この素晴らしい世界に爆焔を! カズマのターン   作:ふじっぺ

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魔剣使いの勇者候補 2

 

 ミツルギ達と飲んでから数日後の朝、俺はいつもより早めに学校へと向かっていた。誰もいない教室で、一人の少女と秘密のお話をする為だ。

 ……これだけ言うと何か淡い青春の一ページのように聞こえるが、実際は爆裂魔法に関してめぐみんと少し話すだけだ。色気もクソもあったもんじゃない。

 

 教室に着くと、めぐみんは既にそこにいて、窓際の自分の席に座って待っていた。

 

「おはようございます、先生」

「おう、おはよ」

 

 窓から差し込む優しい朝日に照らされたその顔には、小さな微笑みが浮かんでいる。これでめぐみんがもう少し年が上だったら、俺も意識したのだろうか。……うーん、どうだかなぁ。こいつもこいつで、色恋より食い気や爆裂って感じだしなぁ。

 

 俺はめぐみんの隣、ゆんゆんの席に座って冒険者カードを取り出す。俺のものではない、めぐみんから預かっている彼女のカードだ。

 

「上級魔法なら、もうそろそろ覚えられそうだな。たぶん学校始まって以来の超スピードだぞこれ。お前本当成績だけは優秀だからな」

「成績だけとは何ですか。私は紅魔族随一の天才ですよ? 他にも大体全ての事に関して優秀ですよ」

「少なくとも発育は優秀じゃないだろ」

「ぐっ……!! ……ふ、ふん。そっちの成長はこれからなのです。知っていますか? 大魔法使いには巨乳が多いのです。つまりは、私もいずれは巨乳になるのです」

「何だその胡散臭い話は…………いや、でも言われてみれば…………」

 

 そういえば、俺の知り合いでも女性で力のある魔法使いは巨乳ばかりな気がする。ウィズとかバインバインだしな。

 そうやって考え込む俺を見て、めぐみんは不敵に笑う。

 

「ふっ、分かりましたか? 私を貧乳貧乳とバカに出来るのも今の内なのです。勝利は約束されているようなものです」

「でもお前が将来なるのは、優秀な大魔法使いじゃなくて、ネタ魔法を極めたネタ魔法使いじゃねえか。もしかして、貧乳で魔法の才能がある奴は、皆お前みたいに変な道へ行っちまうのか? だから、大魔法使いは巨乳ばかりになるとか」

「な、なにおう!? 変な道ではないですから! 立派な大魔法使いへの道ですから!! というか、私の前で爆裂魔法をネタ魔法扱いするのはやめてもらおうか!!!」

「ネタだろネタ。しかも一発しか使えないから一発ネタだ。大魔法使いというより、一発ネタに人生かけた大道芸人って言われた方が、まだしっくりくるわ」

「一発ネタ!? 大道芸人!? ……分かりました、売られたケンカは必ず買うのが紅魔族です!!」

 

 激昂しためぐみんが掴みかかってきた……が。

 

「『ドレインタッチ』」

「ああああああああああああああああっ!! ぐっ……そ、そのスキルは卑怯です!! あなたは年下の女の子相手に、真正面からケンカすることも出来ないのですか!!!」

「はっ、それは挑発のつもりか? 残念だったな、俺は相手が女だろうが年下だろうが、常に自分が一番安全かつ確実に勝てる手段を躊躇なく選べる男だ」

「なに良い顔して言ってるんですか!? 最悪ですよ!!」

 

 そう言いながらも、めぐみんは悔しそうにしながら俺を掴んでいた手を離す。

 それでいい、勝てない相手には無理をしない。人生を賢く生きる為に必要なことだ。

 

 しかし、めぐみんはまだこちらを恨めしげに見たまま。

 

「私が爆裂魔法を習得したら、覚えといてくださいよ……」

「な、なんだってー、大変だー、じゃあ今すぐこのスキルポイントを……」

「わあああああああああああああああ!!! ウソですウソです!!! ほんの冗談ですから!!!!!」

 

 冒険者カードを人質に取られては、喧嘩っ早いめぐみんもこの有様だ。おそらく今、どうして俺にカードを預けてしまったのか、猛烈に後悔していることだろう。

 

 俺は何となくめぐみんのカードを眺める。

 そこに記されているステータスだけを見れば、輝かしい未来が目に浮かんでくるようだ。

 

 しかし。

 

「……一応聞くけどさ、今でも上級魔法を覚えるつもりはないんだよな? 優秀な大魔法使いになるつもりはないんだよな?」

「上級魔法を覚えるつもりはありませんが、大魔法使いになるつもりはありますよ。私は何かを妥協するのは嫌です。大好きな爆裂魔法だけで大魔法使いになり、巨乳にもなります」

 

 めぐみんは何の迷いもなく言い切る。

 言っている内容はとんでもなくバカなことではあるのだが、ここまで堂々としているといっそ清々しくもあり、思わず感心してしまう。漢らしいなコイツ……。

 

「…………はぁ。ったく、無駄に大物っぽいこと言いやがって。まぁいい、今更分かりきったことを聞いて悪かったよ。好きにすればいい。そういう真っ直ぐな生き方、俺は嫌いじゃないよ」

「ふふ、私も先生のそういう話の分かるところ、嫌いじゃないですよ。でも少し意外ですね、先生は真っ直ぐな生き方は嫌う人だと思っていましたが」

「何言ってんだ、俺だって真っ直ぐ生きてんだろ。欲望とかに」

「……そうでした。何でしょう、この一気にガックリくる感じは」

「考えてみれば、人生に妥協したくないって所も、案外似てるのかもな俺達。俺も金、女、権力全部手に入れるつもりだし」

「あ、あの、それで似てるとか言われても、私としては反応に困るのですが……」

 

 微妙な顔でそんなことを言ってくるめぐみん。

 何だろう、今ちょっとお互いを認め合えた的な良い感じになってたのに、気付けばいつも通りの空気に戻っている気がする。

 

「何だよ、めぐみんだって大魔法使いになって金や権力を手に入れて、巨乳になってイケメンを引っ掛けようと思ってんだろ?」

「違いますよ!!! 私が欲しいのは最強の魔法使いという称号です! 確かに今は貧乏ですのでお金も欲しいですが、それも最低限暮らしていけるだけで十分だと思っています。権力だって興味ありません。巨乳になりたいのだって、別に男を引っ掛けたいとかそういう事ではなく、ただ単に見栄えの問題です」

「おい待て、他はともかく一つ聞き捨てならないことを言いやがったな…………巨乳が単に見栄えの問題、だと? お前何言ってんの? 巨乳は男に揉まれる為にあるんだよ?」

「あなたが何を言っているのですか」

 

 ドン引きの表情でこんなことを言ってくるめぐみん。あれ、俺何かおかしな事言ったか……?

 めぐみんは深々と溜息をついて。

 

「……まったく。あの先生、女性として一つアドバイスしますが、先生はそのゲスい言動さえ抑えれば、それなりにモテると思うのです。お金持ちですし、顔だってそんなに悪くありません。何だかんだ結構優しい所もありますし」

「え、なに、急にどうした。告白でもすんの? ごめん、正直なところ、お前のこと生意気で頭おかしいクソガキくらいにしか思ってないから無理だ。でもお前ならきっと他に良い男が」

「だから勝手に私が振られたような流れを作るのはやめてもらおうか! そこですよ! そういう所ですよ!! 何故あなたは、ちょっと油断するとすぐにぽんぽんぽんぽんゲスい言動が飛び出すのですか!! 何ですか、照れ隠しなんですか!?」

「えっ?」

「あ、はい、照れ隠しでも何でもないんですね。素なんですね。その顔でよく分かりました」

 

 何だろう、めぐみんが色々と諦めたような表情をしている。そんな俺が手遅れみたいな感じを出されても反応に困るんだが……。

 

 俺はどう言ったもんかと、頭をかいて。

 

「しかし、ゲスい言動を抑えろって言われてもなぁ。自分の本質を抑え続ける人生に意味はあるか?」

「ついに自分の本質とか言っちゃいましたよこの男……」

「だってさー……めぐみんに例えるなら、一生爆裂魔法なしで生きていけとか言われてるようなもんだぞ」

「うぐっ……そ、それは……辛いですね…………」

「だろ? だから俺は、今のゲスい自分を捨てずに、金と女と権力を手に入れ人生の勝者になってみせる! はは、結局俺も、爆裂魔法を捨てずに巨乳の大魔法使いになろうとしてるお前と変わらないんだな」

「……ええっ!? あ、あれ!? 先生は私と変わらないのですか!? 何かおかしくないですか!?」

「おかしくないよ」

 

 そう、何もおかしなことはない。人には決して譲れないものがあるというだけの話だ。

 俺は、何か釈然としない様子のめぐみんに。

 

「大体、俺の言動に文句つけるのはいいが、俺だってお前のその爆裂狂っぷりに、文句の一つでも言いたいところだね。いや言ってるけど」

「うっ……そ、その、私も先生に色々と迷惑かけてしまっているのは分かっていますし、フォローしてくれる先生には感謝もしています……でも」

「分かってるよ、お前の爆裂魔法への愛は、よーくな。だから、お前と違ってオトナで良い先生な俺は、文句言いつつもちゃんとお前の引き取り先は探してやってんだぜ。もう騎士団の方には話しておいたし」

「……えっ? ほ、本当ですか……?」

「あぁ。爆裂魔法しか使えないネタ魔法使いでも、騎士団なら結構欲しがってるみたいだったぞ。冒険者パーティーと違って、集団戦が多いから向こうもお前をフォローしやすいだろうし、何より敵の大群に魔法をブチ込めるチャンスも多い。どうだ、お前にとってもいいんじゃないか?」

「…………」

「え、な、なんだよ、何か気に入らないのか?」

 

 めぐみんはポカンと口を半開きにしてこちらを見ている。

 もしかして、冒険者じゃないと嫌だとか言うつもりか。別にそっちで探してやってもいいんだが、やっぱり安全って事を考えると騎士団の方だと思うんだけどなぁ。

 

 しかし、そういう事ではなかったらしく、めぐみんはもじもじと両手の指を絡ませながら、チラチラと上目遣いでこちらを見て。

 

「……あの、えっと、ありがとうございます。先生、ちゃんと私のことを考えてくれていたのですね」

「ん、まぁ、先生ってのはそんなもんだろ。それに面倒見てやるって言ったろ」

「それは、そうですが……その、急にそうやって優しくされると、反応に困ると言いますか……」

「なに、イジメてほしいの? ドMなの?」

「違いますよ!! ……はぁ、まったく、また先生はすぐそうやって……」

「うわぁ、そう言いながらも何でちょっと嬉しそうなのこの子。どうしよう、俺、12歳の女の子相手に、何か変な扉を開けちゃったのかも……」

「だから違うと言っているでしょう!! あー……こほん! 先生」

 

 めぐみんは気を取り直して、真っ直ぐ俺を見つめる。

 朝日で光る紅い瞳には俺だけが映っていて、まるで吸い込まれるように俺の視線もそこに釘付けにされる。

 

 そして、めぐみんは朗らかな笑顔を浮かべて。

 

「改めまして、本当にありがとうございます。こんなに生徒のことを想ってくれる先生と出会えて、私は幸せ者です」

「……な、何だよ急に。大袈裟だっつの。ちょうど王城に行く機会があったから、その時に聞いてみたってだけだ」

「でも、ちゃんと私のこと忘れずに聞いてくれたのでしょう? それだけで、私はとても嬉しいですよ。ふふ、何ですか、照れているのですか?」

「照れてねえし! こんな真正面からお礼言われることが少なくて、ちょっと調子狂うってだけで、別に照れてるわけじゃねえし!!」

 

 俺の言葉に、めぐみんはくすくすと笑う。

 ぐっ……この俺が、12歳の女の子相手に手玉に取られてる感じがする!

 

 俺は仕返しとばかりに。

 

「ったく、お前もちょろすぎて、ふにふら達の事言えねえな! ちょっと優しくしたらこれだ! 将来、変な奴に騙されたりすんなよ!」

「ご心配なく。以前にも言ったでしょう。紅魔族随一の天才の知力を舐めないでください、人を見る目はありますよ。つい先日も、ウチを狙った詐欺師の正体を見破り、撃退したところですし」

「えっ、貧乏なお前のところに詐欺師? なんでそんな所狙ったんだそいつも。まぁ確かに、多少生活に苦しんでいる人の方が、心に余裕が無いから騙しやすいってのは聞いたことあるけど……」

「び、貧乏って、ハッキリ言いますね……その通りなのですが。ただ、先日の詐欺師に関しては、やり方がお粗末過ぎましたね。なにせ、『ひょいざぶろーさんの素晴らしい魔道具の数々に深く感銘を受けました! つきましては、今後ぜひ良いお付き合いをさせて頂きたく……』などと正気を疑うようなことを言ってきましたから。こんなの、こめっこでも怪しいと思いますよ」

「…………」

 

 何だろう、その詐欺師とやらに凄く心当たりがある。

 俺は嫌な予感をひしひしと感じながら、嫌々ながら聞いてみることにした。

 

「……その詐欺師、名前は何て言ってた?」

「ウィズ、とか言ってましたかね。どうせ偽名でしょうが」

「…………それで、お前はそのウィズを追い返したってことか?」

「はい。そんな手口には引っかからないとキッパリ言っても、しつこく食い下がってきましたので、『これ以上うだうだ言うつもりなら、この国随一の変態にして鬼畜、カズマ先生を呼んですんごい事をしてもらいます!』と脅したら泣いて逃げ出しました」

「おい」

 

 こいつは何勝手に俺の悪評を広げてくれちゃってるのだろう。しかも紅魔族随一から、国随一にランクアップしてんじゃねえか。いやこの場合はランクダウンか。

 それにウィズもウィズだ、俺のことは知っているんだから、そこまで怯えなくても……知っているからこそ、泣いて逃げたのかもしれない。流石に俺も凹むぞ……。

 

 しかし、まぁ、ウィズにとっては残念な結果かもしれないが、実際はこれで良かったのだろう。ウィズの商売センスは前からアレだったが、ひょいざぶろーと手を組んだりしたら赤字が加速して俺でもフォローしきれなくなる可能性がある。

 

 ウィズの話が出たところで、俺はふとある事を思い出し。

 

「そういやめぐみん、お前ってさ、誰から爆裂魔法なんてもんを教わったんだ? あんな魔法、覚えてる奴なんてそうそういないと思うが」

「うーん、名前は聞いていませんし、フードを目深に被っていましたので顔も良く分からなかったんですよね。かなり昔のことですので、記憶も曖昧ですし。ただ、ローブの上からでも分かる見事な巨乳のお姉さんだったという事は覚えています」

「巨乳のお姉さん……そこはウィズの特徴とも一致するんだけど、本人は違うって言ってたしな……」

「私の命の恩人にして爆裂魔法の師匠は、あんな詐欺師ではありませんよ失礼な。というか、先生はあのウィズとかいう詐欺師と知り合いなのですか?」

「あぁ、ウィズは商人仲間だよ、詐欺師なんかじゃ…………あれ、おい、今その師匠の事、命の恩人とか言ったか?」

「はい。確か私がこめっこと同じくらいの年の頃でしょうか。貧乏なウチにはオモチャの類が無く、仕方ないので邪神のお墓にあったパズルで遊んでいたのです。そしたら突然、大きな漆黒の獣が現れて、そいつに襲われていた所をそのお姉さんが爆裂魔法で助けてくれたのです」

「…………えっ」

 

 聞き覚えがある。今から七年前、あの邪神の封印が解けかけて、流れの魔法使いが再び邪神を封印したとかいう……しかも、あの邪神の封印は、本来なら賢者級の大人でも手こずるようなパズル形式で……。

 

 俺の引きつった表情を見て、めぐみんは俺が何を言いたいのかは大体分かったらしい。

 ニコッとイタズラっ子のような笑顔を浮かべ、人差し指を立てて口元に当て。

 

「皆には、ナイショですよ?」

「何ちょっと可愛く言ってんの!? そんな秘密知りたくもなかったよ!!」

 

 よし、聞かなかったことにしよう。俺は何も関係ない。

 

 それにしても、結局めぐみんに爆裂魔法を教えたという諸悪の根源とも言える迷惑な人に関しては、大した事は分からなかった。その流れの魔法使いに関しては、謎に包まれたまま里を出て行ってしまったようだし。

 ただ、邪神を一人で再封印できるような魔法使いだ。それに爆裂魔法を撃った後でも動けているくらいなのだから、とんでもない大魔法使いだというのは分かる。でもそこまでの者なら、もっと名前が売れてるもんだけどなぁ。

 

 それからしばらくめぐみんとバカな話をしていると、次第に他の生徒達も登校して来る。

 クラス一の優等生であるゆんゆんも、いつものように余裕を持って教室に入ってきて、自分の席に座っている俺を見て。

 

「あれ、どうしたの兄さん、私の席で。今日は随分と早く家を出て行ったけど、何か授業の準備とかがあったんじゃないの?」

「あー、それは」

「先生は、私と秘密の話をする為に、わざわざ朝早く来てくれたのですよ」

「えっ、秘密の話……? それって私にも内緒なの?」

「えぇ、ゆんゆんにも言えません。というか、こんな事、親にだって言えませんよ……言ってしまえば、先生にも責任を取ってもらうという事になってしまうかもしれません……」

「おいちょっと待て! 言い方がおかしい!! 色々ぼかして言おうとすると、そうなっちまうのかもしれないけど!!」

「兄さん、どういうこと?」

 

 ゆんゆんが例の無表情になる。こわい……こわいって。くっ、これはダメだ、めぐみんには悪いが、ここは俺の命を優先させてもらおう。

 俺は暗い瞳でこちらを見続けるゆんゆんに震えながらも、何とか向き合って。

 

「ゆ、ゆんゆん、聞いてくれ。秘密の話と言っても、何もやましい事なんかない。ただ、このバカが爆れもごっ!!」

「何言おうとしてんですか! ダメですよ!! あ、いえ、ゆんゆんにはいずれ話すつもりですが、まだ早いです。私はまだ学生の身です、バレれば猛反対され阻止されてしまう事でしょう。とにかく、卒業してしまえばこちらのもの……ですので、ゆんゆんには卒業後、もしくは卒業直前に言おうと思っているのです」

「…………ねぇ、めぐみん。それって兄さんも関わっているのよね?」

「えぇ、もちろん。あれは学校が始まって二日目のこと、私と先生が保健室で二人きりになり、ある秘密を共有して以来、先生は私の将来の為に欠かせない人になったのです」

「わざとだよな!? わざとそんな言い方してんだよな!? ち、違うんだゆんゆん! お前は誤解してる! すごく誤解してる!! あのな、よく聞け。めぐみんは爆」

「ああああああああああっ!!! だから言わないでくださいって! 何ですか、さっきはあれだけ優しくしてくれて、私も感動したのに!! 私だって本気で怒りますよ!! あの日、私の部屋の布団の中で、私の大切なものを手に入れたからって調子に乗らないでください!!! いつまでも言いなりになるような女ではないのですよ私は!!!」

「おいやめろ!!! マジでやめろ!!!!! なにお前、俺を破滅させたいの!? 分かった、俺が悪かったから!! あの事は言わないから早く誤解を解いてくれ!!! ゆんゆんが本当に洒落にならない顔になってるから!!!!!」

 

 それから必死になって何とかゆんゆんの誤解を解いた時には、もう始業時間も近付きクラス全員が教室に集まっていて、そこら中で仲良しグループ達がかしましくお喋りしていた。

 ……今日は朝からどっと疲れた。もう帰りたい。校長を説得して、ぷっちんに全部任せて、本当に帰っちまおうか。

 

 そんな時だった。

 ドアが開かれ、華やかな教室に異物が混ざり込んだ。まぁ、元から俺という異物は混ざってるんだけども。

 

 

「あれ、オズマじゃないか! ここで会うなんて奇遇だね」

「げっ」

 

 

 イケメン勇者様ミツルギが、爽やかスマイルを浮かべて教室に入ってきた。あまりに急な遭遇に、思わず口から嫌な声が漏れる。

 なにコイツ、学校の前で待ち伏せするだけじゃ飽きたらず、ついに教室にまで乗り込んできやがった! こわいんだけど!!

 

 教室にいた生徒達もミツルギの登場には驚いたのか、先程までのお喋りをやめて、視線をそちらに集中させる。中にはキャーキャーと黄色い声で騒ぎ始めた子達もいる。

 

 ミツルギは俺のドン引きした様子には気付いていないのか、相変わらずの笑顔を浮かべたまま。

 

「実は僕が探しているカズマという男が、ここで教師をやっているみたいでね。族長さんの口添えで校長先生に話をつけてもらって、学校見学をさせてもらえる事になったんだ。ところで、オズマはどうしてここに?」

「うっ、あー、その……そうそう、俺もよく知らないんだけど、何でも今年度からこのクラスを受け持った先生が不真面目でクラスに居ないことも多いらしくて、今日もそいつの代わりに臨時で俺が先生にって頼まれたんだ! 里の外の事について色々と教えてもらえないかって!」

「えっ、そうなのかい? 確かにカズマという男は教師ではあるが、問題行動ばかり起こしていると聞いたな…………じゃあ、今日はここに居ても会えないのか……」

 

 よし! 咄嗟に思い付いて言った事だが、上手くいきそうだ!

 ミツルギは難しい顔をして。

 

「……まったく、それにしてもカズマという男は、噂通りのダメ人間のようだな……やはり、僕が一度懲らしめる必要があるのかもしれない……」

「…………えっ、ちょ、ちょっと待て。今何て言った?」

「ん? あぁ、カズマという男はやはり懲らしめるべきなのかな、ってね。そもそも、そんな男を教師として雇うというのもどうかと思うんだけど……」

 

 あれ、おかしい。何言ってんだコイツ。俺を仲間に入れるつもりだったんじゃないのか?

 ミツルギの顔を見ると、そこには嫌悪感が浮かんでいる。どう見ても仲間に迎えようとしている者について話すような顔じゃない。

 

 すると、そんな成り行きを見ていたゆんゆんが、おろおろと。

 

「あ、あの、ミツルギさんは兄さんを仲間にしようと、ここまで来たんじゃないんですか……?」

「えっ、あー、君は族長さんの娘さんだったね。いや、違うよ。確かにここにはカズマという男を探す他に、優秀な魔法使いを仲間に勧誘したいという目的もあったけど、あくまで別件さ。王都でカズマという男の悪評をあまりにも聞くものだから、一度懲らしめてやろうと思ったんだ…………どうしたんだい、オズマ?」

「い、いや、なんでも……」

 

 気まずくなって俯いた俺を、ミツルギはきょとんと見てくる。

 

 なにこれ恥ずかしい。勝手に仲間の勧誘だと思い込んでたのに、実際はその真逆だとか。めぐみんなんか、ニヤニヤとこっち見てるし。

 お、俺だって悪評ばかりってわけじゃねえんだけどな……ミツルギはまだ王都に来てから日が浅いから目立つ悪評ばかり聞くだけで、もう少しあの街に居れば俺の良い話の一つや二つくらい聞くはず……だと思う…………。

 

 ゆんゆんは、そんな俺に呆れた顔を向けたあと、ミツルギに尋ねる。

 

「そんなに評判悪いんですか、兄さん」

「あぁ、至る所でセクハラや、人の足元を見た悪どい商売をやらかしているみたいだ。中でも僕が一番許せないのは、王女アイリス様にまでとんでもない無礼を働いていることさ。これはアイリス様の護衛であるクレア様から聞いたことだから、信憑性もあるしね」

「……具体的に、兄さんは王女様にどんなことをしているんですか?」

「それが、カズマという男は言葉巧みにアイリス様に取り入り、アイリス様に冒険譚を聞かせるという名目の下、卑猥なことや犯罪まがいな事まで教え込み、更には妹プレイと称してアイリス様に妙な事をさせたり言わせたりしているとか」

「なるほど、そんな人は今すぐぶった斬られちゃった方がいいですね。兄さんならそこに」

「わああああああああああ!!! ま、待てゆんゆん!!!」

 

 軽く俺の正体をバラそうとしたゆんゆんを慌てて止める。

 ゆんゆんはむすっと俺を睨んでいたが、後で説明するからとこっそり告げると、渋々ながらも納得してくれたようだ。

 

 つーか、あの白スーツ、この前の謁見の時にミツルギのこと聞いたら妙な態度取ってたのはこういう事か! 今度会ったら覚えとけよ……。

 

 ミツルギはそんな俺達の様子に首を傾げながら。

 

「えーと、それじゃあ僕は少し校長先生と話して来るよ。これだけ評判の悪い男が教師をやっているというだけで嫌な予感がしていたけど、やはり生徒の事を何も考えられていないようだね。そんな男に将来有望な紅魔族の子供達を任せてなんておけない。君達もその男には随分と嫌な思いをさせられてきたんだろう? そういう時は我慢せずに、親御さんや他の先生方に相談した方がいい。そうすれば、そんな男、すぐに追い出せるはずだから」

 

 ぐっ……い、言いたい放題だな……。

 と言っても、俺がろくでもない教師というのは事実なので、返す言葉もないという所が悲しいところだ。そうだよな……普通だったらとっくに追い出されてるよな俺……。

 

 ただ、意外なのは生徒達の反応だ。

 彼女達はミツルギの言葉に同調するどころか、明らかに不機嫌そうな目でミツルギを睨んでいる。ふにふらやどどんこなんかは今にも噛み付きそうな感じだし、先程俺を売ろうとしたゆんゆんですら、何か言いたそうな不満気な表情をしている。

 

 俺はそんな生徒達に心が暖かくなりつつも、下手な真似はしないようにと、目と小さな動作で合図する。

 実際のところ、俺が褒められた人間じゃないというのは確かだ。だからこそ、そんな人間の側について勇者候補相手に喧嘩を売ろうものなら、生徒達にまで余計な面倒事が降りかかりそうだ。

 

 別に、俺は悪く言われることは慣れている。と言うか、今の状況みたいに、そもそも俺が悪いということばかりだ。そりゃ俺だってたまーに良い事する時もあるが、大抵はろくでもない事しかしていないので、こういう時は素直に受け止めるべきだと思う。

 

 ミツルギは生徒達の鋭い視線には気付いていないらしく、そのまま教室を出て行こうとする。

 それを見て緊張が緩み、ほっと息をついた時だった。

 

 

「待ってください。今の言葉は聞き捨てなりませんね」

 

 

 静かで、しかし確かに力のある、威圧するような声が教室に響いた。

 その声は決して大きなものではなかったが、教室中の者の耳に直接叩き込まれるかのように、よく聞こえた。

 

 そうだった。このクラスには一人、どうしようもなく優秀で好戦的で、周りなどお構いなしにひたすら我が道を突き進む問題児がいるのだった。

 

 ミツルギはその声に振り返り……固まった。

 声を発したそいつの……めぐみんの紅い瞳はギラギラと、危うい光を放っている。例え紅魔族の特性をよく知らなかったとしても、それを見れば何となく彼女の精神状態は分かるだろう。現に、ミツルギは顔をこわばらせ、ごくりと生唾を飲んでいる。

 

「えっと……ごめん、何か気に障ることを言ってしまったかな……」

「えぇ、言いましたね。当たり前でしょう。私にとって大切な恩師の悪口を言われたのですから」

 

 めぐみんの言葉に、ミツルギは目を丸くして。

 

「恩師って……もしかしてカズマって男のことかい? でも、その男は」

「そうですよ、ろくでもない人ですよ。人としてどうかと思うような言動も日常茶飯事です。でも、決して生徒の事をないがしろにはしません。あの先生は、口では色々文句を言いつつも、何だかんだ私達の面倒を見てくれる人なんです。あなたに先生の何が分かるのですか。評判だけで先生を知った気にならないでください」

 

 めぐみんは声を荒らげることもなく、ただ淡々と、それでいてただならぬ空気をまとって言い切った。

 そんなめぐみんに押されるように、ミツルギは言葉に詰まっている。

 

 すると、そこに畳み掛けるように。

 

「あ、あの……兄さんは本当に少しですが、良い所もあるんです……えっと、もちろんそれで全てが許されるわけではないですけど、そこを全く無視するのもどうかなって……」

「ていうか、あんたに先生の何が分かんのよこのイケメン! 先生はあたしとどどんこの事を、グリフォンから助けてくれたんだから!! 勝手な事言わないでよイケメン!!」

「そうよイケメン! あんたイケメンだからって調子乗ってんじゃないの!?」

「先生というのは仮の姿、その俗物的な行いの全ても、所詮は偽りの姿でしかないのだろう。あの人からは、強い神々の力を感じる……そう、忘却の彼方に置いてきた真の力を手に入れし時、全ては崩壊し、そして新たな……魔王討伐への道が切り開かれる……」

 

 次々と俺をフォローしてくれる生徒達の言葉に……いや、ゆんゆんはともかく、ふにふらとどどんこのイケメン連呼は果たして悪口になっているのか微妙だし、あるえに至っては何を言っているのかよく分からないが……それでも不覚にもじーんときてしまう。

 正直、気を抜くとうっかり泣いてしまいそうなくらい感動していたりもするのだが、ここで泣いたりすれば一生めぐみんにからかわれる事間違いなしなので何とか耐える。

 

 そんな生徒達を、ミツルギはしばらく難しい顔でじっと見ていたが、やがて深々と頭を下げた。

 

「……君達の言う通りだ、すまない。確かに僕は、まだ会ったこともない人について、好き勝手に言ってしまった。僕よりも君達の方が、カズマという人をずっと良く知っているというのは当然だ。そして、そんな君達がここまで言うのだから、きっとその人は噂通りの人ではないのだろう」

 

 素直に謝ったミツルギに対して、めぐみんはまだ厳しい表情を浮かべて。

 

「謝る相手が違うでしょう。それに、私達の言葉だけで先生の事を知ろうというのも、また違うと思いますよ。あなたはきちんと先生と向き合うべきです。それはもちろん、逃げてばかりの先生にも同じことが言えます」

「……分かった。カズマという人がどんな人間なのかは、この目で確かめる。それじゃあ、今日も僕はその人を探すことにするよ。もしここに来たら、ミツルギという男が探していると伝えてくれるかな?」

「何を言っているのです? カズマ先生ならもうこの教室に来ていますが」

「えっ?」

 

 ……おい、まさか。

 俺は嫌な予感がして、慌ててめぐみんを止めようとするが、めぐみんはそれを制止するように俺に向かって掌を突き出した。

 

 めぐみんは不敵な笑みを浮かべると、大袈裟にローブをばさっとはためかせ。

 

「一見すればただの冒険者。その正体は、この国随一の変態鬼畜男。セクハラをした相手は数知れず。悪どい商売で泣かせた客も数知れず。相手が妹でも王女様でも人外でもお構いなしの、無限の欲望を持つ男…………」

 

 そこでめぐみんはわざとらしく溜めを作り、そして。

 

 

「カズマ先生とは、この人の事です!!!!!」

 

 

 ビシっと俺を示し、堂々と言ってのけた。……言ってくれやがった。

 

 ミツルギは唖然としており、確認を求めるように、めぐみん以外の生徒達の方を見る。

 他の生徒達も、そのめぐみんの威勢良すぎる暴露に隠す気も失せたのか、素直にこくこくと頷いていた。

 

 ミツルギがこちらを見る。顔は引きつっていて、信じられないものを見るような目をしている。

 

「……君が、カズマ……だったのか……?」

「……う、うん」

 

 なんだこれ……凄く気まずい!

 くっ、こんな事なら素直に自分から名乗った方がずっと良かったじゃねえか……というか、めぐみんの奴、何やりきったみたいな表情でこっち見てんだ腹立つなコイツ! さっきまでの感動を返せ!

 

 ……けど、まぁ、生徒達がここまで庇ってくれたんだ。こんな俺でも、いつまでもコソコソと隠れているわけにはいかないか。

 

 俺は苦笑いを浮かべ頭をかいて、一歩前に出る。

 

「えっと、その、悪かったな、騙してて。俺がカズマだ」

「……そっか…………うん、考えてみれば、この前君と飲みに行った時の言動にも、その片鱗は現れていたんだね。フィオとクレメアへのセクハラとか……あの時は酔っ払った勢いなんだと思ってたんだけど……」

 

 ミツルギは少し考える様子を見せて。

 

「でも、そこの子は君のことを国随一の変態鬼畜男とか言っていたけど…………僕は君のことはそこまで悪い人のようには思えなかったな」

「そ、それはコイツがちょっと大袈裟に言ってるだけだって! 紅魔族ってそういう奴等だって知ってるだろ!? それに、噂なんてもんは、多少大袈裟に伝わっていくもんだ! 名が売れると仕方ない事なのかもしれないけど、困ったもんだよなまったく!」

「……なるほど。確かに僕のことも『魔王城を攻略したいのか女の子を攻略したいのか分からない、優柔不断のハーレム野郎』なんて噂を流す輩もいるみたいだし、噂なんてそんなものなのかもしれないね」

 

 俺としてはそのミツルギの噂に関しては全力で肯定したいところなのだが、ここは波風立てずに笑顔でこくこくと頷くことにする。

 ミツルギは申し訳無さそうに苦笑いを浮かべて。

 

「ごめん、カズマ。僕の早とちりで余計な迷惑をかけてしまったようだ」

「あー、いや、気にすんなよ。誰にだって間違いはあるさ」

「そう言ってもらえると助かるよ。これからは噂など当てにせず、直接自分の目で真実を確かめるようにしていくよ。そうだよね、これ程までに生徒に慕われている人が、噂通りの人間であるはずがない」

 

 

「いえ、先生に関する悪い噂は、概ね正しいものだと思いますが」

 

 

 ようやく穏やかにまとまりかけていた空気の中。

 めぐみんは、『何言ってんだコイツ』みたいな顔でそんな事を言いやがった。

 

 ピシリ、と空気が凍ったような気がした。

 ミツルギは何か聞き間違いでもしたかのように、困惑した様子で。

 

「えっ……い、いや、でもカズマに関する噂っていうのは、本当にろくでもないことばかりで……」

「えぇ。ですから、私も言ったじゃないですか、『ろくでもない人ですよ』って。『人としてどうかと思う言動も日常茶飯事』とも言いました」

「……で、でも、君にとっては良い先生なのだろう? そのマイナスイメージも、多少大袈裟に言っているだけで……」

「いえ、大袈裟などではなく、そのまま思った通りに言っていますよ。確かに私にとって先生は大切な恩師ではありますが、不満な所は沢山あります。例えば」

「まままま待て! ご、ごめんな、不満な所はちゃんと聞くし、直すからさ!! だから、それは後で」

「本当に直してくれるのですか? 私が先生に直してもらいたい所は一つや二つではないのですが。まず、隙あらば私のスカートの中を覗こうとするのをやめてください。私が体調不良で体育を休む度に『生理か?』とか聞いてくるのもやめてください。あと5歳の妹に卑猥な言葉を教えるのもやめてください」

「ちょっ!!!」

「……カ、カズマ?」

 

 めぐみんの言葉に、ミツルギはドン引きした様子でこちらを見ている。俺の頬を冷や汗が伝っていくのを感じる。あかん……これはあかん……。

 しかし、めぐみんは止まらない。

 

「大体、先生は全体的に欲望に忠実過ぎるのですよ。保健室で添い寝しようとしてくるとか、教師としてかなりギリギリですよ? あと夜中に私の部屋で、言葉巧みに私を布団の中に引きずり込んだ挙句、抱きしめて泣かせたことに至っては完全にアウトですし」

「ちょ、ちょっと待ってよめぐみん! あたし、それ初耳なんだけど! え、なに、めぐみんと先生ってどこまでいってんの!?」

「めぐみんはオシャレに無頓着だし、食い気ばかりでそういう事には興味ないと思ってたのに! もしかして、それで周りを油断させるって作戦だったの!?」

 

 めぐみんの言葉に、ふにふらとどどんこが食いついている。

 それを聞いて、めぐみんは彼女達に視線を向けて。

 

「……ふっ」

「「あっ!!」」

 

 鼻で笑っためぐみんに、ふにふら達は悔しそうに顔を歪める。

 この場合、別にめぐみんは俺との関係が進んでいると自慢したいのではなく、ただ自分が周りよりオトナであるかのように見せて優越感に浸りたいだけだろう。それは結構だが、俺を巻き込むのはやめてほしい。

 

 そして、めぐみんはやれやれと、余裕を持った動作と共に。

 

「まぁ、そんな些細なことはどうでもいいではないですか。それより、先生が不満を聞いてくれるそうですよ? この際です、あなた達も何か言ってやればいいでしょう」

「さ、些細なこと!? うぅ、なんでめぐみんにこんな上から目線で…………それに、先生に不満なんて…………あっ……えっと、先生、流石に公衆の面前でパンツを脱がされるのは恥ずかしいので、やめてもらえると嬉しいなって……」

「う、うん……そだね……二人きりの時ならいいんだけど、皆の前では恥ずかしいというか……」

「二人きりならいいの!? ね、ねぇ、おかしくない!?」

 

 顔を赤くしてそんな事を言ってくるふにふらとどどんこに、ゆんゆんがツッコミを入れる。うん、ゆんゆんの言う通りおかしいとは思うが、俺としては一向に構わん。ただ、二人きりの時にパンツを剥いで満更でもない反応をされると、こっちとしても凄く困るので本当にやったりはしないが。

 

 めぐみんは、今度は何やら騒いでいるゆんゆんの方を向いて。

 

「ゆんゆんも先生に何か言わないのですか? あなたなんかは特に色々と不満が溜まってそうですが」

「えっ、そ、それはもちろんそうなんだけど……まず定期的に私の胸を揉むのをやめてほしいし……年下の子なら王女様でも何でも妹にするのもやめてほしいし……あと、『魔王討伐なんてそこらのやる気ある奴に任せといて、お前達はひたすら楽に生きられる道を目指せ』とか子供に悪影響ありそうな事ばかり言うのもどうかと思うし……」

「私も先生に言いたいことがある……作家になる道を応援してくれるのは嬉しいのだけど、事あるごとに私自身をモデルにした官能小説を書かせようとするのはどうかと……」

「なに、兄さん、あるえにそんな事言ってるの?」

「い、いや、それはだな、あくまで商業的なアドバイスとして、な? 作家ってのは食いつないでいくのが難しい職業だし、そりゃ自分の好き勝手に書いて皆が買ってくれるならそれが一番良いんだろうが、世の中そう上手くはいかない。だ、だから、恒常的に需要がありそうなものを……」

 

 そう必死に言い訳をしていると、今度は居酒屋の娘、ねりまきが。

 

「えーと、私からも、先生がお友達と居酒屋に来た時、私とお母さんを変な目で見ながら親子丼注文するのはやめてほしいなって……」

「…………兄さん?」

「すいませんでした!!!!!」

 

 もはや言い訳も出来なくなった俺は、即座に土下座に移った。

 

 何故俺はこんな事になっているのだろう。さっきまでは、クラスの皆が先生を庇ってくれるっていう、ちょっと感動的な場面じゃなかったか? なにこの落差、もうちょっと余韻に浸らせてくれたっていいんじゃないか。

 

 そう思いながら、先程とは違う意味で若干泣きたくなっていると。

 

「……カズマ。彼女達の話は本当なのかい?」

「いっ!? あ、い、いや、それはだな……!」

「もういい。その反応で大体分かったよ。信じたくはないが、全て真実のようだね」

 

 ミツルギがじっとこちらを見つめる。その目には、先程までの友人に向けるような暖かみなど一切ない。まるで魔王軍の者に向けるような、敵意のこもった鋭い目だ。その声も冷たく、突き放したようなものになっている。

 

 ミツルギは小さく溜息をつき。

 

「残念だよ、カズマ。君とは良い友人になれると思っていたのに」

「お、俺は今でも友達になれると思ってるぞ! よし、たぶんお前はまた誤解してると思うから、ちょっと話そ」

「カズマ」

 

 ミツルギは俺の言葉を遮り、正義感に目を光らせて。

 

 

「僕と決闘をしてくれ」

 

 

***

 

 

 そんなわけで、放課後。

 よく開けた広場にて、俺とミツルギの決闘が行われることとなった。

 俺としては逃げるという手もあったのだが、少し考えがあって素直に受けることにした。

 

 どこから聞きつけたのか、周りにはかなりのギャラリーがいて、祭りか何かのようにガヤガヤと賑わっている。

 

「賭けるやつはいねーかー? まだ間に合うぞー」

「じゃあ俺、カズマに3000エリス!」

「俺は勇者様の方に5000エリスだな。たまにはカズマが痛い目に遭うところを見てみたいし」

 

 そんな好き勝手言ってやがるギャラリーは無視して、俺は目の前のミツルギを見る。

 ミツルギは魔剣を抜き、調子を確かめるように軽く振ってから、俺に突き付ける。

 

「正体を隠して僕に近付いたのも、君の思惑の一つだったんだろうね。ああやって事前に好印象を抱かせておいて騙す。何て悪どいやり方なんだ」

「いや勝手に近付いてきたのはお前だろ! というか、何でお前がそんなに怒ってんだよ。確かに俺がクラスの奴等にやってる事は褒められた事じゃないと思うけど、本人達は何だかんだ俺のことを良い先生だって認めてくれてるんだからいいじゃねえか」

「よくない! 君は年端もいかない少女達を騙しているだけだ! いや、もはや洗脳に近い!! パンツを脱がされたり胸を揉まれたりしているのに良い先生とか、どう考えてもおかしいだろう!!!」

「うっ……」

 

 それを言われてしまうと返す言葉がない。うん、おかしいな確かに。

 ミツルギは敵意のこもった目で俺を睨みながら。

 

「セクハラだけの問題じゃない。君の教える事は、全体的に自分のことしか考えていないじゃないか! 面倒事は他人に任せて楽に生きろだって!? 君は子供達をダメ人間へと導きたいのか! 優秀な紅魔族の子供達にそんな教育をするなんて、国からすれば魔王軍よりよっぽど脅威だよ!!」

「わ、分かったよ、悪かったよ……それで、お前は俺をどうしたいんだよ。教師を辞めてほしいのか?」

「いや、君は教師の前に人間として欠けているものが多過ぎる。この決闘で僕が勝ったら、君は王都にある、人格破綻者を収容している施設に入ってもらう」

「はぁ!? ちょ、お、俺は別に人格破綻者なんかじゃ…………ない……と思うけど……」

「自分でも否定しきれていないじゃないか……」

 

 何か、ミツルギとはこの前似たようなやり取りをしたような気がする。立場は逆だったはずだが。

 お、俺……人格破綻してるのかなぁ……うーん、そうかも…………いやいやいやいや! 俺は商人として成功してるし、友人だってそこそこいる! そんなことはないはずだ!

 

 すると、俺達のやり取りを聞いて、ギャラリーの中から聞き慣れた声が聞こえてくる。

 

「えっ、に、兄さん、施設に入っちゃうの……?」

「先生が負ければそうなるでしょうね。今の内にお別れを言いますか?」

「な、何でめぐみんはそんなに冷静なの!? めぐみんだって、その、兄さんは良い先生だって……」

「えぇ、良い先生です……が。ここで負けるのであれば、所詮はその程度の人だったという事です」

「何か格好良い事言ってるけど、ちょっと冷たすぎない!?」

 

 大勢のギャラリーの中でも、妹の姿ならすぐに見つけられる。ゆんゆんは他のクラスメイト達の集団の中にいて、こちらに不安そうな顔を向けている。

 そんなゆんゆんに対して、めぐみんの隣にいたあるえが。

 

「大丈夫、先生はまだ眼帯を外していない。いざとなれば、あれを外して封印されし力を解き放てば、魔剣使いくらいわけないさ」

「あれ、298エリスの市販品とか言ってたけど……」

「ちょっと、妹のゆんゆんがそんなに弱気でどうすんのよ! 先生はこの世全てのイケメンを憎んでるから、いつもの何倍も強いって!」

「うん、きっと『顔じゃ完敗だから、せめて実力だけは勝ちたい!』って気合入ってるはずだよ!!」

 

 ……たぶん俺のクラスメイトは応援してくれているつもりなんだろうが、力が入るどころか抜けていくのは何故だろう。

 

 もう負けて施設に入ってのんびり暮らすのもいいかなぁ……と遠い目をしていると。

 

「ゆんゆん。心配しなくとも、私が認めた先生がこんな所で負けるはずはありませんよ」

「で、でも……!」

「はぁ……仕方ありませんね。そんなに不安なら、先生を超強化できる呪文を教えますよ。耳貸してください」

「えっ……うん……」

 

 めぐみんの奴、ゆんゆんに何を吹き込むつもりだ? あまり妙なこと言っていなければいいが。ゆんゆんはやたらと信じ込みやすいし。

 俺は少し不安になりながらも、そちらを指差し。

 

「おい、いいのかよミツルギ。俺が施設に送られちまうかもって、俺の可愛い妹が涙目になってるんだけど」

「うっ……そ、それは……我慢してもらうしかない。あの子にとっても、それが一番いいんだ」

「お前がゆんゆんの何を知ってんだよ。あいつにはな、“ちょっとダメな所があるけど何だかんだ妹想いなお兄ちゃん”が必要なんだよ」

「ちょっとダメというレベルじゃないだろ君は!!」

 

 くっ、ダメか。頭の堅い奴め。

 どうやらもう説得は無理そうなので、仕方なく俺も腕や足を伸ばし準備運動をする。あーやだなー、何でこんな金にもならないのに体動かさなきゃいけないんだ……。

 

 ギャラリーからは、ミツルギの仲間の声も聞こえてくる。

 

「キョウヤー! そんな最低男、一瞬で倒しちゃってよー!」

「私達もそいつには嫌な思いさせられたんだから! その分もお願いー!!」

「あぁ、分かっているよ、フィオ、クレメア。君達の為にも、僕は負けない」

「「キョウヤ……」」

 

 なんですか、俺は悪者ですか…………悪者ですね。

 ふんっ、黄色い声援がなんだ。こっちにだって女の子はついてんだよ。

 

 そう思って、クラスメイト達が集まっている方を見ると。

 

「ねぇねぇ、あるえ。実際のところ、先生って勝てるの?」

「どうだろうね。真正面からやりあったら厳しいんじゃないかな」

「えー、まぁ、でも、先生ならきっと、何か斜め下をいくゲスい作戦とかあるだろうし、大丈夫っしょ」

「うんうん、そういうゲスい事を考えるのは得意だからね、先生は!」

 

 …………もう帰りたい。

 いつの間にか俺の頭の中では、施設に可愛い子っているのかなぁとか、飯はどんなもんが出るのかなぁといった事が浮かんでくる。

 

 そんな時だった。

 

 

「お兄ちゃん!! お願い、勝って!! 施設になんて行っちゃやだ!!!」

 

 

 驚いてそちらを見る。他のギャラリーも、その大声にざわめき、視線が集中する。

 

 そこでは、ゆんゆんが顔を真っ赤にしながらも、こちらを真っ直ぐ見ていた。

 本当は今すぐにでも顔を覆いたいくらい恥ずかしいのだろう。それでも、全身をぷるぷると震わせながらも、視線は逸らさない。

 

 ゆんゆんの隣では、何故かドヤ顔のめぐみんが、こちらにサムズアップしている。いつもならイラッとしてドレインの刑をお見舞いしてやる所だが…………今回ばかりはグッジョブだ!

 

 俺はゆんゆんに言葉は返さず、ただ一度だけ力強く頷いた。

 そして、目の前のミツルギを見据える。

 

「なぁ、知ってっかミツルギ。お兄ちゃんってのはな、妹の為なら最強になれるんだぜ」

「ごめん、良い顔で良い事言ったみたいな感じだけど、意味が分からないよ……」

「なら、そこがお前の限界だ」

「げ、限界なのか……」

 

 ミツルギは俺のシスコンっぷりにドン引きしているようだが、そんなのは全く気にならない。負ける気がしない。何せ、妹が応援してくれているのだ。負ける要素がどこにあるんだ。今なら何だって出来る気がする。

 

 すると、そんな俺の様子を、まるで師匠か何かのように余裕ぶった笑みを浮かべて見ていためぐみんが。

 

「そうだ、先生。ちゅんちゅん丸はいらないのですか? 必要なら取ってきますよ?」

「いらない。素手で十分だ」

「ちゅ、ちゅんちゅん丸ってなんだい?」

「刀だよ。刀ってのは剣みたいなもんで……あぁ、お前なら知ってるんじゃないのか? 元々、刀って名前は、お前みたいな変わった名前の勇者候補から教えてもらったし」

「うん、知ってるよ。この世界に刀なんてあったんだね、驚いたよ…………でも、もっとマシな名前はなかったのかい……?」

「おおおお俺が付けたんじゃねえし! 俺だって嫌だよこんな名前!!」

 

 そんな俺の言葉に、何やらめぐみんから怒りの声が上がったような気がしたが、無視する。

 ミツルギはやれやれと溜息をついて。

 

「それで、本当に刀は必要ないのかい? 素手だからって、僕は手加減しないよ?」

「いいよ、ご心配なく」

 

 俺の言葉に、ミツルギだけじゃなく、周りのギャラリー達も意外そうな表情になる。

 しかし、不敵に笑う俺を見て、ミツルギは若干不快そうに。

 

「…………舐められたものだね。確かに僕はまだルーキーではあるけど、もう既に王都でそれなりに話題になるくらいには成果を上げているんだ。見くびらないでほしいな」

「それがどうした。確かにルーキーの割には腕は立つようだけど、俺からすれば隙だらけのヒヨッコにしか見えねえよ」

「そう言う君の方こそ、とても王都で有名な冒険者には見えないな。なんだい、その装備は。完全に駆け出し冒険者のそれじゃないか。それに、その目を見る限り、紅魔族でもないようだ。王都で名が売れていて、紅魔の里を拠点にしていると聞いていたから、てっきり紅魔族の腕利き冒険者だと思っていたんだけどね」

「別に、紅魔の里を拠点にしてるからって紅魔族とは限らないし、名前が売れてるからって腕利きとは限らないだろ」

「ふっ、そうだね。どうやら君は王都で有名になる程人格が破綻しているというだけで、冒険者としての実力があるというわけではないんだね」

「……あのさ、ルーキーだからまだ色々と知らない事があるのは仕方ないと思うけど、せめて自分が勝負を挑もうとしている相手については少しは調べた方がいいぞ」

「そうだね、助言ありがとう。君の言う通り、相手の力量を見極めるのは大事なことだ。今回は相手が想定よりもずっと弱いようだからまだ良いけど、逆だったら困った事になったかもしれない。次からは気を付けるよ」

 

 そう言って、ミツルギはニコリと微笑む。

 こ、こいつ、ただの爽やかイケメンだと思いきや、結構言うじゃねえか……まぁ、こっちの方が好都合ではあるんだけど……。

 

 とりあえず、いつまでも言い合ってても仕方ない。ずっとゆんゆんが不安そうな顔をしているので、出来れば早く楽にしてあげたい。

 

「そんじゃ、さっさと始めちまおうぜ。相手が気を失うか、『参った』と言ったら勝ちって事でいいよな?」

「うん、いいよ。それで、僕が勝ったら、君はさっき言った更生施設に入ってもらう。君が勝ったら、僕は何でも一つ言うことを聞くよ」

「よし、それでいいぞ。開始の合図はどうする?」

「このエリス硬貨でいいだろう」

 

 そう言って、ミツルギはギャラリーの一人に硬貨を渡す。

 

「彼がコインを投げて地面に落ちたら決闘開始。それでいいかな?」

「あぁ、分かった」

「じゃあコイン投げるぞー!」

 

 コインを受け取ったオッサンはそう大声で宣言すると、周りのギャラリー達が一斉に盛り上がる。直後、オッサンの指がコインを弾き、キン! という高い音と共に空高く舞い上がる。

 

 コインはそのまま重力に従い…………地面に落ちた。

 

 その瞬間、俺とミツルギが同時に動き始める!

 ミツルギは真っ直ぐ俺に向かって突っ込んで来て、何かのスキルを発動させたのか、魔剣を光らせ大きく振りかぶる。そして、そのまま強力な剣撃を…………放つことはなかった。

 

 ミツルギは、剣を振りかぶった無防備な状態で固まってしまった。

 別に俺がスキルや魔道具で何かしたわけではない。向こうが勝手に動きを止めているだけだ。

 

 ミツルギの視線の先には当然俺がいる。

 そして、俺はというと。

 

 正座をして。

 両手を膝の前方辺りの地面に付け。

 深々と頭を下げ、ひれ伏していた。

 

 

 つまり、DOGEZAをしていた。

 

 

 しん、と辺りが静まり返る。

 おそらく、俺の行動があまりにも予想外過ぎて、みんな頭が追いついていないのだろう。

 

 しかし、それも長くは続かない。

 時間が経つに連れて、次第に目の前の光景について理解していったギャラリーは。

 

 それはそれは盛大なブーイングをかましてきた。

 

「ふざけんなカズマー! それはねえだろ!!」

「いや確かにお前らしいけど! お前らしいけど、もっと、こう、空気読めよ!!」

「ちくしょう! お前に賭けた金、今すぐお前が返せよ!!」

 

 何やら言いたい放題のギャラリーは無視だ。

 ちらりと生徒達の方にも視線を送ってみるが、皆一様に呆れ果てているようだった。ゆんゆんですら、さっきまではあれだけ心配してくれていたのに、今では頭を押さえて深々と溜息をついている。

 

 当然、対峙するミツルギなんかは一番驚いているわけで。

 

「き、君は……何をしているんだい……?」

「見れば分かるだろ。DOGEZAだよ」

「そ、それは分かるけど……決闘前はあれだけ威勢のいい事を言っておいて、始まった途端それなのかい……?」

「それはそれ、これはこれだ」

「…………な、なるほどね。武器がいらないというのもそういう事か……君は初めから戦うつもりがなかったのか……」

 

 ミツルギは渋い顔をしたまま、構えていた剣を下ろした。

 

「まったく、こんな決着は僕としても拍子抜けなんだけど…………まぁ、いいさ。どんな決着だろうと、約束は約束だ、カズマ。先に言ってあった通り、君には人格破綻者用の更生施設に入ってもらう。なに、本人の状態にも寄るようだが、早ければ一月もしない内に出られるらしい。だから妹さんを長く悲しませたくなければ、大人しく処置を受けて早く更正することだ」

 

 そう締めくくり、ミツルギは剣を鞘に収めた。

 

 俺は未だ頭を下げ続けている。

 だから、ミツルギからは俺の表情が見えない。

 

 

 勝利を確信し、ニヤリと笑っている俺に、ミツルギは気付かない。

 

 

 直後、俺はばっと立ち上がる!

 そして、まるで身構える様子もなく、アホ面を浮かべているミツルギに掌を突き付け、叫ぶ!

 

「『カースド・クリスタルプリズン』ッッッ!!!!!」

 

 ビシィィ! と凍てつく冷気と音が辺りに広がった。

 

 再び広場が静まり返る。

 俺の凍結魔法を受けたミツルギは、首から下全てを凍らされ、その顔には驚愕の表情が浮かんでいる。ちゅんちゅん丸を使っていないので、その分魔力を多めに込めて威力を増強する必要があったが、これなら自力での脱出は不可能だろう。

 

 沈黙の中、最初に口を開いたのはミツルギの仲間達だった。

 

「なななななな何やってんのよアンタ!!!!! もう勝負はついたじゃない!!!!!」

「そうよ!!! 負け惜しみはやめなさいよね!!!!!」

 

 そんな二人に、俺は首を傾げる。

 

「……いつ勝負がついたんだ?」

「はぁ!? だって、アンタ降参したじゃない! だからキョウヤは剣を収めたのに!!」

「俺がいつ降参したんだよ?」

「何言ってんの!? さっき思い切り土下座したじゃない!!」

 

 二人は俺が何を言いたいのか分からないらしく、困惑した様子で言ってくる。

 

 しかし、周りの紅魔族達は理解したらしい。

 彼らは皆、苦々しい表情を浮かべながら。

 

「……そういうことかよ。本当にカズマはカズマだな……」

「うわぁ、ないわー……マジないわー……」

「何だろう、俺、賭けには勝ったはずなのに、この負けたような感じは……」

 

 相変わらず好き勝手言っているが、俺は聞く耳を持たない。

 そして、未だに何が起きているのか理解していない様子のミツルギに近付き。

 

「ミツルギ、この決闘の勝利条件はなんだ?」

「な、何を今更聞いているんだ……相手を気絶させるか、『参った』と言わせる…………か…………」

 

 ここで、ミツルギも気付いたらしい。

 その表情は、困惑から絶望へと変わっていく。

 

 俺はニヤリと笑みを浮かべて。

 

 

「確かに俺は土下座した。でも、俺は気絶してないし、『参った』とも言ってないよな? あ、今言ったけど、これはノーカンでいいな? それ言い出したらお前の方が先に言ってるし」

 

 

 ミツルギは何も答えられない。ただただ、金魚のように口をパクパクさせているだけだ。

 ギャラリーから大きな声が上がる。

 

「卑怯者ー!!!!! 卑怯者卑怯者卑怯者ー!!!!!!!!!!」

「こんなの無効よ!!! 認めない!!! 絶対に認めないんだから!!!!!」

 

 女の子二人が噛み付いてくるが、そんなのに怯むわけはない。

 俺はここぞとばかりに、先程から押さえ込んでいた気持ちを爆発させる。

 

「うはははははははははははははははっっ!!!!! お前らが認めようが何しようが関係ないんだよ!!!!! 騙されるのがわりーんだバーカ!!!!! そんなに言うなら、周りに聞いてみろよ、『こんなのは無効ですよね!』ってよぉ!!!!!」

「えっ、う、うそ……こんなの……ダメ、ですよね……?」

「あの……え、ちょっと、目を逸らさないでくださいよ……!!」

 

 ミツルギの仲間の二人は助けを求めるように、おろおろと周りを伺う。

 しかし、他のギャラリー達は、相変わらず苦い表情を浮かべながら。

 

「……残念だけど、これは冒険者同士の決闘だ。カズマの言い分の方が通るだろうな……」

「あ、あぁ、勝利条件は先にちゃんと決めてあったしな……俺としても認めたくないところだけど……」

「諦めろ嬢ちゃん達……これがカズマなんだ……」

「そ、そんな……そんなぁ……!!!!!」

 

 おい、俺は何ですか。天災か何かですか。なんで皆してそんな絶望して諦めたような顔してるんですか。もうちょっと俺の華麗なる機転とかを褒めてくれたっていいんじゃないですか。

 

 そんなことを期待して、生徒達の方を見ると。

 

「え、えっと……すごいね先生! こ、こんな手があるなんてー!」

「う、うん、私、全然思い付かなかったー!!」

「……これはひどい」

 

 一応褒めてくれているようだが、引きつった顔が苦しいふにふらとどどんこ。そして、いつもの痛々しい設定を口にすることもなく、心の底からドン引きしている様子のあるえ。

 

 頼みの綱のゆんゆんの方を見てみると。

 

「あの、ゆんゆん。あれどうなんですか。もう完全に悪役が勇者様を罠にはめた図なんですけど、あなたの兄はあれでいいんですか?」

「…………」

 

 めぐみんが呆れを通り越して哀れみさえ窺える表情を浮かべて、ゆんゆんにそんな事を尋ねているが、ゆんゆんはそれに答えることなく、ただ目を逸らし続けている。自分はあの男の関係者でも何でもないとでも言いたげに。

 

 一気にテンションが落ちていって、頭と体の奥が冷えていくのを感じる。うん、俺、卑怯な悪役だな……。

 べ、別にいいけど! 勝てばいいんだよ勝てば!! 文句あるかちくしょう!!!

 

 俺は、今は心の底から悔しそうな表情を浮かべているミツルギに。

 

「……えっと、俺のこと、卑怯だと思う?」

「当たり前だろう! 君は本当に人なのか!? 悪魔か何かじゃないのか!?」

「な、何だとコノヤロウ! こんなんでも人だよ失礼だなお前!!」

 

 そのまま俺とミツルギは睨み合う。

 そして、俺はイライラと頭をかいて。

 

「大体、何が卑怯だ甘えんな! ちょっとルールの穴を突いただけじゃねえか! お前、冒険者のことを、人々を守ってる良い人達みたいに思ってんのかもしれないけど、所詮冒険者なんてのは荒くれ者の集まりなんだよ! ちょっと騙されたくらいでビービー言うな!」

「なっ……た、確かにまんまと騙された僕も迂闊だったが……!」

「つーかお前、魔王を倒すんだろ? 魔王軍との戦いにルールなんてもんはねえし、もっと卑怯な罠にはめられる可能性だってあるんだぞ? そんな状況に陥ったら、勇者サマは魔王軍に向かって卑怯だーって叫ぶんですかぁぁ?」

「うっ……い、いや、僕は……!」

 

 よし、とりあえず適当なこと言ってみたけど、このクソ真面目な勇者様には結構効いているようだ。これなら、このまま押し切れる。

 

 しかし、一方で。

 

「あの、ゆんゆん。あなたの兄がゲス顔でメチャクチャなこと言って自分を正当化しようとしていますが、あれはいいのですか? 魔王軍はもっと酷いとか言ってますけど、そうは思えないのですが。魔王軍ですらドン引きしそうなのですが」

「…………」

 

 めぐみんがゆさゆさとゆんゆんを揺さぶるが、ゆんゆんは相変わらず目を逸らし続けている。

 ……俺、決闘相手のミツルギからよりも、自分の生徒達からの方がよっぽどダメージ受けてるんですけど……。

 

 ミツルギはギリギリと歯を食いしばる。

 そして、気を落ち着かせる為か、一度息をついて。

 

「これは……上級魔法だろう? 君は紅魔族でもなければ大した腕もない、悪名だけの冒険者じゃないのか……?」

「俺、紅魔族だけど」

 

 俺が眼帯を取って紅い左目を見せると、ミツルギは口を半開きにして目を丸くする。

 

「ついでに言うと、この服だって変装用だっての。はっ、どうせお前、俺のこと舐めてたんだろ? ただの冴えない顔した童貞だとか思ってたんだろ!」

「ど、童貞だとかは思ってないよ! 王都にはそういう店もあると聞いたし……」

「はぁ!? ふふふふふざけんなよお前、俺のこと素人童貞だとか言う気かコラァァ!!!!! あと冴えない顔ってのは否定しねえんだな!!! ちょっと自分がイケメンだからって、上から目線で調子乗ってんじゃねえぞちくしょおおおおおお!!!!! 『ドレインタッチ』ッッ!!!!!」

「あああああああああああああああああああっっ!!!!!」

「「キョウヤー!!!!!」」

 

 俺が怒りに任せてミツルギの顔面を掴んでスキルを発動すると、仲間の女の子達から悲鳴が上がる。これだからイケメンはムカつく!

 

 そうしていると、ギャラリーの一部から。

 

「ゆんゆん、ゆんゆん。あなたの兄が素人童貞だと思われて激昂していますが、あれは図星なのですかね? それと、イケメンへの僻みが凄まじいのですが、ここは『お兄ちゃんもイケメンだよ!』と心ないフォローを入れてあげた方がいいのでは?」

「…………」

「ただの童貞だから!!! 素人童貞じゃないから!!!!! あとそんな心ないフォローは余計に傷付くし、いらないから!!!!!」

 

 本当に何なんだろうアイツは、俺を精神的に抹殺したいのだろうか。あと、ゆんゆんがまだ目を逸らし続けてるのが地味に一番辛いんだけど、お兄ちゃんそろそろ泣いてもいいですか。

 

 ミツルギは体力魔力を吸われて荒い息を吐きながら、苦い顔を浮かべて。

 

「……君のことを侮っていたのは本当だよ……その服装も、眼帯で目を隠していたのも、武器を使わなかったのも、全ては僕を油断させる作戦だったのか……」

「そうだよ、まんまとはまってくれて、こっちの方が拍子抜けだよ。俺が土下座した時もお前、特に深く考えることもなかっただろ。あの時は、なんか余裕ぶって色々言ってくれたけど、今どんな気持ち? ねぇどんな気持ち?」

「ぐっ…………な、何故こんな勝ち方を選んだんだ! それだけの力があるなら、真正面から戦っても勝てたんじゃないのか!?」

「俺は、例え相手が魔剣使いの勇者様でも、年下の女の子でも、常に自分が一番安全かつ確実に勝てる手段を選ぶ男だ」

「そ、そこまで堂々と言えることかそれは!?」

「あぁ、言えるね! 少なくとも、正々堂々やってそんな氷漬けにされちまうよりは、ずっとマシだと思うね!」

 

 俺の言葉に、ミツルギは顔をしかめる。

 そのまましばらく俺達は睨み合っていた…………が。

 

「…………確かにね。返す言葉もないよ。もしこれが魔王軍相手だったら、取り返しの付かない事になっていただろう」

 

 ついに折れたのか、ミツルギは目線を落とし、自嘲気味に笑う。

 それを見て俺は溜息をつき。

 

「これに懲りたら、もう少し相手を疑うってのを覚えた方がいいぞ。お前は真正直にも程がある。魔王軍どころか、ちょっと頭が回る本当の駆け出し冒険者にも負けそうだぞお前。魔剣でゴリ押しするのもいいけど、それがいつも通用するとは思うなよ」

「……君は、もしかして僕にアドバイスをしてくれているのかい?」

「そうだよ。お前みたいな勇者様がちゃんと魔王軍と戦ってくれないと、俺が楽できないからな。流石に皆が魔王軍を放置したら大変なことになるし」

「ど、どこまでも他力本願なんだな……そこまでの力があるというのに君は…………いや、何でもない。何を言っても無駄なのだろう」

 

 俺のことを分かってきてくれたようで何よりだ。

 ちなみに、魔王軍に関しては基本的にミツルギのような勇者候補に任せるが、最終決戦とかにはちゃっかり隅っこの方にくっついて行こうかとも考えている。主にアイリスからのお願いがあるからで、もしかしたら魔王にトドメだけ刺せるチャンスが巡ってくるかもしれないしな。

 

 どうやらミツルギはもう言いたい事もないようなので、俺は掌を前に出して。

 

「そんじゃ、どうする? 降参するか?」

「……しないよ。僕は最後まで諦めない。もしかしたら、何か奇跡のような事が起きて、これから君が気絶するかもしれないじゃないか」

「はいはい、勇者様はそう簡単に負けを認めるわけにはいかないんだよな」

 

 どこまでも俺とは相容れない人間だ。

 それなのに、自然と口元が緩むのを感じる。まぁ、世の中こんな奴がいても面白いだろう。

 

 そして、俺が掌をミツルギの顔に近付けていくと。

 

「……フィオ、クレメア。ごめん、こんなみっともない姿を見せて……」

「キョウヤ……ううん、謝らなくていいよ……キョウヤは真っ向から戦ったんだから、全然みっともなくないよ! 私は格好良いと思う!!」

「うん! 私達はいつだってキョウヤの味方だから……ずっと側にいるから……!」

「ありがとう……こんなに良い仲間がいてくれて、僕は本当に幸せだよ…………後は頼む」

「「キョウヤー!!!!!」」

「…………あの、もしもし? そういう演出されると、いよいよ完全に俺が悪者なんですけど…………あっ、お、お前、今ちょっと笑いやがったな!? もしかして、わざとかこれ!?」

「くくっ、さぁ、どうだろう。僕だってただでは負けないよ。…………そうだね、もしかしたら、君の意地の悪さを少し参考にしたかもしれない。このままの僕では、魔王軍には勝てないのだろう?」

 

 そう言ってニヤリと笑うミツルギ。こいつのこんな性格悪そうな笑顔は初めて見た。

 そのやり取りは俺達以外には届いていないらしく、ギャラリーは全員すっかりミツルギの味方で、悪人の卑劣な罠に落ちてしまった勇者様を、皆が悲痛な表情で負けるな頑張れと声援を送っている。

 

 なんで俺のホームのはずなのに、こんなに雰囲気がアウェイなんだ…………別にいいけど…………別にいいけど!!!

 

 俺はひくひくと頬を引きつらせて。

 

「い、意外とイイ根性してんじゃねえかお前…………覚えとけよ!! 『ドレインタッチ』!!」

「ぐぅぅうううあああああああああああああああああああああああああっっ!!!」

 

 そのまましばらく体力と魔力を吸っていくと、ミツルギはがくっと気を失った。……ったく、ルーキーのくせに、かなりの体力だったな。これだから神々に選ばれし勇者ってのは。

 

 ミツルギの負けが確定したことで、ギャラリーからは容赦無いブーイングが飛んでくる。

 俺はそんな外野に向けて。

 

「うるせえ結果が全てなんだよ!! 俺の勝ちだから!! 完全勝利だから!!! ざまあみろ愚民共が、お前らがどんだけ騒ごうが、最後に勝つのはこのカズマさんなんだよ!!! はーっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!」

 

 そんな勝利宣言に、ブーイングが更に大きくなるが、気にしない。

 ……まためぐみんがゆんゆんに何か言っているようだが、そちらも気にしない。

 

 とにかく、これで俺の勝ちは確定した。

 これからは楽しい楽しい、罰ゲームの時間ということになる。

 

「さて、と。俺が勝ったら何でも一つ言うことを聞かせられるんだよな。どうしてやろうか、このイケメン勇者様」

「ね、ねぇ、確かに何でもとは言ったけど……ほ、本当に酷いことはやめてよ……?」

「えっと、あ、あんたにだって、一応良識ってもんが残ってるでしょ……? だから」

「俺にそんなもんが残ってると思ったか」

「やめてえええええええええええええ!!! お願い、許して!!! 何を命令するつもりなの!?」

「頭ならいくらでも下げるから!! 土下座でも何でもするから!!! だから、酷すぎる命令だけはやめてお願い!!!!!」

「だから、ミツルギもそうだけど、俺に対して『何でもする』とか言わない方がいいぞ。そう言われたら、本当にすんごい事する男だから、俺」

「「ひぃぃっっ!!!!!」」

 

 ミツルギの仲間二人はすっかり怯えて、涙目で震え上がっているが、だからと言って手加減してやるつもりはない。

 そもそも、この決闘を受けたのだって、こうして勝った時に、何でも言うこと聞かせられる展開に持ち込めるかもと思ったからだ。ミツルギから逃げ続けるというのも面倒だ、だからここで俺に手を出せなくなる命令をしようと思う。この勇者様は約束は守ってくれるから安心だ。

 

 ただ、俺に手を出せなくなる命令と言っても、色々と考えられる。ふむ、どうしたもんか。

 

「……あ、じゃあこんなのはどうだ? せっかくグリフォンの石像を里の入り口に飾るようになったんだし、勇者の石像もセットで飾ってみるってのは? 格好良くね?」

「何を言ってるの!? 本当に何を言ってるの!? い、いくら何でも、そんなの許されるわけ……ない、わよね……?」

「そ、そうよ……流石に、そ、それは、ダメ……なんだから……」

 

 そう言って女の子二人は、同意を求めるように周りを見回すが。

 

「……確かに格好良いかもな。勇者とグリフォンか」

「あぁ、アリだと思う。カズマにしてはいい考えだ」

「ポーズはどうする? とりあえず剣は抜いてもらった状態で、グリフォンに突き付けるように……」

 

 そんなことを口々に言い出す紅魔族を見て、二人は顔を真っ青にする。

 そう、紅魔族とはこういう奴等だ。魔王城を観光名所にしたり、格好良いからという理由で他の地に封印されていた邪神を、わざわざこの地に持ってきて封印し直したり、どこか頭のネジが飛んでいるのだ。

 

 二人はとうとう泣き出して。

 

「お願いします!!! それだけは!!!!! それだけは許して下さい!!!!! お願い……ですから……ふぇぇええええええええええええ!!!!!」

「いやああああああああ!!!!! キョウヤああああああああああああああ!!!!! キョウヤああああああああああああああああああっっ!!!!!」

「お、落ち着けって冗談だよ冗談!! 悪かった、ちょっとからかっただけだって!!!」

 

 まさかここまで号泣されると思わなかったので、慌ててなだめる。あの、ある方向から俺に突き刺さりまくってる視線が痛いです……。

 

 俺は頭をかきながら溜息をついて。

 

「じゃあ『一生俺の邪魔をするな』でいいよ。本当は『一生俺に服従』にするつもりだったけど、それだとまたお前ら泣くだろうし」

「ありがとうございます!! 本当にありがとう……ぐすっ……ひっく……ございますぅぅ……!!!」

「ふええええええええ、良かったあああああああああああああ!!! キョウヤああああああああああああ!!!!!」

 

 どっちにしろ泣いていた。本当に周りからの視線が辛いからやめてほしいんだけど……。

 

 それから俺は、三人をテレポートで王都に飛ばしてしまった。

 これ以上アイツらがここに居たら、周囲から容赦なく突き刺さる視線に俺の精神が擦り切れそうだ。悪ぶってはいるが、俺だって傷付くのだ。いや、マジで……そろそろ結構辛いんです……。

 

 俺は精神的に疲弊しながらも、ふらふらと、ある所へと向かう。

 こういう時は俺の心の癒やしを求めるしかない……つまり、愛しの妹だ。

 

 俺はゆんゆんの所までやって来ると、精一杯の笑顔でぐっとサムズアップした。

 

「お兄ちゃん、勝ったぞ」

 

 ゆんゆんもまた、可愛らしい笑顔で迎えてくれて。

 

「そうですね、お疲れ様です。そして、おめでとうございます」

「…………あれっ?」

 

 な、なんだろう、なんで丁寧語なんだろうこの子。

 俺は少し戸惑いながらも、可愛い妹に尋ねる。

 

「え、えっと、なんでそんな口調なんだ? いつもみたいに普通に話していいぞ普通に」

「いえ、そういうわけにはいきませんよ。カズマさんは年上の方ですし、適切な言葉遣いをしないと」

「カズマさん!? あの、ゆんゆん? お兄ちゃんとまでは言わないから、せめて兄さんって呼んでくれませんか……?」

「ふふ、またまたカズマさんは、そうやってすぐ悪ふざけをして。でも、カズマさんが先生を続けられるようで、私も()()として嬉しいですよ。それでは、私はこれで」

「ちょっ、ま、待って! ゆんゆん待って!! お兄ちゃんを置いてかないで!!!」

 

 そんな俺の言葉を背に受けて、ゆんゆんは行ってしまった。

 それを呆然と見送るしかない俺は、恐る恐る隣のめぐみんに目を向けて、どういうことなのかを尋ねる。

 

 めぐみんは大した事でもないように。

 

 

「先生の見事な悪役っぷりに、自分がその妹であるという現実を拒否することにしたみたいですね。その内、元に戻りますよ……たぶん」

 

 

 俺は両手で顔を覆って膝から崩れ落ちた。

 魔剣の勇者には勝ったが、大切な何かを失ってしまった放課後だった。

 




 
ここまで読んでいただきありがとうございますm(_ _)m
今更ですが、章で分けることにしました。たぶん3章で完結です。
 

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