Infinite possibility world ~ ver Servant of zero   作:花極四季

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これが私の、全力全開!(更新速度と文章量の兼ね合い的な意味で


第七話

タバサ先生の講習会は、昼休みの鐘と共に終わりを告げる。

目的地は同じという理由で、足並みを揃えて食堂へと向かうことに。

食堂前で待機していたルイズちゃんが、こちらの存在に気付く。

 

「ヴァルディ!――と、アンタは確か」

 

「タバサ」

 

「そのタバサがなんでヴァルディと一緒にいるのよ」

 

「実は――――」

 

図書室での経緯を説明すると、ルイズちゃんの表情が明らかに不機嫌そうな表情に変わる。

 

「それぐらい、私に言えば教えてあげたわよ!」

 

「しかし、君は授業中だっただろう」

 

「そんなの、本当はタバサだって同じ条件じゃない」

 

確かにその通りなんだけどさ。

色々な思惑が重なった結果、ああして教えてもらいはしたけど、流れ自体は偶然の産物に過ぎない。

言い分はわかるけど、こちらとしてはできるだけ流れを良くしたいと思って行動した結果だから、こればかりはどうしようもない。

 

「あら、嫉妬?醜いわねぇ」

 

そして突然現れるキュルケ。

長身と短身のコンビ結成!なんて下らないことを考えていると、ルイズちゃんが反論を口にする。

 

「キュルケ!――そうじゃない、ただ私は使い魔の主としての本分を果たそうとしたに過ぎなくて」

 

「なら、適材適所ってわかるわよね?タバサは知識に関しても折り紙付きよ。魔法の知識に限らず、歴史や童話にだって理解があるから、ハルケギニアのことを理解したいのならこれ以上とない選定だと思うわよ?」

 

「で、でも!」

 

「彼のためを思うのなら、素直にタバサに感謝しなさいな。ヴァルディ、貴方だって満足したんじゃなくて?」

 

「ああ。ルイズ、君には申し訳ないと思うが、彼女の授業は非常に有意義なものだった。彼女には感謝しているし、彼女の好意を無碍にするような発言はしたくない。だが、君が望むのであればこれからの疑問は君に――」

 

「…………いわよ」

 

「ん?」

 

「いいわよ!勉強でも何でも、タバサに教えて貰えばいいじゃない!」

 

張り裂けんばかりに叫び、食堂に逃げるように去っていく。

……やっべ、フラグ折っちゃった感じ?

内心凹んでいると、キュルケが弁明してくる。

 

「気にしなくていいわよ。あんなのいつものことだから。どうせあの子のことだから、貴方の前ではそこそこ大人しくしていたんでしょうけれど、色々鬱憤が溜まった結果爆発しちゃったんでしょうね」

 

「……私がもう少し彼女を気に掛けていれば、こうはならなかったかもしれん」

 

「そんなことないわよ。あの子は、まぁ色々あって周囲の評価とかに敏感なのよ。だから自分よりもタバサを頼ったという事実から、主であるにも関わらず頼りにされていないって思っちゃったんでしょうね。あの子は子供みたいなところあるから」

 

「随分と見ているんだな」

 

「あの子から私達の関係は聞いているんでしょう?そのせいもあって何かといがみ合ってるみたいなことになってるけど、私としては本気であの子と仲が悪くなりたいなんて思ってないわ。なんて言うか、ライバル?みたいな関係を望んでるのよ。その為に発破を掛けたりして向上心に繋げているんだけど、あの子からすれば家柄の問題もあるから完全に嫌われちゃってるって感じかしら」

 

そう語るキュルケの横顔は、まるで反抗期の娘を持った母親のようで、疲れた笑みから優しさが滲み出ているのがわかった。

 

「良い奴だな、君は」

 

「あら、惚れたかしら?」

 

「少なくとも、君を嫌いになる要素はないな」

 

「なら、今夜にでも私の部屋に来ない?いいお酒があるの」

 

お酒かぁ。ゲームとはいえ、味覚もリアルに再現されてるから流石にマズイよなぁ。

 

「二人とも、邪魔になってる」

 

放置しっぱなしだったタバサ先生が、不意に声を上げる。

見渡すと、遠巻きから僕達を観察する人の群れ。

食堂前で近づきがたい男がいたら、そりゃあこうなるわな。

 

「どうやら場違いなのは私だけらしい。ここらで失礼させていただく」

 

「え、ええ。行きましょうか、タバサ」

 

キュルケの言葉に先生は無言で頷き、二人は食堂内に消えていく。

それを見送った後、僕は二回目の厨房にお邪魔することにした。

 

 

 

 

 

何よ、何よ何よ何よ!

言いようのない憤りが私の心をかき乱す。

原因はわかっている。だけど、それが憤りのすべてではないことが、私が苦しんでいる理由でもある。

タバサの知識の程度は知らないけど、もしキュルケの言うとおりの知識の持ち主ならば、私よりもその辺りの造詣は深いといえる。

私だってそこそこ頭は切れると自慢できる程度には知識はあるといえる。

事実、学院内においても教師陣にその点に関してだけは認められており、トップクラスを常に維持している。

それでも、その知識はあくまで勉学によるものを中心としており、その枠を外れるとなればどうしても知識不足は否めなくなる。

もし彼が自分の世界の外を理解したいと強く願うのであれば、私じゃ力不足な可能性はありえなくもない。

 

――でも、それでも。一言も彼の口からその望みを聞くことが今まで無かったという事実ばかりは、受け入れがたかった。

せめて一言。一言でいいから望みのひとつでも零してくれていれば、たとえそれが私に実現不可能な内容だったとしても、素直に身を引くことができたかもしれない。

そんなに私は、頼りなく見える?

魔法が使えるかどうか以前に、そんなに私にそういう甲斐性を感じられないのだろうか?

……どうしたら、彼に認めてもらえるようになるんだろう。

彼の望む定義がわからない以上、悩むこと自体が無意味なんだろうけど、それでも直接本人に聞く気にはなれない。

それじゃあ意味がないということもあるけど、やはりプライドが許せないんだろう。

 

「……やめやめ。折角のご飯が不味くなっちゃう」

 

食指も大きく動かず、ただ悪戯にスプーンを虚空で遊ばせるだけに留まっている。

溜息も酷い。こんなの貴族らしくないし、私らしくもない。

憂いに満ちた時間を送っていると、何やら周りが騒がしくなっていることに気付く。

喧噪の中心に近づいていく。

 

「君が香水瓶を拾ったりしなければ、レディ二人の名誉を傷つけるようなことはなかったんだ」

 

「申し訳ありません!申し訳ありません!」

 

あれは――ギーシュとメイドか。

ギーシュに対してメイドは深々と何度も頭を下げている。

状況が良く分からないので、手近な相手に聞いてみることにする。

 

「何があったの?」

 

「ギーシュがモンモランシーとケティを二股していたんだけど、それがギーシュの落とした香水をあのメイドが拾ったことでバレたんだ。それで、ああして責任を押しつけてるんだ」

 

「……最低ね」

 

自分でもわかる程、その一言には暗い感情が込められていた。

どう考えてもギーシュが悪いというのに、なんだあの態度は。

あんなのが、魔法が使えないってだけで私よりも優れていると評価されている?

――納得できるものですか!

 

「ちょっと!」

 

気が付けば、叫んでいた。

 

「ん?なんだねミス・ヴァリエール。僕はこのメイドに仕置きをせねば気が済まないんだ。邪魔しないでくれないか?」

 

「アンタ、そこのメイドに欠片も非はないっていうのにその態度は何?下らない濡れ衣着せて、我が物顔で罰しようなんて、巫山戯るのも大概にしなさいよ」

 

「……ほう、君はこのメイドを庇うのかい?」

 

「庇うとかそういうんじゃないわ。ただ、アンタのやっていることが気にくわないだけよ」

 

「ふん、所詮はゼロのルイズか。魔法が使えないなら貴族であろうと平民と同じってことか」

 

「似たような言い返し方しかできないのかしら?これだから語彙に乏しい奴は。ゼロゼロって、馬鹿のひとつ覚えみたいに!そんなだから自分の罪さえも受け入れられない軟弱な男になるのよ!」

 

「……成る程、どうやらメイドよりも先に思い知らさねばならないらしい。――諸君、決闘だ!」

 

その言葉に、歓声が上がる。

 

「待ちなさい!貴族同士の決闘は御法度よ!」

 

「ふん、何を言ってる。君は貴族としての前提すら果たしていないじゃないか。それなら、貴族同士という条件には該当しない」

 

貴族としての前提――ギーシュのいうそれは、魔法を扱えるか否かを指しているに違いない。

……どこまでも、嘗めている。

 

「後悔、しないでよ」

 

「その言葉、そっくりそのままお返ししよう」

 

火蓋は、まもなく切って落とされた。

 

 

 

「諸君、決闘だ!」

 

ギーシュの一声により、観客が沸き上がる。

私は杖を砕かんばかりに強く握りしめる。

 

「確認するが、今訂正すればあの時の発言は不問にしてあげてもいいんだが?」

 

「見下すんじゃないわよ、女の敵が」

 

ギーシュの余裕ぶった提案を、ばっさり切り捨てる。

……ここでアイツに勝つことができれば、自分に自信が持てる。そして何より、ヴァルディにも向き合えるようになる。

情けない自分を払拭するには、魔法が使えなくてもメイジを下せるという結果を示さないといけないのだ。

 

「……僕も鬼ではない。ワルキューレは一体に留めておこう。これを破壊すれば君の勝ちだ」

 

薔薇の杖を格好つけながら振り、錬金により出現するワルキューレ。

たかが一体。されど一体。

私の魔法はすべて爆発となってしまう。しかも、狙い澄ましたように見当違いの方向に出てくる。

私の武器は、これだけ。あるいは奇跡に縋って攻撃魔法を詠唱し続けるか。

……それは駄目だ。そんなものに縋るために、ここに立っているのではないのだから、持てる手札だけでギーシュを倒さなければ意味がない。

 

「ロック!」

 

ワルキューレをかすめる、爆発。

何でも爆発になる、というメリットを活かした戦法で私は戦う。

コモンマジックさえも爆発になるということは、逆に言えばどんな短い詠唱魔法すら攻撃に変わるということ。

精度さえ上がればこれ以上とない対人攻撃だが、当たらなければ意味はない。

だからこそ、何度も繰り返す。当たるまで、何度も、何度も!

 

「ロック!ロック!ロック!」

 

「くっ、小賢しい。ワルキューレ!」

 

勢いよく接近してくるワルキューレ。

そのお陰で運良くワルキューレと爆発が重なり、片腕を大破させる。

 

「やった!」

 

「僕のワルキューレは、その程度では落ちんよ!」

 

しかし、そこで油断してしまった。

爆発をものともせず速度を緩めないワルキューレが、眼前にまで迫っている。

私は為す術もなく、腹にワルキューレのパンチを食らってしまい、ギャラリーの群れへと吹っ飛んでいく。

 

「がっ――――あ、」

 

「ルイズ!」

 

朦朧とする意識の中、キュルケが明らかに動揺した素振りで身体を揺らしてくる。

ああ、鬱陶しい。けど――お陰で頭はまだ回る。

必死に身体を持ち上げ、ギーシュを睨み付ける。

 

「僕としては、仮にもレディーである君をこれ以上傷つける真似はしたくない。素直に降参しないかい?」

 

「何が傷つけたくない、よ。肉体は駄目で、心はいいのかしら?」

 

「――――まだ、反省していないようだね」

 

「お互い様よ、この短絡思考」

 

逃げる訳にはいかない。

ヴァルディに認められたいという想いはある。しかし今はそれ以上に、アイツに一発当てないと気が済まない――――!!

 

「ルイズ、もうやめて!」

 

「キュルケ。だまってて。――私は、許せない。あんな人の痛みも理解できないような輩が、貴族を名乗っていることが。持たざる者に対して、何をしても許されると勘違いしているあの傲慢な鼻っ面を、歪めてやりたい。そして後悔させて、アイツが傷つけた人達の前で謝罪させるの。その光景を見る為なら、この程度の痛み、安いものよ」

 

あたかも平民と比較しての弁のように聞こえるが、その本質は自分に向けられたもの。

しかし、根っこにある怨嗟の質は、私も平民も変わらない。

虐げられ、見下されて生きてきたという点では、どちらも一緒だから。

 

「ルイズ……」

 

キュルケの手を払いのけ、完全に立ち上がる。

だが、膝は笑っており、逃げるための足は動く気配もない。

杖を再び構えると、ギーシュは渋い顔で私を見つめる。

 

「杖を構えるというのであれば、容赦はしない。行くぞ!」

 

スローモーションに見えるワルキューレの一挙動。

ああ、やっぱり私、ゼロなんだ。

信念さえ貫けず、他人に蔑まれるだけの人生。

そんな人生、ここで終わってしまった方が幸せなのかも――

 

目をつぶり、衝撃を今かと待つ。

だが、痛みは一向に訪れることはない。

恐る恐る目を開ける。

眼前に迫るは、ワルキューレではなく最近見るようになった背格好だった。

 

「なっ、お前は――」

 

「無抵抗の女性をいたぶるとは、趣味が悪いな。小僧」

 

聞き覚えのある声が、耳朶を打つ。

それは、無意識にこの場に来ることを私が望んでいた存在で、私の使い魔でもある――

 

「ヴァル、ディ?」

 

「すまない。遅くなった」

 

首だけ振り返り、そう告げる。

 

「本当に、遅いのよ。馬鹿」

 

普段なら吐けない悪態も、今はすらすらと言える。

精神的にハイになっているからか、言葉も軽くなっているんだろう。

ヴァルディは私の言葉を気にすることもなく、ギーシュに向かい合う。

ワルキューレは、ヴァルディが何かしたのか、地面に横たわっている。

 

「ルイズにこのような真似をして――覚悟はできているか?」

 

静かに告げられる、断罪の警告。

底冷えするような感情の渦が、彼から発せられているのがわかる。

 

「こ、これは神聖な決闘だ!それを使い魔といえ介入するのは、侮辱に繋がるぞ!」

 

「神聖な決闘?他者に罪をなすりつけ、それに異を唱えた少女をいたぶる行為を、神聖だと?――貴様の発言は、自分どころかメイジ、引いては貴族の品位すら汚しているということに気付いていないのか?」

 

「――――ッ!!」

 

「メイジと使い魔は一心同体と聞く。ならば、私が介入したところで何の問題もあるまい?」

 

「君は、ルイズを庇うのかい?そんなメイジの風上にも置けない奴を!」

 

「当然だ。それに人間として最低位にある貴様が何をほざく」

 

「ふん。エルフはメイジに畏れられる存在なんて伝わっているけど、ゼロのルイズ如きの使い魔になるようなら、大したことないな!」

 

「……ゼロの、ルイズ?」

 

最も彼に聞かれたくない言葉を、ギーシュは口に出してしまう。

全身から血の気が引いていくのがわかった。

駄目、それ以上は――

 

「知らないのかい?僕達メイジには二つ名がある。僕が青銅を冠するように、彼女はゼロを冠しているということさ」

 

「……めて」

 

「当然、二つ名がつけられるのには理由がある。僕は青銅を操るから、彼女は――」

 

「やめて、ギーシュ!」

 

「魔法が使えない、無能。故にゼロ、そういうことなんだよ!」

 

聞かれたくなかった現実を、ヴァルディが知ってしまった。

絶望と共に、限界だった肉体が膝から崩れ落ちる。

魔法が使えない。その真実は間違いなく彼への失望を増長させる。

もう、終わった。

涙が、自然とこぼれ落ちる。

もう、嫌だ。なんで、どうして私が、こんな目に――――

 

 

 

「――――それが、どうかしたか?」

 

 

 

しかし、次にヴァルディから発せられた言葉は、誰もが予想しなかったであろうものであった。

 

「な、何を言っている!メイジが生まれながらにして扱える力を、まともに行使できないんだぞ!それを何故そのように言い返せる!」

 

狼藉するギーシュ。

いや、ギーシュに限らずこの場にいる殆どの生徒が、彼の言葉に少なからず動揺を見せている。

 

「私が彼女と契約したのは、彼女とならば共に歩んでも良いと思えたからだ。そこには彼女の生い立ちや能力、ましてや生まれ持った才能の有無なんてものを挟む余地なんて一切なかった。確かに多少驚きはしたが、それだけだ。所詮、その程度のことに過ぎないんだ。少なくとも、貴様に召喚されたところで私は異を唱え立ち去っていただろうな」

 

そう、事も無げに言い返す。

メイジが魔法を扱えるかどうかを、その程度のことだとあっさりと切り捨てる。

その事実は、プライドの高いギーシュの琴線に触れるには充分な要素だった。

 

「その程度、だと?……巫山戯るな!所詮、お前だって使い魔でしか無い癖に!ましてやゼロのルイズなんかの――」

 

「――才能の有無だけでしか価値観を測れない餓鬼が、偉そうなことをほざくなよ」

 

その言葉には、圧倒的なまでの覇気が込められていた。

それは周囲にまで浸透し、誰もが恐怖に怯え、それを直に受けたギーシュは小さく悲鳴を上げ尻餅をつく。

……あんなヴァルディ、見るの初めて。

 

「一握りの天才だけで変えられるほど、 世界は小さくない。魔法を扱えない平民の力なくして生きられない貴様らが、ルイズを無能と罵る権利はない」

 

……そうか。これは、私の為に怒ってくれているんだ。

普段は無表情で何を考えているか掴めないヴァルディが、私の為に怒りの矛を向けている。

その事実が、たまらなく嬉しくて――また、涙が出た。

 

「くっ、ならば、思い知らせてやる!」

 

そういって展開される七体の青銅のゴーレム、ワルキューレ。

私の時とは違い、本気であることが伺える。

 

「ならば、貴様も思い知れ。君達がゼロのルイズと罵ってきた少女が召還した使い魔に、敗北する現実をな」

 

そう言って、腰に携えた長剣を取り出す。

何の変哲もないただの剣。しかし、彼が持つことでとても名のある名剣であるように錯覚させられる。

それぐらい剣を構えるその姿は、美しかった。

そして、剣を握った途端に神々しい光を放つルーン。

 

「行け!ワルキューレ!」

 

怒号と共に襲いかかるワルキューレ。

ドットメイジ筆頭の実力に相違はないらしく、どれも異なる動きで相手を翻弄していく。

――――しかし、そんなものは無意味であると、彼は思い知ることとなる。

 

「なっ」

 

それは、瞬きすら許さない刹那の一撃であった。

剣の間合いに入った三体のワルキューレは、平等に三等分の輪切りで形を崩壊させる。

振るった腕の軌道はまるで見えず、まるで時間が吹き飛んだかのような錯覚を覚えた。

ギーシュは事態を飲み込めないまま、一瞬呆ける。

しかし、その一瞬ですべてに決着がつく。

瞬時に残り四体のワルキューレに接近したヴァルディは、流れ作業が如く次々と破壊していく。

ただの剣で、青銅をバターのように切断する光景は、夢でも見ているかのようであった。

 

「くっ、来るな、化け物!」

 

一瞬の内に手札すべてを奪われたギーシュは、情けなく尻餅をついた状態で杖を乱雑な指揮のように振りかざす。

化け物と罵られても、ヴァルディは一切の表情を変えない。

どこまでも冷酷に、敗北者を見下すその姿を見て、私さえも怖いと思ってしまった。

 

「化け物で……いいさ。化け物らしいやり方で終わらせてやる」

 

慈悲の瞬間すら与えまいと剣を振り上げ、一刀のもとに切り落とす。

 

「――――は?」

 

切り落としたのはギーシュではなく、彼が持つ杖の方だった。

 

「決闘の敗北条件は、杖の放棄だったな?ならば私の勝ちで相違ないだろう」

 

剣を鞘に収め、二度と振り返る気はないと言わんばかりの勢いで踵を返し、私の下へと近づいてくる。

 

「大丈夫か?」

 

「え、ええ」

 

ヴァルディに手を貸して貰い、立ち上がろうとするも節々の痛みで膝を崩してしまう。

だが、咄嗟に抱きかかえられる形で体勢は維持される。

 

「無理をするな。鉄塊による一撃を食らったのだ。君のようなか弱い女性なら、立つことさえままならんだろう」

 

「そんなこと、ないわよ」

 

強がって見せるも、呼吸は苦痛により安定せず、脂汗も出てくる。

 

「――ふむ、仕方ない」

 

ヴァルディは一考したかと思うと、私は無重力感を覚える。

気が付くと、私はお姫様抱っこをされていたのだ。

 

「なっ、ななな」

 

「こうでもしないと、禅問答になりそうだったからな。病人は大人しくしているのが吉だ」

 

「だ、だからってこんな体勢――」

 

「背負うのもいいが、腹部に負担を掛けるわけにもいくまい。力加減の調整もしやすいし、これがベストだと判断したまでだ」

 

そこまで言われては、ぐうの音も出ない。

それに、彼は私のことを本気で心配してくれている。

それがわかったから、彼の言うことにも素直に従うことができる。

 

「わ、わかったわよ。――痛くしたら、許さないんだから」

 

「了解しました、姫」

 

そう小さく告げ、そのまま歩き出す。

巫山戯て言ったであろう姫という単語に、思わず顔が赤くなってしまう。

これが彼が私を大人しくさせる為の弁だったとするなら、これ以上となく効果的だったと言えた。

 

 

 

 

 

厨房でもりもりご飯を食べていると、給士に出ていたシエスタが息を切らして戻ってくる。

 

「ヴァ、ヴァルディさん!ミス・ヴァリエールが、ミス・ヴァリエールが!」

 

「落ち着け。何があった」

 

シエスタは数回深呼吸をし、落ち着きを取り戻した後直ぐさま用件を伝えてくる。

 

「ミス・ヴァリエールが、貴族様の怒りを買った私をかばって、決闘をすることに」

 

「決闘だぁ?俺は貴族の決闘のことはよくわからんが、どっかで貴族同士の決闘は禁止されてるって聞いたぞ。それに、どうしてシエスタがそんな目に遭わねばならんかったんだ」

 

厨房からシエスタの様子を聞きつけたのか、マルトー料理長が介入してくる。

マルトーさんの疑問に、シエスタは簡潔に答える。

 

「それが、ミス・ヴァリエールは魔法を使えない劣等生だから、貴族同士という誓約には該当しないなんて難癖をつけて……。私に関しましては、香水を拾ったせいで貴族様の二股がバレたということで、責任を取れと」

 

「……ちっ、これだから物事の道理を分かってない餓鬼は。それでヴァルディ、当然助けに行くんだろう?」

 

「当然だ」

 

明らかなまでのイベントの匂い。これを逃す手はない。

 

「案内します。こっちです!」

 

シエスタに連れられ、広場と思わしき場所に案内される。

僕の存在に気が付いたギャラリーは、蜘蛛の子を散らすが如く道を空けてくれる。この立場が今はとてもありがたい。

最前列も掻き分け、視界が開けた先には――自らの認識を矯正させる光景が広がっていた。

 

制服と髪は乱れに乱れ、苦しそうに腹部を押さえ杖を構えるルイズちゃん。

対して相手と思わしき少年は、人形のようなものを操って戦っているのか、距離を開けて気障な雰囲気を出して杖を振るう。

 

「杖を構えるというのであれば、容赦はしない。行くぞ!」

 

少年の合図と共に勢いよく近づく人形。

逃げるも躱すこともできないのか、ルイズちゃんは動かない。

ひっ、とシエスタが目を逸らすのと、僕が人形に向けて駆けだしたのは同時だった。

何も考えず飛び出していったが、身体は無意識に結果の最適化に移行していたらしく、ソバットで思い切り人形を蹴りつける。

現実では一度もしたことのない動きにも関わらず、まるで知っているかのように流れる動きだった。

人形は先の一撃で数メートル先まで吹っ飛ぶ。にも関わらず、足はまるで痛みを感じない。

痛覚をカットしているとは思えないけど、鈍化ぐらいはしているのかもしれない。

 

「なっ、お前は――」

 

「無抵抗の女性をいたぶるとは、趣味が悪いな。小僧」

 

小僧て。

イメージとしては少年、ぐらいに留めるものだと思っていたけど、どうやらヴァルディはだいぶご立腹らしい。

……それは僕も一緒なんだけどね。

 

「ヴァル、ディ?」

 

「すまない。遅くなった」

 

首だけ振り返ると、先程までの気丈さとは程遠い姿で僕を見つめている。

自然と、拳を固く握り締めている自分が居た。

 

「本当に、遅いのよ。馬鹿」

 

泣きそうな表情で、そんなことを言われたら。

……格好つけたくなっちゃうじゃないか。男として。

これは現実ではない。ゲームだ。

だけど、こんなにも現実のようで。僕を信頼してくれている女の子がいて。

それでいて、何故現実ではないからと本気になれないなんて、思える訳がないだろう。

 

「ルイズにこのような真似をして――覚悟はできているか?」

 

自然と言葉に力がこもる。

今までの自分は、どこかこの世界がゲームだという線引きをしていた。

でも、それは間違いだったのかもしれない。

リアルに再現されているということは、即ち痛みを伴う行為でさえ例外ではない可能性だってあったということ。

そんな風に配慮が出来なかったせいで、ルイズちゃんを護れなかった。

それは、最低なことだ。

 

「こ、これは神聖な決闘だ!それを使い魔といえ介入するのは、侮辱に繋がるぞ!」

 

「神聖な決闘?他者に罪をなすりつけ、それに異を唱えた少女をいたぶる行為を、神聖だと?――貴様の発言は、自分どころかメイジ、引いては貴族の品位すら汚しているということに気付いていないのか?」

 

自分でも不思議なぐらい口が回る。

それに、完全とは言えないけど、ヴァルディと僕の身体がシンクロしてきている気がする。

上手く表現できないけど、思考と言動が一致し始めているのだ。

それだけ僕が彼に対して怒りを覚えているということなのだろうか。

 

「メイジと使い魔は一心同体と聞く。ならば、私が介入したところで何の問題もあるまい?」

 

「君は、ルイズを庇うのかい?そんなメイジの風上にも置けない奴を!」

 

「当然だ。それに人間として最低位にある貴様が何をほざく」

 

何を訳の分からないことを。そんなことを考えている内に、少年が二の句を継げる。

 

「ふん。エルフはメイジに畏れられる存在なんて伝わっているけど、ゼロのルイズ如きの使い魔になるようなら、大したことないな!」

 

「……ゼロの、ルイズ?」

 

気になる言葉を口にした少年に、オウム返しをする。

 

「知らないのかい?僕達メイジには二つ名がある。僕が青銅を冠するように、彼女はゼロを冠しているということさ」

 

「……めて」

 

「当然、二つ名がつけられるのには理由がある。僕は青銅を操るから、彼女は――」

 

「やめて、ギーシュ!」

 

ルイズちゃんが張り裂けんばかりに叫ぶ。

彼女がそこまで動揺する理由。その言葉にどんな意味があるのか、なんて考える暇は与えられなかった。

 

「魔法が使えない、無能。故にゼロ、そういうことなんだよ!」

 

……魔法が使えない、ゼロ。

ああ、成る程。そういうこと。

 

で?

 

「――――それが、どうかしたか?」

 

本当に、心からそう思った。

 

「な、何を言っている!メイジが生まれながらにして扱える力を、まともに行使できないんだぞ!それを何故そのように言い返せる!」

 

ルイズちゃんの立場は理解できた。

そういう設定で作られたせいで、今まで泣きを見てきたんだということも、容易に想像がついた。

だけど、そんな理由で彼女を嫌いになるなんて、天地がひっくり返っても有り得ない。

 

「私が彼女と契約したのは、彼女とならば共に歩んでも良いと思えたからだ。そこには彼女の生い立ちや能力、ましてや生まれ持った才能の有無なんてものを挟む余地なんて一切なかった。確かに多少驚きはしたが、それだけだ。所詮、その程度のことに過ぎないんだ。少なくとも、貴様に召喚されたところで私は異を唱え立ち去っていただろうな」

 

少年の表情がみるみる歪んでいく。

 

「その程度、だと?……巫山戯るな!所詮、お前だって使い魔でしか無い癖に!ましてやゼロのルイズなんかの――」

 

「――才能の有無だけでしか価値観を測れない餓鬼が、偉そうなことをほざくなよ」

 

―――完全に、シンクロした。

 

「一握りの天才だけで変えられるほど、世界は小さくない。魔法を扱えない平民の力なくして生きられない貴様らが、ルイズを無能と罵る権利はない」

 

マルトーさんやシエスタがご飯を作ってくれる。

平民が数を以て仕事をこなす。

天才にはできない泥臭い仕事だが、それでも間違いなく世界の為に貢献している。

僕はこの世界の仕組みについて完全に理解した訳ではない。それでも、本質は現実と何ら変わらない筈だ。

王は民無くしては成り立たない、という言葉があるように、貴族と平民にだって同じ理屈が成り立つ筈。

 

「くっ、ならば、思い知らせてやる!」

 

少年は杖を振ると、さっき蹴りつけたのを含め合計七体の人形が眼前に集結する。

 

「ならば、貴様も思い知れ。君達がゼロのルイズと罵ってきた少女が召還した使い魔に、敗北する現実をな」

 

今まで一度も抜く機会がなかった剣を抜く。

にも関わらず、まるで身体の一部かのように良く馴染む。

それに、ルーンが強い光を放っている。これは一体――

 

「行け!ワルキューレ!」

 

思考を遮るように、七体の人形が襲いかかってくる。

不思議と恐怖はない。多分、負ける気がしないからだろう。

横薙ぎの一閃。一刀の下、三体の人形は三等分になり地に伏す。

一回しか振っていない筈なのに、どういうことだ?

考える暇すら与えてもらえず、残り四体の人形にも接近する。

たった一歩。それだけで大幅三歩に相当するであろう距離を詰め、斬りつける。

その肯定を四度繰り返し、周囲は静寂に包まれる。

改めて少年を見やると、恐怖に顔を歪めている。

当たり前、かは知らないが、ざまあみろとは思う。

 

「くっ、来るな、化け物!」

 

少年に向けて歩み寄ると、情けない体勢で後ずさる。

……あれを見ると、自分の怒りとか半分どうでもよくなってきた。

大衆の下でこれだけ恥を晒したんだ。これ以上は僕がどうこうすることはない。

 

「化け物で……いいさ。化け物らしいやり方で終わらせてやる」

 

ハイな余韻が残っているのか、ネタを挟んでしまった。反省はしていない。

杖を剣で切り裂き、鞘に戻す。

 

「――――は?」

 

「決闘の敗北条件は、杖の放棄だったな?ならば私の勝ちで相違ないだろう」

 

確かそうだってタバサ先生の勉強会で言われた気がする。

ともかく、これ以上はここに用はない。

ボロボロなルイズちゃんの下へと向かう。

 

「大丈夫か?」

 

「え、ええ」

 

手を貸すも、足に来ているのか身体が覚束ない。

 

「無理をするな。鉄塊による一撃を食らったのだ。君のようなか弱い女性なら、立つことさえままならんだろう」

 

「そんなこと、ないわよ」

 

「――ふむ、仕方ない」

 

気丈さを取り戻しつつあるルイズちゃんだが、今は余分だ。

ということで、どうしようかなーと思っていたら、ヴァルディ(外の人)が勝手に動き出す。

ルイズちゃんをお姫様抱っこするという結果を残して。

 

「なっ、ななな」

 

「こうでもしないと、禅問答になりそうだったからな。病人は大人しくしているのが吉だ」

 

いえ、僕は何も考えてませんでしたよ?

勝手に暴走しないでくれませんかねぇ……。

 

「だ、だからってこんな体勢――」

 

「背負うのもいいが、腹部に負担を掛けるわけにもいくまい。力加減の調整もしやすいし、これがベストだと判断したまでだ」

 

「わ、わかったわよ。――痛くしたら、許さないんだから」

 

「了解しました、姫」

 

姫ってなんだよ!

確かにお姫様~な体勢だけど、そんなこと考えてすらいなかったよ!

ち、違う!ヴァルディ(相棒)が勝手に!

ちょっ、訂正させて。どこに向かってるの?意味分かんない。嫌――!!

 




BLAZBLUEが楽しみすぎて興奮が冷めない結果がこれだよ!
ギーシュ戦とその下りなんてまるで考えてなかったのに、よくもまぁこんなにポンポンと出るもんだと関心するわな。プロデューサー!12000文字ですよ!
こんなにシリアスにするつもりはなかったと思うんだけどなー。油断したらシリアス路線に走らせようとするもんだから、病気だわな。
でも、以前の後れはこれで取り戻したんじゃないかな?多分。
だけどその反動でどうなることやら、わかりませんなー。

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