IS ~1人連合艦隊ってすごくね~   作:シトリー

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どもども、お久しぶりです。

最近寒くなってきましたね。作者は、最近部屋の窓を閉めるようになりました。
でも部屋の気温が高いので結局また開けて、友人に怒鳴られています。

理不尽です。


そんなことより、本編です。(注意、穴あきは誤字ではありません。)


IS学園編~二律背反~

保健室

 

 

  「さぁ、服を脱いで下さい。」

 

  「はい?」

 

保健室に移動した青年と副担任の会話である。事情を知らない人物が聞けば良からぬことになるのが安易に予想できる会話である。

 

  「はい?って、ゴムショットが直撃したんですよね?」

 

  「いや、直撃はしてないです。盾にした扉から数発貫通してきたってだけです。直撃して何事も無かったかのように動けるわけないじゃないですか。」

 

  「それでもですよ。此処で使われているものは、名目上ゴムショットガンとしていますけど、発射するゴム自体も硬質性ですし、中に金属の芯が入っています。それに彼女たちが持っていたのはバックショット弾です。そもそも、一部でも防げたのが不思議なくらいなんですよ。」

 

  「非殺傷とは…。」

 

  「というわけで、服を脱いでください。現状を見ないことには治療のしようがありませんから。ね。」

 

  「いや、ね。じゃなくてですね…。」

 

正直青年は、服を脱ぐこと自体全く問題は無いと思っている。これは正真正銘治療行為であり、邪な考えなど副担任が考えるはずも無いと青年は一応信じている。それでも青年は見られたくないと考えている。いや、これは正しくない。正確には、見て欲しくない。だった。

考えに考えた結果、ごり押しに走る青年であった。

 

  「脱いでくださいって、言葉だけ聞いたら完全に痴女ですよ? それとも、年頃の男性の身体がそこまで見たいですか?」

 

青年が、そう言ったのと同時に副担任の顔がフリーズし、

 

  「……………。」ボンッ

 

どのような妄想をしたのかは全く判らないが、一瞬の内に顔を林檎の如く真っ赤にしてしまったのを見て青年は、何となく察していた。

 

  「す、すいません! 私ったら、行動だけを考えていたので四十川さんのことを全く考えていませんでした!あぁ、でもあんなことも…」

 

  「はいはい、妄想は部屋でお願いします。とりあえず、鏡と仮眠用のベッドを借りますね?」

 

  「は、はいぃぃぃぃ。」シューー

 

青年に指摘されたからか、耳まで真っ赤になった副担任の蚊の鳴く声のような返事を聞き、青年は、その場を少し離れたところにあるベッドへ移動し、カーテンを閉じた。

 

  「(リグ、スキャン開始。)」

 

  “どちらをですか?”

 

  「(両方。)」

 

  “了解。…………完了しました。部屋にその類のものは置いてありません。それでは、場所を指示します。…………。”

 

その後は、AIの指示通り、特定の場所に持ってきていた湿布を貼り付けていった。その際、

 

  「(こんな姿を見せるのは流石にまだ早いな。)」

 

  “彼女のことです。黙っておくのが賢明かと。”

 

  「(だわな。)」

 

青年が、見て溜息をつきながら見ていたものとは、鏡越しに映っている自身の身体だった。

身体には、生々しい傷や火傷の痕が身体を埋め尽くすように広がっていた。奇跡的に痛みはもう無いものの、最早青年の体において腕、脚、顔と首回りを除いて傷の無い部分を見つけることは出来なかった。

そして、それを見る度に思い出す、思い出してしまう苛烈な記憶。それでも決して忘れないよう、消せるにも拘らずあえてその傷を青年は残していた。

 

  「(こんなもんで良いか。リグ、お疲れ。)」

 

  “では、待機モードへ移行します。”

 

 

 

そんな会話をこなしながら、やることを終えた青年はカーテンを開け、副担任に挨拶と御礼をし、その場を後にした。

 

 

 

数時間後 自室

 

自室に戻った青年が暇つぶしの一環として小説を読んでいると、AIからとある情報が告げられ、その準備をすることにした。

 

コンコン

 

  『四十川。居るか? 織斑だ。』

 

  「はいはい、今開けますから待っていてくださいね。」

 

カチャッ

 

青年が扉を開けるとそこには報告通りの担任がそこに居た。

 

  「用件はわかっているな?」

 

  「ええ、まぁ。」

 

  「ならば良い。此処では話せないからな、場所を変える。付いて来い。」

 

担任の言ったとおり、その後を付いていくことにした青年。道中は一切の会話がなく、2人の間にはなんともいえない空気が漂っていた。

 

暫くすると、目的地に着いたのか担任はその場で足を止めた。

 

  「まさか此処で会話する気ですか?」

 

  「ああ、秘密の会話にはピッタリだろう?」

 

担任が指定した場所。

そこは、以前青年と博士が会った屋上だった。場所も立ち位置も中々に意図して似せている辺り、相当根に持っていたようだった。

 

  「安心しろ。私が居る限り、今日この場において監視カメラの類は動かないようにしてある。心配するな。」

 

  「(と、言われましてもな~。どうなの? それ。)」

 

  「とはいっても、疑り深い貴様のことだ、気が済むまで調べても良いぞ。」

 

担任も青年の性質漸く理解してきたようで、自身の誠意を見せてきた。なので青年は、容赦なくAIにも確認させていた。

 

  “どうやら本当のようです。それどころか、今回我々が通ってきた道全ての監視カメラが停止しています。信じても良いかと。”

 

ところが予想外の答えが返ってきて、青年は内心驚いていた。顔には出ていなかったが。

 

  「確認は、もう良いでしょう。他ならない織斑先生の言葉ですし。」

 

  「白々しいな。」

 

  「気にしては駄目ですよ。 さて、会話自体は構わないのですけど、場所に若干の悪意を感じます。」

 

  「私としても色々思い出のある場所だからな。まぁ、気にするな。」

 

  「別に良いですけど。それで、聞きたい事というのは、今回の案件ですよね?」

 

  「そうだな。」

 

そう言うと担任は、青年をじっと見つめ問答を開始した。

 

 

  「単刀直入に聞こう。今回の事件において、何人関わっている?」

 

  「それは、何処まで含めます?」

 

  「貴様の知っている範囲内で構わない。」

 

  「そうですね…。3人かと。」

 

  「その人数には貴様は含まれているのか?」

 

  「ええ。」

 

  「そこに、貴様以外のIS学園所属の生徒は関与しているか?」

 

  「ええ。」

 

  「そこに、現時点でIS学園に所属していない人物は居るか?」

 

  「ええ。」

 

  「今回の事件において起こった最終最悪の現象。あれは貴様の指示によるものか?」

 

  「いいえ。」

 

  「今回の事件において、加害者側はISを不法所持し、展開していたにも関わらず、ISを展開しなかったのは何故だ?」

 

  「予測の範疇だったからです。」

 

  「では、あの最後についても予測の範囲内だったと?」

 

  「いいえ。」

 

  「では、今回私は、四十川雫に貴様が襲われているという連絡を受け、あの場に駆けつけたわけだが、あの状況は襲われ始めてから十分も経っていなかった。

仮に襲われてから連絡をし、その後から急いで準備をしたとしても倍近く時間は掛かる。この私が全速力で駆け抜けてそれだけ時間が掛かったのだ。他の人物がどうがんばろうとそれ以内に着く事は出来ない。」

 

  「何が言いたいのですか?」

 

  「貴様、いつから予測をしていた?」

 

  「授業中のあの出来事からですよ。」

 

  「私は連絡を受けた際、襲撃場所まで聞いている。普通であれば襲われている場所を知っているのはその関係者のみだ。その話だと、襲撃される場所まで予想していたように聞こえるぞ。」

 

  「流石に場所までピンポイントで予測することは出来ませんよ。ただ、ある程度の予測を立てることは出来ます。私は、その予測できる全てを簡易的に表したメールのテンプレートを複数作っておき、襲われた際その中から選んで、それを雫さんに送っただけです。」

 

  「最早呆れてものも言えんな。」

 

  「その程度のことが出来なければ、私は今まで生き残ることは出来ませんでしたよ。

因みに今回は、今回は雫さんの協力の下、織斑先生か山田先生のどちらか、若しくはその両方を、制圧可能武装を所持した上で、あの場所まで連れて来てもらうことでした。なので、私としては時間稼ぎさえ出来ればそれでよかったんです。あの子が失敗することはありえませんし、私も必要以上の戦闘を回避できる。完璧とはいきませんでしたが、ある程度許容できる範囲内でした。」

 

  「…あそこまでしておいて完璧では無いとはな。つくづく恐ろしい奴だ。」

 

  「褒め言葉として受け取っておきます。質問はこれで終わりですか?」

 

  「いや、これが最後の質問だ。」

 

  「なら、さっさと終わらせましょう。寮長が門限破りは不味いでしょう。」

 

  「そうだな。では、最後の質問だ。貴様の目にはISはどう映っている?」

 

  「…織斑先生。謀りましたね。」

 

  「何のことだかさっぱりだな。さて、答えてもらおう。」

 

青年は、その質問を受けなんともいえない微妙な表情になる。それもそうだ、最後の質問はどう考えても事件とは無関係の質問であり、これは担任の個人的な質問であることは明白だった。

ここで、青年は担任が此処まで無理をしてでも監視カメラを止めた理由を察し始めた。

それ故に観念し、素直にあの時と同じ答えを出した。

 

  「…【矛盾を抱えた拘束具】。」

 

その答えを聞いた瞬間担任の顔が止まった。そして、その直後

 

  「………。ぷっ」

 

  「?」

 

  「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。」

 

大笑いし始めた。担任は顔に手を当てて、全ての謎が解けた探偵のような笑い方をしており、恐らく、いやほぼ間違いなく、レアな姿といえた。

 

  「急に笑われると困るのですが…。」

 

青年としては、反応に困るので早急に止めて欲しかった。

 

  「あーすまない。予想の斜め上を行く答えだったものでな。なるほど、束の奴が気に入る訳だ。」

 

  「では、理解しているのですね。博士の願いも自身の行いも。」

 

  「ああ。束の奴には悪いことをしたと思っている。今となってはもう手遅れだろうがな。」

 

  「自覚があり、理解もあり、罪悪感も持っている。なら何故最後のそれをしなかったんです?」

 

  「詳細は省かせてもらうが、親が蒸発した直後でな、弟を、一夏を守るために力と金が必要だったんだ。」

 

  「そのために、親友の夢と努力の結晶を売り飛ばした。と。」

 

青年はただただ仕事をこなすように、担任の心を抉っていく。

 

  「批判するか? それも良いだろう。事実だからな。好きにしてくれ。」

 

しかし、担任はそれもよし。と、批判されることを良しとした。しかし、青年にとってそれは他人事であり、自身は関与すべきではないと思っていた。

 

  「色々と面倒ですし、全く興味がないので止めておきます。それに、貴方に対してそれを言う権利があるのは博士のみです。もっとも、言って貰えるかどうかすら怪しいですが。」

 

  「ああ、諸悪の根源は他ならない私だ。だからこそ、貴様に頼みたい。」

 

  「なんです?」

 

  「もし、束と貴様がこの世界から離反するときは、必ず     。」

 

急に突風が吹き、担任の声が掻き消える。しかし、AIによる補正を利用することで、青年は担任の言葉を最後まで受け取った。

 

その重い信頼を。

 

  「理由を聞いても?」

 

  「自分で言うのもなんだが、私は強い。そして、言ってしまえばこの世界において女性が優位に立つ為の大前提の一つであり、その象徴でもある。束の奴がする事は今も昔も変わっていない。それ故に世界では反発が起こる。

それが本来の使い方であろうと、世界とは大多数が正しいと思っていることに反しているものを悪と見る。このままでは奴は悪とされ、勢いだった馬鹿共の標的になることは疑いない。それを抑制する為に、束の奴への罪滅ぼしとして、私を使って欲しい。」

 

  「何故それを私に? それこそ博士本人に頼むべきでは?」

 

青年にとって、博士と担任の関係のねじれは、本人たちで解決して欲しいと思っている。それこそ、今回の頼みごとであれば博士は渋々ながらも動きそうではある。

しかし、担任もそれは理解している。痛いほど。だからこそ、この決断だった。

 

  「束の心は既に私から離れ、貴様に寄っている。そして、心優しい貴様のことだ汚れ役を引き受けるつもりだろう?」

 

  「心外ですね。もしそう思われているのであれば、それは織斑先生の勘違いであると断言します。」

 

  「あくまでも、私の考えだ。深く気にする必要も無い。それに、貴様は間違いなく全盛期の私より強い。その役目を担うにはうってつけだと思うが?」

 

青年は、担任の眼を見る。それは、酷く穏やかな、自愛に満ちた眼だった。

それを見た青年は、条件を提示しその願いを受けることにしたのだった。

 

  「………わかりました。もしその時が来たら、その願いを聞き届けるとしましょう。但し、私は罪を背負いますが、その後のことについての責任は一切持ちません。それでも?」

 

  「ああ。十分だ。」

 

  「わかりました。それでは事後処理を行える手筈と、その為の下準備はお願いしますね。」

 

  「ああ、わかっている。」

 

 

 

  「さて、最後に教えておこう。」

 

  「? 何をですか?」

 

  「あの生徒たちの処分だ。」

 

正直、質問はもう終わりだと青年も思っていたところだったので、全く予想が出来ていなかった。

 

  「退学じゃないんですか?」

 

  「いや、退学だ。それも、莫大な借金と共にな。彼女らが今生において日の当たる世界に出てくることは無い。」

 

  「それは、終身刑というものでは?」

 

  「さぁな。そこまで詳しいことを私には知らされていない。ただ、コア破壊の罪と男性操縦者に対する暴行行為、その他多数の罪と一介の家庭に支払える額を大きく超えた借金を背負って退学させられるということを知らされただけだ。」

 

  「それは、私に教えて良いものなんですか?」

 

  「貴様は被害者だ。誰よりも事実を知る権利がある。それに、緘口令も敷かれていない。 

 

そもそも、この情報を持っている人物は両の手よりも少ない。」

 

  「それはそれで、問題のような気もしますが…。」

 

  「一応、彼女らの退学は明日のSHRで公表する。何か起こった場合は連絡しろ。こちらでも対策を取る。」

 

  「なるほど。」

 

  「長引かせてしまって悪かったな、こちらからの話は以上だ。門限までならまだ間に合うだろう。急いで戻れ。」

 

 

  「そうですね。あ、」

 

青年は、戻ろうと身体の向きを変えた直後、ふと思い出したかのような声を出した。わざと。

 

  「どうした?」

 

  「先程のこととは全く関係ないことなんですが、一つお伺いしても良いですか?」

 

  「何だ?」

 

  「今日、織斑先生の弟さんにニュースのことで話しかけられたんですけど、彼っていつ代表候補生になったんですか?」

 

  「? どういうことだ? あいつはまだ代表候補生になれないはずだぞ?」

 

青年の質問に対し、疑問で返す担任。

 

  「それはこちらの質問です。彼曰く、俺と同じ代表候補生としてがんばろうな。的なことをすっごいいい笑顔で話しかけてきたんです。その時はまったく興味なかったですし、今日の事件のことについて考えていたので全く気にしていなかったんですけど、ふと思い出しまして。で、どうなんです?」

 

  「ふむ。詳しくは一夏の奴に聞いてみないことにはわからないが、恐らく奴の勘違いだろう。少なくとも専用機を渡されただけで代表候補生になることは…な…。」

 

不意に担任の言葉が途切れる。そして青年は、額から一筋の汗が流れるのを見て、まるで悪さが見つかったときの子供のようだと感じていた。でも、青年は止まらなかった。

 

  「どうしました?」

 

あえて、手を出すことで担任に答えを催促させる。

暫くすると、観念したようで言葉を紡ぎ始める。

 

  「すまない、その件は私のせいだ。」

 

  「経緯の説明をしていただいても?」

 

  「貴様がまだ拘束されていた時期に専用機の話題を出したことは覚えているな?」

 

  「まぁ、色々な視線もありましたしね。早々忘れることは出来ませんよ。」

 

  「あの時、一夏のほうが先に職員室に着いたので先に説明をしようとしたんだが、そのときに一夏の理解が悪かったので、私の非常に簡易的な説明をしたのだ。」

 

  「何て言ったんです?」

 

  「専用機を持つことが出来るのは代表候補生だけだ。と。」

 

その答えを聞き、青年は納得した。言葉が少なすぎるのだ。確かに間違いではない。ISコアの希少性から、専用機を持てる人物は国を背負い立つことができる人物か、研究目的で国から特殊な認可が下りている研究機関か企業のみだった。

 

  「確かに間違いではありませんけど、その説明だけでは流石に不味いでしょう。その感じですと、その後の補填もしていませんよね?」

 

  「返す言葉も無い。」

 

  「周りも周りで殆ど代表候補生と遜色ない扱いで接触してますし。いや、男性である分もっと丁寧に扱われていますね。いやー私とは大違いだ。」

 

  「一夏とは元々の経緯が違う上に、貴様は殆どが特殊だろうが。」

 

  「ええ、重々理解しています。なので、絡まれるのは程々にして穏やかな生活を送りたいものですね。」

 

  「ああ。こちらとしてもそうしてくれると仕事が減って助かる。そして、次会ったときでも良い、山田先生に一言礼を言っておけ。今回は私よりも山田先生に掛かる負担が激増してな、今も残業中だ。」

 

  「なるほど。わかりました。時間を作って、言いに行きますよ。」

 

  「さて、もう無いな。では早く戻れ。」

 

  「了解です。織斑先生。」

 

 

そう言うと、青年は踵を返し屋上を後にした。

 

 

………side

 

私は、奴が屋上から去るのを最後まで見送ってから、近くの壁にもたれかかった。

 

  「あいつは一体何者なんだ?」

 

ぼそりと、無意識に自身の口から零れ落ちてしまう。最早この言葉を何度口にしたのかもう思えていない。

常識的に考えたら、目の前にISが居ること事態が異常事態であり、そんなものを前にして普通は木製の扉を盾にしようとは考えない。

理由は簡単だ。盾としての意味を成さなくなってしまうからだ。盾とは相手との攻撃、視線等を遮ることができるからこそ持つ意味があるのであって、相手の攻撃が貫通することが判りきっている盾を持つ意味は全く無い。刃物を持っている相手に障子で自分の身を守ろうとする者はいないのと同じだ。

確かに、道具は扱い方次第とよく言われるが、それはあくまでも可能性がある場合に限られる。

あの場合において、アイツが取るべき最善の行動は他の教員が来るまでの間耐久するとしても、即座に専用機を展開し自己防衛に入るしかない。

しかし、その最善ともいえる行動を奴は取らなかった。確かに情報は戦況を変える。それを踏まえても今回は度が過ぎている。

疑問に思った私は奴と直接会話した。その結果、疑問が二律背反に変わった。

 

奴は、ISを含めた対人戦闘において、相手の行動を極めて高い精度で先に検知する技術を所持している可能性が極めて高い。

 

でなければ、IS相手に取った行動の説明が付かない。

 

この技術を持っていることを前提とし、相手のISが即攻撃に移らないことを事前に知っていたとすると、木製の扉を盾にしたことは寧ろ正解といえる。

 

今回生徒たちが持ち出した凶器は、暴徒鎮圧用硬質ゴムショットガンと強化型テイザーガンだったが、そのどちらも当たれば只ではすまない。特に今回において一番に避けるべきはテイザーガンに当たることだった。

回収後再検査した際に発覚したことだが、あのテイザーガンには改造が施されており、実測値で200数万V、100mAオーバーというふざけた数値が計測された。

これは、生身の人物に当たれば即感電死してしまう。仮に、通常のISを展開した場合であれば防げるであろうが、奴の専用機はシールドエネルギーが極端に少ない上に、展開までに時間が掛かる。展開が間に合えば防げるだろうが、万が一間に合わなければ即感電死だ。

そこを考慮すれば木製の扉を使用することは理解できる。あの場にある唯一取り外しが出来る(破壊が前提となるが)絶縁体だからだ。しかし、奴は展開時間の遅さをカバーする為にドアを破壊したのではなく、そのまま純粋に耐久するためにあのドアを破壊した。なので、あの襲撃において奴は一度たりともISを展開していない。それは現場検証の際に学園に登録されているコアの起動履歴を確認したのでその点に間違いは一切無い。

 

様々な考察を立てて何度も試行錯誤して漸く理解出来るようにはなったが、それをとても納得したいとは思えなかった。誰がどう考えても、展開したほうが速いし安全だ。

 

奴と同じ行動を取る為には襲撃された時点で、相手の行動、所持兵装、目的を事前、遅くても攻撃直前までに全て察知していないといけない。でなければかわせないからだ。

 

つまり、自分は相手の行動を完璧に把握し、絶対に助かるという確証を持っていないとこの行動は取れないのだ。しかし、奴はこの行動について完璧ではない、許容範囲内と言っていた。つまり、奴は確証を持っていなかった。持たないままあの行動を取ったということになる。

 

  「これでは、二律背反だな。」

 

ありえない。そう、本来ありえてはいけないのだ。しかし、奴は現に実行し無傷とは言えないものの現場を考慮すれば、極軽傷で生存している。それもまた二律背反へと拍車を掛けている。

 

  「奴の行動を理解する為の考察が、奴をさらに不可解なものにさせるとはな。考えれば考えるほど、底が見えない。なぁ四十川、お前は一体何者なんだ?」

 

私は、何度目かわからない言葉を口にし、そこで考えることを止めた。

 

Side out

 

 

翌日

 

  「さて、朝のSHRを始める。だが、皆に悲しい連絡がある。静かに聞いてほしい。」

 

  「今日欠席している、4名の事だ。彼女らは家庭の事情によりやむを得ずこの学園を去ることになった。」

 

担任の言葉に皆が騒ぎ始める。当然であろう、昨日は職員室に呼ばれ、今日は学園を退学したと告げられれば当然とも言える。

とった行動は人によって様々だが、大きくわけて、その生徒達を心配する者、原因を考察しようとする者、にわけることが出来た。しかし、何事にも例外というものはついてまわる様で、このクラスにおいてはそれに該当するする人物は3人居た。

言うまでもなく、青年と少女、そして彼である。

 

青年はこの連絡を聞き、昨晩聞いた内容であることを確認し、それ以降の興味を失った。

少女も似たようなもので、青年に余計な損害を被らないように配慮されている点を確認し、それ以降の興味を失った。

 

そして、彼である。彼もまた他とは違う考え方をしており、当たり前と言えば当たり前だが、それは青年とも、そして少女とも、違っていた。

 

青年は、彼の考えをSHR終了後に知ることとなる。

 

  「なぁ、渉。ちょっといいか?」

 

  「授業が始まるまででしたら大丈夫ですが…。先に言っておきます、今回の件について私からの干渉は一切していませんよ。」

 

  「いやでもさ、授業中にあそこまでされるって相当な恨みを買っていないと、起こらないぞ?」

 

彼の考えとは、至極単純である。関係者であろう青年に事件の聞こうとする。というものだった。

しかし、特に箝口令が敷かれていないとはいえ、安易に情報を漏らす気のない青年は何も言うつもりはなかった。

 

  「他の人にも言えないような事でも、唯一の友達である俺になら話せるだろ? さぁ、早く観念するんだ。」

 

  「観念するも何も、私からは何も関与していません。これが事実であり、それ以上もそれ以下もありません。」

 

  「でもよぉ~、いいじゃねぇか。」

 

中々折れない彼に対し、青年の中に一つの妙案が浮かぶ。

 

  「そこまで事件について知りたいのであれば、織斑先生に聞いてみるというのも一つの手だと思いますが?」

 

  「あーなるほど。お前頭良いな。ちょっと行って来る。」

 

  「お気をつけて。(主に頭に。)」

 

その後、担任にも事件について聞き出すことが出来なかった彼が、執拗に青年に付き纏ったことで、その手の趣味を持つ方々に対していい清涼剤となった模様。

 

 

 

その日の放課後、副担任にコーヒーの差し入れを持って会いに行ったところ、

 

  「ありがとうございます。」

 

という言葉と共に笑顔が返された。癒された。

 

 

 

 

数日後

 

 

青年は授業を終え、何事も無い平和な読書に勤しもうと部屋に戻ろう下矢先、

 

  「うぅ…ひっく…。」

 

ツインテ娘が嗚咽を出しながら青年の部屋の前で体育座りをしていた。

 

  「はぁ……、ちったあ休ませてくれよ。身体が持たねーよ。」

 

青年はそんな独り言を吐き、更なる騒動の予感を確信していた。

 




ども、最後まで読んで頂いてありがとうございます。

多分ですがこれが今年最後の投稿になるかもしれません。

もし、作者が死ぬ気で頑張れる時間と気力を見つけたら次話があるかもしれませんが、

まぁ、その辺は置いておいて、皆様良いお年を。


そういえば、

お気に入り数 700人 UA 55000 突破していました!

こんな拙い小説を読んでいただいてありがとうございます。


これからものんびりと更新していきますので、
気長にお待ちください!


コメント(理不尽な批判以外)、質問、代替案、どしどしお待ちしてます

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