ハイスクール・フリート・プラスワン・アンド・アザー   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

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解決の種は未だ芽吹かず

「晴風が反乱……!?」

 

 飛んできた情報を聞いて横須賀女子海洋学校校長、宗谷真雪は持っていた万年筆を止めた。

 

「はい、本日〇九三一時、演習に遅れていた晴風に接触しようとしたところ、晴風が突如発砲、雷撃を行い、猿島を撃沈。方位一-三-一方向へと転進、逃走したとのことです」

「〇九三一時? 報告まで九時間近く経過しているわね、学園所属艦がトラブルにあったというのになぜ報告が遅れたの?」

「事実確認を行っていたためです。既に海上安全整備局が確認に入っています」

 

 いけしゃあしゃあと、と真雪は唇を噛む。目の前に立つスーツ姿の男性は眼鏡を気にしながら薄型のタブレットに視線を落としていた

 

「……迅速な報告を今後期待します。それで、現状猿島乗員と晴風は?」

「猿島乗員は沈没前に離艦、全員の無事が確認されましたが、教務主任の古庄薫艦長が意識不明。横須賀救命会病院船に搬送、現在治療中です」

「晴風は」

「MIDS-JoTaRaSをはじめとする戦術データリンクをすべて切断しており、状況は不明」

「音声通信もないの?」

「なにも」

「……わかりました。本校内部に対策会議を設置、海上安全整備局とは独自に調査を行えるよう体制を整えます」

「戦術データリンクを切断している時点で離反は明らかです。学園を守るためにも本件に関しては海上安全整備局に一存するべきでは」

「……では平原事務官に私から質問します」

 

 神経質そうな顔をした男に真雪はそっと口を開いた。

 

「海上安全整備局の職員にとって何に変えてでも守らねばならないものとは何ですか?」

「我が国が管轄する海上航路を利用する国民・人民を守り、円滑な水上交通を維持することです」

「では、その傘下に所属する海洋学校の責務とは?」

「未来の海上職員の養成です」

「その通り。その役割を担う私達が未来の海上職員を見捨てることは許されない。それは本校の存在価値を揺るがすことになります」

 

 真雪はそう言って机の上で手を組んだ。

 

「それに、入学したばかりの生徒たちがたった二日で離反するとは信じがたい。また、猿島もしくは晴風において、なんらかの不具合が発生し、当人たちの意思に関わらず交戦になった可能性も現段階では否定しきれない。そうよね?」

 

 どこか面白くなさそうな顔をして平原と呼ばれた事務官は頷く。

 

「その通りです」

「その可能性がある限り、横須賀女子海洋学校は生徒を信ずるべきだと判断します。まずは生徒の安全を確保するよう対策を」

「……わかりました」

 

 そう言って平原が目礼。スーツであり制帽は被ってないが、真雪はそれが海上安全整備局の警備救難部仕込みの敬礼であることに気が付いた。それに応じるようにして真雪も目礼。平原が踵を返す。

 

「校長の判断が私情ではなく、本校の学長たる意思から出たものと信じています、宗谷校長」

「……私も、あなた方が本学生徒のためになることを心から祈っているわ」

 

 平原が出ていき、真雪は目を閉じた。

 

「……ましろ」

 

 口に出るのは娘の名前。晴風の学生名簿には二番目に乗っている名前でもある。

 

「……歳は取りたくないものね。賢くはなるけれど、目と鼻が利かなくなる。こうなる前に止める立場じゃないの、宗谷真雪は」

 

 背もたれに体重を預ける。上質ななめし革がふんだんに使われた校長用の執務椅子は適度な硬さを持って受け止めた。作りもしっかりしているのか、耳障りな音もなく滑らかにしなり、格天井が目に入る。

 

「これは人魚の宿命なのかしらね……不吉な名前よ、ブルーマーメイドなんて」

 

 柄でもないことを言った、と僅かに後悔する。それでもその言葉を口にせずにはいられない。人の世界に長く浸りすぎた、そう思えてならない。

 宗谷という苗字は海上安全整備局において重要な価値を持つ。拡大解釈と言われればそこまでだが、日露戦争後の日本の物流、領土防衛を支えてきたという自負を宗谷家は持つ。初代ブルーマーメイド、当時の国家安全保安局 海上警務部 女子機動警務艇群の初代司令官は真雪の祖母だ。それから組織の改変等を何度もはさみ、国土交通省 海上安全整備局 警備救難部 安全監督室 安全監督隊へと変貌を遂げた。

 

「海に生き、海を守り、海を征く。――――そのために、ブルーマーメイドは、人間を捨てたのよ。そうでなければならないの。それでなければこの国はおろか誰も守れない。……何をやっているのかしら、私は」

 

 一九四〇年代中ごろ、英国と米国と戦争突入寸前まで進行した第二次アジア海上危機という巨大な爆弾は、結果として暴発しなかった。ソビエト連邦の参戦をほのめかす声明と、メタンハイドレートの急激な採掘でボロボロになっていた日本本土を襲った急激な沈降はこの国の全てを変えてしまったのだ。その先に待っていたのは、メタンハイドレート大国だった日本の没落とエネルギー政策の転換、そして、国軍の廃止。米英を中心とする西側諸国の共産主義封じ込めのための防波堤として使い潰される、沈没しかけの日本の国土のみ。

 

 それでも日本を守るため、真雪の祖母は人を捨て、人魚になった。その人魚の末裔が真雪であり。娘たちだ。たとえその代償どれだけ大きくとも、この国を守らねばならない。その責を負ってきた。今もその矜持が真雪を支えている。

 

 その意味では先ほどの平原事務官の反感は正しい。保身よりも国防を、私欲よりも国益を追求することを求められる公人という立場ならば、娘が乗っている船だからと贔屓してはならない。それは間違いないのだ。

 

「……私は、一人の母親である前に、一人の公人でなければならない。だからこそ、私は、今晴風を失うわけにはいかない」

 

 宗谷家の敵は多い。長いこと海上保安を牛耳ってきたのは間違いないからだ。少なくともブルーマーメイドの中では宗谷の名前は一つの派閥としての意味合いを持つほどの影響力を持つ以上、快く思わない人間を数えようとすれば、両の指では到底足りない。その快く思っていない他派閥の『人間』は人魚の領域を切り取りにかかるだろう。それを許せば、日本は沈む。それだけは避けねばならない。

 

「生き残りなさい、ましろ。この国のために。宗谷にはその義務があるのよ」

 

 呟いて、立ち上がる。晴風の乗員リストを棚からとりだし、開いた。乗員一人ひとりのデータが収められている。その中で一人特異な個人データを指でなぞる。航行中の晴風において唯一の実務経験者にして、乗員唯一の男性。

 

「……柳昂三 予備海上安全整備正、貴方も人魚の末裔なのでしょう。成すべきことは、わかっているわね」

 

 ぱたんとファイルを閉じ、内線電話を取り上げた。

 

「猿島沈没事件対策会議を開きます。演習監督官以外の全教員を集めて」

 

 

 

    †

 

 

 

 

 艦橋はどこか御通夜のような雰囲気になっていた。

 

「……だから、なんで晴風が反乱したことになってるんだよ!」

「うぇ!? 私に言われても……」

 

 鈴は芽依に詰め寄られすでに涙目。周りもそれを咎めたり、からかったりする余裕はなさそうだ。どんどん追い込まれる鈴が目線で副長に救難信号を送る。ましろは溜息。

 

「西崎水雷長、知床航海長に言っても仕方ないだろう」

「あ。そっか……ごめーん」

 

 芽依はましろに引きずられながら謝る。それを素直に受け取った鈴が艦橋を見回す。

 

「でも……なんで沈んじゃったんでしょう……模擬弾だったのに」

「まさかの実弾だった?」

「晴風に実弾の魚雷は積んでない。一本何千万もするんだからそんなものをいきなり使わせないだろう」

「なら……これもまだ演習なんじゃ……」

 

 鈴がそう言うとましろが首を振った。

 

「演習で艦が沈むか?」

「ならわざと沈没したとか? 私達、偶然にも猿島の黒い秘密を知ってしまったんですよ!」

 

 そう言った書紀の納沙幸子がヒートアップ。ましろや芽依は『また始まった』とか『私たち遅刻しただけじゃん』とどこか冷めている。幸子の声が一気に太くなる。

 

「『お前らー見たなー』『わたしたち、なにもみてましぇーん』」

 

 寄木もびっくりな百面相でそう言う幸子を周りがどこかじとっとした目で見る。

 

「『ええーいこのまま生かしてはおけーん! 砲撃開始ー!』ずどーん!『あ、逃げられた。ええ~いこのまま秘密と共に沈んでやる~』……みたいな感じで」

「それ、全部妄想でしょ……」

 

 芽依がそう言って呆れたような表情を浮かべる。

 

「それが妄想だとよかったんだがなぁ……」

「うぇっ!? 柳教官!?」

「いつからいらしたんですか?」

「納沙さんの一人芝居の最中あたりからだな」

 

 いろいろ走り回っていたのか、教員用の制服は埃と汗でかなり汚れており、両手にはめていた白手袋も何かのオイルがついていた。

 

「妄想ならよかったというのはどういうことでしょう?」

「状況的にはかなりヤバいというのが実情だ。雷撃戦の結果沈めたことは疑いの余地はないとして、ブルーマーメイド本隊への通報が成されたところだ。八木さんに頼んで無電で異議申し立てと兵装リストで実弾弾頭魚雷を積んでいないことを陳情しているから、問答無用で即捕縛ってことはないだろうが、どういう扱いにされるかわかったもんじゃないな。自己防衛行動の結果としての戦術リンクの一時的な切断として認められるかどうかが鍵だな」

「そんなぁ……!」

 

 鈴が舵輪を握ったまま続ける。

 

「それって、私達お尋ね者ってことですよね? 高校生になったばかりなのに犯罪者になっちゃったってことですよね!? こんなの嘘ですよね!? 嘘だと言って~!」

「……、嘘」

「あ、ありがとう言ってくれて! 志摩ちゃん、あ、わたしのことは鈴でいいよ!」

「知床航海長、教官の前で失礼だ。……航海長が失礼しました、柳教官」

「別に会議じゃないから問題ないよ、宗谷副長。とりあえず位置ビーコンは復旧させてある。警備部からの指示は演習許可申請で記載された第二集合地点の鳥島沖での待機だ」

「待機……」

 

 志摩がそう呟くとましろが頷いた。

 

「こちらは潔白ですし従わない理由はないかと思いますが」

「副長の意見に賛成だ。ここで位置情報通知を切ったり、下手に何かを行ったりすれば、文字通りの反逆と断定される可能性が高い。指示に従うのがベストだろう」

「いきなり捕まったりしないかな……?」

 

 鈴が怯えた様にそういう。頭の中では新聞一面の白抜きの見出しで『反乱を起こした学生 31人逮捕』の文字が躍っている。

 

「いきなり逮捕はないとは思うが取り調べぐらいは覚悟したほうがいいだろう。……まあ、こういうのも何だが」

 

 白い手袋をはめた右手で指鉄砲を作って鈴に向ける。

 

「君たちは柳教官に脅され、仕方なく操艦した。そうするだけで解決だ」

「……それ全く解決になってない気がするんですけど。魚雷を撃ったことは事実だし」

 

 芽依がそう言うと柳は右腕を水平に構えたまま軽く肩を竦めた。

 

「教員と生徒には絶対的な立場の差が存在するんだ。使わない手はないだろう。決定権は艦長が持つが、私が拒否すれば艦長権限を差し止めることもできるわけだし、その上で艦長の再指名を行わず、独裁体制を構築、刃向かった奴はみーんなひどい目に合わされたとかどうだ? 晩飯抜きの夜間当直の強要とか、ひどい目に合いたくないから仕方なく教官に従った。過去の事例ではそれが明らかになって更迭された教官もいたりするから説得力はそこそこあるシナリオだ」

 

 柳はそう言って手首を軽く跳ね上げる。バーンと口にしたところから、どうやら拳銃を撃ったつもりらしい。

 

「現段階では調査を行う海上安全整備局も状況証拠しか集められていない状況のはずだ。あの時の状況が把握されるまで出港停止の仮処分とかはありえるけど、それ以上の懲罰は与えようがないだから問題ないよ」

 

 どこかおどけた動作を見て明乃が口を開いた。

 

「戦術リンクの復旧はできないんですか?」

「古庄教官が私の教員としての権限が停止させててね。そもそも論で管理システムにログオンできないから対策の仕様がない」

「え……それってどういう?」

 

 幸子が不安そうな顔をする。柳は右手で頭をガシガシと掻いた。

 

「古庄教官は教務主任で教師の中だと教頭の次に偉い人。私は教務主任()でその下。緊急手段で階級が下の人の権限を差し止めることができるんだ。主任補は何人かいるけど、学校に来て2年目の私は一番下っ端だし、止めやすかっただろうなぁ」

「えっと……そういうことではなく……今、柳教官は……?」

「教員としての権限差し止めをくらってるから、肩書き上はともかくとして実質的には『ただの晴風運用クルー』柳昂三だな。一応航海課だから知床航海長の部下ってところだろう」

「うぇっ!?」

「……そんな嫌そうな声出さなくてもいいじゃん、知床さん」

 

 なんだか鈴が後進一杯で距離をとりそうな感じになっていて、かなり本気で凹んでしまう柳。本当にわざとらしく咳払いをして、話題を戻した。

 

「……ともかくとして、戦術リンクの電源を入れたところでそれの有効化(アクティベート)ができるわけじゃないから無用長物だな。衛星ネットの画像追尾は行われているだろうから、完全に行方をくらますことは不可能だし、旧式ビーコンの位置情報通知と定期的な生存報告(ネガティブレポート)を行えば大丈夫だろう。――――艦長、この後どうする?」

「えっと……と、とりあえず艦内の応急修理を進めつつ、鳥島沖に向かいます」

「了解。後部甲板早めに直さないと艦内後部が蒸し風呂かサウナになるから応急修理は優先して行った方がよさそうだろう」

「わかりました。もう夕方なので明日にします。しろちゃん、そこの調整お願いしていい?」

「調整しますが、こういうときぐらいは副長か宗谷と呼んでください」

「わかった、しろちゃん」

「本当にわかってます?」

「わかってるわかってる」

 

 どこか漫才じみたやり取りに肩を揺らして、柳はくつくつと笑う。艦橋から出るように足を向けた。

 

「それじゃ、火の元の取り扱いには気を付けて。ゼロヨン直があるから、一度仮眠をとるわ」

「わかりました。おやすみなさい」

「はいおやすみなさい」

 

 皆の声を聞きながら柳は艦橋を後にする。デッキから水密扉を開けて中に入る。炊事室からはコトコトと夕食を作る音が聞こえて軽く覗いた。

 

「炊事委員諸君、うまくいってるか?」

「あ、柳教官、こんばんはー。晩御飯もうすぐできますよ」

 

 そう言ったのは黒い髪を揺らす伊良子美甘炊事委員である。同時に双子姉妹で炊事委員をやっている杵埼ほまれ・あかり姉妹が会釈する。

 

「炊飯器はギリギリ何とかなってるか?」

「助かりましたー。晩御飯にお米無しは辛すぎるのです」

「素人の修理で不格好すぎる仕様だが、なんとか持たせてくれ」

 

 はいっ、と炊事委員の声が被る。

 

「おー、今日はサバか」

「麻侖ちゃんからは魚なんて出さなくていいから、毎日お肉がいいといわれるんですけど、お魚もちゃんと食べないと……」

 

 麻侖ちゃんと聞いて機関室の江戸っ子を思い出す。魚屋の生まれらしいがなにかトラウマでもあるのだろうか。

 

「この年になると脂っこいものを連日というのは少し困るところもあってね。和食が出てくれると助かる」

「……なんかお父さんみたいなことおっしゃるんですね」

 

 失礼だと思ったのかあかりに肘鉄を軽く入れるほまれ。美甘と柳は苦笑いだ

 

「そこまで歳じゃ……まて、三十路は十分に歳か」

 

 思い直す。ここにいるのは高校生、15歳から16歳の女の子たちだ、少なくとも2倍以上の時間を生きてることになる。……十分に歳だ。

 

「歳をとるわけだ。まったく」

「あはは……」

 

 美甘が曖昧な笑みを浮かべているのを見ておどけて肩を竦めた。

 

「それじゃ、あと少し頑張ってくれよ」

「あれ、食べていかれないんですか?」

「少ししたら戻るが、ちょっとばかり休憩だ」

「5分ぐらいでできるのですぐ戻ってきてくださいね!」

「わかった、楽しみにしておこう」

 

 そう言って炊事室を出てラッタルを下る。教員執務室に入ると舷側の窓にフタをして、明かりを付けた。1人部屋の狭い居室はベッドとロッカー、執務机がある程度でがらんとしている。ため息が一つ反響する。

 

「……らしくねぇ」

 

 椅子を床に固定するためのラッチを外し、椅子を引き出して座る。飛び出し防止も兼ねて鍵付きになっている引き出しを開けた。中から出てくるのは艦の日誌や生徒閲覧不可の個人情報関係の資料。予備の白手袋に一枚だけ乱雑に放り入れられた写真。油汚れで黒ずんだ白手袋から清潔なものに変える。チリリと感じた違和に手袋を取り落とす。ため息をついて、おとした手袋を拾い、左手を通す。

 

「こんな状況で教師面してるなんてな、笑えるだろう?」

 

 写真に写った影にそっと触れ、引き出しを閉めた。すぐ戻ると言ってしまったがために、あまり時間は無い。

 

 タブレットのバックライトを入れれば通知が来ていることを知る。非常事態だったせいもあり、大量のテキストメッセージが洋上を飛び交っていたことがわかる。どれも事務的なもの、ほぼすべてが猿島撃沈に係るもの、――――要は晴風に係る内容だ。

 

「……校長には負担をかけることになるかもな、これは」

 

 航行艦船への定期レポートを呼んで思わず唸った。国土交通省海上安全整備局警備救難部安全監督室への治安維持命令が出たことを告げる内容だ。

 海上安全整備局警備救難部安全監督室、それはブルーマーメイドとホワイトドルフィンを統括する上部組織であり、この通知は即ち晴風に対しての治安維持活動が開始されたことを意味する。最悪の事態を想定しての動きだろう。

 

「それにしては、なんというか……大きいんだよな」

 

 規模が大きすぎるのだ。晴風は位置を通知している上に晴風は武装運用のノウハウに乏しいクルーしか乗せていない。たかだか航洋艦一隻、それへの対処のために周囲の艦船へ覚書(レポート)を出さなければいけないレベルで、治安部隊を動かすのはいくらなんでも異例だ。過剰に反応しているといっていい。

 

「……別の要因が存在するのか?」

 

 どのような要素があるのか、未だにわからない状況だ。それでもそれを見つけなければ、知らない間に爆心地ということもありえる。

 

《晩御飯の用意ができましたー!》

 

 艦内スピーカーから美甘の声が響く。いつの間にかタイムリミットを超過していた。タブレットのバックライトを落とし、引き出しに突っ込んでおく。部屋の電気を消し、廊下を歩く。生徒のどこか黄色い声がする。非常時であっても、どこか明るい雰囲気に満ちている。それを聞いて意図して頬を緩める。奥歯をきつく噛みしめていたことに気が付く。笑って緩めて緊張をほぐす。厳しい顔で出ていけば、無駄に空気を乱すだろう。それは避けねばならない。

 

「あ、柳教官」

「よう、お疲れさん」

 

 機関室の面々を引きつれている柳原麻侖と鉢合わせる。

 

「柳教官は今日の晩御飯何だと思います? あたし的にはカツレツとかビフテキとかだと踏んでるんですけど」

 

 麻侖がそう言って柳の右手を取った。何のためらいもなく行われたその動作に一瞬肩を緊張させた柳はすぐに力を抜く。

 

「サバ」

「えー……サバは何か苦手なんだよぅ……」

「柳原さんは魚全般駄目じゃないのか?」

「それはそう―――――って、なんで教官が知ってんです?」

「伊良子さんに毎日肉にしてほしいって言ったんだって? それを受けて今日はサバの味噌煮だとさ」

「……うそ?」

「味噌煮はほんと」

 

 廊下で石化してガラガラと崩れていく麻侖を容赦なく置いていきながら柳は笑って食堂に足を踏み入れた。

 

 

 

 




それにしても、ハイスクール・フリートはキャラクターみんなかわいい分、小説では描き分けがかなり厳しいなぁと思う今日この頃。精進せねば……

そして、今回は世界説明回になってますね。公式の設定が足りないところをガバガバ解釈で補っていますが、……やりすぎた気はしていますが、このまま行きます。

――――――
次回 やってきた戦艦は疑惑の砲塔を向ける
どうぞ次回もよろしくお願いいたします。

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