IS ~1人連合艦隊ってすごくね~   作:シトリー

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どもども、あけましておめでとうございます。

皆さんは年末年始どうお過ごしでしたか?

作者はふぁっきん多忙からのリビングデッドしてました。

なので元旦に更新は出来ませんでした。出来ればしたかったんですけどね…。



では、本編どぞー。





IS学園編~賞賛~

  「うぅ…ひっく…。」

 

部屋のちょうど前に体育座りをしているツインテ娘、その座り込んでいる目の入りたい青年。何をどう考えても巻き込まれる。どういった内容かは全くわからないものの、少なくともこういった類のものは面倒臭いものと相場は決まっている。故に青年は困った。が、

 

  「(どうすっべ。)」

 

  “彼女の行動は非常に予測が困難です。あえて一度接触されることを推奨します。”

 

  「(ったく、他人事みたいに言いやがって。)」

 

  “他人事ですから。”

 

  「(全くいい性格しとるね。製作者の顔が見てみたいな。)」

 

  “全くです。”

 

  「(喧嘩売っとるの?)」

 

実際は脳内会話でAIと何故か喧嘩をしていた。

 

そうこうしている間も時間が刻一刻と過ぎていき、ヘタをすると青年にとって1日の中で唯一心が(比較的)休まる読書の時間が無くなってしまう。それだけはなんとしてでも避けたい青年は、何も起こらないことを心の底から願って、再び歩き始めた。

 

唯一の救いは、三角座りをしているツインテ娘は扉の真正面つまり、反対側の壁に寄りかかっているのだ。

万が一、億が一、兆が一、ツインテ娘に気付かれなければ部屋に入れるのだ。そうなってしまえば後はこちらのものである。

不幸な点は、青年の部屋は3年生である布仏先輩と部屋が同じなため他の同年代の生徒達とは別の配置をされており、滅多なことがなければここに人は通らないという点だった。

確かに頭を冷やしたり、隠れて何かをしたりするには絶好の場所とも言えるが、そこで生活をしている青年からしてみれば迷惑なことこの上なかった。

 

そして、青年が部屋にたどり着き、ドアを開け、中に入ろうとした瞬間

 

  「ちょっとあんた! 女が泣いてるのに声を掛けないとかどういう神経しているのよ!」

 

そんな声とともに、今しがた閉めようとしていたドアを掴まれてしまい、閉めることが出来なくなってしまった。やはり巻き込まれてしまった青年は、割と本気で目の前で何故か怒っているツインテ娘に対して殺意が沸き始めていた。

 

  「私はそういう神経をしている人物なので相談事ならルームメイトにでもどうぞ。私はこれから私用があるので。」

 

  「はぁ!? そんなもん後にしなさいよ! とりあえず、中に、入れろ!」

 

  「はぁ…。」

 

溜息を付く青年。そして、現状を再確認し始める。

 

・青年は目の前のツインテ娘(珍獣)に帰ってもらいたい。

・ツインテ娘(珍獣)は何故か怒っている。

・青年は片手で扉を閉めようとしている。

・ツインテ娘(珍獣)は中に(無許可で)入れてもらおうとするために、靴と腕を扉に挟んでいる。

・青年の私用なんざ知ったこっちゃ無い。でもこっちの話は聞け。

・うるさい(近所迷惑)。

・青年が閉めようとしているのでこれ以上進入されることもないが、ツインテ娘(珍獣)が腕と靴を扉に挟んでいる為ドアチェーンをつけることが出来ない(放置不可)。

・時間を掛け過ぎると向こうが専用機を展開し強引に突破してくる危険性がある。(ルームメイトに迷惑を掛ける。)

 

 

  「(考えなければ良かった…。普通に酷い状況下だが、どうしたら良い?)」

 

  “一つの方法としては、救援を呼び、その人物をスケープゴートにするというのはどうでしょう?”

 

  「(おし、寮長を呼ぶぞ。今何処にいる?)」

 

青年はAIから方法を聞いた瞬間即決した。総責任者なのだからこれくらいの苦情を言っても問題ないはずである。しかし、現実はそう甘く出来ておらず、

 

  “織斑教諭はただいま会議中です。”

 

無慈悲な答えが待っていた。しかし、その程度でへこたれる青年ではない。本人の望みとは全く関係なく無駄に鍛えられた精神力は伊達ではない。すぐさま次の生贄を探し始める。

 

  「(ガッデム! 他誰かいないか?)」

 

  “雫様のみですね。”

 

  「(しゃーない、呼ぶか。)」

 

ここに来て青年の友好関係の少なさが裏目に出てきてしまった。この学園内において青年に対し嫌悪感を持っていない同級生は、もう1人の彼と、少女、ダボ袖娘と、眼鏡娘程度しかいなかった。

 

青年が彼に対し救援を要請することは有り得ない。ダボ袖娘と眼鏡娘に至っては連絡先すら知らない。ただ、嫌悪感を持っていないだけだった。なので、必然的に青年が頼ることが出来る人物は少女だけということになってしまう。

 

  “わかりました。何て送りますか?”

 

  「(珍獣に襲われている。とでも送っとけ。)」

 

  “いや、その必要は無いようですよ。”

 

  「(どういうことだ?)」

 

  “雫様は既にこちらへ向かってきております。移動スピードから鑑みるに急用ではなく純粋に用事があるようですね。接触まであと20秒です。”

 

AIの読み通りしばらくすると少女が青年の視界に映った。しかし、状況を見た途端動きが止まり、僅かではあるがかおが歪んでいた。

 

  「ぐぎぎ…、黙ってないで大人しく中に入れなさい!」

 

  「すいません。何をしているんですか?」

 

  「珍獣n「誰が珍獣よ!」とりあえず絡まれている。そっちの用事も後で聞くからひとまず手伝っとくれ。」

 

  「本当に大人しくする気があるのでしょうか? 少々疑問に思い始めてきました。」

 

  「喧しい。とにかく後で説明するからこいつを引き剥がしてくれ。」

 

  「了解です。」

 

少女の協力のもと、なんとかツインテ娘を扉から引き剥がし、何故か少女が持っていたステンワイヤーで拘束することにも成功した。しかし、そのまま置いておいて暴れられても困るので、少女との話し合いの結果部屋の隅に置いておくことにした。

 

  「さて、貴方の要望通り部屋に入れましたよ。要件はなんですか?」

 

  「んむーーーーー!!」

 

猿轡をした状態で。

 

青年は、拘束されて芋虫状態にされてうねうねと暴れているツインテ娘を見て、わざとらしく残念そうな口調で少女に話しかけていく。

 

  「ふむ、せっかく部屋に入れてあげたというのに、内容を話そうとしないとは何て人物なんでしょう。雫さんもそうは思いませんか?」

 

  「(いろいろと)ドン引きです。」

 

一部始終を見ていた少女からしてみれば、会話ができないのは至極当然の話であり、その状況に追い込んだ張本人が会話を要求するのは理不尽であると感じており、そして、温厚な青年が以前よりも煽るような行動をするようになった原因であると予想される、目の前に転がっている生徒はなにをしたのだろうとも感じていた。

 

  「茶番はこの程度にしておいた方がいいですよ。それに、これ以上暴れて専用機を展開されても困ります。」

 

  「ふーむ、それもそうか。しょうがない。雫に感謝しとけよ。」

 

そう言って、青年が暴れているツインテ娘に近づき、猿轡と拘束をはずした。

当然、好き勝手され続けた鬱憤が溜まりに溜まっているツインテ娘が我慢できるはずもなく、

 

  「くたばれ!この野郎!」

 

青年に襲いかかった。が、

 

  「あらよっと。」

 

  「へぶっ!」

 

合気の要領で上手くツインテ娘の攻撃をいなし、そのまま地面へ叩きつけた。

  

  「さてっと、これが最後の忠告です。貴方は何をしに来たんですか?暴れに来たのであればこのままあなたを部屋の外へ放り投げます。どうします?」

 

ツインテ娘は中国の代表候補生であり、天性の勘と類まれなる才能と度努力によって代表候補性になった人物だ。そこにはありとあらゆる試練が待ち構えておりそれを全て乗り越えてきて今の自分がある。当然負けたこともあれば、苦汁を舐めさせられたこともある。しかし、それはすべて相手が全力全開で勝負をした時だった。故に、青年のような人物を見るのは初めてであり、そしてその攻防において一瞬で全てを悟った。

 

こいつヤバイ。と。

 

ツインテ娘はこと戦いにおいては天才である。ヒートアップもしやすいがそれと同時に冷静になるまでのクールタイムが非常に短い。青年との差を理解したツインテ娘は、大人しく降参の意を表し、素直に話を聞いてもらえるように頼むのだった。

 

 

 

数十分後

 

  「…っていうことがあったのよ!酷いと思わない!?」

 

  「「………。」」

 

話を聞いてほしいとのことから、青年と少女はツインテ娘の話を聞き始めるもののなんとも反応に困るようなものばかりだった。

 

  「どうします?雫さん。」

 

  「どうもこうしませんよ。さっさと終わらせます。こっちも暇じゃないんです。なので、おまかせします。」

 

少女に突如任された青年は、少し悩み、とある質問をしてみることを思いついた。それで、真意が理解出来たのであれば、諦めて相談に応じるつもりではある。しかし、切り捨てれば当然、青年もツインテ娘を部屋から強制退去してもらうつもりだった。

こちらの表情が変化していたのに漸く気がついたのか、ツインテ娘も話を止める。そして、青年は一度夕方になろうとしている空を見てから、とある有名な意訳を言った。

 

  「凰さん。」

 

  「な、なによ。」

 

  「月が綺麗ですね。」

 

  「はぁ?」

 

一瞬呆気に取られるような表情をするツインテ娘。

そもそも、ツインテ娘は彼への告白を恥ずかしいからという理由で、遠回しな発言をし、相手に理解を求めた。であれば、仮に自分が似たようなことをされても、察することが出来なくてはいけないのだ。もしできないのであれば、それこそ告白ではなく独りよがりな感情の押しつけに過ぎない。青年はそのことを確かめようとした。

 

  「アンタ今夕方よ? 頭おかしいんじゃないの?」

 

しかし、結果は散々だった様だ。

 

  「雫さん。判定を。」

 

  「有罪。」

 

  「異議無し。」

 

  「ちょっと! 二人して何でよ?」

 

2人の反応に怒りを示すツインテ娘。確かに時間が悪かったというのも無きにも有らずだが、それにしても酷いものである。

『月が綺麗ですね。』という一文は、かの夏目漱石が『I love you.』の意訳として生徒に教えた逸話で非常に有名なものだ。しかし、現実はそう上手く事が運ばないようで綺麗さっぱりスルーされてしまった。このままだと余りにも、不憫だと感じたのか、2人は解説を始める。

 

  「鳳さん。先ほどの一文はとある有名な作家の逸話で有名なものですが、聞いたことありません?」

 

  「知らないわよ。というか誰よそいつ。」

 

  「夏目漱石ですよ。鳳さん。」

 

  「夏目…漱石。あぁ、あの千円札に写ってるおっさんね。で、それがどうかしたの?」

 

  「雫さん。もうストレートに言ったほうが良いんじゃないですか?コレ。」

 

  「諦めるのはまだ早いですよ。」

 

  「さいですか。」

 

ツインテ娘の理解度に思わず溜息が出そうになったものの、一先ずそれを堪え解説の続きを行っていく。

 

  「その夏目漱石という方は作家さんでして、おっさん風ロマンチスト的な作風が特徴なんですね。」

 

  「ふーん。」

 

  「で、その方は一時期英語の教師をしていたときがあったんですね。」

 

  「ふんふん。」

 

  「そのときの逸話の一つとして、とある英文訳を解説しているときがあったんですけど、どういった文か予想付きますか?」

 

  「わかるわけないじゃない。」

 

  「渉さん、先に進みましょう。」

 

  「…そうですね。そのときに出された英文とは『I love you.』という一文です。」

 

  「訳したら、私は彼方を愛している。よね?」

 

  「ええ。その通りです。当時と今は若干違いますけど、当時の生徒はその文を『我君を愛す。』といった風に訳したそうです。」

 

  「何も間違ってないじゃない。」

 

  「間違い云々の話ではないんですけどね。まぁいいや。しかし、その訳を聞いた夏目漱石はこう返したそうです。『日本人はそんなことを言わない。月が綺麗ですね、とでもしておきなさい。』と。」

 

  「………あ!!」

 

青年の解説を聴いた後、ツインテ娘は少し考えたもののすぐに答えにたどり着き、何故か顔を真っ赤にし始めた。

 

  「やっとわかりましたか? 先ほどの発言の意図が。」

 

  「鳳さん、渉さんと私の意図はそれ以外にもありますからね?」

 

  「こんなのわかる訳無いじゃない! 唐突にひねくれたこと言って! 相手にもしっかり伝わるようにわかりやすく言いなさい。」

 

  「「………。」」

 

ツインテ娘の逆切れに2人とも思わず絶句した。その本人は2人が絶句した理由をまったく理解しようともしていない。盛大なブーメランであることに全く気が付いていないまま。

 

  「雫さん。もう何を言っても無駄な気がしてきたんですけど。」

 

  「私もです。どうしましょう。」

 

それでも、このまま返すのもあれなので正直やる気はなくなっていたが、一応説明することにした。

 

  「えっと、鳳さんは、恥ずかしいから若干アレンジを加えた告白をしたんですよね?」

 

  「さっきからそういってるじゃない。アンタ馬鹿?」

 

  「………。」

 

余りにも容赦の無い物言いに対し、流石の青年も苛立ちが表面に出そうになるが、此処で口論するのが目的ではないのと

 

  「渉さん。落ち着いてください。此処で出したら全てが水の泡です。」

 

同じ境遇の人物も傍にいるので、このまま聞かなかったことにした。

 

  「わかってますよ。」

 

  「あんた、雫だっけ? こんなのが兄弟なんてアンタも災難だったわね。」

 

  「………。」

 

最早理不尽以外の形容方法が見つからないレベルの哀れみを貰い、珍しく少女の額に血管が浮かび始める。青年にとっても、少女が苛立つのは理解できるのでフォローを始める。

 

  「雫。」

 

  「わかっています。わかっていますよ。ええ、わかっていますよ。凄くわかっていますよ。」

 

  「(やべぇ。)」

 

想像以上にきていること察した青年。この目すら合わせていない名前を呼ぶだけの小さなやり取りの後、2人の考えは意図せず完全に一致していた。

 

  「「(さっさと追い出そう。)」」

 

今後の方針が決まったところで、迎撃行動を開始する2人。

 

  「さて、鳳さん。先ほど彼方はひねくれたことを言うなと言っていましたが、彼方の告白はそれに該当していることを理解していますか?」

 

  「鳳さん。今のあなたに織斑さんを否定する権利はありません。」

 

  「何でよ?」

 

  「自分が察することも出来ないのに、相手に対してのみそれを要求しているところです。相手からしてみれば迷惑なことこの上ないです。少なくとも私ならそう感じます。」

 

  「アンタに私の何がわかるって言うのよ!」

 

  「少なくとも織斑さんより理解しているとは思います。」

 

  「そもそも素直に告白していれば、このような事態にはならなかったのでは? まぁ、それが出来ないにも関わらず変化球に走ろうとする心意気だけは尊敬に値します。」

 

  「あんたらねぇ…!」

 

2人の言葉に対し声を震わせ始めるツインテ娘。しかし、それすらも2人の前では無意味だった。

 

  「そうですか。困ったらすぐ手が出るんですか? それで告白が成功しますか? 仕事が上手く行きますか? あぁ、なるほど周りの人物を全員排除すれば織斑さんのあなたを見る目が変わるかもしれませんね。そうすれb「ふざけないで!」…。」

 

  「鳳さん。私は少しも巫山戯てなどいません。ただ、貴方の行動がそう連想させてもおかしくない程にズレているんです。」

 

  「百歩譲って酢豚ではなく味噌汁であれば多少の変化があったかもしれない。しかし、その決まり文句ですら通じなかったかもしれない。全ては過ぎたことです。貴方が今とるべき行動は彼に対しひたすら異性として見られるようなアピールをすることだけです。」

 

  「それで済んでいるのなら、とっくにやっているわよ! 知ってるでしょ!? あいつの朴念仁っぷりを!」

 

  「だからこそ聞きます。そこまでわかっているのにも関わらず何故ストレートに言わなかったのですか? 彼がそうであることは容易に予想できたはずです。」

 

  「だからこそ印象に残るような告白をしたのよ。」

 

  「それで、真意が伝わってなかったら世話ないですね。」

 

  「アンタねぇ!」

 

青年の言刃を受け続け目に涙をため始めたツインテ娘。

 

  「凰さん。貴方は私からの変化球にも理解を示していませんでしたね。」

 

  「急にあんな事言われてわかるわけないじゃない!」

 

  「つまりそういうことですよ。貴方は自分善がりな告白をして、相手に受け取ってもらえたと勘違いをしただけの残念な人です。だってそうでしょ? 急に言われてもわからないのだから。」

 

ブツンッ

 

  「あんたぁぁぁぁぁああ!」

 

ついに堪忍袋の緒が切れたのか、専用機を全て展開し始めたツインテ娘。当然ISの出力の前ではステンワイヤーなどあってないようなものであり、いとも簡単に千切ってしまう。そして、展開した腕をおおきく振りあげ、青年に向かって

 

ズガンッ

 

  「わかってるわよ。そんな事言われなくてもわかってるわよ! それでも希望を持つことくらいいいじゃないの!」

 

振り下ろさなかった。

 

振り下ろした腕は地面にめり込み小さなクレーターを形成していた。どうやらツインテ娘はギリギリで踏みとどまることに成功したようだ。

 

  「ええ。どうぞ勝手に希望を持って勝手に絶望してください。私は知りません。」

 

その後、ツインテ娘は両目から涙を溢れさせ、逃げるように部屋を出ていった。

 

  「おし、嵐が去ったね。おまたせ。話を聞こうか。」

 

  「そうですね。」

 

しかし、追い出した当の本人たちは全く我関せずと言った具合に本来の目的に戻り始めた。

 

  「さて、そっちの要件はなんなの?」

 

  「すいません。ここの盗聴はどうなってます?」

 

  「有るよ。聴かれたら不味い奴か?」

 

  「いえ、全く問題ないです。それに親への手紙もまだですし。」

 

  「なるほど。エリアコード【ワープキッチン】」

 

青年は少女の言葉を聞いた瞬間、両手から靄のようなものを生成し、青年と少女を包み込んだ。そして包み込んだその直後その靄が霧散した。

 

  「そっか、早く親に手紙を送ってあげなよ。心配してるんだからさ。」

 

  「わかりました。そうすることにします。」

 

その言葉を最後に少女は青年の部屋を退出した。

 

青年は少女からの情報を聞きボソリとを付くのだった。

 

  「雫の昔なじみ…ねぇ…。嫌な予感しかしねぇな。」

 

 

 

 

  「エリアコード【ワープキッチン】」

 

  「さて、この空間内なら盗聴の可能性は限りなく低くなる。で、話って?」

 

  「…これはISのワンオフアビリティですか?」

 

  「いや、違う。でも詳細は秘密。ギミックの一つとでも思ってくれればいいさ。」

 

青年の言葉に対しもはや何度目かわからない呆れ顔を見せ、少女は自身の目的である話を続けていく。

 

  「以前、渉さんに助けて頂いた時に所属していた組織って覚えてますよね?」

 

  「あー、あったねそんなの。確かオータムとかいう女が雫さんの上司だったところでしょ? 亡国企業だっけ?」

 

  「ええ、そうです。」

 

  「まさかとは思うけど、それ関連か?」

 

  「そうです。まずこの人物を見てください。そして、この人物について何か知っていますか?」

 

少女はそう言うと、どこからともなく取り出したルーズリーフを青年に渡した。そこには、青年も見たことがない人物とその詳細が記されていた。

 

  「ダリル・ケイシー…ねぇ。少なくとも直接出会ったことはないな。ただ、アメリカ代表候補生で専用機持ちってことで名前だけは教えられた。顔も一応写真でだけなら有る。」

 

  「教えられたって誰にですか?」

 

  「更識生徒会長。常にベルトで雁字搦めに拘束された状態だった時があったろ? その状態になる前に、IS学園はエリート学校だからそれに見合う知識と常識を付けてもらうっつって半ば強引に教え込まれた。そうでもしないと、専門知識が無い状態で中テストで上位に行けるわけないじゃん。」

 

青年の苦労を蒸し返すことになり、テンションがどんどん下がっていくのを見た少女は、これが長引かないうちに次の話へ移ることにした。

 

  「渉さんの苦労はひとまず置いておいて、もし知っているのであれば話が早いです。彼女は亡国企業のスパイです。この感じですと、学園内と、アメリカの内部事情を探るために送られたようです。」

 

  「まぁ、そうなるわな。コイツの戦力ってわかるか?」

 

青年も気持ちを切り替え、質問も行うものの、

 

  「私が組織に所属していた時に模擬戦名目で何度か手を合わせられたこともあります。が、明らかに手を抜かれている状態にも拘らず、まともに触ることすらできませんでした。しかも、これは徒手空拳での話なので、専用機での戦力及び内装は一切合切不明です。」

 

状況はあまり芳しくなかった。そもそも、スパイとして数年間も過ごせている時点で彼女に対し公表されているような情報以上のものが容易に手に入るはずがなかった。むしろそれが手に入るようであればそれこそ罠である可能性が極めて高い。もしくは余裕の現れか…、しかし少女から受け取ったルーズリーフを見る限り、態度はお世辞にも品行方正と言えるようなものではない。しかし戦績は素晴らしく、個人戦総合戦績勝率8割超、団体戦総合戦績勝率7割超という輝かしいものと言っても過言ではないものだった。特に、フォルテ・サファイアという人物と組んだときの被弾率が2分を下回っており、何をどう考えても、猛者に該当できる人物であった。

 

  「雫が手も足も出ないってのは相当なものだな。その感じだと、少なく見積もっても学園内で上位陣に余裕で食い込める程度の実力はあるね。」

 

  「それだけで済めばいいんですが…。」

 

そこまで言うと、少女は震える腕を抑え始めた。それを見た青年の目には怯えているように見えた。過去の記憶のせいか、戦闘時によっぽど酷いことをされたのか、原因は不明だった。

 

  「うーん。取り敢えずこれに関しては一旦保留で。」

 

  「は?」

 

青年の言葉に思わず、暗くなり始めていた顔が呆気にとられる。

 

  「え、あの。保留って。」

 

  「え? そのまんま。保留です。第一あの組織が脱走者に関する情報を伝えていないわけないじゃん。多分だけど、向こうからの目星も付けられてるよ。でも、干渉がないってことは、今は時期ではないってことでしょ? 来るかどうかも定かじゃない敵に対して常に怯える必要はないよ。ただ、警戒は必要だけどね。また何かわかったらマザーリグに伝えておいて。伝えたいことってこれで全部?」

 

  「…分かりました。そうですね。これで全部です。」

 

  「じゃあ、今からこの靄を消すから、私に話を合わせてね。」

 

  「?わかりました?」

 

その直後、2人を包んでいた靄が一瞬のうちに霧散し、先程まで見えなかった部屋の内装が視界に映った。

 

  「そっか、早く親に手紙を送ってあげなよ。心配してるんだからさ。」

 

  「わかりました。そうすることにします。」

 

少女は青年の指示通り、会話をそれとなく合わせて部屋を退出した。

 

 

 

 

後日 教室内

 

普段通りに青年が教室へ向かうと、教室内がまた騒がしくなっているのが見えた。実際に見えたわけではないが、なんとなく教室の雰囲気が他と違っていた。正直話のネタにさえならなければどういった会話があってもいいと考えている青年だったが、

 

  「あ、渉!お前!」

 

彼による言葉を聞いた瞬間、このクラス内における話題の悪役が自分であることを察し、苛立つ心を抑え、なんとか話を聞くことにした。

 

  「あの、状況が掴めないんですが、どういった状況でしょう?」

 

青年は、彼に胸ぐらを掴まれているが、この程度で揺らぐようなちゃちな体幹をしていないので逆に彼が揺れるという何とも言えない状況ではあったものの、ひとまず質問をしてみることにした。

 

  「渉が、鈴のやつを泣かせたことだよ!」

 

  「鈴? ああ、鳳さんか。泣かせたと言われましてもね、私が会った時点でもう既に泣いていたんですが。」

 

  「渉。嘘を言ってはいけない。嘘つきは泥棒の始まりだって教えられなかったのか? それに、渉の部屋から泣きながら出てくる鈴を俺は見たんだぞ? それはどう弁明するつもりだよ。」

 

  「私は巻き込まれただけです。そもそも、織斑さんがきちんと真意を理解していればこのような事態にはならなかったのでは?」

 

  「何で俺が出てくるんだよ、話を逸らそうとするなよ。それに、俺はちゃんと約束を覚えてた。」

 

  「でも、泣かれたんでしょう?」

 

  「確かに泣かせたけど、あそこまで号泣はさせてない。」

 

  「でも、私は相談をされて、それに応えただけです。」

 

  「何で、相談に乗って相手を泣かせるこのになるんだよ。」

 

  「さぁ? メンタルが弱かったんでしょう。」

 

  「さぁ、ってお前な。」

 

キーンコーンカーンコーン

 

ずっと続くかと思われた会話も、チャイムに遮られ、そのまま授業に入ってしまった。彼の青年に対する感情は無くなってはいないだろうが、それでも青年は全く関与するつもりはなかった。故に、授業が終わり次第移動を繰り返し、必要以上の接触を露骨に避けていた。当然、クラス内の評価も下がり、大体【女を泣かせる外道】【常に逃げ続ける卑怯者】【気に入らない人物を学園から追放する独裁者】といったところで落ち着きを見せ始めた。

流石にこの状況を見て不味いと思ったのか、学園側もある程度情報を流すことで統制を図ろうとしたものの、特に大きな変化は得られなかった。

 

因みに、当の本人は

 

  「言いたいなら好きなだけ言わせておけばいいのでは? ただ、私は何があっても知りませんよ?」

 

といった風に綺麗にスルーしていた。

何かあってからでは遅いので、その言葉を聞いた瞬間、学園側もかなりの焦りを見せ、情報統制にシャカリキになったようだった。

 

 

時は流れクラス対抗リーグマッチ当日

 

出席日数に響くので一応観戦している青年。情報収集のためか紙とペンを常備している少女。彼に対して黄色い声援を繰り返し掛けるクラスメイト’s。さらにその周りは自分のクラスメイトが勝てるように必死に応援していく他クラスの生徒。そんな中、青年はぼそりと誰にも聞こえないように呟いた。

 

  「飽きた。」

 




ども、最後まで読んで頂いてありがとうございます。


3人で会話しているのを描写するのって難しいですね!(白目)

これからも精進を続けて生きたいと思います。



これからものんびりと更新していきますので、
気長にお待ちください!


コメント(理不尽な批判以外)、質問、代替案、どしどしお待ちしてます

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