ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア- 作:結城ソラ
もっと疾く
もっと高く
だけど
それは叶わなかった
心が折れた
――それでも
まだ、ここにいる
Build.01:ガンプラカフェの昼下がり
「ん……」
ワッ、という声が耳に届き目を覚ます。どうも眠っていたらしい。
「あー……30分くらい寝てたか?」
テーブルの端に開いたまま置かれた懐中時計に目を見やりボーッとした頭のまま呟く。それからテーブルの中央に置かれた“それ”を見やる。
背中と耳元に翼のようなパーツがあしらわれた特徴的なプラモデル。ガラスから差し込む日光が胸部のエメラルドグリーンのクリアパーツを反射する。
“HGAC ウイングガンダムゼロ”。『新機動戦記ガンダムW』の後期主役機を立体化したプラモデル――ガンプラだ。
「なかなかいいデキだね」
「……おかわり頼んでないんですけど」
「いいガンプラを見せてくれたお礼さ♪」
コーヒーを置きながらエプロンを着けた成年がウイングゼロの目線に合わせて屈み込む。
「それ、墨入れくらいしかしてないですけど」
「誉めて新しい常連になってもらおうと思って」
「心の声だだ漏れなんですが」
「うちは“ガンプラカフェ”だからねー。いいビルダーさんには是非常連になってもらいたいのさ」
“ガンプラカフェ”。かつてはガンダムカフェの名前でガンダムの関連グッズやガンダムをモチーフにしたメニューを提供していた公式喫茶だ。
現在でもガンダムカフェ自体は存在するが“ガンプラカフェ”という姉妹店というべき存在が生まれたのは十数年ほど前、プラフスキー粒子と呼ばれる粒子が発見されその性質が解明されたことに起因する。
「うち、バトル台も無料解放してるんだよ。良かったらやってかない?」
「パッと見埋まってるみたいに見えますけど。……流石はガンプラバトル最初期からバトルしてたガンプラカフェ。連結台まであるんですね」
「連結状態の設定を戻すのがめんどくさいだけなんだけどね実は……」
高濃度で散布されたプラフスキー粒子はガンプラのプラスチックに反応し流体化する性質を持っている。これを用いて動力を持たないガンプラを操作して戦わせる競技――ガンプラバトルは世界規模での流行を見せている。
ガンプラカフェの元祖はガンプラバトルのβ版とも呼べるものを設置し、テストを行っていたガンダムカフェだった。
「うちは正式版実装以降にできたから常に最新版にアプデかけてるからやりやすいと思うよ!」
「なんでそんなにバトルさせたいんですか……」
「オタクだからだよ。店長常にヒマだからな!」
不意にテーブルの下から声がする。そしてにゅっとテーブルの影から手が伸びてテーブルの上にあったプチハロシュー(ハロを模した一口シュークリーム)を摘まんだ。
思わず変な声と一緒に立ち上がりかけたがそれより先に店長の蹴りが手の主を抉った。
「げばっ!?」
「……カイチ? いつになったらお前は商品に勝手に手を付けることを止めるんだい?」
「い、いやだから大丈夫なヤツしかしなイデイダダダ!? つかなんでその靴そんなにつま先尖ってんだよ!?」
「ふふ、いいだろう。ZⅡをイメージしてるんだ」
「みぞっ、鳩尾ばっかそんな狙うなっでぇぇっ」
影の主が絶叫する。しかし店長は尚も容赦せず笑顔で的確に深いダメージが刻まれるポイントを狙って蹴り付ける。テーブルの下で行われているハズなのに何故一切テーブルに振動が伝わってこないのかは気になるところだがたぶん聞かないほうが賢明だろう。
やがて折檻(?)が終わりを迎えたのかボロ雑巾じみた状態になった人物がテーブルの下から現れる。
恐らく染めているのであろう金髪にパーカーのラフなスタイル。頬の絆創膏が目を引いたがそれ以上に白目を剥いたまま気絶している少年の姿に哀れみを覚えながら席を移動する。
流石に気絶した人間を足蹴にしたまま食事をする悪趣味も無い。かといって介抱する気もさらさら無いのだが。
「あれは?」
「気付いたら名物化してた妖怪タカりお化けだよ」
「妖怪なのかお化けなのかゆるキャラなのかいまいち絞りきれないですね」
その後店長と呼ばれた彼はプチハロシューのおかわりを持ってきて目の前の席に座り込んだ。本格的に話し込む気らしいが果たして仕事はいいのだろうか。
「で、アレはいったい」
「彼はアキヅキ・カイチ。昔からこの辺に住んでいるまぁ顔馴染みなんだけど勝手に商品食べることを覚えてしまってね…」
「放置してていいんですかそれ」
「その分タダ働き要員として一週間くらいはこき使うんだけどね」
「どっちに同情すればいいのか分からなくなってきました」
「仕方ないじゃないかー。彼どんだけ勧めてもガンプラバトルしないんだし」
「店長の基準はガンプラバトル以外に存在しないんですか」
「もちろんだよキミぃ!」
「威張らないでください。……じゃあアレも店長のイベントですか」
「ん?」
溜息を吐いてシュークリームを口に運びながら指差した方向に人だまりができている。バトル台を囲んでできたそれはガンプラバトルをキッカケとしたものなのは予想ができた。
「いいや今日はイベントは特に予定してないけど?」
「店長ー!」
その輪からまだ小学生くらいと思わしき少年が駆けてくる。
「どうしたんだい?」
「荒らされてるんだ……」
指差した先に一回り大きな男が居た。すでに成人はしているであろう人物がバトルフィールドを形成する青い粒子の中で得意気に笑んでいる。
「見ないお客さんだね」
「ずっとバトル台に居座ってるんだよ…負けたら譲るって言ったきりで」
「うわめんどくせ」
見た限り対戦相手には子供も居るしそのガンプラは素組に毛が生えた程度のものが多い。一方男はガンプラを操作するコントロールスフィアの動かし方に慣れている。そこそこやり込んでいるファイターなのだろう。
それらの状況から察するにあの男は弱い者いじめやビギナー狩りを楽しむタイプ、ということだろう。正直、あまり面白くはない。
観察を続けているうちに彼らを包む粒子が崩れてゆく。どうやら決着がついたらしく、その結果は両者の表情を見れば一目瞭然だった。
「また勝っちゃった…」
「見た限り腕も結構あるね」
「店長何とかしてよぉ」
「えぇ!? いやムリムリ! 仕事中だし!」
「今こうして休んでおやつ食べてるじゃないですか!」
「だって姪っ子にガンプラバトルするなってじっくり釘刺されてるし…」
「本音なんだろうけど理由が弱すぎるよ店長!」
「…あ、いやちょっと待って」
不意に店長がほほ笑む。
イヤな予感が、背筋を走った。
☆★☆
「ふぅ、いやぁ連勝連勝! 歯ごたえねぇなぁおい!」
豪快に笑う。まさにご満悦というところだ。周りの目などまるで気にしていない。
「もっと強いヤツいないのかぁ? 流石にこれじゃあ面白くないぞ?」
「言ってくれんじゃんか、よし俺が相手を」
「オリニィ、ガンプラできてないからパーツ買いに来たって覚えてる?」
「あっ」
「はーいストップストップ!」
ギャラリーがざわつく中を店長が頭の上で手を叩きながら割いていく。連れ立って居るのはとてつもなく嫌そうな表情をする少年。
「店長!」
「お? 次はあんたが相手かい?」
「はっはっは! そうしたいのは山々なんだけどね、取り上げられててね……グスッ」
「あ?」
「まぁともかく! 次のチャレンジャーは彼だ!」
「そんなことだと思いましたよ!」
若干キレ気味にツッコミを入れる。が、自分からここまで一緒についてきている時点でやる気はあるのだろう。
そして店長はその辺を見抜いているのかとてもにこやかな笑顔である。
「ふふふ、我がカフェの秘密戦力の力を見るが良い!」
「いや初対面ですが」
「はっ、んだよ。覇気のねぇ奴だな? 瞬殺されてぇのか?」
「…できるならむしろ見せてくれないですか?」
「あ?」
「俺粘り弱いんで、すぐにあんたを瞬殺しちゃうかもよ?」
ぴきり、と男の額に青筋が浮かぶ。
「いいぜ、さっさと向こうの台に行けよ。相手してやるぜ」
「…いいのか?」
「おいおい今更怖気づいたか?」
「いや? …勝てるな、って思っただけだ」
表情を見る必要はもうない。ウイングゼロをその手にバトル台の反対側へと悠然と歩く。
「さぁ行け我らが秘密兵器よ!」
「ガンバレあんちゃーん!」
「俺のカタキを取ってくれよー!」
「オリニィは戦わずして負けてるからね?」
「ところで店長、あの人なんていうの?」
「…………」
「…………」
「さぁ?」
「店長ー!?」
気だるげな面持ちのまま彼はポケットに入れていた手を出す。その手に握られていたのは白い端末。
GPベース。ガンプラバトルを行うために必要な端末でありガンプラの情報が詰まっている。
今回使用するガンプラは先ほど組んだばかりのウイングゼロ。入力データは最低限でいい。
“Ganpura Battle Combat Mode!”
“Battle Damage Level Set To 『B』”
“Please Set Your GPBase!”
バトル装置が起動しシステム音声が操作を要求する。ハイテンション気味な音声はヤジマ商事に変わってからの特徴の一つだ。
設定を終えたGPベースをセットする。
GPベースに機体とファイターの名前が表示される。
“Begining Plavsky Particle Dispersal”
“Stage 5 『City』”
蒼い粒子が周辺を包み込み、バトル台の上に1/144スケールの街のジオラマが生み出される。
これがプラフスキー粒子の凄いところだ。
“Plase Set Your GUNPLA!”
システムの声に従いウイングゼロをセットする。
バトルシステムの光がガンプラをサーチしその出来栄えを判定する。
サーチが終了すると手元に青い球体が現れる。『逆シャア』のアームレイカーを想起させるそれはガンプラを動かすためのコントローラー、コントロールスフィアだ。
少しだけ手首を回してからコンソールを握りしめる。それに呼応するようにウイングゼロに命が吹き込まれツインアイが光る。
“Battle Start !!”
ウイングゼロの周辺に出撃用のカタパルトが生成される。膝を曲げ、カタパルトの衝撃に備えさせたところで息を吸う。
「…ヤナミ・ミコト、ウイングガンダムゼロ。勝ちに行く!」
少年――ヤナミ・ミコトの声と共に足元のカタパルトが動きだし、次の瞬間には粒子が作り上げた世界へとウイングゼロが放たれる。
空を抜け、降り立ったのは都市部だ。MSが降り立っても少しは余裕のある道路にビル群の中カメラに映ったのはビルに囲まれるように凸字型に配された特徴的な建物と都市周辺を包む広大な砂漠だ。
「ダカールか」
『機動戦士Zガンダム』劇中でダカール演説という名シーンの舞台となった町、ダカール。ミコトの記憶にある限りこれといって特殊な仕掛けも無いハズだ。
“Danger”
「――ッ」
ビルのガラスが何かを反射したことを認識した瞬間危険を知らせるアラート音が鳴り響く。咄嗟にコントロールスフィアを操作し飛ぶ。
次の瞬間、ウイングゼロが立って居た場所を黄緑色の光が薙ぎ払った。
『ちぃ、外したか』
「面倒なご挨拶だこって」
舌打ちを聞いてカメラを敵影へと向け正体を確認する。白い大型の巨体は全身に装甲を纏い尖った頭の中央に配されたピンクのモノアイを輝かせる。
PMX-003 ジ・O。白く染められた機体の腹部から煙が立ち上っているのを見てミコトは舌打ちをした。
「サザビーの拡散メガ粒子砲か…ただのジ・Oならそこそこ有利だってのによ」
ジ・Oはその重装甲と重火力を誇りながらも全身に装備されたスラスターによる速さも脅威の機体だ。だがそもそもが無重力下で運用されることが前提とされている機体。ガンプラバトルとはいえ今回のフィールドは敵にとっては不利な状況だ。
そうなれば重力下でも飛行することができ遠距離から高火力を撃ち込めるウイングゼロの方が有利だとミコトは踏んでいた。
だが、敵はただのジ・Oではなくガンプラだ。腹に追加された
「さぁて、どう攻めるかね」
『考える必要なんざねぇよ!!!』
再びスピーカーから耳障りな声が響きジ・Oが動きだす。右手に持った大型のビームライフルを照準もろくに合わせずに連射を開始。対してミコトはすぐにウイングゼロのウイングバインダー内部のバーニアを吹かしてアスファルトを蹴る。
『逃がすかよっ!』
「当たるかよっ!」
細かくバインダーと足裏のブースターを吹かしながらビルを足場に連続的にジャンプし続けビームを躱す。
それを見ていたギャラリーの1人が店長へと問いかける。
「店長、なんであの人あんなに逃げてるんだ?」
「観察してるんだよ、たぶんね」
「でもあんな慎重すぎっていうか…」
「ジ・Oの背中を見てごらん」
指摘されたギャラリーが改めてジ・Oを見る。白に染められた機体の背に背負われた灰色の6つのポッド。塗装されていたがその色合いは機体色に溶け込んでおらず浮いていた。
「目立ち過ぎじゃん。自意識過剰の現れ?」
「いやアレはわざと見せてるんだよ。たぶん対空装備として設定されてるんじゃないかな」
「その通りですよ」
店長の言葉に先ほどまであのジ・Oと戦っていた人物が答える。
「弾速はそんな早くないけど特殊効果があって飛行能力の制御系をちょっと乱されるんです。遅い分追尾性がバカみたいに高いし着弾時の爆風が広いんで対処しにくいんです」
「そのうえであからさまに対空武装を意識させるような装備の仕方。見せ装備でありながら効果は実際にある、と」
厄介なものだ。実際にウイングゼロは対空ミサイルを警戒してできるだけ飛行しないようにしていた。
敵の策に嵌りうまく攻めきれない苛立ちを二度目の舌打ちと共にミコトは吐き出す。イラついて凡ミスして負けるという無様を晒したくはなかった。
『ちょこまかすんじゃねぇ!!!』
叫びとともにビームライフルを持たない手にビームソードが握られる。そのままジ・Oは近くのビルの一つを根元から輪切りにして串刺しにする。そのまま持ちあげたビルをウイングゼロへと投げつけた。
なんという馬鹿力。感心半分呆れ半分の状態でウイングゼロはツインバスターライフルを分割し片方のトリガーを引く。
特徴的なSEとともにジ・Oのビームよりも強力なビームが放たれビルの残骸に着弾、貫通する。
「ちぃっ」
バーニアを吹かしてビームを緊急回避するジ・O。外れたビームが地面をえぐり、その熱量に耐え切れずにアスファルトが溶解する。
「意外とすばしっこいな」
『素組の癖に無駄に高い火力しやがって』
お互いに舌打ちをしながらライフルを向け合う。だが撃ち合いならば二丁のバスターライフルの火力と連射性からウイングゼロが優位を取る。
押し切れる。ミコトは脳裏の戦闘プランを一気に詰めるべくジ・Oの足元を狙い連射する。
『ぐっ』
ジ・Oの足が止まったのを確認してミコトはコントロールスフィアを操作しツインバスターライフルのモードを切り替え連結させる。
二丁を一つに合わせた連結状態のツインバスターライフルの出力は非常に高い。初登場時に直径数十kmのコロニーをこの武器の一射で破壊したシーンはウイングゼロの代名詞として有名だ。
一度足を止めたジ・Oなら最大出力の攻撃範囲を今から逃げ出すことはできない。決めきれずとも大ダメージは逃れえないハズである。
『させるかよっ!』
だがジ・Oも自らの致命傷になりかねない砲撃を放たせるわけにはいかない。背中のMLRSの一つが開かれロケット弾が一つ放たれる。
空へと昇ったロケット弾は爆発と同時に轟音と強烈な光を放った。
「ッ!? ス、タングレネード!?」
唐突に五感のうちの二つをジャックされる。咄嗟に膨大な光を映し続けるカメラを切りツインバスターライフルを発射する。
だがコンソールにヒット判定は表示されない。必勝の一撃を完全に外した。
「まずっ……」
『おらぁ!』
目と耳が回復しカメラを復活させると一気に距離を詰めたジ・Oがビームソードを振りかぶりながら眼前へと迫っていた。
回避しようと足場を踏み砕く勢いでウイングゼロが跳びあがるが加速しきったジ・Oを振り切るには至らない。ならばと肩を展開し内蔵されたビームサーベルを引き抜きビームソードを迎え撃つ。
バチバチと火花やプラズマのエフェクトを放ちながらビーム刃どうしがせめぎ合う。
「……あ?」
緑と黄の刃による鍔迫り合いは互角。そのことにミコトは違和感を覚える。
『ふんっ!』
「ぐぁっ……!」
違和感にとらわれたミコトを不意に衝撃が襲う。コックピット乗っているわけではないがリアリティを出すための疑似的な揺れが伝わり実際にダメージを受けたような感覚を感じる。
ウイングゼロの態勢が崩れビームソードが振り切られる。衝撃を殺しきれずに吹き飛ばされたウイングゼロはそのままダカール演説の舞台となった連邦議会を押し潰すような形で墜落する。
「隠し腕にしてはやけに力強い…!」
ジ・Oの姿を見て死角からの攻撃の正体を悟る。フロントアーマーから伸びていたそれはジ・Oを象徴するギミックの隠し腕だった。
次いで衝撃のあった周辺を画面に映してみると焼け焦げたような跡が見えた。恐らくあの隠し腕に最初から小型爆弾でも持たせていたのだろう。
『おらおらぁ!』
立ち上がるよりも早くジ・Oがビームを連射しウイングゼロを襲う。咄嗟にシールドで防御するがビームの雨の前にウイングゼロは動くことさえできない。
ビームを放ちながらジ・Oがゆっくりと歩み寄る。元々地上での運用が考慮されていないジ・Oの動きは鈍重だが、見る者によってはそのゆっくりとした歩みと巨体は恐怖を掻き立てられるものがあるだろう。
『面倒だからさっさと降参したらどうだ?』
「そっちがした後に考えてやるよ」
『減らず口を!』
ビームライフルを握っていない手が何かを投げつける。先ほどの衝撃の原因――クラッカーだ。
「そう何度も!」
肩部のカバーを外しマシンキャノンをクラッカー周辺に大雑把に撃ちまくる。弾丸が数発クラッカーに突き刺さり撃ち落とすことに成功した。
だがそれで一瞬油断した。先ほど展開されていなかったサブアームが展開され足元にクラッカーを転がす。たどり着いたクラッカーによりシールドの内側で爆発が起きる。
爆風がウイングゼロとバスターライフルを別々の方向に吹き飛ばす。
「っ…バスターライフルが!」
『これでお前はアドバンテージを失ったなぁ!』
叫びと共にジ・Oの計7基のバーニアから炎が吹きあがる。足場を踏み砕きながら大質量の機体が一気にトップスピードまで加速し隠し腕も合わせてビームソード四本を引き抜く。
「こン、のっ!!」
取り付かれたら負ける。
ウイングを広げ吹き飛ばされた態勢そのままに上空へと進行方向を無理矢理変える。そのまま左のバーニアだけを吹かし態勢を何とか立て直すが直後に危険を知らせるアラート音が響き渡る。
上空へと逃れたハズが超加速を維持したジ・Oはそのままウイングゼロを追って上空へと飛翔していた。
「おいおい重力下だぞ!」
『俺のジ・Oから逃げられると本気で思ってんのかよ!』
飛行しているわけではない。ブースターの推力だけで無理矢理重力を無視しているだけだ。物理法則もあったものじゃない。
だが、これができるのがガンプラバトルだ。
戦っている舞台は実際のダカールではなくプラフスキー粒子が再現したフィールド。そして今迫りくるジ・OもMSではなくガンプラだ。
故に、とある人物はこう叫ぶ。
『ガンプラは、自由だ!』
と。
「だけど所詮は直線的な加速だ!」
無理矢理上空まで跳んでいるジ・Oはまっすぐにしか勧めないがウイングゼロは元々飛行できる機体だ。わざわざ鬼ごっこに付き合う必要は無い。
コントロールスフィアを操作し“Deformation”と書かれたカーソルに合わせる。スフィア上に表示されたボタンを押せばそのコマンドが実行される。
だが。
「……ッ」
ためらった。
それは自分への不信感。
自分にできるのか?
その言葉が頭によぎり、一瞬、時間にして0.1秒も無いだろうが操作が止まる。
その一瞬が、命取り。
六基のMLRSの1つが開き一発が発射される。少し間を開けさらに三発が発射された。
先に放たれたロケット弾が二機の間で爆発。黒い煙を充満させる。
煙幕だと気付いた時にはジ・Oもロケット弾もその姿を確認できなかった。
「まずい…」
完全な失策だ。今から逃げても姿を隠したロケット弾に追われたところを四本のビームソードに狙われることは必至だ。
ここを切り抜ける方法があるとしたら。
考えが無いわけではないがあまりにも博打が過ぎる。それでも、勝利するためには思い切る必要がある。
自分への不信感がこの危機を作り上げたなら。
「自分の悪運を信じるしかねぇわなぁ!!」
ウイングバインダー以外のバーニアを切り逆にウイングのバーニアは全開にする。態勢を前かがみにすることでウイングゼロの軌道が山なりに変化し前転するかのようにして反転した。
曲芸飛行も真っ青なマニューバ。実際にMSで行えばタダでは済まないだろう。耐えられるとすればヒイロ・ユイ辺りだろうか?
(いや、だいたいが規格外なガンダムのパイロット達なら案外誰でもこなせるかもな)
口元に笑みさえ刻みながら自ら煙幕へと突っ込っみながらマシンキャノンを出鱈目に発射する。
通常のガンダニュウム製MS程度なら一瞬で破壊可能な火力を誇る弾丸はやがて煙幕の中でこちらを追尾してきていたロケット弾の1つを捉え、爆発させる。
スタングレネードや煙幕弾とは違い今回は純粋な火薬が積んであったらしく大きな爆発が巻き起こり煙幕の一部を晴らす。その際に黒い煙の中に白いシルエットを見つけた。
「ビンゴ!」
シルエットへ向けて全力で飛ぶ。肩アーマーを展開し内蔵されていたビームサーベルを両手に握りしめる。
『馬鹿め! こっちの策を1つ破ったと思って調子に乗ったな!』
煙幕の中からジ・Oが姿を現した。そして自らへと接近してくるウイングゼロに向けて既にエネルギーをチャージし終えた腹部のメガ粒子砲を放つ。
黄緑色の光がウイングゼロへと襲い掛かるがウイングゼロはそれをシールドで受け止める。
『防げるわけがないだろう!』
「勘違いすんなよ!」
シールドがビームの熱量に耐え切れずその形状を歪ませる。だがウイングゼロは止まらない。
足場の無い中空では踏ん張りがきかずにビームを放ちながら後退するジ・Oに向けて最短距離で突っ込み、懐に潜りこむ。
だが近付くということはダメージも上がるということ。完全なインファイトへと持ち込んだところでシールドをメガ粒子が貫通する。かろうじて機体を捻って直撃は避けたものの左のサイドアーマーとウイング、さらには足の一部を抉られる。
最早シールドの役割を果たせなくなったシールドをメガ粒子砲の発射口へと突き刺す。ネオバード形態で機首となるシールドにはある程度の貫通性が備わっておりメガ粒子砲を発射不可能にするほどのダメージを与える。
「おおおおおお!」
『ちぃっ!』
腹部のダメージに耐え切れずよろめいたジ・Oに勢いそのままシールドを投げ捨て大振りに振りかぶったサーベルを左足から右肩に向かって切り裂こうとするがジ・Oのビームソードが受け止める。再び緑と黄のビーム刃による“互角”の鍔迫り合いが繰り広げられる。
(…やっぱりだ)
一度目の鍔迫り合いで感じた違和感の正体にミコトは当たりを付け、同時に心の中の冷めた感情を自覚した。
この感情は自分がビルダーでありファイターであるが故のものだ。
『これでも喰らっとけ!』
「直情的な考えありがとう。おかげで読みやすいよ!」
フロントアーマーから二本の隠し腕が再び現れ装備された二本のビームソードで貫かんとウイングゼロに襲い掛かる。だがそれを読めないほど、そして回避できないほどミコトとウイングゼロは鈍重ではない。
ジ・Oのフロントアーマーを蹴飛ばしビームソードの間合いの外へと逃れる。逃さないと言わんがばかりに右腕のビームソードを投げつけマウントしていたビームライフルを手に持つジ・O。
ビームソードを回避したところで三度ミコトの耳朶を危険を知らせるアラート音が叩く。先ほど放たれたロケット弾の残り2発が迫っていたのだ。
背後に別々から襲い掛かるロケット弾と正面のジ・O。さらには先ほどのメガ粒子砲でウイングの一部を破壊されたことで機動力も奪われている。
「ならさぁ!」
ジ・Oが放ったビームを避けながらギリギリまで引きつけたロケット弾の1発を足裏のバーニアを稼働させロケット弾よりも僅かに高い位置へと飛び、そのまま弾頭の部分を避けて踏みつける。
踏み台となったロケット弾はそのままダカールに墜落し瓦礫を巻き上げながら爆発を起こした。爆風にあおられた最後のロケット弾が速度を落としたところに突っ込み、すれ違いざまに切り捨て爆発の範囲から抜ける。わずかに爆風にあおられビームサーベルを落としてしまうがダメージは受けていない。
「これで…」
『よくよく頑張ったがここまでだ!』
ジ・Oのビームライフルのバレルに光が集まっていく。最大火力を撃ち込む気なのだろう。いくら翼が損傷しているといっても避けれない攻撃じゃない。そう思った瞬間、ウイングバインダーのバーニアが機能を停止した。
「なっ・・・!?」
『爆風を受ければバーニア類は少し沈黙するようになってんだよぉ。このまま落ちろよ、カトンボぉ!』
ぬかった。あそこまで警戒しておいてこのザマだ。まったくもって詰めが甘い。
このバトル中何度目かの舌打ちを自分への叱責に変える。まだビームライフルのチャージが終わっていないのを確認し態勢を整えマシンキャノンのトリガーを引く。回転を始めた銃身から放たれた弾丸がジ・Oの胸部周辺を捉える。
原作ではビルゴを破壊するほどの威力を見せたマシンキャノンだがジ・Oの重装甲は弾丸を弾いて見せる。
『悪足掻きにもほどがあるなぁ! 悲しくなってくる!』
「…そのガンプラ、いいデキだよ。実際強いしな」
『はっは! 泣き言で命乞いかなぁ!?』
「だけど、それお前が作ってないだろ」
どこまでも冷めきった声音がスピーカーを通して響く。
『何を・・・』
「連戦してるわりに整備することなくすぐにバトル台に立った。自分で作ったビルダーならまずしないことだ」
『ダメージなど大して無かったのだから整備する必要など無かっただけだ! 連戦と言ってもザコばかりだったからなぁ!』
「…気付いてないから言ってんだよ」
『自分の危機に気付いていないようなザコがぁ!!』
激情を爆発させると同時にビームライフルのチャージ完了を知らせる音が鳴る。未だマシンキャノンを放つウイングゼロに飛行能力は戻っていない。
『これでぇ……終わりだァ!!』
ジ・Oのマニュピレーターがトリガーを引く。一瞬のラグの後、強烈な威力を誇るビームがウイングゼロを貫く――
――ハズだった――
黄緑色に輝くビームはウイングゼロを捉えることなくウイングゼロの真上を通過した。
ウイングゼロは避けていない。ビームが
「ほぅら」
『バ、バカな・・・何で!?』
「肩のポリが摩耗して弱っているのに気付いてないなんてビルダーならありえないんだよ」
ジ・Oの右腕が無くなっていた。いや、よく見ればジ・Oの背後にビームライフルを握ったまま浮いている。
「……なるほどねぇ」
「て、店長!? 何が起こったのさ!?」
「あのジ・O、ずっと連戦してたろ? ダメージレベル
「ダメージがたまってたってこと?」
「いやでもさ? Bなんて一回バトルが終わっちまえばそんな言うほどダメージ残らないぜ?」
「オリニィ、この場合外的要因はそこまで重要じゃない」
「あれだけ激しくビームソードを振り回していたのが原因さ」
バトル序盤。ビームソードで輪切りにしたビルを突き刺して投げつけるという力技を披露したジ・O。だがそれは明らかに腕の関節部分に負担を強いる。
プラフスキー粒子が作りだした仮想空間とはいえガンプラが触れるオブジェクトには確かに質量を、重さを持っている。ビル1つを投げ飛ばすとなればそれは凄まじい力が要ることは想像に難くない。
本来ガンプラとは作り、ポーズを決めて飾って楽しむものだ。ガンプラバトルとはイレギュラーな遊びなのだ。
そういう楽しみ方をした者ならば誰しも経験があるだろう。大振りな武器を構えたり原作のポーズを再現したりと所謂“素立ち”の状態から関節を動かした状態で飾り続けたガンプラの関節が
そうなったガンプラは大概が接続が甘くなり何もしないでもパーツが重力に負けて外れたりする。ポーズを決めようと動かせばより外れやすいだろう。
ガンプラバトルは激しい動きをしやすい。そうなればもちろん関節や接続の摩耗が激しくなることなど想像に難くない。ましてやダメージが一切残らないダメージレベル“C”ではなくある程度のダメージがガンプラに伝わる“B”ではその摩耗速度も早いだろう。
「要するにあのジ・Oは最大出力で撃ったビームライフルの反動に耐えられないほど肩関節を摩耗してたんだよ。だけどファイターはそれに気付いていなかった」
ガンプラを作るビルダーならばそこに気付かないわけがない。それはつまり、操縦しているファイターがガンプラを理解していないが故に発生する事故だ。
ミコトが肩関節が弱っていることに気付いたのは二度の鍔迫り合いの時だ。そもそもウイングゼロよりも巨大なジ・Oと真正面から刃を打ち合って互角などありえないのだ。
とはいえアフターコロニー世界でも最強クラスのビームソードを持つエピオンと打ち合えるウイングゼロだ。単に出力の差の可能性もあった。だが直接重さが伝わる空中戦においても互角の鍔迫り合いを行えたことで確信することができた。
だから弱っている関節周辺に向けてマシンキャノンを集中させた。結果はこの通り、ジ・Oの腕が文字通り吹き飛び形勢は一気に逆転した。
『こ、こんなことが……』
「ガンプラはバトルが終われば勝手に弾薬なんかの補充はされても修理はされない。ナノマシンによる自動修復なんて起こらない」
バインダーのバーニアが息を吹き返す。どうやらロケット弾の特殊効果が消えたらしい。
「分かるか? ガンプラは俺たち自身が修理してコンディションを完璧にしなきゃならねぇんだ」
空中での姿勢を安定させたところで失ったビームサーベルに代わってもう一本のビームサーベルを引き抜く。
「だって当然だろう? ガンプラは、兵器じゃないんだから」
ウイングゼロのバーニアが点火し一気にトップスピードへと到達し、ジ・Oに迫った。
『くっ、来るなっ!?』
「ガンプラはぁ…おもちゃなんだよおおおおお!!!」
ジ・Oが体を反転させて地上へと自身の重量と推力に重力を合わせて逃げようとするがウイングゼロはそれよりも速い。
横薙ぎに払われたビームサーベルが緑色の軌跡を残しながらジ・Oの足をまとめて斬り飛ばす。そのままウイングバインダーの角度を変えて方向転換。重力に引っ張られて落下するジ・Oを真下から斬り抜ける形で残っていた左腕を斬り落とすとそのまま背後から空になったMLRSごとサーベルの刃を突き立てた。
足を斬られた際に隠し腕をフロントアーマーごと斬り捨てられ完全に四肢を失ったジ・Oは最早重力から逃れる手段を持たなかった。
「デ、デシル斬り……」
「しかもサーベルで突き刺して抑え込んだまま地面に叩きつける気だぞ……」
「これでフィールドが宇宙だったらイズナ落としだったのに」
「容赦ねぇ……」
ギャラリーが若干引いていた。それほどまでに圧倒的な逆転劇だった。
というか、ミコト自身もちょっと引いていた。どうも本気でキレていたらしい。
誰もが決着が付いたと思った――1人を除いて。
『ま、負けねぇ…こんなわけわかんねぇヤツにこの俺が負けるかよぉ!!』
ジ・Oのモノアイが光る。そして無事だったMLRS最後のポッドが爆発する。
ポッドを開かずに内部のロケット弾を発射したのだろう。爆発の衝撃で態勢を崩したウイングゼロは即座にジ・Oから離れる。
次いでジ・Oの周辺を黒い煙が包んだ。どうやら最後の一発は煙幕弾だったようだ。
悪足掻き、と誰もが思ったが煙幕から姿を現したジ・Oの姿がそれは悪足掻きではないと分からされる。
右腕が戻っていたのだ。どういうカラクリかは分からないが煙幕の中で外れた腕を回収して再接続したらしい。そして先ほどチャージしたエネルギーの余剰分が残っていたらしくライフルに強い光が灯る。
『ははは!! ここまでだなぁ!!』
既にセンサーがウイングゼロを捉えている。そのセンサーに任せてオートで銃口を向ける。
銃口は、真下を向いた。
『んなっ・・・!?』
「ターゲット、ロックオン」
ウイングゼロが倒壊した連邦議会の上に居た。バックパックのウイングは展開され四枚羽を形成し地面に向かってバーニアの炎を吐き出している。
そしてその手には連結状態の長大なライフル――サーチアイ前面で支えたツインバスターライフルがあった。
“リーブラ撃ち”あるいは“ファイナルシューティング”と呼ばれるガンダムW最終回でウイングゼロが見せた構えだ。
煙幕を張られた段階で全ての武装を使い切っていた状態だったミコトはトドメの一撃として失ったツインバスターライフルを回収するために動いた。ツインバスターライフルを届けてくれる
幸いなことに連邦議会のガレキに埋まっていたのが先ほど蹴り落としたロケット弾の爆発によって勝手に出てきてくれていたためすぐに回収はできた。
そして往生際の悪いジ・Oへのトドメを刺すべくマニュピレータからエネルギーをツインバスターライフルに送り込む。
「破壊する、ってな」
『ク、ッソがあああああ!!!』
ジ・Oがビームライフルを放つ。それに一瞬遅れてウイングゼロがトリガーを引く。圧倒的なエネルギー粒子の塊が敵のビームを飲み込んだ。
減退することなくビームはジ・Oを飲み込む――
“Time Over !!”
――ことなく、フィールドを形成するプラフスキー粒子が崩壊した。
「はっ!?」
「時間切れ…?」
ざわめくギャラリーの中、1人合点がいったと言わんがばかりにポン、と手を打つ店長。
「あ。そういえばこの前の大会用に制限時間短くしてたんだった」
「店長ー!?」
「どぉぅらぁ!!」
「ドラッツェぇっ!?」
ギャラリーを切り裂くようにしてバトル台から駆け込んできたミコトが宙を舞い、跳び蹴りが見事に店長の鳩尾を穿つ。
さながらザクに蹴飛ばされたボールのように店長が吹き飛ぶ。
「シャアザクかよ」
「シナンジュやMk-Ⅱかもしんないぞ?」
「バカねぇ。今の跳び蹴りだからリック・ディアスでしょ」
「ゼイドラやギラーガ改のイナズマキック説を」
「ここまで真流星胡蝶剣と聖槍蹴り無し」
「人の恋路を邪魔する奴はぁ!」
「最早人型の蹴りじゃないからそれ」
「やっぱアイツ容赦ねぇわ」
引いていたギャラリーがなぜかキック談義を始める辺りファンの層を感じる。ちなみに蹴りを放ったミコトはというと全力で蹴飛ばしたせいか既にスッキリしていた。
「ま、勝ち確だったし。こんなもんか」
「待ててめぇ」
バトル台から声がかかる。嫌そうな表情を隠しもせずに振り返れば先ほどまで戦っていた相手がこちらを見ていた。
表情の色は言うまでもなく、憤怒。
「時間切れによる引き分けだ。間違えるな」
「あーヤダヤダ。これだから負け犬の遠吠えは」
「こっちは連戦だ! そもそも条件が五分じゃねぇ!」
「バトル前の自分の言動思い出してくれませんかねぇ」
話は終わり、と言わんがばかりにヒラヒラと手を振ってバトル台に残ったウイングゼロとGPベースを回収する。
そのままさっさとその場を逃げ出そうとするが肩を捕まれる。余計に嫌気が増した。
「ぼーりょくはいろいろ問題になるぜぇ? 目撃者はいっぱいだ」
「まぁ待て。言っちまえば俺も見苦しいことをしてる自覚はある」
ほう、とその言葉を聞いて振り向く。肩を掴んだ手を振り払うことは無論忘れない。
「今回は引きさがってやる。だが整備をした後明日もっかい同じ時間にここでバトルしやがれ」
「却下。受けるメリットねぇ」
「明日負けたらこのカフェに顔はもう出さねぇよ」
「だから俺に受けるメリットが」
「よし明日だね! 準備しておこう!」
「おらぁ!!」
「ゴッッグ!?」
復活した店長が勝手に承諾したので裏拳を叩き込んだ。にしてもバリエーション豊かな鳴き声の数々である。
「はっはっは! じゃあ明日だ! 逃げたら何するか分からんぜ?」
「あぁもうめんどくせぇことに…」
「それと今回は居ないが明日は俺のパートナーを連れてくる。お前も呼んでおくのをオススメするぜ?」
「あ゛!?」
待て最後の言葉は聞き捨てならない。
だが止める声など掻き消す勢いで無駄にデカイ笑い声を上げながらギャラリーのど真ん中を突っ切り退店した。
「まぁ今日勝てたんだし、キミもそれだけ動かせるってことは一緒にバトルしてた人がいたんだろう? なら明日も安寧さ!」
お気楽にこの事態を作りだした店長が嗤う。迷惑な客を排除してくれるのが正直ありがたくて仕方ないのだろう。
だが対してミコトの表情は死ぬほど暗かった。
「……ーよ」
「へ?」
「んなの居ねーよ! 俺三日前にここに引っ越してきたばっかりなんだっての!!」
最早逃れえぬこの事態にミコトは悲痛な叫びを上げた。
――これが、ヤナミ・ミコトとガンプラカフェとの腐れ縁の始まりでありとあるガンプラバトルチームの起点。
そして
物語は、開かれる。
★☆★
次回、ガンダムビルドファイターズ -アクセンティア-
「ボッチじゃねぇから! アテもねぇけどなぁ!?」
「俺と出会った不幸を呪いながら落ちろ!」
「……わりとお人よしだね、キミ」
【Build.02:出会いと、プロトタイプ】
「ところで、これどうやったら動くんだ?」
「バーカ!!」
初めまして。いかがだったでしょうか?
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
感想などありましたら是非お願いいたしますm(_ _)m