心が崩れ去るわよ?」

「じょ、冗談に聞こえないです・・・」

 

 涙目になり震えるメグルにどこか楽しげにアマネは紅茶を啜る。

 ガチャリという音と共に扉が開き、向こう側からミコトとハンスが入ってきた。

 

「お疲れ様。ごめんなさいねハンス君、手伝ってもらっちゃって」

「いえいえ。これくらいで罪滅ぼしになれば・・・」

「俺には何にも無しかよ」

 

 けっ、と悪態を吐き出しそのままミコトは自販機に向かう。それを確認してからアマネはハンスに近寄った。

 

「何か聞かれてたみたいだけど?」

「あー、ヘヴンズのコンセプトとか設計思想とか、そういう所を。自機に使うための参考にしたいと」

「・・・要るかしら。火力系のシルエット」

「シルエットは三つがお約束だろーが」

 

 聞こえていたらしく、“テクス先生のコーヒー”とパッケージに書かれた缶コーヒーを取り出しながらミコトは顔をしかめる。

 時刻は夕暮れ時。すでにイベントのほとんどが消化し終わり、馬鹿騒ぎは少しづつ静寂へと落ち着いていっていた。

 それでもメインホールからは喧騒が消えず、アマネはホールを眺める。

 

「楽しそーだな」

「えぇ、ヤナミ君だって分かるでしょう?」

 

 振り向きながらアマネはミコトに優しげに、そしてこれ以上無く嬉しそうに微笑んだ。

 

「お祭りは楽しいもの。私たちの考えた事で楽しく過ごしてもらえたなら、それは幸せな事じゃないかしら?」

 

 

☆★☆

 

 

“BATTLE END!”

 

 システムが終了を告げる中、白と灰色で彩られた戦乙女の名を冠した機体が残骸達に腰を下ろす。

 包まれた粒子が消え、座った姿勢のままそのガンプラは動かなくなった。

 

「――ふむ、シュヴェルトライテは順調だな」

 

 手元のコンソールを操作するとフィールドにあったハズのシュヴェルトライテと呼ばれた機体が男の手元に移動する。

 ボサボサの髪に無精髭、目の下の隈を隠すような大きなフレームのメガネを付けた男性。自堕落な印象をも覚えるが、よれた白衣が科学者然とした雰囲気を作り出していた。

 

「71%。ようやく形に成ってきたか」

『もう充分? つまんないし僕引き上げていーいー? 暗いしさー』

 

 コントロールルームに粒子が消えて真っ暗になった試験場からの通信が届く。男は顔をしかめ、マイクに声を飛ばす。

 

「始まりは喜んでいた癖に」

『シュヴェルトライテを動かすのは楽しーけどさー』

『こうも機体が違うだけのCPU相手では、ワタクシ満足できません』

『せめて対人戦やらせろよ。勝手に漁りに行くぞ』

「・・・好きにしろ。だが、シュヴェルトライテは持ち出し厳禁だ」

『いいじゃないですか。どうせ自分以外に使わせるアテも無いんでしょう?』

 

 男は一際大きなため息を吐き出し、向こうに居る声に答える。

 

「お前が使ってるこのガンプラはあくまで“試験試作機”だ。自惚れるな」

『って言ってもねー』

『しっくり来るのがトライテだけですのに』

『俺が持ってればスクランブルみたいに暴走しないで済むじゃねぇか』

「極論を出すな。外出許可は後で出してやるからさっさと戻れ」

 

 シッシッ、とこれ以上無く邪険に手を払う。それを見たためか、お返しとばかりにため息を吐く気配が伝わってきた。

 

『はいはーい、っと』

『それでは・・・今日はオルボワール、と送らせていただきます』

『問題起きて泣きついてきても知らねぇぜー』

『失礼します』

 

 壁の影になっている自動扉が開いたらしく少しだけ暗がりの試験場に光が入り込む。

 光を反射して生まれた小さなセルリアンブルーの輝きを視界の端に捉えた男は即座に思考を切り替え、背後に居たスタッフ達に向き直った。

 皆が皆、白衣を纏った科学者然とした統一感を持っていた。

 

「さて、漸く試験も見れるくらいには進んだ」

 

 冷房の効いているというのにどこか浮かれたような熱気が部屋全体を包んでいる。

 誰もが、次の言葉を望んでいる。それを分かった男はニヤリとそれはそれは悪どく笑い、芝居がかった口調と動きで言葉を紡いだ。

 

「さぁ同志諸君。本格的に解き明かしていこうじゃないか。素晴らしき“マシタの遺産”の真理を!」

 

 歓喜の声に応えるように、男はさらに笑みを深めた。

 

 

★☆★

 

次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-

 

「ミコト君今どこですかぁぁぁ!?」

「デスティニーとストフリ。実に良き展開じゃないか」

「集中、ですよ。アイカさんの才能は保証しますから」

 

【Build.13:Diva・Oratorio】

 

「・・・歌、か・・・?」




今回もイラストとガンプラいただいております!
今回不憫に頑張ってたハンス・リリーマルレーン君と愛機ヘヴンズガンダムです。


【挿絵表示】


【挿絵表示】


イラスト及びビルダーは友人のリヴェルさんです。ありがとうございます!

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