Infinite possibility world ~ ver Servant of zero 作:花極四季
投稿速度の低減(最近はそうでもない?)、リメイクによる客層の変化という問題を抱えながらも、こうしてまた名誉な場に表立てたのも、皆さんのおかげです。本当にありがとうございます。
テレビの前のみんな、元気かな?
僕は死にそうだったよ。羞恥でな!
何があったかというと、人形遣いの少年を倒し、ヴァルデイと言う名の外の人が勝手に行動し、あろうことか怪我したルイズちゃんをお姫様抱っこしたのだ。
女の子の身体をあそこまでじっくり触ったことがなかったこともあり、降ろすまでの間、頭は混乱しっぱなし。
幸か不幸か、意識とは別にキャラは動いてくれていたのでルイズちゃんを落とすようなことはなかったけど、同時に感覚から逃げることもできずひたすらに悶々としなければならないという拷問を強制されてしまっていた。
ルイズちゃんは悪くない。ただ、こんな美少女の肌を触るとか私めのような凡夫には恐れ多くてですねぇ……。
そんなこんなで、辿り着くは保健室。
誰もいなかったので取り敢えず寝かせる。
大人しいなと思ったら、ルイズちゃんは寝ていた。いや、気絶の方が近いのか?
しかし、どうすればいいんだろう。
まさか寝れば瀕死でも全回復なんてRPGを踏襲した要素を含んでいるとは思えないし、ヒーラーか回復アイテムを用意しないと――。
そんな時、背後からドアの開く音がする。
立っていたのは、金髪縦ロールの少女だった。
「……入って、いいかしら」
明らかに警戒した様子でこちらを伺っている。
まぁ、あんな大立ち回りをした後なら、怯えられても仕方ないの、かな?
「構わない。君は、ルイズの友人か?」
「違うわ。そんな仲じゃない」
「……なら、何故ここに」
そう問いかけると、少女は突如頭を下げてきた。
「ありがとう。ギーシュを殺さないでくれて」
「ギーシュ……決闘で対峙した青年のことか」
「そうよ。あんな気が多くて馬鹿で女の気持ちなんてわかってない軽薄男だけど――それでも、決して悪い奴じゃないのよ。だから、お礼がいいたかったの」
……なんだ、ギーシュ。こんなに想ってくれている女の子がいるんじゃないか。
それであんな浮気な性格とか、やっぱりこいつはメチャゆるさんよなああああ。
――なんて、これ以上は僕が怒る理由はないんだって身を引いたんだから、これ以上は僕からは何も言うつもりはない。
「名前を聞いても?」
「モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシよ」
「では、モンモランシー。君は優しいんだな」
「なっ、……そんなんじゃないわよ。それを言うなら、あそこまでルイズを傷つけたギーシュに怪我ひとつさせずに終わらせた貴方の方が、よっぽどだと思うわ」
「そうでもないさ。私としてはルイズの代打をしたに過ぎない。メイジと使い魔は一心同体だからな。だから、これ以上はルイズ本人の問題だ。仮にルイズがギーシュをどうしようとも、私は干渉するつもりはない」
「そうなったらそれでいいわよ。アイツももう少し痛い目見ないと、あの性格は直らないだろうしね」
「私としても、君のような女子が無為に傷つくようなことは本意ではないからな」
そう言うと、モンモランシーちゃんは一瞬ポカンとしたかと思うと、柔らかく微笑み返す。
「そう。……意外と優しいのね、貴方」
「これぐらい普通だと思うが」
「少なくとも、この学院にいる殆どと比べても、貴方はマシな男だと思うわ。ホント、子供ばっかりなんだもの」
「子供なのは仕方ない――と普段なら言うところだが、その子供さによってルイズやシエスタ、そして君も傷つく結果となった。貴族という責任ある立場にいる以上、子供だとかそういう言い訳は通用しない」
僕だって子供だが、イジメが駄目だってのは普通に理解している。
それが権力を振りかざしたものであれば、尚更だ。時にそれは、大人さえも仲介を躊躇う結果をもたらす。
親の七光りを利用した人間に限って、自分一人では何もできないなんてよくある話だ。だからこそ、余計に質が悪い。
「そうね。……それよりも、本題に入りましょう。貴方にお礼を言いたかったのもあるけど、そのお返しに、私が彼女を治すわ」
「出来るのか?」
「一応これでも、水メイジだからね。とはいえ、まだまだ実力不足感は否めないけど、腹部の打撲ぐらいならポーションと併せれば普通に完治できるわ」
水メイジは回復メインの属性だっけ。ポーションとかも作れるっぽいし、タバサ先生に教えてもらった通りだ。
「なら、頼まれるか」
「任せて」
それから暫く、ルイズちゃんの治療タイムとなる。
普通の医療よろしく、患部をさらけ出しての作業となるらしく、流石に出て行ったよ。
部屋から出ると、シエスタと鉢合わせする。
「あ、ヴァルディさん……」
「シエスタか。どうした」
「あの、その。ミス・ヴァリエールのお見舞いにと思いまして……」
どこか元気のない声でそう告げる。
「どうした、そんな顔をして」
「……私があのような出過ぎた真似をしなければ、ミス・ヴァリエールがあのように傷つくようなこともなかったんです。だからせめて、何かしてあげないといけないって、そう思っているんですけど」
「けど?」
僕の問いかけに、伏し目がちに答える。
「やっぱり、怖いです。貴族様の機嫌ひとつで私の命なんて簡単に消えてしまいます。ましてや今の私は、そうなってもおかしくない立場にいます。その覚悟をしてこの場に来ましたけど、やっぱり――」
気が付けば、震えるシエスタの肩に触れていた。
これもヴァルデイが勝手に起こしたことなのか、わからなかった。
だっていつの間にかこうなっていたんだから。
「ルイズはそんなことはしない。彼女は優しいよ。少し素直になれないだけで、彼女は人の痛みを理解できる聡明な子だ。私なんかのお墨付きでは信用できないかもしれないが、どうか彼女のことだけは信用してやってくれ」
「そ、そんな。ヴァルディさんが気にするようなことではありません!」
「気にするさ。これでも私は君を気に入っているんだ。気に掛けている相手が困っているなら、手を差し伸べるのが普通だろう?」
「え?それって――――」
シエスタが何か言おうとしていたが、それを遮るように背後からドアの開く音がする。
そこからモンモランシーが現れ、簡潔に経過を話す。
「外傷は完全に治っているわ。ただ、一応絶対安静ね。あと、ルイズが起きても私が治療したって言わないでよ」
「何故だ?」
「基本的に借りは作らない主義なの。貴方に対しての借りを返して、ルイズに貸しを作ったなんて思われたら、結局荷物は背負ったままになるじゃない。そんなの嫌よ、私」
その後ぼそり、と常人なら聞こえない程度の声が耳に入る。
「それに――恥ずかしいじゃない」
その時のモンモランシーは、ほんのり頬を赤く染めていたような、気がした。
「あと、そこのメイド」
「は、はい!」
モンモランシーに指摘され、頑なに姿勢を正すシエスタ。
「本当は私が言うべきことじゃないんだけど……ごめんなさいね。あの馬鹿、ギーシュが迷惑掛けちゃったようでさ」
「そ、そんな!ミス・モンモランシが謝られるようなことでは――」
「そうね。でも、間接的には私も関与しているんだし、これでも悪いと思ってるのよ」
シエスタは、モンモランシーの言葉をどこか呆けた様子で聞いている。
「じゃあね」
言いたいことは言い終えたと言わんばかりに、あっさりとした軽い挨拶と共に別れようとする。
それを僕は反射的に止めてしまう。
「待ってくれ」
「……何?」
「もし困ったことがあったら、いつでも訪ねてくれていいからな。借りの問題なら気にすることはない。ギブアンドテイクの関係であれば君にとっても何の憂いもないだろう?」
モンモランシーは数秒思考した後、背中を向けたまま答える。
「そうね。気が向いたらそうさせてもらうわ」
今度こそモンモランシーはその場から立ち去っていった。
「ミス・モンモランシ……」
「貴族だって、君の思うような輩ばかりではない。魔法が使えようと使えまいと、人間の本質を語るのは心の在りようだ。決して力の有無ではない」
「……はい。そうですね」
「ならば、入ろう。ルイズの容態もこの目で確認しないといけないしな」
「はい!」
なんとか説得を終えたので、再び保健室に入ることにした。
目が覚めた時の感覚は、とても暖かなものであった。
それが自分がベッドに寝かされているからであると理解するのに、時間は掛からなかった。
ヴァルディの腕に抱かれ、羞恥で暴れそうになったがそれより早く肉体が疲労を訴えて意識を失い、今に至るのだろうと納得する。
腹部をさすると、打撲による痛みを感じない。
誰かが治療してくれたのだろう。しかし、この場には誰もいない。
偶然出払っているだけなんだろうけど、どこか寂しさを覚える。
ヴァルディとの出会いから、より私の周囲は慌ただしかったから、余計にそう感じるのかもしれない。
「ヴァルディ……」
呟く、私の使い魔の名前。
使い魔なんて便宜上のものに過ぎないけど、それでも私にとってのただひとつの繋がりの証明。
力関係が逆転しているそれを、無理矢理矯正している歪な絆。
「そういえば、知られちゃったんだっけ……」
自然と身体は三角座りとなる。
メイジの落ちこぼれであるという事実。知られたくなかった現実。
でも、ヴァルディはそんなことはどうでもいいと言ってくれた。
言ってくれたけど――その言葉を信じることができない自分がいる。
ヴァルディは何も悪くない。悪いのは、私を取り巻く環境。そして、魔法を使えない私自身。
彼は優しいから。こんな私に対しても等しく接してくれる。
だけど、その度私の内に募る情けないという感情。
惨めで、愚かで、無力で、そんな自分から脱却できないことも情けなさを増長させる要因となっている。
今回の決闘だって、私の問題だったのに収束させたのはヴァルディだ。
私がもっとしっかりしていれば。せめて少しで良いから、まともに魔法が扱えることができれば、彼に迷惑を掛けることもなかった。
これからの人生、ずっとこんな感じなのかな。自分の力では何も為せず、使い魔の力で何でも解決していく。そしてその功績は主である私が掠め取る。
……なんて浅ましい。それが主と使い魔の正しい関係だとしても、今の私には決して許容できるものではない。
突如、開かれるドアを音で察知する。
音に反応し顔を上げると、そこにはヴァルディと、その背後で謙虚に構えているあの時のメイドの姿があった。
「あ――――」
「目が覚めたようだな」
簡潔に言葉を切り出し、そのまま近づいてくる。
「シエスタが、君に話があるようだ」
そう短く告げると、シエスタと呼ばれたメイドと立ち位置を交換する。
シエスタは緊張した顔持ちで、口を開く。
「あ、あの。あの時はありがとうございました。貴族様からかばってくれて。私、とても嬉しかったです」
純粋なシエスタの感謝の言葉が、胸に突き刺さる。
「……そんなんじゃないわよ。私が単に、アイツが許せなかっただけ。アンタのことなんで、どうでもよかったのよ」
突き放すような言葉で切り返すも、シエスタは笑顔を絶やさない。
「仮にそうだとしても、私にとっては関係のないことです。事実、私はミス・ヴァリエールに庇われる形になり、結果として救われた。そのことが、何よりも重要なんです」
ギリ、と歯を力強く噛み締める。
純粋な好意が、私を苦しめる。
……やめて、私はそんなことを言われる筋合いなんて、ない。
「それよりも、申し訳ありませんでした。私があのような出過ぎた真似さえしなければ、ミス・ヴァリエールがこのような怪我もせずに穏便に事が済んだかもしれませんのに。誠に申し訳ありません」
そう言って、頭を下げるシエスタ。
何でアンタが頭を下げるのよ。
理解できない。理解できない理解できない理解できない――
そのあまりにも自分を下に置く姿勢は、メイドとしての教育の賜物なのか、彼女の性格によるものなのか。
……どちらにせよ、私の我慢を爆発させるには充分な要素だった。
「――――いい加減にして!」
部屋全体を覆う悲痛な叫び。
目を丸くしているシエスタに向き合う。
「私はね、アンタを利用したのよ。アンタがギーシュに謂われもない罪を被せられているのを見て、それを利用したの。アンタだって、私が周りからなんて呼ばれているか知っているでしょ?ゼロのルイズ、魔法が使えない無能の称号。貴族なんて大層な肩書きを持っていても、その本質は平民と何ら変わらない。その癖立ち居振る舞いは貴族なんだから、アンタ達からしても私はさぞ厄介極まりない存在だったでしょうねぇ?」
一度言葉を切り、再び矢継ぎ早に語り出す。
「そんな中召喚に成功したのは、エルフのヴァルディだった。知ってる?凄いのよ彼は。メイジが十人束にならないと勝ちの目が見えないぐらいの強さを持つ種族なのよ?そんな彼が、何の因果か無能の私の使い魔として召喚された。本当、今でも信じられないぐらい。だから、より一層貴族らしく振る舞おうと、そうなれるように手段を講じていたの。そんな時のあの事件よ」
わざとらしく頬を吊り上げながら、続ける。
「あの場でギーシュの非を認めることができれば、少しでもヴァルディに認めてもらえるかもしれない。ゼロと呼ばれた自分にも、自信が持てるかもしれない。アンタは所詮、その為の餌に過ぎなかったのよ!それでも、アンタは私に感謝の念を持つことができるの?できる訳――」
「――――それでも、嬉しかったです」
「……え?」
シエスタが何を言ったのか、私には一瞬理解できなかった。
「知っていますよね?あの場で私が必死に頭を下げ、許しを請おうとしていたとき、周囲の誰もがその光景を楽しむか、傍観者に徹していました。その時の私の内には、絶望と恐怖ばかりが渦巻いていました。同じ人間なのに、地位が劣るというだけで扱いは家畜のような扱い。今日もそんな感じなのかなって思っていたとき、ミス・ヴァリエール。貴方が抗議の声を上げてくれたんです」
シエスタの瞳が揺れる。
「嬉しかったんです。たとえそれが、打算に満ちた行動だったとしても、私にとっては何事にも代え難い救いの手だったんですよ?だから――そんなに自分を責めないで下さい。私にとっての恩人に、そんな酷いことを言わないで下さい」
「そんな――そんな、見え透いた嘘」
「嘘じゃありません。これは、私の本心からの言葉です」
「あ、――あ、」
気が付けば、頬を伝う冷たい滴。
それを皮切りに堤防が決壊したかのようにとめどなく溢れるそれは、出所を必死に拭っても留まることを知らない。
そこにはもう、悪役を演じていた少女の姿はない。
「なんで、どうして、こんな」
何度も何度も同じ工程を繰り返していると、頭が優しい感覚に包まれる。
それは、シエスタに抱きつかれているからであった。
「……辛かったんですよね。努力しても報われず、同じ立場である貴族の方達にも見下されて、誰も味方になってくれなくて、ひとりぼっちで。私だったらとっくに潰れています。でも、大丈夫です。今はヴァルディさんだっています。それに私も、微力ながら貴方の力になれたらいいなって思っています。だから、もう苦しむ必要なんて、ないんです」
子供をあやすようにポンポンと後頭部を撫でられる。
平民が貴族に対する行為にしては、無礼極まりないことではある。
だけど、振り解く気も糾弾する気も起きない。
久しく忘れていた、心の底から暖かくなる感じ。まるで、母親に抱かれているかのような――
「ヴァルディさん言ってました。貴方は人の痛みを理解できる聡明な子だと。こうして本音をぶつけてくれたことで、その言葉の意味が理解できました。隠し通すことだってできた本音を、私なんかの為に打ち明けてくれて……嬉しかったです。そのお陰で私は、貴方を理解し、受け入れることができる。貴族すべてが私達平民を蔑む存在ではないんだって想えるようになったんです。まだ、ほんの少しだけですけど」
だから――――ありがとうございます。最後にそう耳元で囁いてくる。
気が付けば私は、わんわんと泣いた。
恥も外聞も捨て、過去の苦悩すべてを洗い流そうとせんと、がむしゃらな程涙を流し続け、声を張り上げた。
世界は私を迫害するだけのものではなかった。
こうして私を受け入れてくれる人がいることを知ることができたのだ。感謝するのは、私の方だ。
ありがとう。こんな何もない私を、受け入れてくれて。
イイナハシダナー、と空気をぶち壊す私です。
終始空気な扱いだったけど、別に気にしてないんだからね!
こうして見ると、仲の良い姉妹のようだ。ルイズちゃんが素直になれない系妹、シエスタがあらあらうふふ系な姉。あるいは献身的な。
それにしても、魔法が使えないというコンプレックスはかなり根が深い問題だったようだ。
あの反応からするに、昔からそんな感じだったのだろう。
あまり考えたくはないけど、家族からも少なからず魔法を使えないルイズちゃんに失望を覚えたのではないだろうか。
身内でさえもそんなだとしても、良くこうも良い子に育ってくれた。お父さん嬉しいよ。いや、違うけどね。
「……もう、大丈夫」
小さくそう呟いたルイズちゃんに反応し、身体を離すシエスタ。
泣き腫らした証拠の目の赤みと、恥ずかしげに頬を染めるその姿はとても印象深く記憶に刻まれる。
「ねぇ、ヴァルディ。改めて聞くのは野暮かもしれないけど、その、本当にいいの?」
「疑り深いな。何故そんなに自分に劣等感を持つ?」
「だって、魔法が使えないのよ?その資格がある筈なのに、才能が欠片もないんじゃあ、いっそ最初から望みを与えてくれなければよかったのに――前までは、そう思ってた」
シーツを強く握りしめる。
ルイズちゃんの表情に、迷いはない。
「でも、才能がなくても魔法が使えたから、この場にいる。ヴァルディも召喚できた。……シエスタにも、会えたし」
「ミス・ヴァリエール……」
「だからもう、自分の魔法の才のことでくよくよすることはやめたわ。そんなものがなくたって、私を信頼してくれている人はいる。それがわかったから」
ルイズちゃんが、花開くような笑顔を咲かせる。
その光景は、今まで見てきた何物よりも美しかった。
「それと、ミス・ヴァリエールじゃなくてルイズでいいわよ。今更アンタの前で貴族ぶる気もないし、あんな恥ずかしい所見られた時点で、威厳も何もないしね」
「……では、ルイズさんと。ですが、公共の場においては流石にミス・ヴァリエールと呼ばせてもらいます。例えルイズさんが良くても、周囲からは平民と仲良くしている貴族、なんて思わせたくありませんし」
「そんなのいいのよ。今更そんな評価を下されたところで、私の評価がこれ以上低くなるなんてこともないし。それに、そんな奴らの言葉なんて知ったこっちゃないわ。もう私には、シエスタがいるんだもの」
「ルイズさん……」
キマシ、とか思ったそこの貴方。いいぞ、もっとやれ。
「それよりも――ヴァルディ。私が魔法を使えないことはいいとして、そんな私と一緒にいるヴァルディは、本当に苦痛じゃないのかってどうしても思ってしまうの。ヴァルディは優しいから、あの時咄嗟にあんな事を言ったんじゃないかって……」
……少しだけ、ムッとした。
思わずルイズちゃんの額にデコピンしてしまう。
あうっ、という可愛らしい声と共にのけぞり、抗議するような視線で上目遣いをする。
「あれは紛れもなく私の本心だ。魔法が使えるかどうかなど、人間性を語るにおいては無価値なものだ。私は君の誇り高い魂に惹かれ、それを認識した自分を信じたからこそ、君の使い魔となる判断を下したのだ。……あまり私を馬鹿にするな」
実際はそうじゃないけど、空気ぐらいは読むよ。
それに、最初から見抜いていた的な発言は嘘だけど、それ以外は本心だしね。何の問題もない。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
たった二言の掛け合いだけど、僕達の間の絆が固まったような気がした。
これで万事すべてが丸く収まった――と思ったら、何か廊下が騒がしい。
音はこの部屋の前で止まり、僅かな間を置き扉が開かれる。
そこには、ギーシュが何とも言い難い表情で立っていた。
こちらから何か声を掛けようとしたとき、ギーシュが行動に出る。
「……使い魔君、メイド、ルイズ!本っっっっっ当に申し訳なかった!」
……oh,JapaneseDO☆GE☆ZA。
「このような謝罪で許して貰おうだなんて腹づもりはない。本来貴族間で禁止されている決闘を半ば強要する形を取り、あまつさえ傷つけたんだ。どんな処罰を受けるかなんて僕でも想像がつく。だが、その前にどうしても謝りたかったんだ」
ギーシュの叫びに、誰一人口を開かない。
僕はこの問題には干渉しないと決めた以上、その資格はない。
もし先陣を切るとするなら、ルイズちゃんか、シエスタか――
「――いいわよ、もう。だからその体勢、どうにかしなさいよ」
溜息混じりに切り出したのは、ルイズちゃんだった。
「しかし、それではあまりにも――」
「うっざい!私がいいっつってんだから、そんな態度取られたって迷惑なだけなのよ!」
「……そうか、君に迷惑を掛けるつもりはなかったんだ」
ルイズちゃんの言葉に、姿勢を正し立ち上がる。
「それに、決闘を受けたのは紛れもなく私の意思。挑発されたとはいえ、突っかかってきたのは私からだし、立場に関して言えばお相子よ。それよりも、シエスタに謝りなさい」
「あ、ああ。……君は、シエスタと言うんだね」
「は、はい」
「申し訳なかった。あの時の僕は、二股がバレたことで精彩を欠いていた。それで君に対し謂われもない罪を押しつけてしまった」
「そ、そんな!私の方こそ、身勝手な行動を――」
「やめなさい、シエスタ。アンタのその答えは、まるで的外れよ。一方的にギーシュが悪い立場でアンタが謝ったって、何の意味もないのよ。アンタは間違いなく正しいことをした。だから、アンタは大人しくギーシュの謝罪を耳に入れるだけでいいの。当然、許さなくたって大いに構わないのよ?」
「僕も、君に許してもらいたいから言葉にしているのではない。僕なりのケジメをつける為だよ」
そして、ギーシュは僕の方にも振り返る。
「……名前は確か、ヴァルディだったかな?」
「そうだが、何用だ」
「何故、僕を攻撃しなかった?あの時の僕は、君に間違いなく斬られると思った。主である彼女を痛めつけ、言葉で侮辱さえもした。あそこまで彼女のために怒れる君が、あんな生ぬるいやり方で終わらせたのが正直、わからないんだ」
「私はルイズの為に剣を振るったに過ぎない。だが、彼女の意思を代弁するつもりは最初からなかった。それ以上は私が干渉していい問題ではなかったし、何より使い魔とはいえ彼女の本音が理解できるなんて自惚れは持ち合わせてはいないつもりだ」
「だが、君の心はどうなる?まさか使い魔だからという理由で彼女を護っている訳でもあるまい?ならば、僕に多少なり憎悪を感じているんじゃないか?」
「確かに貴様のやってきたことは許されることではないし、ルイズが許したからといって私にまでその感情を押しつける権利はない。故に、正直に答えるのであれば私は貴様のやったことは許せない。だが、貴様を斬って何が変わる?最悪、再びルイズに迷惑が掛かるだけだ」
……不思議な感覚だ。
普段の自分はここまで冷静、かつ客観的な思考は事前に考えでもしない限りできない。
言葉選びはヴァルディに依存しているけど、決して的外れなことは言うことはない。さっきのはきっと例外だ、うん。
肉体と精神が分離しているような感じだから、ある程度普通に比べて思考に集中できる部分はあるんだろうけど……それでも変な感じだ。
「一時の感情に任せて我欲を満たし、それですべてが万事丸く収まるならそれもよかろう。だが、そうはならないなら、私の不満などただの問題の種にしかならん。何の価値もない」
「……なんというか、君は大人だな」
「そんなことはない。あくまで冷静に状況を分析し、その上で合理的な思考に基づいた判断をしたに過ぎない」
「それが凄いって言うんだ。僕は冷静さを欠き、あの様な行動に出たっていうのに」
「アンタなんかとヴァルディなんて、比較すること自体おこがましいのよ」
「ははは、その通りだけど直に言われると凹むな……」
「そんなことどうでもいいのよ。取り敢えず、オールド・オスマンの所に行くわよ。アンタの罪状を少しかは緩和できるように口添えしてあげるわ」
「ルイズ……君、変わったか?」
「さて、どうでしょうね。自分じゃわからないわ、そういうこと」
気怠そうに身体をベットから持ち上げ、歩き出そうとするルイズちゃん。
「ミス・ヴァリエール。ご無理はなさらないように」
「大丈夫よ。心配いらないわ」
そう言いながらも軽くふらつくルイズちゃんを支えながら進むシエスタ。
「……やっぱり、変わったと思うんだけどなぁ」
「変わったように見えたのは、外側だけだ。本質は何も変わってはいない」
「その外側を変える鍵となったのは、君だろうね」
「違う。シエスタがその切っ掛けを与えたんだ。私は傍観者でしかなかったよ」
これは間違いない。
実際、シエスタに思いの丈を叩きつけ、自分の醜い部分も含め受け入れてもらったことで精神的安定を保てるようになり、心の余裕ができたことで本来の優しい彼女へと戻り始めているのだろう。そうとしか考えられない。
僕が関係するとしても、割合で言えば一割ぐらいだろう。
「――ま、君がそうだと思っているなら、それでいいけどね」
「……行くぞ。問題の中心が行かなければ話は進まんだろうに」
ギーシュの背中を押し、僕達はオールド・オスマンの下へ向かう。
因みにネタバレすると、ギーシュの罪状は一週間とある層の掃除を一人でやるというものに落ち着いた。
ルイズちゃんとシエスタの便宜と、その時の状況を公平な視点で判断した結果によるものである。
ギーシュのことはどうでもいいけど、取り敢えずこれでようやく丸く収まったってことでいいのかな?
やっと決闘編が完結したよ。
正直な話、私ギーシュ好きでもなんでもないので、彼が出ざるを得ない状況って結構書くのめんどくせー、とか思ったりするのよね。
キザで女好きだけど暗い過去を持つゼ○ス・ワイルダーみたいなキャラは好きなんだけど、なんでだろうなぁ。
今回、ルイズとシエスタの仲が急接近。そこ、強引とか言うな。
二次創作なんだから多少アレな展開でも、中の人が書きたいことを書いたっていいじゃない!と深夜テンションで執筆してたらこうなった。
原作だとそこそこの仲の良さはあったけど、やっぱり貴族と平民という垣根を大きく乗り越えた関係とまでは行ってなかったと思うし、こういう世界戦があってもいいと思うの。
モンモランシーとの接点ができました。
ぶっちゃけギーシュから奪ってもいいんだけど、どうしようかなー(ゲス顔
彼女の現状ポジとしては、ヒーラーです。僧侶です。プリーストです。
ついでにある程度の魔改造も進む予定。そうじゃないとこの先生きのこれない。回復役として。
次回、ようやくメイン武器フラグ?