前回のあとがきで、延長戦に入ると書いていましたが、
長くなりそうだったので、次回になりました。すいません。
なので、今回は少し短めです。
では本編です。
ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
試合終了を告げるブザーを聞きながら、待っていた仲間たちに向かって歩いていく、そして、
「あ、龍田これありがとうね… なんで私の腕を全力で握っているんでしょう?」
『うふふ~、提督を逃がさない為よ~。』
『そうだな、聞きたいことも増えたことだし、全部知ってること話してもらおうか。』
見るだけで、自然と足が後退りをしてしまいそうな顔を貼り付ける龍田と天龍。駆逐達は少し離れた位置で震えていた。主に雷と暁だが。
「そうだね、そういう約束だったしね。ただ、実はこの場所に居られるのは後5分しかないんだ。だから、質問は1つだけな。」
『そんな詭弁が通じるとでも~?』
『そうだぜ、提督。』
「そうは言っても、この場所は君たちが居た場所とは全く違う場所なんだ。だから、戦闘前に渡したゴーグルに基本的な情報は全部突っ込んで置いた。明石と夕張辺りに渡せば解析できるんじゃあないかな。そこに君たちが知りたい情報の大多数が入っているはずだ。だから、そこに入ってないかもしれない情報のみを口答しようとしただけだよ。で、どうする?」
それを聞いた二人は、少し迷う。それならば間接的ではあるが必要な情報は手に入るからだ。
『わかったわ~、私はそれでいいわ。天龍ちゃんはどう?』
『龍田がいいならいいけどよ。(ブツブツ)』
そういって、不服ながらも了承するのだった。そして、2人が考えた末の質問というのは
『どうして、提督は私たちの鎮守府を去ってしまったの?』
「………。」
青年は返答に非常に困ってしまった。メタ発言をしたところでとても一言で説明できる事柄ではないからだ。
「そのときの説明は、去る前に説明したはずだけど?」
『そうじゃないんだ。俺らは次の提督の不祥事が憲兵にばれて更迭したときにあんたの再着任を希望したんだ。みんなの総意として、誰一人として反対する奴は居なかったよ。山城も日向もあの大井ですら賛成したんだ。でも、そのときの返答は【そんな人物は存在しない】というものだったんだ。』
『皆不思議がって、大本営に何回も何回も行って確認してきたわ。それでもただの1つも提督の情報をもつ者は居なかったわ。それどころか、私たちの鎮守府は本来廃棄されたところというのも発覚したわ。これについての説明を求めるわ。』
青年は、それを聞き準備を始めた。
『エリアコード【ワープキッチン】』
そうすると、青年の手のひらから靄のようなものが広がり、青年と龍田そして天龍を包み込んだ。
「その話をするには、ちょっと時間が足らないんでこの靄の中でのみはなすよ。此処は特殊領域の中でね、時の流れがちょっと違うんだ。まぁ、そんなことはどうでもいいな。いいよ、真相をお話しよう。但しオフレコで頼むよ。」
『そんなに聞かれたくないのかよ。』
「ああ。ただ、これは君たちに対することではないんだ。私はこの場所で居場所が無くてね、自分で防衛しないとやっていけないんだ。勘弁してくれ。」
そう言った青年は、地べたに腰を下ろした。それにつられたのか2人も腰を下ろした。
「さて、何処から話そうか。まず大前提なんだけど、私は正規の海軍ではないんだ。というよりも軍人ですらない、ただの一般人だ。」
『はぁ!?』
「なぜ、私が廃れた鎮守府を動かしていたかというとだね、廃れる前の鎮守府から手紙が届いたんだよ。ほら、良くあるだろ。瓶に手紙を入れて海に流す奴。あれには前任の提督からのSOSが書かれていたんだ。」
『まさか、そんな手紙を信じて海を渡ったの?』
「そんなわけ無いじゃん。私自身も良く出来た手紙だな位にしか考えていなかった。ただ、中に入っていたとあるものが見つかるまではね。」
『見つける?』
青年の言葉に疑問を持ったのか首を傾げ始める天龍。
「ああ、その瓶は後で調べてわかったことなんだけど、ギミックがあってとある適正がある人物が手に取ると、妖精さんが出て来るんだ。」
『でも、それっておかしくないか?』
『そうね、だって妖精さんは艦娘にしか見えないはずよ。提督は男性のはず、何故見えたの?』
話そのものを疑うように疑問をぶつけてくる、2人。しかし、青年は焦ることなく対応していく。
「これはねまた後で調べて知ったこと何だけど、私は乖離性同一性障害っていう病気を持っていたんだよね、そのとき。」
『それって、どういう病気なの?』
「端的に言うと、二重人格だね。過程を端折ると、私(男)の中にあった別人格(女)が艦娘の適性を持っていて、母体である私も妖精さんを辛うじて認識できた。というわけだ。」
『『???』』
青年の言葉に首を傾げる2人、無理も無いことだった、話が唐突過ぎて付いていけないのだ。
「あんまり深く考えなさんな、私は男でありながら艦娘の適正も持っていたって事で話を進めよう。中に入っていた妖精さんと会話し、色々あってその鎮守府に向かい、奇跡的に復興することが出来た。というわけだ。」
『それで?』
「それでとは?」
青年はワザとらしく首を傾げる。しかし、龍田は逃がさないといわんばかりの笑顔で青年を問い詰める。
『確かに突拍子も無い話だけど、提督が私の電探を使えたから恐らく適正云々の話は信じるわ。でも、私たちが聞きたいのは何故去ったの? ということであって成り行きを聞きたいわけではないわ。』
「…龍田、本当に抜け目ないんだな。」
『提督に似たんですよ~。で、話していただけます?』
「まぁ、話自体は単純なんだ。一般人が軍の最重要機密を勝手に動かし続けていいわけないよねってことだ。君たちを運用していくに当たり、必ず他人と接触していく必要がある。資材や燃料を補充する為にもだ。しかし、自身の身がばれると不味かった私は、徹底的に民間企業や内陸の民営施設を何重にも経由することで誤魔化してきた。しかし、丁度個人での運営が限界に来たとき、とある人物が援助してくれた。それが、例の神尾大佐だ。」
『そのときに陸軍との接点が出来たのね。』
「正確には、陸軍の神尾さんとのだけどな。そのときに色々助けてもらって、彼らが出撃する際に、部隊を後方に展開しておいて助けられるようにして置いた。全員は助けられなかったけどね。」
『………。』
「そして、それが原因で海軍にこちらのことがバレてしまったと。その際に色々抵抗したんだけど、出来たことが、鎮守府をこのまま存続させることと、彼女らを艤装未装備時に限り人間として扱う。という2点だけだった。そして、それを向こうに飲ませる為に現海軍に対し速やかに鎮守府を明け渡し、一切の他言をしないこと。という条件を私は飲んだ。」
『それが、提督の去った理由?』
『そういうことだったのか。』
「大まかにはだけどね。さて、話は終わりだ。」
青年はそういうと立ち上がり、周りの靄を消した。
「また暫しの別れだ。そのiイルミネーターはそのまま持って帰って解析、複製をして置いて。」
『了解です、提督。』
『ああ、わかったぜ。』
「じゃあね。」
青年は整備室へ戻る為の入り口へ移動を開始し、此度の戦友は足元から黄金色の光を放ちながら消えていった。いや、帰ったといったほうが正しいか。盾も同じように消し、AIに問う。
「(リザルト表示)」
“リザルト展開”
シールドエネルギー残量 200/200
第一戦 勝利 勝因:失神 消費シールドエネルギー 0
第二戦 敗北 敗因:降参 消費シールドエネルギー 0
トータル戦績 1勝1敗
それを見た青年は何事も無かったかのように、
「(リグ、コード【A.C.T.I.S.】解除、及び通常モードに移行。)」
“認証しました。【A.C.T.I.S.】終了します。”
「shut down」
武装を解除していく。つい先ほどまで着けていたISですら解除した。外套も脱ぎ、青年は最初の準備室にたどり着いた。そこで、青年に待ち受けていたものは、
『動くな!』
ISを纏った教師たちの姿だった。安全装置はまだ付いているだろうが、銃口をこちらに向け非常に警戒している。自身のほうが遥かに安全な場所に居るにもかかわらずだ。数は3人、全員ラファールだが、搭乗者はその誰も見たことが無い人物だった。
「これは何ですか?」
自身の置かれている立場を理解している青年が質問をする。すると、その更に後ろから、担任がが現れ、青年に対し質問も投げかけてきた。
『すまないが、貴様のISをもう一度こちらで預かる。抵抗は無駄だ、大人しく寄越せ。』
「渡すのは良いですけど、以前渡したスペックシート以上の事は何もありませんよ?」
『戯言を、こちらで計測したデータとあまりにも違い過ぎるんだ。そして、束製ときた。ここまで頭痛の種が解りやすく置いてあるのに貴様は放置するのか?』
「しませんね。じゃあ、どうぞ。」
そういって、青年は自身のポケットに入ってあった懐中時計を担任に向けて投げた。それを、受け取った担任は一言呟いた。
『連行しろ。』
『『了解!』』
銃口を向けていた教師たちが青年に近づき、青年を連行し始めた。
『ちょっと! 織斑先生、何をしているんですか!』
予想外の行動に副担任が、声を上げる。
『彼は、適正なしなのにISを起動させたんですよ。調べる以外にないでしょう。』
『そうですけど、それでもやり方はもっとあるでしょう!』
『山田先生、あなたは非常に優しい。だが、優しくしていれば相手が応えてくれるとは限らないことを知っておいたほうが良いです。我々は教師です、問題のある生徒が居れば、調べ解決することは義務です。』
『だからって何故力で解決しようとするんですか!』
『私には力しかないからだ。どれほどの栄光を積み重ねようとやっていることはただの暴力と変わらん。それならば、私は自分の信じる力で行動する。それでは失礼します。』
「あのー、もうちょっと丁寧に引っ張ってくれません?」
『黙りなさい。』
「あらひどい。じゃあ、山田先生、また明日。」
青年がそういうと、教師陣は青年を連れて、退出した。その場には、副担任のみが残された。
それを見た副担任はせめて、青年がもっと学生らしい生活が出来るように、自分自身で行動を始めるのだった。
第一アリーナ整備室。
「で、今回は何をするんですか?」
珍しく拘束されず部屋の隅に立っている青年が担任に聞く。
『貴様はまず、詳細IS適正試験を早急に受けろ。その間にこちらの解析をしておく。』
「はい。」
青年は、周りに居た教師の指示と罵倒と共に検査を受けていく。担任は、懐中時計を解析にまわしそのデータを見ていく。その結果。
「まぁ、予想どおりでしたね。これで満足しました?」
『機械がそう判断をしているんだ、そう判断するしかあるまい。』
担任の手には、2枚の紙が握られており怒りか焦りかは不明だがその紙の端を握り潰していた。その紙には、
【四十川渉にはISの適正は見られない。】
【学校に提出しているデータとの差異は見られない。】
つまり、報告書だった。これが指し示すことは、今までしていた適正試験の方法が間違っていたということに成りかねない。近くにいた研究員たちも何ともいえない表情をしていた。だが、青年を含めて全員の思惑は一致していた。
「(『(こいつの詳細を世間に知らせるわけには行かない。)』ってところかな?)」
研究員と担任が何かを話している。青年にとって此処からどう転んでも良いことになるとは思っていないので、あまり興味が無かった。すると、研究員の1人がとあることを言い始めた。
『誰かが実際に乗って確かめてみればいいんじゃないですか?』
どうやら、スペックシート以上の事を知る為の話だったらしい。そこからはまたバタバタし始めた。どうやら、青年の機体に他の誰かが乗り、実働記録としてデータを取るつもりらしい。青年がそんな事を考えていると、担任がこちらに向かってきた。
「四十川、これから貴様の専用機の実働データを取る為に他人を乗せる。構わないか?」
「構うも何も、拒否権はないんでしょう? どうぞご自由に。ただ、提供するのは今回限りです。次回はありません。いいですね?」
『私相手に交渉するもりか?』
「私の所有物を勝手に弄ろうとしているんです。これくらいの脅しは必要では?」
『わかった。他の者にも伝えておく。』
担任は、また研究員たちと話し始めた。
数時間後
「ふぁ~~~。(ねむーーい。)」
もう夜遅く、青年にも眠気が来ているところだった。そんな中何を待っているのか、
『莉子さん真面目にやってください!』
『うるっさいわね! こっちは真面目にやってるわよ!』
「(国家代表って暇人なのかな?)」
学園に現日本国家代表を呼び、青年の専用機を動かそうと躍起になっていた。しかし、
『ああっ!もう! 何で、動かないのよ!』
かれこれ30分程度試行錯誤しているものの、ISにおける操作のプロが起動すら出来ていないのだ。
「(どうやって動かす気かな? 見ものですな。)」
青年は、悪戦苦闘している現日本代表をモニター越しに只無表情に見ていた。
『や、やっと、動いた…。』
「(小1時間か、頑張ったほうかな?)」
『よ、鎧?』
最終的には、起動することに成功したものの、光が収まるとそこには白い鎧を纏った現代表がいた。ISの世界において異端としか形容できないその姿。しかし、その鎧からエネルギー反応が出ていることから、研究員たちから常識といった概念が音を立てて崩れ去っていく。
『何なのよこれ。』
『うそ、でしょ?』
現代表は内部に、研究員たちは見た目とエネルギー値を見て顔面を蒼白にしていた。
『何でハイパーセンサーが無いのよ!』
『莉子さん! 今すぐ飛行行動を取ってください! 出来ますか?』
『? 分かったわ。』
研究員の言っている意味が分からなかったのか、いつもの感覚で足に力を入れた。しかし、
『っと!』
飛ぶことは無く、その場でこけそうになっていた。
『どういうこと?』
『莉子さん、落ち着いて聞いてください。その機体には、メイン、サブスラスター及び脚部PIC、ハイパーセンサーが内蔵されていません。』
『はぁ!?』
ISの根幹を成す装備が元々付いていないと言われたのだ。驚くなというのも無理も無い話しだった。
『それだけではありません。その機体のエネルギーシールド値は分かりますか?』
『ハイパーセンサーがないのに分かるわけないじゃない。』
通常は、相手の情報も自身状態もハイパーセンサーを用いて確認する。つまり、この機体には自身の状態はおろか、展開可能武器すら分からないのだ。
『200です。』
『へー、2000もあるのね。』
『莉子さん、ふざけないでください。その機体にはシールドエネルギー値が200しかないんです!』
『ふざけてるのはそっちでしょ! 何処の世界に平均シールドエネルギー値が1000前後の世界に200の機体があるのよ! ポンコツも良い所じゃない! 第2世代の機体ですら、500はあったのよ! 骨董品じゃない!』
『ふざけてこんな数値がいえますか! 試合用にカスタムされたISですら絶対防御が発動したら最低でも200以上削られるんです! それは搭乗者の命を蔑ろにしているとしか思えない、狂ったなんて言葉すら生温い機体なんです!』
研究員と現代表の舌戦が繰り広げられる中、
「(命を蔑ろにしている、か。ある意味私に相応しいかもね、この世界において私以上に命の価値が無い人間は存在しないし。)」
青年は青年で狂った思考をしていた。口論をしていた2人も時間の無駄だと気が付いたのか、正気を取り戻し始めていた。
『兎に角、今は出来ることをしましょう。片っ端から出来そうなことを実行していってください。』
『分かったわ。』
数時間後
「なーんで、こんなことになっているんですかね。もう深夜ですよ、一応学生ですよ。何時まで引っ張りまわすつもりですか?」
青年は、自身の機体と外套、眼鏡を装着した状態でアリーナに立っていた。今回は、両腕を外套から出していた。そして青年の目の前には、
『貴様の機体が摩訶不思議過ぎるんだ、諦めろ。』
打鉄を纏った担任と、
『代表候補生があなた如きに敗れるなんてね、レベル落ちているのかしら。』
専用機を纏った現日本代表と、
『…………。』
さっきから一言も話していないラファール・リヴァイヴを纏った人物がいた。
これから起きるであろう事がなんとなく予想できた青年は、溜息を付くのだった。
「(こいつはホント誰? 後で調べるか。)」
無言の人物は、全身を隠すように装甲が展開されており、中の人物が判別できないようになっていた。
そんな事を考えている青年と他3人に対しアナウンスが流れ始めた。
『それでは、変則式の模擬戦を行います。割り振りは四十川渉さん対残りです。つまり、1対3です。試合時間は10分です、その他基本的なことは国際ルールに則って行います。何か質問は?』
「すいません、1対3でどうやって勝てというんですか?」
『目的は、あなたの機体の限界値の計測と、有事の際の鎮圧可能勢力の確認です。あなたが今日の決定戦で手を抜いていたことは明白です。なので、一度限界を見させていただきます。なので、誰もあなたが勝利することは望んでいません。安心して負けてください。』
『そういうことらしい。すまないが、諦めてくれ。勿論それ相応に手は抜く。』
アナウンスの返答と、申し訳なさそうな担任の声を聞いて、青年は諦めた。
『もうないですね、それでは、試合開始!』
ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
試合開始を知らせる、ブザーが鳴り響き、青年以外が動き出した。
「(さーて、どうしましょ。)」
ども、最後まで読んでいただいてありがとうございます。
やっと、主人公の機体の詳細が出せえるようになって来ました。
と思っていたら、名前を出してなかった。
次回出します。すいません。
補足
白い鎧…基本的にどのようにイメージしていただいて結構です。
作者的にはどこぞの大天使が書記官に与えた一番良い装備をイメージしています。
コメント(理不尽な批判以外)、質問、代替案、どしどしお待ちしてます