賑やか家族Diary♪   作:犬鼬

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1日遅れての投稿となってしまって申し訳ありませんでした‼

いよいよ後編……

さて、どうなるのでしょうか……


13話 I want to stand by … 後編

会場から出てきた加奈たちを待っていたのは瞬く星で彩られ始めた空だった。

といっても、会場の周りはかなり明るくライトアップされていて、きれいに星が見えたわけではなかったが。

プレイアデスのライブの最後に歌われた曲、『Twinkle heart』。

亮一の車でも聞いたその曲の歌詞に加奈は勇気づけられた気がした。

 

「どうする? 飯でも食ってから帰るか?」

 

「そうですね、梓にもみんなの分の夕飯頼んであるのでそうしましょうか」

 

早い時間に終わったため、まだ食事するくらいの時間は残されていた。

前に仕事で使ったことがあるレストランが近くにあるという亮一の案内の元、今度は徒歩で会場から移動する。

近くのビルの前に来た亮一はためらうことなくそのビルの中に入る。

加奈もあとを追いかけ、2人はそのままエレベーターに。かなり上の階のボタンを押した亮一を見上げる加奈。

 

「ああ、このビルの上に小洒落たイタリアンレストランがあるんだよ。確か好きだっただろ?」

 

「そうですけど……よく覚えてましたね」

 

「まあ何回も一緒に出掛けてればな……っとついた」

 

エレベーターのチンという音とともに目的のフロアに到着する。

エレベーターのドアが開くとそこはレストランの入り口だった。

 

「この階全部を使ってるらしい。まあそこまで大きいビルでもないけどな」

 

窓際の席に座った亮一が説明する。納得したようにうなずきながら加奈は亮一のむかえに座った。

 

「わぁ~きれい……」

 

加奈が窓の景色を見て感嘆の声を漏らす。

まだ完全に暗くなったわけではないため、完全な夜景とはいかなかったが、そこから見える景色は十分美しいものだった。

 

「まだまだこれからだぞ? そうだ、あとでここのもう少し上の階の展望台に行ってみるか」

 

「いいですね! 行ってみたいです!」

 

加奈にしては少し興奮気味に言った。

そんな加奈の様子に驚きを感じながらも亮一はそれを了承した。

丁度いいタイミングでコースの前菜も運ばれてきて、食事を始める。

今日のライブの感想を話し合ったり、自分たちがやっているスポーツのプロの試合に関して意見を出し合ったり、家族の話に触れてみたりと食事をしながら会話に花を咲かせる2人は、時間など忘れていた。

 

 

 

デザートまできっちり食べ終わった2人は割り勘でそこの食事代を払い(加奈が出すといったものの亮一が聞かなかった)、さらに上の階を目指して再びエレベーターに乗る。

そして、エレベーターのドアが開いた先には……

 

「……」

 

声も出せないようなきれいな景色が広がっていた。

都会のビル街の夜の様子なら加奈も会社から何度も見ているが、それとはまるっきり別物だった。

まるで地上にもう一つの星空ができたようなそんな光景。その光はそれぞれが精一杯光り輝いているようで、空に瞬く星々にも勝るとも劣らない輝きをはなっているようだった。

亮一はというと……

 

 

 

 

――無邪気に望遠鏡をのぞき込んでいた。

 

 

 

その子供のころに帰ったような表情に加奈は瞬きさえも忘れてしまった。

やがて望遠鏡の使用時間が切れて何も見えなくなってしまうととても残念そうに、そして名残惜しそうに望遠鏡から離れた亮一は普段の凛々しい様子からは全く想像できなかった。

 

「なんだ、加奈。また俺が子供っぽくて笑いたいのか?」

 

なんだか居心地悪そうにそういう亮一に加奈はただ見惚れていて。

亮一の視線に吸い込まれそうで、少しだけそらした視線の先に見えたのは瞬く星たち。

そしてふとききなれたフレーズが頭をよぎる。

 

 

 

 

 

 

――星の瞬きよ 僕の想い きみに届けてって 何度も願った でも違うの ぼくにチカラください

 

 

 

 

 

 

加奈から迷いが、消えた。

迷いという最後のタガが外れた加奈の思いは奔流となって外にあふれだす。

 

「あの……亮一さん……」

 

「うん? どうした?」

 

「亮一さん! わたし…私! 亮一さんのことが好きです! わたしと、付き合ってください」

 

全く予想していなかった展開。

考えてもみなかった可能性。

亮一は不意をつかれたようだった。

 

「本気、なのか……?」

 

「はい、もちろんですよ……?」

 

加奈の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

もしかしたら彼女は薄々気が付いていたのかもしれない。

この先の展開に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、俺は加奈とは付き合えない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はっきりとした拒絶の言葉。答えはそれだけで十分だった。

 

 

 

 

 

「そう、ですよね…ごめんなさい……!」

 

 

 

 

 

 

それだけ言うと加奈は自分だけ先に展望台を出ていってしまう。

そして、亮一はそれをただ見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんな、まだ……いまはまだ、気持ちがそんな風にならないんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

亮一がつぶやいた言葉は誰の耳に届くこともなく、静かに展望台の空気に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやって帰ったのかはまるで覚えていない。気が付けば家の近くにいて梓たちの声が聞こえていた。

加奈は自分の気持ちを抑え込む。

弱さを見せないように。

自分がしっかりしないとみんなに心配させてしまう。

だから加奈は自分の顔に笑顔を張り付ける。

今日だけは家族に嘘をつこう。そうすれば明日はきっと普通に笑えるから。

そう考えた加奈はその張り付けた笑顔のまま鍵を開ける。

 

 

 

 

そして――

 

 

 

 

「ただいまぁ!」

 

 

 

 

努めて明るい声で言った。

 

「「「「おかえり!」」」」

 

いつも通り4倍になって帰ってくる挨拶に加奈はホッとすると同時に崩れそうになる。

自分で何度も言い聞かせ、その笑顔を保持した加奈は普段と同じように家族と会話をする。

 

「ごめん、今日結構体力使ったからもう眠たいや。また明日話すね」

 

いつも通りに演じきった加奈はいつもより早く階段を登り切って自室に入る。

そしてベッドにダイブした。

 

「……ぐすっ……うぅ……」

 

加奈の部屋から嗚咽がこぼれる。

心配そうに階段から加奈の部屋をのぞき込む4人。

もちろん、加奈の様子がいつもと違うことは気が付いていた。

だが、こんな様子の加奈は初めてで、誰も何も声をかけることができなかった。

 

「私、行ってくる」

 

そう名乗りを上げたのは黒愛だった。

今日のことに関しては彼女だけがわかりえることが多かった。

 

「加奈ねえ、入っていい?」

 

黒愛がドアの外から声をかける。

だが、返事はない。

だからこそ、黒愛はドアを開けた。

待っていてもいつまでも許可は出ない、加奈の性格からしてそうであることがわかっていた。

 

「わたし、いいって言ってないんだけど……」

 

「いつまでもいいって言ってくれないでしょ」

 

顔を涙で濡らしている加奈が非難するがそれに全く動じない黒愛。

後ろ手にドアを閉めながら

 

「ねえ、なにがあったの?」

 

単刀直入に質問する。

 

「別に何も……」

 

「じゃあなんで泣いてるの? みんな気が付いてたよ、加奈ねえが何か隠してること」

 

完全に隠せていたと思っていた加奈は驚きで目を見開く。

 

「加奈ねえもしかして……」

 

最悪の可能性を考えてもどうしても口にすることができない黒愛。

 

「たぶんこっつんが思ってることで正解。終わっちゃったの……」

 

黒愛は悟った。加奈が告白し、振られたであろうことを。

黒愛は優しく抱きしめる。自分が小さいとき加奈にそうしてもらったように。

黒愛のやさしさに包まれて加奈の嗚咽はさらに大きくなる。

落ち着くまでの間、黒愛はずっとそのままでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「……こっつんに恥ずかしいところ見せちゃったかな?」

 

落ち着いた加奈は目を赤くしながらベッドに腰掛けていた。

 

「うーん、私的には可愛い加奈ねえが見れてラッキーだった、かな?」

 

「もう……でもすっきりした。ありがとね、こっつん」

 

「まだだよ加奈ねえ」

 

完全に諦めがついたかのように言う加奈に黒愛は待ったをかける。

 

「まだって、何が?」

 

「加奈ねえは再アタックの方が成功率が高いって知ってる?」

 

「……そうなの?」

 

加奈の表情が少し明るくなった気がした。

 

「そうらしいよ! だから、もう一回だけ、チャレンジしてみない?」

 

それは加奈にとって小さくても、確かな希望になった。

 

「……うん! 一回で諦めたら私らしくないよね」

 

折れかけた気持ちをもう一度立てなおすにはまだ時間がかかりそうだったが、それも時間が解決するだろう。

安心した黒愛は、おやすみ、そう声をかけて加奈の部屋を後にした。

 

 

 

 

加奈も帰ってきた時よりも明るい雰囲気で鏡に向かって笑顔を作る。

 

 

 

 

 

もうそこに張り付けられた笑顔はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして月日は流れ、再び加奈は告白するだろう。

今度もどんな返事になるかはわからない。

今度こそ本当に打ちひしがれなければならないかもしれない。

それでも。

小さな希望がある限り。思い描く未来がある限り。

そうなることを望んで彼女は告白する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私! やっぱりあなたのことが!」




いかがでしたでしょうか?

ちょっぴり切なくてほろ苦い、それでいて甘々できゅんきゅんしていただけたら幸いです‼

もしかしたら他の兄弟のこんな展開もいつか見れるかも……?
その時はまたきゅんきゅんしていってくださいな‼

ではまた次回‼

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